大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成27年(ネ)1027号 判決 2015年12月18日

堺市<以下省略>

控訴人

同訴訟代理人弁護士

向来俊彦

東京都<以下省略>

被控訴人

Y1

京都市<以下省略>

被控訴人

Y3

住居所不明

(最後の住所)

東京都<以下省略>

被控訴人

Y2

主文

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人Y1は,控訴人に対し,446万6000円及びこれに対する平成17年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人Y3及び同Y2は,控訴人に対し,連帯して220万円及びこれに対する平成17年12月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

主文と同旨

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は,控訴人が,株式会社サクセスジャパン(以下「サクセスジャパン」という。)は平成18年法律第65号による改正前の証券取引法(以下「旧証券取引法」という。)上の証券業登録をしていなかったにもかかわらず,株式会社アイ・ディ・テクニカ(以下「アイ・ディ・テクニカ」という。)及び株式会社井六園ワールド(以下「井六園ワールド」という。)の未公開株に投資する投資事業組合の出資証券(みなし有価証券)を詐欺的勧誘により一般投資家に販売し,控訴人はサクセスジャパンの従業員の詐欺的勧誘により上記有価証券を購入したところ,アイ・ディ・テクニカ及び井六園ワールドは,サクセスジャパンの上記不法行為を幇助したものであるなどと主張して,アイ・ディ・テクニカの代表取締役であった被控訴人Y1(以下「被控訴人Y1」という。)並びに井六園ワールドの代表取締役であった被控訴人Y3(以下「被控訴人Y3」という。)及び同Y2(以下「被控訴人Y2」という。)に対し,民法709条又は平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)266条の3に基づき,控訴人が取得した上記有価証券が無価値であったことにより被った損害の賠償として,被控訴人Y1については,出資金406万円と弁護士費用40万6000円との合計446万6000円及びこれに対する不法行為の後である平成17年9月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,被控訴人Y3及び同Y2については,出資金200万円と弁護士費用20万円との合計220万円及びこれに対する不法行為の後である平成17年12月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は,サクセスジャパンの不法行為の成立を認めたが,アイ・ディ・テクニカ及び井六園ワールドの幇助による不法行為の成立や被控訴人らの取締役としての任務懈怠を認めるに足りる証拠はないと判断して控訴人の請求をいずれも棄却したので,これを不服とする控訴人は,本件控訴を提起した。

2  前提事実

(1)  当事者

ア 控訴人は,昭和20年○月○日生まれで,平成17年9月ないし12月当時は,60歳の会社員であった(甲48)。

イ サクセスジャパンは,有価証券の保有並びに運用業務,金融業等を目的として,平成15年7月17日に資本金額1000万円で設立された株式会社である。

B(以下「B」という。)は,設立時から平成19年2月1日までの間,サクセスジャパンの取締役・代表取締役であり,D(以下「D」という。)は,設立時から平成17年7月31日までの間,サクセスジャパンの取締役であった。

A(以下「A」という。)は,サクセスジャパン第二営業部所属の従業員であった。

サクセスジャパンは,株式会社ウィナーズジャパン(以下「ウィナーズジャパン」という。)の系列会社として,株式会社アイディジャパン(以下「アイディジャパン」という。)とともに設立された。サクセスジャパン及びアイディジャパン(以下「サクセスジャパンら」という。)は,東京都港区赤坂に所在する同一ビルにフロアを分けて事務所を置いていた。サクセスジャパンらは,旧証券取引法上の証券業の登録は受けていない。

(甲1,6,37,43の1,甲66,弁論の全趣旨)

ウ(ア) アイ・ディ・テクニカは,顔写真・指紋・網膜・遺伝子等を用いた本人確認技術及び真偽鑑定技術の企画・調査・研究開発及び販売等を目的として,平成10年6月16日に資本金2800万円で設立された株式会社である。アイ・ディ・テクニカは,その後増資を経て,平成16年8月28日当時の資本金額は4億2302万5000円,同日現在の発行済株式数は7522株,平成17年12月31日時点では,資本金額は9億2302万5000円(5億円増加),発行済株式数は1万7522株(1万株増加)となった。平成17年12月31日時点の資本金額及び株式数の増加は,新株予約権付社債に係る新株予約権の全部行使によるものであった。

(イ) C(以下「C」という。)は,平成12年7月25日から平成16年8月20日まで,アイ・ディ・テクニカの取締役・代表取締役であった。

E(以下「E」という。)は,平成13年7月25日,アイ・ディ・テクニカの取締役に就任し,平成16年3月20日いったん辞任したが,同年6月29日,再び取締役に就任し,同年9月14日から平成17年6月29日まで代表取締役であった。

被控訴人Y1は,平成16年6月29日,アイ・ディ・テクニカの取締役に就任し,同年8月20日に同社の代表取締役に就任した。

F(以下「F」という。)は,平成16年9月14日,アイ・ディ・テクニカの取締役に就任し,同日から平成18年2月28日辞任するまでの間代表取締役であり,平成19年10月12日,取締役を辞任した。

G(以下「G」という。)は,平成16年9月14日から,アイ・ディ・テクニカの取締役であった。

サクセスジャパンの取締役であったDは,平成16年6月29日から平成17年2月28日までの間,アイ・ディ・テクニカの取締役であった。

(ウ) アイ・ディ・テクニカは,平成21年7月22日,東京地方裁判所から破産手続開始決定を受け,平成22年2月1日,破産手続廃止決定が確定した。

(エ) なお,株式会社アイ・ディ・テクニカ販売(以下「アイ・ディ・テクニカ販売」という。)は,平成17年6月頃,アイ・ディ・テクニカの関連会社として設立され,Eが代表取締役であった。アイ・ディ・テクニカ販売は,平成21年3月11日,破産手続開始決定がされた。

(上記ウについて甲2,66)

エ 井六園ワールドは,ペットボトル容器,特殊キャップなどの開発・製造・販売及び輸出入業務等を目的として,平成17年7月26日に資本金額5000万円で設立された株式会社である。同社の資本金額は,その後の平成17年10月17日に7250万円に(2250万円の増加),平成18年2月16日に1億4750万円に(7500万円の増加),同月22日に1億9750万円に増資され(5000万円の増加),各増資により,発行済み株式は5万株から9万5000株へ(4万5000株の増加),9万5000株から10万1000株へ(6000株の増加),10万1000株から10万5000株へと増加した(4000株の増加)。

被控訴人Y3は,平成17年7月26日以降,井六園ワールドの取締役・代表取締役であり,被控訴人Y2は,平成17年7月26日から平成18年1月31日までの間,同社の取締役・代表取締役であった。

井六園ワールドは,平成20年7月1日,京都地方裁判所から破産手続開始決定を受け,平成21年10月28日,破産手続廃止決定が確定した。

(甲4の1・2)

(2)  控訴人の出資について

ア サクセスジャパンらは,平成17年5月13日に大阪で,同月20日に東京で,バイオベンチャー2005と称する報告会及び懇親会を開催した。東京で開催された会には,アイ・ディ・テクニカからは取締役営業本部長であったGが出席した。サクセスジャパンらは,平成18年5月26日,大阪において,バイオベンチャー2006と称する報告会及びパーティを開催した。これには,アイ・ディ・テクニカから被控訴人Y1が,井六園ワールドから被控訴人Y3が,それぞれ出席して報告をした。

(甲37,38,乙5)

イ サクセスジャパンは,平成17年9月頃,未公開ベンチャーに投資するファンド「アイディテクニカSJ投資事業組合」の業務執行組合員として,アイ・ディ・テクニカ株への投資を募集した。募集内容を記載したパンフレットには,1口(1株)40万6000円,募集口数200口,申込単位10口以上,先着順と記載され,アイ・ディ・テクニカについては,「バイオ技術をITに取り入れ,人や物・情報が本物か模倣かを判断するシステムをNTTデータテクノロジ・東北大学の協力を得て開発致しました。」「鑑定需要はますます増え続け,官公庁,大学病院をはじめ,各企業のシステム導入により,アイディテクニカの売上も倍々増の一途をたどっています。」「現在では,農水省,外務省といった一部官庁からの開発依頼,納品も執り行っております。」「2006年(平成18年)以降の株式上場申請を目標としています。」「東証マザーズ予定」「株式を譲渡するには取締役会の承認を要する。(上場まで)」等と紹介し,「当投資事業組合はリスクヘッジとしてING生命保険(株)と保険契約を締結しています。」「このような投資には全て表裏一体にリスクが含まれています。資料の内容はあくまで参考にしていただいて,その最終判断は,ご自身でなさって下さい。」と記載され,問合せ先としてサクセスジャパンの電話番号が記載されている。

(甲7,8)。

ウ サクセスジャパンは,平成17年10月頃,未公開ベンチャーに投資するファンド「井六園ワールドSJ投資事業組合」の業務執行組合員として,井六園ワールド株への投資を募集した。募集内容を記載したパンフレットには,1口20万円,募集口数400口,申込単位10口以上,先着順と記載され,井六園ワールドについては,「187年の伝統を誇る茶匠・京都井六園がお茶本来の味と風味をお届けするために,新構造のペットボトル用新型キャップ容器を開発いたしました。このペットボトル用新型キャップはお茶だけでなく,幅広い分野において色々な商品を商品化することが可能なため,現在多数の企業様からお引き合いをいただいております。また,緑茶製品以外では大手飲料メーカー・大手製薬メーカー等のOEMにも対応し,今後ドリンク業界だけでなく,他の業界においても大きく貢献できることを願い新商品開発に取り組んでおり,確実に成長できる会社だと確信しております。」「2007年(平成19年)以降早期の株式上場申請を目標としています。」「東証マザーズ予定」「株式を譲渡するには取締役会の承認を要する。(上場まで)」等と紹介し,「このような投資には全て表裏一体にリスクが含まれています。資料の内容はあくまで参考にしていただいて,その最終判断は,ご自身でなさって下さい。」と記載され,問合せ先としてサクセスジャパンの電話番号が記載されている。

(甲21,22)。

エ 控訴人は,平成17年9月,サクセスジャパンのAから,アイディテクニカSJ投資事業組合への出資を勧誘され,同月16日,10口406万円の出資を申し込み,同月22日,406万円を振り込んだ(甲9,10,12)。サクセスジャパンは,同月26日頃,控訴人に対し,アイディテクニカSJ7号投資事業組合名義の出資証券を送付した(甲11)。また,控訴人とサクセスジャパンとの間で交わされたアイディテクニカSJ7号投資事業組合契約書(甲13)には,アイディテクニカSJ7号投資事業組合は,株式会社アイ・ディ・テクニカに投資し,投下資本を増殖・回収することを目的とする民法上の組合であること,各組合員は,出資口数の割合により組合財産を共有するものであること,損益は各組合員の出資口数の割合に応じて帰属するものであること,投資有価証券その他組合財産に属する有価証券は,サクセスジャパンが保有のため適切と考える方法で保管すること等が記載されている。

オ 控訴人は,平成17年11月,サクセスジャパンのAから,井六園ワールドSJ投資事業組合への出資を勧誘され,同月9日,5口100万円の出資を申し込み,同月14日,100万円を振り込んだ(甲10,24)。サクセスジャパンは,同月15日頃,控訴人に対し,井六園ワールドSJ2号投資事業組合名義の出資証券を送付した(甲25。同証券には出資金額が100万5000円と記載されている。)。また,控訴人とサクセスジャパンとの間で交わされた井六園ワールドSJ2号投資事業組合契約書(甲26)には,井六園ワールドSJ2号投資事業組合は,株式会社井六園ワールドに投資し,投下資本を増殖・回収することを目的とする民法上の組合であること,各組合員は,出資口数の割合により組合財産を共有するものであること,損益は各組合員の出資口数の割合に応じて帰属するものであること,投資有価証券その他組合財産に属する有価証券は,サクセスジャパンが保有のため適切と考える方法で保管すること,なお,出資金は1口20万1000円であること等が記載されている。

カ 控訴人は,平成17年12月,サクセスジャパンのAから,井六園ワールドSJ投資事業組合への出資を勧誘され,同月1日,5口100万円の出資を申し込み,同月6日,100万円を振り込んだ(甲27,28)。サクセスジャパンは,同月7日頃,控訴人に対し,井六園ワールドSJ4号投資事業組合名義の出資証券を送付した(甲29。同証券には出資金額が101万5000円と記載されている。)。また,控訴人とサクセスジャパンとの間で交わされた井六園ワールドSJ4号投資事業組合契約書(甲30)には,井六園ワールドSJ4号投資事業組合は,株式会社井六園ワールドに投資し,投下資本を増殖・回収することを目的とする民法上の組合であること,各組合員は,出資口数の割合により組合財産を共有するものであること,損益は各組合員の出資口数の割合に応じて帰属するものであること,投資有価証券その他組合財産に属する有価証券は,サクセスジャパンが保有のため適切と考える方法で保管すること,なお,出資金は1口20万3000円であること等が記載されている。

3  争点

(1)  アイ・ディ・テクニカ及び井六園ワールドにつき,サクセスジャパンとの間に幇助による共同不法行為が成立するか(争点1)

(2)  被控訴人らは,取締役の任務懈怠による第三者責任を負うか(争点2)

4  争点についての当事者の主張

(1)  争点1(アイ・ディ・テクニカ及び井六園ワールドにつき,サクセスジャパンとの間に幇助による共同不法行為が成立するか)について

(控訴人の主張)

ア サクセスジャパンの不法行為

(ア) サクセスジャパンは,証券業の登録を受けていないにもかかわらず,控訴人に対し,アイ・ディ・テクニカ及び井六園ワールドの未公開株に投資する投資事業組合の出資証券(みなし有価証券)の購入の勧誘をして,当該未公開株(ないしみなし有価証券)を購入させ,業として有価証券の勧誘・販売を行ったものであり,これらの行為は,証券業の無登録営業に該当し,旧証券取引法2条8項,28条,29条に違反しており,資産的基盤を有しておらず,登録もできないような業者が行う証券取引まがいの行為は,類型的に一般投資家の利益を害するものとして,私法上もその効果が否定されるべき違法な行為であるから,不法行為を構成する。

(イ) 未公開株の勧誘・販売は,証券業登録を受けた証券会社であっても,原則として禁止されており(旧証券取引法40条1項1号,日本証券業協会の自主規制規則である「店頭有価証券に関する規則」3条(甲45)),いわゆるグリーンシート銘柄の取引のみが認められているにすぎない(有価証券に関する規則6条,日本証券業協会の自主規制規則である「グリーンシート銘柄及びフェニックス銘柄に関する規則」(甲46))。グリーンシート銘柄以外の未公開株は,その価値の評価が著しく困難であり,公開される情報も少なく,一般投資家がその会社の情報を入手することも困難であるから,一般投資家が不測の損害を被るおそれがあり,これを防止するためにグリーンシート銘柄以外の株式取引が禁止されているのであって,このようなグリーンシート銘柄の株式に関する規制の趣旨からすれば,グリーンシート銘柄以外の株式の取引は,詐欺商法であると推認され,公序良俗に反する違法な取引というべきである。

なお,本件で,サクセスジャパンは未公開株そのものの販売ではなく,投資事業組合への出資という形式をとっているが,それは,未公開株そのものの販売と比較しても全く経済的合理性がなく,旧証券取引法を潜脱するためのものにすぎず,実質的には未公開株の販売と同じである(旧証券取引法2条2項3号)から,その違法性に何ら変わりはない。

(ウ) アイ・ディ・テクニカ及び井六園ワールドには,真実は,東証マザーズに上場予定がなく,株式の上場に伴う株価の急激な高騰が起きる可能性などなかったにもかかわらず,サクセスジャパンの従業員Aは,このことを認識した上で,控訴人に対し,「1年後には上場する。」,「上場すれば株価が高騰し,巨額の利益を得ることができる。」などと虚偽の事実を申し向け,控訴人をその旨誤信させて,未公開株(又はみなし有価証券)を販売したのであるから,Aの上記行為は,詐欺であって,不法行為を構成する。

(エ) サクセスジャパンは,控訴人に対し,アイ・ディ・テクニカの未公開株を1株(1口)40万6000円で,井六園ワールドの未公開株を1株(1口)20万円で販売したが,アイ・ディ・テクニカ及び井六園ワールドの未公開株の価値は,配当還元方式によって評価すれば0円であり,収益還元方式あるいは純資産方式によってもほとんど価値がないにもかかわらず,上記金額で販売したことは暴利行為に該当し,違法な行為である。

イ アイ・ディ・テクニカによるサクセスジャパンの幇助

(ア) アイ・ディ・テクニカは,サクセスジャパンらから現実に2億5000万円ずつ合計5億円もの出資を受け,サクセスジャパンらに対して未公開株を発行している。すなわち,アイ・ディ・テクニカは,平成17年4月,サクセスジャパンらから合計10億円の資金提供を受ける合意をし,同年7月にはサクセスジャパンから2億5000万円の振込があり,同年6月23日,同年7月13日及び22日には合計2億5000万円の振込があったものであり(甲66),登記記録上の平成17年12月31日の1万株発行による5億円増資は,以上の経過を年末にまとめて処理したものにすぎない。

(イ) アイ・ディ・テクニカでは,控訴人が出資前にした問合せ(受注実績,保険契約の内容,株式の売行き,株主優待等)に対して自然に対応しており,質問にも全て回答している(甲7,67)。したがって,アイ・ディ・テクニカは,サクセスジャパンらが未公開株の販売をしていることを知っていた。

(ウ) アイ・ディ・テクニカは,サクセスジャパンらの主催で行われたベンチャービジネス2005及び同2006において,アイ・ディ・テクニカの売上について,実態を伴わない過大な額を示すなどして参加者を誤解させており,サクセスジャパンらの違法な販売行為を幇助した。

(エ) アイ・ディ・テクニカは,「事業計画/株式のご案内」と題する書面(甲70。以下「本件案内書」という。)の作成に協力しており,本件案内書は,サクセスジャパンの従業員の勧誘の場面で使用された。本件案内書に記載されているDNA認証の拡販資料,静脈認証の拡販資料などは,アイ・ディ・テクニカが作成しており,売上予測も,アイ・ディ・テクニカの取締役全員が共通認識を有している数字である。

(オ) サクセスジャパンは,ベンチャービジネス2005が開催された頃に,各投資先企業体と協力して株主優待販売を行っており(甲71),サクセスジャパンとアイ・ディ・テクニカとの間には,出資証券の販売促進について協力関係があったものである。

(カ) サクセスジャパンの中心人物であるDが,平成16年6月にアイ・ディ・テクニカの取締役に就任しており,そのDと相談した上で,被控訴人Y1,E,F,Gらがアイ・ディ・テクニカの取締役に就任しており,アイ・ディ・テクニカは,サクセスジャパンの利益を図ることを目的に経営がされていた。被控訴人Y1,E,F,Gらは,サクセスジャパンが無登録でアイ・ディ・テクニカの出資証券を販売していたことを当然知っていたし,容易に知り得た。

(キ) アイディジャパンの従業員は,平成17年9月に,研修としてアイ・ディ・テクニカの見学をしており,アイディジャパンの従業員らがセールストークの研修の一環として見学している(甲68)。このようなことからすれば,サクセスジャパンらがアイ・ディ・テクニカの出資証券を一般投資家に販売している事実は予見可能であった。

(ク) アイ・ディ・テクニカは,上記(ア)の多額の出資を基に,資金繰りを行っていたのであり,アイ・ディ・テクニカの役員らが同出資の理由を知らないはずはない。

(ケ) サクセスジャパンが投資事業組合を作ってアイ・ディ・テクニカの未公開株を取得させたのは,ベンチャーキャピタルが自己資金で投資するのではなく,一般投資家からの投資資金を集めることにほかならない。このことは,被控訴人Y1,F,Eも知っていたことである(甲66)。Eは,アイ・ディ・テクニカの株式が個人投資家に売却されていたことや,インターネットで未公開株の売却問題等でアイディジャパンに対する中傷記事が出ていることを知っていた(甲66)のであり,被控訴人Y1やFがこれらのことを知らないはずがない。

(コ) 以上の諸事情に照らせば,アイ・ディ・テクニカに共同不法行為としての幇助責任が認められるというべきである。

ウ 被控訴人Y1の不法行為責任

上記イの諸事情を総合すると,アイ・ディ・テクニカ代表取締役である被控訴人Y1は,サクセスジャパンがアイ・ディ・テクニカの未公開株(グリーンシート銘柄以外の未公開株)を無登録で一般投資家に勧誘・販売していることを認識又は認識し得たにもかかわらず,サクセスジャパンにアイ・ディ・テクニカの未公開株を取得させ,サクセスジャパンの無登録営業,公序良俗違反,詐欺,暴利行為等の不法行為を幇助したもので,共同不法行為責任を負う。

エ 井六園ワールドによるサクセスジャパンの幇助

(ア) 登記記録上,井六園ワールドの資本金額は,平成17年10月17日,平成18年2月16日及び同月22日にそれぞれ増資されているが,実際には平成17年10月頃には,サクセスジャパンから少なくとも2億円の出資を受け,投資事業組合に対して株式を発行している。

(イ) 平成17年10月頃,井六園ワールドの販売実績表,コンビニテスト実施済みの店舗,収支計画等が記載され,被控訴人Y3とサクセスジャパンのBが握手している写真が掲載されている事業投資向け概要説明書(以下「本件説明書」という。甲23)が作成されているところ,井六園ワールドは,サクセスジャパンに対して情報提供をしており,本件説明書の作成に深く関与している。被控訴人Y3は,サクセスジャパンが本件説明書を作成することを知りながら,サクセスジャパンから2億円の出資を受けるのと引替えに,あたかも将来有望なベンチャー企業であるかのような資料を提供し,実現性のない収支計画等を作成し,サクセスジャパンのBとの写真撮影に応じたのである。

(ウ) 本件説明書に記載されている販売実績やコンビニテスト実施済み店舗の存在は,井六園ワールドの平成17年7月から平成18年6月までの事業年度における売上3500万円,平成18年7月からの事業年度における売上6500万円に照らして,虚偽である。

(エ) 被控訴人Y3は,サクセスジャパンが井六園ワールド投資事業組合をいくつも組成して一般投資家から出資を募っていた事実を認識していた。被控訴人Y3は,平成18年5月26日にベンチャービジネス2006に出席し,一般投資家に対して,事業報告を行い,実現不可能なことを述べて,一日も早く上場できるように売上を上げて,利益を上げるなどと出資を募るような発言をしており,出資者に対して,虚偽の事実を申し向け,井六園ワールドの業績が順調であると誤信させている。

(オ) 井六園ワールドは,出資者やその予定者に対し,井六園ワールドのペットボトル入りのお茶を送っており,井六園ワールドは,サクセスジャパンが一般投資家に出資を募っていることを熟知して,これらの行為に及んでいる。

オ 被控訴人Y3及び同Y2の不法行為責任

(ア) 井六園ワールドの代表取締役であった被控訴人Y3及び同Y2は,サクセスジャパンが無登録業者であること,当該未公開株がグリーンシート銘柄以外の株式であること,販売業者が一般投資家に未公開株ないし出資証券を販売していることを認識し,又は認識することができたにもかかわらず,井六園ワールドの未公開株を投資事業組合に取得させたことによって,サクセスジャパンの違法な未公開株商法を容易にしたものである。このことは,前記エの事実及び次の事実に照らせば明らかである。

(イ) 被控訴人Y3は,サクセスジャパンは無登録営業ではないかとの疑念をもっており,サクセスジャパンのBにそのことを問い質していた。

(ウ) 被控訴人Y3及び同Y2は,井六園ワールドの代表取締役であったから,井六園ワールドがグリーンシート銘柄に指定されていないことを知っていた。

(エ) 被控訴人Y3は,平成17年11月頃には,サクセスジャパンらが投資事業組合名義で一般投資家から出資を募っていることを認識していた。

(オ) これらの諸事情を総合すると,井六園ワールド代表取締役である被控訴人Y3及び同Y2は,サクセスジャパンが井六園ワールドの未公開株(グリーンシート銘柄以外の未公開株)を無登録で一般投資家に勧誘・販売していることを認識又は認識し得たにもかかわらず,サクセスジャパンに井六園ワールドの未公開株を取得させ,サクセスジャパンの無登録営業,公序良俗違反,詐欺,暴利行為等の不法行為を幇助したものであり,共同不法行為責任を負う。

(被控訴人Y1の主張)

被控訴人Y1が不法行為責任を負うとの控訴人の主張は全て争う。

アイ・ディ・テクニカは資金不足で自転車操業の状態にあったところ,代表取締役であったCは,投資で大もうけをしているサクセスジャパンらから投資話を受けて,アイ・ディ・テクニカの株式を売却することによって投資を受けることを決定したようである。しかし,被控訴人Y1は,この取引の具体的な内容は承知していない。アイディジャパンが投資をして,アイ・ディ・テクニカの製品の総代理店となり,率先してアイ・ディ・テクニカの製品を販売していくということであったが,その後,アイディジャパンに販売した製品の代金の支払が滞るようになり,アイ・ディ・テクニカは資金繰りに窮して,結果的には経営破綻した。

Cの退任後,3人代表制となり,Eが経理総務担当代表取締役,Fが営業・生産管理担当代表取締役,被控訴人Y1が技術開発担当代表取締役となり,お互いの領分にはできる限りタッチしないとの取決めであった。100万円以上の金銭の動きには全取締役の禀議が必要だったはずだが,被控訴人Y1は,総務経理・生産管理・営業には全く関与しておらず,アイ・ディ・テクニカとサクセスジャパンらとの株取引についても関与していない。被控訴人Y1は,平成20年2月にアイ・ディ・テクニカを退職しており,代表取締役の登記だけが残っているものである。

(被控訴人Y3の主張)

ア サクセスジャパンは,控訴人に未公開株を販売していない。控訴人は,井六園ワールド投資事業組合に出資し,出資口数に応じて投資事業組合の財産について持分を有している。仮にこのような出資の勧誘が無登録営業として違法であったとしても,控訴人の出資持分が無価値にならなければ,控訴人に損害は生じない。

イ 井六園ワールドは,平成18年2月以降,サクセスジャパンから2億円の出資を受け,株式を割り当てたことがあるが,投資事業組合から出資を受け,株式を割り当てたことはない。

被控訴人Y3は,本件説明書の作成に関与していない。本件説明書の記載のもととなる収支計画をサクセスジャパンに提供したことがあるだけである。また,サクセスジャパンに対する事業説明のために井六園ワールドの従業員が工場やペットボトルの製造過程の映像,商品写真その他の資料を渡した可能性はあるが,被控訴人Y3は,DVD作成のために資料を渡したことはない。仮に,井六園ワールドがそのようなDVDを作成したとしても,自社の事業を宣伝・広告するためのものであり,当然に事業の範囲内の行為である。

ウ ベンチャービジネス2006は,平成18年5月26日に開催され,被控訴人Y3がこれに出席した。被控訴人Y3が出席したのは,販売代理店や消費者に向けた商品説明のためであり,会場に一般投資家がいるのは,井六園ワールド以外の会社の中には投資事業組合を作って出資を募っている会社もあるという程度の認識であった。被控訴人Y3は,今後の事業の展望について自身の意気込みを述べたにすぎず,現実の実績が被控訴人Y3の期待どおりにいかなかっただけである。ベンチャービジネス2006に被控訴人Y3が出席する前にサクセスジャパンが未公開株販売を行っていることは知らなかった。

エ 井六園ワールドは控訴人にペットボトル入りのお茶を送っていない。井六園ワールドがサクセスジャパンに商品を売り渡したことはある。仮に井六園ワールドが控訴人に対して,ペットボトル入りのお茶を送ったとしても,井六園ワールドが緑茶の製造・販売を業とする会社である以上は,会社としての当然の行為であり,幇助と評価されるものではなし。仮にペットボトル入りのお茶が控訴人の出資後に送られてきたとすると,ペットボトル入りのお茶の送付と出資との間には因果関係がない。

オ 仮に被控訴人Y3に責任があるとしても,控訴人には,自己危険回避義務違反があるので,過失相殺を主張する。

(2)  争点2(被控訴人らは,取締役の任務懈怠による第三者責任を負うか)について

(控訴人の主張)

ア 被控訴人Y1は,会社業務を適法かつ適正に遂行すべき義務があるのに,サクセスジャペンによる違法な未公開株の勧誘・販売を是正・停止しなかったことは,取締役としての悪意又は重大な過失による任務懈怠にあたり,旧商法266条の3第1項,会社法429条1項に基づく責任がある。

イ 被控訴人Y3及び同Y2は,サクセスジャパンから合計2億円にも及ぶ巨額の出資を受けているが,その際,会社の財務及び業務内容を十分に調査し,出資の原資についても説明を求めるなどして,適正に業務を執行すべき立場にあるにもかかわらず,サクセスジャパンが一般投資家から出資を募っていることを認識していたのに,サクセスジャパンの話を鵜呑みにしただけで,それらの調査を何ら行うことなく安易に出資を受け入れたことによって,サクセスジャパンが一般投資家への違法な未公開株商法を行うことを容易にした。被控訴人Y3及び同Y2は,取締役としての悪意又は重大な過失による任務懈怠があり,旧商法266条の3第1項に基づく責任がある。

(被控訴人Y1の主張)

控訴人の主張は全て争う。

Cの退任後,3人代表制となり,Eが経理総務担当代表取締役,Fが営業・生産管理担当代表取締役,被控訴人Y1が技術開発担当代表取締役となり,お互いの領分にはできる限りタッチしないとの取決めであった。被控訴人Y1は,総務経理・生産管理・営業には全く関与しておらず,アイ・ディ・テクニカとサクセスジャパンらとの株取引についても関与していないし,サクセスジャパンらの株取引の内容についても興味はなかった。被控訴人Y1は,他の2人の業務に関して口出しをしたことはなく,経営には全く興味はなかった。被控訴人Y1は,平成20年2月にアイ・ディ・テクニカを退職しており,代表取締役の登記だけが残っているものである。

(被控訴人Y3の主張)

ア 井六園ワールドが平成18年2月にサクセスジャパンに株式を発行したことは認めるが,それ以前に無登録業者であるサクセスジャパンが未公開株購入の勧誘をしていることは知らなかったから,被控訴人Y3にはサクセスジャパンの違法行為を調査すべき義務はなかった。したがって,井六園ワールドがサクセスジャパンに株式を発行したこと自体は,取締役の経営判断であり,違法性はない。井六園ワールドは,サクセスジャパン投資事業組合から増資を受けていない。

イ 井六園ワールドがサクセスジャパンに発行した株式を含め全ての株式は譲渡制限付きである。したがって,井六園ワールドが株式を発行してもその株式が一般投資家に流通することはない。そのような前提で株式を発行している場合にまで,取締役において逐一新株引受人が無登録業者でないかどうかを調査すべき義務を負うとすると,迅速な資金調達がおよそ不可能となる。

ウ 仮に井六園ワールドがサクセスジャパンに株式発行をしたことが,被控訴人Y3の任務懈怠に該当するとしても,株式発行は平成18年2月であり,控訴人が出資契約を締結したのは,平成17年11月14日及び同年12月6日であるから,被控訴人Y3の任務懈怠と控訴人の出資との間には因果関係がない。

エ 被控訴人Y3は,平成18年5月26日より少し前にサクセスジャパンが投資事業組合を設立して,投資家を集めることを計画していることを知った。平成18年の夏頃以降顧客から「株を勧められているのだが,いつ頃上場するのか。」といった問合せがあり,サクセスジャパンのBに確認したところ,Bは,株の販売はしていないし,官庁に提出した書類を被控訴人Y3に示し,証券業登録をして,投資事業組合を運営している旨説明した。このように被控訴人Y3は調査義務を果たしている。

(3)  被控訴人Y2について

被控訴人Y2は,公示送達による適式の呼出しを受けたが,本件口頭弁論期日に出頭しない。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

前記前提事実,証拠(甲48,66,68,70,72の2,甲73,原審控訴人本人,原審被控訴人Y3本人(ただし一部),後掲の書証)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(1)ア  アイ・ディ・テクニカ(代表取締役C)は,平成15年頃,ウィナーズジャパン(Bが専務取締役であった。)から出資を受けるようになり,また,Cが,新株引受権を行使して取得したアイ・ディ・テクニカの株式をウィナーズジャパンに売却するなどして,アイ・ディ・テクニカの資金調達を行っていた。アイ・ディ・テクニカは,同年8月以降は,サクセスジャパンらの関係会社である株式会社INTキャピタル(以下「INTキャピタル」という。)から,上記同様の方法で出資を受けるようになった。INTキャピタルは,取得したアイ・ディ・テクニカの株式を,サクセスジャパンらを通じて一般投資家に売却していた。一般投資家の中には,アイ・ディ・テクニカに対して問合せをする者もいた。Eは,平成15年当時,アイ・ディ・テクニカの取締役であったが,INTキャピタルがアイ・ディ・テクニカの株式をサクセスジャパンらを通じて一般投資家に売却していたことについて,旧証券取引法上の疑問を有しており,将来の上場のために整理する必要があると考えていた。

イ  平成16年頃,アイ・ディ・テクニカではCの経営方針等を巡って内紛を生じ,D,E,被控訴人Y1及びFらにおいて相談の上,同年6月29日には,いったんは辞任していたEが再度取締役に就任し,被控訴人Y1及びDも取締役に就任し,同年8月20日にはCを退任させ,被控訴人Y1が代表取締役に就任し,同年9月14日には,E及びFが代表取締役に,Gが取締役に就任した。新体制の下では,主に,被控訴人Y1は技術及び開発部門担当,Eが財務を含めた管理部門担当,Fが生産管理及び企画・営業部門担当とされていた。Eは,前記アのとおり,アイ・ディ・テクニカの株式をサクセスジャパンらが一般投資家に売却していたことについて,旧証券取引法上の疑問を有していたところ,このことをサクセスジャパンらに指摘したEは,サクセスジャパンらから,「投資事業有限責任組合を設立し,財務局への届出もし,会計士による監査も受けるので,旧証券取引法上の問題はないので,アイ・ディ・テクニカの株式への投資を再開したい」旨の申出を受け,アイ・ディ・テクニカとしても,静脈認証装置の開発・販売事業を軌道に乗せるために資金が不足していたことから,これに応じることとした。

ウ  アイ・ディ・テクニカは,平成17年2月頃,静脈認証装置を製品化してその販売を始めたが,この販売業務に当たったのは,アイ・ディ・テクニカと代理店契約を締結したアイディジャパンであった。アイ・ディ・テクニカは,平成17年9月には,アイディジャパン従業員研修の一環としてアイ・ディ・テクニカを見学させる等の協力をした。アイディジャパンは,受注について強気の報告を上げていたが,結果として,売上は思うように伸びず,同年11月頃には,アイ・ディ・テクニカの在庫は原価でも処分するとの方針をとることになった。Eは,このように売上が不振に終わった理由として,アイディジャパンに対する信頼が低く,インターネット上も,未公開株の売却問題等でアイディジャパンに対する記事等がヒットするようになっていたことを指摘している。

サクセスジャパンらは,原審相被告であった株式会社松村テクノロジー(以下「松村テクノロジー」という。)との間でも,平成16年11月から平成17年4月にかけて,同社の株式取得代金として合計7億5000万円を提供する旨の合意をし,少なくとも同年3月までに5億2500万円を提供していたところ,同年中には,アイディジャパンが松村テクノロジーの未公開株を投資家に売却していることがマスコミで取り上げられる事態となり,松村テクノロジーにも取材の申入れがされていた(甲3,39,40,53ないし56)。

エ  アイ・ディ・テクニカとサクセスジャパンらは,平成17年4月頃,サクセスジャパンらがそれぞれ5億円ずつ合計10億円をアイ・ディ・テクニカの株式購入代金として提供する旨を合意した。同年7月頃,サクセスジャパンは,アイ・ディ・テクニカに対し,2億5000万円の株式購入代金を支払った。他方,アイディジャパンは,同年6月23日,7月13日及び同月22日に,アイ・ディ・テクニカに対し,合計2億5000万円の株式購入代金を支払った。残金5億円は,平成18年に提供されることになっていた。サクセスジャパンらからの5億円の支払について,登記記録上は,平成17年12月31日時点での5億円の増資,1万株の新株発行とされ,新株発行は新株予約権付社債に係る新株予約権の全部行使によるものとされた。なお,これらの株式購入代金の帳簿上の処理は,有価証券売却益に対する課税を免れるために複雑な処理がされたが,これらの会計処理については,平成19年になって,国税局の調査を受け,アイ・ディ・テクニカ側には約2億円の課税処分がされる事態となった。

オ  サクセスジャパンらからの資金提供は,平成18年に入っても続いたが,アイ・ディ・テクニカの売上は伸びず,アイ・ディ・テクニカは,事業資金を全面的にサクセスジャパンらからの資金に頼る状態であった。

カ  サクセスジャパンらは,平成16年ないし17年5月頃までに,本件案内書を作成した。本件案内書には,DNA認証の拡販資料,静脈認証の拡販資料などがあり,この資料はアイ・ディ・テクニカで作成・提供しており,売上予測も,アイ・ディ・テクニカが提供した数字であった。なお,本件案内書の3頁には,平成16年度売上実績5億円,平成17年度売上計画15億円,平成18年度売上計画35億円と記載される一方で11頁には,平成16年度売上高5億1000万円,平成17年度売上高12億円,平成18年度売上高25億円,平成19年度売上高45億円,平成20年度売上高67億円と記載されているなど,同一文書中で,売上計画額について異なる数字が記載されており,杜撰なものとなっている。

キ  Gは,サクセスジャパンら主催のバイオベンチャー2005東京において,出席者に対し,アイ・ディ・テクニカの紹介をしたが,この中で,平成16年9月から経営体制を一新し,スピードを持った経営をしていること,平成16年度の売上は5億1000万円であり,単年度黒字の見込みであること,平成17年度の売上計画は12億円であること,受注高は平成17年4月1日からすでに3億9300万円に達し,同年9月末までには8億円を予定していること,販売実績では,セコム,NTT東日本,三菱電機ビルテクノサービス,今後の見通しとして,日立グループ,官公庁,海外での受注見込があること等を述べた(甲72の2)。

ク  サクセスジャパンの従業員Aは,控訴人に対し,定年退職後の資産運用として株式投資を勧め,アイ・ディ・テクニカは指紋認証の機械を作っており,「1年以内に東証マザーズに上場する」,「上場すれば株式高騰により購入価額の倍以上になる」などと述べてアイ・ディ・テクニカの未公開株を勧め,また,第2の2(2)イのとおりの記載があるパンフレットを送付した。控訴人は,Aの言をそのまま信用して,アイ・ディ・テクニカの未公開株を取得するつもりで,第2の2(2)エ記載のとおり出資して,アイディテクニカSJ7号投資事業組合の出資持分を取得した。

(2)ア  サクセスジャパンは,平成17年7月26日の井六園ワールド設立後,本件説明書(甲23)を作成した。本件説明書には,株主の1人として,サクセスジャパン投資事業有限責任組合が表示されている。井六園ワールドの売上高予測としては,第1期(平成17年7月から平成18年6月までの事業年度。各事業年度は毎年6月末が期末である。)が7億9400万円,第2期(平成19年6月末期末)が38億8400万円,第3期(平成20年6月末期末)が66億8750万円,第4期(平成21年6月末期末)が99億9450万円,第5期(平成22年6月末期末)が130億8400万円と記載され,税引き前利益予測は,第1期が2615万円の赤字,第2期が11億4954万円の黒字,第3期が24億7332万2500円の黒字,第4期が39億1778万7500円の黒字,第5期が50億9684万円の黒字と記載されている。この売上高及び利益の予測数値は,井六園ワールド側が作成した。しかし,第1期の損益計算書(甲51の1)によると,売上高は3596万余円,税引き前当期純利益は13万余円,第2期の損益計算書(甲51の2)によると,売上高は6523万余円,税引き前当期純損失は5112万余円であって,予測とは全く異なっており,井六園ワールドは,設立から3年も経たない平成20年7月1日,京都地方裁判所から破産手続開始決定を受け,平成21年10月28日,破産手続廃止決定が確定した。

イ  サクセスジャパンは,平成17年8月ないし9月頃,井六園ワールドに対し,2億円の出資を持ち掛けた。井六園ワールドは,これを承諾し,サクセスジャパン側に株式を発行することになった。井六園ワールドは,サクセスジャパン側から出資を受けるについて,サクセスジャパンの属性等について特段調査はしなかった。

ウ  サクセスジャパンの従業員Aは,平成17年10月頃,控訴人に対し,「株式会社井六園ワールドという187年の伝統を誇るお茶の会社が,ペットボトル用の新型のキャップ容器を開発しました。」「1年以内に東証マザーズに上場します。」「上場すれば,購入価格の倍以上になります。」旨説明して,井六園ワールドの未公開株の購入を勧め,また,控訴人に対し,第2の2(2)ウのとおりの記載があるパンフレットを送付した。控訴人は,Aの言をそのまま信用して,井六園ワールドの未公開株を取得するつもりで,第2の2(2)オ及びカ記載のとおり出資して,井六園ワールドSJ2号投資事業組合及び井六園ワールドSJ4号投資事業組合の各出資持分を取得した。

2  サクセスジャパンの不法行為責任について

(1)  前記前提事実及び前記認定事実によれば,サクセスジャパンは,証券業の登録を受けていないにもかかわらず,控訴人に対し,アイ・ディ・テクニカ及び井六園ワールドの未公開株に投資する投資事業組合の出資証券の購入の勧誘をして,各出資証券を購入させ,業として有価証券の勧誘・販売を行ったものである。これらの行為は,証券業の無登録営業に該当し,旧証券取引法28条に違反し違法というべきである。

(2)  いわゆるグリーンシート銘柄以外の未公開株の勧誘・販売は,証券業登録を受けた証券会社であっても,自主規制として禁止されており(甲45の3条,甲46)。アイ・ディ・テクニカ及び井六園ワールドの未公開株はグリーンシート銘柄には当たらない。グリーンシート銘柄以外の未公開株は,その価値の評価が困難であり,公開される情報も少なく,一般投資家がその会社の情報を入手することも困難であるから,一般投資家が不測の損害を被るおそれがあり,これを防止するためにグリーンシート銘柄以外の株式取引が業界の自主規制として禁止されており,このようなグリーンシート銘柄の株式に関する規制の趣旨からすれば,グリーンシート銘柄以外の株式の取引は,無登録業者が行うことは,より一層弊害が大きいというべきである。

本件においてサクセスジャパンが一般投資家である控訴人に販売した対象は,未公開株そのものではなく,投資事業組合の出資持分(有価証券)であるが,未公開株の販売と未公開株を有している投資事業組合の出資持分の販売とでは,一般投資家の保護の見地からすると,実質的にみて区別して扱うべき理由はない。

(3)  サクセスジャパンが控訴人に未公開株を販売した平成17年9月ないし12月頃においては,アイ・ディ・テクニカ及び井六園ワールドは,株式上場が具体化していたと認めるに足りる証拠はなく,サクセスジャパンのAは,控訴人に対し,「1年後には上場する。」,「上場すれば株価が高騰し,巨額の利益を得ることができる。」などと虚偽の事実を申し向け,控訴人をその旨誤信させて,未公開株を販売したもので,Aの上記行為は,不法行為に当たるというべきである。

(4)  以上の諸点に照らせば,サクセスジャパンの控訴人に対するアイ・ディ・テクニカ及び井六園ワールドの未公開株に投資する投資事業組合の出資証券の購入の勧誘及び現に購入させたことは,全体として民法上の不法行為に当たると優に認められる。

3  被控訴人Y1の損害賠償責任について(争点1,2)

(1)  アイ・ディ・テクニカの責任

前記認定事実((1)ア及びイ)によれば,Eは,平成15年当時はアイ・ディ・テクニカの取締役であったが,INTキャピタルがアイ・ディ・テクニカの株式をサクセスジャパンらを通じて一般投資家に売却していたことを知っており,旧証券取引法上の疑問を有していたところ,このことをサクセスジャパンらに指摘したEは,サクセスジャパンらから,「投資事業有限責任組合を設立し,財務局への届出もし,会計士による監査も受けるので,旧証券取引法上の問題はなく,アイ・ディ・テクニカの株式への投資を再開したい」旨の申出を受け,アイ・ディ・テクニカとしても,静脈認証装置の開発・販売事業を軌道に乗せるために資金が不足していたことから,これに応じることとして,平成17年4月頃,サクセスジャパンらから合計10億円の出資を受けることとし,同年7月頃までに5億円の出資を受けた。Eは,平成17年6月29日までアイ・ディ・テクニカの代表取締役の地位にあったから,これらの出資受入れがEの関与の下に実行されたと認められるし,サクセスジャパンらによるアイ・ディ・テクニカの未公開株の販売を旧証券取引法上問題となることを明確に認識していた。

前記認定事実((1)カ)によれば,アイ・ディ・テクニカは,平成16年ないし17年5月頃までに,サクセスジャパンに対し,DNA認証の拡販資料,静脈認証の拡販資料,売上予測に係る資料を提供し,サクセスジャパンは,これらを基に本件説明書を作成して,これを勧誘に使用した。提供された売上予測は,平成16年度はともかくとして,平成17年度以降のそれは実際とは異なるものであった(前記認定事実(1)ウ,オ)。そして,Gは,サクセスジャパンら主催のバイオベンチャー2005東京において,出席者に対し,アイ・ディ・テクニカの紹介をし,その中で,平成16年9月から経営体制を一新し,スピードを持った経営をしていること,平成16年度の売上は5億1000万円であり,単年度黒字の見込みであること,平成17年度の売上計画は12億円であること,受注高も平成17年4月1日からすでに3億9300万円に達し,同年9月末までに8億円を予定していること,販売実績では,セコム,NTT東日本,三菱電機ビルテクノサービス,今後の見通しとして,日立グループ,官公庁,海外での受注見込があること等を述べ,業績が上向くことを印象づけた(前記認定事実(1)キ)。

さらに,Eは,平成17年には,サクセスジャパンらの未公開株の販売について,インターネット上で,またマスコミから問題視されていることを認識していたものの(前記認定事実(1)ウ),何らかの調査をしたことは窺われない。

以上の事情に照らせば,アイ・ディ・テクニカの取締役であったE、Gらは,サクセスジャパンらの一般投資家に対する未公開株販売に協力し,これを支える行動をとっていたものというべきであって,アイ・ディ・テクニカは,サクセスジャパンの不法行為について幇助したと認められ,共同不法行為責任を負うというべきである。

(2)  被控訴人Y1の責任

被控訴人Y1は,平成16年6月29日,アイ・ディ・テクニカの取締役に就任し,同年8月20日に同社の代表取締役に就任しており,取締役・代表取締役としてアイ・ディ・テクニカの業務に関して監視監督義務を負っていたというべきである。しかるに,被控訴人Y1は,前示(1)のアイ・ディ・テクニカの不法行為を止めさせ,業務の適正化を図ることを全く怠っていたのであるから,少なくとも重過失による監視監督義務違反があるというべきである。

この点について,被控訴人Y1は,総務経理・生産管理・営業には全く関与しておらず,アイ・ディ・テクニカとサクセスジャパンらとの株取引についても関与していないとして,上記監視監督義務がないとの趣旨の主張をするが,同主張は,代表取締役としての監視監督を怠っていたことを自認するに等しく,上記義務違反の結論を全く左右するものではない。

(3)  損害額

以上によれば,被控訴人Y1は,旧商法266条の3により,サクセスジャパンの不法行為により控訴人が被った損害の賠償義務を負うところ,サクセスジャパンの勧誘がなければ控訴人はアイ・ディ・テクニカの未公開株取得金を支払うことはなかったと推認できるから,出資金406万円が損害と認められる。

そして,控訴人は,控訴人代理人に本件訴訟の追行を委任したものであり,本件訴訟の経過に鑑みると,弁護士費用相当損害額を40万6000円と認める。

よって,被控訴人Y1は,控訴人に対し,以上の合計446万6000円及びこれに対する不法行為の後である平成17年9月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

4  被控訴人Y3及び同Y2の責任について(争点1,2)

(1)  井六園ワールドの責任

ア サクセスジャパンの控訴人に対する井六園ワールドの未公開株に投資する投資事業組合の出資証券の購入の勧誘及び現に購入させたことが民法上の不法行為に当たることは前示2のとおりであるところ,井六園ワールドは,平成17年7月26日以降,売上高予測,税引き前利益の予測数値を作成して,これらの資料をサクセスジャパンに提供し,サクセスジャパンは,これに基に本件説明書を作成した。本件説明書に記載の売上高予測としては,第1期が7億9400万円,第2期が38億8400万円,第3期が66億8750万円,第4期が99億9450万円,第5期が130億8400万円と記載され,税引き前利益予定は,第1期が2615万円の赤字,第2期が11億4954万円の黒字,第3期が24億7332万2500円の黒字,第4期が39億1778万7500円の黒字,第5期が50億9684万円の黒字と記載されているが,この売上高及び利益の予測は,第1期及び第2期の損益計算書による売上高(第1期3596万余円,第2期6523万余円)及び利益(第1期13万余円,第2期5112万余円の損失)とは全く異なっており,本件説明書の上記記載は誇大である(前記認定事実(2)ア)。

前記認定事実(1)ウのとおり,平成17年には既に,サクセスジャパンらの未公開株の販売についてインターネット上で,またマスコミから問題視されていた。被控訴人Y3は,井六園ワールドの設立後直ぐに,サクセスジャパン側から2億円の出資の申入れを受けて,サクセスジャパンの属性等について特段調査をすることなくこれに応じ,投資事業組合に株式を発行することになったのであって(前記認定事実(2)イ),井六園ワールドは,サクセスジャパンらの一般投資家に対する未公開株販売に協力し,これを支える行動をとっていたものというべきであり,サクセスジャパンの不法行為を幇助したと認められる。よって,井六園ワールドは共同不法行為責任を負う。

イ これに対し,被控訴人Y3は,サクセスジャパンは控訴人に対し井六園ワールド投資事業組合の井六園ワールドに対する出資持分を販売したもので未公開株を販売したものではない旨主張する。しかしながら,既に説示したとおり(前記2(2)),未公開株自体の販売と井六園ワールド投資事業組合の井六園ワールドに対する出資持分の販売とを区別して取り扱うことは,一般投資家の保護の見地からみて相当ではない。

被控訴人Y3は,井六園ワールドは投資事業組合から出資を受けて株式を割り当てたことはない旨主張する。しかしながら,前記前提事実(2)ウ,オ及びカのとおり,サクセスジャパンらの井六園ワールド未公開株販売の構図は,井六園ワールド投資事業組合に井六園ワールドの未公開株を取得させて,サクセスジャパンらが井六園ワールド投資事業組合の出資持分を一般投資家に販売するとの方式である点に鑑みると,上記主張は採用できない。

被控訴人Y3は,井六園ワールドは本件説明書の作成に関与していない旨主張するが,前記認定事実(2)アのとおりであって,採用できない。また,同認定事実によれば,同関与が井六園ワールドの宣伝広告の正当な範囲内のものであると認めることもできない。

(2)  被控訴人Y3及び同Y2の責任

ア 被控訴人Y3は,平成17年7月26日以降,井六園ワールドの取締役・代表取締役の地位にあり,被控訴人Y2は,平成17年7月26日から平成18年1月31日までの間,同社の取締役・代表取締役の地位にあった。前示(1)のとおり,井六園ワールドは,サクセスジャパンらの一般投資家に対する未公開株販売に協力し,これを支える行動をとっていたものというべきであって,サクセスジャパンを幇助したと認められるのであり,被控訴人Y3及び同Y2は,井六園ワールドの業務に関して監視監督義務を負っていたというべきである。しかるに,被控訴人Y3及び同Y2は,前示(1)の井六園ワールドの不法行為を止めさせ,業務の適正化を図ることを全く怠っていたのであるから,少なくとも重過失による監視監督義務違反があるというべきである。

イ 以上に対し,被控訴人Y3は,平成18年5月26日前には,サクセスジャパンが未公開株購入の勧誘をしていることを知らなかった旨主張し,これに沿う原審被控訴人Y3本人尋問の結果も存する。しかしながら,平成17年当時におけるサクセスジャパンらの未公開株販売のスキームは,自らが未公開株を取得してこれを販売するのではなく,投資事業組合を設立して同組合に未公開株を取得させ,同組合の出資持分を販売するという形態で一貫しており,被控訴人Y3がそのことを知らなかったというのはにわかに信じ難い上,被控訴人Y3は,代表取締役として自らサクセスジャパンに対する幇助行為をしているのであるから,被控訴人Y3の主張及びこれに沿う前掲証拠部分は採用できない。また,被控訴人Y3は,前示(1)のとおり,サクセスジャパンの属性等について特段調査をすることはなかったのであるから,サクセスジャパンらの未公開株販売の事実を知らなかったこと自体にも重過失による監視監督義務違反があるというべきである。

(3)  損害額

以上によれば,被控訴人Y3及び同Y2は,旧商法266条の3により,サクセスジャパンの不法行為により控訴人が被った損害の賠償義務を負うところ,サクセスジャパンの勧誘がなければ控訴人は井六園ワールドの未公開株取得金を支払うことはなかったと推認できるから,出資金200万円が損害と認められる。

そして,控訴人は,控訴人代理人に本件訴訟の追行を委任したものであり,本件訴訟の経過に鑑みると,弁護士費用相当損害額を20万円と認める。

よって,被控訴人Y3及び同Y2は,控訴人に対し,以上の合計220万円及びこれに対する不法行為の後である平成17年12月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

被控訴人Y3は,控訴人には自己危険回避義務違反がある旨主張するが,前示2及び4(1)のサクセスジャパン及び井六園ワールドの不法行為の態様に照らせば,控訴人の落ち度は著しく低いか落ち度がないものといえ,本件において過失相殺をすることは相当ではない。

第4結論

以上の次第で,控訴人の被控訴人らに対する旧商法266条の3に基づく本件損害賠償請求は,いずれも理由があるから,これを全部認容すべきであり,これと異なる原判決は不当である。よって,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消した上,控訴人の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 土井文美 裁判官下野恭裕は,転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 佐村浩之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例