大阪高等裁判所 平成26年(ネ)1905号 判決 2015年9月11日
控訴人
Y協会
同代表者会長
A
同訴訟代理人弁護士
内藤滋
同
鈴木知幸
同
石井妙子
同
宮武泰暁
被控訴人
X
同訴訟代理人弁護士
羽柴修
同
八田直子
同
八木和也
同
瀬川嘉章
同
河村学
同
井上耕史
同
辰巳創史
同
西澤真介
主文
1 原判決主文第1項及び第2項中訴えを却下した部分を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文同旨
第2 事案の概要
(略称は、特記しない限り、原判決の例による。)
1 本件は、控訴人との間において控訴人の放送受信料の集金や放送受信契約の締結等を内容とする有期委託契約(本件契約)を継続して締結してきた被控訴人が、控訴人から本件契約を途中解約されたことについて、本件契約は労働契約であり、上記解約(本件解約)は、労働契約法に基づかない無効な解雇であると主張して、控訴人に対し、労働契約に基づき、労働者としての地位の確認、平成25年1月からの毎月27万5720円の賃金及び各賃金に対する各支払期限の翌日からの商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、不当解雇の不法行為に基づき、慰謝料等330万円の損害賠償金及びこれに対する本件解約の日の翌日である平成24年3月2日からの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は、本件契約は労働契約的性質を有するものであり、本件解約は労働契約法に基づかないなどの理由で無効であるものの、本件契約は平成25年3月31日の経過をもって終了しているとして、地位確認の訴えを確認の利益がないとして却下し、賃金請求を同年1月から同年4月までの分及び年5分の割合による遅延損害金の限度で認容し、その余の請求をいずれも棄却した。このため、敗訴部分を不服とする控訴人が本件控訴を提起した。
2 前提となる事実等、争点及び争点に係る各当事者の主張は、次の3、4のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」の1から3までに記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決8頁13行目から14行目にかけての「本件解雇予告」を「本件解約予告」に改める。
3 当審における控訴人の主張
(1) 本件契約の労働契約性本件契約は労働契約的性質を有するものではなく、被控訴人は、控訴人との関係で労働者に該当しない。
ア 諾否の自由の有無諾否の自由とは、使用者からの具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して諾否の自由があることを意味するものである。指定された業務従事地域内において、いつ、どの世帯等を、どのような経路で訪問するかは、被控訴人の自由裁量に委ねられており、控訴人がスタッフに対して特定の日時における特定の訪問先への個別の契約取次等を具体的に指示することはない。業務従事地域指定の点は、場所的拘束性の有無の問題であり、諾否の自由の問題ではない。
イ 業務遂行上の指揮監督の有無目標を達成するに足りる業務遂行が委託内容そのものであるから、スタッフには控訴人が設定した目標を達成してもらう必要があり、その達成のために一定の稼働を要することも当然である。そのために稼働日数や稼働時間について一定の制約があるとしても、労働契約性を根拠付けることにはならない。業務委託契約の1類型である委任契約においては、受任者の委任者に対する報告義務は契約の本質的な義務とされている。また、わが国の業務委託契約の実務においても、業務遂行の適正かつ確実な実施、業務水準の確保・維持のため、業務水準の測定指標を定め、受託者からの報告等の各種モニタリングの実行により測定指標への到達を確認し、水準不到達の場合は是正通告等の措置をとるものとされている。ナビタンは、他のスタッフや電話受付、ケーブルテレビ等による契約取次や異動の状況を毎日更新して、スタッフが最新のデータで効率的に正確な業務遂行ができるようにすることを目的とするものであり、スタッフの稼働状況を報告させるものではない。特別指導制度は、業績が一定の割合に達しない場合に行われるものであり、スタッフの自力による業績回復を願って一定の自助努力の期間を与える制度である。スタッフが控訴人の助言指導に従わないことを理由に行われるものではなく、委託契約を解約するためのものでもない。
ウ 場所的・時間的拘束性の有無
被控訴人のような契約開発スタッフの「受持区域」は、b放送局営業受持区域の全域であり、4月から始まる1年度を2か月ごとに6期に分け、期ごとに、上記受持区域の中の「業務従事地域」を変更するローテーション制が採用されている。
各期に各スタッフに対して指定される「業務従事地域」は、5000戸から7000戸という多数の業務対象世帯がある広大な地域であり、同地域内において、いつ、どこの世帯等をどのような経路で訪問するかは、当該スタッフの自由裁量に委ねられているから、場所的拘束性が高いとはいえない。
なお、同一地域内で、別のスタッフにも委託業務を担当させることがあり得るとしても、委任契約や請負契約においても排他性・独占性がないことは多く、労働契約性を肯定する要素にはならない。
また、本件委託業務の開始時刻や終了時刻、稼働日数や稼働時間は、当該スタッフの自由裁量に委ねられている。控訴人が設定する各種の一斉稼働デーは、アドバルーン的性格のものであり、実際に稼働しないスタッフも多数おり、それに対し何らのペナルティもないから、本件契約における時間的拘束性は極めて弱い。
エ 報酬の労務対償性
月に1件の実績もなかった場合には、運営基本額は支払われず、月に1件以上の実績があった場合でも、実績と訪問件数に応じて運営基本額の金額が変動するから、基本給とはいえず、金額からしても生活保障的性格はない。事務費は、完全な出来高払といえなくても、仕事の完成に対する報酬や委任事務に対する報酬と考えるのが合理的である。
給付制度についても、具体的な計算方法からすると、実績に対して支払われる性格が維持されており、労働者に対する退職金制度や共済制度とは趣旨や目的が異なる。
オ 代替性の有無
本件契約においては、再委託が自由であり、実際にも再委託を利用している者がいる。
カ 労働契約性についてのその他の事情
本件契約においては、兼業が自由である。また、控訴人がスタッフに交付、貸与している機械・器機は、業務遂行上統一されていることが望ましいものであったり、一般に入手が困難であったり、スタッフの便宜を図るものにすぎず、これによりスタッフの業務遂行を指揮監督命令しているわけではない。さらに、控訴人職員とスタッフとでは、服務規律や社会保険の適用の有無、募集方法や採用条件等の点が明確に区別されており、委託契約が労働契約とは異なることをスタッフは理解して契約している。
(2) 本件解約手続の手続要件
業績不振の状態が長く続き、特別指導の段階が進んだスタッフが契約期間満了となった場合に、一定の具体的な業務改善要望事項を守ることを条件として改めて契約を締結するというときに、具体的な業務改善要望事項を示す手続が予定されているのであって、被控訴人の直前の更新契約は、上記の条件付契約更新ではない。
したがって、本件解約手続に具体的な業務改善要望事項を示したかは関係がない。
4 当審における被控訴人の主張
(1) 本件契約の労働契約性本件契約は労働契約である。
ア 諾否の自由の有無控訴人は、各期における各地域の目標数を一方的に決定し、かつ、各期における各スタッフの受持地域を一方的に決定することにより、各期における各スタッフの目標数を一方的に決定しており、スタッフ側の交渉の余地はなく、諾否の自由はなかった。
控訴人は、ローテーション制を主張するが、それは、業績の極大化という控訴人側の事情によるものであり、業務の性質上当然に必要というわけではない。控訴人が受持地域を一方的に決めることに変わりはなく、スタッフに諾否の自由はない。
イ 業務遂行上の指揮監督の有無
控訴人は、業績が上がらない場合などに稼働日数や稼働時間を増やすようにスタッフに対して求めている。業績が悪いと特別指導の対象となり最終的には解約されたり、他のスタッフが受持地域に投入される可能性があるため、被控訴人らスタッフは控訴人の上記求めに応じざるを得なかった。
控訴人は、控訴人の指定する稼働時間や稼働時間帯等に従ってスタッフに業務計画を立てさせ、執拗にそれに従って稼働することを求めていた。実際にも、その指定に従って稼働しているか電話で確認されることもあった。業務計画表においては、稼働時間帯の記載欄を設定して具体的な計画を立てさせることもあった。
毎稼働日におけるナビタン情報の送信による報告義務や週の初日や中間日における報告義務、これを前提としたアドバイスは、委任や請負とは異質のものである。控訴人は、ナビタンで得た情報に基づいて、スタッフの稼働時間を把握し、その情報に基づいて、スタッフに稼働日や稼働時間について指導していた。
特別指導制度は、実態としては、解約の前段階としてのスタッフへの指導期間という位置づけであり、制裁権限を仄めかした上での具体的な業務遂行方法についての指導である。指導によっても改善がなければ地域削減などの制裁を課し、それでも改善されなければ解約するための制度であり、控訴人が行う助言や要請に強制力を付与する効果を持つ。したがって、特別指導の対象が、指導の不遵守ではなく、業績の悪化であるといっても、労働契約性に影響はない。
ウ 場所的・時間的拘束性の有無
交付された地域以外の業務従事が禁止されるという場所的拘束がある。排他的独占的でなければ、他のスタッフを投入するという脅威にさらされて、控訴人による具体的な稼働方法に関する指導助言を拒むことができなくなる。
控訴人による指定を踏まえての業務計画表の作成、それに従った稼働、控訴人による指導により、時間的な拘束がされていた。
エ 報酬の労務対償性
運営基本額の実態として、99%以上のスタッフに15万円の運営基本額が支給されていたのであるから、基本給ということができ、額からして生活保障給であるといえる。算定に訪問件数が考慮されているということは、労働時間に対応するものであることを示している。
報奨金も完全出来高制ではない。講習事務費は本業に従事できない時間についての補償である。給付制度も、傷病手当金は労災補償金、餞別金は退職金の性格を持ち、手厚い生活保障であるといえる。
オ 代替性の有無
再委託は利用が不便であり、実際にも利用実績が少ない。
カ 労働契約性についてのその他の事情
兼業の自由があるとしても、労働契約性を否定する方向には働かない。機械・機器の貸与は、控訴人側の一方的な事情によるもので、その使用が義務付けられており、指揮命令関係を基礎づける要素となる。
(2) 本件解約手続の手続要件
被控訴人は、平成22年4月と同年10月の契約更新の時点では、特別指導の状態にあったから、控訴人は、更新時に具体的な業務改善要望事項を示す必要があった。これがされていないのは、手続違背である。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、本件契約を労働契約とみることはできず、被控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおりである。
2 労基法上の労働者性を判断するに当たって、昭和60年12月19日付け労働基準法研究会報告を参考とすることには、控訴人(書証<省略>)、被控訴人(書証<省略>)に異論はなく、当裁判所も、これを参照すべきものと判断する。その内容は、原判決「事実及び理由」の第3の1(4)に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 本件契約の法的性質(被控訴人の労働者性)の判断の前提となる事実関係は、原判決「事実及び理由」の第3の2に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決を次のとおり訂正する。
(1) 31頁13行目、24行目及び25行目の「受持区域」の次にいずれも「(業務従事地域)」を加え、同頁14行目冒頭から23行目末尾までを次のとおり改める。
「平成20年9月以前には、スタッフの主な業務として訪問集金があり、被控訴人は、「地域管理Aスタッフ」として、契約期間中、控訴人が指定した受持区域で業務に従事していた。控訴人は、同年10月、訪問集金を廃止し、新たな収納システムを構築するとともに、地域スタッフ体制も改変した。新たな地域スタッフ体制では、大都市圏地域に取次業務を主とする「契約開発スタッフ」を置き、契約開発スタッフには、放送局の営業受持地域の一部に限定する受持区は設定されず、業務従事地域は、2か月を1期として1~3期ごとに変更されることとなった。被控訴人が契約開発スタッフとして契約を取り交わした平成20年10月以降、契約書上、委託業務を行う受持区域は「b放送局営業受持地域の一部」という従前と同じ記載がされたが、固定された特定の地域を指すものではなく、ローテーション制を採用していることを意味することとなった。なお、これらの改変は、あらかじめ、全受労に説明された。
控訴人は、毎期、被控訴人らスタッフに業務従事地域を指定しているが、この指定は控訴人と被控訴人との協議事項には当たらない。(書証<省略>)
業務従事地域は、総世帯数が約1万2000戸から約1万6000戸の単位で区切られ、未契約世帯としては5000戸から7000戸が見込まれていた。(書証<省略>)」
(2) 32頁1行目の末尾に「もっとも、他の契約者に対して重ねて業務従事地域が指定された実績があったかは不明であり、控訴人のe放送局営業推進部専任部長のBは、地域の目標進捗が遅れた場合は、翌期に力量のあるスタッフを当該地域に投入して、リカバーを図る方が効率的であり、こちらを推奨していると陳述している(書証<省略>)。」を加える。
(3) 32頁10行目の「訪問日時」から12行目の「欄はない。)」までを「週間稼働日数、稼働予定日を記載した(前者のみ記載される場合も多い。)業務計画表」に改め、同頁13行目の末尾に、「特別指導期間中には、大まかな稼働時間帯の記載欄が設けられている業務計画表が使われていたが、実際には、同欄は空欄であることが多かった。」を加え、同頁21行目の末尾に次のとおり加える。
「ナビタンの操作の有無からみた被控訴人の実際の1か月の稼働日数は、平成19年4月から平成24年1月までの間で、最少の月が15日、最多の月が25日であって、20日から22日という月が多い。また、上記の期間、ナビタンの操作開始時刻と最終操作時刻から算定した1日の稼働時間は、1時間に足りない日から10時間を超える日まで様々であり、月ごとの1日の平均稼働時間(1か月の合計稼働時間を稼働日数で除したもの)は、2.0時間から7.8時間である。(書証<省略>)
ちなみに、b放送局の契約開発チーム(人数は、20人弱のときから30数人と変動がある。)のスタッフの稼働日数は、平成21年1月から平成24年1月までの間で、1期(2か月)で10日に満たない者や51日稼働した者もいるが、30日台から40日台前半が多い。(書証<省略>)
また、全国のスタッフで平成23年度の年収上位100位という者をみても、月平均の稼働日数は、10.3日から28.7日までとなっており、これらの者の各月の稼働日数も月により異なっている。(書証<省略>)」
(4) 33頁6行目の「送られてきた。」の次に「実際の稼働実態をみると、平成23年度4期の6回あった一斉デーの参加状況は、最低のものが28.3%、最高でも69.6%であり、50%に達しないものが3回であった。」を、同頁9行目の「乙17(書証<省略>)」の次に「31、」をそれぞれ加える。
(5) 33頁12行目の「受持区域」の次にいずれも「(業務従事地域)」を加える。
(6) 33頁23行目から34頁3行目までを削る。
(7) 34頁4行目の「による営業活動の指示」を「の交付」に、6行目の「支給して」から8行目の「する。)」までを「交付した」にそれぞれ改める。
(8) 34頁16行目の「乙19(書証<省略>)」の次に「、原審証人C・52頁」を加える。
(9) 36頁18行目の「支給」を「上記支払」に改める。
(10) 38頁22行目末尾に行を改め次のとおり加える。
「(8)代替性の存在
本件契約による受託業務は、第三者に再委託することができるとされている(甲1~4(書証<省略>)の4条)。実際にも、被控訴人と同種の契約開発スタッフを含め控訴人から委託を受けたスタッフの中には、親族や知人、従業員、公募した第三者に対して再委託した者がおり、再委託届の数は、平成23年12月時点において、全国で82であった。控訴人は、スタッフが再委託した場合、必要に応じて、練習用ナビタンを交付していた。(書証<省略>)」
(11) 38頁23行目の「(8)」を「(9)」に、39頁3行目の「(9)」を「(10)」に、6行目の「(10)」を「(11)」に、11行目の「(11)」を「(12)」にそれぞれ改める。
4 争点(1)(本件契約の法的性質(被控訴人の労働者性))について
(1) 本件契約により、被控訴人は、契約開発スタッフとして、放送受信契約の新規締結や放送受信料の集金等契約上定められた業務を行うことを受託している(引用した原判決「事実及び理由」第2の1(2)、(4))。したがって、その定められた業務内容に関するものである限り、被控訴人が個々の具体的な業務について個別に実施するか否かの選択ができるわけではない。もっとも、これは、包括的な仕事の依頼を受託した以上、契約上、当然のことと解される。本件では、業務の内容からして、控訴人が被控訴人に対し特定の世帯や事業所を選び訪問すべき日や時間を指定して個別の仕事を依頼するなどということは、およそ予定されていないと考えられるから、被控訴人に上記の選択権のないことを本来的な意味の諾否の自由の有無の問題ととらえるのは相当でない。
契約開発スタッフである被控訴人が本件契約による受託業務を行う地域は、控訴人が定期的(4月からの1年度を2か月単位で分けた6期の各期ごと)に指定する地域であるが(引用した原判決「事実及び理由」第3の2(2)。訂正後のもの)、ローテーション制が取られることは、本件契約の内容となっていたことであるから、業務従事地域が替わることをもって、諾否の自由がないということはできない。また、期ごとに達成すべき目標値については、控訴人において決定し、各期の当初に具体的数値として、被控訴人らスタッフに示されることになっており、控訴人と被控訴人との協議によって決められるものではないが、これは、稼働時間に対する拘束性として検討すべきである。
(2) スタッフは、指定された目標値に応じて業務計画表を作成し、控訴人の指定する方法で実績の報告を行っていた(引用した原判決「事実及び理由」第3の2(3)。訂正後のもの)。全体会議においては、特定の日を全員が活動する日とすることや特定の週における稼働日数を5日以上とすること、1日当たり5時間以上活動すること、活動時間帯について、平日は18時から20時台、休日は9時台に活動することなどが記載された書類が配布されたこともあった。(書証<省略>)
しかし、一斉デーの参加率(原判決の上記部分)からも分かるとおり、これらの要請がどれだけスタッフに対し拘束性を持っていたかは判然としない。
控訴人は、業績が芳しくない地域スタッフに対しては、適宜の機会において、その業績不振が、稼働日数・稼働時間の不足や稼働日・稼働時間帯の選択を原因とすると考えた場合、それらの点について控訴人として検討した改善策の内容を説明することがあった。(人証<省略>)
また、スタッフの業績不振の程度が一定のレベルに達した際に実施される特別指導においては、控訴人は、当該スタッフに対し、業績不振の原因に応じて、稼働日や稼働時間、業務の遂行方法などについて具体的な指導を行っていた(引用した原判決「事実及び理由」第3の2(6))。この点、被控訴人は、特別指導は解約の前段階であると主張し、確かに、特別指導によっても業務実績が挙げられなかった場合には、最終的には、契約解約となる可能性がある。しかし、それは、最終的に解約があるというだけで、解約のために特別指導を行っているわけではない。また、被控訴人は、特別指導があるから、控訴人が行う助言や要請に強制力を付与する効果を持つとも主張する。しかし、特別指導は、業績不振が一定のレベルに達したときに行われ、しかも、三つの段階があり、被控訴人の場合をみても、4年半以上も続いていたというのであるから、最終的な解約に至るまでにはかなりの期間があると考えられるのであって、特別指導があることで、通常の場合の助言や要請に強制力が生ずるというのは飛躍といわざるを得ない。
このように、控訴人が被控訴人らスタッフに対して行う稼働日や稼働時間についての具体的な助言指導は、スタッフの業績が不振となった場合に行われるものであり、業績不振となっていないスタッフに対して、控訴人が当該スタッフの稼働日や稼働時間、業務の遂行方法に関する具体的な助言指導を行ったことを認めるに足りる的確な証拠はない。また、上記のような稼働日や稼働時間、業務遂行方法に関する具体的な助言指導にスタッフが従わなかったこと自体につき、控訴人が当該スタッフに対して何らかのペナルティを課したことを認めるに足りる証拠もない。
被控訴人らスタッフが訪問先の情報に関する必要なデータをナビタンに入力するのは、担当地域における契約状況のデータを収集することによって、その後の業務の円滑な遂行に役立てることを主たる目的としていた(人証<省略>)。データは、稼働した日には控訴人に送信されるので、控訴人は、事後的に、被控訴人らスタッフの稼働日数を把握し、また、稼働時間をおおむね把握して、これを分析することもできた。しかし、このデータの活用も、主として、業績不振のスタッフについてその原因を把握するために行われたものと考えられる。
(3) 本件契約上、1か月の稼働日数、1日の稼働時間については何も定められておらず、業務開始時刻や業務終了時刻も定められていない。被控訴人の1か月の稼働日数、1日の稼働時間、b放送局のスタッフの1か月の稼働日数(引用した原判決「事実及び理由」第3の2(3)。訂正後のもの)をみても、1か月の稼働日数や1日の稼働時間は区々であり、各人によって相当幅があり、各スタッフの裁量に任されていることは明らかである。特定の世帯等への訪問を具体的にどの日やどの時間に行うかについても、スタッフの裁量に委ねられている(先の一斉デーについて触れたとおりである。)。
そして、目標値を達成している限りにおいては、業務計画表に記載した月間の稼働日数分働かなくても、何ら控訴人から指導を受けることもない(人証<省略>)。このDについてみると、各月とも目標値を達成しているが、ナビタンのデータ分析(書証<省略>)によれば、平成23年8月から平成24年1月までの間の1か月の稼働日数は、13日から20日の間であり、1日の平均稼働時間(世帯等を訪問したデータからおおむね把握できる稼働時間)は、2.9時間から3.8時間の間となっている。
業績が不振で、その原因が稼働日数や稼働時間又は稼働時間帯に関するものであった場合には、控訴人は、それに関する具体的な指導を行っていたが、その場合でも、スタッフは、その指導に従わずに目標値を達成できるのであれば、目標値の達成にこそ努めるべきであった。
目標値自体は、控訴人が設定するものであるが、このようにみると、稼働時間に対する拘束性は強いものではないというべきである。
また、スタッフの業務従事地域は、各期ごとに控訴人によって指定されており、実際に世帯等を訪問する業務は、指定された地域で行うことになるが、この拘束は、(1)のとおり、契約上予定されたものである。通常の労働契約における配置転換に比べても、その時期及び内容の決定について、控訴人の契約後の裁量の余地は小さいと解される。なお、訪問以外の準備作業や整理作業等、その地域内でなくても実施できる業務もあり、手待時間の待機場所が地域内に指定されているわけでもないので、自らの判断で自宅等から直行や直帰することもできる。
このように、本件契約における場所的・時間的拘束性の程度は低いものというべきである。
(4) 本件契約における事務費は、引用した原判決「事実及び理由」第3の2(7)のとおり、実績に基づいて算定される部分が相当程度あるが、すべてが実績で算定されるわけではない。しかし、実績がOの場合、事務費中の運営基本額が支給されない支給体系になっていることからすれば、いわゆる基本給部分があるとまではいえない。
報酬金や給付も、事務費の額が反映され、出来高払の性格を失っているものではなく、講習事務費は、定額であって本来業務に従事できないことに対する補償給というよりは、講習への参加を促すものとみる方が自然である。
(5) 本件契約で特徴的なことは、再委託が自由であることであり、その利用率はともかく、全国的に利用されており、現にb放送局にいるスタッフにおいても利用されていた(書証<省略>)。しかも、再委託先は、配偶者、親子にとどまらず、公募した第三者まであった。
再委託に疑問を呈するスタッフの意見(書証<省略>)もあるが、このスタッフも再委託制度を利用したことには変わりはなく、再委託制度の有用性は、スタッフが自ら処理することと再委託とをどのように使い分けるかによって左右されるのであり(兼業の自由と相まって、自らの稼働は制限的に行い、第三者を利用することも考えられる。)、一概に決めつけることはできない。
(6) そのほか兼業が許容されており、スタッフに就業規則は適用されず、社会保険の適用もない。
(7) 以上によれば、①本件契約においては、諾否の自由の問題を取り上げるのは相当でなく、②控訴人のスタッフに対する助言指導は、業績の不振を契機として主として稼働日数や稼働時間等についてされるものであり、限定された場面におけるものということができる。③本件契約上、1か月の稼働日数や1日の稼働時間は、スタッフの判断で自由に決めていくことができ、実際の稼働をみても、スタッフにより、時期により様々である。目標値は控訴人が設定するとしても、稼働時間に対する拘束性は強いものとはいえない。場所的拘束性も、訪問対象の世帯等がその地域内にあるというだけで、訪問以外の場面ではその地域内での待機を強いられるわけではない。④本件契約の事務費は、基本給とまではいえず、そのほかの給付も出来高払の性格を失っていない。⑤本件契約においては、第三者への再委託が認められており、実際にも再委託制度を利用している者がいた。⑥兼業は許容され、就業規則や社会保険の適用はない。なお、⑦本件契約による業務を遂行する上で必要な機材等は控訴人によって貸与されている。
このように②から⑥まで、とりわけ、稼働日数や稼働時間が裁量に任されており、時間的な拘束性が相当低く、⑤のとおり、第三者への再委託が認められていることに着目すれば、⑦の事情を総合しても、本件契約が、労働契約的性質を有すると認めることはできない。
(8) 本件契約が労働契約と認められないのであるから、被控訴人の、労働者としての地位の確認を求める請求は理由がないことになる。
また、被控訴人は、本件契約が労働契約と認められなかった場合における契約終了の不当性については争点としないとしているから(原審の平成25年9月26日付け弁論準備手続調書)、本件契約が労働契約であることを前提とする賃金の支払請求及び不当解雇を理由とする慰謝料等の支払請求も理由がないことに帰する。
5 結論
以上によれば、被控訴人の請求はいずれも理由がなく、これを棄却すべきであるから、原判決中これと異なる部分を取り消し、被控訴人の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 江口とし子 裁判官 久保田浩史 裁判官 三島琢)