大阪高等裁判所 平成26年(行コ)158号 判決 2015年6月25日
主文
1 1審原告の本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
2 1審被告の控訴に基づき、原判決主文第2ないし第5項を取り消す。
3 前項の取消部分に係る1審原告の訴えをいずれも却下する。
4 訴訟費用は、第1、2審を通じ1審原告の負担とする。
事実及び理由
第1控訴及び附帯控訴の趣旨
1 甲事件
(1) 原判決中、高槻市事業公開評価会に関する1審原告敗訴部分を取り消す。
(2) 1審被告は、Aに対し、26万3900円及びこれに対する平成25年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
(3) 1審被告は、高槻市事業公開評価会に関して、公金を支出してはならない。
(4) 原判決中、高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員に関する部分のうち、損害賠償請求を求める請求を棄却した部分を取り消す。
(5) 1審被告は、Aに対し、124万3000円及びこれに対する平成25年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
2 乙事件
(1) 原判決中、1審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 1審原告の請求をいずれも棄却する。
3 附帯控訴事件
(1) 原判決中、高槻市特別顧問に関する1審原告敗訴部分を取り消す。
(2) 1審被告は、Aに対し、7万5000円及びこれに対する平成25年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
(3) 原判決中、高槻市立障害者福祉センター運営協議会に関する1審原告敗訴部分を取り消す。
(4) 1審被告は、Aに対し、9万1000円及びこれに対する平成25年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
第2事案の概要(以下、略称は原判決の表記に従う。)
1 事案の要旨
本件は、1審原告が、高槻市(「市」)の設置する原判決別紙「組織等目録」記載の各組織等(「本件各組織等」)は地方自治法(「法」)138条の4第3項所定の「附属機関」に当たるにもかかわらず、本件各組織等が法律又は条例に基づくことなく設置されているのは違法であり、市長であるAは、故意又は過失により、本件各組織等の委員等に対する謝礼金の支払に係る支出負担行為及び支出命令を自らし、又は指揮監督上の義務を怠って市の職員に専決させ、これによって、市が損害を被った旨主張して、市の執行機関である1審被告に対し、法242条の2第1項1号に基づき、本件各組織等のうち上記目録記載ア~エ、コ、サ及びタの各組織等に関する公金の支出の差止めを求めるとともに、同項4号本文に基づき、市が支出した上記謝礼金相当額及びこれに対する不法行為の日の後である平成25年1月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金について、Aに対する不法行為に基づく損害賠償請求をするよう求めた住民訴訟である。
2 原判決(平成26年9月3日)及びこれに対する当事者の不服の概要
原審は、本件訴えのうち、高槻市事業公開評価会、高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員及び高槻市交通部に関する特別改革検討員に関して公金の支出の差止めを求める部分を不適法として却下し、高槻市特別顧問、高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会、高槻市立障害者福祉センター運営協議会及び高槻市採石等公害防止対策協議会に関する公金の差止請求を認容し、Aに対する損害賠償請求をするよう求めた部分を棄却した。
1審原告は、原審が、高槻市事業公開評価会に関して公金支出の差止めを求める訴えを却下し、Aに対する損害賠償請求をするよう求める請求を棄却した部分及び高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員に関してAに対する損害賠償請求をするよう求める請求を棄却した部分に対して控訴し、1審被告は、原審が、高槻市特別顧問、高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会、高槻市立障害者福祉センター運営協議会及び高槻市採石等公害防止対策協議会に関して公金支出の差止請求を認容した部分に対して控訴し、1審原告は、高槻市特別顧問及び高槻市立障害者福祉センター運営協議会に関してAに対する損害賠償請求をするよう求める請求を棄却した部分に対して附帯控訴した。
したがって、当審における審判の対象は、1審原告の請求のうち、高槻市事業公開評価会、高槻市特別顧問、高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会、高槻市立障害者福祉センター運営協議会及び高槻市採石等公害防止対策協議会に関する公金支出の差止請求部分並びに高槻市事業公開評価会、高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員、高槻市特別顧問及び高槻市立障害者福祉センター運営協議会に関してAに対する損害賠償請求をするよう求める請求部分についての原判決の当否である。
3 法の定め、前提となる事実、争点及びこれに対する当事者の主張は、後記4に当審における1審原告の主張を、後記5に当審における1審被告の主張を、後記6に同主張に対する1審原告の反論をそれぞれ付加するほか、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」2ないし4(原判決3頁4行目から32頁8行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
4 当審における1審原告の主張
(1) 高槻市事業公開評価会について(控訴関係)
ア 原審は、市は高槻市事業公開評価会が行う職務について、附属機関として条例に基づき設置された高槻市行財政改革推進委員会の分科会にこれを行わせるものとし、平成25年4月16日をもって「高槻市事業公開評価実施要綱」を廃止したことが認められ、このような事実からすると、同要綱に基づき設置された評価会が今後開催される見込みはないものというべきであるから、評価会に関して今後公金の支出が行われることが相当の確実さをもって予測されるとはいえないとして、評価会に係る差止めの訴えを不適法とした。
しかし、評価会の名称や職務権限の内容等は、条例に一切記載されていないのであるから、評価会が同分科会で行われているとする条例上の根拠は存在しない。議会でも、評価会を同分科会で行うことは承認されていないし、そのための条例改正も行われていない。附属機関は法律又は条例で設置すべしとする法138条の4第3項の趣旨からすれば、議会の承認を得ず、市長の裁量のみで、既に条例で設置した別の機関の分科会に位置づけるやり方は、法を潜脱する行為で許されない。「高槻市事業公開評価実施要綱」は廃止されたというが、そうすると、評価会は、要綱が廃止された平成25年4月16日以降、条例上の根拠がないだけでなく、要綱上の根拠もないことになるのに毎年開催され、違法に公金が支出されてきたといえるし、今後も分科会と称して開催され、公金が支出されると考えられる。したがって、評価会に係る差止めの訴えを不適法とした原審の判断は誤りである。
イ 平成24年10月3日に改正された「高槻市事業公開評価会実施要綱」では、評価会を、評価を行わない組織に変更した。これにより組織としての存在理由はなくなったにもかかわらず、現在も組織を維持している。評価会の真の目的は評価をすることではなく、開催すること自体にあったのであり、そのような評価会の評価者及びコーディネーターへ公金を支出することは、1審被告の裁量の逸脱・濫用という点からも違法である。
(2) 高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員について(控訴関係)
1審被告は、「調査員自らが調査を行うものではない」と主張するが、調査をしておらず、調査の成果物も存在しない以上、特別調査員の活動自体、実態のないものと考えられ、これに対する報酬として公金を支出したことは違法である。
(3) Aの故意・過失について(控訴及び附帯控訴関係)
ア 原審は、①多くの自治体が平成22年4月1日時点で、附属機関以外に、要綱等により設置された「附属機関に準じる機関」を設けていたこと、②附属機関の意義について解釈を示したり、具体的な事例について附属機関該当性の判断を示した最高裁判例や、法律又は条例によらずに設置された附属機関に相当する機関に係る支出について、その適法性を判断した最高裁判例は存在しないこと、③下級審裁判例をみても、本件各財務会計行為がされた後に、それ以前の下級審裁判例では見られなかった附属機関の意義についての解釈を示して、訴訟で問題とされた機関の附属機関該当性を否定するものも現れていること、④学説上も、附属機関の意義の解釈について見解の一致はみられていないことを理由に、Aの故意・過失を認めなかった。
しかし、①については、他市で違法行為が横行していたからといって、市長としての指揮監督義務違反が免責されてはならないはずであるし、②、③についても、過失を認めた下級審の裁判例が存在しているのであるから、原審の判断は失当である。④については、複数の学説が対立することは往々にしてよくあることであり、それの決着を待たなければ司法や行政が判断を下せないということはなく、多くの判決で違法性及び首長の責任が肯定されているのであるから、行政としては、各判決に示された判断の中で最も厳しい基準を用いるべきであった。
よって、Aの故意・過失は認められるべきである。
イ 附帯控訴の関係で、高槻市特別顧問及び高槻市立障害者福祉センター運営協議会について、以下のとおり主張する。
(ア) 特別顧問は、何の成果も上げていないばかりか、当初から無駄であり、かつ、特別顧問として選任された者も顧問としての適格性は認められず、Aが私的に選挙応援の見返りに設けたものとしか考えられない。
したがって、Aには故意・過失があり、特別顧問につき支出された公金を賠償する責任がある。
(イ) センター運営協議会については、「高槻市立障害者福祉センター運営協議会要綱」に報酬の定めがなかった。したがって、1審被告は、明文上の根拠なく公金を支出したのであるから、市長であるAは、故意又は過失により、当該債務負担行為について、自ら行わない義務又は市の職員が行うことを阻止すべき指揮監督上の義務に違反したというべきである。
5 当審における1審被告の主張
(1) 1審原告の上記主張について
ア いずれも争う。
イ 高槻市立障害者福祉センター運営協議会の委員に対する公金支出について、1審原告は、1審被告が「高槻市立障害者福祉センター運営協議会要綱」に報酬の定めがないのに公金を支出したのであるから、市長であるAは、故意又は過失により、当該債務負担行為について、自ら行わない義務又は市の職員が行うことを阻止すべき指揮監督上の義務に違反したと主張する。しかし、1審被告は、高槻市立障害者福祉センター運営協議会につき、後記(2)の「附属機関」ではないとの認識に基づき設置していたものであり、その委員が同協議会に出席した際に支出する謝礼金については、同協議会の開催予定を勘案して各年度の歳出予算に「報償費」として計上し、市議会での議決を経た後、同協議会の開催の都度、支出負担行為により支出を決定していたものであるから、根拠なく公金を支出したとはいえないし、Aに1審原告主張の故意又は過失もなかったことは明らかである。
(2) 附属機関性
原審が本件各組織等を法138条の4第3項の「附属機関」と認めたのは誤りである。
附属機関は、地方公共団体内部の機関であり、地方公共団体の外部の個人で地方公共団体との個別の契約によって業務を行う者は附属機関に該当しない。また、附属機関とは、「調停、審査、審議又は調査」を行うことを職務とする機関であり、行政運営上の連絡調整、意見交換、懇談等の場として性格づけられる会議体等は、これに該当しない。審議とは、単に「特定の事項について意見を述べ議論すること」を意味するのではなく、「特定の事項について意見や見解を求める諮問に対応して、特定の事項について意見を述べ議論すること」を意味すると考えるべきである。諮問とは、特定の事項について附属機関の意見や見解を求め、尋ねることをいい、審議会とは、諮問に応じる場合など、問題等について意見を闘わし、論議してその意見の答申等を行うことをその職務とする機関のようなものを指すとされているように、附属機関における審議については、単に個々の委員が意見を述べるにとどまらず、委員相互で議論することにより諮問に対する答申などとして機関としての意見や見解を取りまとめることを前提とするものと解すべきである。したがって、当該組織等が、このような意味での審議を行うものでなければ、附属機関に該当しないというべきである。以下、原審が差止請求を認容した組織等及び1審原告の控訴に係る組織について、個別に主張する。
ア 高槻市特別顧問
特別顧問は、有識者個人に対し、意見及び助言を求めるべく就任の依頼をし、これに応じて有識者個人が就任の承諾をすることにより就任するものである。すなわち、高槻市と有識者個人との間で、意見や助言をするという事実行為を委任し、これを承諾することにより成立する準委任契約に基づくものというべきであり、有識者個人が高槻市の機関になるという性格のものではない。また、「高槻市特別顧問の依頼に関する要綱」は、意見や見解の取りまとめ等に必要となる組織としての意思決定に関する規定を設けておらず、現に、特別顧問から提示された意見・助言等を見ても、各特別顧問が出席した会合は、個々の特別顧問が述べる意見・助言を聞く場に過ぎず、特定の事項について意見や見解を求める諮問に対応して機関としての意見や見解を取りまとめることは前提とされていない。したがって、審議に当たるようなことは予定されていないし、現実に行われてもいない。就任承諾書には、「高槻市特別顧問に就任することを承諾します」と明記されており、準委任契約が締結されたことを示す書面というべきである。よって、特別顧問は、附属機関に当たらない。
イ 高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会
同運営委員会は、特定の事項について運営委員会としての意見や見解を求められているのではなく、特定の事項について意見を述べ議論するのでもなく、調停、審査、審議又は調査を行うものではない。よって、同運営委員会は、附属機関に当たらない。
ウ 高槻市立障害者福祉センター運営協議会
同運営協議会は、高槻市立障害者福祉センターの利用に関係する団体等から選出された代表者が集まって、同センターの利用に関する連絡調整や意見調整をすることを目的として設けられた。したがって、同運営協議会は、特定の事項について運営協議会としての意見や見解を求められているのではなく、特定の事項について意見を述べ議論するのでもなく、調停、審査、審議又は調査を行うものではない。よって、同運営協議会は、附属機関に当たらない。
エ 高槻市採石等公害防止対策協議会
同協議会は、採石等公害に関係する団体等により自主的に組織された団体であり、当該団体等から選出された代表者が集まって、採石事業等に関する連絡調整や意見調整等をすることを目的として設けられた。したがって、高槻市は、関係行政機関として同協議会に参加しているに過ぎず、同協議会は、高槻市の機関というべきものではない。また、同協議会は、高槻市から独立した任意団体として自主的に活動しているものであるから、高槻市の行政執行のための「調停、審査、審議又は調査」を行うものではない。よって、同協議会は、附属機関に当たらない。
オ 高槻市事業公開評価会
同評価会は、公開の場において、対象事業について、評価者が質疑や議論を踏まえた意見を述べ、当該意見の各要旨をコーディネーターが整理するというものである。同評価会では、評価者の意見の列挙をするものであり、会としての意見を統括して事業に対する評価を行うものではない。したがって、同評価会の活動は、「諮問」に対する「審議」を行うものではなく、「諮問」及び「審議」に該当しない。よって、同評価会は、附属機関に当たらない。
カ 高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員
特別調査員は、高槻市交通部にて発生した営業所売上金のうちに不明金が発生した件に関する調査の指導及び助言又はその準備行為を行うため、特別調査員候補者である個人に対して特別調査員の依頼をし、これに応じて、依頼を受けた個人が就任の承諾をすることにより、特別調査員に就任するものである。これは、高槻市と特別調査員個人との間で、売上金不明事案に関する専門的な指導及び助言等という事実行為を委任し、これを承諾することにより成立する準委任契約に基づくものというべきであり、特別調査員個人が高槻市の機関になるという性格のものではない。よって、特別調査員は、附属機関に当たらない。
(3) 原審が公金支出差止めを認容した各組織に関する公金支出が今後あり得ないこと
ア 高槻市特別顧問
特別顧問については、平成25年3月28日、「高槻市特別顧問の依頼に関する要綱」が改正され、謝礼に関する規定は、「謝礼は、支給しないものとする。」と変更され、同年4月1日から実施されている。したがって、要綱に基づいて特別顧問から意見や助言が提示されたとしても、その後は公金の支出はされていないし、今後も上記要綱の下では公金の支出がなされることはあり得ない。よって、1審原告の特別顧問にかかる差止めの訴えは不適法であり、却下されるべきである。
イ 高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会
同運営委員会については、平成25年4月10日、「高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営事業実施要綱」が改正され、高槻市高齢者虐待防止ネットワーク連絡会議と名称を変更し、委員という概念を排除し、関係団体等の代表者が集まって情報交換をする場であることを明確にした。そして、平成25年度の予算措置から、同連絡会議に関する報償費を廃止し、実際に、平成25年2月20日に開催された運営委員会の委員に対する報償費の支出を最後として、その後は公金の支出はされていないし、今後、公金の支出がされることもない。よって、1審原告の同運営委員会にかかる差止めの訴えは不適法であり、却下されるべきである。
ウ 高槻市立障害者福祉センター運営協議会
平成25年3月29日、「高槻市立障害者福祉センター運営協議会要綱」は廃止され、現在、同運営協議会は存在しない。また、平成24年4月27日に開催された同運営協議会についての支払がされたのが最後であり、その後、協議会に関して公金の支出がされた事実もない(なお、上記謝礼金は、歳出予算に「報償費」として計上し、市議会での議決を経た後、同運営協議会の開催の都度、支出負担行為により支出を決定していた。予算の定めがあるものであれば、法令に反しない限り、要綱等に明文の根拠がなくとも支出は許されるというべきである。)。したがって、今後、同運営協議会に関して公金の支出がされることはない。よって、1審原告の同運営協議会にかかる差止めの訴えは不適法であり、却下されるべきである。
エ 高槻市採石等公害防止対策協議会
平成25年11月7日、同協議会は解散し、現在同協議会は存在しない。また、平成23年11月17日、同月25日、平成24年7月24日に開催され、それぞれの協議会に関して報償費の支払がされていたが、平成24年7月24日に開催された協議会に関する支払が最後であり、その後、同協議会に関して公金の支出がされた事実もない。したがって、今後、同協議会に関して公金の支出がされることはない。よって、1審原告の同協議会にかかる差止めの訴えは不適法であり、却下されるべきである。
6 上記主張に対する1審原告の反論
(1) 附属機関性について
1審被告の主張は争う。
(2) 原審が公金支出差止めを認容した各組織に関する公金支出が今後あり得ないとの主張について
1審被告の主張は争う。
ア 高槻市特別顧問、高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会、高槻市立障害者福祉センター運営協議会の要綱の改正又は廃止、高槻市採石等公害防止対策協議会の解散については、公布・告知・広報等は一切されず、議会にも報告されなかった。1審被告は、原審においても上記主張をしなかった。よって、原判決言渡後に、1審被告がこれらの事実を捏造したか、若しくは、1審被告が原審で勝訴した場合には、要綱改正等は初めからなかったものとして闇に葬ろうとしていたか、あるいは、再び報酬を支給する要綱の改正・要綱の復活等をしようとしていたと考えられる。また、要綱等を、1審被告の裁量で、勝手に改正したり、廃止したり、あるいは復活させたりということが可能であれば、控訴審判決言渡後に、再び同様の組織・機関・委員の類を設け、報酬支給等の公金支出を行うことも考えられる。よって、上記の4組織については、公金支出を差し止める必要がある。
イ 高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会について、1審被告は、ネットワーク運営委員会の謝礼金は、「高槻市介護保険特別会計」の「地域支援事業費」の「包括支援事業費」の「報償費」に含まれ、平成25年度以降は計上されていないという。しかし、決算調書や予算説明書を見ても、謝礼金が上記報償費に含まれているのかどうかは全く不明であり、その支出の有無も不明である。ネットワーク運営委員会が存続する以上、今後、謝礼金が本件訴訟終了後に復活し、予算ないし決算に紛れ込む可能性があるから、支出を差し止めるべきである。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は、当審で審判の対象となっている高槻市事業公開評価会、高槻市特別顧問、高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会、高槻市立障害者福祉センター運営協議会及び高槻市採石等公害防止対策協議会に関する公金支出の差止めを求める訴えはいずれも却下し、高槻市事業公開評価会、高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員、高槻市特別顧問及び高槻市立障害者福祉センター運営協議会に関してAに対する損害賠償請求をするよう求める請求はいずれも棄却するのが相当と判断する。その理由は、以下に補正し、後記2に当審における1審原告の主張(1審被告の主張に対する反論を含む。)に対する判断を、後記3に当審における1審被告の主張に対する判断をそれぞれ付加するほか、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」1ないし3(原判決32頁10行目から52頁末行まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決33頁18行目から34頁4行目までを、以下のとおり改める。
「(5) 高槻市特別顧問
証拠(甲D1、乙D7)及び弁論の全趣旨によれば、平成25年3月28日、「高槻市特別顧問の依頼に関する要綱」の4条が、従前の「特別顧問に対する謝礼は、日額15000円とする。」から「特別顧問に対する謝礼は、支給しないものとする。」に改正され、同年4月1日から実施されていることが認められる。また、これ以後、特別顧問に対する謝礼が支払われたことを認めるに足りる証拠はない。このような事実からすると、特別顧問に関して今後公金の支出が行われることが相当の確実さをもって予測されるとはいえない。
したがって、特別顧問に係る差止めの訴えは不適法である。
(6) 高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会
証拠(乙K4、5、7の1・2、8の1・2、9、10の1・2、11の1・2、12)及び弁論の全趣旨によれば、平成24年3月15日、ネットワーク運営委員会の委員のうち対象者に対し報償費として1人当たり日額9100円(合計3万6400円)が支出され、平成25年2月20日に開催されたネットワーク運営委員会についても、その出席に係る報償費として合計6万3700円が支出されていること、これらは、「高槻市介護保険特別会計」の「地域支援事業費」の「包括的支援事業費」の「報償費」として支出されていること、ところが、平成25年度(平成25年4月1日~平成26年3月31日)については、「高槻市介護保険特別会計」の「地域支援事業費」の「包括的支援事業費」の「報償費」として9万3000円が支出されているが、これにはネットワーク運営委員会の委員に対する報償費は含まれていないこと、平成27年度についても、「高槻市介護保険特別会計」の「地域支援事業費」の「包括的支援事業費」の「報償費」として58万円が計上されているが、これにはネットワーク運営委員会の委員に対する報償費は含まれていないことが認められる。また、平成25年度以降、ネットワーク運営委員会の委員に対し報償費が支払われたことを認めるに足りる証拠はない。このような事実からすると、ネットワーク運営委員会に関して今後公金の支出が行われることが相当の確実さをもって予測されるとはいえない。
したがって、ネットワーク運営委員会に係る差止めの訴えは不適法である。
(7) 高槻市立障害者福祉センター運営協議会
証拠(乙K9、L6)及び弁論の全趣旨によれば、センター運営協議会の設置根拠である「高槻市立障害者福祉センター運営協議会要綱」は、平成25年3月31日に廃止され、同協議会は現在存在しないこと、平成25年度中の報償費の支払はなかったことが認められる。また、平成26年度以降、センター運営協議会の委員に対し報償費が支払われたことを認めるに足りる証拠はない。このような事実からすると、センター運営協議会に関して今後公金の支出が行われることが相当の確実さをもって予測されるとはいえない。
したがって、センター運営協議会に係る差止めの訴えは不適法である。
(8) 高槻市採石等公害防止対策協議会
証拠(乙K9、Q7)及び弁論の全趣旨によれば、高槻市採石等公害防止対策協議会は、平成25年11月7日に開催された総会において解散が議決され、平成25年度中の報償費の支払はなかったことが認められる。また、平成26年度以降、同協議会の委員に対し報償費が支払われたことを認めるに足りる証拠はない。このような事実からすると、同協議会に関して今後公金の支出が行われることが相当の確実さをもって予測されるとはいえない。
したがって、高槻市採石等公害防止対策協議会に係る差止めの訴えは不適法である。」
(2) 原判決39頁6行目の「その調査を」を削除し、同行目から7行目にかけての「機関であり、」の次に「意見、助力の一環として」を加える。
(3) 原判決39頁19行目の「証拠はない」の次に「(高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員の依頼等に関する要綱(甲C1)をみても、特別調査員が準委任契約に係る受任者としての法律上の権利義務を有しているとは認められない。市は、上記要綱によって特別調査員を依頼しているのであり、これを離れた私法上の契約があると認めることはできない。なお、これらのことは、高槻市特別顧問にも当てはまる。)」を加える。
(4) 原判決51頁12行目の「多くの市において」から17行目末尾までを「多くの市において、各種の組織が法138条の4第3項の附属機関に準ずる機関として法律又は条例によらずに設置されていたものと認められ、本件各財務会計行為が行われた当時も、法138条の4第3項に照らし附属機関と認められるべき組織であっても、行政実務上は、これに該当しないものとして扱われていた例が少なからずあったものと推認しうる。」と改める。
(5) 原判決52頁11行目の「違法、」を「違法」と改める。
2 当審における1審原告の主張に対する判断
(1) 高槻市事業公開評価会について
ア 1審原告は、第2の4(1)アのとおり述べ、議会の承認を得ず、市長の裁量のみで高槻市事業公開評価会が行う職務を別の機関(高槻市行財政改革推進委員会)の分科会にさせるのは、附属機関は法律又は条例で設置すべしとする法138条の4第3項を潜脱する行為で許されず、今後も分科会と称して開催され、公金が支出されると考えられるから、評価会に関する公金支出の差止めは認められるべきであると主張する。しかし、「高槻市事業公開評価実施要綱」が平成25年4月16日に廃止され、これにより同要綱に基づき設置された評価会が今後開催される見込みがなくなったことは、引用に係る原判決の認定するとおりであり(原判決「事実及び理由」中の第3の1(2))、今後評価会の職務を附属機関として条例に基づき設置された高槻市行財政改革推進委員会の分科会が行いこれに関して公金が支出されることになったとしても、それをもって評価会に関する公金支出とみることはできない。したがって、1審原告の主張は採用することができない。
イ 1審原告は、平成24年10月3日に改正された「高槻市事業公開評価会実施要綱」では、評価会について評価を行わない組織に変更し、これにより組織としての存在理由はなくなったにもかかわらず、現在も組織を維持しているのであるから、評価会の真の目的は評価をすることではなく、開催すること自体にあったというべきであり、そのような評価会の評価者及びコーディネーターへ公金を支出することは、1審被告の裁量の逸脱・濫用という点からも違法であると主張する。しかし、上記の改正により評価会の組織としての存在理由はなくなったとか、評価会設置の目的が評価会の開催自体にあったことを認めるに足りる証拠はなく、1審原告の主張は採用することができない。
(2) 高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員について
1審原告は、特別調査員は調査をしておらず、調査の成果物も存在しない以上、特別調査員の活動自体、実態のないものと考えられ、これに対する報酬として公金を支出したことは違法であると主張する。しかし、引用に係る原判決の認定・説示するとおり(原判決「事実及び理由」中の第3の2(2)イ(ア))、特別調査員は、執行機関が、専門家から助言等を得ることによって、本件売上金不明事案に関する市の調査を推進することを目的として設置された機関であり、平成24年5月から同年6月までの間、特別調査員として選任された弁護士2名が、調査手法等について市の調査担当者らに指導助言したほか、自ら10名を超える交通部関係者や複数の運賃回収機器メーカー等からのヒアリングを実施したり、交通部営業所の視察を行い、その結果が市に報告されているのであって、これによれば、特別調査員の活動が実態のないものであったとはいえず、この点を理由に特別調査員に対する公金支出が違法であったとすることはできない。よって、1審原告の主張は理由がない。
(3) Aの故意・過失について
ア 1審原告は、第2の4(3)アのとおり述べ、他市で要綱等による附属機関に準じる機関の設置という違法行為が横行していたからといって、市長としての指揮監督義務違反が免責されてはならない、過失を認めた下級審の裁判例が存在している、複数の学説が対立することは往々にしてよくあることであり、それの決着を待たなければ司法や行政が判断を下せないということはなく、多くの判決で違法性及び首長の責任が肯定されているのであるから、行政としては、各判決に示された判断の中で最も厳しい基準を用いるべきであったなどとして、Aの故意・過失は認められるべきであると主張する。しかし、附属機関の意義について解釈を示したり、具体的な事例について附属機関該当性の判断を示した最高裁判例や、法律又は条例によらずに設置された附属機関に相当する機関に係る支出について、その適法性を判断した最高裁判例は存在せず、下級審裁判例レベルでも、附属機関の意義の解釈やそのあてはめについて確立した判断が形成されていたとまでは認め難いこと、学説も「附属機関」の意義の解釈について必ずしも一致をみていなかったこと、本件各財務会計行為が行われた当時、法138条の4第3項に照らし附属機関と認められるべき組織であっても、行政実務上は、これに該当しないものとして扱われていた例が少なからずあったものと推認しうることなど、上記第3の1(4)で補正の上引用した原判決の認定・説示(原判決「事実及び理由」中の第3の3(2)、(3))に照らすと、Aが、故意又は過失により、本件各組織等に係る支出負担行為等について、自ら行わない義務又は市の職員が行うことを阻止すべき指揮監督上の義務に違反したとまでは認められないというべきである。よって、1審原告の主張は採用できない。
イ 1審原告は、高槻市特別顧問について、何の成果も上げていないばかりか、当初から無駄であり、かつ、特別顧問として選任された者も顧問としての適格性は認められず、Aが私的に選挙応援の見返りに設けたものとしか考えられないから、Aには故意・過失があり、特別顧問につき支出された公金を賠償する責任があると主張するが、係る主張事実を認めるに足りる証拠はなく、1審原告の主張は理由がない。
ウ 1審原告は、高槻市立障害者福祉センター運営協議会について、「高槻市立障害者福祉センター運営協議会要綱」には報酬の定めがなく、したがって、1審被告は、明文上の根拠なく公金を支出したのであるから、市長であるAは、故意又は過失により、当該債務負担行為について、自ら行わない義務又は市の職員が行うことを阻止すべき指揮監督上の義務に違反したというべきであると主張する。
法203条の2第1項、第3項、第4項によれば、普通地方公共団体の非常勤の職員に対する報酬及び費用弁償の額並びにその支給方法は、条例でこれを定めなければならないとされている。引用に係る原判決の認定のとおり、高槻市立障害者福祉センター運営協議会は、法138条の4第3項、202条の3第1項の附属機関に当たると認められるところ(原判決「事実及び理由」中の第3の2(2)サ)、附属機関を組織する委員その他の構成員は、非常勤とされているから(法202条の3第2項)、この者らに対する報酬及び費用弁償の額並びにその支給方法は、法203条の2第4項により、条例でこれを定める必要があるというべきである。ところが、高槻市立障害者福祉センター運営協議会の委員に対する報酬及び費用弁償の額並びにその支給方法につき定めた条例が存在することは証拠上認められず、そうすると、同協議会の委員に対する報償費の支払(原判決「事実及び理由」中の第2の3(2)サ(イ)。これは、その性質上報酬の支払ないし費用弁償に当たると解される。)は、違法といわざるを得ない。
しかし、Aにおいて、本件各財務会計行為が行われた当時、本件各組織等が附属機関に該当すること、さらには、自らや市の職員が各財務会計行為を行うことが違法であり、これによって市に損害を与えることになることを認識し又は認識し得たものとまで認められないことは、引用に係る原判決の説示するとおりである(原判決「事実及び理由」中の第3の3(3))。そして、そうである以上、Aにおいて、高槻市立障害者福祉センター運営協議会の委員が法203条の2第1項の非常勤の職員に該当し、これに対する公金支出が法203条の2第4項に従い条例の定めによらなければならないことを認識し又は認識し得たとまでは認め難いというべきである。以上によれば、Aに1審原告の主張するような故意過失は認められず、1審原告の主張は採用できない。
(4) 高槻市特別顧問、高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会、高槻市立障害者福祉センター運営協議会、高槻市採石等公害防止対策協議会に関する公金支出について
ア 1審原告は、高槻市特別顧問、高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会、高槻市立障害者福祉センター運営協議会の要綱の改正又は廃止、高槻市採石等公害防止対策協議会の解散については、公布・告知・広報等は一切されず、議会にも報告されず、1審被告は原審においても上記主張をしなかったのであるから、原判決言渡後に、1審被告がこれらの事実を捏造したか、若しくは、1審被告が原審で勝訴した場合には、要綱改正等は初めからなかったものとして闇に葬ろうとしていたか、あるいは、再び報酬を支給する要綱の改正・復活等をしようとしていたと考えられるなどとして、上記各組織等について公金支出を差し止める必要があると主張する。しかし、上記各組織等に関して今後公金の支出が行われることが相当の確実さをもって予測されるといえないことは、本判決第3の1(1)で原判決を補正して説示したとおりであり(1審被告が上記要綱の改正又は廃止・公害防止協議会の解散の事実を捏造したなどとの1審原告の主張は、これを認めるに足りる証拠はなく、1審原告の憶測の域を出ないというべきである。)、1審原告の主張は、上記判断を左右するに足りない。よって、1審原告の主張は採用することができない。
イ 1審原告は、高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会の謝礼金が「高槻市介護保険特別会計」の「地域支援事業費」の「包括支援事業費」の「報償費」に含まれ、平成25年度以降は計上されていない旨の1審被告の主張について、決算調書や予算説明書を見ても、謝礼金が上記報償費に含まれているのか否かやその支出の有無は不明であり、ネットワーク運営委員会が存続する以上、今後、謝礼金が本件訴訟終了後に復活し、予算ないし決算に紛れ込む可能性があるから、支出を差し止めるべきであると主張する。しかし、平成24年3月15日と平成25年2月20日、ネットワーク運営委員会の委員に対する報償費が「高槻市介護保険特別会計」の「地域支援事業費」の「包括的支援事業費」の「報償費」として現実に支出されていること、平成25年度については、「高槻市介護保険特別会計」の「地域支援事業費」の「包括的支援事業費」の「報償費」として9万3000円が支出されているが、これにはネットワーク運営委員会の委員に対する報償費は含まれていないことは、第3の1(1)で原判決を補正して説示したとおりであって、これによれば、1審原告の主張する可能性があるとは認め難い。よって、1審原告の主張は採用することができない。
3 当審における1審被告の主張に対する判断
(1) 1審被告は、第2の5(2)のとおり述べ、本件各組織等はいずれも法138条の4第3項の「附属機関」に当たらないと主張する。しかし、その主張が採用できないことは、第3の1(2)、(3)で補正の上引用した原判決(「事実及び理由」中の第3の2)の説示するとおりである。
(2) 1審被告は、原審が公金支出差止めを認容した各組織に関する公金支出が今後あり得ないと主張する。この点については、第3の1(1)で原判決を補正して説示したとおりである。
4 結論
以上によれば、当審において審判の対象となっている高槻市事業公開評価会、高槻市特別顧問、高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会、高槻市立障害者福祉センター運営協議会及び高槻市採石等公害防止対策協議会に関する公金支出の差止めを求める訴えはいずれも不適法であるから却下し、高槻市事業公開評価会、高槻市営バス営業所売上金不明事案特別調査員、高槻市特別顧問及び高槻市立障害者福祉センター運営協議会に関してAに対する損害賠償請求をするよう求める請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。よって、1審原告の本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がないから棄却し、原判決中、高槻市特別顧問、高槻市高齢者虐待防止ネットワーク運営委員会、高槻市立障害者福祉センター運営協議会及び高槻市採石等公害防止対策協議会に関して公金支出の差止めを命じた部分は相当でないから、1審被告の控訴に基づきこれを取り消した上、同取消部分に係る1審原告の訴えをいずれも却下することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 角隆博 裁判官 坂倉充信 中川正充)