大阪高等裁判所 平成26年(ラ)258号 決定 2014年3月13日
東京都中央区<以下省略>
抗告人(原審相手方・基本事件被告)
野村證券株式会社
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
木村圭二郎
同訴訟復代理人弁護士
溝渕雅男
同
濱和哲
同
福塚圭恵
兵庫県<以下省略>
相手方(原審申立人・基本事件原告)
X
同訴訟代理人弁護士
内橋一郎
同
村上英樹
同
津田裕
同
加藤昌利
同
橋本有輝
主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第1抗告の趣旨
1 原決定中主文第1項を取り消す。
2 上記取消部分に係る相手方の文書提出命令申立てを却下する。
3 抗告費用は相手方の負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,抗告人から仕組債を購入した相手方が,抗告人に対し,仕組債の購入契約に錯誤があった,抗告人担当者の勧誘が消費者契約法4条1項1号に該当するので同条に基づき購入契約を取り消す,抗告人担当者の勧誘が適合性原則や説明義務に違反し,また断定的判断の提供にも該当するなどと主張し,不当利得の返還や不法行為ないし金融商品販売法5条に基づく損害の賠償を求めた基本事件において,適合性原則違反や説明義務違反の有無等について立証するためには,相手方の仕組債購入時における取引開始基準や中途売却価格に関する事項を明らかにする必要があるとして,原決定別紙文書目録記載1ないし4の提出を求めた事案である(以下「本件申立て」という。)。
2 原決定は,相手方の本件申立てのうち,原決定別紙文書目録記載4の「本件仕組債の中途売却価格の算定根拠が記載された文書」(以下「本件文書4」ないし単に「本件文書」という。)についてのみ相手方の申立てを認容し,その余の申立てを却下した。
3 抗告人は,原決定のうち,申立て認容部分を不服として,即時抗告した。その理由は別紙即時抗告申立書の「抗告の理由」に記載のとおりである。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件文書は存在し,法220条4号ニの文書にも,法220条4号ハ(法197条1項3号)の文書にも該当するとは認められず,抗告人が提出義務を負う文書であると判断する。その理由は,以下のとおり補正するほかは,原決定5頁24行目から8頁10行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原決定5頁26行目冒頭から6頁3行目の「一件記録によれば,」までを以下のとおりに改める。
「ア 抗告人は,本件文書が作成されたことはなく,存在しないと主張する。
しかし,一件記録によれば,本件仕組債の中途売却価格は,現在の為替と円と外貨の金利差から計算される将来の為替理論値,オプション料,需給,発行体の信用リスク等種々の要素を考慮して算出されるものとうかがわれ(甲42,乙12),およそ暗算により算出できるようなものでないから,同価格の算出に当たって何らの文書も作成されていないというのは不自然である。また,同価格の算出には評価的要素も含まれているから,同価格算定当初から,客観的・事後的な検証が全く不可能な状態に置かれていたとは考えにくく,同価格算定に当たり,同価格の算出根拠を記載した文書が作成されていたことが強く推認されるというべきである。
しかも,抗告人は,原決定がされるまで,本件文書が作成されなかったと主張したことはなかった。すなわち,抗告人は,第3回弁論準備手続期日に陳述された被告第5準備書面では,本件文書の提出を求める相手方の求釈明申立てに対し,途中売却時の損失見込額の計算方法等の説明義務がないので争点と関連しないから応じる必要がないとし,第6回弁論準備手続期日で陳述した被告第6準備書面でも,同様の主張を繰り返したほか,相手方が債券を売却した際の売却代金そのものを計算した書類は存在しない,アップフロント報告書と同様の書類は作成していない,相手方への取引提案時には,契約締結前交付書面の交付は義務づけられていなかったから,想定損失額等の計算はしていないと主張してきたのであり,平成25年7月12日付けの本件申立てに対する意見においても上記のような主張を繰り返すのみであって,本件文書が作成されなかったとの主張は一切していなかったものである。かえって,抗告人復代理人は,基本事件の第7回弁論準備手続において,「本件仕組債の中途売却価格算定当時は,当該価格の算出根拠を記載した文書が作成され,同文書が存在していたと思われるが,保存されておらず,現存しない。」と陳述しているのであり,上記の認定に,これらの事情を併せ考慮すれば,抗告人は,本件仕組債の中途売却価格を算定した平成23年10月当時,同価格の算定根拠を記載した文書を作成したと認めるのが相当である。
この点,抗告人は,第7回弁論準備手続において,抗告人復代理人が上記のような陳述をしたことはないと主張し,原決定の後である平成26年2月17日には,弁論準備手続調書についての異議等の申立書を提出し,第7回弁論準備手続調書の抗告人の陳述第1項の記載を「本件仕組債の中途売却価格を提示するに際し,被告において当該債券の評価を行ったことはあるが,同評価について,そもそも文書が作成されたか否かは被告訴訟代理人において把握しておらず不明であり,いずれにしても,現在,そのような評価を記載した文書は存在していない。」と訂正するように求め,その理由として,抗告人代理人が被告第6準備書面を作成するに当たって,過去においても当該書類が作成された事実はないと理解していたが,文書提出命令への反論として必要十分な内容としては現在当該書類が存在しないことのみを抗告人に確認しており,厳密に,過去のどの時点においても当該文書が存在しなかったかについては抗告人には確認していなかったところ,裁判所から,「本件仕組債の中途売却時に債券の価格を評価した文書が過去に作成されたか否か。」を質問され,状況を正確に表した発言として,上記の訂正を求める内容の発言をしたと主張した。
しかし,そもそも上記の異議申立自体原決定後にされたものであるし,抗告人が実際に発言したと主張する内容は,問題となる文書が過去に作成されたか否かという裁判所の質問に対する回答としては第7回弁論準備手続調書に記載された陳述内容とはかけ離れており,聞き違えや勘違いの範疇を超えた相違があるといわざるを得ない。そして,裁判所書記官が,実際には抗告人復代理人が上記主張に係る内容を発言したのに,これとかけ離れた上記調書記載のように記録する理由は全く見当たらない。これに,相手方代理人が,第8回弁論準備手続期日において,抗告人が第7回弁論準備手続期日に調書記載のとおりの発言をしていたと認識していると陳述したことも勘案すれば,抗告人復代理人が第7回弁論準備手続期日において,同期日調書記載のとおりの発言をしたと認めるのが相当であり,この点の抗告人の主張は採用できない。
また,抗告人は,証拠として抗告人担当者の平成26年2月19日付け陳述書を提出し,本件文書を作成した事実はないと主張する。しかし,上記陳述書は,原決定後に作成されたものであり,そもそも証拠価値は乏しいし,その内容を見ても,本件仕組債の中途売却価格の算定根拠が記載された文書は過去のいかなる時点においても作成していないというものであるところ,上記説示のとおり,現在の為替と円と外貨の金利差から計算される将来の為替理論値,オプション料,需給,発行体の信用リスク等種々の要素を考慮した上で,現実に本件仕組債の中途売却価格が算出されていることに照らして,そのような陳述は不自然というほかなく,にわかに採用できず,ほかに上記認定を左右する証拠はない。
イ そして,一件記録によれば,」
(2) 原決定7頁12行目を「(3) 法220条4号ニ(自己利用文書)及び法197条1項3号,法220条4号ハ(職業・技術秘密文書)該当性について」に改める。
(3) 原決定8頁9行目及び10行目を,以下のとおりに改める。
「 また,上記のような文書の記載内容やその利用状況,特に抗告人が相手方の求めに応じ,相手方が決定した債券の売却価格の算定根拠について口頭で説明していたことに照らせば,本件文書が技術または職業上の秘密に関する事項といえないことも明らかである。
ウ したがって,本件文書は,法220条4号ニの文書にも,法220条4号ハ(法197条1項3号)の文書にも該当しないというべきであり,抗告人は本件文書の提出義務を負う。」
2 以上によれば,相手方の本件申立てのうち,本件文書に係る部分は理由があるから認容するのが相当である。よって,原決定は正当であり,本件抗告は理由がないのでこれを棄却すべきであるから,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小佐田潔 裁判官 浅井隆彦 裁判官 杉村鎮右)
当事者目録
〒<省略>
東京都中央区<以下省略>
抗告人 野村證券株式会社
代表者代表執行役 A
〒<省略>
大阪市<以下省略>(送達場所)
電話 <省略>
FAX <省略>
上記訴訟代理人弁護士 木村圭二郎
同復代理人弁護士 溝渕雅男
同弁護士 濱和哲
同弁護士 福塚圭恵
〒<省略>
兵庫県<以下省略>
相手方 X
<以下省略>