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大阪高等裁判所 平成26年(行コ)13号 判決 2014年12月05日

控訴人(原告)

上記訴訟代理人弁護士

石塚順平

松山秀樹

増田祐一

被控訴人(被告)

明石市

上記代表者市長

処分行政庁

明石市公営企業管理者 B

上記訴訟代理人弁護士

橋口玲

宮部千晶

森下真希

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

2  明石市公営企業管理者Bが控訴人に対し、平成23年10月14日付けでした分限免職処分を取り消す。

3  控訴人のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを2分し、その1を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人は、控訴人に対し、明石市公営企業管理者Bが控訴人に対し、平成23年10月14日付けでした停職6月処分及び同日付けでした分限免職処分をいずれも取り消す。

(3)  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、被控訴人a部(以下「a部」という。)b課にバス運転手として採用された控訴人が、住所変更等の手続を行わず、不正に住居手当及び通勤手当(以下両者を併せて「本件各手当」という。)を受給し続け、このことが新聞報道されたことで被控訴人の名誉を失墜させた上、弁明の内容等から反省の態度が見られないことを理由に、平成23年10月14日付けで、処分行政庁(当時)から停職6月の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)を受け、また、これらに加え、兵庫県市町村職員共済組合(以下「共済組合」という。)において虚偽申告をして融資を受ける等したこと、日頃の勤務態度にも問題があることを理由に、分限免職処分(以下「本件分限免職処分」といい、本件懲戒処分と併せて「本件各処分」という。)を受けたことにつき、本件各処分には事実誤認、重大な手続違反、裁量の逸脱濫用及び平等原則違反があるからいずれも無効であるとして、その取消しを求めた事案である。原判決は、控訴人の請求をいずれも棄却した。

控訴人は、原判決を不服として控訴した。

2  前提事実、争点、争点に対する当事者の主張は、次の3のとおり控訴人の当審における補足主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1ないし3(原判決2頁12行目から16頁末行のとおりであるから、これを引用する。

3  控訴人の当審における補足主張

(1)  控訴人は、平成9年に持ち家の住所に転居した際、a部総務課庶務係のCに対して、住所・氏名変更届、通勤及び住居届兼認定書を提出した。上記各書類は現存しないが、被控訴人の内部で紛失された可能性がある。

(2)  被控訴人は、本件各処分をするに当たって、他の同種事案を調査検討していないから、本件各処分は違法である。

第3当裁判所の判断

1  本件で認定できる事実は、以下のとおり改めるほかは、原判決の「事実及び理由」の「第3 争点に対する当裁判所の判断」1(原判決17頁2行目から34頁14行目まで)に判示のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決19頁21行目「にデータ入力をし」を「を作成し」に改める。

(2)  原判決22頁23行目末尾に「以後、a部及び人事課において、控訴人の住所は持ち家の住所として管理された。」を加える。

(3)  原判決25頁13行目から14行目にかけての「退職願が提出されていること」の次に「及び別紙<資料 住宅手当、通勤手当等の不正受給に対する処分実例。<省略>>のような他の自治体における処分例」を加える。

(4)  原判決26頁12行目「住民票とともに提出した旨」を「住民票とともに出したつもりだったと」に、27頁12行目「以後の」を「以後に」に、16行目「「(8)諸給与の」」を「「第2の2 公金官物取扱関係の(8)諸給与の」にそれぞれ改める。

(5)  原判決32頁14行目末尾に「なお、苦情内容からすると、控訴人が運転するバスと同時に後続のバスが停留所に来ていたようにうかがえる。」を加える。

(6)  原判決34頁11行目「平成19年度まで」から13行目末尾までを「毎年無事故、無違反を継続した年数毎に、これに該当する職員が表彰されており、控訴人は、少なくとも14回の表彰を受けた(証拠<省略>、弁論の全趣旨)。」に改める。

2  本件懲戒処分の適法性及びその内容

本件懲戒処分は、控訴人が本件各手当の不正な受給を行ったことを対象とし、控訴人が審査委員会において供述を変遷させ、明らかに虚偽と考えられる供述を行う等反省の態度が認められず、不正受給が新聞報道されて、被控訴人の信用が大きく損なわれたことを理由として行われたものである(前提事実、証拠<省略>)。以下、控訴人が懲戒の対象とした事実の存否及び内容並びに本件懲戒処分の相当性について検討する。

(1)  懲戒事由の存否

ア 住所・氏名変更届、通勤及び住居届兼認定書の提出について

(ア) 控訴人は、借家から持ち家の転居に際して表記書類を提出したと主張する。

前記認定のようなa部の事務取扱いによると、住所・氏名変更届の提出がないのに人事基本簿データが修正されることはなく、また、住所・氏名変更届の提出の際には、原則として同時に通勤及び住居届兼認定書が提出され、給与データも修正登録されるべきこととなるはずであるが、平成9年の時点で、控訴人の人事基本簿の住所は持ち家の住所に変更されているから、この点だけをみると、控訴人がその時点で住所・氏名変更届、通勤及び住居届兼認定書を提出した可能性があるようにみえないではない。

しかし、本件では、平成9年に控訴人が提出したと主張する住所・氏名変更届、通勤及び住居届兼認定書のいずれもが被控訴人に保管されておらず(一般的には、提出された住所・氏名変更届と通勤及び住居届兼認定書は、別綴りで保管されている。)、給与データの修正がなく、平成14年までa部で使用されていた控訴人の人事記録台帳の住所は借家の住所のままであることは前記認定のとおりである。仮に控訴人が平成9年に住所・氏名変更届、通勤及び住居届兼認定書を提出したのに上記のような事態に至ったとすれば、それは職員が複数のミスを重ねたということになるが、そのようなミスが偶然に重なる確率は著しく低いものといわざるを得ない。また、控訴人は、通勤及び住居届兼認定書を提出した旨を供述するが、10年以上前の出来事に関する供述であるから、その信用性には限界がある上、控訴人は、被控訴人に採用された以後の平成5年及び平成7年にも住居変更の手続をしているから、その際の記憶と混同した可能性もある。したがって、控訴人の上記供述は採用できない。

そうすると、平成9年に控訴人の人事基本簿の住所が持ち家の住所に変更されたのは、借家の地番と持ち家の地番の違いが、どちらかの誤記といえるようなものではないことを考慮しても、平成9年の年末調整用書類の住所チェックに際し、提出された書類に記載された控訴人の住所(持ち家の住所)に合わせて人事基本簿のデータが修正されたことによるものであり、控訴人は、住所変更に際して提出すべき上記各書類を提出していないと認めるのが相当である。

(イ) なお、控訴人は、決裁時に書類が紛失した可能性がある旨主張するが、その場合は住所・氏名変更届、通勤及び住居届兼認定書の二つの決裁書類が同時になくなり、決裁された書類が担当者の元に戻らないのに担当者が書類が戻らないことに気付かず、決裁が終了していないのに人事基本簿データだけは修正されたという事態が生じたことになるが、このような事態は想定し難いと言わざるを得ない。

(ウ) また、控訴人は、平成9年に年末調整用書類に持ち家の住所を記載して提出しているが、その提出をもって通勤及び住居届兼認定書に代替できるものでないことは明らかであり、また、給与データの修正がされていない以上、控訴人が口頭で住所の変更を担当者に申し出たと認めることもできない。

イ 本件過支給に関する控訴人の認識について

(ア) 本件懲戒処分の処分説明書(証拠<省略>)では、控訴人が「職員としてなすべき手続を意図的に行わず、11年10か月という長期に渡り、不正に手当を受給し続け」たとされているから、被控訴人は、控訴人が転居当初から借家に係る本件各手当を不正に受給する目的で住所変更に係る書類を提出せずに本件各手当を不正に受給した事実を懲戒対象としたものと認められる。

(イ) これまで判示したとおり、控訴人は借家から持ち家に転居したにもかかわらず、a部で定められた手続をとらず、持ち家に転居後も、借家に居住していた際に支給されていた本件各手当を不正に受給し続けていたというべきである。しかし、控訴人は、平成9年に年末調整用書類に持ち家の住所を記載して担当部署に提出し、その後も、控訴人が持ち家の住所に居住していることを、庶務や人事の関係者も含めた被控訴人職員に隠蔽した状況があったとは認められず、この事実は、控訴人が本件各手当の不正受給を当初から目論んで住所変更に係る手続をしなかったというにはそぐわない。したがって、控訴人が借家から持ち家に転居するに際して、不正に住居手当及び交通費の支払を受けることを目論んで、住居変更の際に必要とされる各書類の提出を怠ったとは認めるに足りず、他に不正受給目的で上記各書類の提出を怠ったと認めるに足りる証拠もない。

(ウ) もっとも、控訴人には毎月給与明細が交付されるから、明細に記載された住居手当の額や通勤手当の額を見れば、持ち家に転居したにもかかわらず、従前どおりの本件各手当が支給されていることは比較的容易に認識できる状況にあったということはできる。

控訴人は、この点について、最終的には、給与明細の手取金額欄は見ていた、あるいは時間外勤務手当のチェックはしていた、しかし、給与明細を仔細に見たことはなく、住居手当や通勤手当の額まで見ていなかったと供述する。

給与明細の交付を受ければ、一応これに目を通すのが通常のことと思われるが、特別のことがなければ給与明細をほとんど見ず、あるいは大ざっぱにしか目を通さないということもあり得ないことではない。そして、控訴人の住民票の住所移転が平成9年の年末であり、この当時給与総額が増加しており(控訴人の給与の支払金額は、平成8年は551万8625円、平成9年は572万2369円、平成10年は629万8151円である。証拠<省略>)、借家から持ち家に転居した時点で、本件各手当の減額が給与総額の減少に直ちにはつながらなかったこと、控訴人の平成9年分の源泉徴収票に持ち家の住所が記載され、その後a部(被控訴人)においては、控訴人の住所を持ち家の住所として管理していたことからすると、控訴人が、正式に住所変更がされているものと誤解し、しばらくの間、本件各手当が減額されていないことに気付かなかった可能性もある。なお、控訴人は、平成9年及び10年の時点で多額の住宅ローンを抱え、消費者金融からの借入もあった可能性があるが、そのような経済状態にあることを考慮しても、上記可能性を否定することはできない。

しかし、控訴人は、借家から持ち家に転居すれば、住居手当が減額されることを知っており、転居後の通勤距離が異なることからすれば、通勤手当も減額されることは容易に認識できるはずである。そして、控訴人自らも給与明細の手取額や時間外手当を見ていたことは認めているから、毎月交付される給与明細の本件各手当の額が借家時代と同一になっていることに10年以上も気付かなかったとは考え難く、遅くとも転居から数年のうちには上記事実を認識していたものと認めるのが相当である。

ウ 懲戒事由該当性

以上の認定によると、控訴人は本件各手当を不正に受給したものであるから、これは、全体の奉仕者である公務員の法令に従う義務(地方公務員法32条)に違反し、その職の信用を傷つけ、職員の職全体の不名誉となる信用失墜行為であり(同法33条)、同法29条1項1号及び3号の懲戒事由にあたることが明らかである。

(2)  控訴人の審査委員会における弁明や反省の情

本件懲戒処分の処分理由書では、控訴人が審査委員会における弁明を二転三転させ、明らかに虚偽と考えられる供述をし、反省の姿勢がないことも記載されている。

確かに、控訴人の供述には変遷がみられる上、控訴人は、審査委員会で住居変更の手続に必要な書類を提出していないのにこれを提出した、当時は住居変更の手続に添付する必要の無かった住民票を添付した、本件各手当の過支給には気付かなかったと述べる等客観的な事実に反するような供述をしたことも認められはする。しかし、これを記録(証拠<省略>)に即してみると、審査委員会における控訴人の弁明は、「自分は住所変更の届けを、住民票をつけて出したつもりだった」「僕の中では(住民票)を出したと思います」「住所変更のときに住民票をつけて出さないと変更できないので、そのときに住民票を取ったと思う」というもので、借家から持ち家に転居した時点から審査委員会における弁明まで14年以上の歳月を経過していることも勘案すると、控訴人の上記供述を虚偽を述べた(事実に反することを知りながら述べた)ものとは断定できないし、供述内容の変遷も時間の経過からやむを得ない部分があるというべきである。

しかし、控訴人は、長年にわたって本件各手当の多額の過支給を受け、過支給を受けていることに気付いた後もこれを適正に申告せず、また、被控訴人において過支給の事実を把握してその返還を求めたにもかかわらず、その求めに対して真摯な対応をしたとは認められず、その反省の情は薄いというべきであり、その限りにおいてこの点について処分理由書の上記記載は正当である。

(3)  本件懲戒処分の相当性

ア 以上のとおり、控訴人は、借家から持ち家に転居した際に、被控訴人の職員に要請されている住所・氏名変更届、通勤及び住居届兼認定書を提出せず、その後本件各手当の過支給を受けていることに気付いたにもかかわらず、これを申告せず、被控訴人が上記事実を把握するまで11年10か月の間合計300万円を超える本件各手当の過支給を受けたものであり、これらの行為は、地方公務員法32条及び33条に違反し、同法29条1項1号及び3号の懲戒事由に該当する。

イ 本件懲戒処分の懲戒事由には、控訴人の故意が生じた時期に誤認があり、控訴人の供述の評価等にも一部誤りがあるというべきである。

しかし、上記のとおり、本件過支給の額は300万円を超える高額なものであり、控訴人は、過支給を受けていることに気付いた後も長年の間そのことを申告せずにその支給を受け続け、被控訴人においてその事実を把握して返還を求めたにもかかわらず、この求めに対して真摯な対応をせず、その事実が新聞報道される等したことによりその職の信用を大きく損ない、公務全体に著しい不名誉となる信用失墜をもたらしたものである。控訴人が過支給を受けるため何らかの作為を加えた事実は認められず、控訴人には懲戒処分歴がなく、無事故無違反の表彰を多数回にわたり受けた等控訴人に有利に斟酌すべき事情も認められはするが、上記のような本件非違行為の態様、その結果の重大性、公務員の職が被った信用毀損の程度、市民に与えた影響、非違行為発覚後の控訴人の対応等を考慮すると、停職6か月という処分は重い処分ではあるものの、これが停職にとどまっている以上、なお、処分権者の裁量権の範囲を逸脱した違法な処分であるとまで認めることはできない。また、他の処分事例と比較して、平等原則違反ということもできない。

なお、控訴人は人事院懲戒指針に比すれば、本件懲戒処分は相当性を欠くとも主張するが、上記指針は、国家公務員に関する指針であり、非違行為の影響等について自治体毎に個別の考慮が必要になるものであるから、本件懲戒処分の相当性を考える上で、上記指針が示している標準例はあくまで参考にとどまるものというべきであるから、上記判断を左右しない。

3  本件免職処分について

(1)  控訴人は、バス乗務中、平成15年に人身事故1件、平成16年に接触事故2件を起こしたほか、平成21年から平成23年にかけて乗客から8件の苦情が寄せられている(ただし、このうち、平成21年7月2日に寄せられた苦情については、控訴人にも有利に斟酌すべき事情がある可能性がある。)ことは前記のとおりであり、審査委員会における控訴人の弁明には、多数の乗客の安全を守り、公共交通機関であるバスの運行に携わる運転手として、いささか無責任ではないかと思われるものも含まれている。

また、控訴人が、平成21年9月及び12月に共済組合から2度の貸付けを受けるに際し、共済組合からの貸付基準を潜脱するため、いずれの場合にも当時消費者金融会社の負担していた債務を申告せず、総債務額を実際の借入額より少額なものとして申告して貸付けを受けたこと、また、同年9月の貸付けの際には、その使途目的を偽って貸付けを受けたこと、被控訴人において本件過支給を把握し、a部の職員から返済を求められた際に、当初は「こんなもん払われへん」と返還を拒否したこと、更にその後にk労働金庫から約600万円を借り入れたほか、株式会社l、株式会社mにも債務を負担したことは前記認定のとおりである。

なお、本件懲戒事由とされた事実については、前記判示のとおりである。

(2)ア  他方、控訴人は、被控訴人に採用後14回の無事故表彰を受けていることは前記認定のとおりである。しかも、被控訴人のバスの運行においては、運転者に責任のある事故件数は、平成4年から平成21年にかけて、少ない年で3件、多い年で10件を超えており、控訴人が起こした事故件数が、被控訴人の市バス運転業務に従事する他の職員の事故件数に比して目に見えて多い、あるいは責任の重いものであったとは認められない(証拠<省略>)。また、控訴人に対する苦情の申し出があった日に限って提出された被控訴人の記録(証拠<省略>)の中にも、他の運転手に対する苦情の記録も含まれており、被控訴人における市バス運転業務については、全般的に相当数の苦情申し出がされている可能性があり、本件の証拠だけで、控訴人のバス運行や接客対応が、他の市バス運転者に比して問題の多いものであったとは認められない。更にいえば、控訴人に対する苦情は、平成21年から23年に集中している可能性があるが、仮にそうであれば、個々の事案についての事実確認、個別の注意指導にとどまらず、控訴人がそのような運行をした原因の有無について控訴人と話し合い、その上での指導がされていれば、控訴人のバスの運行方法や接客対応について改善の余地が十分にあったというべきであるが、被控訴人が控訴人とそのような話し合いや指導の機会をもったことを示す証拠はない。

したがって、控訴人に上記のような事故歴があり、苦情の申し出があったことを、地方公務員法28条1項1号(勤務成績不良)及び3号(適格性の欠如)の事由として考慮することは相当ではないというべきである。

イ  また、控訴人がした金銭借入には、共済組合からの借入も含め、債務額、その使途目的を偽り、詐術を用いたものが含まれている可能性があり、このような借入は、控訴人の倫理性の乏しさを示すものといえるが、職務とは直接関連しない私的な金銭消費貸借に関するものであり、控訴人のバス運転者としての適格性の判断はもとより、公務員としての適格性を判断する上でも付随的な事情にとどまるというべきである。

ウ  このようにみてくると、控訴人につき、地方公務員法28条1項1号及び3号に該当する事由があり、免職処分を相当とするか否かは、主として本件懲戒事由についてこれを判断すべきこととなるが、控訴人が、転居に際して当初から過支給を受ける目的で住所・氏名変更届、通勤及び住居届兼認定書を提出しなかったものではなく、本件各手当の過支給を受けていることに数年間は気付かなかった可能性を否定できないことは前記のとおりである。被控訴人においては、誤った処理の結果、控訴人の住所を持ち家の住所として管理し続けていたが、このことが本件各手当の過支給を受けていることについての控訴人の認識の時期を遅らせた可能性も否定できない。また、控訴人が、過支給を受けるために虚偽の書類を提出する等の積極的な工作を行ったとは認められない上、日常の勤務成績が特段に悪かったという事情も認められず、無事故・無違反の表彰を14回受けてもいる。控訴人の本件各手当の不正受給の受止め方には反省が薄く、また、金銭の貸付けを受けるに際して倫理観の低さが認められはするが、上記のような事情を考慮すると、本件懲戒事由が存在することをもって、控訴人に地方公務員法28条1項1号(勤務成績不良)及び3号(適格性の欠如)の分限事由があるとして控訴人を免職とした処分は、合理性をもつ判断として許容される限度を超えた不当なもので、裁量権の行使を誤った違法なものというべきである。また、分限処分と懲戒処分とは、その趣旨、目的を異にしているとはいえ、本件分限免職処分の処分事由として主として考慮すべき事由が、本件懲戒処分事由とほぼ重複し、本件懲戒事由については、既に停職6か月という重い処分がされていることからも、本件分限免職処分を相当なものということはできない。

4  よって、被控訴人の控訴人に対する本件懲戒処分は適法であり、その取消しを求める控訴人の請求は理由がないが、本件分限免職処分は違法であるからこれを取り消すべきである。よって、原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田川直之 裁判官 浅井隆彦 裁判官 島村雅之)

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