大阪高等裁判所 平成25年(行コ)192号 判決 2014年6月18日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第3当裁判所の判断
1 本案前の主張について
被控訴人は、本件戒告の無効確認及び取消し、本件令書通知の無効確認、本件代執行の取消しを求める訴えはいずれも訴えの利益がなく、また、本件A擁壁の撤去を求めない不作為が違法であることの確認及び義務付けの訴えはいずれも訴訟要件を欠く旨主張しているので、まずこの点につき判断する。
(1) 本件戒告の無効確認及び取消しの訴えについて
この点については、原判決10頁11行目から11頁6行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(2) 本件令書通知の無効確認及び本件代執行の取消しの訴えについて
この点については、次のとおり訂正、削除するほかは、原判決11頁8行目から12頁5行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決11頁8行目から16行目までを次のとおり改める。
「ア 代執行令書による通知(代執行令書の発付処分)は、代執行を終局の目的とする一連の手続を構成するものであるから、戒告と同様に代執行が完了した後はその目的を達し、法的効果が消滅したものと解されるところ、控訴人らがその無効確認を求めるにつき法律上の利益を有しているとも認められないから、本件令書通知の無効確認を求める訴えは、確認の利益を欠いた不適法なものである。」
イ 同11頁17行目の「行政代執行は、」から12頁2行目の「したがって、」まで、4行目の「原告らが」をそれぞれ削除する。
(3) 本件A擁壁の撤去を求めない不作為が違法であることの確認及び義務付けの訴えについて
この点については、次のとおり訂正するほか、原判決12頁14行目から19行目、21行目から13頁14行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決13頁1行目の「べきであるにかかわらず」を「べきであるにもかかわらず」に改める。
イ 同13頁6行目の「そして、」から8行目の「認めるに足りる証拠はない。」までを「これを本件についてみるに、本件A擁壁が本件道路にはみ出して設置されていることを認めるに足りる的確な証拠はなく、処分行政庁がAに対して原状回復するよう命じることができるとは解されない。したがって、本件においては、「行政庁が一定の処分をすべきであるにもかかわらずこれがされない」ときには当たらないから、義務付けの訴えが認められる要件を充足していない。」に改める。
ウ 同13頁10行目の「これらを疎明する」から12行目の「いうこともできない。」までを「かかる事実を認めるに足りる証拠はないし、本件A擁壁が設置されてから相当年数が経過しているにもかかわらず、処分行政庁にその撤去や原状回復の申請がされていないこと(弁論の全趣旨)に鑑みれば、仮に軽トラックの通行に支障が生じているとしても、そのことが控訴人らに重大な損害を生じさせるものとも考えられない。」に改める。
2 本件納付命令の無効確認の訴えについて
控訴人X1及び控訴人X2は、本件納付命令の無効確認を求めているところ(同訴えに関しては被控訴人の本案前の主張はない。)、この訴えが確認の利益を欠き不適法であることは、原判決12頁7行目から11行目に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 本件納付命令の取消しの訴えについて
控訴人X1及び控訴人X2は、本件納付命令の取消しを求めているところ、同人らがその取消事由として主張するのは、本件土地は控訴人X3所有地に含まれるから処分行政庁による本件代執行手続が違法であるというものである。
そこで検討するに、前記前提事実及び証拠(乙5の1及び2、乙9、11ないし13)によれば、控訴人らは本件原状回復命令で命じられた義務を履行しなかったこと、本件道路の損壊と本件ブロック塀の設置により本件道路の幅員は狭められ、その交通に支障が生じたことが認められ、かかる事実によれば、本件代執行手続は行政代執行法2条の要件を充足した適法なものであると解される。この点、控訴人らは、本件代執行手続に先行する本件原状回復命令の効力を争っているとも考えられるが、本件原状回復命令に違法事由があったとしても、同命令と代執行手続は別個の法令上の根拠に基づくものであり、その違法性は代執行に承継されるものではないし、本件原状回復命令に重大かつ明白な瑕疵があるとも認められない。
また、控訴人らは、本件納付命令それ自体に何らかの瑕疵(取消事由)がある旨主張しているわけではなく、実際にもそのような事由があるとは認められない。
そうすると、本件納付命令に取消事由があるとは認められないから、その取消しを求める控訴人らの請求は理由がない。なお、控訴人らは、本件ブロック塀は控訴人X3が所有していたものであるとして、控訴人X1及び控訴人X2を名宛人としてされた本件納付命令の効力を争うようであるが、前記前提事実及び証拠(甲2、5、8)並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人らは本件代執行手続において、本件戒告、本件令書通知及び本件納付命令に対してその都度異議を申し立てているところ、その際には本件ブロック塀が控訴人X3の所有であるとか、控訴人X1や控訴人X2が本件ブロック塀の設置に関与していないなどの主張は一切されていなかったこと、控訴人X2は、控訴人X3所有地に隣接し本件道路に面する控訴人X2所有地を保有していること、控訴人らは親子であることなどが認められ、これらに照らせば、本件道路の損壊、本件ブロック塀の設置は控訴人らが共同して行ったものと解するのが相当である。したがって、控訴人らの上記主張も理由がない。
4 本件代執行手続の違法について
控訴人らは、本件戒告に係る書面、本件令書通知に係る代執行令書はいずれも控訴人X3に送達されておらず、本件代執行手続には重大な瑕疵がある旨主張しているところ、これが本件戒告の無効や取消し、本件令書通知の無効を根拠付ける理由として主張されているのであれば、前判示のとおり、これら無効確認及び取消しの訴えは不適法なものであるから、同主張も失当というほかない。そうではなく、上記手続違背が、その後に続く本件代執行手続に影響を与え、本件代執行や本件納付命令が違法になるとの主張であるとしても、本件代執行の取消しを求める訴えが不適法であることは前判示のとおりであるし、戒告や代執行令書による通知と、納付命令とは別個の行為であるから、前者の違法性が後者に承継されるとは解されない。なお、本件戒告に係る書面、本件令書通知に係る代執行令書がいずれも控訴人X3に送達されていると認められることは、原判決9頁10行目の「原告X3が」から16行目の「相当である。」、21行目の「原告X3自身が」から24行目の「相当である。」までに記載のとおりであるから、これを引用する。
5 控訴人らの損害賠償請求について
控訴人らは、本件土地が控訴人X3所有地に含まれることを前提に、処分行政庁が本件代執行により本件ブロック塀を撤去し、本件土地をアスファルト舗装し、土嚢を設置したことが違法であり、かかる処分行政庁の行為(公権力の行使)によって損害を被ったと主張する。
(1) そこで、検討するに、前記認定事実及び証拠(甲12、14の2及び3、甲15の2及び3、甲16の6、甲22の1、乙2の1ないし3、乙3の1及び2、乙6、7)並びに弁論の全趣旨によれば、公図上、b番の土地(現在はb番1及び2の土地に分筆されている。)とd番1の土地及びd番2の土地の間には無番地の認定外道路が存在していたところ、処分行政庁は、平成元年3月20日、c番地1先路上を起点とし、b番地先を終点とする総延長85.90メートルの本件道路を町道(市場11号線)として認定したこと、その際は道路の現状を基に、本件道路の幅員を東端から19.3メートルまでの区間では1.63メートル、同区間から5.7メートルまでの区間では1.7メートルとしたこと、本件道路には当時d番1とd番2の土地上に存在していた建物の軒下部分(本件土地)が含まれ、同部分も含めてアスファルト舗装されて道路として使用され、処分行政庁が管理してきたこと、本件土地を含む本件道路が町道として認定され、平成元年3月20日に公示されて以降、d番1及び2の土地の所有者(昭和43年10月26日に相続してから平成19年2月22日に控訴人X3に売却するまでの所有者はB)から何らかの抗議等がされたことはなかったことが認められる。
(2) 上記認定事実によれば、処分行政庁が認定した本件道路は、公図上無番地の認定外道路として記載されていた土地であると考えるのが相当である。
この点、控訴人らは、本件土地は控訴人X3所有地に含まれるとして、その理由を縷々主張するところ、確かに本件土地はd番1及びd番2の土地上に存在していた建物の軒下部分に位置すると思われるが、同部分が越境していた可能性も存するのであって、かかる事実をもって本件土地が控訴人X3所有地に含まれることの根拠になるとは解されない。また、控訴人らは、公図によれば、本件道路の東端の幅員は1.35メートル、東端から約25メートル西側の幅員は1.41メートルである旨主張するが、これは控訴人らが公図を基に、その形状や長さ、幅などを計測して算出した数値であると解されるのであって、その正確性に疑問があるといわなければならない。さらに、控訴人らは、平成4年11月25日にされたAと被控訴人との境界確定において、b番の土地に本件道路の側溝部分(30センチメートル)が取り込まれたと主張するが、かかる事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
第4結論
よって、控訴人らが被控訴人に対し本件戒告の取消し及び無効確認を求める訴え、本件令書通知の無効確認を求める訴え、本件代執行の取消しを求める訴え、本件A擁壁の撤去を求めない不作為の違法確認を求める訴え及び原状回復のための行政処分をすることの義務付けを求める訴え並びに控訴人X1及び控訴人X2が被控訴人に対し本件納付命令の無効確認を求める訴えをいずれも不適法であるとして却下し、控訴人X1及び控訴人X2が被控訴人に対して本件納付命令の取消しを求め、控訴人らが被控訴人に対して国家賠償法に基づき損害賠償を求める請求をいずれも理由がないとして棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 小池明善 寺本佳子)