大阪高等裁判所 平成26年(ネ)584号 判決 2014年12月24日
控訴人
Y労働組合
同代表者
A
同訴訟代理人弁護士
森博行
位田浩
井上健策
被控訴人
有限会社X1(以下「被控訴人X1社」という。)
同代表者代表取締役
X3
被控訴人
株式会社X2(以下「被控訴人X2社」という。)
同代表者代表取締役
B
被控訴人
X3(以下「被控訴人X3」といい、被控訴人3名を併せて「被控訴人ら」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士
竹林竜太郎
久保田興治
主文
1 被控訴人らの請求の減縮及び本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人は、被控訴人X1社に対し、その所属する組合員又は第三者をして、被控訴人X1社が生コンクリートの納入作業を行い、又は行った地点から半径300メートルの範囲内、及び被控訴人X1社と取引関係のある業者の事務所から300メートルの範囲内において、被控訴人X1社又は被控訴人X2社を非難する内容の拡声器を用いた車両による街頭宣伝活動又はシュプレヒコールをさせてはならない。
3 控訴人は、被控訴人X2社に対し、その所属する組合員又は第三者をして、被控訴人X2社が土木建築工事を受注している工事現場から300メートルの範囲内、及び被控訴人X2社と取引関係のある業者の事務所から300メートルの範囲内において、被控訴人X2社又は被控訴人X1社を非難する内容の拡声器を用いた車両による街頭宣伝活動又はシュプレヒコールをさせてはならない。
4 控訴人は、被控訴人X3に対し、その所属する組合員又は第三者をして、被控訴人X3の自宅<省略>の北側門扉の支柱(別紙写真<省略>のもの)の中央の地点から半径300メートルの範囲内において、被控訴人らを非難する内容の拡声器を用いた車両による街頭宣伝活動又はシュプレヒコールをさせてはならない。
5 控訴人は、被控訴人X3に対し、金22万円及びこれに対する平成24年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 控訴人は、被控訴人X1社に対し、金55万円及びこれに対する平成24年3月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 控訴人は、被控訴人X2社に対し、金110万円及びこれに対する平成24年3月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 被控訴人らのその余の請求を棄却する。
9 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを2分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。
10 この判決は、第5ないし7項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記部分につき、被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要等
1 事案の概要及び訴訟の経緯
(1) 被控訴人X1社は、生コンクリートの製造及び販売等を業とする特例有限会社であり、被控訴人X3は、その代表取締役である。
被控訴人X2社(以下、被控訴人X2社と被控訴人X1社を併せて「被控訴人二社」という。)は、土木工事及び建築工事の請負等を業とする株式会社である。
(2) 本件は、被控訴人らが、被控訴人二社の商品納入現場、請負工事現場、取引先又は被控訴人X3の自宅の周辺等における控訴人の組合員又は関係者による街頭宣伝活動(以下「街宣活動」という。)、ビラ配布又はシュプレヒコール(以下、これらを併せて「街宣活動等」という。)によって、被控訴人二社は営業権を侵害され、名誉や社会的信用を毀損され、被控訴人X3は平穏な生活が害され、名誉や社会的信用を毀損されたなどと主張し、控訴人に対し、次のアのとおり、営業権(被控訴人二社)又は人格権(被控訴人X3)に基づき、控訴人の所属組合員又は第三者をして、同ア(ア)aないしc(被控訴人X1社)、同(イ)dないしf(被控訴人X2社)又は同(ウ)g及びh(被控訴人X3)の各行為をさせることの差止めを求めるとともに、次のイのとおり、不法行為に基づく損害賠償請求をする事案である。
なお、差止請求について、被控訴人らは、原審では、被控訴人ら全員との関係で上記aないしhの行為の全て(ただし、街宣活動等を被控訴人らを非難する内容のものに限定しない。)の差止めを求めたが、当審において、被控訴人ごとに差止めを求める行為を特定し、請求を減縮した。
ア 差止請求
(ア) 被控訴人X1社
a 被控訴人X1社が生コンクリートを納入する現場において、同被控訴人が納入作業を行い、又は行った地点から半径300メートルの範囲内で、被控訴人らを非難する内容で、街宣車を使用した街宣活動、拡声器を使用した演説、シュプレヒコール、ビラ配り、工事関係者への声かけをしたり、多人数で滞留したりすること。
b 被控訴人X1社と取引関係にある取引先会社周辺において、被控訴人らを非難する内容で、街宣車を使用した街宣活動、拡声器を使用した演説、シュプレヒコール、ビラ配りをしたり、多人数で滞留したりすること。
c その他上記a、bと同様又はこれらに準ずる方法・態様により、被控訴人X1社の事業活動を威力又は偽計により妨害する一切の行為。
(イ) 被控訴人X2社
d 被控訴人X2社が土木建築工事を受注している工事現場周辺において、被控訴人らを非難する内容で、街宣車を使用した街宣活動、拡声器を使用した演説、シュプレヒコール、ビラ配り、工事関係者への声かけをしたり、多人数で滞留したりすること。
e 被控訴人X2社と取引関係にある取引先会社周辺において、被控訴人らを非難する内容で、街宣車を使用した街宣活動、拡声器を使用した演説、シュプレヒコール、ビラ配りをしたり、多人数で滞留したりすること。
f その他上記d、eと同様又はこれらに準ずる方法・態様により、被控訴人X2社の事業活動を威力又は偽計により妨害する一切の行為
(ウ) 被控訴人X3
g 被控訴人X3の自宅の北側門扉の支柱(別紙<省略>写真のもの。)の中央の地点を中心とした半径300メートルの範囲内の土地において、被控訴人らを非難する内容で、多人数で滞留したり、街宣車を使用した街宣活動、拡声器を使用した演説、シュプレヒコール、ビラ配りをしたりすること。
h その他上記gと同様又はこれらに準ずる方法・態様により被控訴人X3の平穏な生活を妨害する一切の行為
イ 損害賠償請求
(ア) 被控訴人二社
営業権を侵害され、又は名誉・社会的信用が失墜したことによる損害各1000万円及び弁護士費用各100万円の合計各1100万円、並びにこれに対する不法行為の日である平成24年1月12日(被控訴人X1社)又は同年1月16日(被控訴人X2社)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金
(イ) 被控訴人X3
平穏な生活を害され、名誉感情を傷つけられ、名誉を毀損され、近隣住民に対する信用を失墜したことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料500万円及び弁護士費用50万円の合計550万円、並びにこれに対する不法行為の日である平成24年1月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金
(3) 原審が、差止請求(上記(2)アのとおり減縮する前のもの)については、対象を被控訴人らを非難する内容のものに限定して認容し、損害賠償請求については、被控訴人二社の請求につき各330万円及び遅延損害金、被控訴人X3の請求につき110万円及び遅延損害金の限度で認容したため、これを不服とする控訴人が本件控訴をした。
2 前提事実
争いのない事実並びに証拠(後掲のほか、引用に係る原判決掲記のもの)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第2の1(4頁15行目から7頁1行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 4頁16行目から21行目までを以下のとおり改め、24行目の「C」の次に「〔以下「C」という。〕」を加える。
「ア 被控訴人X1社は、生コンクリートの製造及び販売等を業とする特例有限会社であり、その取締役は、被控訴人X3、その夫・B(以下「B」という。)、その子・D(以下「D」という。)であり、代表取締役は被控訴人X3である。
被控訴人X2社は、土木工事及び建築工事の請負等を業とする株式会社であり、その取締役は、B、被控訴人X3、その子・E(以下「E」という。)、D、F(以下「F」という。)であり、代表取締役はBである(書証<省略>)。
イ 被控訴人二社の本店所在地は同一であり、被控訴人X1社には従業員はおらず、その業務は被控訴人X2社の従業員が行っていた(書証<省略>)。
ウ 被控訴人X3は、阪急a駅から約240メートルの距離にある自宅において、B、E及びFと同居していた(書証<省略>)。」
(2) 4頁26行目の「被告」の次に「の組合員又は関係者(以下、控訴人の組合員又は関係者による控訴人の活動としての言動を単に控訴人の言動としていうことがある。)」を加え、同行目の「原告X1社の現場又は取引先」を「被控訴人X1社が生コンクリートを納入している現場(以下「被控訴人X1社の現場」という。)の周辺」と、5頁22行目の「原告X2社の現場又は取引先」を「被控訴人X2社が従事している工事現場(以下「被控訴人X2社の現場」という。)の周辺」とそれぞれ改める。
(3) 6頁15行目及び16行目の各「C」をいずれも「C」と、19行目の「土曜就労拒否等」から20行目の「したものの、」までを「控訴人が不当労働行為と主張するもののうち、①Cが控訴人に加入した後、土曜日の出勤をさせなかったこと、②DがCに対し、控訴人を誹謗中傷する発言を行ったこと、③EがCから控訴人加入の経緯を聞き取りしたことは不当労働行為(不利益取扱い、支配介入)に当たるが、④Cの担当業務を倉庫整理に変更し、かつ具体的な指示もせずに終日倉庫内で過ごすことを余儀なくさせていること、⑤倉庫内に監視カメラを設置したこと、⑥控訴人からの団体交渉の申入れに対する不誠実な対応等については、不当労働行為とは認められず、また、」と改め、21行目の「これに対し、」の次に「控訴人及び被控訴人X2社の双方が再審査を申し立て、」を加え、22行目の「の再審査において、」を「、被控訴人X1社はCの労働組合法上の使用者ではなく、」と、同行目の「主張する行為」を「主張する被控訴人X2社の行為」とそれそれぞれ改め、23行目の「判断をした」の次に「(以下、この申立事件を「別件救済命令申立事件」という。)」を加える。
(4) 6頁25行目から7頁1行目までを以下のとおり改める。
「(6) 控訴人と被控訴人X2社の間では、Cの問題とは別に、平成19年頃から、被控訴人X2社の従業員であった控訴人の組合員4名の処遇や地位を巡っても係争があり、同組合員4名は、平成22年、従業員の地位の確認と賃金の支払を被控訴人X2社に求める訴訟を提起していたところ、第一審(神戸地方裁判所尼崎支部平成22年(ワ)第106号)は控訴人組合員4名の請求を棄却し、控訴審(大阪高等裁判所平成23年(ネ)第2390号)も、平成23年12月21日、控訴人組合員4名の控訴を棄却する判決を言い渡し、同判決は確定した(書証<省略>。以下、この訴訟を「別件地位確認等請求訴訟」という。)。」
(5) 7頁1行目の末尾の次に改行の上、以下のとおり加える。
「(7) 被控訴人らは、平成24年2月21日までに、大阪地方裁判所に対し、控訴人を相手方として第2の1(2)アaないしhの各行為の禁止を求める仮処分命令を申し立て、同裁判所は、同年3月9日、これを認める決定をし、控訴人の異議申立てに対し、同年9月12日、同決定を認可する決定をした(書証<省略>)。
(8) 控訴人は、平成25年1月1日の朝、Dの自宅前において、シュプレヒコールを繰り返すなどした(書証<省略>)。」
3 争点及び争点に関する当事者の主張
争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第2の2(7頁3行目から13頁18行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 7頁3行目の「態様」を「有無」と、4行目の「現場又は取引先」から5行目の末尾までを「現場若しくは取引先の周辺において街宣車を用いて街宣活動を行い、又は取引先を訪問してビラを配布したか。」とそれぞれ改め、8頁3行目から10行目までを以下のとおり改める。
「 控訴人は、上記(ア)ないし(オ)の被控訴人X1社の現場又は取引先の周辺を街宣車で巡回しながら、その拡声装置を用いて、被控訴人X2社が違法行為を行っている会社であり、それが行政により奨励、助長されていると宣伝するなどの街宣活動を行い、また、上記(カ)の被控訴人X1社の取引先を訪問し、被控訴人X2社が不当労働行為を行っている旨等を記載したビラを配布した。」
(2) 8頁13行目の「現場又は取引先」から14行目の末尾までを「現場若しくは取引先の周辺において街宣車を用いて街宣活動を行い、又は取引先を訪問してビラを配布したか。」と、9頁1行目の「コントラクション」を「コンストラクション」とそれぞれ改め、10行目から14行目までを以下のとおり改める。
「 控訴人は、上記(ア)ないし(オ)の被控訴人X2社の現場又は取引先の周辺を街宣車で巡回しながら、前記アと同様の街宣活動を行い、また、上記(カ)の被控訴人X2社の取引先を訪問し、前記アと同様のビラを配布した。」
(3) 原判決9頁17行目から11頁21行目までを以下のとおり改める。
「(2) 控訴人の行為が違法か
ア 被控訴人X1社の現場等の周辺での街宣活動又は取引先へのビラ配布(前提事実(2)及び争点(1)ア。以下「被控訴人X1社関連場所での行為」という。)について
(被控訴人らの主張)
被控訴人X1社は、被控訴人X2社とは別会社であり、被控訴人X2社の従業員に対する労働組合法上の使用者にも当たらない。それにもかかわらず、控訴人は、被控訴人X1社の現場や取引先の周辺において被控訴人X2社を非難する内容の街宣活動を行い、また、被控訴人X1社の取引先を訪問し、被控訴人X2社を非難する内容のビラを配布したものであって、その行為は、被控訴人X1社と被控訴人X2社を一体として攻撃するものである。
被控訴人X1社関連場所での行為は、被控訴人X1社の取引先等に対し、取引を継続すると将来にわたって重大な不利益が取引先等に振りかかるとの害悪を告知して不当に圧力をかけ、取引先等を著しく畏怖、困惑させ、被控訴人X1社との取引を断念させ、被控訴人X1社を破綻させようとするもので違法である。
また、被控訴人X2社の名称が挙げられている以上、被控訴人X2社に対する違法行為でもある。
さらに、被控訴人二社を一体として攻撃するものであり、両社の経営者に対する誹謗中傷も行われていたことからすれば、被控訴人X1社の経営者である被控訴人X3の名誉を毀損する違法行為といえる。
(控訴人の主張)
争う。
被控訴人X1社関連場所での行為は、あくまで被控訴人X2社を対象とするものであり、その場所が被控訴人X1社の現場や取引先の周辺等であったのは、被控訴人二社が関連会社であるため、その現場関係者や取引先に対し、被控訴人X2社の労務姿勢の不当性を訴えかけようとしたにすぎず、被控訴人X1社のことには何ら触れていない。したがって、被控訴人X1社の営業権を侵害したり、名誉・信用を毀損したりするものではない。
また、被控訴人X1社関連場所での行為が被控訴人X3の名誉を毀損する違法行為になることはあり得ない。
イ 被控訴人X2社の現場等の周辺での街宣活動又は取引先へのビラ配布(前提事実(3)及び争点(1)イ。以下「被控訴人X2社関連場所での行為」という。)について
(被控訴人らの主張)
被控訴人X2社関連場所での行為は、被控訴人X2社の現場や取引先の周辺において被控訴人X2社を非難する内容の街宣活動を行い、また、被控訴人X2社の取引先を訪問し、被控訴人X2社を非難する内容のビラを配布したものであって、被控訴人X2社の取引先等に対し、取引を継続すると将来にわたって重大な不利益が取引先等に振りかかるとの害悪を告知して不当に圧力をかけ、取引先等を著しく畏怖、困惑させ、被控訴人X2社との取引を断念させ、被控訴人X2社を破綻させようとするもので違法である。
また、被控訴人X1社関連場所での行為と同様、被控訴人X2社関連場所での行為も被控訴人二社を一体として攻撃するものであるから、被控訴人X1社に対する違法行為となる。
さらに、上記アと同様、被控訴人X3の名誉を毀損する違法行為となる。
(控訴人の主張)
争う。
被控訴人X2社関連場所での行為が、被控訴人X1社や被控訴人X3に対する違法行為にならないことは、上記アのとおりである。
ウ 被控訴人X3の自宅周辺でのシュプレヒコールについて
(被控訴人らの主張)
控訴人は、被控訴人X3の自宅付近である阪急a駅前ロータリーにおいて、元旦早々から20分間にも及ぶシュプレヒコールを行い、「(株)X2」「(有)X1」「住所<省略>」「B社長は4名の従業員を職場に戻せ」等の記載のある横断幕を掲げ、「X2社は人権侵害をやめろ」等の内容を大声で繰り返した。被控訴人X3の自宅は、閑静な住宅街にあり、約150メートルの場所には幼稚園、神社、複数の病院もあって、上記行為は、被控訴人X3やその家族らの平穏な生活を害し、名誉感情や名誉を毀損し、近隣住民に対する信用を失墜させるものであり、被控訴人X3に対する違法行為といえる。
また、上記のとおり横断幕には被控訴人二社の名称が掲げられていたのであるから、被控訴人二社に対する違法行為にもなる。
(控訴人の主張)
争う。
被控訴人X3の自宅周辺での抗議行動(シュプレヒコール)は、被控訴人らが控訴人の違法行為と主張する街宣活動やビラ配布とは無関係に行われたものであり、被控訴人二社に対する違法行為とはいえない。
エ 正当な組合活動等として違法性が阻却されるか
(控訴人の主張)
(ア) 被控訴人二社は、本店所在地が同じであり、それぞれの代表者は夫婦であり、他の役員も親族で構成されているなど、典型的な同属会社である。また、被控訴人X1社には従業員が一人もおらず、被控訴人X1社の全ての業務を、被控訴人X2社の従業員が行っている。
Cは、平成14年に被控訴人X2社に入社し、土木作業や被控訴人X1社の生コン輸送等業務に従事していたところ、被控訴人X2社及び被控訴人X1社は、Cが控訴人に加入し、控訴人から団交申入れを受けた後、Cを生コン関係の業務から外す、土曜日に出勤させない、断交申入れに誠実に対応しないなど、不当労働行為を行うようになった。そして、平成23年2月28日、大阪府労働委員会が、被控訴人X2社の行為の一部が不当労働行為に当たると認定し、救済命令を発したにもかかわらず、被控訴人X2社は、不当労働行為を是正せず、また、同年12月までに、豊中市が施工する公共工事の下請に参加していることが判明したので、控訴人は、それを市民に訴え、世論を喚起して上記不当労働行為の是正を求めていくことを目的に、平成24年1月から街宣車による街宣活動を開始した。
(イ) 労働組合の組合活動としての表現行為、宣伝行動によって使用者の名誉や信用が毀損された場合であっても、当該表現行為、宣伝行動において摘示されたり、その前提とされた事実が真実であると証明されたりした場合はもとより、真実と信じるについて相当の理由がある場合においても、それが労働組合の活動として公共性を失わない限り、違法性は阻却される。
本件で被控訴人らが不法行為に当たると主張する控訴人の街宣活動等(以下「本件街宣活動等」という。)の目的は、被控訴人X2社が行った不当労働行為の是正を求めることにあり、不当労働行為を是正しない企業が公共工事に参入しているという事実は「公共の利害に関する事実」に該当し、また、世論を喚起して不当労働行為の是正を求めるという目的は「専ら公益を図る目的」に該当する。そして、①Cが平成20年11月に控訴人に加入したこと、②その後、Cが被控訴人X2社から不利益取扱いを受け、適応障害を発症し、通院するようになったこと、③これに対し、控訴人は大阪府労働委員会に不当労働行為救済申立てを行い、同委員会は不利益取扱いと支配介入につき不当労働行為と認め、救済命令を発したこと、④ところが、被控訴人X2社は不当労働行為を是正するどころか、平成23年秋には豊中市発注の公共工事に孫請けとして参入していることが判明したことは、いずれも真実である。なお、⑤行政は違法企業と認定された業者を公共工事に参入させることが禁止されている旨の事実は真実ではないが、大阪府の場合、工事業者等が「業務に関し、各種法令に違反し、監督官庁から処分を受け」たときは公共工事への入札参加停止措置を受けるところ、労働委員会の救済命令は「監督官庁」の「処分」に当たり、全く根拠のない内容ではなく、控訴人が上記のように理解したことには相当の理由がある。
(ウ) また、労働組合が行う使用者批判の言論活動は、組合活動の一環として行われたものであり、当該表現行為、宣伝行動の必要性、相当性、動機、態様、影響など一切の事情を考慮し、その結果、当該表現行為、宣伝行動が正当な労働組合活動として社会通念上許容された範囲内のものであると判断される場合には、違法性が阻却される。
原判決が認定する20回以上の街宣活動は、それぞれ別個の場所で、時間にして各10~30分程度、あらかじめ用意した原稿を周囲の者が聞き取れる音量で、ゆっくり丁寧に行っており、そのような方法・態様が違法評価の要素になるとは考えられない。労使紛争が第三者機関で争われているからといって、団体行動としての組合活動ができなくなるわけでもない。
したがって、本件街宣活動等については、労働組合活動としての正当性も認められる。
(被控訴人らの主張)
(ア) 本件街宣活動等は、控訴人の「争議対策部」の指示に基づき、被控訴人二社の現場を狙って行われたものであり、公益目的があるとはいえない。
また、中央労働委員会によって被控訴人X2社に不当労働行為はなかったと判断されているし、そもそも本件街宣活動等では、大阪府労働委員会が不当労働行為と認定していないこと(Cが倉庫内にいることを余儀なくされていること)も不当労働行為と認定されたかのように偽って喧伝をしており、真実とはいえないし、真実と信じるにつき相当の理由があったともいえない。
(イ) 被控訴人X1社は、被控訴人X2社とは別会社であり、被控訴人X2社の従業員に対する労働組合法上の使用者にも当たらない。したがって、控訴人が、被控訴人X2社の労務問題を理由に、被控訴人X1社に対して街宣活動等をすることは、組合活動として正当性がない。
また、本件街宣活動等は、平和的説得の範囲を逸脱しており、既に被控訴人二社と控訴人の労務紛争については不当労働行為救済命令申立事件や訴訟が係属していたのであるから、このような手段・態様で組合活動を行う必要性はなく、組合活動として正当性がない。
さらに、会社経営者の私宅及び私宅付近において行われる組合の街宣活動等については、個人の私生活、さらには労使問題と無関係の家族や近隣住民の私生活の平穏を踏みにじるものであるときは、正当な組合活動として評価できず、被控訴人X3の自宅付近におけるシュプレヒコールはこれに当たる。」
(4) 原判決13頁18行目の次に改行の上、以下のとおり加える。
「 仮に本件街宣活動等が違法であるとしても、被控訴人二社が取引先から契約を解除されて損害を被った事実はなく、営業上の損失や減収が生じたことの立証はない。被控訴人らに損害が生じたとしても、無形の損害にすぎず、被控訴人X2社には、大阪府労働委員会の救済命令を履行しようとしなかったという落ち度が認められることなどを考慮すれば、原判決が認定した各300万円という損害は過大である。
阪急a駅前ロータリーでのシュプレヒコールは、被控訴人X2社の代表者であるBに対する抗議を目的として、その自宅から240mも離れた場所で、1回だけ約20分間行われたものであり、少なくともその内容までが自宅の中で聞こえたとは思われず、被控訴人X3の私生活の平穏が害されたとしてもごくわずかにすぎないから、原判決が認定した100万円という損害は過大である。」
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(業務妨害行為の有無)について
当裁判所は、争点(1)アについて、控訴人は、同(ア)、(イ)、(エ)及び(オ)記載の日時に同記載の場所周辺において街宣車を用いて街宣活動を行い、同(カ)記載の日時に同記載の取引先を訪問してビラを配布したものと認め、争点(1)イについては、控訴人は、同(エ)及び(オ)記載の日時に同記載の場所周辺において街宣車を用いて街宣活動を行い、同(カ)記載の日時に同記載の取引先を訪問してビラを配布したものと認める。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第3の1及び2(13頁20行目から18頁8行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 13頁20、21行目を「1 争点(1)ア(控訴人は、次の①ないし⑤のとおり、被控訴人X1社の現場若しくは取引先の周辺において街宣車を用いて街宣活動を行い、次の⑥のとおり、取引先を訪問してビラを配布したか。)について」とそれぞれ改め、14頁18行目の「7、」を削り、20、21行目の「上記①、②、④ないし⑥の各事実」を「上記①、②、④及び⑤記載の日時に同記載の場所周辺において街宣車を用いて街宣活動を行い、上記⑥記載の日時に同記載の取引先を訪問してビラを配布した事実」と、22行目の「原告は、」を「被控訴人らは、」と、23行目の「証人Gは、」を「原審証人G(控訴人の組合員。以下「G」ともいう。)は、」とそれぞれ改める。
(2) 16頁4、5行目を「2 争点(1)イ(控訴人は、次の①ないし⑤のとおり、被控訴人X2社の現場若しくは取引先の周辺において街宣車を用いて街宣活動を行い、次の⑥のとおり、取引先を訪問してビラを配布したか。)について」と改め、26行目の「7、」を削り、17頁2行目の「上記③ないし⑥の各事実」を「上記④及び⑤の日時に各記載の場所において街宣車を用いて街宣活動をし、上記⑥の日時に同記載の取引先を訪問してビラを配布した事実」と、4行目及び15行目の各「原告は」をいずれも「被控訴人らは」と、24、25行目を「(ウ) さらに、被控訴人らは、上記③の日時場所においても控訴人による街宣活動が行われたと主張し、Eは、当時現場にいた者からその旨の連絡を受けたと供述するが、これに関するGの陳述書(書証<省略>)の記載及び同陳述書添付の別紙③<省略>写真(平成24年2月22日午後1時43分及び午後1時51分に兵庫県尼崎市内を走行中の車内から撮影したもの。)の存在に照らし、上記街宣活動の事実を推認することはできない。」と、26行目の「(イ)」を「イ(ア)」と、18行目1行目の「コントラクション」を「コンストラクション」と、4行目の「(ウ)」を「(イ)」と、6行目から8行目までを「(ウ) 上記⑥の日時場所におけるビラ配布の事実が認められることは、前記1(2)イ(オ)のとおりである(株式会社b〔以下「b社」という。〕は、被控訴人二社の共通の取引先である〔人証<省略>〕。)。」とそれぞれ改める。
2 争点(2)(控訴人の行為が違法か)について
(1) 街宣活動等の具体的態様について
ア 前提事実及び前記1の認定のとおり、控訴人は、平成24年1月12日から同年3月2日までの間、被控訴人X1社の生コンクリート納入現場、被控訴人X2社の請負工事現場又は被控訴人二社の取引先の周辺において、合計16回にわたり街宣活動を行ったものであるところ、証拠<省略>によれば、その態様はいずれもほぼ同様であり、10~30分間にわたり、上記現場や取引先の前を含むルートで周辺道路を街宣車で周回しながら、拡声器を用いて、がなり立てるものではないものの、周囲の者が聞き取れる程度の音量、速度で、おおむね次の内容(以下「本件告知内容」という。)を繰り返し述べるものであったことが認められる。
① 被控訴人X2社は、控訴人に加入した従業員に対し、仕事を取り上げて倉庫での終日待機を命じたり、孤立させたりする嫌がらせをし、そのため同従業員は、適応障害を発症して通院を余儀なくされたこと。
② 被控訴人X2社は、大阪府労働委員会から不当労働行為の認定を受けたが、その後も不当労働行為を続けていること。
③ 被控訴人X2社は、豊中市の公共工事に孫請けとして参入しているが、違法行為をしていると認定された業者を公共工事に参入させることは禁止されており、豊中市の行政に問題があること。
イ また、前記認定事実に加え、証拠<省略>によれば、控訴人は、本件に関する仮処分決定後である平成24年7月11日午前中に、控訴人二社の共通の取引先であるb社を訪問してビラを配布したが、同ビラ(以下「本件ビラ」という。)には、「解決に向けた話し合いも平行線」「行政指導の報復?」との見出しの下、被控訴人X2社の工場の写真が掲載されるとともに、おおむね次の内容の記載があったことが認められる。
① 被控訴人X2社が控訴人に加入した組合員に数々の嫌がらせを行っており、そのうち土曜日の出勤をさせなかったこと、役員が控訴人を誹謗中傷する発言を行ったこと、控訴人加入の経緯を聞き取りしたことについて不当労働行為(不利益取扱い、支配介入)と認定を受けたこと。
② その他にも、被控訴人X2社が従業員に仕事を与えず、終日監視カメラを設置した倉庫に待機させて精神的に圧力を加え、そのために従業員は適応障害を発症したこと。
③ 被控訴人X2社は、上記従業員の病状が回復した後も、難癖をつけてその職場復帰を拒んでいること。
ウ さらに、前提事実に加え、証拠<省略>によれば、被控訴人X3の自宅は阪急a駅から約240mの距離の住宅街にあり、平成24年1月1日午前8時頃、通行人や車両が往来もある同駅前ロータリーに被控訴人の組合員ら関係者約20人が集まり、「(株)X2」(なお、その横に『(有)X1』との記載もあったが、その部分はシュプレヒコールが始まる前にガムテープで覆われた。)、「住所<省略>」「B社長は4名の従業員を職場に戻せ!」などと記載された横断幕を掲げた上、被控訴人X3の自宅のある方向に向けて、「X2社は不当労働行為をやめろ。」、「X2社は組合員の生活権を破壊するな。」、「X2社は人権侵害をやめろ。」などと被控訴人X3の自宅方向に向かって大声で繰り返し訴えるシュプレヒコールを約20分間行ったことが認められる。
(2) 被控訴人X1社関連場所での行為のうち、街宣活動について
ア 被控訴人X1社関連場所での行為のうち、街宣活動は、平成24年1月12日から同年3月2日までの間、被控訴人X1社の生コンクリート納入現場5箇所(うち2箇所は各1回、3箇所は各2回)及び取引先1社(1回)の周辺において、9回にわたり、いずれも本件告知内容を喧伝したというものである。
イ 前認定のとおり、本件告知内容は、大要、被控訴人X2社が控訴人の組合員である従業員を不当に扱っており、大阪府労働委員会から不当労働行為の認定を受けたにもかかわらず、その後も同様の行為を続けており、本来であれば禁止されているはずの公共事業にも参入している旨の事実の摘示するものであるから、被控訴人X2社の社会的評価を低下させ、その名誉や社会的信用を傷つけるものといえる。また、前認定の態様や上記の頻度等(なお、被控訴人X2社関連場所での行為も含めれば、約1か月半の間に16回にも及ぶ。)を考慮すると、被控訴人X2社の取引先をして、被控訴人X2社との取引を行うとそのような街宣活動が行われ、周辺住民や他の取引先との関係が悪化するなどの影響が生じかねないものと危惧させる結果、被控訴人X2社との取引やその継続を躊躇させるものといえ、被控訴人X2社の営業を妨害するものといえる。
ウ 被控訴人らは、上記アの街宣活動は被控訴人二社を一体として攻撃するものであり、被控訴人X1社に対する違法行為にも当たると主張するところ、確かに、控訴人は、別件救済命令申立事件において、被控訴人X1社もCに対する労働組合法上の使用者に当たると主張しており、被控訴人X2社の現場や取引先の周辺だけではなく、被控訴人X1社の現場や取引先の周辺においても街宣活動を行った意図は、被控訴人X1社もその批判の対象とする点にあったことがうかがわれる。
しかし、被控訴人二社はあくまで別法人であり、本件告知内容は、そのうち被控訴人X2社のみを対象として批判するものであり、何ら被控訴人X1社に言及するものではないから、被控訴人X1社の社会的評価を低下させるものとは認められない。
もっとも、被控訴人二社はいずれもその商号に「○○」が含まれていることに加え、前提事実のとおり、両社の取締役はBの家族で占められており、特にB、被控訴人X3及びDは両者の取締役を兼任し、本店所在地も業務に従事する従業員も共通であって、少なくとも外部的には、人的・物的基盤を同じにする密接な関連会社と認識されていたものと認められ、現に、Dの供述及び陳述書(書証<省略>)によれば、本件告知内容を聞いた被控訴人X1社の取引先が、被控訴人X1社と被控訴人X2社を区別することなく、被控訴人X1社との取引の解消を示唆したことが認められる。
そうすると、前認定の態様や上記の頻度等(約1か月半の間に9回、うち3箇所は2回)も考慮すると、被控訴人X1社の関係する現場や取引先の周辺において本件告知内容を喧伝する街宣活動を行うことは、被控訴人X1社の取引先をして、被控訴人X1社との取引が継続する限り、そのような街宣活動が執拗に繰り返され、周辺住民や他の取引先との関係悪化等の影響が生じかねないものと危惧させる結果、被控訴人X1社との取引の継続や新規取引を躊躇させるものといえ、被控訴人X1社の営業を妨害するものといえる。
エ また、本件告知内容は、被控訴人X2社を批判するものであり、必然的にその経営陣に対する批判を含むことにはなるが、前認定の内容に照らし、取締役等の経営者個人を殊更に攻撃するものとまではいえないから、被控訴人X3の名誉を毀損するものとはいえない。
(3) 被控訴人X2社関連場所での行為のうち、街宣活動について
ア 被控訴人X2社関連場所での行為のうち、街宣活動は、平成24年1月16日から同年3月2日までの間、被控訴人X2社の請負工事現場2箇所(各2回及び3回)及び取引先2社(各1回)の周辺において、7回にわたり、いずれも本件告知内容を喧伝する街宣活動を行ったというものであり、上記(2)イのとおり、被控訴人X2社の社会的評価を低下させ、その名誉や社会的信用を傷つけるとともに、被控訴人X2社の取引先をして、被控訴人X2社との取引が継続する限り、そのような街宣活動が執拗に繰り返され、周辺住民や他の取引先との関係が悪化するなどの影響が生じかねないものと危惧させる結果、被控訴人X2社との取引の継続や新規取引を躊躇させるものといえ、被控訴人X2社の営業を妨害するものといえる。
イ 他方、上記(2)ウのとおり、本件告知内容は、何ら被控訴人X1社に言及するものではないから、被控訴人X1社の社会的評価を低下させるものとはいえない。
また、被控訴人X2社の現場や取引先の周辺において行われたものであるから、それ自体が直接に、被控訴人X1社の取引先をして被控訴人X1社との取引を躊躇させるものとはいえず、被控訴人X1社の営業を妨害するものとはいえない。
ウ さらに、上記(2)エのとおり、被控訴人X3の名誉を毀損するものとはいえない。
(4) b社に対する訪問・ビラ配布について
ア 前認定のとおり、控訴人は、平成24年7月11日、被控訴人二社の共通する取引先であるb社を訪問し、本件ビラを配布した。
イ 本件ビラの記載は、大要、被控訴人X2社が、大阪府労働委員会から不当労働行為の認定を受けた行為のほかにも従業員に対する嫌がらせを行っており、そのような不当な扱いによって適応障害を発症した同従業員の病状が回復した後の職場復帰を拒否している旨の事実を摘示するものであるから、これを被控訴人X2社の取引先に配布することは、被控訴人X2社の社会的評価を低下させ、その名誉や社会的信用を害するものといえる。
しかし、ビラ配布については、前認定以外の具体的な態様は明らかではないものの、その回数が1回にすぎず、b社の営業自体に対する影響はほとんどないと考えられることに加え、被控訴人X2社としては、本件ビラの記載に関し、b社に対して反論や経緯の説明をすることが可能であることからすると、b社をして、被控訴人X2社との取引を躊躇させるものとまではいえず、被控訴人X2社の営業を妨害するものとはいえない。
ウ 他方、本件ビラの記載は、何ら被控訴人X1社に言及するものではないから、同被控訴人の社会的評価を低下させるものとはいえない。
また、b社は被控訴人X1社の取引先でもあったとはいえ、ビラ配布の回数が1回にすぎず、b社の営業自体に対する影響はほとんどないと考えられることに加え、被控訴人X1社と被控訴人X2社はあくまで別法人であり、被控訴人X1社としては、その旨をb社に説明することが可能であることからすると、b社をして、被控訴人X1社との取引を躊躇させるものとまではいえず、被控訴人X1社の営業を妨害するものとはいえない。
エ さらに、上記(2)エのとおり、被控訴人X3の名誉を毀損するものとはいえない。
(5) 阪急a駅前ロータリーにおけるシュプレヒコールについて
ア 前認定のとおり、控訴人の組合員ら関係者約20名は、平成24年1月1日午前8時ころから約20分間にわたり、被控訴人X3の自宅から約240mの距離にある阪急a駅前のロータリーにおいて、被控訴人X3の自宅に向けてシュプレヒコールをした。
イ 前認定のとおり、シュプレヒコールの内容は、「X2社は不当労働行為をやめろ。」「X2社は組合員の生活権を破壊するな。」「X2社は人権侵害をやめろ。」などというものであり、その際に掲げられた横断幕には、「B社長は4名の従業員を職場に戻せ!」「(株)X2」等と記載されたものであるから、上記アの行為は、被控訴人X2社が不当労働行為や人権侵害を行っていることを喧伝するものといえ、被控訴人X2社の社会的評価を低下させるものといえる。
ウ また、公共交通機関の駅前のロータリーであるとはいえ、元日の朝、約20分間にわたりシュプレヒコールを繰り返したことは、同駅のすぐ近くから被控訴人X3の自宅まで住宅街が続いていること(書証<省略>)も考慮すると、周辺地域の平穏を害するものといえ、これにより被控訴人X3も、周辺住民の1人として、またその原因となった被控訴人X2社やBの関係者として、その生活の平穏が害されたといえる。
エ しかし、上記横断幕には「(有)X1」との記載があったものの、シュプレヒコールの開始前には同記載はテープで覆われて見えないようにされており、シュプレヒコールの内容も、被控訴人X3個人や被控訴人X1社に関する直接的な言及はないから、上記アの行為は、専ら被控訴人X2社やその代表取締役であるBに対する批判や糾弾を目的としたものと認められ、被控訴人X3が被控訴人X2社の取締役であり、Bの妻であることを考慮しても、被控訴人X1社や被控訴人X3個人の社会的評価を低下させるものとはいえない。
(6) 正当な組合活動等として違法性が阻却されるか
ア 労働組合である控訴人が組合員のためにする組合活動については、それが使用者等の権利や法律上保護される利益を侵害するものであっても、その目的、必要性、態様、使用者に与える影響その他の事情を総合考慮し、社会通念上相当と認められる正当な範囲内のものである限り、違法性を欠くというべきである。そして、この場合、その行為が使用者等の社会的評価を低下させる内容の表現行為であるときには、当該表現行為において摘示され、又はその前提とされた事実が真実であるか、真実と信じたことにつき相当の理由(以下「真実相当性」という。)があるか否かも、重要な要素になるものと解される。
イ 街宣活動について
(ア) 被控訴人X2社との関係
控訴人は、上記(2)及び(3)の街宣活動について、被控訴人X2社が、別件救済命令申立事件において、平成23年2月28日、大阪府労働委員会から不当労働行為の認定を受けたにもかかわらず、これを是正しようとしないばかりか、同年12月までには豊中市発注の公共工事に参入していることが判明したため、そのような事実を市民に訴えて世論を喚起し、被控訴人X2社に対し、不当労働行為の是正を求めることを目的とするものであった旨主張する。
しかし、その態様は、前認定のとおり、10~30分の間、街宣車で周辺道路を巡回し、拡声器を使い、がなり立てるものではないとはいえ、本件告知内容を繰り返し喧伝するというものであって、必ずしも平穏とはいえない。
また、本件告知内容は、被控訴人X2社が大阪府労働委員会から不当労働行為の認定を受けたという限りでは真実であるが、その対象が、仕事を取り上げて倉庫での終日待機を命じたり、孤立させたりした嫌がらせをした行為であるとする点は真実ではないし、不当労働行為の認定後もそれを継続しているとの点も、少なくともその真実性や真実相当性を認めるに足りる証拠はない。むしろ、不当労働行為と認定された行為として、実際に認定された土曜出勤の拒否等ではなく、仕事を取り上げて倉庫での終日待機を命じたなどの認定されていない行為をあえて摘示していることは、一般的には後者の方がより悪質と受け止められる可能性の大きいものであることにも鑑みると、被控訴人X2社を殊更に貶めようとする意図をうかがわせるものといえる。
そして、このような態様や本件告知内容に加え、街宣活動が開始された時期が、大阪府労働委員会の命令から約8か月も経過した平成24年1月であり、むしろ別件地位確認等請求訴訟において控訴人組合員ら敗訴の控訴審判決が言い渡された平成23年12月21日の直後であること、他方、控訴人において平成23年12月までに被控訴人X2社が豊中市発注の公共工事に参入していることを知ったことを認めるに足りる的確な証拠はないこと、街宣活動が、c作業所周辺では平成24年1月16日及び同月19日の2回、d作業所周辺では同月26日、同月30日及び同年2月2日の3回など、同一現場において連続して行われていることも考慮すると、その目的は、被控訴人X2社に対する大阪府労働委員会の命令の存在や公共工事の参入の事実を市民に訴えて世論を喚起するという控訴人の主張するようなものではなく、単に、別件地位確認等請求訴訟において控訴人組合員ら敗訴の控訴審判決が言い渡されたことを受けて、被控訴人X2社の名誉や社会的信用を貶めるとともに、その取引先に対して執拗な嫌がらせを行うことによって営業を妨害すること自体にあるものと認めるのが相当であり、これにより被控訴人X2社やその取引先に生じた業務上の支障も軽視できるものではない。
以上を総合すると、上記街宣活動については、被控訴人X2社との関係においても正当な範囲内の組合活動であるとは認められず、その違法性は阻却されないというべきであって、他にこの判断を覆すに足りる証拠はない。
(イ) 被控訴人X1社との関係
労働組合の組合活動であっても、組合員の使用者ではなく、殊更にその関連会社や取引先等の第三者を標的としてその権利や法律上保護される利益を侵害するものは、原則として社会通念上相当と認められる正当な範囲内の組合活動とはいえず、違法性が阻却されることはないというべきである。
前提事実のほか、Dの供述によれば、控訴人は、大阪府労働委員会が、Cとの関係での被控訴人X1社の使用者性を否定したにもかかわらず(なお、Gも、大阪府労働委員会の命令を意識して、街宣の内容に被控訴人X1社は含めなかった旨供述している。)、生コンクリートミキサー車を追尾するなどして特定した被控訴人X1社の納入現場や取引先において街宣活動を行ったことが認められるから、同街宣活動は、殊更に被控訴人X1社を標的としたものということができる。
したがって、上記街宣活動については、被控訴人X1社との関係においても正当な範囲内の組合活動であるとは認められず、その違法性は阻却されないというべきであって、他にこの判断を覆すに足りる証拠はない。
ウ ビラ配布について
本件ビラの記載は、被控訴人X2社が組合員に仕事を与えず、終日監視カメラを設置した倉庫で待機させたとする点や、適応障害の症状の回復した従業員の職場復帰を難癖をつけて拒んでいるとする点において、その真実性又は真実相当性を認めるに足りる証拠はない。
しかし、大阪府労働委員会による不当労働行為の認定やその対象行為に関する事実摘示は正確であること、前記のとおり、そもそも前認定以外の具体的なビラ配布の態様は明らかでないことに加え、回数が1回にすぎず、被控訴人X2社やその取引先の営業を妨害するものともいえないこと、被控訴人X2社としては、直接取引先に対して反論や経緯の説明をすることが可能性であることも考慮すると、正当な範囲内の組合活動ということができ、違法性が阻却されるというべきである。
エ 阪急a駅前ロータリーにおけるシュプレヒコールについて
労使関係の問題は基本的には労使関係の場(領域)で解決されるべきであり、労働組合の組合活動であっても、使用者の経営者等の私宅やその周辺等の私生活の領域に立ち入り、その平穏を害する行為は、原則として社会通念上相当と認められる正当な範囲内の組合活動とはいえず、違法性が阻却されることはないというべきである。
控訴人によるシュプレヒコールは、被控訴人X3の自宅から約240mという相当程度離れた距離で行われており、その内容も攻撃的・扇情的であったり、侮辱的であったりするものではないものの、横断幕の記載等に照らし、その目的は、別件地位確認等請求訴訟において控訴人組合員ら敗訴の控訴審判決が言い渡されたことを受けて、被控訴人X2社やBに対して嫌がらせを行い、その社会的評価を低下させること自体にあったものともうかがわれ、少なくとも、元日の朝という特に生活の平穏を尊重すべき日時においてこれを行うべき必要性は認められない。
これらを総合考慮すると、正当な範囲内の組合活動であるとは認められず、その違法性は阻却されないというべきであって、他にこの判断を覆すに足りる証拠はない。
3 争点(3)(差止めの必要性)について
前提事実に加え、証拠(書証<省略>)によれば、控訴人は、本件以前にも、街宣活動やシュプレヒコール等に関し、被控訴人二社を含む控訴人の組合員の使用者の申立てに係る差止仮処分決定を受けたことがあり、本件に関しても、被控訴人らの申立てによる仮処分命令に違反してb社に対するビラ配布を行ったほか、Dの自宅前でシュプレヒコールを行っており、加えて、前認定のとおり、本件街宣行為等は、Cの労務問題のみならず、別件地位確認等請求訴訟における控訴人組合員ら敗訴の判決もその一因となっていることが認められ、控訴人が今後もこれを継続するおそれは大きいものと認められる。
そして、一般に、企業においていったん名誉、社会的信用が失墜したり、その取引先を喪失したりした場合の損害は回復が困難なものであるといえるし、住宅街において喧噪をもたらし、その平穏を違法に害するような行為については、その継続が懸念される限り、原則としてこれを差し止めるべき必要性はあるというべきである。
そうすると、本件において違法性が認められる街宣行為やシュプレヒコールについては、その差止を認めるのが相当である。
しかし、本件において違法性の認められない行為や本件街宣行為等に準じる行為については、従前の控訴人の言動を考慮しても、本件において差止を認めることは相当でないというべきである。
その他、控訴人の主張及び被控訴人らが差止めを求める範囲も踏まえると、被控訴人らの事前差止請求は、本判決主文第2ないし4項の限度で理由がある。
4 争点(4)(損害の有無及び損害額)について
(1) 前認定のとおり、被控訴人X1社は、控訴人の街宣活動によってその営業権を侵害されたものであるが、その回数や内容等のほか、具体的な損害の発生に関する的確な証拠もないことにも照らすと、その損害は50万円と認めるのが相当であり、これに弁護士費用5万円を加えた55万円を損害と認める。
なお、上記街宣活動はその全体が被控訴人X1社に対する不法行為を構成するものであるから、遅延損害金の起算日は、最終の街宣活動の日である平成24年3月2日と認めるのが相当である。
(2) 前認定のとおり、被控訴人X2社は、控訴人の街宣活動によってその営業権を侵害されたほか、名誉や社会的信用を害されたものであるが、その回数や内容等のほか、具体的な損害の発生に関する的確な証拠もないことなど照らし、その損害は100万円と認めるのが相当であり、これに弁護士費用10万円を加えた110万円を損害と認める。
なお、上記街宣活動はその全体が被控訴人X2社に対する不法行為を構成するものであるから、遅延損害金の起算日は、最終の街宣活動の日である平成24年3月2日と認めるのが相当である。
(3) 前認定のとおり、被控訴人X3は、控訴人のシュプレヒコールによって平穏な生活を害されたものであるが、その態様等に照らし、損害は20万円と認めるのが相当であり、これに弁護士費用2万円を加えた22万円を損害と認める。
5 以上の次第で、被控訴人らの請求は、主文の限度で理由があり、その余は理由がないから棄却すべきところ、これと一部異なる原判決は相当でないから上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する
(裁判長裁判官 水上敏 裁判官 内山梨枝子 裁判官 山田兼司)
(別紙省略)