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大阪高等裁判所 平成26年(行コ)1号 判決 2014年6月26日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

第2事案の概要等

1  本件事案の概要は,原判決「事実及び理由」第2の柱書に記載のとおりであるから,これを引用する。

原審が被控訴人の請求を認容したところ,控訴人が控訴し,上記第1のとおりの判決を求めた。

2  退職手当の支給に関する法令の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,下記⑴ないし⑷のとおり原判決を補正し,下記3のとおり当審における当事者の補足主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第2の1ないし6のとおりであるから,これを引用する。

⑴  原判決4頁4行目の末尾に続いて改行の上,以下を加える。

「なお,国家公務員法81条の2第1項は,「職員は,法律に別段の定めのある場合を除き,定年に達したときは,定年に達した日以後における最初の3月31日又は第55条第1項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。」と規定し,同法81条の2第2項本文は,「前項の定年は,年齢60年とする。」と規定している。」

⑵  原判決4頁6行目の「その勤続期間が25年以上等」を「その勤続期間が25年以上であり,かつその年齢が,退職の日において定められているその者に係る定年から10年を減じた年齢(定年が年齢60年である場合は,年齢50年)以上」と改める。

⑶  原判決6頁14行目の末尾に続いて改行の上,以下を加える。

「ちなみに,控訴人に対する退職勧奨の記録(証拠<省略>)には,A税務署長は,控訴人から,平成20年3月の定年退職を前にして仕事に対する意欲が減退し,管理者として部下職員を指導していく自信もなくなるのではないかとの不安を覚えているなどと相談を受け,控訴人に対し,種々のアドバイスをしたが,控訴人の悩みの解消に至らなかったため,「後進に道を譲り,税理士の資格を生かしたらどうか」と退職の勧奨を行ったところ,控訴人が退職に応じた旨の記載がある。」

⑷  原判決6頁23行目の「16万6800円」の後の「及び」を削除する。

3  当審における当事者の補足主張

(控訴人)

⑴ 昭和60年3月31日に定年制が導入されたが,勧奨退職に係る退手法4条及び5条,退手法施行令3条1項1号及び4条2項1号の各条文は,改正されていないのであるから,同条文は従前と同じように解釈されるべきであって,定年の前後を問わず,「その者の非違によることなく勧奨を受けて退職した者」全てが退手法5条1項に該当するというべきである。

⑵ 平成17年改正附則3条1項は,新制度切替日(平成18年4月1日)以後に退職する新制度適用職員について,その者が新制度切替日の前日に現に退職した理由と同一の理由により退職したものとして,新制度切替日前日額を計算するとしているから,控訴人は,定年となる年月日<省略>から1年3か月前である年月日<省略>に,現に退職したのと同じ理由である「勧奨退職」により退職したものと扱われることになり,定年に達する日から6か月前までに退職した者に該当し,定年前早期退職特例が適用される。

⑶ C国税局長が勧奨退職として計算した控訴人の退職手当について,同じ国である総務省(総務省人事・恩給局参事官)の「定年に達した日以後に慫慂され退職した者の定年前早期退職特例措置」の取扱いに関する新解釈もしくは解釈の変更によって,遡及して不利益に変更することは,不利益不遡及の法理ないし禁反言の法理に反するものであって,被控訴人の本件不当利得返還請求は,信義則違反である。

(被控訴人)

⑴ 退手法5条1項及びその委任を受けた退手法施行令4条2項1号等が,一定の期間勤続し,「その者の非違によることなく勧奨を受けて退職した者」について,同法3条に規定する自己の都合による退職等の場合と比較して,退職手当の基本額において優遇している趣旨に鑑みると,勧奨を受けて定年後に退職した者を「その者の非違によることなく勧奨を受けて退職した者」に含めることは,上記趣旨に合致しない。

また,退手法5条の3は,定年前早期退職特例の適用対象者を「第5条1項に規定する者」のうち,一定の要件を満たす者としているところ,同条が定年前に退職した者のみを対象としていることは明らかであるから,退手法においては,「第5条第1項に規定する者」に,定年に達した者は含まれないと解するのが自然である。

したがって,勧奨を受けて定年に達した後に退職した者は,退手法5条1項及びその委任を受けた退手法施行令4条2項1号における「その者の非違によることなく勧奨を受けて退職した者」に該当しないものと解すべきである。

⑵ 退手法5条の3は,定年前早期退職特例が適用される要件として,「第5条第1項に規定する者」に該当するのみならず,「定年に達する日から政令で定める一定の期間前までに退職した者」でなければならない旨定めているところ,控訴人は,定年に達した日(年月日<省略>)以降の日である同年7月10日に退職しており,「定年に達する日から政令で定める一定の期間前までに退職した者」に該当せず,この点においても,定年前早期退職特例の適用を受けることはないから,控訴人の新制度切替日前日額を算定するに当たって,定年前早期退職特例は適用されることはない。

⑶ 控訴人の主張⑶は争う。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,被控訴人の請求は理由があるものと判断する。その理由は,原判決を下記ただし書のとおり補正し,下記2のとおり当審における当事者の補足主張に対する判断を付加するほかは,〔判示事項〕原判決「事実及び理由」第3の1ないし3のとおりであるから,これを引用する。

ただし,原判決13頁15行目の「そのため」から18行目の「合理的理由があるとはいえない。」までを,「したがって,定年に達した者については,同項の規定上退職日は自ずと明らかであり,遅くとも1年以内に退職するのであるから,人事の刷新や行政能率の維持・向上を図るという観点からして,退職を勧奨する必要性に乏しく,合理性も見いだし難いところである。」と改める。

2  当審における当事者の補足主張に対する判断

⑴  控訴人は,上記第2の3(控訴人)⑴のとおり主張するが,勧奨退職は,現行制度において国家公務員法が定める定年退職制度を前提とするものであるから,勧奨退職に係る上記各法令の規定の解釈に当たっても,上記定年退職制度の趣旨・目的を踏まえ,これと整合する解釈をすることはもとより当然であり,条文が改正されていないからといって,従前と同じ解釈をすべきであるということにはならない。控訴人の上記主張は採用することができない。

⑵  控訴人は,上記第2の3(控訴人)⑵のとおり主張するところ,控訴人は,上記第2の2引用補正に係る原判決「事実及び理由」第2の2⑵のとおり,60歳の誕生日の前日である年月日<省略>に定年に達し,同年7月10日に退職しているのであるから,「定年に達した日」以降に退職したものであり,上記1引用補正に係る原判決「事実及び理由」第3の1⑴エで説示したとおり,定年に達した者は,「退手法5条1項に規定する者」に含まれず,平成17年改正附則3条1項の適用上,「定年に達した日」以後に退職したものと仮定して,新制度切替日前日額を計算することになり,同計算に当たって,定年前早期退職特例措置の適用はないというべきである。控訴人の上記主張は,本来定年前早期退職特例措置が適用される余地のない新制度適用職員について,定年前早期退職特例措置の適用を認めようとするものであって,独自の見解に基づく主張というほかなく,採用することができない。

⑶  控訴人は,上記第2の3(控訴人)⑶のとおり主張するけれども,本件は,控訴人の新制度切替日前日額を算定するに当たり,控訴人については,もとより定年前早期退職特例の適用がないのに,誤って同特例が適用されたため過払いとなったものであって,控訴人が主張するような新たな解釈や解釈の変更によって事後的に過払いとなったものではないから,控訴人の上記主張は,前提において失当である。」

3  以上によれば,被控訴人の請求は理由があるから認容すべきところ,これと同旨の原判決は相当である。

よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判官 矢延正平 菊池徹 河合裕行)

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