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大阪高等裁判所 平成26年(行コ)76号 判決 2014年9月24日

主文

1  本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を次のとおり変更する。

2  大阪市長が,控訴人Aに対し,平成24年6月14日付けでした同控訴人の同年5月17日付けの公開請求に対する部分公開決定(大建第21577-2号)のうち,非公開とした部分を取り消す。

3  近畿地方整備局長が,控訴人Bに対し,平成24年3月29日付けでした同控訴人の同年1月31日付けの行政文書の開示請求に対する行政文書開示決定(国近整総情第5344号)のうち,不開示とした部分を取り消す。

4  近畿地方整備局長が,控訴人Aに対し,平成24年6月18日付けでした同控訴人の同年5月17日付けの行政文書の開示請求に対する行政文書開示決定(国近整総情第1058号)のうち,不開示とした部分を取り消す。

5  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,(1)控訴人Aが平成24年5月17日付けで大阪市長に対し大阪市情報公開条例(平成13年大阪市条例第3号。以下「情報公開条例」という。)に基づき公文書の公開を請求したところ,大阪市長から平成24年6月14日付けで部分公開決定(大建第21577-2号。以下「本件部分公開決定」という。)を受けたため,その非公開部分の取消しを求め,(2)控訴人Bが同年1月31日付けで近畿地方整備局長に対し行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)に基づき行政文書の開示を請求したところ,近畿地方整備局長から同年3月29日付けで行政文書の一部を開示する決定(国近整総情第5344号。以下「本件一部不開示決定1」という。)を受けたため,その不開示部分の取消しを求め,(3)控訴人Aが同年5月17日付けで近畿地方整備局長に対し情報公開法に基づき行政文書の開示を請求したところ,近畿地方整備局長から同年6月18日付けで行政文書の一部を開示する決定(国近整総情第1058号。以下「本件一部不開示決定2」といい,本件一部不開示決定1と併せて「本件各一部不開示決定」という。)を受けたため,その不開示部分の取消しを求めた事案である。

原審は,(1)の請求につき,大阪市長の控訴人Aに対する本件部分公開決定のうち,原判決別紙1記載の各部分を非公開とした部分を取り消し,その余を棄却し,(2)の請求につき,近畿地方整備局長の控訴人Bに対する本件一部不開示決定1のうち,原判決別紙2記載の各部分を不開示とした部分を取り消し,その余を棄却し,(3)の請求を棄却したので,控訴人らがそれぞれその敗訴部分を不服として控訴した。

2  情報公開条例の定め,前提事実,争点,当事者の主張は,次のとおり補正し,3において当審における控訴人Aの主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中第2の2ないし5(原判決3頁2行目から31頁10行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決10頁5行目「生じさせる」の次に「おそれ」を加える。

(2)  同17頁10行目「呼称する。」の次に「また,上記委員会に関する打合せメモを単に「打合せメモ」という。」を加える。

(3)  同17頁14ないし15行目「。以下,これらの打合せメモを「委員との打合せメモ」という。」を削除する。

(4)  同17頁16行目「(以下「委員意見」という。)」を削除する。

(5)  同17頁18行目「「委員意見」」を「上記委員の意見」に改める。

(6)  同18頁6行目「委員意見」を「委員の意見」に改める。

(7)  同31頁10行目末尾で改行し,次のとおり加える。

「(g) 本件議事録中「率直な意見交換・意思決定の中立性が損なわれるおそれ」のある部分が非公開となるとしても,原判決別紙6の「該当部分」欄記載の部分のうち「理由」欄に「①」と記載のあるものは,黒塗りされているため,そのすべてが「率直な意見交換・意思決定の中立性が損なわれるおそれ」のある部分であるかどうかが明らかでない。」

3  当審における控訴人Aの主張

原判決主文1項につき,原判決別紙1の2では取消しの対象となる非公開部分として「ただし,委員の意見が記載されている部分を除く。」とされ,どの部分が意見か認定されていないため,被控訴人らが「すべて意見である」として公開しなかった場合,その真偽を判断できる者がおらず,執行不能となる。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,(1)控訴人Aの被控訴人大阪市に対する請求は,大阪市長の控訴人Aに対する本件部分公開決定のうち,原判決別紙1記載の各部分を非公開とした部分の取消しを求める限度で理由があり,その余は理由がなく,(2)控訴人Bの被控訴人国に対する請求は,近畿地方整備局長の控訴人Bに対する本件一部不開示決定1のうち,原判決別紙2記載の各部分を不開示とした部分の取消しを求める限度で理由があり,その余は理由がなく,(3)控訴人Aの被控訴人国に対する請求は理由がないものと判断する。

その理由は,次のとおり補正し,2において当審における控訴人Aの主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中第3の1及び2(原判決31頁12行目から52頁3行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決37頁6行目末尾で改行し,次のとおり加える。

「 これにつき,控訴人Aは,原判決別紙6の各「発言内容の概要」は,被控訴人大阪市の主張にすぎず,第3回委員会に係る資料(乙3の4ないし6),議事骨子(乙3の8)及び委員からの主な意見(乙3の7)に触れられている議事内容について審議されたのか否かについて確認する手段がないし,そもそも,上記資料が配布されたとしても,その資料に関する議事が行われたことの裏付けにはならず,議事骨子や主な意見は,被控訴人大阪市が作成したもので,恣意性が排除できず,何らその信用性を担保できない旨主張する。しかし,上記資料や議事骨子及び主な意見に触れられている議事内容だけではなく,本件議事録(甲3)の公開部分の記載内容や非公開部分の状況をも勘案すると,原判決別紙6の各「発言内容の概要」のとおり質疑応答等が行われたと推認できる。確かに,配布された上記資料だけでは,これに関する議事が行われたかどうかは明らかとはならないが,上記資料のほか,議事骨子及び主な意見を併せ考えると,議事内容を確認することができるし,また,前提事実のとおり,委員会における議事要旨は,会議後速やかに作成され,あらかじめ委員長の確認を受けた上で,近畿地方整備局及び被控訴人大阪市のホームページに公開されるものであること,現実に議事骨子や委員からの主な意見として要約整理されて公開されていることに鑑みると,議事骨子及び主な意見の内容は,その信用性が担保されているというべきである。」

(2)  同42頁4行目末尾で改行し,次のとおり加える。

「 これにつき,控訴人Aは,①前例がないからこそ,審議に関する全ての情報を公開して国民の的確な理解と批判の下におく必要性が高いのであり,前例がないことにより,公開しなくてもよいことになると,本来住民の関心のある問題についての議論状況が明らかにならず,情報公開制度が形骸化されてしまう,②委員会は,既にある程度具体化された事業に対し,安全性を検証することを目的としており,既に何度も技術的な問題について検討されてきたにもかかわらず,さらに十分に煮詰められていない着想や極端な例を挙げて説明がされるとはおよそ考えられない,③当然の前提が省略された発言や,言い間違えや単なる誤解に基づく発言は,議事録を作成する際に当然に各発言委員に確認作業が行われるはずであるから,これらの発言があり得ることは公開しない理由にはならない旨主張する。

しかし,①議論の対象が前例のない事業に関する問題点であることを理由として非公開とすることができるわけではなく,公開することにより,十分に煮詰められていない着想を提示したり極端な例を挙げて説明したりすることが差し控えられ,率直な意見の交換が不当に損なわれるおそれがあるから,非公開とすることができるのであり,②既にある程度具体化された事業に対し安全性を検証することを目的とする委員会であるからといって,同じ問題について何度も検討を重ねたとは限らない上,自由で活発な議論を行うため,発言を自制したり躊躇したりすることなく,十分に煮詰められていない着想を提示したり極端な例を挙げて説明したりすることも想定できるといわなければならず,③検討途中段階の意見が各委員の意見として逐語的に記載された本件議事録が公開されることにより,最終的な結論であるかのような誤解を与えたり,発言の内容が正確に伝わらなかったりして,不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがあるときは,非公開とすることができるというべきである。」

(3)  同42頁15行目末尾で改行し,次のとおり加える。

「 これにつき,控訴人Aは,情報公開は,請求の理由・目的を問わない制度であり,情報公開を請求した控訴人Aの目的が達成できるか否かは,委員の意見部分の非公開が情報公開法や情報公開条例に適合しているか否かの判断には全く影響しないし,第3回委員会に係る資料と議論の概要が明らかになったとしても,その内容が委員会で議論された内容を反映していることの担保となるものが全くない旨主張する。

しかし,国民の知る権利の観点から公開することの利益と,公開により適正な意思形成にもたらされる支障とを比較衡量して,後者が前者を上回るときのみ非公開とすることが認められるので,本件議事録に記載された委員の意見部分が公開されることにより本件事業の安全性を検討できるという利益を勘案したものであり,情報公開の請求をした控訴人Aの目的に沿うか否かを判断したわけではないし,第3回委員会に係る資料と議論の概要は,ホームページに公開されている上,前提事実のとおり,委員会における議事要旨は,会議後速やかに作成し,あらかじめ委員長の確認を受けた上で,近畿地方整備局及び被控訴人大阪市のホームページに公開されるので,その信用性が担保されているということができる。」

(4)  同44頁7行目末尾で改行し,次のとおり加える。

「d 控訴人Aは,原判決別紙6の「該当部分」欄記載の部分のうち「理由」欄に「①」と記載のあるものは,黒塗りされているため,そのすべてが「率直な意見交換・意思決定の中立性が損なわれるおそれ」のある部分であるかどうかが明らかでない旨主張する。しかし,既に説示したとおり,非公開部分については,原判決別紙6の各「発言内容の概要」に記載されている情報が記載されているものと推認できる。しかるところ,「該当部分」欄記載の部分のうち「理由」欄に「①」と記載のあるものでは,同別紙6の各「発言内容の概要」欄記載の各項目に関する質疑応答等が行われたことは委員会の職務上当然ということができ,それらは委員の意見が記載された部分に当たると推認できるから,この部分が公開されることにより,委員らによる「率直な意見交換・意思決定の中立性が損なわれるおそれ」があるということができる。なお,控訴人Aは,黒塗りされた部分の記載内容を見ないまま判断するのは不当であるとも主張するが,情報公開訴訟においても,いわゆるインカメラ審理を行うことは許されないから(最決平成21年1月15日民集63巻1号46頁),黒塗りされた部分の詳細が証拠とされないことはやむを得ない。」

(5)  同49頁24行目「甲10」を「平成23年8月4日打合せメモ〔甲10〕」に改める。

2  当審における控訴人Aの主張に対する判断

控訴人Aは,原判決主文1項につき,原判決別紙1の2では取消しの対象となる非公開部分として「ただし,委員の意見が記載されている部分を除く。」とされ,どの部分が意見か認定されていないため,被控訴人らが「すべて意見である」として公開しなかった場合,その真偽を判断できる者がおらず,執行不能となる旨主張する。

しかし,証拠(甲3,乙3の2ないし5)及び弁論の全趣旨によると,本件議事録3頁15行目から6頁1行目まで(原判決別紙6の番号2)は,近畿地方整備局河川部河川管理課の担当者が「一体構造物の安全性照査の流れについて」及び「一体構造物の安全性に関する定量的評価について」と各題する資料を説明した部分であることが認められる。同部分は,基本的には事務局の説明部分であるものの,被控訴人大阪市において,同部分が公開されることにより委員への干渉等のおそれがある旨主張していることに鑑みると,同部分の中には,事務局の担当者が,その説明に当たって前回までの委員会や事前打合せ等で示された委員の意見に言及した箇所等があると推認でき,原判決は,その別紙1の2のとおり委員の意見が記載されている部分として,これを開示範囲から排除したものと認められる。そして,同部分のうち「委員の意見が記載されている部分」以外については開示されることになるから,委員の意見が記載されている部分か否かは,その前後関係や文脈から社会通念上も区別が可能となるというべきである。

3  結論

以上の次第で,(1)控訴人Aの被控訴人大阪市に対する請求は,大阪市長の控訴人Aに対する本件部分公開決定のうち,原判決別紙1記載の各部分を非公開とした部分の取消しを求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,(2)控訴人Bの被控訴人国に対する請求は,近畿地方整備局長の控訴人Bに対する本件一部不開示決定1のうち,原判決別紙2記載の各部分を不開示とした部分の取消しを求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,(3)控訴人Aの被控訴人国に対する請求は理由がないからこれを棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当である。

よって,本件各控訴はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森宏司 裁判官 河田充規 裁判官 秋本昌彦)

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