大阪高等裁判所 平成26年(行コ)29号 判決 2014年11月27日
主文
1 原判決主文第2項を取り消す。
2 上記取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要等
1 本件は、控訴人が管理するa公園(以下「a公園」という。)において集会を行うことの許可の申請(以下「本件許可申請」という。)をしたところ、控訴人の職員から当該許可をすることはできない旨の回答(以下「本件回答」という。)を受けた被控訴人が、本件回答は本件許可申請に対する公園内行為不許可処分に当たるとして、その取消しを求めるとともに、a公園で集会を開催できなかったことによって集会の自由を侵害されたとして、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料10万円の支払を求めた事案である。なお、被控訴人は、本件回答に先立ち、控訴人の管理するd公園(以下「d公園」という。)での集会の許可申請をし、同許可を得て(以下、「d公園使用許可申請」及び「d公園使用許可」という。)、d公園で、本件許可申請に係る集会と同日時に同規模の集会を実施した。
原審は、本件回答は処分ではなく、また、本件許可申請に係る集会の予定日は既に経過していることから、公園内行為不許可処分取消しの訴えは不適法であるとして却下し、国家賠償法上の請求については、5万円を認容し、その余の請求を棄却した。
控訴人が、敗訴部分を不服として控訴した。
2 前提となる事実
(1) 当事者等
被控訴人は、大阪府八尾市に居住しており、b会c支部(以下「c支部」という。)に所属している。
(2) 条例の定め
八尾市都市公園条例(八尾市昭和43年条例第18号。ただし、八尾市平成24年条例第8号による改正前のもの。以下「本件条例」という。甲3。)4条1項は、控訴人の管理する公園(都市公園法2条1項に規定する都市公園をいう。以下同じ。)において、行商、募金その他これらに類する行為をすること(1号)、業として写真又は映画を撮影すること(2号)、競技会、展示会、博覧会その他これらに類する催しをすること(3号)、前各号に掲げるもののほか、公園の全部又は一部を独占して利用すること(4号)の各行為をしようとする者は、八尾市長の許可を受けなければならない旨規定する。
同条4項は、八尾市長は、同条1項各号に掲げる行為が公衆の公園の利用に支障を及ぼさないと認められる場合に限り、同項の許可を与えることができる旨規定する。
同条5項は、八尾市長は、同条1項の許可に公園の管理のため必要な範囲内で条件を付することができる旨規定する。
(3) a公園での平成23年集会
被控訴人は、八尾市長から公園内行為許可を受けて、平成23年10月16日、a公園において参加予定人数を100人とする集会(以下「平成23年集会」という。)を行った。
(4) 本件許可申請
被控訴人は、a公園における300人規模の集会及び集会後のデモを予定して、平成24年1月16日、「行為の期間」を同年3月18日午前11時から午後4時、「行為の場所」をa公園、「行為の目的」を「c地区3家族の住宅追い出し許すな 道州制反対・橋下打倒集会」と称する集会(以下「本件集会」という。)の開催と記載した申請書(甲1。以下「本件申請書」という。)を提出し、本件許可申請をした。
(5) d公園使用許可申請及び本件申請書の返戻
被控訴人は、平成24年1月26日、控訴人の土木部みどり課(以下「みどり課」という。)C課長ら職員と被控訴人及びその同行者らとの協議(以下「本件協議」という。)の場で、a公園に係る本件許可申請を許可することはできないため、d公園で集会を行うよう勧められ、d公園使用許可申請を行い、他方、本件申請書は、同課職員から被控訴人に返戻され、被控訴人はこれを持ち帰った。
(6) 本件回答
被控訴人は、平成24年2月1日、みどり課において、本件許可申請について、100人規模の平成23年集会よりも規模の大きい集会では、他の利用者が公園の広場を利用できないと考えられ、公衆の公園の利用に支障を及ぼすおそれがあると考えられるため、本件条例4条4項に基づき、許可をすることができない旨回答するものです等と記載された「a公園での公園内行為許可申請についての回答」と題するC課長名義(「八尾市 土木部 みどり課長 C」名)の本件回答を記載した書面(以下「本件回答書」という。)を受け取った。
(7) d公園使用許可
八尾市長は、平成24年2月1日、d公園のうち八尾市長の指定する部分(南側部分・面積約757.5m2)において集会を行うことを許可するd公園使用許可をした。
(8) 被控訴人は、平成24年2月13日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。
(9) d公園での集会の実施
被控訴人は、平成24年3月18日、d公園使用許可に係る集会(以下「d公園集会」という。)を行った。
3 争点及びこれに対する当事者の主張は、4、5項のとおり当審における当事者の主張を付け加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「2 争点(2)」及び「3 争点に関する当事者の主張(2)」に記載のとおりであるからこれを引用する。
4 当審における控訴人の主張
以下の事情からすると、みどり課の職員が被控訴人に対し、本件許可申請は許可できない旨告げて、d公園使用許可申請を提出して同公園で集会を開催するよう求めたこと(以下「本件指導」という。)は、国家賠償法上違法ではない。
(1) 本件許可申請は許可しないことができること
ア 集会の自由に対する実質的侵害がないこと
公園の使用許可の判断には、利用を拒否することが申請者の集会の自由を実質的に侵害することにならないかどうかの検討が最重要と考えられる。本件では、本件許可申請に対する許可の代わりにd公園使用許可がされたことにより集会が実施されているところ、d公園とa公園とはわずか250メートル程しか離れておらず、また、同一地区内にあり、ただ地区住民居住地域の中心部分にあるのかそうでないのかだけの違いにとどまることからすれば、a公園の使用を認めなかったからといって集会の自由が否定されたものではない。
イ 本件条例の基準について
本件条例について、公衆の利用に支障を及ぼす事態が客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合に初めて公園の利用を許可しないことができると定めたものと解したとしても、以下のとおり、本件集会は上記の要件に該当し、本件許可申請は許可しないことができるものであった。
(ア) d公園やa公園は、都会の喧噪の中にある大規模な公園とは異なり、規模も小さく、特にa公園は静かな住宅街の中に立地しており、遊具もあるので、親子連れや子供が遊んだり高齢者が散策したり運動することを予定している公園である。
(イ) 本件集会は、参加予定者が300人を予定し、それは労働者が全国から集結するものであることを控訴人は事前に把握した。その人数は平成23年集会の参加者約80人の3倍半を超え、控訴人の管理する公園では過去に行われたことのない規模のものであった。集会では多数ののぼりを立て横断幕を張り拡声器を使うことも判明していた。
(ウ) 本件集会は、日曜日の午前11時から午後4時までという日曜日の昼を挟んだ時間帯であり、子供や親子連れ及び高齢者の利用頻度が特に高い時間帯であった。
(エ) 平成23年集会の際も近隣住民から、公園内に入れない雰囲気であり迷惑しているとの苦情があったところ、本件集会の規模は上記のとおりそのときの3.5倍を超えるものであった。
(オ) 実際にも、d公園集会は、被控訴人が自ら宣伝しているところでは600人が全国から結集したというのであり、集会の状況は公衆が公園を利用することなど到底できない状況であった。
(2) 本件許可申請の取下げの任意性
また、被控訴人は、みどり課の職員及び被控訴人の同行者数名が同席する場で、みどり課の職員からd公園の使用を勧められ、本件協議の際にd公園使用許可申請を行うとともに、その場で本件申請書の返戻を受け、その後はd公園での集会の開催についてどの方向で行うのが良いかなど話し合っており、この時点では、被控訴人は、一応d公園で行うことを納得していたことを示すものである。したがって、本件許可申請は任意に取り下げられたものと認められる。
原判決は、当初希望していたa公園でないことをことさら重視し、本件許可申請の取下げは任意性に欠けるとの誤った判断をしている。
(3) 本件指導の態様等
a公園は、住宅地の中にある小規模な公園なので、公園管理者には周辺地域住民の平穏な生活環境を保全し、住民の公園の通常の方法による利用と集会のための利用との調整が公園としての使命を十分達成せしめるための管理上求められるところである。これは必要不可欠の行政課題であり、みどり課の職員が、本件許可申請に対し、a公園の特性とd公園の特性とを比較考慮してd公園で行うよう勧めたことは、上記地域住民の平穏な生活環境を保全し、住民生活の安全と安心を守るうえで適正な公園管理を行うための利用の調整をしたものであって、違法な公権力の行使には当たらない。
また、本件指導は、みどり課の職員が本件許可申請後被控訴人と何度も協議し、最終的に本件協議に至ったものであって、双方の見解を示しながら時間をかけて誠実に対応したものである。このように、実質的に集会の自由が侵害されていないことと侵害の態様を考慮すれば本件指導に違法性はない。
5 控訴人の主張に対する被控訴人の反論
(1) 本件申請を許可しないことは、憲法21条、地方自治法244条に違反し違法である。
ア 集会の自由に対する侵害
本件集会は、八尾市の家賃制度の導入によるc地区の住宅問題を訴えるもので、控訴人は、この問題をめぐって住民が団結し、闘いが全国化していくことを恐れ、住民の参加を押さえるべく本件集会を不許可にした。控訴人は、本年7月8日に申請したa公園内行為許可申請に対しても不許可にしている。
控訴人は、d公園で集会が実施されたことから集会の自由の侵害はなかった旨主張する。しかし、集会する場所を私的に持たない労働者住民にとって、集会する場所を自由に利用する権利は集会の自由と一体不可分の関係にある。集会する場所を自由に利用する権利が制限されると集会の自由は成立しない。
被控訴人は、住民自身の関心が高い住宅問題等について被控訴人や集会参加者の考えが住民に届き、参加しやすい場所に団結して共に集える公園としてc地区の中心に位置するa公園を集会場として選んで本件許可申請をした。控訴人は、地区往民の居住地域の中心にあるかそうでないかのわずかな違いであると主張するが、これは決して小さな問題ではなく、決定的な差がある。控訴人は、集会者が希望する公園を許可すべきである。その上でa公園を利用する上でどのようにすれば地域住民の利用と両立できるかを協議すべきであった。
集会場の使用不許可は、被控訴人らの政治的意見を訴える表現の自由を侵害したにとどまらず、地域住民の政治的意見形成を妨げるものであり憲法21条、地方自治法244条違反である。
イ 本件条例との関係
公園は集会が予定された公共施設である。本件条例によれば、このような公園の集会目的での利用を拒否できるのは、人の生命身体又は財産が侵され公共の安全が損なわれる危険性が客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測される場合に限る、本件集会は、a公園の規模、構造、設備等の点からも、集会の参加人数や予測される雰囲気や占用の程度、発生する音等の点からも客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されたものとは認められない。
よって、本件許可申請を許可しないことは許されず、本件指導は違法である。
(2) 本件許可申請の取下げの任意性
被控訴人は本件許可申請を任意に取り下げたことはない。C課長は本件協議において「お貸しすることはできない。」と不許可とすることを明言し、被控訴人としては、日程的に集会の呼びかけを全国にするために集会要項を定めなければならないぎりぎりのところにきていたため、d公園使用許可申請をしたにすぎない。控訴人が行ったことは取下げの強制であった。
(3) 控訴人は、本件許可申請を許可しないとした一方で、被控訴人でない他の団体には、確定申告相談会として2日間にわたり使用することを長年にわたって認めている。これは、控訴人が、明らかに政治的意図をもって控訴人を批判する集会を不許可にしていることのあらわれで、不当な差別的取扱いに該当する。
第3当裁判所の判断
1 認定事実
前記第2の2の事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) d公園とa公園は、いずれも控訴人のc地区に存在する公園である。同地区には中心部に市営c住宅が存し、a公園は、市営c住宅に四方を囲まれた位置にある。他方、d公園は、a公園より北へ約250メートルの位置にあり、c地区の北端部にある。d公園の北側は第二寝屋川で、その対岸には工場が点在し、同公園の西側には道路を挟んでg公園及びi公園が、南側にはh公園がある。
a公園の全体の面積は約6900m2であるが、a公園は、北側部分に築山、砂場等の遊具施設があるほか、東西両側にも遊具や休養施設があり、自由広場はこれら遊具のある部分を除いた中間の部分の約2018m2である。他方、d公園の全体の面積は約4000m2であるが、同公園には遊具はなく全体が広場となっており、外周の樹木の植え込みや、テーブルや椅子が設置されている部分を除くと、自由広場の面積は約2524m2となる。(甲6、19ないし28、乙3、5、6、12、13、18ないし21、弁論の全趣旨)
(2) 被控訴人は、平成24年1月16日、本件申請書をみどり課に提出して本件許可申請を行ったが、このとき、同課のB係長に対し、本件集会には300名が参加し、本件集会後デモをする予定である旨伝えた。
(3) B係長は、平成24年1月16日又は同月17日、被控訴人に電話をかけ、本件集会の会場をa公園からd公園に変更することはできないか打診するとともに、本件許可申請に係る公園の使用目的、本件集会の予定、デモの有無について詳細を聞かせてほしいと依頼した。これに対し、被控訴人は、会場の変更はできない旨回答した。
(4) 被控訴人は、同月18日、「a公園使用申請」と題する書面(乙1)をみどり課に持参し、みどり課の職員との面談を求め、B係長ら職員2名が応接コーナーで対応した。上記書面には、使用目的が「c地区住民3家族が八尾市から強制執行で追い出されようとしていることに反対することを訴える集会」であり、集会の後j住宅の方までデモの予定であること、参加者は全国から支援の労働者らも集まることなどが記載されており、このとき被控訴人からみどり課の職員に対し、口頭で、参加者は300人くらい、平成23年集会の参加者は100名弱であったことの説明がなされた。この際、みどり課の職員は、参加人数を減らすことはできないかを再度打診し、また集会室ではだめなのかを質問したが、被控訴人は、人数を減らすことはできないが、使用時間は午後0時半から午後3時半くらいに変更することが可能である旨を伝えた。
(5) 被控訴人は、同月19日、前日の話合いでの様子から本件許可申請が不許可になるのではないかと危惧し、D市議会議員やc支部の支部員らと相談し、D市議ら4名と共に(以下、被控訴人とあわせて「被控訴人ら」という。)みどり課を訪れ、協議を申し入れた。C課長及びみどり課の職員2名は話合いに応じ、C課長は、被控訴人らに対し、参加者が300名となると他の公園使用者に迷惑がかかること、子供の遊戯場があること等を理由に、a公園を貸すことは難しい旨を伝え、規模を縮小できないかと再度聞いたが、被控訴人らは、時間を短くすることや遊具のある場所には立ち入らないようにすることはできるが人数は縮小できない旨答えた。みどり課の職員は、検討の上後日結果を報告すると伝えた。
(6) 平成24年1月25日、B係長から被控訴人に連絡があり、明日回答をするからD市議も一緒に来てほしいと伝えられた。
(7) 平成24年1月26日に開催された本件協議には、被控訴人らとC課長及び2名のみどり課の職員とで行われた。その内容は次のとおりである。(甲29、甲45)
ア C課長は、最初に本件集会の人数を減らすことはできないのかを被控訴人らに再度確認し、本件集会は平成23年集会に比べて人数が300人と多くなることから、被控訴人が人数を変えるつもりがないのであれば、控訴人としての広場の確保が困難になるためa公園を貸すことはできない旨の発言をした。C課長は、d公園であれば問題がないことも被控訴人らに伝えた。
イ 被控訴人らは、人数を減らすことはできないが、本件条例では公園を独占的に使用することも認められていること、本件集会は使用範囲や使用時間が限定されていること、d公園とa公園では面積が同程度であること等の理由から、本件許可申請が許可されないことが不当である旨を主張した。しかし、C課長は貸すことはできないとの見解を変えなかった。
ウ 被控訴人らは、本件許可申請に対する不許可には納得できないが、集会の準備期間との兼ね合いからいったんはd公園をおさえておく必要があるので本件d公園使用許可申請をすること、本件許可申請を不許可とされる点については別個に裁判等を検討することとし、そのために不許可の理由を記載した書面がほしいことを告げ、C課長はこれを承諾した。
エ そこで、被控訴人は、d公園使用許可申請書を作成することとし、みどり課の職員に対して本件申請書を見せるよう求め、同課職員により出された本件申請書を見ながらd公園使用許可申請書を作成した。この間、被控訴人らは、なおもa公園はc地域の中心に位置するのに対し、d公園は同地域の端に位置するものであり、住宅街の端で集会をしても意味がない、集会の内容が伝わらないといけないので、デモでは伝わらないことなど、本件許可申請が許可されないのは不当である旨をさらに述べた。
オ 被控訴人は、d公園使用許可申請書を完成させ、さらに、被控訴人らは、d公園の図面を見ながら、集会を公園内のどの部分を借りてどの方向で行うのがいいか、トイレはあるか等を話したりし、使用を希望する部分を図面上指示して、d公園使用許可申請書と共に提出した。
カ 被控訴人が帰り際にC課長に対し本件許可申請に対し許可できない理由を記載した文書をいつどこでもらえるのか聞いたところ、C課長は、d公園使用許可申請に対する許可書を交付する時に併せて交付するのでよいか被控訴人に尋ね、被控訴人から急いで欲しいと言われたのに対し、できるだけ早く決裁をとるようにし、6日後の平成24年2月1日には交付する旨被控訴人に約束した。被控訴人はこれを承諾し、急いで欲しい旨述べて返戻された本件申請書を自分の鞄にしまい、D市議は、まだ時間はあるから、あくまでa公園を追求していると発言し、本件協議は終了した。
(8) 本件許可申請を不許可とする理由を書面にしたものとして、平成24年2月1日、被控訴人に対し、前記第2の2(6)のとおり本件回答書が交付されるとともに、同日付でd公園使用許可が出された。同許可において、使用できる範囲として八尾市長が指定した部分757.5m2は、被控訴人が上記(7)オで指示した部分である(甲4の①②、乙2)。
(9) d公園集会には、全国から労働者、学生など約300人が結集し(被控訴人の配布したビラによれば600人)、ヘルメットをかぶり、拡声器を使用し、横断幕やのぼりを携行する者が多数集まった(乙10)。
2 争点(控訴人の賠償責任の存否並びに損害の有無及び額)
(1) 被控訴人は、被控訴人が本件許可申請を任意に取り下げた事実はなく、本件指導は、控訴人が被控訴人に対し、本件許可申請を取り下げ、d公園使用許可申請を行うことを余儀なくさせた強制にわたるもので違法である旨主張するので、まずこの点を検討する(なお、被控訴人は、控訴人の職員による違法行為として、本件許可申請に対する不許可処分が違法である旨主張するところ、C課長による本件回答をもって不許可処分と認めることができないことは原判決記載のとおりである。)。
前記1で認定したとおり、控訴人は、平成24年1月16日又は17日から同月18日、19日にかけて、被控訴人の要望に応じて協議を重ね、同月26日の本件協議は、あらかじめ被控訴人に対しD市議らと複数で来庁するよう伝えた上で実施され、C課長から被控訴人らに対し、a公園は子供や高齢者の休日における利用頻度が高く、これらの住民の利用が妨げられるので、平成23年集会の規模であれば許可できるが、300人規模の集会では許可できない見通しであること、他方、近隣のd公園であれば許可ができることを説明したこと、被控訴人らはこれに対し反対意見を述べつつも、d公園であってもその面積や場所からして本件集会と同規模の集会が開催可能であること、被控訴人らにとってはむしろ、できるだけ早期に集会の場所を決めて全国への呼びかけ等の準備期間を確保することが重要であること、控訴人から本件許可申請を許可しないとの態度に出られたことについての責任追及はC課長からその理由を記載した書面をもらうことで争うこともできると考えたことから、本件指導に従って本件許可申請を取り下げ、d公園使用許可申請を行うことを決めたことが認められる。こうして、被控訴人は、C課長に対し、本件許可申請を許可できない理由を文書で出すよう要請した上で、d公園使用許可申請を提出し、6日後の平成24年2月1日にはd公園使用許可申請に対する許可及び本件回答書を受領できることを確認の上返戻された本件申請書を持ち帰ったものである。なお、被控訴人は、d公園使用許可申請を出すにあたり、同行した被控訴人らと同公園内のどの方向で集会をすれば良いか等も協議し、希望する使用範囲も定めた。なお、d公園使用許可において指定された位置も被控訴人の希望したとおりである。
以上の事実によれば、被控訴人は、本件許可申請が不許可の見通しであること、他方、近隣のd公園であれば速やかに許可が得られること、集会を事前に周知するためなどの準備期間の必要性等自らの利害得失の判断から、d公園使用許可申請をした上で本件許可申請を取り下げ、本件指導の違法は別途争うことを選択したものと認められ、被控訴人のこのような判断が、控訴人からの強制によるものとまではいえない。
被控訴人は、d公園使用許可申請をしたのは本件許可申請が許可されないと言われたためやむを得ずした次善の策であって本意ではなかった旨主張するが、次善の策であっても、他の諸般の事情を総合考慮した上で任意に選択することは十分あり得るし、被控訴人は、本件許可申請を取り下げないことによって不利益を受けるわけではなく、同申請を維持する選択肢があることも十分理解していたが、本件では、本件許可申請が許可されないと言われたこと自体については別途争うことを選択し、その準備として書面の交付の確約まで得ていることに照らしても、本件許可申請の取下げ等について被控訴人の任意性を否定することはできない。
(2) そして、本件指導が上記のとおり被控訴人の任意性を損なわない方法で行われたものであることに加え、本件指導が単に被控訴人に本件許可申請を取り下げさせる目的で行われたものではなく、a公園とd公園の規模や立地等を考慮し、被控訴人に対し、d公園での集会を勧め、本件集会と同等の集会を実現する機会を与えることにより、本件許可申請が不許可となることによる被控訴人の不利益の発生を避け、もって周辺住民の利用利益と被控訴人の集会の自由を調整しようとしたもので、結果的にも、被控訴人は、d公園において本件集会で予定されていたのと同じ日に、利用時間、参加人数等を当初の希望から変更することなく集会を開催することができたものであり(乙10)、当初希望していたa公園ではなかったものの、被控訴人の集会の自由が本件指導によって実質的に侵害されたとまではいえない。以上からすれば、本件指導には、国家賠償法上の賠償責任を発生させるまでの違法性は認められないというべきである。
(3) ところで、本件指導は、本件許可申請が不許可となるとの見解に基づいて行われているところ、原判決説示のとおり、本件条例4条4項は、八尾市長において、公園の利用に支障を及ぼす事態が客観的な事実に照らし具体的に明らかに予測される場合に初めて公園の利用を許可しないことができることを定めたものと解されるから、みどり課の職員が、本件申請がそのような要件に該当しないことが明らかであったにもかかわらず、本件集会の開催を制限するため本件指導を行い、これにより被控訴人の集会の自由を侵害したといえる場合には、仮に被控訴人が同指導に任意に従った場合であっても、違法な公権力の行使として損害賠償請求権が発生する場合があるものと考えられる。
そこで本件についてみてみると、本件集会は、休日の昼間に前回の平成23年集会の3倍を超える300人の参加者を予定し、全国から労働者が結集して、公園内にのぼりと横断幕が多く掲げられたり、その規模等から拡声器の音量も大きくなることが予想されるところ、a公園が四方に住居が存在するなど静かな住環境の中にあり、遊具等を設置するなどして親子連れや子供たちが遊んだり、高齢者が健康維持のために散策したり運動したりすることを予定していることから、控訴人において、性質上速やかな応答が求められる本件で、許可申請から10日程度しか経過していない本件協議の時点で、本件集会の実施が公園の利用に支障を及ぼす事態が客観的な事実に照らし具体的に明らかに予測されるとして、代替公園として、a公園から250メートルくらい離れた場所にあるが、同じc地区にあって集会のために使用できる自由広場の面積も広いd公園を勧めることは、周辺住民の利益と被控訴人の集会の自由の保障との調整として首肯できるものであり、本件指導を違法な公権力の行使と評価することはできず、また、少なくとも控訴人の故意又は過失の存在を肯定することはできない。
(4) 被控訴人は、集会の自由は場所的自由を含むものであるから、被控訴人が集会を希望する場所で集会をさせなければ集会の自由が侵害される旨の主張をする。
集会の自由は、表現の自由の一態様として憲法21条1項により保障されているものであって、集会の中には、その目的に照らし、一定の場所で行うことが重要な意味を有するものも存在するから、権利者の希望する場所での集会ができないことによって、実質的に表現の自由が侵害されていると評価すべき場合も存在する。
本件においてこれをみると、被控訴人によれば、行為の目的はc住民の住宅追い出し反対集会という八尾市c地区の市営住宅に居住する3家族に対する控訴人による追い出しに反対すること等を目的とするものであり、c地区で集会をすることに意味があることが認められる。また、300人の参加人数の規模に見合った広さを有すること、全国からの支援者が集合するためa公園と同等の利便性も考慮すべきである。
このような観点から検討すると、d公園は、a公園と同じくc地区にあり、同公園とは250メートルくらいしか離れていないほか、d公園とa公園の自由広場の面積については、d公園が約2524m2であるのに対して、a公園は約2018m2と、d公園の方が広く、本件集会の規模の人数に対応するのに十分であることからすれば、d公園が上記の要件を一応満たしていることは明らかである。
被控訴人は、同じ地区内であっても、d公園は同地区の北のはずれにあり、a公園は地区の中心部にあるから、a公園のような住宅の中心で集会を行うことに大きな意味がある旨主張するが、このような場所によるアピール効果は主観的なものであり、客観的にみた場合に、集会の場所が、250メートルくらいしか離れていないa公園かd公園かによって、集会の自由の実現の程度に格別の差が生じるとは考え難い。しかも、本件集会は、その後にデモ行進を予定していたのであるから、集会で形成された意見は、デモ行進により住民に広く周知することができたし(集会そのものの内容を集会に参加していない周辺の住民にも聞いてもらうことに意味があると主張するが、それは派生的な事実上の効果にすぎず、集会の自由と同等に保護すべきとまではいえないし、翻って考えると迷惑を感じる周辺住民の存在も考えられる。)、実際にもd公園集会の後は周辺でデモ行進が行われ(甲53)、c地区の住民に自分たちの考えを知らせることができたといえる。
したがって、被控訴人がd公園で集会を実施したことによって表現の自由が実質的に制約されたとは認められないし、仮に制約された点があったとしても、その違いはわずかであって、損害賠償請求権を発生させる程度には至らないものである。よって、被控訴人の上記主張は前記判断を左右するものではない。
(5) 上記のとおり集会の自由の実質的な侵害がない以上、不当な差別的取扱いということもできない。
(6) よって、本件指導をもって、みどり課の職員による違法な公権力の行使と評価することはできないなど、被控訴人の国家賠償法に基づく請求は理由がない。
第4結論
以上の次第で、被控訴人の国家賠償法上の損害賠償請求は理由がないから棄却すべきである。よって、当裁判所の判断と一部異なる原判決を変更することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 志田博文 裁判官 下野恭裕 土井文美)