大阪高等裁判所 平成25年(行コ)47号 判決 2014年3月20日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2(甲事件)
豊中市長が,原判決別紙物件目録記載の各土地について平成21年10月19日付けでした開発行為許可処分(豊中市指令ま開第1-18-9号)を取り消す。
3(乙事件)
(1) 豊中市長が平成23年6月10日付けでした開発行為変更許可処分(豊中市指令都開第3-1-11号)を取り消す。
(2) 豊中市長が平成23年8月10日付けでした開発行為変更許可処分(豊中市指令都開第3-5-11号)を取り消す。
(3) 豊中市長が平成23年12月6日付けでした開発行為変更許可処分(豊中市指令都開第3-8-11号)を取り消す。
第2事案の概要
1 本件は,処分行政庁が,大阪市豊中市α所在の土地(原判決別紙1記載の各土地。以下「本件開発区域」という。)における開発事業(以下「本件開発事業」という。)に関し,平成21年10月19日付けで,株式会社A(以下「A」という。)に対して開発行為許可処分(以下「本件許可」という。)を行い,その後に平成23年6月10日付け,同年8月10日付け及び同年12月6日付けでそれぞれ開発行為変更許可処分(以下,同年6月10日付けでした開発行為変更許可処分を「本件第一次変更許可」,同年8月10日付けでした開発行為変更許可処分を「本件第二次変更許可」,同年12月6日付けでした開発行為変更許可処分を「本件第三次変更許可」とそれぞれいい,これらと本件許可を併せて「本件許可等」という。)をしたところ,本件開発区域の周辺に土地建物を所有し,居住する控訴人及び原審共同原告の2名が,本件許可等には都市計画法(ただし,平成23年法律第124号による改正前のもの。以下「法」という。)に違反する違法があるなどと主張して,本件許可等の各取消しを求めている事案である。
原審は,控訴人及び原審共同原告の本件各請求をいずれも棄却したため,これを不服とする控訴人が控訴した。なお,原審共同原告は,控訴せず,原判決が確定した。
2 法令の定め,前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記3のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」中の「2 法令の定め」,「3前提事実」,「第3 争点」及び「第4 争点に対する当事者の主張」(原判決2頁24行目から25頁23行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する(なお,以下,「メートル」を「m」と,「センチメートル」を「cm」と,「パーセント」を「%」等と各略記する。)。
(1) 原判決5頁13行目の「20条」を削除し,改行の上冒頭に「(ア) 20条」を加え,18行目末尾に改行の上次の文章を加える。
「(イ) 20条の2
法施行令25条2号ただし書の国土交通省令で定める道路は,次に掲げる要件に該当するものとする。
一 開発区域内に新たに道路が整備されない場合の当該開発区域に接する道路であること。
二 幅員が4m以上であること。」
(2) 原判決7頁4行目末尾に改行の上次の文章を加える。
「カ 宅地造成等規制法施行令
(ア) 6条
法9条1項の政令で定める技術的基準のうち擁壁の設置に関するものは,次のとおりとする。
一 切土又は盛土(括弧内略)をした土地の部分に生ずる崖面で次に掲げる崖面以外のものには擁壁を設置し,これらの崖面を覆うこと。
二 前号の擁壁は,鉄筋コンクリート造,無筋コンクリート造又は間知石練積み造その他の練積み造のものとすること。
(イ) 7条
a 1項
前条の規定による鉄筋コンクリート造又は無筋コンクリート造の擁壁の構造は,構造計算によって次の各号のいずれにも該当することを確かめたものでなければならない。
一 土圧,水圧及び自重(以下「土圧等」という。)によって擁壁が破壊されないこと。
二 土圧等によって擁壁が転倒しないこと。
三 土圧等によって擁壁の基礎が滑らないこと。
四 土圧等によって擁壁が沈下しないこと。
b 同条2項1号,4号
前項の構造計算は,次に定めるところによらなければならない。
一 土圧等によって擁壁の各部に生ずる応力度が,擁壁の材料である鋼材又はコンクリートの許容応力度を超えないことを確かめること。
四 土圧等によって擁壁の地盤に生ずる応力度が当該地盤の許容応力度を超えないことを確かめること。ただし,基礎ぐいを用いた場合においては,土圧等によって基礎ぐいに生ずる応力が基礎ぐいの許容支持力を超えないことを確かめること。
c 同条3項2号
前項の構造計算に必要な数値は,次に定めるところによらなければならない。
二 鋼材,コンクリート及び地盤の許容応力度並びに基礎ぐいの許容支持力については,建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)90条(表1を除く。),91条,93条及び94条中長期に生ずる力に対する許容応力度及び許容支持力に関する部分の例によって計算された数値
キ 建築基準法施行令93条
地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力は,国土交通大臣が定める方法によって,地盤調査を行い,その結果に基づいて定めなければならない。ただし,次の表に掲げる地盤の許容応力度については,地盤の種類に応じて,それぞれ次の表の数値によることができる。
堅い粘土質地盤 長期に生ずる力に対する許容応力度(単位kN/㎡)100kN/㎡
ク 地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を求めるための地盤調査の方法並びにその結果に基づき地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を定める方法等を定める件(平成13年7月2日国土交通省告示第1113号)(以下「平成13年告示第1113号」という。)(乙28)
第1地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を求めるための地盤調査の方法は,次の各号に掲げるものとする。
一 ボーリング調査 二 標準貫入試験 三 静的貫入試験 四 ベーン試験 五 土質試験 六 物理探査 七 平板載荷試験 八 載荷試験 九 くい打ち試験 十 引抜き試験」
(3) 原判決21頁11行目の「同擁壁下部の土質については」から12行目の「互層であって」までを,「同擁壁下部の土質については,ボーリング調査の結果によれば,地盤面から同擁壁(改良体)底部まで砂質土及び硬い粘性土の薄層の互層であって」と改める。
3 当審における当事者の補充主張
(1) 本案前の争点
【控訴人の主張】
控訴人の原告適格は,大阪地裁平成25年3月28日判決同様,これを肯定すべきである。
【被控訴人の主張】
控訴人の原告適格につき,法33条1項2号を根拠に認められるべきものではない。同条項2号は,開発区域内の環境保全,災害防止,通行の安全及び事業活動の効率化を図ることを目的とする規定であり,この規定から同号が開発区域外の住民の利益をも保護していると解することはできない。同条項2号を受けて定められた諸規定を見ても,開発区域外の住民個々人の具体的利益に配慮すべきことをうかがわせる規定はない。
(2) 本案の争点
【控訴人の主張】
ア 裁量処分の司法審査のあり方
(ア) 都市計画法上の開発許可の司法審査においては,第一に,都市計画法33条により委任された同法施行令・施行規則等により定められた審査基準が合理的なものであったかどうか,第二に,具体的審査基準を当てはめて行った処分庁の調査審理及び判断過程に看過し難い過誤,欠落があったかどうかを判断することになる。
(イ) この点開発許可に関しては,所管行政庁である国土交通省が「開発許可制度運用指針」を示しているところであり,これは地方分権一括法の施行に伴って各地方自治体に示された地方自治法245条の4に基づく技術的助言であるというべきものであるから,開発許可権者の許可権限を直接拘束するものではないものの,これと異なる運用を行う場合には,その合理性について,開発許可権者側がその根拠と理由を明らかにすべきである。
イ 地盤及び擁壁に関する基準違反について
(ア) 本件開発区域内の活断層について
a 本件開発区域のマンション建設地とBの境界線付近には,活断層である上町断層帯が存在している。したがって,杭基礎は不適であるにもかかわらず,必要な安全措置が講じられていない。
b 本件開発区域の地盤の一部は斜縦縞状(縦に互層)となっており,縦縞状の地盤が明らかな場合には,基礎の支持力の設計において,通常の教科書的な考え方,計算式が適用できるかは疑問であり,この場合に地盤支持力の計算は,「道路土工-擁壁工指針」に,基礎底面から擁壁高さの1.5倍までの深度のN値の平均で計算するとされているから,少なくともこれによるべきである。
(イ) 擁壁の基礎の構造計算の前提となる土質及びN値
a 擁壁8-2(h5.7),擁壁8-2(h5.0),擁壁7-2,擁壁7-3の設計図と構造計算は,支持地盤の土層の種別,N値の採用に連続性,整合性が全くなく,違法である。
設計者は,同一場所・同一土層で連続した擁壁において,改良体・直接基礎の場合は砂質土として構造計算しながら,杭基礎の場合には粘性土として構造計算するなど矛盾がある。
b 擁壁8-2,擁壁7-2,擁壁7-3は,ボーリング調査結果によればそれらの支持地盤の土質は粘性土とされているのに,各基礎の構造計算において,実際とは異なる砂質土を前提に計算されている。
(a) 擁壁の安全性については,宅地造成等規制法施行令7条3項2号において,地盤の許容応力度及び基礎杭の許容支持力については,建築基準法施行令93条により計算された数値によるものとされ,同条に基づき,平成13年告示第1113号が定められている。
豊中市の建築基準法解釈・取扱集においては,同法20条関係の擁壁・基礎関係の取扱いについては,同法施行令93条及び平成13年告示第1113号に基づいて地盤調査を行って,地耐力を算定し,適切な工法によるものとし,「建築基準法構造関係規定取扱集2004年版Q&A」にも注意することと明記されている。
上記のような行政庁の内部基準は,策定過程と内容に合理性がある限り裁判規範となり,行政庁は自ら作成した基準に拘束され,合理的な理由がない限りこれと異なる行政処分はできない。
(b) 地盤の粘着力及び一軸圧縮強度は,「建築基準法構造関係規定取扱集」にあるとおり,原則として一軸圧縮試験などの力学試験に基づき決定するものとされており,N値からC値(粘着力)の換算や推定,qu(一軸圧縮強度)の値を換算することは認められない。本件では一軸圧縮試験等の力学試験は行われておらず,違法である。
(c) 粘性土を総合的な判断で砂質土として計算することは,これらをそれぞれ区別した上で土質調査を行う意味を失わせるから,土質工学上は認められない。粘性土を砂質土として計算することは,大阪府の行政実務でも認められていない。
c 擁壁8-2(h5.0)(改良体)について
擁壁8-2(h5.0)(改良体)につき,基礎底面位置は,土質柱状図からは「シルト質土,砂質粘土」であり,一見して粘性土であり,砂質土ではないから,粘性土を砂質土として計算すことは認められない。
上記擁壁については,「建築基礎構造設計指針」(甲66)によれば層状地盤としての計算をすべきであるが,これがなされていない。
また,平成13年告示第1113号により国土交通大臣の定める方法による土質試験等によるqu(一軸圧縮強度)が得られていないのであれば,同法施行令93条に示されている硬い粘土質地盤の長期に生ずる力に対する許容応力度(100kN/㎡)を用いる計算により確認されなければならず,他の方法によることは許されない。
d 擁壁8-2(h5.7)(杭基礎)について
擁壁8-2(h5.7)の杭と先端地盤の支持力について,杭先端部支持層の厚さが薄く,杭径の1.6倍しかなく,3倍以下であるので,二層地盤として下部の粘性土の支持力の検討がなされていない違法がある。すなわち,支持土層へのパンチング破壊を考慮すべきであり,支持土層下部の支持力の検討を要する。
e 土層の評価が矛盾することについて
擁壁8-2(h5.7)の擁壁構造計算(乙64)を行うに当たって「粘性土」とされている地層番号3は,その他の擁壁(擁壁8-2(h5.0),擁壁7-2,擁壁7-3)の各底面が存する支持土層と同一の土層にあるのに,この同一の土層を砂質土と評価して構造計算していることが問題である
(ウ) 擁壁8-2,擁壁7-2,擁壁7-3の地震時における周辺構造物の影響の検討
擁壁8-2,擁壁7-2,擁壁7-3については,地震時における周辺構造物への影響が検討されていない。
被控訴人は,近接する建物による影響は建築物の建築確認において審査されるべきものであり,被控訴人には審査する義務がない旨主張するが,指定確認検査機関が建築確認申請を審査したとしても,特定行政庁(豊中市長)の監督下にある指定確認検査機関が「擁壁に関して近接する建物による影響の検討」を行っていなければ,特定行政庁(豊中市長)は建築基準法9条の規定に従い,是正命令を出さなければならないことになる。指定確認検査機関の確認済証は,当該市の建築主事の確認済証とみなすと定められているから,被控訴人も自らの責任において影響を審査すべきである。
ウ 道路に関する基準違反について
(ア) 本件接続道路を認めた本件第一次変更許可は,道路構造令上の規制値ぎりぎりで設計されているなど,接続道路の供用開始後の危険性を考慮しておらず,その安全性に関する事実認定と評価を誤っており,裁量権を逸脱,濫用している。
(イ) 本件接続道路は第4種道路であるが,そもそも第4種道路の道路の設計速度は原則として60ないし30km である。道路構造令上,設計速度を毎時20km とし得るのは,第4種道路中第3級道路(計画交通量1日4000台未満)に限りやむを得ない場合に認められるにすぎないし,仮に例外的に許容されるとしても,設計時速20km を前提とすること自体現実的でない。
(ウ) しかも,道路構造令20条によれば,第4種道路で設計速度20km の縦断勾配は原則として9度であり,やむを得ない場合のみ11度とし得るとされている。
【被控訴人の主張】
ア 司法審査のあり方に関する主張について
そもそも,都市計画区域又は準都市計画区域内における開発行為は法に違反していないと認めるときは,開発許可をしなければならないと規定されている(法33条)から,申請内容が規定に適合していれば開発許可処分が行われなければならない。
開発許可制度運用指針や建築基準法構造関係規定取扱集について,これらは行政担当者が開発事業を審査するときに参考に供するものではあっても,その許可権限を拘束するものではないから,これらに沿わない点があったとしても,それにより本件処分に取消事由があることになるわけではない。
イ 地盤及び各擁壁の基準違反の主張について
(ア) 本件開発区域内の活断層に関する主張について
a 本件開発区域内に活断層が存在するとは到底いえないし,また,開発許可の判断に当たり,活断層の有無は考慮すべき事項ではない。
b 控訴人は,活断層ないし活断層由来の撓曲の存在を前提に,杭基礎は不適であるのに必要な安全措置が講ぜられていないと主張するが,ボーリング調査結果によれば,本件開発区域の一部は斜縦縞状になっているものの,このことにより軟弱地盤であるとはいえない。表層のごく一部にN値1の箇所があるが,その余は大部分がN値10以上であり,N値10以下となっている部分については切土により除去されることとなっている。そうすると,形質変更を前提として軟弱地盤とはいえないものと評価すべきである。
本件開発行為では,開発許可に必要な擁壁を設置するよう設計が定められているが,地盤が斜縦縞状であるか否かにかかわりなく,各擁壁の底盤地盤の地耐力を検討し,現況地盤の地耐力不足箇所には,以下のとおりその強化を行う設計とされている。
① 攪拌改良(固化材と掘り出した土をバックホウ等の攪拌装置を用いて混合させた上,埋め戻して転圧して行う地盤改良)
② 柱列改良(上記によりなお地耐力が不足する箇所には,固化材液を地盤に供給し,攪拌装置を用いて土と固化材液を混合してできた円柱状の改良体を設置して行う地盤改良)(本件では擁壁5-4〔h2.0〕),擁壁9〔h5.9〕について施工)
③ 杭基礎設置(変更許可により柱列改良から工法を変更したもの)(本件では擁壁8-2〔h5.7m〕について施工。その上で安全性評価)
(イ) 擁壁の安全性について
a 地盤及び擁壁の安全性の審査において用いられる審査基準
地盤及び擁壁の安全性については,法33条1項7号を受けて,法施行令,法施行規則,宅地造成等規制法,同法施行令において技術的基準の細目が規定されている。
擁壁の安全性は,宅地造成等規制法施行令7条に規定され,地盤の許容応力度,基礎杭許容支持力(同条3項2号)については建築基準法施行令93条により計算された数値によるとされ,これに基づき平成13年告示第1113号が定められている。
b 基礎の構造計算の前提となる底盤支持層の土質及びN値に誤りがあるとの主張について
(a) 擁壁の支持力の計算について
① N値が10ないし30程度の範囲内で同じN値であれば,砂質土より粘性土の方が支持基盤として良好であることは専門家であれば常識の部類に属する。
② 本件では,改良体底部の支持層を砂質土として計算することには合理性があると判断されたものであって,粘性土の場合の地盤粘着力及び一軸圧縮強度についてN値からの換算を行っているものではない。
③ 控訴人が引用する「建築基準法構造関係規定取扱集」は,開発許可審査基準ではなく,主として擁壁よりも重量の大きい建築物の基礎杭を想定しているから,必ずしもこれによらなくてもよいのであり,粘性土の粘着力(C値)をN値から推定する方法もある。この場合一般によく用いられる計算式「C=1/2qu qu=12.5N」の計算式は,粘着力(C値)は安全側に過小評価されると言われている。
(b) 擁壁8-2について
① 擁壁8-2(h5.7)について
ⅰ 擁壁8-2(h5.7)の基礎杭の先端地盤は砂質土でその先端平均N値は31であり(したがって,粘性土として構造計算を行っているとの主張は事実に反する。),その下に続く粘性土のN値は少なくとも17以上あり,その相対密度及びコンシステンシーは「非常に硬い」とされており,到底軟弱地盤と評価されるものではない。
控訴人の主張は,支持地盤の下に軟弱な地盤がある場合の取扱いを前提とするものであることは明らかであるから,下部粘土層について力学試験の数値に基づく支持力の計算をすべきとの主張は理由がない。
ⅱ 平均N値は,後記②ⅱのとおりの方法により算出した。
ⅲ 控訴人は,周面摩擦力度表を引用して,杭基礎先端下部の土層については粘性土として構造計算していると主張するが,以下のとおり誤りである。
(ⅰ) 控訴人提出の擁壁構造計算書中には,杭基礎構造計算書が混入しており,擁壁の構造計算書として提出するのは誤っている。
(ⅱ) 基礎杭の許容支持力は,計算式に従って杭先端における支持力と杭基礎全長の周面摩擦力を加えたものである。杭周面摩擦力度表は,杭基礎全長がまたがる全地層を杭上端から杭下端まで粘性土と砂質土によって区分し,各地層毎の平均N値を記入し,各地層毎の最大周面摩擦力度を算定することにより作成されている。この表に記載される粘性土とは,杭基礎全長の途中の地層であり杭基礎先端下部における地層ではないから,杭基礎先端下部の地層を粘性土として計算を行っているものではない。
最大周面摩擦力度表においては,杭基礎全長中の砂質土層のみについて平均N値に基づく最大周面摩擦力度(fi)の算定を行っており,途中の粘性土層についてはC(粘着力)はゼロ(すなわち,粘性土部分のfiはゼロとする。)として摩擦力は考慮しておらず,安全側の設計をしている。
② 擁壁8-2(h5.0)について
ⅰ 擁壁8-2(h5.0)は,同擁壁改良体底部までは砂質土及び粘性土の互層であり,改良体底部は砂質土と粘性土のほぼ境目であり,下部の粘性土層は古い洪積粘性土層でN値が10以上,相対密度及びコンシステンシーは「硬い」とされているものであり,事実誤認はない。これらを前提に下部粘性土層は十分支持層となり得ることから,改良体底部支持層を総合的な判断の下に砂質土として地耐力の計算をすることには十分な合理性がある。
上記にいう総合的判断というのは,同じN値であれば許容支持力は砂質土より粘性土の方が大きいとの専門家における一般的知見を踏まえて,改良体底部の支持層を砂質土と評価して地耐力の計算をすることは十分合理性があるということであって,法令に基づかない独自の判断基準によって審査を行ったという意味ではない。
ⅱ 平均N値
(ⅰ) 擁壁8-2(h5.0)の擁壁基礎底面のN値を13.7としたのは,以下の算出方法による。
内部摩擦角を求めるためのN値は,原則として基礎底面のものを採用するが,基礎底面下のN値が基礎底面のN値より小さい場合は,基礎幅の深さの範囲及び基礎幅の2倍の深さの範囲の平均N値のうちいずれか小さな値を採用すべき(甲68「61-1」)とされているため,同擁壁の基礎底面レベルが標高40.5m,基礎底面の幅が3.5mであるため,上記に従って算定すると,基礎幅深さによる平均N値が15.5,基礎幅2倍深さによる平均N値が13.71であるため,後者が採用されたものである。
(ⅱ) 平均N値の取り方については,控訴人自身が援用する文献に記載される方法だけでも複数あるから,控訴人主張の方法によらないことは何ら違法ではない。
ⅲ 「層状地盤」を前提とする主張について
控訴人は,「建築基礎構造設計指針」を引用し,「層状地盤」を前提とする計算がなされていないと主張するが,この方法は,「下部粘土層の影響が懸念される場合」とされているとおり,下部粘性土地盤が砂質土地盤よりも脆弱な場合の例を指しており,本件のようにN値10以上の硬い粘性土地盤の場合に適用されるものではない。
ⅳ 平成13年告示第1113号について
控訴人は,平成13年告示第1113号によれば,国土交通大臣が定める方法による土質試験等によるqu(一軸圧縮強度)が得られていないのであれば,建築基準法施行令93条に示される硬い粘土質地盤の長期許容応力度を用いる計算によって確認されるべきと主張する。しかしながら,同条ただし書には「国土交通大臣が定める方法によって地盤調査を行い,その結果に基づいて定めなければならない」としているところ,これを受けて定められた上記告示にはquの求め方が定められているものではなく,控訴人の主張するように「国土交通大臣が定める方法による土質試験等によるquが得られていない」場合が定められているとするのは誤導的表現である。
そもそも,同施行令93条に示される許容応力度は,地盤調査の結果に基づいて定めることができない場合に便宜的によることができる方法を定めたものであるから,本件のように地盤調査が行われ,その結果に基づいて定められている場合に,同条に示される方法によらなければならないものではない。
(c) 擁壁7-2,擁壁7-3について
① そもそも,控訴人は,擁壁7-2,擁壁7-3については原審で特段の主張をしていなかったのであり,当審において主張することは時機に後れている。
② 擁壁の安全性について
ⅰ 基礎底面について
擁壁7-2,7-3は,基礎底面をいずれも砂質土層に位置しており,その下に粘性土層があるとしても,以下のとおりN値や相対密度,コンシステンシーからして,基礎底面の支持層を砂質土として地耐力の計算をすることに問題はない。
ⅱ 基礎底面の所在
擁壁7-2,7-3(直接基礎)の基礎底面下部の土層と擁壁8-2(h5.7m)(杭基礎)の杭基礎先端下部の土層とは,深さも全く異なり,連続性もなく,同一土層でないことは明らかであるから,控訴人の主張は誤りである。
ⅲ 平均N値の算出方法
擁壁7-2,同7-3の各平均N値も,いずれも前記(b)②ⅱの方法により算出した。
③ 擁壁7-2
擁壁7-2の基礎底面は,砂質土層と粘性土層の境目から約50cm 上方の砂質土層に位置しているものであり,前記(b)の擁壁8-2について述べたのと同様,基礎底面の支持層を砂質土として地耐力の試算をすることは十分な合理性がある。
④ 擁壁7-3
ⅰ 擁壁7-3の基礎底面が粘性土であることは否認する。
基礎底面はN値60の砂質土層が支持層であることを前提にその計算をした。
ⅱ 擁壁7-3の基礎底面は,砂質土層と粘性土層の境目から約90cm 上方の砂質土層に位置しているものであり,そのN値は60である。この砂質土層が薄いとは考えられないが,仮に薄いと考えたとしてもその下部の粘性土層のN値は20以上あり,相対密度及びコンシステンシーは「非常に硬い」とされているもので支持層となり得るものであるから,基礎底面の支持層を砂質土として地耐力の試算をすることには問題はない。
地耐力の計算はボーリング№3のデータに基づいて設計している。同データではN値50以上あるものの,地耐力の計算結果一覧表ではN値20として計算を行っている。この計算は十分安全側の計算であることから,計算結果一覧表のN値を訂正することは求めていない。計算と設計図が不整合であると主張されている点については,どこを指しているか不明であり,変更後の表においては,基礎底面部分に「N=20.0」と表記されており,何ら不整合はない。
(ウ) 擁壁8-2,擁壁7-2,擁壁7-3の地震時における周辺構造物への影響の検討に関する主張について
a 開発許可の段階において予定建築物に関して特定されるのは,予定建築物の用途及びその敷地の形状であり,これ以上に予定建築物の内容を特定し,その内容を考慮して開発許可の審査を行うことは法が予定するところではないから,開発許可審査において,地震時の建築物の挙動を踏まえた検討をする必要はない。この点は建築物の建築確認の段階において審査されるべきものである。
b また,仮に予定建築物の位置が特定されたとしても,それだけでは検討することはできない。逆に,開発許可基準に適合し,かつ申請手続が法又は法に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは開発許可をしなければならないと規定されている以上,検討をすべき法的根拠も見当たらない。
ウ 道路に関する基準違反の主張について
(ア) 主張自体失当であること
a 控訴人は,本件新設道路を「接続道路」ととらえた上で,違法がある旨主張するが,本件開発区域においては,本件開発区域内道路を設け,この開発区域内道路を開発区域に接する既存の市道である本件接続道路に接続させるものであり,これにより法施行令25条2号及び4号の各要件を満たすものとして許可がなされている。したがって,本件新設道路の有無にかかわらず,既に開発区域内道路が接続する接続道路の要件は満たしている。
b 本件新設道路が接続道路と解したとしても,そもそも本件新設道路は区域外に設けられる道路であり,この道路の道路構造令上の問題は,開発区域内道路についての開発許可基準不適合の違法事由には結びつかない。控訴人は,この点開発許可処分に当たっての裁量権の逸脱濫用があると主張するが,開発許可申請に係る開発行為が法33条1項各号に掲げる基準に適合しており,かつ申請手続が法及び法に基づく命令の規定に違反していない場合には,法33条は,開発許可をしなければならないと規定しているから,裁量の余地はない。
(イ) 道路構造令上も問題がないこと
a 本件新設道路は,東西に既存道路があり,東が高く,西が低くなっており,これらの東西既存道路を結ぶ形に築造される。したがって,縦断勾配を緩やかにできるものではなく,地形の状況その他特別の理由によりやむを得ない場合について規定する道路構造令20条ただし書が適用されるから,第4種普通道路の設計速度20km の場合の縦断勾配の数値である11%以下とすることはやむを得ない。
b 本件新設道路が東側既存道路と接続する箇所において,隣接するマンション敷地と本件新設道路との高低差が生じ,本件新設道路内にマンション敷地を支える逆L型土留め擁壁を築造する必要があり,その部分において本件新設道路の曲線半径を15mにせざるを得なかったものであるから,地形の状況その他の特別な理由によりやむを得ない場合について規定する道路構造令15条ただし書が適用されると判断された。
c 計画交通量は,当該道路の存する地域の発展動向や将来の自動車交通の状況などを勘案して道路管理者により定められるが,本件新設道路の東側接続に係る都市計画道路千里園熊野田線のような幹線道路でも第4種第2級であることから,本件新設道路については第4種第3級と推定でき,設計速度を20km と定めることは違法ではない。
d 本件新設道路は,設計速度,縦断勾配,曲線半径のいずれにおいても道路構造令に規定された制限値内となっている。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の本件各請求は,いずれも理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記2及び3のとおり当審における当事者の補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第5 当裁判所の判断」の1ないし3(原判決25頁25行目から39頁20行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決35頁25行目の「逆T型擁壁8-2(h5.0m)」の次に「(以下,単に「擁壁8-2(h5.0)」という。)」を加える。
(2) 原判決36頁1行目の「改良体底部の支持層」を「改良体底部までの支持層」と,7行目の「コンステンシー」を「コンシステンシー」と,各改める。
(3) 原判決37頁10行目の「20の2」の次及び19行目の「20の2」の次に,いずれも「,26」を加える。
(4) 原判決38頁14行目の「逆T型擁壁8-2(h5.7m)」の次に「(以下,単に「擁壁8-2(h5.7)」という。)」を加える。
2 控訴人の原告適格(本案前の争点)
被控訴人は,本件許可等の各取消を求める控訴人の原告適格について,法33条1項2号は環境保全や災害防止の観点から定められた一般的な利益に関する規定であって開発区域外の個々の住民の具体的利益を保護する規定ではないから,同規定によって開発区域外の住民個々人の原告適格を認めることはできないと主張する。
しかしながら,原判決を引用して説示したとおり,法33条1項2号は,「周辺の状況」「を勘案」「災害の防止」「通行の安全」との文言を用いているのであるから,同条項2号の目的及び同号が保護しようとしている利益のうちには,文言上当然に,開発区域外であっても直近・隣接する現住の建築物がある場合には,その開発区域内の建物・道路の配置・幅員等如何により,予定建築物等に火災その他の災害が発生することにより,予定建築物が倒壊して通行に具体的な支障が生じたり,予定建築物を含む開発区域内の火災が開発区域外に火の粉や煙を及ぼしあるいは延焼する等といった災害の直接的影響により,隣接する開発区域外の住民の生命・身体等に具体的な危険が及び得る場面を想定していると解さざるを得ない。そうすると,法33条1項2号は,隣接する開発区域外の住民についても,その個別具体的利益を保護する趣旨を含むものと解されるところである。
したがって,控訴人には,法33条1項2号により,原告適格を認めることができる。
3 取消事由の有無(本案の争点)
(1) 擁壁及び地盤に関する基準違反の有無(取消事由の有無1)
ア 本件開発区域内の活断層について
(ア) 本件開発区域内の活断層について
控訴人は,本件開発区域内には活断層ないし活断層由来の撓曲があると主張するが,提出に係る証拠(甲28,62等)を総合しても,そもそも本件開発区域内に活断層があるといえるかにつき,立証されているとはいえない。
(イ) 開発許可処分に当たって活断層を考慮することの可否について
控訴人は,活断層ないし活断層由来の撓曲が存在することを前提に,開発許可に当たっては,これらの活断層や撓曲を裁量により勘案すべきであると主張する。
しかしながら,本件開発区域内に活断層があるとしても,原判決を引用して認定・説示したとおり,開発許可処分を行うに当たって,活断層の有無それ自体を考慮すべき旨定めた規定はなく,かえって,法33条は,開発許可申請に係る開発行為が,条例を含めた同条1項各号に掲げる基準に適合しており,かつ申請の手続が法及び法に基づく命令の規定に違反していないと認めるときは開発許可をしなければならない旨規定しているから,申請内容が規定に適合していれば許可処分を行うべきであって,裁量によって考慮することも予定されていないというべきである。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(ウ) 控訴人の主張について
控訴人は,本件開発区域の地盤の一部は斜縦縞状となっており,このような地盤が明らかなときには,基礎の支持力の計算に当たっては,通常の計算式を適用できるかは疑問であると主張する。
控訴人の主張の趣旨は必ずしも判然としないが,斜縦縞状の地層は軟弱地盤であることを前提とするものと考えられる。しかしながら,原判決を引用して認定・説示したとおり,本件開発区域の一部には粘性土でN値が2以下の土層や,砂質土でN値が10以下の土層が認められる部分が存在し,軟弱地盤がないとはいえないものの,本件開発許可及び開発変更許可に当たっては,表土のN値10以下の部分(土質柱状図〔乙33各号証〕)については広範囲に切土をしてこれを除去し,形質変更を行うとともに(造成計画断面図等〔乙30号証各号〕),地耐力の不足部分にその強化(攪拌改良及び柱列改良)をする設計とされ,部位によっては,柱列改良からさらに杭基礎に工法を変更した上で安全性を評価し(乙35),変更許可に至っているのであるから,軟弱地盤が含まれているとしても,当該部分に必要な安全対策がなされていると認められ,この点の基準違反はない。
イ 擁壁の基礎の構造計算の前提事実及びその計算方法の相当性について
控訴人は,擁壁8-2(h5.0),擁壁8-2(h5.7),擁壁7-2,擁壁7-3の支持地盤につき,ボーリング調査結果とは異なる土質及びN値を前提に計算されていると主張するので,以下検討する。
(ア) 擁壁8-2
a 擁壁8-2の位置及び形状,支持地盤の状況
擁壁8-2は,本件開発区域の南西側,擁壁配置平面図(乙13)上では「擁壁8-2」の箇所に設置予定であり,同箇所には擁壁展開図(9)(乙34の9〔変更後〕)のとおり,いずれも逆T型擁壁である擁壁8-2(h5.0)と同8-2(h5.7)を接着して設置するものとなっているが,前者の擁壁基礎は改良型の逆T型擁壁底面,後者の擁壁基礎は杭基礎である。同所のボーリング調査箇所は上記擁壁配置平面図(乙13)の「№1」(同図面「Bor№1(T.P.+44.46m))であり,同箇所の土質柱状図は,「β計画に伴う地盤調査報告書」(乙12。以下「地盤調査報告書」という。)の上記に対応するボーリングナンバーに係る土質柱状図のとおりである。
擁壁8-2(h5.0)の底部と,杭基礎となっている擁壁8-2(h5.7)の先端部のそれぞれの深度,設置の前提となる地盤改良方式はそれぞれ異なっており,前者(h5.0)は「攪拌改良」を行うことを前提として,標高38.0m(「▽37.5」とあるのは地盤面と擁壁の予定深度からすれば誤記と考えられる。)の箇所に支持底盤が位置するものとされ,後者(h5.7)は杭基礎(変更許可後)を前提として,標高23.0mの箇所に杭基礎先端が位置するものとされている(乙34の9〔変更後〕)。
b 擁壁8-2(h5.0)について
(a) 擁壁8-2(h5.0)の逆T型擁壁の底部が位置する標高38m付近の土層は,地盤調査報告書(乙12)のボーリング箇所№1に対応する土質柱状図(同号証4枚目)によれば,「砂混じりシルト質粘土」で,その土層は38.01m付近が地盤の境目となっており(乙12,17,33の1),土質(コンシステンシー。以下「土質」という。)及び相対密度は「硬い」とされている(乙12〔土質柱状図・相対密度およびコンシステンシー欄(以下「相対密度等欄」という。)〕)。なお,その直上の土層は,「粘土混じり中砂」(同図「標高」の38.51m)で「緩い」とされている。
上記のように,逆T型擁壁底部は,丁度38.01mのところにある土層の境目付近に位置しており,地盤表面から擁壁底部までは「シルト混じり細砂」や「粘土質細砂」,底部直上は「粘土混じり中砂」で土質及び相対密度は「中位」であったり「緩い」であったりする互層となっている。底部の支持層となり得る底部以下の地層は,上記土質柱状図上「腐植土混じり砂質粘土」「砂質粘土」「シルト質粘土」「粘土質細砂砂質粘土」等と続いており,相対密度等欄も,「硬い」ないし「非常に硬い」とされていることが認められる(乙12)。
(b) 擁壁8-2(h5.0)の基礎底面の平均N値は,後記(オ)のとおり,基礎底面下のN値が基礎底面のN値より小さいとして,基礎底面の幅3.5mを前提として,基礎幅(1d)の深さの範囲である標高40.5mから37.00mの平均N値と,基礎幅の2倍(2d)の深さの範囲である標高40.5mから33.50mの平均N値のうち,小さい方の値として前記の13.7が採用された(乙33の1)上,地耐力の計算がされた(乙36の1)ことが認められる。
(c) 擁壁8-2(h5.0)の地耐力の計算は,砂質土であることを前提にされている(乙36の1,甲68)。
c 擁壁8-2(h5.7)について
(a) 擁壁8-2(h5.7)は杭基礎とされているが,その先端が位置する標高23m付近(乙34の9)の土層は,地盤調査報告書中のボーリング箇所№1に対応する土質柱状図によれば,「粘土質細砂」となっており(同図「標高」の21.96から24.26mの間付近)(乙12,17,33の1),同地層は「締まっている」とされている(乙12〔土質柱状図・相対密度等欄〕)。記事欄によれば「所々腐植物少量混入/φ2~5mm の礫点在/所々中砂を薄く挟む/所々粘土分多量混入」とされている。
そして,同擁壁杭基礎先端以下の土層は,「砂質粘土」「砂混じりシルト質粘土」「シルト質細砂」等と続いており,土質及び相対密度は「非常に硬い」「非常に締まっている」とされており,N値はいずれも10以上あることが認められる(乙12)。
(b) 擁壁8-2(h5.7)の杭基礎先端部の平均N値は,計算の結果,先端部31,14,20,12.8という数値を得たが(乙33の1),このうち12.8を前提に地耐力の計算がされた(乙36の1)ことが認められる。
(c) 基礎杭の許容支持力算定に必要な最大周面摩擦力度の算定に当たっては,単位面積当たりの抵抗力の数値において,杭基礎全長がまたがる各地層について,各地層毎の平均N値を基に,各地層毎の最大周面摩擦力度を算定しているが,そのうち,最大周面摩擦力度(fi)は,砂質土についてのみ行い,途中に存在する粘性土についてはfiをゼロとして算定している(乙65・21頁該当部分)。
(d) 擁壁8-2(h5.7)の地耐力の計算は,砂質土であることを前提にされている(乙36の1,甲68)。
(イ) 擁壁7-2
a 位置及び調査箇所
擁壁7-2は,本件開発区域の南西側で上記擁壁8-2の東側,擁壁配置平面図(乙13)上の「擁壁7-2」の箇所に設置予定であり,擁壁展開図(7)(乙34の7〔変更後〕)のとおり,逆L型擁壁である。同所のボーリング調査箇所は上記平面図(乙13)の「№1」(同図面「Bor№1(T.P.+44.46m))であり,同箇所の土質柱状図は,前記地盤調査報告書4枚目(乙12)のとおりである。
b 土層
(a) 擁壁7-2の逆L型擁壁底面部は,標高38.5m(乙33の1〔変更後〕,34の7)の箇所に位置しており,当該箇所(乙34の7)の土層は,地盤調査報告書中のボーリング箇所№1に対応する土質柱状図によれば,「粘土混じり中砂」となっており(同図「標高」の38.51mから38.01m付近)(乙12,33の1),土質及び相対密度は「緩い」とされている(乙12〔土質柱状図・相対密度等欄〕)。
(b) 擁壁7-2は地盤面から底面部までは,「シルト混じり細砂」で相対密度が「中位」,「砂質粘土」で土質及び相対密度が「非常に硬い」層と,「粘土質細砂」で土質及び相対密度が「中位」の層の互層となっている。
(c) そして,逆L型擁壁底部の支持層となり得る底面部以下の地層は,上記土質柱状図上「砂混じりシルト質粘土」「腐植土混じり砂質粘土」「砂質粘土」「シルト質粘土」「粘土質細砂砂質粘土」等と続いており,土質及び相対密度も,「硬い」ないし「非常に硬い」とされている(乙12)。
(d) 擁壁7-2の基礎底面の平均N値は,後記(オ)の方法により,11の値を得たと認められる(乙33の1)。
c 地耐力の計算
擁壁7-2の地耐力の計算は,砂質土であることを前提にされている(乙36の1,甲68)。
(ウ) 擁壁7-3
a 位置及び調査箇所
擁壁7-3は,本件開発区域の南西側で上記擁壁7-2の東側,擁壁配置平面図(乙13)上の「擁壁7-3」の箇所に設置予定であり,擁壁展開図(7)(乙34の7〔変更後〕)のとおり,逆L型擁壁である。同所のボーリング調査箇所は上記平面図(乙13)の「№3」(同図面「Bor№3(T.P.+44.96m))であり,同箇所の土質柱状図は,前記地盤調査報告書6枚目(乙12)のとおりである。
b 土層
(a) 擁壁7-3の逆L型擁壁底面部は,標高38.5m(乙33の1,34の7)付近に位置しているが,当該箇所の土層(乙34の7)は,地盤調査報告書中のボーリング箇所№3に対応する土質柱状図によれば,「シルト混じり中砂」となっており(同図「標高」の39.86から37.61mの間付近)(乙12,33の1),同地層は,「非常に締まっている」とされている(乙12〔土質柱状図・相対密度等欄〕)。
(b) そして,逆L型擁壁底面以下の地層は,上記土質柱状図上「シルト質細砂シルト質粘土」「砂混じりシルト質粘土」「粘土質中砂」等と続いており,土質及び相対密度も,「非常に硬い」ないし「締まっている」等とされていることが認められる(乙12)。
(c) 擁壁7-2の基礎底面の平均N値は,後記(オ)のとおりの方法により,20の値を得たと認められる(乙33の1)。
c 地耐力の計算
擁壁7-3の地耐力の計算は,砂質土であることを前提にされている(乙36の1,甲68)
(エ) 土質とN値の関係に関する知見等
良好な支持層とは,擁壁が過大な沈下や傾斜を生じることのない地盤をいうとされている(乙55)。
擁壁工設置の場合,その底面部の位置する支持地盤が「良好な地盤」といえるためには,その支持地盤が砂質土や砂れきの場合にはN値が20程度以上は必要であり,粘性土の場合にはN値が10ないし15程度以上は必要である(乙55。なお,道路土工に関するN値に関する基準では,砂質地盤がN20以下の場合には,土質調査結果などを総合的に検討して支持力を決定することとされている〔甲55別紙L・16頁〕,甲67)。なお,N値とは標準貫入試験において,一定質量の落錘を一定高さから自由落下させ,同試験用サンプラーを地盤内に30cm 貫入させるのに要する打撃回数を意味するから,その数値が大きいほど地盤が堅いことを意味するが,これは定性的な数値であり,擁壁底面の支持地盤として良好な地盤といえるためには,そもそもその土質が砂質土の場合と粘性土の場合とでは,同じN値であっても,土質により工学的な性質が非常に異なるため,その数値のみで単純な比較ができず,粘性土地盤ではN値が小さくても良好な地盤であるが,砂礫や粒径が大きい場合には,N値が大きいとしても必ずしも良好な地盤とはいえない(乙63)。
(オ) 地耐力算定のためのN値ないし平均N値
a 基礎の支持力の推定ないし地耐力算定に当たり,内部摩擦角を求めるためのN値は,原則として,基礎底面のものを採用する。擁壁基礎底面下のN値が基礎底面のN値より小さい場合には基礎幅の深さの範囲及び基礎幅の2倍の深さの範囲の平均N値のうちいずれか小さい値を採用する(甲68)。
b 直接基礎の支持力の推定に用いるN値の取り方は,せん断定数を求める範囲(擁壁の高さの1.5倍)までの平均値によるという方法もある(甲67)。
(カ) 評価・判断
a 擁壁8-2(h5.0)について
(a) 前記によれば,擁壁8-2(h5.0)の擁壁底部は,標高38.00mの位置にあるから,この位置の土層が,土質柱状図によれば「粘土混じり中砂」(標高38.51mから38.01mまで)と「砂混じりシルト質粘土」(標高38.01mから36.66mまで)の境目に存在することが明らかであり,これより上(すなわち擁壁地盤表面付近から擁壁底部まで)は土質及び相対密度が「中位」の「シルト混じり細砂」や相対密度が「非常に硬い」とされる「砂質粘土」(乙12)の互層であることが明らかであり,擁壁下部からさらに地下へは,土質及び相対密度が「硬い」とされる「砂質粘土」や「シルト質粘土」層が連続しており,支持層となり得ると考えられる。
上記の状況をみると,擁壁下部は硬い層であり,支持層となり得るものの,擁壁上部から擁壁底部までは,砂質土層がかなり挟まっていることや,擁壁底部それ自体は境目とはいえ「粘土砂混じり中砂」層の砂質土にあるとみられることなどから,前記(エ)において同じN値であれば許容支持力は砂質土より粘性土の方が大きいという知見を踏まえて,砂質土を前提に地耐力の計算を行ったものであり,専門的知見に照らして十分合理的で,基準違反はない。したがって,控訴人が主張するように擁壁底面が明らかに粘性土に存在するのに砂質土を前提として違法に計算評価したとはいえない。
(b) なお,控訴人は,平均N値の取り方が不当であると主張するが,N値の取り方につき控訴人が主張する方法(甲67)以外の異なる方法もあり(甲68),本件の計算過程に明らかな誤りがあるとは認められない。上記(ア)b(b)のとおり,擁壁8-2(h5.0)の平均N値は前記(オ)の方法により算出されたものとして合理的なものであり,具体的な不整合は見当たらないから基準違反はない。
(c) また,控訴人は,qu(一軸圧縮強度)をN値から推定して支持力を計算することは認められず,一軸圧縮試験等の力学試験がされていない粘性土を支持層として計算することは許されない旨主張し,併せて,行政庁が自ら作成した審査基準が開発許可においても建築確認同様に適用になると主張して,上記内容の「建築基準法構造関係規定取扱集2004年版」(甲68)の「基礎構造」の章を引用する。
しかしながら,そもそも,本件では,控訴人が指摘する「qu(一軸圧縮強度)をN値から推定して支持力を計算する」「一軸圧縮試験等の力学試験がされていない粘性土を支持層として計算する」ことは,処分行政庁が具体的にそのような計算を行っているとの指摘はなく,その証拠はないから前提を欠いているし,前記のとおり,粘性土ではなく,砂質土を前提に計算されていることは相当であるから,いずれにしても理由がない。また,前記「建築基準法構造関係規定取扱集」の引用に係る部分は,そもそも,建築基準法は建築物(土地に定着する工作物のうち,屋根,柱及び壁を有するもの〔同法2条1号〕)を前提として規定されたものであり,同取扱集に「擁壁・基礎」の項があったとしても,「基礎」とは通常建築物を指すというべきであるし,「基礎構造」(甲68)の章(6章)も通常建築物のそれを指すというべきものであり,直ちに擁壁工に関する開発許可部分についての審査基準となるとは考え難い。
(d) また,控訴人は,平成13年告示第1113号により,国土交通大臣が定める方法による土質試験等によるquが得られていないのであれば,建築基準法施行令93条に示されている硬い粘土質地盤の長期に生ずる力に対する許容応力度(100kN/㎡)を用いる計算によって確認されなければならないと主張する。
しかしながら,建築基準法施行令93条は,原判決を補正の上引用し認定・説示(前記法令の定め)したとおり(前記第2の2(2)),地盤の許容応力度及び基礎杭の許容支持力は,国土交通大臣の定める方法によって地盤調査を行い,その結果に基づいて定めるよう求めているものであり,本件は地盤調査を行い,その結果に基づいて定められているのであるから,同条に違反するところはなく,同条ただし書は,所定の地盤調査結果により得ない場合に,「堅い粘土質地盤」の長期に生ずる力に対する許容応力度の所定数値によることができると定めるにすぎないから,前記のとおり,同施行令93条所定の方法により許容支持力を定めた以上,ただし書による必要はない。
(e) 控訴人は,擁壁8-2(h5.0)については,底面下約10mには粘性土が連続しているから粘性土として計算すべきであるし,互層として計算するならば「層状地盤」としての評価をすべきであるがこれもなされていないと主張する。
しかしながら,上記で述べたとおり,同擁壁の地耐力を砂質土を前提に計算することに合理性を欠くところはない。また,控訴人の主張する「層状地盤」とはどのような場合をいうのか判然としないし,控訴人の引用する関連文献(甲66)では,単に互層である場合に全て層状地盤の鉛直支持力の計算によるべきであると記載しているものではなく,むしろ,「表層が砂,下部層が粘土であり,下部粘土層の影響が懸念される場合」との記載に照らせば,下部粘土層地盤が砂質土地盤より脆弱なために表層砂質土に影響が及ぶ場合をいうものと考えられる。本件のように,下部土層がN値10以上の硬い粘性土地盤が連続する場合には,そもそも下部粘土層が表層砂質土に影響するとは考え難いから,上記文献記載の計算を適用すべき場合には該当しない。
b 擁壁8-2(h5.7)について
(a) 前記によれば,擁壁8-2(h5.7)の擁壁杭基礎先端部は,標高23m付近に位置し,この位置の土層は,土質柱状図によれば「粘土質細砂」であり,記事欄には「φ2~5mm の礫点在/所々中砂を薄く挟む/所々粘土分多量混入」とある土層であり,砂質土と評価した上で地耐力を計算するのは相当である。杭基礎下部から地下へは粘土層が連続しており,N値もいずれも10以上であり,十分な支持層となり得る(乙12)のに加え,杭基礎先端までの全長の最大周面摩擦力の算定に当たっても,途中の粘性土についてはfiをゼロとして算定するなど(乙65),安全側の数値を採用していることが明らかである。
前記(ア)c(b)のとおり,擁壁8-2(h5.7)については,平均N値12.8を用いて地耐力の算定を行っているが,具体的な不整合は見当たらず,最も安全側の数値でもあるから合理的なものであって,基準違反はない。
(b) 控訴人は,杭基礎先端部の支持土層の厚さが薄い場合には,支持土層へのパンチング破壊(支持土層の層厚が薄く,杭に加わる荷重により,杭が支持土層を突き破ること)が考えられるから,支持土層下部の支持力の検討を要すると主張する。
建築基礎構造設計指針(甲71)によれば,パンチング破壊を考慮するのは杭基礎先端部の支持土層の厚さが薄い場合とあるものの,本件では,そのような場合に当てはまるかは不明であり,杭基礎先端部の存する土層自体はN値は36と極めて安定的な数値の「締まっている」層であり,その下部層の「砂質粘土」「砂混じりシルト質粘土」の各相対密度も「非常に硬い」層でN値も17ないし20とされる層が連続しているから(乙12),パンチング破壊を考慮して直ちに別途の評価を行うべき場合に当たるとはいえない。
c 擁壁7-2
控訴人は,原審においては擁壁7-2,同7-3については特に主張していなかったものであるから,時機に後れた主張であるといわなければならないが,仮にそうでなくとも,次のとおり理由がない。
(a) 前記によれば,擁壁7-2基礎底面は,標高38.5mに位置し,この位置の土層は,標高39.36mから38.51mの「粘土質細砂」及び標高38.51mから38.01mの「粘土混じり中砂」の境目部分に位置しているところであり,いずれも砂質土であるから,砂質土を前提に計算することが基準違反とはいえない。
(b) 控訴人は,擁壁7-2の基礎底部の土質につき,誤った評価を前提に地耐力を計算していると主張し,これに副う意見書(甲55)を提出する。
前記のとおり,擁壁7-2については砂質土を前提に地耐力が計算されているが,擁壁7-2は,その基礎底面より下部50cmの支持基盤では比較的「硬い」粘土層が連続しているものの,基礎底面自体は砂質土層に位置しているから,基礎底面の支持層を「砂質土」を前提に地耐力計算をすることが相当でないとはいえない。
(c) 前記(イ)b(d)のとおり,擁壁7-2のN値11は,前記(オ)の方法により算出されたものとして合理的であり,具体的な不整合は見当たらず,基準違反はない。
d 擁壁7-3
(a) 前記によれば,擁壁7-3基礎底面は,土質柱状図(乙12)によれば,同擁壁基礎底部は標高38.5mに位置し,この位置の土層は,標高39.86mから37.61mに位置する「シルト混じり中砂」であるから,砂質土である(なお,その相対密度等は「非常に締まっている」とされ,N値は60であるから,十分支持層となり得るものと認められる。)。
(b) また,同土層は2.25mの層厚があり,必ずしも薄い層とはいえないし,底部の位置より約90cm 下方の土層も「非常に硬い」とされる粘土質及び「締まっている」砂質土が続いているから,これらを勘案すると,基礎底面の支持層を砂質土として地耐力の計算を行うことは相当である。そうすると,粘性土を前提に地盤支持力を算定すべきとの控訴人の主張は採用できない。
(c) 上記(ウ)b(c)のとおり,擁壁7-3のN値20は,前記(オ)の方法により算出されたものとして合理的であり,具体的な不整合は見当たらない。
e 控訴人の主張について
控訴人は,擁壁8-2(h5.7)の擁壁構造計算(乙64)を行うに当たって「粘性土」とされている地層番号3は,その他の擁壁(擁壁8-2(h5.0),擁壁7-2,擁壁7-3)の各底盤が存する支持土層と同一の土層にあるのに,この同一の土層を砂質土と評価して構造計算していることが問題であると主張する。
控訴人の指摘する土層は,上記擁壁8-2(h5.0),擁壁7-2,擁壁7-3の各底盤から約10ないし50cm 下部から地下へと連続する粘土層を指すものと考えられるが,上記にみたとおり,擁壁8-2(h5.0),擁壁7-2,擁壁7-3の支持土層の評価として砂質土とすることは,擁壁底面部の位置する土層の具体的状況及び科学的知見に照らして不合理ではない。また,擁壁8-2(h5.7)の杭基礎構造計算(乙65)に当たっては,この粘土層については,当該杭部分の最大周面摩擦力(fi)を0と評価して安全側に計算しているから不合理ではない。したがって,控訴人の主張は採用できない。
f 小括
以上によれば,擁壁8-2(h5.0),擁壁(h5.7),擁壁7-2,擁壁7-3はいずれも擁壁について定められた基準に合致していると認められる。
ウ 各擁壁の地震時における周辺構造物への影響の検討
控訴人は,被控訴人が地震時における近接する建物による影響は建築物の建築確認において審査されるべきものであり,審査義務がないと主張したのに対し,指定確認検査機関が建築確認申請を審査したとしても,特定行政庁の監督下にある指定確認検査機関が擁壁に関して近接する建物による影響の検討を行っていなければ特定行政庁は是正命令を発することになるから,被控訴人も行政の責任として影響を審査すべきものと主張する。
しかしながら,原判決を引用して判示したとおり,開発許可段階において予定建築物として特定されるのは予定建築物の用途と敷地の形状のみであり,それ以上に予定建築物の内容を特定し,その内容を考慮して開発許可の審査を行うことはそもそも法が予定しておらず,前記のとおり,法33条によれば,開発許可に当たり,審査基準を満たせば許可しなければならないと規定されているから,その余の点を考慮する法的根拠を欠くといわざるを得ない。また,この問題につき,控訴人の提出する甲55の別紙Kとして挙げられた文献においても,擁壁に近接して建築物を設計する場合には,擁壁の設計条件が変わることになるので,改めて建築基準法19条に基づき検討が求められるとしている(同別紙102頁右側該当部分)のであるから,結局建築確認時点の審査対象というべきであり,控訴人の主張するように行政の責任として開発許可申請の局面において問題とすべき法的根拠はない。
(2) 道路に関する基準違反の有無(取消事由の有無2)
ア 控訴人の主張
控訴人は,本件新設道路は,①本件接続道路を認めた第一次開発行為変更許可処分は,道路構造令上の規制値からすれば,接続道路の供用開始後の危険性を考慮しておらず,その安全性に関する事実認定と評価を誤っており,裁量権を逸脱,濫用している,②同道路は,道路勾配の点でも道路構造令上は「やむを得ない」場合にのみ取り得る勾配数値となっており,同道路はこの点でも道路構造令に違反している,③同道路は「第4種道路」であるが,道路構造令上設計速度を20km と設定するのは「第4種道路」のうち「第3級道路」において「やむを得ない」場合のみであり,同道路はこれらの要件に欠ける上,現実的な設定ではないと主張する。
イ 検討
(ア) 本件新設道路,本件開発区域内道路及び本件接続道路について
a 本件新設道路は,本件第一次変更許可申請において関連区域とされた1108.87㎡の区域であり,本件許可後に本件開発区域の北側に設置することとなった幅員9mの道路に係る区域であり,縦断勾配が11%に計画されている(乙18,19,20の2,26)。
b 他方,開発区域に接する既存の市道である本件接続道路(原判決別紙3の黄斜線部分)に,開発区域内に上記道路との接続部分(原判決別紙3の赤斜線部分。本件開発区域内道路)を設け,本件新設道路に接続する(上記原判決別紙3の赤斜線部分の右側〔道路であり,関連区域となっている。〕へと続くことになる。)という計画となっている(乙26)。
(イ) 上記①について
上記(ア)aによれば,本件第一次変更許可処分は,本件新設道路を関連区域として設置するものであり,施行規則20条の2によれば法施行令25条2号ただし書が前提とする開発区域内道路が接続する接続道路を新たに設けるものではなく,接続道路に関する法施行令25条2号及び4号の各要件に関する処分は当初の本件開発許可処分において審査されているから,本件第一次変更許可処分の適否の問題とはならない。
ただし,本件新設道路,本件接続道路,本件区域内道路の各関係に鑑み,念のため,次において,道路構造令に関する主張を検討する。
a 上記②について
原判決を引用して認定・説示したとおり,本件新設道路は,高低差のある既存道路を結ぶものとして設置されるという地形上の特殊性から道路構造令20条ただし書が適用され,やむを得ない場合として,道路勾配も11%とすることが認められるから,控訴人の主張は理由がない。なお,曲線半径についても,同様の理由で上記道路構造令13条1項ただし書の「やむを得ない場合」として設計速度20km とすることが認められるから,道路構造令15条を適用して,設計速度20km を前提として定められた曲線半径は15mであるから,控訴人の主張する違法はない。
b 上記③について
道路構造令13条1項によれば,第4種道路の設計速度上,20kmの設定が可能であるのは第3級道路で「やむを得ない場合」であるが,豊中市道路交通量調査委託報告書(乙61)によれば,幹線道路とされる千里園熊野田線の本件新設道路近傍の交差点における交通量が第2級道路区分相当であることからすれば,本件新設道路の道路区分が第3級道路であることを前提とし,上記やむを得ない場合に該当するとして上記設計速度としたことが道路構造令上不当であるとはいえない。
(3) 小括
以上によれば,本件各処分において,擁壁及び道路につき,各所定の基準違反があるとはいえないから,法33条1項に定めるとおり,開発許可をしなければならないことになる。
4 以上によれば,控訴人の本件各請求は,いずれも理由がないからこれを棄却すべきである。
よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 坂本倫城 裁判官 和久田斉 裁判官 天野智子)