大阪高等裁判所 平成26年(ラ)1167号 決定 2014年12月02日
抗告人(原審申立人・基本事件被告)
X
同代理人弁護士
髙﨑英雄
相手方(原審相手方・基本事件原告)
Y
同代理人弁護士
中村留美
同
西紗世子
主文
一 原決定を取り消す。
二 本件を東京地方裁判所に移送する。
理由
第一当事者の主張
抗告人の抗告の趣旨及び理由は、別紙「抗告状」記載のとおりであり、これに対する相手方の答弁は、別紙「抗告状に対する意見書」記載のとおりである。
第二当裁判所の判断
一 本件事実関係
一件記録によれば、次の事実が認められる。
(1) 抗告人及び相手方は各肩書住所地に、相手方の夫A(以下「A」という。)は東京都新宿区内にそれぞれ居住している。
(2) 抗告人は、平成二六年七月九日に相手方を被告として、東京地方裁判所に対し、①抗告人とAとの間の不貞関係に基づく損害賠償請求権が存在しないことの確認を求めるとともに、②相手方が抗告人に対して暴言・暴行を加え、抗告人の所有物を廃棄したことを理由に、不法行為に基づく損害賠償請求として二〇〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴え(同庁同年(ワ)第一七四三四号。以下「別件訴訟」という。)を提起し、同事件の訴状は、同月三〇日に相手方に送達された。
(3) 一方、相手方は、平成二六年七月二六日に神戸地方裁判所に対し、抗告人を被告として、抗告人とAとの間の不貞行為に基づく損害賠償請求として七〇〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める基本事件に係る訴えを提起し、同事件の訴状は、同年八月二一日に抗告人に送達された。
抗告人は、同年九月二日に行われた基本事件の第一回口頭弁論期日に陳述擬制された答弁書において、同じ訴訟物についての請求である別件訴訟が先に提起されていることを理由に、基本事件は、民事訴訟法(以下「民訴法」という。)一四二条に抵触する訴えとして、却下されるべきであるという本案前の答弁をした。
(4) Aは、平成二六年四月二三日に相手方との離婚を求める夫婦関係等調整調停を神戸家庭裁判所に申し立てた(同庁同年(家イ)第六一五号)が、同年九月二二日に不成立により終了した。
その後、Aは、平成二六年一〇月三日に相手方を被告として、東京家庭裁判所に対し、離婚訴訟を提起した(同庁同年(家ホ)第八六八号)。
(5) なお、現在、Aと相手方との間には、相手方申立てに係る婚姻費用分担調停(神戸家庭裁判所平成二六年(家イ)第一一三七号)が係属している。
二 本件申立てについての判断
上記事実関係を前提として、移送の当否について判断する。
(1) 前記一で認定したとおり、抗告人及びその不貞行為の相手方とされるAがいずれも東京都内に居住していること、不貞行為があったとされる場所は東京都内であること、別件訴訟が先に東京地方裁判所に係属していることを考えると、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため、本件を東京地方裁判所に移送するのが相当である。
(2) 相手方は、①Aが東京都内に居住してはいるものの、単身赴任中も頻繁に神戸に帰ってきており、相手方との夫婦関係や子供を含めた家族関係を主に神戸市で形成してきたこと、②Aが夫婦間の破綻原因の一つとして主張している相手方の親族の居住場所もまた神戸市であること、③前記一(5)の婚姻費用分担調停事件は、現在もなお神戸家庭裁判所に係属していることなどに照らせば、基本事件は、神戸地方裁判所で審理することが相当である旨主張する。
しかしながら、上記(1)で認定・説示した事情に照らせば、相手方の主張する上記各事情は、仮にその全てが存在するとしても、上記(1)の判断を左右する事情とはなり得ないから、相手方の上記主張は採用できない。
(3) なお、付言するに、基本事件の訴訟物は、別件訴訟の前記一(2)①の請求(以下「別件請求」という。)と同一である。そして、訴訟係属の先後関係は、訴状が被告に送達された日の先後をもって決すべきであるから、別件訴訟の訴訟係属の後に訴訟係属した基本事件は、民訴法一四二条が禁止する重複訴訟として、訴えの却下を免れない。したがって、基本事件は、東京地方裁判所に移送された後に、別件訴訟と併合され、別件請求の反訴として扱われない限り、却下されるべきものである。
相手方は、基本事件が提起されたことにより、別件訴訟のうち別件請求に係る訴えは、訴えの利益を欠くに至ったものとして、却下されるべきである旨主張する。しかしながら、重複訴訟に当たるかどうかの基本となるべき訴訟係属の先後関係は、上記のとおり判断すべきものであるから、相手方の上記主張は、この点において既に採用できない。
三 結論
以上の次第で、本件は、民事訴訟法一七条に基づき東京地方裁判所に移送すべきであるから、抗告人の本件移送申立てを却下した原決定は相当でなく、本件抗告は理由がある。
よって、原決定を取り消して、本件を東京地方裁判所に移送することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 田中敦 裁判官 太田敬司 竹添明夫)
別紙 抗告状<省略>
別紙 抗告状に対する意見書<省略>