大阪高等裁判所 平成26年(ネ)812号 判決 2014年10月07日
控訴人(被告)
学校法人Y
同代表者理事
A
同訴訟代理人弁護士
俵正市
同
小川洋一
同
井川一裕
同
植村礼大
同
小國隆輔
同
多田真央
被控訴人(原告)
X
同訴訟代理人弁護士
森博行
同
小谷成美
同
北口正幸
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要
1 本件は、控訴人が経営するa大学の教授であった被控訴人が、次年度に担当する授業科目がなく、従事する職務がないことを理由として、控訴人から平成23年3月31日限り解雇されたこと(以下「本件解雇」という。)につき、解雇権の濫用に当たり無効であると主張して、控訴人に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、本件解雇後の平成23年4月から本判決確定の日まで、毎月21日限り賃金60万5090円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実
原判決「事実及び理由」第2の1を引用する。
3 争点(本件解雇の有効性)
(1) 原判決の引用
後記(2)のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」第2の2を引用する。
(2) 当審付加主張
ア 控訴人
控訴人は、年間約2億円以上の人件費の削減の必要があったこと、その人員削減の対象を教養科目担当の正規教員21名とする必要性・合理性があったこと、なかでも、被控訴人については、補助金交付の対象となりうるだけの授業科目を担当させる余地がなく、正規教員としておく必要性がなく、解雇対象とすることに必要性・合理性があったこと、控訴人として、可能な限り、希望退職者募集等の解雇回避努力や説明義務を尽くし、定年退職の場合の退職金乗率の適用、割増退職金の支給といった緩和措置・代替措置を講じようとしたことからすると、本件解雇は必要やむを得ないものとして有効性が認められる。
イ 被控訴人
控訴人に年間約2億円以上の人件費の削減の必要があったとはいえないし、その人員削減の対象を教養科目担当の正規教員21名とする必要性・合理性や、被控訴人を解雇対象とする必要性・合理性があったとはいえない。また、控訴人が、本件解雇をするに際し、解雇回避努力をしたとはいえない。
第3当裁判所の判断
1 事実認定
原判決「事実及び理由」第3の1を引用する。
2 争点についての判断
(1) 原判決の引用
当裁判所も、被控訴人に対する本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、その権利を濫用したものとして無効であるものと判断する。その理由は、後記(2)のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」第3の2を引用する。
(2) 付加説明
ア 年間約2億円以上の人件費削減の必要性
(ア) 前記(1)引用の原判決説示のとおり、控訴人は、平成21年度には教育研究活動のキャッシュフローの黒字化を早くも達成し、学納金に占める人件費比率も平成19年度の約199%から約93%にまで低下し、帰属収支差額の赤字も解消には及ばないにせよ一定程度は圧縮できていたのであり、経営改善計画の目標達成までは未だ道半ばであったとはいえ、着実に成果を上げつつあったということができるから、控訴人が、本件解雇当時、年間約2億円以上の人件費の削減の必要があったものと認めることができない。
(イ) 控訴人は、消費収支差額の赤字を年間約2億円以上の人件費の削除の必要性の根拠として主張するが、消費収支差額を算出する際に用いる消費収入は、学校法人の収入から学校法人の持分の増加である基本金組入額を差し引いたものであり、学校法人の長期的な経営の健全性を図る指標とはなりえても、当年度の収益性を図る指標としては適切ではないところ、他方、控訴人の当年度の損益に該当すると考えられる帰属収支差額は、前記(1)引用の原判決説示のとおり、平成22年度当時において改善傾向にあったのであるから、控訴人の主張は採用することができない。
(ウ) 控訴人は、キャッシュフローの状況を、年間約2億円以上の人件費の削減の必要性の根拠として主張するが、控訴人の平成21年度から平成23年度までの各事業報告書(証拠<省略>)によると、前記(1)引用の原判決説示のとおり、控訴人は、経営改善計画に基づく経営努力の結果、平成21年度には教育研究活動のキャッシュフローにつき約2400万円の黒字化を達成し(前年比2億2800万円の改善)、平成22年度は希望退職の募集による退職金の支出等により再び約2600万円の赤字を計上したものの、かかる特殊要因を除いた場合には実質的に約1億4600万円の黒字であったこと、平成23年度には、学生数増による学納金及び補助金増加による収入増と、上記退職金支出の収束による人件費をはじめとする経費支出の減少から、再び約1億7300万円の黒字を計上したことを認めることができるから、前記(ア)のとおり、学納金に占める人件費比率も平成19年度の約199%から約93%にまで低下し、帰属収支差額の赤字も解消には及ばないにせよ一定程度は圧縮できていたことを考え併せると、控訴人は、経営改善計画の目標達成までは未だ道半ばであったとはいえ、着実に成果を上げつつあったということができるから、控訴人が、本件解雇当時、年間約2億円以上の人件費の削減の必要があったものと認めることができない。
(エ) 控訴人は、当審において、控訴人作成の「業績推移表」と題する書面(証拠<省略>)及び「学校別収支推移表」と題する書面(証拠<省略>)を提出するが、同各書面を検討しても、上記認定判断を左右しない。その他、控訴人は、使用可能資金残高の減少や学校施設補修費用等の必要性等を、本件解雇当時における年間約2億円以上の人件費の削減の必要性の根拠として主張するが、これらの主張を検討しても、控訴人は、経営改善計画の目標達成までは未だ道半ばであったとはいえ、着実に成果を上げつつあったことの上記認定判断を左右しない。
イ 教養科目担当の正規教員21名を人員削減の対象とする必要性・合理性
前記(1)引用の原判決説示のとおり、控訴人の経営改善計画が着実に成果を上げつつあった過程で行われた短期大学部や現代社会学部の募集停止に際しても、控訴人がその所属教員を「過員」として人員整理の対象とすることを検討した形跡は窺われず、むしろ、選考を経た者についてはg機構に配置し、教養科目の授業担当者及び教養教育改革の管理責任主体として雇用を継続することとし、平成22年4月からg機構を発足させ、その後同年6月21日に本件希望退職募集に踏み切るまでの間に、当時のa大学の兼務者を除く教員数88名の4分の1近い21名もの教員を人員削減の対象としなければならないほどの財政面での異変が生じた事実も窺われないのであるから、本件希望退職募集や本件解雇の時点で、財政面の理由からも、21名に及ぶ教員を対象とする人員削減の必要があったとは認められない。そうすると、平成22年6月時点において、控訴人が21名もの教員を対象として人員削減を行うことについて、控訴人の合理的な運営上やむを得ない必要性があったと認めることはできない。
ウ 被控訴人を解雇対象とする必要性・合理性
前記(1)引用の原判決説示のとおり、控訴人においては、平成22年度においては、g機構を管理責任主体とする教養教育の見直しに着手したばかりの段階にあったのであり、平成22年度の状況が恒常的なものであるとは認められず、むしろ教養教育のコア科目群となるべき「ことば・歴史・知恵」の部分におけるリーダーとしての被控訴人の働きが必要とされていたところであるし、被控訴人の担当科目にも相当数の学生が受講したコマはあったこと、同年度における教養教育の実施状況について財団法人日本高等教育評価機構から大学評価基準を満たしていると評価されたこと等に照らせば、被控訴人が担当する職務のない教員として人員削減の対象とされる理由はなかったというべきであり、控訴人においては、少なくとも平成22年5月頃まで、教養科目の担当者としても、教養教育におけるカリキュラム改革の管理責任主体としても、被控訴人を含むg機構に所属することとなった教員を必要としていたことは明らかである。
エ 前記アないしウの説示を考え併せると、前記(1)引用の原判決説示のとおり、本件希望退職募集については解雇回避措置としての位置づけが可能であること、控訴人が、本件希望退職募集の開始後、対象者に対する説明会を開催し、労働組合の申入れによる団体交渉に応じたことなど、納得を得るための手続を一応は履践していること、控訴人が、退職に応じた者の不利益を緩和すべく、平成23年度限り特任教員として再雇用し、退職金の加算を提案するなどの措置をとっていること等を考慮しても、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、その権利を濫用したものとして無効というべきである。
3 まとめ
以上によれば、被控訴人の請求をいずれも認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。
第4結論
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 林圭介 裁判官 杉江佳治 裁判官 吉川愼一)