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大阪高等裁判所 平成26年(ネ)930号 判決 2014年12月19日

控訴人(原告)

上記訴訟代理人弁護士

阪上健

被控訴人(被告)

上記訴訟代理人弁護士

泉田健司

田部井大輔

髙田拓

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人は、別紙物件目録<省略>記載四の(2)の土地上に存する同目録記載七の工作物等を撤去せよ。

三  被控訴人は、別紙物件目録<省略>記載四の(2)の土地上に車止めブロック、立体ブロック及びポール等その他通行の妨害となる工作物等を設置してはならない。

四  控訴人のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

六  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人は、別紙物件目録<省略>記載四の(1)の土地上に存する同目録記載七の工作物等を撤去せよ。

(3)  被控訴人は、別紙物件目録<省略>記載四の(1)の土地上に工作物等その他通行の妨害となる車止めブロック、立体ブロック及びポール等を設置してはならない。

(4)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(5)  第二、三項につき、仮執行宣言

二  被控訴人

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は、控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、控訴人が、c氷業の屋号で氷雪等の販売をしている別紙物件目録<省略>記載六の建物(以下「本件店舗」という。)の北側の通路(以下「本件通路」という。)が建築基準法四二条二項に規定する道路(以下「二項道路」という。)であって、被控訴人所有の別紙物件目録<省略>記載四の(1)の土地(以下「本件土地一」という。)上に被控訴人が設置した同目録記載七の工作物等(以下「本件工作物等」という。)によって本件店舗から西側公道までの本件通路の通行を妨害されたと主張して、被控訴人に対し、①人格権的権利に基づく妨害排除請求及び同予防請求、又は②慣行による通行権に基づく妨害排除請求及び同予防請求、又は③囲繞地通行権に基づく妨害排除請求及び同予防請求として、本件工作物等の撤去及び通行妨害予防を求めた事案である。原判決は、控訴人の請求をいずれも棄却した。

控訴人は、原判決を不服として控訴した。

二  前提事実(括弧内に証拠の記載のない事実は争いのない事実である。)

(1)  控訴人は、本件土地一の東側に存在する別紙物件目録<省略>記載五の土地(以下「控訴人賃借土地」という。)と同土地上の本件店舗においてc氷業の屋号で氷雪販売業を営んでいる。

(2)  被控訴人は、本件土地一及びそれを含む別紙物件目録<省略>記載一ないし三の土地(以下「被控訴人所有土地」という。)並びに同目録三記載の土地の北側に所在する二筆の土地を所有し、被控訴人が代表者である有限会社b(以下「b社」という。)が被控訴人所有土地及び上記二筆の土地を一体の駐車場(以下「本件駐車場」という。)として管理運営している。

(3)  本件土地一の周辺の状況

本件通路はおおむね別紙図面一<省略>の赤線で囲まれた部分に所在する東西に通じる私道であり、本件店舗は本件通路の南側に存する。本件駐車場の一部である本件土地一は本件通路の西側部分の北側にあり、道幅の約半分を占める土地である。本件通路の幅員は、おおむね三・五メートル程度であり、その東西で公道に通じているが、東側出口付近では幅員がせまくなっており、自動車での通行は西側部分を利用するほかなかった。本件土地一上には本件工作物等が設置されており、その設置により、本件通路を自動車で出入りすることは不可能ないし著しく困難となった。

三  争点

(1)  人格権的権利に基づく妨害排除請求権の成否

ア 本件工作物等が被控訴人の所有であるか否か

イ 本件通路が二項道路であるか否か

ウ 控訴人が本件土地一を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているか否か

エ 被控訴人の行為は権利濫用か否か

(2)  慣行による通行権に基づく妨害排除請求権の成否

本件通路に関して慣行による通行権が成立しているか否か

(3)  囲繞地通行権に基づく妨害排除請求権等の成否

控訴人賃借土地が囲繞地であるか否か

四  争点に関する当事者の主張

(1)  争点一(人格権的権利に基づく妨害排除請求権等の成否)について

ア 控訴人の主張

(ア) 本件工作物等が被控訴人の所有であるか否か

本件工作物等は被控訴人が所有しているから、被控訴人がその撤去義務を負う。

(イ) 本件通路は二項道路であるか否か

堺市が昭和四四年四月一日、本件通路を二項道路に指定している。

(ウ) 控訴人が本件土地一を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているか否か

控訴人の実父B(以下「B」という。)が控訴人賃借土地を取得した昭和五四年七月一三日以降、本件通路は生活道路として、不可欠なものとして利用されていて、控訴人が軽貨物自動車によって本件土地一を通行することは、本件店舗に居住している控訴人、その妻、実母C(以下「C」という。)及び妹の日常生活上必須である。

控訴人はe製氷株式会社(以下「e製氷」という。)から一週間に一度程度一本一二〇キログラムの製氷柱一五本を仕入れているが、本件工作物等が設置される以前は、e製氷の貨物自動車は本件通路を通行して、本件店舗前に止まり、直接貨物自動車から製氷柱を本件店舗内の保冷庫に搬入していた。ところが、本件工作物等が設置されたことによって、e製氷の貨物自動車は本件通路を通行することができず、本件店舗前に停車することができなくなり、公道入口付近に停車したe製氷の貨物自動車内から製氷柱一五本分の氷を手押しの台車四台を使って本件店舗内の保冷庫に搬入することとなった。このために搬入に時間がかかり、ことに夏場には氷が溶ける量が増えてしまった。また、公道から本件店舗までの製氷柱の搬入は、人件費を削減するためにボランティアの支援を受けていて、仕入量を減らさざるを得ないが、そのため、氷雪販売業による収入は減少し、倒産するおそれがある。

本件工作物等が設置される以前は、一五本の製氷柱を小分けにして、約一週間かけて本件店舗内に駐車していた軽貨物自動車を使用して得意先に配達していたが、本件工作物等が設置された後は、軽貨物自動車を別の場所に駐車しておき、そこから本件店舗付近の西側公道沿いに移動して停車して、本件店舗から小分けにした氷を積み込み、配達しなければならず、配達時間を余分に要することになった。

以上によれば、控訴人は、本件通路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有している。

(エ) 被控訴人の行為は権利濫用か否か

被控訴人は、本件土地一が道路として通行の用に供されていることを知りながら、本件土地一を購入しているから、被控訴人が本件土地一の所有権に基づいて通行を妨害することは権利濫用に当たる。したがって、本件通路の原状を変更し、本件工作物等を設置してその通行を妨害することは許されない。

イ 被控訴人の主張

(ア) 本件工作物等が被控訴人の所有であるか否か

本件工作物等はb社が設置したものであり、その所有者は、b社である。したがって、被控訴人は本件工作物等の撤去義務を負わない。

(イ) 本件通路は二項道路であるか否か

a 二項道路の要件

本件通路が二項道路であるためには、昭和二五年一一月二三日の時点において、幅員四メートル未満の道に建築物が建ち並んでおり、その道に対して特定行政庁が二項道路の指定処分をしたことが必要である。

b 本件通路について

本件通路については、二項道路の一括指定がされているところ、堺市に対する調査嘱託の回答書には、昭和二五年一一月二三日時点において、道路幅員が四メートル未満であったか否かは明確でないと記載されており、また、建築物が建ち並んでいたことについては何ら記載がない。さらに、被控訴人は、本件土地一部分について固定資産税を支払っていることからしても、本件通路が二項道路であるとはいえない。

(ウ) 控訴人が本件土地一を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているか否か

控訴人とその家族は、本件店舗には居住していない。仮に居住していたとしてもそれは、平成二二年六月九日からであって、それ以前は居住していなかった。本件工作物等が設置されても徒歩や自転車での通行には問題はなく、また、控訴人は本件店舗に極めて近い場所に軽貨物自動車を駐車しており、日常生活上の不可欠の利益が侵害されているとはいえない。

控訴人が妨害排除を求める一番の理由は、e製氷の貨物自動車が本件土地一を通行できなくなり、貨物自動車から本件店舗へ直接製氷柱を納入できなくなったことと考えられる。しかし、控訴人の主張する通行利益は、e製氷の貨物自動車が本件土地一を運行する利益であって、控訴人自身が本件土地一を通行する利益ではない。

仮に、e製氷の本件土地一を通行する利益が控訴人の利益であるとしても、それは、控訴人の営業の本拠と外部との交通の利益であり、また、それがどの程度侵害されたのかについては、判然としない。現時点において、控訴人はその営業を継続しているから、その利益が控訴人にとって不可欠なものでないことは明らかである。

(エ) 被控訴人の行為は権利濫用か否か

否認ないし争う。権利濫用の法理を適用すると所有者を保護した最高裁判所平成九年一二月一八日第一小法廷判決・民集五一巻一〇号四二四一頁の趣旨が没却されるから、極限的な場合以外は上記法理は適用されるべきではない。

(2)  争点二(慣行による通行権に基づく妨害排除請求権等の成否)について

ア 控訴人の主張

昭和五四年七月にBが本件店舗を新築し、それ以後本件通路を営業用自動車の通行の用に供していて、控訴人はこれを承継しているから、本件土地一について、慣行による通行権を有している。

イ 被控訴人の主張

前記のとおり、人格権的権利に基づく妨害排除請求権等が認められない以上、慣行による通行権が認められる余地はない。

(3)  争点三(囲繞地通行権に基づく妨害排除請求権等の成否)について

ア 控訴人の主張

別紙物件目録<省略>記載一ないし四の土地は、二二番土地を分筆することによって生じた土地であり、本件土地一付近の地図に準ずる図面によれば、控訴人賃借土地は、囲繞地であって、西側の公道への通路が必要であり、かつ、過去六〇年以上にわたって本件通路は生活道路として利用されていたから、控訴人は本件土地一について囲繞地通行権を有している。

イ 被控訴人の主張

控訴人賃借土地は、公道に通じているから、そもそも囲繞地ではない。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所は、控訴人の被控訴人に対する本訴請求のうち、控訴人の被控訴人に対する人格権的権利に基づく妨害排除請求は理由があるが、同予防請求は、後記のとおり二項道路と認められる土地の範囲で理由があると判断する。その理由は、以下のとおりである。

二  認定事実

上記前提事実、証拠<省略>及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1)  被控訴人所有土地及び控訴人賃借土地は、周囲の土地も含めていずれも昭和三四年一二月一一日に堺市○町○丁○番○から分筆された土地(ただし、被控訴人所有土地のうち、別紙物件目録<省略>一記載の土地は、その後の合筆及び分筆後の土地である。)であり、上記分筆により他の土地に周囲を囲まれることとなった複数の土地(控訴人賃借土地を含む。)を生じたが、分筆以前から存在した本件通路により東西に所在する公道に至ることができた。

被控訴人所有土地とその南側に所在する土地との境界線は、別紙図面二<省略>の六六及び六七の各点を直線で結んだ線である。

(2)ア  控訴人(昭和五七年○月○日生)は、本件店舗でc氷業の屋号で氷雪販売業を営み、スナック等に製氷された氷を販売している。控訴人は、本件店舗で、妻(昭和五四年生)、母C(昭和二七年生)、妹(昭和五九年○月○日生)と同居している。

イ  上記c氷業は、控訴人の父のBとD(以下「D」という。)が始めたもので、Bは、昭和五四年七月、控訴人賃借土地を取得し、同年七月二〇日、控訴人賃借土地上に本件店舗を新築し、本件店舗でc氷業の屋号で氷雪販売業を営んでいた。

ウ  BとCは、平成元年に離婚し、Bが他所に転居したため、DとCがc氷業に営んでいた。平成七年にDがc氷業を辞めたため、Cがc氷業を引き継いだ。

エ  その後、控訴人賃借土地は第三者が所有することになったが、Cは、平成一三年一二月一八日、控訴人賃借土地及び本件店舗を売買により取得し、同日、所有権移転登記を経由した。

オ  しかし、Yは、控訴人賃借土地及び本件店舗のローン支払を怠ったため、控訴人賃借土地及び本件店舗は競売となり、A(以下「A」という。)が、平成一六年三月三日、控訴人賃借土地及び本件店舗を競落し、翌四日、所有権移転登記を経由した。控訴人は、平成一六年二月一二日付で、Aから控訴人賃借土地及び本件店舗を賃借した。

カ  控訴人は、平成二三年一〇月三一日、氷雪販売業を営むにつき、堺市保健所長から食品衛生法五二条による許可を得て、Cから氷雪販売業を引き継いだ。

(3)  被控訴人は、平成一六年一二月二一日、被控訴人所有土地を売買により取得し、同日、所有権移転登記を経由した。被控訴人は、古くから本件通路が存在し、これが近隣住民等の通行の用に供されていることを知っていた上、上記売買に際し、「私道負担」の欄に約二三・八九m2の負担がある旨の記載がされた重要事項説明書の交付を受けた。被控訴人は、平成一七年二月一日、駐車場の経営等を目的とするb社を設立し、その取締役に就任し、b社が被控訴人所有土地を一体の駐車場(本件駐車場)として駐車場運営会社に賃貸している。被控訴人は、本件駐車場からの賃料及び年金の各収入で生計を立てている。

(4)  本件通路について

ア 堺市長は、昭和四四年四月一日付けで建築基準法四二条二項の道路を一括指定し、これにより別紙図面三<省略>の赤線で囲まれた範囲の土地(正確には、南北に隣接する土地の境界線から互いに二mずつ後退した範囲の土地。以下「本件道路」という。)は同項の道路となった。これによると、本件土地一のうち二項道路となるのは、別紙物件目録<省略>四の(2)の土地(以下「本件土地二」という。)となる。Bは、昭和五四年七月、本件店舗を建築した際、本件道路を二項道路として建築確認を受けた。控訴人は、平成二四年三月一五日、本件店舗の北側にある本件道路が二項道路に該当するとの判定を受けた。本件道路は、本件駐車場の西側及び東側に存する南北に通じる公道に接しているが、本件道路の東側部分は幅員が狭くなっているため、本件道路から自動車で東側に存する公道に出入りすることはできない。なお、本件店舗の西側に存する建物には本件道路に面してエアコンの室外機等が設置されている。

イ 控訴人は、従前からe製氷から氷を仕入れていた。控訴人から注文を受けたe製氷は氷を本件店舗に納品するに当たり、貨物自動車(二トントラック)で西側公道から進入して本件道路を通行し、本件店舗前に駐車した上、氷を本件店舗内の冷蔵庫に搬入していた。控訴人はe製氷から約一週間に一回の頻度で毎回一本約一四〇キログラム以上の重さの製氷柱十数本を仕入れている。

ウ 控訴人は、顧客からの注文に応じて氷を加工し、本件店舗から軽四輪トラックで配達していた。

(5)ア  b社は、平成一七年六月ころ、g株式会社に対し、本件土地一部分にアスファルトの敷設工事を依頼したが、控訴人等の周辺住民から抗議があったため、約二か月かかって上記工事が完了した。

イ  b社は、平成一九年九月、h株式会社に対し被控訴人所有土地を駐車場使用目的で賃貸した。

ウ  被控訴人は、平成二二年八月ころ、本件駐車場を拡幅し、従前は軽自動車三台分しか駐車できなかった箇所に普通自動車三台分が駐車することができるようにするため、本件道路の一部である本件土地一を駐車場にする工事をしようとしたが、周辺住民が集まって抗議したため、工事をすることができなかった。

エ  本件道路と公道の間には本件道路と公道との段差を解消するためにスロープが設置されていたが、堺市は、平成二二年一〇月ころ、上記スロープを撤去した。(争いのない事実)

オ  被控訴人は、平成二二年一〇月ころ、e製氷に対し、本件道路に貨物自動車で乗り入れないように申し入れた(争いのない事実)。

カ  被控訴人は、平成二二年一二月ころ、本件道路部分に建てたポールに、「法施行前道路(民地)に付き車輛進入禁止(地主)」と記載された告知文を張り出した。

キ  被控訴人は、平成二三年一月一六日、本件土地一に「駐輪場予定地に付き私有地 近々閉鎖します。Y 平成二三年一月一六日」と記載された告知文を張り出した。

ク  被控訴人は、平成二三年二月、控訴人に対し、同月中旬、本件土地一の境界線上にフェンスを設置する予定であることを通知した。

ケ  被控訴人は、平成二三年一二月、本件土地一の西端、中央、東端の三か所にコンクリートブロックを設置し、本件道路の中心線にロープを張る等した。そのため、e製氷の貨物自動車は本件道路を通行することができなくなり、控訴人は西側公道入口付近に停車したe製氷の貨物自動車内から製氷柱一五本分の氷を手押しの台車を使用して本件店舗内の保冷庫に搬入する作業を余儀なくされ、その人件費を削減するために氷の仕入量を減らさざるを得ない状況に追い込まれている。

コ  被控訴人は、平成二四年一月、従前設置されていた鉄製ポール、角柱を搬去し、本件土地一をアスファルト舗装して駐車場にした上、本件土地一上に本件工作物等を設置した。

三  事実認定の補足説明

(1)  被控訴人は、本件通路が二項道路ではないと主張するが、上記認定のとおり、堺市長が、昭和四四年四月一日付けで建築基準法四二条二項の道路を一括指定し、本件通路のうち本件道路の部分については同項の要件を充足するものであったと認められるから、本件道路は二項道路であると認めるのが相当である。なお、証拠<省略>及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は本件土地一につき、固定資産税の免除を受けていないことが認められるが、このことは上記認定を左右しない。

(2)  被控訴人は、本件工作物等の所有者はb社であるから、被控訴人は本件工作物等の撤去義務を負わないと主張する。しかし、証拠<省略>及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、平成二二年一二月二二日、本件土地一に建てたポールに「法施行前道路(民地)に付き車輛進入禁止(地主)」と記載された告知文を張り出していること、被控訴人は、平成二三年一月一六日、本件土地一に「駐輪場予定地に付き私有地 近々閉鎖します。Y 平成二三年一月一六日」と記載された告知文を張り出していること、被控訴人は、控訴人(c氷業)に対し、被控訴人がその所有する被控訴人所有土地等の南西側境界線上にフェンスを設置する工事をする予定であることを記載した平成二三年二月一日付通知文を送付していることの各事実が認められる。このように、本件土地一への車両の進入を禁止しているのは土地の所有者である被控訴人であり、以上に加えて、被控訴人は、平成二二年一〇月ころ、e製氷に対し、本件道路に貨物自動車で乗り入れないように申し入れている上、平成二二年八月ころ、本件駐車場を拡幅しようとしたり、平成二四年一月、従前設置されていた鉄製ポール、角柱を撤去し、本件土地一をアスファルト舗装して駐車場にしていて、本件土地一上に本件工作物等を設置する等したのがb社であることを示す証拠はほとんどないことに照らすと、本件工作物等の所有者は被控訴人であり、被控訴人が本件工作物等を設置したと推認できる。なお、証拠<省略>及び弁論の全趣旨によれば、b社が、株式会社iに対し、平成二四年六月二五日付でコイン式集中精算システム駐車場(フラップ式)を注文し、上記会社がb社に対し、上記代金として同年八月一七日付で二五〇万円を請求したことが認められるが、これによって、本件工作物等の代金及び設置費用が上記コイン式集中精算システム駐車場(フラップ式)の代金に含まれていることを認めることはできず、他に上記推認を覆すに足りる証拠はない。

(3)  控訴人本人尋問の結果には平成二二年六月九日以前から本件店舗に居住していたとの供述部分があり、Cは子どもを別学区の小学校及び中学校に通学させるために、住民票の住所だけを異動させた旨を証言する。確かに、控訴人の家族は、本件店舗を新築してからしばらくは本件店舗を生活の本拠とし、本件店舗から転居した後も本件店舗で寝食することがあったことが認められるが(証拠<省略>の住所欄参照)、控訴人の家族が継続して本件店舗に居住していたとするCの供述は信用できない。

すなわち、控訴人は、平成一六年二月一二日、Aから控訴人賃借土地及び本件店舗を賃借していて、控訴人、その妻、C及び妹の住民票上の住所が控訴人の肩書住所地になったのは、平成二二年六月九日付けであるほか、控訴人の妹は、平成二〇年七月三一日、大阪府堺警察署長に対し、自動車の保管場所を控訴人賃借土地として保管場所標章の交付を申請するに当たり、その申請書の住所欄に「堺市堺区○町○丁○番○号」と記載しているところ、この住所はCが借りているマンションの住所であって、この時点で控訴人家族がこのマンションに居住していたことをうかがわせる。また、控訴人は昭和五七年○生であり、控訴人の妹は昭和五九年○月生であるから、それぞれが中学を卒業したのは、控訴人が平成九年三月、その妹が平成一一年三月であると推認することができるが、住民票を現住所に移動したのは平成二二年六月であって、それは控訴人及びその妹が中学を卒業してから一〇年以上も後であるから、子どもを別学区の小学校及び中学校に通学させるために住民票の住所だけを移動させたとは認め難い。このことに、控訴人家族の生活の本拠の場所についてのCと控訴人の供述は大きく食い違っていることを考え併せると、控訴人の上記供述部分及びCの上記証言部分はたやすく採用することができない。

このような証拠関係からすると、控訴人の家族は、住民票上の住所を移転した平成二二年六月頃に本件店舗に生活の本拠を置いたものであり、それ以前は本件店舗で寝食することはあったものの、生活の本拠は上記マンションに置き、本件店舗は主として控訴人の家業である氷雪販売業のために使用されていたものと認めるのが相当である。

四  争点(1)(人格権的権利に基づく妨害排除請求権等の成否)について

(1)  上記認定事実によれば、本件道路は、昭和四四年四月一日付けで堺市長によって一括指定を受けた二項道路であるが、公道ではなく二項道路であっても、現実に開設されている道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、上記道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が上記通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有すると解される(最高裁判所平成九年一二月一八日第一小法廷判決・民集五一巻一〇号四二四一頁、最高裁判所平成一二年一月二七日第一小法廷判決・裁判集民事一九六号二〇一頁参照)。

(2)  本件において、B、C及び控訴人は、本件店舗において、遅くとも昭和五四年から今日までの三五年間にわたって、家業として順次氷雪販売業を引き継いで営み、西側公道まで本件道路を利用して貨物自動車等で氷を運搬する等してきたものであり、氷雪販売業を営むに当たっては、本件店舗に原料の氷を搬入し、小分けした氷を搬出する必要があるが、この氷の重さや搬入及び搬出の一回当たりの氷の重さ及び氷の本数によれば、氷を運搬するために自動車を利用することが必要不可欠である上、本件店舗から東側の公道に自動車が出ることはできないから、西側公道に接する本件道路を自動車で通行せざるを得ない。そして、本件店舗における氷雪販売業は控訴人も含めた控訴人一家の家業として営まれていたもので、控訴人一家のほぼ唯一の生計の手段であったと認められるから、本件道路を自動車で通行することは、控訴人及びその家族にとって、その生計を支えるためにはどうしても必要なことであり、その生活上不可欠なものというべきである。ところが、本件工作物等が本件土地一に設置されたことによって、本件道路を自動車で通行することができなくなり、控訴人は手押しの台車を使用して氷を運搬する作業を余儀なくされ、その人件費を削減するために氷の仕入量を減らさざるを得ない状況に追い込まれている。本件土地一上に設置された本件工作物等のうち立体ブロック(大)は本件土地一の南側境界に設置されているから、車両が本件道路を通行するためには、立体ブロック(大)の除去が不可欠であることは明らかであるが、本件工作物等のうち最も北側に設置されている車止めブロックについても、それは本件土地一の南側境界から約一五五センチメートルの位置に設置されていて、他方、控訴人の妹が所有する車両の幅は一四七センチメートルであるほか、本件店舗の西側に存する建物には本件道路に面してエアコンの室外機等が設置されているから、歩行者等と車両が本件道路を安全に通行するためには、上記車止めブロックも除去することが必要であるというべきである。なお、調査嘱託の結果によれば、本件土地一には本件道路に含まれていない部分あるが、本件工作物等は本件土地二上に存在すると認められる。

(3)  他方、仮に、自動車等による本件道路の通行を認めた場合、被控訴人は本件土地二を駐車場として使用することができなくなるが、その程度は普通自動車三台分の駐車ができず、代わりに軽自動車三台分の駐車のみができるというものであるから、その不利益は控訴人の上記不利益と比較して大きなものとは認められない。また、被控訴人が本件土地二を含む被控訴人所有土地を取得したのは平成一六年一二月二一日であって、その時点では本件土地二は既に二項道路に指定されていて、e製氷及び控訴人の各車両が走行し、付近住民が生活道路として利用していたほか、被控訴人はそのことを知り、かつ、上記各土地を購入した際の重要事項説明書にも、私道負担のあることが明記されているから、被控訴人が上記不利益を受けてもやむを得ないと考えられる。なお、被控訴人は、建築基準法上の接面道路に関する規制は、建物を新築・改築する場合にのみ適用されるように説明を受けたとも供述するが、現に同法四二条二項の道路として通路が開設されている部分については、道路法四条による私権の行使が一定の制限を受け、そのことは常識によっても判断され得ることであるから、宅地建物取引業者が被控訴人の供述するような説明をするとは考えにくく、上記被控訴人の供述は採用できない。

(4)  以上を総合すると、控訴人は、長年氷雪販売業を営んできたBやCの事業を引き継ぎ、本件道路を貨物自動車で氷を搬入、搬出することによって、その営業を営んでいて、控訴人が本件道路を貨物自動車等で通行する営業上の利益を有するところ、その利益は控訴人の日常生活上不可欠なものといえる。他方、敷地所有者である被控訴人が上記通行を受忍することによって受ける不利益は大きなものではなく、被控訴人は控訴人の通行利益を上回る著しい損害を被るとは認められない。したがって、控訴人は控訴人賃借土地の賃借権者ではあるが、その人格権的権利に基づく妨害排除請求権として、本件工作物等を所有する被控訴人に対し、本件土地二上に置かれた本件工作物等の撤去を求めることができる。また、上記認定の経過によれば、今後、被控訴人が本件工作物等の設置と同様の形態により控訴人の通行を妨害する危険性が十分に認められるから、通行妨害予防請求権に基づき上記部分について本件工作物等その他通行の妨害となる車止めブロック、立体ブロック及びポール等を設置することの禁止を求めることができる。なお、上記認定事実によれば、権利濫用、慣行による通行権及び囲繞地通行権に基づく各妨害予防請求についても、仮にそれが認められるとしても本件土地二の範囲を超えて認める余地はない。

五  以上によれば、被控訴人の控訴人に対する人格権的権利に基づく妨害排除請求は理由があるからこれを認容し、同予防請求は、上記の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。よって、これと結論を異にする原判決を上記の趣旨で変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六一条、六四条ただし書を適用し、仮執行宣言につき同法二五九条一項を適用して主文第二項に限りこれを付し、主文第三項については相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田川直之 裁判官 浅井隆彦 島村雅之)

別紙<省略>

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