大阪高等裁判所 平成27年(ネ)795号 判決 2016年3月24日
控訴人
日本航空株式会社
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
冨田武夫
同
山畑茂之
同
山中健児
同
土屋真也
被控訴人 B
同訴訟代理人弁護士 坂田宗彦
同
西晃
同
篠原俊一
同
増田尚
同
平山敏也
同
西川研一
同
楠晋一
同
西川大史
同
本田千尋
同
奥井久美子
同
井上将宏
主文
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記部分に係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1 事案の要旨
控訴人(合併前の商号:株式会社日本航空インターナショナル。以下、控訴人及び合併に係る上記会社をその前後を問わず、単に「控訴人」という。)は、その子会社・関連会社と共に航空運送事業等を営む企業グループ(以下「JALグループ」という。)を形成している。控訴人は、平成22年1月19日に会社更生手続開始決定を受けたところ、上記会社更生手続は平成23年3月28日に終結した。被控訴人は、控訴人に勤務する客室乗務員であった。控訴人は、会社更生手続中である平成22年12月9日、被控訴人を含む客室乗務員108名に対し、同月31日付けで整理解雇する旨の解雇予告通知(以下「本件解雇予告通知」という。)をし、同日、上記108名のうち84名(被控訴人を含む。)に対し、整理解雇を行った(以下「本件整理解雇」という。)。
被控訴人は、原審において、①被控訴人に対する本件整理解雇は無効であるとして、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②控訴人に対し、平成23年1月から本判決確定の日まで、毎月25日限り、賃金23万4412円及びこれに対する各支払期の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求め(なお、各支払期の賃金23万4412円は、前月分の基準外賃金4万8950円及び当月分の基準内賃金18万5462円の合計である。)、これらと併せて、③控訴人が被控訴人に対してした解雇に先立つ退職勧奨及び本件整理解雇が違法であるとして、不法行為に基づき、損害賠償金250万円及びこれに対する不法行為の後である平成23年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
原審は、被控訴人の上記①の請求を認容し、上記②の請求については、(a)18万5462円(平成23年1月分の基準内賃金)及びこれに対する同月26日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金、並びに(b)同年2月から本判決確定の日まで、毎月25日限り、賃金23万4412円及びこれに対する各支払期の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の請求を棄却し、上記③の請求を棄却した。
控訴人は、原判決中、敗訴部分を不服として控訴した。
2 前提事実
次の事実は、当事者間に争いがないか、証拠(略)及び弁論の全趣旨により認めることができる。
(1) 当事者
ア 控訴人
(ア) 控訴人(合併前の商号:株式会社日本航空インターナショナル)は、その子会社・関連会社と共に航空運送事業及び関連する事業を営む企業グループ(JALグループ)を形成している。
(イ) 控訴人には、後記更生手続開始決定の日(平成22年1月19日)において、以下の労働組合が存在した(書証略)。
① JAL労働組合
② 日本航空労働組合
③ 日本航空ジャパン労働組合
④ 日本航空キャビンクルーユニオン(以下「CCU」という。)
⑤ 日本航空乗員組合
⑥ 日本航空ジャパン乗員組合
⑦ 日本航空先任航空機関士組合
⑧ 日本航空機長組合
控訴人における客室乗務員を対象とする労働組合にはJAL労働組合とCCUの二つがあった。
(ウ) 控訴人において、客室乗務員は、平成22年9月1日現在で、邦人一般職が5320名であった(書証略)。そのうち、JAL労働組合は4382名(組織率約82%)、CCUは858名(組織率約16%)を組織しており、無所属が80名であった(書証略)。
イ 被控訴人
(ア) 被控訴人は、昭和○年○月○日生まれの女性である(書証略)。
被控訴人は、平成9年、株式会社甲の子会社である株式会社乙(以下「乙社」という。)に客室乗務員として入社した。被控訴人は、乙社が航空事業から撤退することとなったことから、平成16年11月、株式会社丙(以下「丙社」という。)に、客室乗務員(契約社員)として入社し、平成19年11月1日、正社員となった。その後、平成20年3月31日、丙社が控訴人に吸収合併されたため、被控訴人は、控訴人に正社員として勤務することとなった。(書証略)
(イ) 被控訴人は、控訴人において、客室乗務員として、乗客や行き先に関する情報の調査、ブリーフィング、機内での飲食の提供等のサービス、物品販売、保安業務等の業務に従事していた。
被控訴人は、JAL労働組合に所属していた。(書証略)
(ウ) 被控訴人の平成22年12月時点における賃金は、以下のとおり月額合計23万4412円であり、基準内賃金は毎月末日締め当月25日払い、基準外賃金は毎月末日締め翌月25日払いであった(書証略)。
基準内賃金18万5462円(基本賃金11万6511円、客室手当金5万9204円、世帯手当金9747円)
基準外賃金乗務手当の一般保障4万8950円
(エ) 被控訴人は、平成21年頃から、皮膚が赤くなるようになり、当初は化粧で隠すなどして勤務していたが、平成22年3月頃には、肌の状態が相当悪化し、年次有給休暇(以下「年休」という。)を取得するなどしながら勤務を続けていた。
被控訴人は、平成22年4月8日、X病院皮膚科を受診し、顔面酒さ及び接触皮膚炎と診断された(被控訴人が罹患した上記疾病を、以下「本件疾病」という。)。
被控訴人は、治療を受けながら勤務を続けていたが、肌の状態が悪化し、久しぶりに同じフライトに乗務することとなった同僚から肌の状態を尋ねられるほどになり、平成22年5月には、乗客と接することが困難なほどに悪化した。そのため、被控訴人は、マネージャーに相談したところ、マネージャーから、大阪基地の閉鎖に伴い、成田基地に被控訴人の勤務先が変更になることが決まっており、勤務地が変更になれば環境が大きく変化するため、病気になることもあり得るから年休は残しておいた方がよいとの助言を受けた。被控訴人も、勤務地が変更になることに不安を抱いていたことから、その助言に従って残っていた年休(16日)を取得しないで残しておくこととし、本件疾病の治療のため、同年5月17日から10月18日まで病気欠勤した。
被控訴人は、同年10月18日、控訴人の産業医により同月19日から乗務復帰可能であるとの診断を受けたため、同日、乗務復帰した。
(証拠略)
(2) 就業規則の定め
控訴人の従業員に適用される就業規則52条は、整理解雇について、次のとおり規定している(書証略)。
1項 会社は社員が次の各号の一に該当すると認めたときは解雇する。
・・・
4号 企業整備等のため、やむを得ず人員を整理するとき
(3) 会社更生手続の開始等
控訴人は、平成22年1月19日、株式会社日本航空(以下「JALS」という。)及び株式会社戊(以下「戊社」という。)と共に、東京地方裁判所に対し、会社更生手続開始申立てをした(以下、控訴人とJALSと戊社を併せて「控訴人ら三社」という。)。東京地方裁判所は、同日、控訴人ら三社について、会社更生手続開始決定をし、株式会社企業再生支援機構(以下「機構」という。)及び片山英二弁護士を管財人に選任した(以下、この会社更生手続を「本件更生手続」といい、上記管財人を単に「管財人」という。)。
また、機構は、同日、株式会社企業再生支援機構法(以下「機構法」という。)25条4項に基づき、控訴人ら三社について、再生支援決定を行った(書証略)。
日本政府は、同日、上記開始決定・支援決定を受けて、日本航空について、再生を果たすまでの間、十分な資金を確保するほか、運航の継続と確実な再生を図るため、必要な支援を行っていくこと、日本航空においては、会社を挙げて事業と財務基盤の健全化に強力に取り組み、安全な運航の確保について万全を期すことを強く要請することなどを内容とする政府声明を発表した(書証略)。
(4) 本件更生手続開始当初の事業再生計画
控訴人は、平成22年1月19日までに、事業再生計画(以下「本件旧事業再生計画」という。)を策定し、機構は、同日、「日本航空に対する支援について」と題する文書によりこの計画を公表した。
上記計画においては、再生の方向性として、事業について大幅なダウンサイジングをするとし、人員規模の適正化として、JALグループ社員5万1862人を今後3年間で3万6201人に削減し、各種手当の見直し、年功序列型賃金体系の抜本的改革による人件費の削減を行うとされた。
(書証略)
(5) 控訴人は、平成22年1月21日、JAL労働組合及びCCUを含む前記各労働組合に対し、本件更生手続及び本件旧事業再生計画の内容に関する説明をした。
(6) 控訴人は、平成22年2月24日付け「路便ネットワーク再構築案進捗状況報告書」において、控訴人の再生には「当社に対する各ステークホルダー(銀行、商社、国民等)の理解を得る必要性」があり、「特に債権者に対しては、リファイナンスを要請しなければならず、3年以内ではなく、更生期間内にリストラを即時実施し、十分なキャッシュを生み出せる体質になったことを足元実績として示す必要」があるとした(書証略)。
(7) 特別早期退職措置の募集
控訴人は、平成22年3月から4月にかけて、客室乗務員を対象として、特別早期退職の募集を行った(なお、他職種についても同様の特別早期退職措置の募集を行った。)。その結果、1367名の客室乗務員が応募し、控訴人を退職した。(書証略)
(8) 控訴人は、平成22年度上期路線便数計画を一部変更するとともに、同年度下期の路線便数計画を策定し、平成22年4月28日、これを公表した(上記の「年度」とは、当年4月1日から翌年3月31日までの企業会計年度を指す。以下同じ。)。上記策定に係る平成22年度下期の路線便数計画は、平成20年度対比で、国際線の事業規模を約4割、国内線の事業規模を約3割縮小することを内容とするものであった(書証略)。
控訴人は、平成22年4月28日付け「再生計画の方向性について」と題する書面を配布し、JALグループの社員に対し、平成22年度の路線便数計画を知らせるとともに、「再生計画における徹底した構造改革」と題する書面を配布し、本件旧事業再生計画から前倒しして同年度末(平成23年3月末)までに人員削減を早期達成することとし、削減後の人員数についても、約3万6200名から約3万3500名に変更することを明らかにした(書証略)。
(9) 控訴人は、平成22年8月19日、前記(8) のとおり策定していた平成22年度下期の路線便数計画について、その一部を変更し同計画を確定した(以下「確定下期計画」という。書証略)。
(10) 更生計画案の提出
ア 控訴人ら三社は、平成22年8月31日、本件更生手続に係る更生計画案(以下「本件更生計画案」という。書証略)を東京地方裁判所に提出した。
イ 本件更生計画案は、一般更生債権の87.5%の債務免除(約5200億円の債務免除)及び株式につき100%減資を内容とするものであり、債権者及び株主に大きな負担を求めるものであった。
一方、人員削減については、「航空事業のリストラクチャリングに伴い、人員・組織体制等についてもグループ全体として大幅なダウンサイジングと意思決定の適時・適切化を進める。これにより、運航乗務員、客室乗務員、整備、グランドハンドリング等の直接人員の削減と併せて、本社等の間接人員についても大幅に削減する」(書証略)、「早期退職・子会社売却等により、JALグループの人員削減をより推進し、平成21年度末の4万8714人から平成22年度末には約3万2600人とする予定である」(書証略)、「可能な限りスリムな組織構造を構築し、これにより人的生産性を向上させることで収益性を改善させ、更なるコスト競争力を確保していくことを骨子とし」(書証略)、「事業規模に応じた直接・間接人員数削減を実施し、総人件費を圧縮する」(書証略)などとしていた。
(11) 第一次・第二次希望退職措置の募集
ア 控訴人は、平成22年8月31日、第一次・第二次希望退職措置募集を行うことを公表した。
第一次・第二次希望退職措置募集は、客室乗務員については、①管理職につき55歳以上、②一般職につき45歳以上(キャビンスーパーバイザー及び国際線先任業務資格保有者については52歳以上)を対象者とし(なお、平成20年度以降、傷病により1日でも欠勤・休職・休業をしたことのある者については、希望退職措置の適用を認めることがある。)、③募集期間は、第一次募集期間が平成22年9月3日から24日まで、第二次募集期間が同年10月1日から22日まで、④退職日は同年11月30日、⑤退職条件として、規程上の退職金に加え一時金を支給すること、改定前の制度による企業年金の存続、退職日時点での年休残日数の買取り、外部機関による再就職支援サービスの提供などを行うとするものであった。
(書証略)
イ 控訴人は、平成22年9月3日、希望退職措置説明会を実施し、人員削減について、平成22年度末までにJALグループ全体で約3万2600人とすること、職種別に削減目標人数を定めること、削減目標人数は平成22年9月末を目途に最終化することなどを説明した(書証略)。
ウ 第一次・第二次希望退職措置募集を行った結果、控訴人全体では1545名が、うち客室乗務員については649名が、上記希望退職措置に応募し、控訴人を退職した(なお、客室乗務員については、第一次希望退職措置に193名、第二次希望退職措置に456名が応募したものである。書証略)。
(12) 人選基準案の提示
ア 控訴人は、平成22年9月27日、JAL労働組合及びCCUに対し、「第一次希望退職措置の募集期間が終了したが、応募者数が目標を大きく下回っており、第二次希望退職措置を実施するが、目標が必達であるなかでは、応募者数が目標に達しない場合も想定せざるを得ず、整理解雇の人選基準等についても検討を行わざるを得ない状況になった。」などと述べ、「現時点での会社の整理解雇の人選基準(案)」として、後記イのとおりの整理解雇の人選基準案(以下「当初の人選基準案」という。)を提示した(書証略)。
イ 当初の人選基準案の内容当初の人選基準案の内容は、次のとおりである。
(ア)a 平成22年8月31日時点の休職者(休職については、産前・育児・介護・組合専従によるものを除く(以下、後記b及びcにおいて同じ。)。以下「休職者基準」という。)
b 平成22年度(平成22年4月1日から8月31日まで(以下、後記cにおいて同じ。))において
(a) 病気欠勤日数が合計41日(キャリアサービスアテンダント(以下「CSA」という。)においては21日)以上である者
(b) 休職期間が2か月以上である者
(c) 病気欠勤日数及び休職期間の合計が61日以上である者
c 平成20年度ないし同22年度の過去2年5か月間において
(a) 病気欠勤日数が合計81日(CSAにおいては41日)以上である者
(b) 休職期間が4か月以上である者
(c) 病気欠勤日数及び休職期間の合計が121日以上である者
(d) 病気欠勤日数が、平成20年度13日以上、かつ平成21年度13日以上、かつ平成22年度6日以上である者ただし、上記(a)ないし(b)においては、平成22年度において病気欠勤日数・休職期間がいずれも0日であった者は除く。(以下、上記bとcを併せて「病欠・休職日数基準」といい、病欠・休職日数基準と休職者基準を併せて「病欠・休職等基準」という。)
d 人事考課の基準
人事考課の結果が、平成19年度ないし同21年度の過去3年間において毎年2以下であった者(以下「人事考課基準」という。なお、人事考課の結果は3を標準とするものである。)
(イ) 上記(ア)によってもなお、目標人数に達しない場合は、各職種・職位・保有資格ごとに、年齢の高い者から順に、目標人数に達するまでを対象とする(育児・介護・組合専従による休職者を含む。以下「年齢基準」という。)。
(13) 最終希望退職措置の募集
控訴人は、客室乗務員について、第一次・第二次希望退職措置の募集を行ったが、応募者が削減目標人数に不足していたため、平成22年10月26日、最終希望退職措置募集を行うことを公表した。
最終希望退職措置募集は、客室乗務員については、①管理職につき55歳以上、②一般職につき42歳以上(キャビンスーパーバイザー及び国際線先任業務資格保有者については52歳以上)を対象者とし(なお、平成20年度以降、傷病により1日でも欠勤・休職・休業をしたことのある者については、希望退職措置の適用を認めることがある。)、③募集期間は、平成22年10月26日から11月9日まで、④退職日・退職条件は、第一次・第二次希望退職措置と同じとするものであった。
その結果、83名の客室乗務員がこれに応募し、控訴人を退職した。
(書証略)
(14) 管財人は、平成22年11月12日の管財人会議において、希望退職の応募者が削減目標人数に満たない場合には整理解雇を行うという方針を決定した(書証略)。
(15) 当初の人選基準案に一部変更を加えた人選基準案の提示
控訴人は、平成22年11月15日、JAL労働組合及びCCUに対し、「現時点での会社の整理解雇の人選基準(案)」として、当初の人選基準案のうち病欠・休職等基準について、「病欠・休職等基準に該当する者であっても、同年9月27日(以下、単に「9月27日」ということがある。)現在で乗務復帰している者で、平成18年10月1日から平成20年3月31日までに連続して1か月を超える病気欠勤期間及び休職期間(各期間の合算を含む。)がなかった者は、対象外とする。」旨の基準を付加し一部変更を加えた整理解雇の人選基準案を提示した(以下、この人選基準を「本件人選基準」といい、そのうち付加された基準を「本件復帰日基準」という。本件復帰日基準は、病欠・休職等基準に該当する者のうち9月27日時点で乗務復帰している者を一定の条件(「平成18年10月1日から平成20年3月31日までに連続して1か月を超える病気欠勤期間及び休職期間がない」との条件。以下、上記条件を単に「一定の条件」ということがある。)を付して解雇対象者から除外するとの基準である。また、病欠・休職等基準に該当する者のうち基準日時点で乗務復帰している者を上記条件を付して解雇対象者から除外するとの基準のことを、以下「復帰日基準」という(本件復帰日基準は、基準日を9月27日とする復帰日基準である。)。書証略)。
(16) 整理解雇方針の発表
控訴人は、平成22年11月15日、「希望退職措置について、運航乗務員の目標人数約130名に対し約20名、客室乗務員の目標人数約140名に対し約50名の各応募があった。本件更生計画案の実現のためには更に約200名の人員調整が必要であり、やむを得ず、整理解雇を行うこととした。今後も時間が許す限り希望退職の応募を受け付けることで1名でも多くの応募を募る考えである。これまでの人員規模の適正化施策の人数に関しては、休職者等を除いた人数をベースとしていたが、今般、通常勤務状態にある社員を整理解雇するに当たっては、休職者等約50名についても、一定の基準のもと、整理解雇を実施する方針である。」旨を発表した(書証略)。
(17) 最終希望退職措置の募集期限の延長
控訴人は、客室乗務員について、最終希望退職措置の募集を行ったが、応募者が人員削減の目標人数に不足していたため、平成22年11月19日、最終希望退職措置の募集期限を同月30日までと延長して、その募集を行った。
その結果、24名の客室乗務員がこれに応募し、控訴人を退職した。
(書証略)
(18) 本件更生計画案の可決・認可等
本件更生計画案に対する更生債権者の投票期限は平成22年11月19日と定められていたところ、同月18日に法定多数の賛成票が集まり、同月19日、更生債権者ら議決権者の大多数の同意を得て、本件更生計画案が可決された。東京地方裁判所は、同月30日、本件更生計画案を認可する旨の決定をした。
上記認可決定を受け、同年12月1日、控訴人を存続会社とし、JALS、戊社、株式会社己及び株式会社庚を消滅会社とする吸収合併が実施され、JALグループの組織再編がされると同時に、控訴人は、発行済株式を取得・消却していわゆる100%減資を行った。また、控訴人は、機構から3500億円の出資を受けて1億7500万株の株式発行を行い、これを機構に割り当てた。(書証略)
(19) リファイナンスに係る合意
控訴人は、平成22年11月30日、主要な取引銀行5行(以下「主要行」という。)との間で、「対象事業者(控訴人)及び機構が検討をしている、平成23年3月末までに借入れ等によって調達した資金を原資とする一般更生債権及び更生担保権の繰上げ早期一括弁済等(リファイナンス)」に関し、基本合意書を作成して法的拘束力のない形での基本合意(以下「本件基本合意」という。)をした(書証略)。
(20) 最終希望退職措置の募集期限の再延長
控訴人は、最終希望退職措置の募集期限の延長によっても応募者が人員削減の目標人数に不足していたため、平成22年12月1日、上記募集期限を同月9日までと再延長して、その募集を行った(なお、対象者は、同年10月26日から実施された最終希望退職措置と同様であるが、退職条件等は、退職日が同年12月31日となること、所定の一時金の額が従前の額とは異なることなど、一部変更された。)。
その結果、7名の客室乗務員がこれに応募し、控訴人を退職した。
(書証略)
(21) 客室乗務員に対する解雇予告通知
控訴人は、平成22年12月9日、被控訴人を含む客室乗務員108名に対し、就業規則52条1項4号の定める「企業整備等のため、やむを得ず人員を整理するとき」に該当するため、同月31日付けで解雇する旨の解雇予告通知をした(本件解雇予告通知。書証略)。
(22) 控訴人は、平成22年12月27日付けで、被控訴人に対し、解雇理由証明書を交付した。上記証明書には、解雇理由は、就業規則52条1項4号の「企業整備等のため、やむを得ず人員を整理するとき」に該当するためであり、被控訴人について、本件人選基準のうち「病気欠勤・休職等による基準平成22年度(平成22年8月31日まで)において a)病気欠勤日数が合計41日以上である者。b)病気欠勤日数、乗務離脱期間及び休職期間の合計が61日以上である者。」に該当することを理由としている旨の記載があった。(書証略)
(23) 控訴人は、本件解雇予告通知後も被解雇者を対象として希望退職の募集を行ったところ、23名の客室乗務員の応募があった。控訴人は、平成22年12月31日、本件解雇予告通知をした前記客室乗務員108名のうち24名(上記23名ほか1名)を整理解雇の対象から外し、その余の84名(被控訴人を含む。)に対して本件整理解雇を行った。(書証略)
3 争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は、被控訴人に対する本件整理解雇は有効といえるかである。
(控訴人の主張)
(1) 人員削減の必要性について
ア 事業計画における人員削減計画を遂行する必要性
(ア) 本件更生計画の基本方針
航空事業は、イベントリスクの発生などにより大幅に売上が減少してしまう一方、固定費の割合が高いことから、売上の減少が損益の大幅な悪化に直結するという特性を有している。
控訴人は、本件更生計画では、このような航空事業の特性を考慮に入れ、まずは赤字を出している路便・地点からの撤退、更には燃費効率の悪い大型・中型機の退役や機材の小型化(ダウンサイジング)等を早期に実施することにより、早期の収支改善に目指した。
一方で、路線便数の縮小は、直ちに収入が減少することを意味するため、赤字路線からの撤退、機材のダウンサイジングの効果を得るためには、事業規模に応じた人員・組織体制とすることが必須となる。この考え方に基づき、本件更生計画においては、事業の大幅な縮小、及び縮小した事業規模に見合った人員体制とするため余剰人員の削減を行うことを基本方針としていた。
(イ) 事業計画達成のための人員削減の必要性
a 主要行ら債権者は、本件更生計画の基礎である事業計画、特に人員削減策の達成状況に強い関心を有しており、控訴人は、本件更生計画案に対して債権者らの同意を得るに当たっても、計画が実現されているのかについて厳しいチェックを受けていた。また、本件更生計画においては、人員削減のほか、一般更生債権の免除・分割弁済、既存株式の消却など、各利害関係人の利益を調整し、それぞれに応分の負担を求める内容となっていた。
したがって、更生手続開始に至った控訴人の再建のためには、本件更生計画及びそれと一体をなすものとして利害関係人に対して開示された事業計画における人員削減計画を遂行することが必要であった。
b 平成22年11月の時点で、確定下期計画に基づいて、平成22年度下期(同年10月以降)から大幅に規模を縮小した路線便数計画が実行に移されており、他方で、本件更生計画案の事業損益計画表は、同年11月末に特別早期退職措置等の人員施策により人員削減が実行されることを前提として作成されていた。
また、事業損益計画表は本件更生計画案において示されており、債権者らも、平成22年11月末以降、人員の余剰が顕在化することについては認識できた。
加えて、控訴人は、主要行との間でリファイナンスに関して本件基本合意をし、それには、「更生計画に記載されている対象事業者(控訴人)における諸施策(人員圧縮等、実施中のコスト削減策)…の実現に重大な支障が生じていないこと」がリファイナンス協議の前提として定められており、主要行が上記協議を開始するにあたり、本件更生計画記載の人員削減施策に重大な支障が生じていないことが協議の「前提」となるとされていた。
このように、控訴人においては、平成22年11月30日を経過した時点で、これ以上、人員削減を遅らせることのできない状況であり、早急に余剰人員を削減することが必要であった。
c 削減目標人数の算定
削減目標人数の算定は、稼働ベースの考え方((a)事業運営に必要な労働力として、通常勤務をすることができる1人の社員の労働力(以下「1稼働」という。)を単位とする「必要稼働数」を算定し、(b)在籍社員全体の実労働力についても、一定の換算基準に従い1稼働を単位とする労働力に換算して「有効配置稼働数」を算定し、(c)それらを比較しながら人員計画を立てるという考え方)に基づき、必要稼働数及び有効配置稼働数を算定した上で、後者から前者を差し引いた数に相当する人数(稼働ベースでの人数)を削減することとした。
本件更生計画案策定段階においては、平成23年3月末時点での客室乗務員の必要稼働数は4195名分であるのに対し、同時点に想定される有効配置稼働数は4712名分であったため、その差である517名分を削減目標人数として算定していた。
しかし、平成22年8月19日に、同年10月から実施される平成22年度下期の路線便数計画を一部変更して確定し(確定下期計画)、これにより必要稼働数が75名分減少したため、客室乗務員の平成23年3月末時点での必要稼働数は4120名分となったところ、平成22年8月末時点での在籍者の稼働状況に基づき平成23年3月末時点での有効配置稼働数を算定したところ、4726名分となった。
そのため、控訴人は、平成22年9月末までに、稼働ベースで606名分(4726名分-4120名分)を客室乗務員の最終的な削減目標人数として決定した。
d そして、希望退職措置募集の結果、763名(稼働ベースで534名分)の客室乗務員が応募して控訴人を退職し、前記削減目標人数(稼働ベースで606名分)に対する不足数は稼働ベースで72名分となったことから、控訴人は、平成22年12月9日、この不足数に当たる客室乗務員として、特に対象者から除外した1名(解雇による生活への被害度が極めて高く、人道的な配慮が必要と判断された者)を除く108名(稼働ベースで71名分)の客室乗務員に対し、本件解雇予告通知をした。
控訴人が、その後、同月27日までの間も、被解雇者を対象として希望退職の募集を行った結果、客室乗務員23名(稼働ベースで10.5名分)の応募があり、この他に関連会社への転籍者が1人(稼働ベースで0名分)いた。
そのため、控訴人は、上記削減目標人数に対して不足した客室乗務員84名(稼働ベースで60.5名分)に対し、本件整理解雇を行った。
イ 被控訴人の主張に対する反論
(ア) 被控訴人は、稼働ベースにより削減目標人数を算定したことは不合理である旨主張する。
しかし、客室乗務員については、通常勤務(1稼働換算)をしていない者も多く、そのため、稼働ベースの考え方は、従来から控訴人において人員計画を策定する際に用いられてきたものである。そして、被控訴人が所属していたJAL労働組合に対しても従前から稼働ベースに基づいて人員計画を説明してきたところである。
したがって、客室乗務員の削減目標人数を算定するに当たって、単純に頭数ではなく、稼働ベース換算によって削減目標人数を算定することは、合理的なものというべきである。
(イ) 被控訴人は、「平成22年12月31日時点における有効配置稼働数は、4042名分であり、前記ア(イ)cの必要稼働数4120名分を下回るものであった。」として、平成22年12月末時点において削減目標人数の見直しをすべきであり、そうしていれば削減目標人数は既に達成していた旨主張する。
しかし、被控訴人が主張する平成22年12月31日時点の有効配置稼働数4042名分という数字については、上記時点における客室乗務員の人数やその人数から控除すべき非稼働乗務員要素の人数などが極めて不正確であるという問題がある。したがって、平成22年12月31日時点における有効配置稼働数が4042名分であるとは認められず、被控訴人の上記主張は、その前提を欠くというべきである。
(ウ) 被控訴人は、控訴人が平成22年12月31日時点において高収益を計上していたとして、同日時点において人員削減の必要性がなかった旨主張する。
しかし、平成22年12月31日当時の控訴人の業績の回復については、更生手続の財産評定に起因する部分、従前の急激な円高や燃油価格の安定など外的要因による部分が相当に含まれており、控訴人の競争力そのものは、当時整理解雇を実施する必要がないほどに十分回復していたとはいえなかった。また、控訴人が自助努力としての余剰人員の削減を図ることは、本件更生計画における控訴人の責務であったのであり、更生手続下において余剰人員の削減の必要性が高かった。
したがって、被控訴人が主張するJALグループの業績、収益状況は、本件整理解雇における人員削減の必要性を左右するものではない。
(エ) 被控訴人は、本件整理解雇は過剰な人員削減であり、本件整理解雇により人員不足が生じていた旨主張する。
しかし、控訴人は、本件整理解雇以降、平成24年9月に、同年7月新規採用の客室乗務員による人員補充がなされるまでの1年9か月もの間、一切の人員補充を行うことなく、航空事業を正常に維持・運営した。
客室乗務員の1人当たり月間稼働時間をみても、平成23年度のみ特に稼働時間が増加したという事実はない。
控訴人は、平成24年7月以降、客室乗務員につき新規採用募集を行っているが、それは、本件整理解雇後の状況を踏まえ、同解雇後に検討・決定されたものであり、同解雇後の後発事象に当たる。
したがって、本件整理解雇による人員削減は過剰でなかったというべきであり、本件整理解雇により人員不足が生じていた事実はない。
(2) 解雇回避措置の相当性について
ア 控訴人が実施した解雇回避措置
(ア) 特別早期退職措置及び希望退職措置の募集
控訴人は、平成22年3月から4月にかけて、客室乗務員を対象として、特別早期退職措置の募集を行った。その結果、1367名(在籍社員数)の客室乗務員が応募し、控訴人を退職した。
控訴人は、第一次希望退職措置(募集期間:平成22年9月3日から24日まで)、第二次希望退職措置(募集期間:同年10月1日から22日まで)及び最終希望退職措置(募集期間:同年10月26日から11月9日まで。ただし、その後同月30日まで、そして同年12月9日までと順次募集期間を延長)の募集を行った。その結果、763名(稼働ベースで534名分)の客室乗務員が応募し、控訴人を退職した。
控訴人は、平成22年12月9日の本件解雇予告通知後においても、解雇予告通知をした者を対象として、同月27日までの間、希望退職の募集を行った。この結果、客室乗務員23名(稼働ベースで10.5名分)の応募があった。
(イ) 再就職支援
控訴人は、希望退職措置の募集を行うに当たって、希望退職における退職条件として、外部機関による再就職支援サービスの提供を行い、希望退職措置による退職を促す措置をとった。
(ウ) 経費削減措置
控訴人は、本件整理解雇に先立ち、原判決別紙1記載の措置を行った。これらの措置は、控訴人における経費削減策として機能するものであり、解雇回避措置として評価されるものである。
イ 被控訴人の主張に対する反論
(ア) 希望退職措置募集における対象者は、客室乗務員一般職は45歳以上(最終募集では42歳以上)、キャビンスーパーバイザー及び国際線先任業務資格保有者は52歳以上、管理職は55歳以上であった。
この点について、被控訴人は、希望退職措置募集における対象者について年齢制限を撤廃又は引き下げることで解雇を回避すべきであった旨主張する。
しかし、経営破綻した控訴人が競争力を回復してその事業を再生するためには、希望退職措置募集に当たって対象者について年齢制限を設けることにより、若年層を確保し競争力を付けることが必要であった。したがって、上記年齢制限を設けたことは、十分に理由があり、本件において解雇回避措置を尽くしたと評価する妨げになるものではない。
(イ) 被控訴人は、「控訴人は、整理解雇回避のため、ワークシェアリング、部分就労、リフレッシュ休職、一時帰休等の人件費削減措置を実施すべきであったのに、これらを実施しなかった。」旨主張する。
しかし、控訴人は、本件更生計画上、事業規模を大幅に縮小することを通じて事業再建を目指しており、事業規模の縮小に応じた人員削減を行うことが必要であった。そのため、本件においてワークシェアリング、一時帰休等の措置は採り得なかったものである。
(3) 人選基準の合理性について
ア 控訴人は、本件整理解雇において、本件人選基準により解雇対象者を選定した。
本件人選基準の内容は、前記前提事実(12)イ及び(15)のとおりであり、(a)病欠・休職等基準及び本件復帰日基準、(b)人事考課基準、並びに(c)年齢基準で構成され、主位的に、(a)病欠・休職等基準及び本件復帰日基準、並びに(b)人事考課基準により選定し、それによってもなお、人員削減の目標人数に達しない場合に、補充的に、(c)年齢基準(年齢の高い者から順に目標人数に達するまで解雇対象者とするもの)により選定するとするものである。
本件整理解雇は、客室乗務員84名(稼働ベースで60.5名分)に対して行ったものであるが、病欠・休職等基準の該当者が20名、人事考課基準の該当者が0名、年齢基準の該当者が64名であった。
控訴人は、人選基準について、主に貢献度の観点から決定し、被害度についても加味した(なお、被害度の加味については、本件人選基準に該当する客室乗務員であるが、解雇による生活への被害度が極めて高く、人道的な配慮が必要と判断される客室乗務員1名について、本件整理解雇の対象外としたものである。)。
イ 病欠・休職等基準及び人事考課基準の合理性について
(ア) 控訴人は、貢献度の検討においては、将来の貢献度に着目することとし、特に、控訴人が再生していく過程にある至近の2ないし3年間に、どれだけの貢献が期待できるかという点を重視した。そして、将来の貢献度を評価するに当たっては、これを定量的に把握することは困難であるが、過去の貢献度によって将来の貢献度を判断できると考えられることから、過去の貢献度を評価することとし、その貢献度合いの判断に当たっては、具体的な指標として、病気欠勤日数、休職期間等の客観的なデータを考慮することとした。
(イ) 病欠・休職等基準に該当する者は、過去の一定期間において病気欠勤や休職により一定日数労務の提供ができなかった者であり、これらの者は、過去の一定期間に相当日数の病気欠勤や休職による欠務期間がある者であるといえるから、病気欠勤や休職をしないで通常の勤務を行ってきた者との対比において、控訴人に対する過去の貢献度が低いないし劣後すると評価し、これらによって将来の貢献度も低いないし劣後すると想定したものである。
また、病気欠勤日数や休職期間の指標は、いずれも客観的に算定できるものであり、恣意性の入る余地のない基準である。
対象となる期間は、平成20年度ないし同22年度の過去2年5か月間であるが、これは、将来の相対的な貢献度を、過去の勤務から想定するという人選基準における考え方に基づき、対象とする期間は過去3年程度を合理的なものとして設定したものである。
したがって、病欠・休職等基準の合理性は明らかである。
(ウ) 被控訴人の主張に対する反論
a 被控訴人は、「病欠・休職等基準を整理解雇の人選基準とすれば、客室乗務員において、健康状態に不安がある場合において本来なすべき自己申告をしなくなる可能性がある。」として、病欠・休職等基準を整理解雇の人選基準とすることは、航空機の運航の安全を害するおそれを生じさせる旨主張する。
しかし、上記のような自己申告をしなくなる可能性があることは、客室乗務員の職責、職業意識からしてもおよそ想定しがたいというべきであり、かかる可能性は存在しない。したがって、被控訴人の上記主張は、前提となる事実を欠くものである。
b 被控訴人は、「貢献度を評価するというのであれば、当然に考慮すべき人事考課の結果等を事実上考慮していない。」として、病欠・休職等基準は不合理である旨主張する。
しかし、本件人選基準においては、人事考課の結果も人事考課基準として設けられているから、被控訴人の上記主張は、その前提を欠くものである。
c 被控訴人は、「控訴人においては、傷病による休業・休職の後、乗務復帰のための手続が厳格であるため、復帰に相当な期間を要するものとなっていた。」として、病欠・休職等基準は不合理である旨主張する。
しかし、客室乗務員の業務が乗客の安全に直結する保安業務を含むものであることからすると、休職、病欠者の健康状態を点検し、就労の可否を判断するに当たっては、一定の時間を掛けて厳格な手続を履践することが必要である。したがって、控訴人における乗務復帰手続に一定の期間を要するとしても、そのことをもって、病欠・休職等基準を不合理ということはできない。
d 被控訴人は、病欠・休職等基準が、病気欠勤日数や休職日数から年休の残日数を差し引くこととしていない点について、「病気欠勤ではなく年休を先に取得させることを強いるものであり、年休の自由利用に反する。」旨主張する。
しかし、本件人選基準は、年休の利用状況を考慮するものではなく、恣意性の排除という観点からも、病欠・休職等基準の該当性判断に当たり、年休の残日数を差し引くことはしていない。病欠・休職等基準は、年休の自由利用とは関係がなく、被控訴人の上記主張は当を得ないものである。
e 被控訴人は、被控訴人の本件疾病につき業務上の疾病に当たる旨主張する。
しかし、被控訴人は、「本件疾病の発症と客室乗務員の業務との間の相当因果関係それ自体に関しては、確定的にそれが存在するものと断定することは困難である。」とも主張しており、本件疾病の発生原因に関する被控訴人の主張自体、原因不明であることを前提とした可能性について論じるものでしかない。したがって、被控訴人の上記主張は、その前提を欠くものである。
f 被控訴人は、被控訴人に対する本件整理解雇は労働基準法(以下「労基法」という。)19条(解雇禁止)により無効である旨主張する。
しかし、被控訴人の本件疾病が業務上の原因により発生したとの事実はない上、被控訴人は平成22年10月19日に乗務復帰したものであり、本件整理解雇の時点(同年12月31日)で労基法19条の「療養のために休業する期間及びその後三十日間」との要件を満たしていない。したがって、被控訴人に対する本件整理解雇は、同条の解雇禁止に該当するものではない。
ウ 本件復帰日基準の合理性について
(ア) 本件復帰日基準が設けられた経緯及び同基準の趣旨
a 控訴人は、平成22年8月31日に希望退職措置の募集を発表した後、被控訴人が所属するJAL労働組合との間で、同年9月27日から12月21日にかけて合計11回にわたり、事務折衝を挟んでの団体交渉を実施した。
上記団体交渉の過程で、JAL労働組合は、病欠・休職等基準に該当する者でも、現に乗務復帰している者については将来の貢献度が低いとは評価できない旨主張して整理解雇の対象外とすることを求めた。
しかし、控訴人が設けた病欠・休職等基準は、過去の病気欠勤や休職による欠務により控訴人に対する過去の貢献度が低いないし劣後すると評価し、これをもって将来の貢献度も低いないし劣後すると想定するものであって、現に乗務復帰している者も整理解雇の対象とするものである(病欠・休職日数基準では、平成22年8月31日時点で既に乗務復帰して現実に労務を提供している者も対象とするものである。)。このような病欠・休職等基準の趣旨から、控訴人は、JAL労働組合の上記要求に対して当初は応じなかった。
しかし、JAL労働組合は、当時、客室乗務員の8割強の約4400人を組織する多数組合であり、控訴人は、必要な人員削減や今後の会社施策を円滑に進めていくためには、同労働組合の要求に一定限度応じざるを得ないと判断した。
そこで、控訴人は、最終希望退職措置の募集を終えた後の平成22年11月15日に、整理解雇方針を発表するに当たり、本件復帰日基準(9月27日を基準日とする復帰日基準)を病欠・休職等基準に付加した人選基準案(本件人選基準案)をJAL労働組合に対して提示した。
これは、控訴人が、病欠・休職等基準に関し、JAL労働組合の上記要求に一部応じ、9月27日時点で乗務復帰している者を一定の条件を付して解雇対象者から除外するとの譲歩を行ったものである。このように、病欠・休職等基準に関する本件復帰日基準の設定は、控訴人が、被控訴人が所属するJAL労働組合との間で多数回の協議を重ね、同労働組合の要求に対する妥協の結果として病欠・休職等基準の修正を行ったものである。そして、本件復帰日基準は、本来、病欠・休職等基準に該当して整理解雇の対象となる者の範囲を一部限定する結果をもたらすことになる、いわば例外的な救済措置を設けたものといえる。つまり、病欠・休職等基準に該当しており、したがって、過去の貢献度及び将来の想定貢献度において、病欠・休職等基準に該当しない者と比較して相対的に劣ることに変わりはないものの、JAL労働組合の要求に一部応じ譲歩した結果として、9月27日時点で乗務復帰している者について、例外的に解雇対象者から除外することとしたものである。
b これに対し、被控訴人は、本件復帰日基準の趣旨について、「病欠・休職等基準に該当する者であっても、現在乗務復帰している者については、控訴人に対する将来の貢献が期待でき、将来の貢献度が相対的に低いないし劣後すると評価することはできない。」と考えられることに基づくものである旨主張する。しかし、そのようなものでないことは、前記aのとおりである。
c 被控訴人は、前記aの主張について、控訴人が、本件復帰日基準提示以後の団体交渉や原審においてしていた、本件復帰日基準の趣旨についての説明や主張と矛盾するなどとして、信義に反するものであり許されない旨主張する。
しかし、前記aの主張は、原審において控訴人が主張した事由を補足、整理したものであり、かつ、その内容は、客観的な事実に符号するものである。したがって、上記主張をすることに問題はない。
(イ) 第二次希望退職措置以降に希望退職に応募した者との関係
本件においては、第一次希望退職措置募集から最終希望退職措置募集(募集期限:平成22年11月9日)までの応募者732名の約74%に当たる539名が、平成22年9月27日(当初の人選基準案の労働組合に対する提示日)の後に実施した第二次希望退職措置募集及び上記の最終希望退職措置募集に応募したものである。
控訴人は、上記各希望退職措置の募集を行うに当たり、当初の人選基準案を希望退職措置勧奨の指標として、管理職による面談等の方法により、当初の人選基準案の基準に該当する客室乗務員に対して積極的な退職勧奨を実施した。当初の人選基準案は、このような勧奨を受けて希望退職措置に応募した者が、希望退職を決断する上で重要な動機付けになったものといえる。
このような重要な意義を有する当初の人選基準案のうち病欠・休職等基準について、労働組合の要求を受け入れたことによるとはいえ、控訴人が希望退職措置募集の最終段階である平成22年11月15日に至り、基準日時点で乗務復帰している者を解雇の対象外とすると事後的に変更することは、希望退職措置に応募していた客室乗務員に対して強い不信感を抱かせることになる。中でも、既に乗務復帰していたものの病欠・休職等基準に該当するとして控訴人の退職勧奨に応じて希望退職措置に応募した者から見れば、退職勧奨に応じなくても解雇の対象とならなかったということになるのであり、著しく不公平であり信義に反すると受け止めることは必定である。
このような労使間の信義則を踏まえた観点からすれば、控訴人がJAL労働組合の要求に応じざるを得ないと判断して、乗務復帰している者を整理解雇の対象外とするため復帰日基準を設けるとしても、その範囲をできるだけ限定するのが合理的である。
(ウ) 年齢基準に該当する者との関係
a 高年齢者の中で年齢基準に該当する可能性が高いと勧奨されて希望退職に応じた者は相当数いるし、残留したものの整理解雇の対象になる者もいた(最終的に64名が整理解雇の対象になった。)。しかし、年齢基準に該当する者はそれまでの業務を何ら問題なく通常に遂行していた者であって、長年に亘り控訴人に相応の貢献をしてきた者である。それにもかかわらず整理解雇の対象となったのは、主位的基準の病欠・休職等基準及び人事考課基準によって充足できなかった削減目標人数を達成するため、高年齢者から順に削減目標人数に達するまで解雇の対象者とするとの基準に該当しただけの理由にすぎない。
病欠・休職等基準に該当する者は、過去の一定期間に相当日数の病気欠勤や休職による欠務期間がある者であり、そのような者に対し、年齢基準に該当する者は、通常の勤務を継続してきた者であり、労務の提供に瑕疵は存しなかった者である。両者を対比すれば、現に乗務復帰しているとはいえ、過去の病気欠勤・休職によって一定期間欠務のあった者が控訴人に対する貢献度において劣後することは客観的に明らかである。
それにもかかわらず、病欠・休職等基準に該当し、そのため控訴人に対する過去の貢献度が劣後すると評価された者が現に乗務復帰しているという理由で解雇対象者から除外されることは、補充的基準にすぎない年齢基準で解雇の対象とされる者からすれば、著しく不公平な取扱いと受け止めることになる。そのため、復帰日基準を設けるとしても、その範囲をできるだけ限定するのが合理的である。
b 病欠・休職等基準に該当する者でも平成22年8月31日時点で乗務復帰していれば稼働数が1ないし0.5とカウントされることになるから、復帰日基準を設けたり、基準日を変動させたりすれば、年齢基準による解雇対象者が増えるという一般的関係がある。
本件においては、病欠・休職等基準に該当した客室乗務員のうち、平成22年9月28日から11月15日までの間に乗務復帰した者は12名いたところ、そのうち8名が最終希望退職措置の募集期限(同年11月9日)までに希望退職措置に応募して退職し、その稼働数は2名分であった。そして、希望退職措置に応募しなかった客室乗務員は、被控訴人を含め4名であった。
控訴人は、同年12月9日、上記4名を含む客室乗務員108名に対し、本件解雇予告通知をした。そして、上記4名のうち2名は、その後、希望退職措置に応募し、残りの2名(被控訴人ほか1名)は本件整理解雇の対象となった。
なお、被控訴人を含む上記4名は、稼働ベースでは0人分(平成22年8月31日時点で稼働していない状態)と評価されている。したがって、仮に上記4名を解雇しなかった場合でも、年齢基準による解雇対象者が増加するわけではない。しかし、前記aのとおり、病欠・休職等基準に該当する客室乗務員について、復帰日基準の設定によって整理解雇対象者から除外することについては、補充的基準にすぎない年齢基準で整理解雇の対象とされる者からすれば、著しく不公平な取扱いと受け止めることになる。この点は、復帰日基準の設定によって整理解雇対象者から除外されることになる客室乗務員の稼働ベースの有無とは関係なく問題となることである。
(エ) 労働組合間の公平取扱い
JAL労働組合は、人員削減に関わる労使交渉を通じ、乗務復帰した者については整理解雇の対象外とすべきであるとの主張をしており、一方で、CCUはこのような主張を行っていなかった。上記主張をしていたJAL労働組合は、「現在、このような主張をして控訴人と交渉しているので、今からでも乗務復帰すれば解雇の対象外となるかもしれない。」などと、その時点での当該組合の解雇対象者に働きかけることもできる状況にあった。そのため、復帰日基準の基準日を平成22年11月15日(以下、単に「11月15日」ということがある。)とした場合には、JAL労働組合の対象者のみを利することになる可能性を否定できなかった。
(オ) 労働組合との協議に基づき設けられたものであること
前記(ア) aのとおり、本件復帰日基準は、控訴人が、被控訴人が所属するJAL労働組合との協議に基づき、同労働組合の要求と控訴人の方針を真摯に調整し、妥協した結果である。このように本件復帰日基準を設けたことが労働組合との協議に基づくものであることは、合理性を裏付ける重要な要素として考慮すべきである。
(カ) 以上によれば、控訴人がJAL労働組合の要求を受け入れて復帰日基準を設けるに当たり、その範囲を限定して9月27日を基準日としたことについて十分な合理性が存するというべきである。
(キ) 被控訴人の主張に対する反論
被控訴人は、本件復帰日基準における9月27日の基準日について、控訴人がCCU組合員のC(以下「C」という。)を整理解雇の対象者とするために設定した基準日である旨主張する。
しかし、復帰日基準における基準日の設定に当たって、個別のデータを基に線引きを検討した事実はない。基準日は運航乗務員とで共通であり、特定の客室乗務員を対象としたものではない。また、CCUの執行委員で本件整理解雇の対象となっていない者もいるのであり、復帰日基準における基準日を9月27日としたのは、Cを整理解雇の対象とするためではない。
エ 年齢基準の合理性について
(ア) 年齢基準は、将来の貢献度を考慮に入れ、定年までの期間が長く、控訴人の将来の再生に向けた原動力となる若年層を残すという観点による基準である。すなわち、控訴人においては60歳を定年としているところ、年齢の高い者ほど定年による退職時期が近くなり、その分将来勤務できる期間が短いこととなる。
また、控訴人の客室乗務員については、年功給的な賃金体系であり、高年齢者の方が、相対的に賃金水準が高くなっていた。したがって、人件費面を考慮した場合、高年齢者から順に解雇を行った方が、より将来の人件費の削減にもつながる。
(イ) 被害度という観点を考慮しても、高年齢の客室乗務員は、高水準の賃金を受け取っており、退職に当たっても多額の退職金を受け取ることができる。更には、年齢の高い者については、年金の受給が可能となる時期も早い。したがって、解雇後の生活に対する被害度は相対的に小さいものと考えられる。
(ウ) したがって、年齢基準は合理性を有する。
オ 以上によれば、本件人選基準が合理的なものであることは明らかである。
(4) 解雇手続の相当性について
控訴人は、平成22年9月27日に当初の人選基準案を各労働組合に提示した後、控訴人からは労務、客室本部の担当者(回によっては、管財人代理及び機構担当者)が出席し、また途中からは社長、管財人も出席し、各労働組合との交渉・協議を行った。
被控訴人が所属していたJAL労働組合との交渉の時期、回数については、上記提示後から同年12月末日までの間、11回にわたっている。具体的な団体交渉・事務折衝等の経緯は原判決別紙2記載のとおりである。
控訴人は、上記の交渉・協議において、本件整理解雇を行う必要性についての説明、解雇回避措置に関する説明、人選基準に関する説明を継続して行い、協議をした。そして、人選基準案については、当初の人選基準案に対するJAL労働組合の要求を踏まえた変更(本件復帰日基準の付加)も行った。
以上のとおり、控訴人は、労働組合との協議・交渉を経て、本件整理解雇を行ったものであり、また、その交渉・協議の経緯・内容としても実のあるものであった。
(5) その他の事情について
控訴人は、解雇対象者に対し、次のとおり、退職条件の提示等により、可能な限り解雇による不利益の緩和を図った。かかる措置についても、本件整理解雇の有効性を判断するに当たり、考慮されるべきである。
ア 退職条件の提供
本件整理解雇における退職条件については、平成22年11月30日付けで退職した希望退職者とのバランスを図りつつ、解雇による生活への影響をできる限り抑えるための配慮をした水準の退職条件を提供した。
具体的には、会社の都合等の事由により退職した場合の退職金(なお、被控訴人の場合は、丙社において正社員となった平成19年11月1日以降、控訴人に在籍したものとして算出している。)のほかに、特別退職金と一時金を支給することとした。
特別退職金については、社内規程上は整理解雇時にこれを支給する根拠規定がないものの、整理解雇対象者の生活保障のために、特に支給することとしたものである。また、一時金については、5か月分を支給することとした(ただし、特別退職金及び一時金は、就業規則に基づく60日分(2か月分)の平均賃金にかえて、解雇予告手当として支払うものとしている。)。
被控訴人に対しては、総額で175万4165円の支払を提示しており、うち解雇予告手当相当分としては117万2060円を支払済みである。これに加えて、企業年金基金からの脱退一時金(20万0538円)の支払も存在する。
イ 被解雇者に対する再就職支援
控訴人は、本件解雇予告通知後においても、被解雇者が希望する場合には、外部機関による再就職支援サービス(当該サービスを希望しないときは10万円を支給)の提供を行った。
(6) 以上によれば、控訴人が行った被控訴人に対する本件整理解雇は有効である。
(被控訴人の主張)
(1) 人員削減の必要性について
ア 稼働ベースに基づき削減目標人数を算定したことは不合理であること
稼働ベースは、控訴人の人員計画の策定に当たってこれまで用いられてきた考え方ではない。
仮に、人員計画の策定に当たって稼働ベースによることが肯定されるとしても、人員削減で稼働ベースの考え方を用いると、稼働ベースゼロとされる労働者が何人退職しても人員削減の数値に反映されず、稼働ベースゼロである労働者の退職によっても人件費削減効果があることを全く無視することになる。
控訴人は、路線便数計画(確定下期計画)の運航に必要となる客室乗務員数を超える余剰人員を削減の対象とするというのであるが、そうであるなら、稼働ベースゼロとしかカウントされず有効配置稼働数に含まれない者(被控訴人も含まれる。)については、解雇する必要はない。
したがって、稼働ベースの考え方により客室乗務員の削減目標人数を算定したことは、不合理である。
イ 稼働ベースで606名分とする削減目標人数は不合理であること
仮に、稼働ベースの考え方により削減目標人数を算定するとしても、本件更生計画は、平成22年度末(平成23年3月末)までに、グループ全体の人員数を約3万2600人にするとしたものであり、それは、控訴人の客室乗務員については、稼働ベースで517名分(頭数で約570名)を削減目標人数とするものであった。そうすると、平成22年11月9日時点において、稼働ベースで517.5名分の希望退職応募者があったのであるから(なお、第一次希望退職措置の応募者が稼働ベースで147名分、第二次希望退職措置の応募者が稼働ベースで319.5名分、上記時点における最終希望退職措置の応募者が稼働ベースで51名分であった。)、本件更生計画における上記削減目標人数は達成したといえる。
控訴人は、客室乗務員の削減目標人数を稼働ベースで606名分と決定した旨主張するが、稼働ベースで517名分としていた客室乗務員の削減目標人数について、これを89名分増やしたことに合理的な根拠はなく、稼働ベースで606名分とする削減目標人数は不合理である。
ウ 平成22年12月31日時点で人員削減を行う必要性はなかったこと
本件更生計画は、平成22年度末(平成23年3月末)までに、グループ全体の人員数を約3万2600人にするとしたものであり、それは、控訴人の客室乗務員については、平成23年3月末までに、稼働ベースで517名分(頭数で約570名)を削減することを目標とするものであり、これを前倒しして実現することを求めるものではなかった。したがって、これを3か月も前倒しして平成22年12月31日までに削減目標人数を達成する必要性はなかった。そして、平成23年1月以降、控訴人の総在籍者数は減少し、同年3月末までに、218名もの客室乗務員が減少したところ、控訴人は、平成22年12月31日時点において、同日以降に多くの退職者数が現れることを認識していた。
したがって、平成22年12月31日時点で人員削減を行う必要性はなかったというべきである。
エ 平成22年12月末時点において削減目標人数の見直しをすべきであったこと
(ア) 控訴人は、平成22年9月、平成23年3月末時点での有効配置稼働数を4726名分、必要稼働数を4120名分と想定し、その差である606名分(稼働ベース)を客室乗務員の削減目標人数として決定したところ、それを固定化し、その後、その削減目標人数の見直しをしなかった。
しかし、有効配置稼働数4726名分というのは、平成22年9月時点での想定に基づくものにすぎない。その後、本件整理解雇時点である同年12月31日までに、自然退職者数が予想以上に増えるなどの事情により、有効配置稼働数は次のとおり減少した。
控訴人の平成22年12月31日時点における客室乗務員の有効配置稼働数は、次のとおり4042名分であった。すなわち、控訴人の平成23年1月1日時点における総在籍者数は5557名であり、平成22年12月31日付けで解雇された客室乗務員84名のうち休職者9名を除く75名を上記5557名に加えた人数(5632名)から、休職者数755名を控除すると総配置数は4877名となる。そして、総配置数4877名から、控訴人が想定する平成23年3月末の契約社員地上乗務10名、非稼働乗務員要素268名分、子会社である株式会社己統合による増員したタイ人乗務員557名を控除すると(なお、控訴人は、子会社である株式会社己の統合要素を反映させていないので、株式会社己から受け入れたタイ人客室乗務員は控除すべきものである。)、4042名分となるから、平成22年12月31日時点の有効配置稼働数は4042名分である。
(イ) このように、平成22年12月31日時点の有効配置稼働数は4042名分であり、控訴人の人員削減計画における必要稼働数4120名分を既に下回っていた。
控訴人が決定した削減目標人数(稼働ベースで606名分)は、有効配置稼働数から必要稼働数を差し引くことにより算定した稼働ベース人数であるところ、有効配置稼働数は、平成22年12月31日時点で、控訴人が同年9月に想定していた有効配置稼働数(4726名分)より減少し、4042名分となっていたのであるから、控訴人は、同年12月31日時点の有効配置稼働数に基づき、削減目標人数の見直しをすべきであった。そうしていれば、有効配置稼働数が必要稼働数を既に下回っていたのであるから、削減目標人数は既に達成していたのである。
したがって、平成22年12月31日時点において、人員削減の必要性はなかったというべきである。
オ 平成22年12月31日時点の有効配置稼働数が立証されていないこと
整理解雇による人員削減の必要性は、解雇時点である平成22年12月31日時点において存在したことを要するところ、控訴人は、上記時点において、控訴人が同年9月末までに決定した削減目標人数(稼働ベースで606名分)を内容とする人員削減計画を遂行する必要性はなかった。
そして、有効配置稼働数から必要稼働数を差し引いた人数(稼働ベース)の人員削減をする必要があるという考え方に立つのであれば、平成22年12月31日時点で削減を必要とする人数(稼働ベース)は、上記時点の有効配置稼働数から必要稼働数を差し引くことにより算定されることになるのであるから、控訴人は、人員削減の必要性があったこと及び削減を必要とする稼働ベースでの人数を立証するためには、平成22年12月31日時点の有効配置稼働数を立証することを要する。ところが、控訴人は、本件訴訟において、上記時点の有効配置稼働数が4042名分であるとの被控訴人の主張について、算定数が誤っていると主張するのみで、上記時点の有効配置稼働数を一切明らかにしなかった。このことからすれば、上記時点の有効配置稼働数は、控訴人が同年9月末までに削減目標人数(稼働ベースで606名分)を決定するに当たって想定していた有効配置稼働数4726名分より減少していたというべきである。このことは、同年12月31日時点の有効配置稼働数から必要稼働数4120名分を差し引いた人数(稼働ベース)は、控訴人が同年9月末までに決定した削減目標人数(稼働ベースで606名分)より下回っていたことを意味するのであり、上記削減目標人数の人員削減を行う必要性はなかったというべきである。
したがって、平成22年12月31日時点において、人員削減の必要性はなかったというべきである。
カ 平成22年12月31日時点において高収益を計上していたこと
控訴人は、JALグループの更生計画初年度である平成22年度の営業利益目標を641億円と設定していた。これに対し、JALグループは、平成22年12月期(平成22年4月から12月まで)の営業利益として1586億円を計上していた。
このように、本件整理解雇当時、本件更生計画における事業計画上の営業利益目標を大きく上回る連結営業利益を計上していたことからすれば、平成22年12月31日時点において、人員削減の必要性はなかったというべきである。
キ 本件整理解雇により人員不足が生じていたこと
(ア) 平成23年度における稼働時間実績値
控訴人が本件整理解雇後の平成23年6月に策定した平成23年度客室乗務員人員計画によれば、平成22年度の客室乗務員1人当たりの1か月の稼働時間数は59.6時間(有効配置稼働数ベース)であった。平成23年度の計画値は同じく64.5時間とされたが、平成23年度の実績値は66時間であった。平成23年度の平成月末有効配置稼働数は4544名分であるから、6816時間分(4544人×1.5時間)の客室乗務員の稼働が当初の計画より不足したといえる。この6816時間分を平成23年度の客室乗務員の稼働時間実績値である66時間で除すれば、人数にして103名余りの客室乗務員の稼働時間に相当する。つまり、75名(本件整理解雇により解雇された客室乗務員84名から休職者9名を除いた人数)の整理解雇を実施しなくても客室乗務員の稼働時間が平成23年度の稼働時間計画値を下回ることはなかった。
(イ) 平成24年度以降の新規採用
控訴人は、平成24年度に入って、同年7月以降入社の既卒者を募集して250名採用し、その後再度既卒者を募集して140名採用し、平成25年度の4月以降入社の新卒者290名を採用したものであり、控訴人において人員不足が進行していたことは明らかである。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)の事実は、本件整理解雇が過剰な人員削減であり、本件整理解雇により人員不足が生じていたことを示すものである。
したがって、平成22年12月31日時点において、人員削減の必要性はなかったというべきである。
ク D会長の発言
控訴人のD会長(当時。以下「D会長」という。)は、平成23年2月8日の記者会見において、「(整理解雇した)160人を残すことが、経営上不可能かといえば、そうではないのは、もう皆さんにもお分かりになると思いますし、私もそう思います。」と述べた。
D会長の上記発言(以下「D会長の発言」という。)からすれば、本件整理解雇による人員削減の必要性はなかったというべきである。
(2) 解雇回避措置の相当性について
ア 平成23年3月末まで希望退職措置募集を行うべきであったこと
本件更生計画における人員削減の実施時期は平成23年3月末であり、平成22年12月末までに本件更生計画における人員削減計画を完遂する必要はなく、同月31日時点において人員削減の必要性はなかった。
したがって、控訴人は、整理解雇回避のため、平成23年3月末まで希望退職措置募集を行うべきであった。ところが、控訴人は、平成23年3月末まで上記募集を行うことをせず、平成22年12月31日付けで本件整理解雇を行ったのであるから、解雇回避措置を尽くしたとはいえない。
イ 年齢制限の撤廃又は引下げを行うべきであったこと
控訴人は、希望退職措置募集を行うに当たって、対象者について、45歳以上(第一次・第二次希望退職措置)、42歳以上(最終希望退職措置、その募集期限の延長・再延長)という年齢制限を設けて募集した。控訴人がこれらの年齢制限を撤廃して又は引き下げて希望退職措置を募集していれば、控訴人が決定した前記削減目標人数を容易に達成することができたはずである。控訴人は、希望退職措置募集を行うに当たって、対象者について設けた年齢制限の撤廃又は引下げを行うべきであったのに、「若返った筋肉質の会社になる」ことにこだわり、これを行わなかったのであるから、解雇回避措置を尽くしたとはいえない。
ウ ワークシェアリング、一時帰休等を実施すべきであったこと
控訴人は、整理解雇回避のため、ワークシェアリング、部分就労、リフレッシュ休職、一時帰休等の人件費削減措置を実施すべきであったのに、これらを実施しなかった。
エ したがって、控訴人が解雇回避措置を尽くしたとはいえない。
(3) 人選基準の合理性について
ア 病欠・休職等基準及び人事考課基準の不合理性について
(ア) 長期雇用システムの下で、労働者が傷病により欠勤や休業を余儀なくされることは予定されており、これを許容し、復職を可能にすることによって、長期雇用システムが維持されている。控訴人が、休業・休職の制度を設け、休むことを制度として保障しているにもかかわらず、病欠・休職等基準が、傷病によってやむなく欠勤・休職したことを根拠として「企業に対する将来の貢献度が一般に低い」と評価することは不合理である。
また、控訴人においては、病気欠勤をしても6か月間は全額賃金が補償され、その後、基準内賃金及び乗務手当が2分の1、3分の1と段階を経て減額され、病気欠勤開始から1年で支給されなくなるが、健康保険の傷病手当金・傷病手当付加金のほか、病気欠勤2年目以降は、延長傷病手当付加金等で補填され、病気欠勤3年半までは賃金の85%が支給されるなど、病気欠勤等をした場合における賃金・手当付加金の支給に関し、法定の制度に加重した手厚い労働者保護がなされていた。それにもかかわらず、整理解雇の局面において、病欠・休職等基準が病気欠勤や休職をしたことを問題視するのは、自家撞着というほかない。
したがって、病欠・休職等基準は不合理である。
(イ) 傷病を理由として人選基準に該当するとして解雇することは、当該労働者の人格権ないし人格的利益を損ない、名誉を毀損するものである。
したがって、病欠・休職等基準は不合理である。
(ウ) 運航の安全を害するおそれを生じさせること客室乗務員について、病欠・休職等基準を整理解雇の人選基準とすると、客室乗務員において、健康状態に不安がある場合に本来なすべき自己申告をしなくなる可能性がある。
したがって、病欠・休職等基準を整理解雇の人選基準とすることは、航空機の運航の安全を害するおそれを生じさせるというべきであり、病欠・休職等基準が不合理であることは明らかである。
(エ) 人事考課の結果等を人選基準に反映させなかったことは不合理であること
a 将来の貢献度を評価するというのであれば、人事考課の結果やHTグレードの評価(控訴人が人事考課に用いてきた評価)を十分考慮することのできる基準を、整理解雇の人選基準として設けるのが合理的である。本件人選基準には、人事考課基準が設けられてはいるが、結局のところ、人事考課基準では誰も整理解雇の対象者とされていないのであり、基準として考慮していないに等しいといわざるを得ない。
本件人選基準は、人事考課の結果やHTグレードの評価が人選基準にほとんど反映されなかった結果、人事考課やHTグレードにおいて高評価を受けていた者が、将来にわたって貢献する蓋然性が高いのに、休職・病気欠勤の日数という基準によって整理解雇の対象とするのであり、不合理極まりない。
これを被控訴人についていえば、被控訴人は、平成17年から同21年までの5年間(乙社時代を含めると12年間以上になる。)、乗務割完全履行(スケジュールで定められた乗務割について、遅刻や欠勤をしないことはもとより、事前に変更を申し出ることも全くないことをいう。)を継続し、控訴人からその業績を称えられてきた。そして、被控訴人は、HTグレード(ヒューマン、テクニカルのそれぞれについて、高い方から順にAからEレベルまで5段階で評価する制度)において、制度導入後2年連続してBB(ヒューマンもB、テクニカルもB)という高い評価を受け、人事考課の結果(3を標準とするもの)においても4年連続して4と高評価であった。このように高い評価を受けていた被控訴人について、将来の貢献度が低いと評価する病欠・休職等基準及び人事考課基準が不合理であることは明らかである。
b したがって、控訴人は、人選基準を設けるに当たり、人事考課の結果等を十分考慮するため、人事考課やHTグレードにおいて高評価を受けていた者を解雇対象者から除外する基準を設けるべきであったものであり、病欠・休職等基準及び人事考課基準は、このような基準を設けていない点で、不合理である。
(オ) 病欠・休職等基準は、直近の一定の期間における休職期間や病気欠勤日数を問題とするものである。しかし、個々の従業員の貢献度を評価するのであれば、入社後の全期間について評価すべきであり、病欠・休職等基準が、休職期間や病気欠勤日数を問題とする対象期間を設定するに当たり、直近の一定の期間に限定する期間設定をしたことは、不合理である。
(カ) 控訴人においては、一般企業と比較して、はるかに乗務復帰のための手続が厳格であった。乗務復帰のプロセスは、主治医の「就業可能」との診断書を提出の上、産業医との面談を受け、産業医が「乗務復帰可能」と診断し、その後、マネージャーとの面談を経てはじめて、職場に復帰することが認められるというものであり、休業期間によっては、諮問委員会による審査を受けなければならないこともある。
このように、控訴人においては、傷病による休業・休職の後、乗務復帰するための手続が厳格であるため、復帰に相当な期間を要するものとなっていた。
したがって、傷病による休業・休職の期間をもって、貢献度が低いとして整理解雇の対象とすることは不合理である。
(キ) 病欠・休職等基準は、病気欠勤・休職日数を基準とし、その日数から年休の残日数を差し引くことをしていない。このような基準を設けることは、病気欠勤ではなくて年休を先に取得させることを強いることになるのであり、年休の自由利用に反し、病気欠勤によって保障される労働者の権利を害するものである。
したがって、病欠・休職等基準は不合理である。
(ク) a 被控訴人の本件疾病(顔面酒さ、接触皮膚炎)は、客室乗務員の業務に起因して発症したものであり、業務上の疾病に当たる。
被控訴人が、かかる業務上の疾病による欠勤を理由として解雇されるのは不合理である。そのことは、労基法19条の趣旨に照らしても明らかである。したがって、そのような業務上の疾病により欠勤した被控訴人を、整理解雇の対象として選定した病欠・休職等基準は、不合理である。
b 仮に、被控訴人の控訴人における業務と本件疾病との間に因果関係があること(被控訴人の本件疾病が業務上の疾病に当たること)が認められないとしても、本件疾病は、「職業病的側面のある疾病、類型的に就業環境によって惹起しやすい疾病、あるいは、業務に関連する疾病(これらを、以下「職業病的側面のある疾病等」という。)」に当たるところ、病欠・休職等基準を人選基準として設け病気欠勤・休職をした者を整理解雇の対象とするのであれば、職業病的側面のある疾病等により病気欠勤・休職した者については整理解雇対象者から除外すべきであるから、人選基準を定めるに当たって、上記の者を整理解雇対象者から除外する旨の基準を設けるべきである。
したがって、病欠・休職等基準は、職業病的側面のある疾病等により病気欠勤・休職をした者を整理解雇対象者から除外する旨の基準を設けていない点で、不合理である。
イ 本件復帰日基準の不合理性について
本件復帰日基準が基準日を9月27日としたことは、次のとおり、不合理である。
(ア) 復帰日基準の趣旨に照らしての不合理性
a 復帰日基準(病欠・休職等基準に該当する者のうち基準日時点で乗務復帰している者を一定の条件を付して解雇対象者から除外するとの基準)を設けること自体は、合理性を有するというべきである。そして、①控訴人は、JAL労働組合との団体交渉において、平成22年11月15日、同労働組合に対し、当初の人選基準案に本件復帰日基準を付加し人選基準を変更した理由について、「病欠・休職等基準による整理解雇対象者であっても、現在は乗務復帰して通常勤務状態にある者は、将来の貢献度は一概に低いとはいえず、過去の一時期の傷病歴だけで解雇対象とすることは不適当ではないかと考えた。」旨説明し、同月22日にも、「平成20年から同22年の病欠・休職等基準には該当したが、控訴人が最初に人選基準案を提示した平成22年9月27日現在は乗務復帰し、かつ平成19年度以前についても長期間の病気欠勤等のない者について、将来の貢献ができると判断し、人選基準案から外れるものとした。」旨説明していたこと、②控訴人は、原審においては、本件復帰日基準を設けたことについて、「それまでの人選基準で対象としていた平成20年度から平成22年度8月31日までの期間における病欠・休職等基準には該当しているが、それ以降乗務復帰しており、かつ平成19年度以前についても長期間の病気欠勤や休職期間のなかった者については、将来において高い貢献が期待できると判断し、人選基準から除外することとした。」旨主張していたことからすれば、本件復帰日基準の趣旨は、「病欠・休職等基準に該当する者であっても、現在乗務復帰している者については、控訴人に対する将来の貢献が期待でき、将来の貢献度が相対的に低いないし劣後すると評価することはできない。」と考えられることに基づき、整理解雇対象者から除外することとしたものといえる。上記の趣旨に照らせば、復帰日基準における基準日については、本件解雇予告通知時に近い、できるだけ遅い時点を基準日とするのが合理的である。したがって、復帰日基準における基準日は、本件復帰日基準を提示した日である11月15日とすべきであり、基準日を9月27日とする本件復帰日基準は不合理である。
b(a) これに対し、控訴人は、当審において、本件復帰日基準に該当する者につき「病欠・休職等基準に該当しており、したがって、過去の貢献度及び将来の想定貢献度において、病欠・休職等基準に該当しない者と比較して相対的に劣ることに変わりはないものの、9月27日時点で乗務復帰している者について、例外的に解雇対象者から除外することとしたものである。」旨主張する。
(b) しかし、控訴人が、本件復帰日基準提示以後のJAL労働組合との団体交渉や原審においてしていた前記aの説明や主張と矛盾するというべきであり(控訴人は、上記団体交渉や原審においては、本件復帰日基準に該当する者について、将来の貢献度が相対的に低いなどの説明を主張せず、かえって、将来の貢献度につき相対的に低いとはいえない旨の説明・主張をしていたものである。)、控訴人が当審において前記(a) の主張をすることは、信義に反するものであって、許されない。
(イ) 控訴人の主張に対する反論
a 控訴人は、「第二次希望退職措置以降に希望退職に応募した者との関係で不公平とならないようにすべき要請がある。」などとして、復帰日基準における基準日を9月27日とするのが合理的である旨主張する。
しかし、平成22年9月27日に提示された当初の人選基準案は、あくまでも「案」にすぎず、確定したものではなかった。人選基準が確定する前に希望退職措置に応募した者は、その後の労働組合との交渉により人選基準が変更される可能性があることを認識しつつ、自らのリスク判断に基づいて希望退職措置に応募したのであるから、控訴人主張に係る不都合は、必ずしも回避しなければならない不都合とはいい難い。希望退職措置に応募した者は、自らの意思によって労働契約を終了させることを決定したのであり、そのような意思決定をせず、その意に反して解雇された者との間に生じる「不均衡」を回避すべき要請は低いというべきである。したがって、復帰日基準における基準日を11月15日とすることによって第二次希望退職措置以降に希望退職に応募した者との関係で生じる事態は、回避すべき不都合であるとはいえない。
また、控訴人がそうした応募者に対する配慮を考えるのであれば、復帰日基準の基準日を変更するに際して、希望退職措置への応募を撤回する意思の有無を尋ね、応募を撤回した者についてはこれを認めればよく、応募の撤回を認める措置を講じることに特段の支障はなかったものである。したがって、復帰日基準における基準日を11月15日とすることによって第二次希望退職措置以降に希望退職に応募した者との関係で生じる事態は、復帰日基準を設けるに当たり、基準日を9月27日とするのが合理的であるといえる根拠となるものではない。
b 控訴人は、「主位的基準である病欠・休職等基準に該当する客室乗務員について、復帰日基準の設定によって整理解雇対象者から除外することについては、補充的基準にすぎない年齢基準で整理解雇の対象とされる者からすれば、著しく不公平な取扱いと受け止めることになる。」などとして、復帰日基準における基準日を9月27日とするのが合理的である旨主張する。
しかし、平成22年9月28日から11月15日までの間に乗務復帰した者のうち、整理解雇の対象となった被控訴人を含む4名は、稼働ベースでは0人分であったのであるから、仮に、復帰日基準の基準日を9月27日から11月15日に遅らせ上記4名を解雇しなかった場合でも、年齢基準による解雇対象者が増加することはなかったものである。そうすると、年齢基準で整理解雇の対象とされる者が、基準日を9月27日ではなく11月15日とする復帰日基準が設けられることについて、不公平感を抱くとは考えられないし、仮に不公平感があったとしても、それは、嫉みの感情に近い俗感情であり、法的に保護すべき感覚とは考えられない。
c 控訴人は、「JAL労働組合は、団体交渉において、現に乗務復帰していた者について整理解雇の対象外とするよう主張していたものであり、当該組合の解雇対象者に乗務復帰を働きかけることもできる状況にあった。そのため、復帰日基準の基準日を11月15日とした場合には、JAL労働組合の対象者のみを利することになる可能性を否定できなかった。」旨主張する。
しかし、JAL労働組合が組合員に乗務復帰を働きかけた事実はない。そもそも客室乗務員が主観的に復帰したいと考えるだけで復職できるものではないから、控訴人の懸念は非現実的である。
(ウ) Cを整理解雇の対象とするためであったこと
a 控訴人が復帰日基準の基準日を9月27日としたのは、CCUの執行委員で、上記労働組合の次世代のリーダーと目されるCの乗務復帰日が平成22年10月1日であったため、同人を整理解雇の対象とするためであった。
b 次の事実は、前記aの事実を推認させるものである。
平成22年11月16日、CCUが控訴人の整理解雇方針に反対してスト権の確立のための投票の手続を進めていたところ、機構(控訴人の更生管財人)のEディレクターらは、CCUの役員等に対し、「組合の争議権が確立された場合、機構は、それを撤回するまで本件更生計画案で予定されている3500億円を出資することはできない。」などと発言した。これは、労働組合法7条3号所定の支配介入に当たり、不当労働行為を構成する(以下「本件不当労働行為」という。)。
(4) 解雇手続の相当性について
ア 控訴人は、有効配置稼働数を基準に人員削減の必要性を説明しているのであり、有効配置稼働数が何名になるのかについては、人員削減の必要性を判断する上で重要な要素である。また、控訴人にとって、有効配置稼働数について具体的数値及びその算定方法を説明することは容易にできたはずである。
前記被控訴人の主張(1)エ及びオのとおり、削減を必要とする稼働ベースでの人数は、本件整理解雇時点である平成22年12月31日時点の有効配置稼働数に基づき算定すべきものである。そして、同日時点において、実際の一般退職者数が平成22年9月時点で想定した人数より増加していた場合、同年12月31日時点の有効配置稼働数は、控訴人が同年9月末までに削減目標人数を決定するに当たって想定していた有効配置稼働数4726名分より減少することになり、上記の減少が生じていれば、控訴人が決定した上記削減目標人数の人員削減を行う必要性はなかったものである。そうすると、控訴人は、人員削減の必要性を説明するために、労働組合に対し、平成22年12月31日時点の有効配置稼働数や実際の一般退職者数を説明する必要があったというべきである。
ところが、控訴人は、上記時点の有効配置稼働数や実際の一般退職者数について、労働組合に対して説明しなかった(なお、控訴人は、CCUから、団体交渉や事務折衝で、一般退職者が何名であるのかについて、何度も説明を求められていたにもかかわらず、これまで答えていなかったからという理由のみで、CCUに対して一切説明しなかったものである。)。
イ 控訴人は、人選基準について、繰り返し組合と協議していくと説明していたところ、平成22年12月7日のJAL労働組合との団体交渉の際、「今後とも継続的に協議を行う。人選基準案について引き続き貴労組と協議させていただくことに変わりはない。」旨述べた。にもかかわらず、控訴人は、その後何らの協議も持たないまま、2日後の同月9日には、本件人選基準案を一方的に確定させ、本件解雇予告通知をした。
ウ 機構(控訴人の法人管財人)のEディレクターらは、平成22年11月16日、本件不当労働行為をした。
エ したがって、本件整理解雇の解雇手続は相当性を有しない。
(5) 以上によれば、控訴人が行った被控訴人に対する本件整理解雇は無効である。
第3当裁判所の判断
1 争点(被控訴人に対する本件整理解雇は有効といえるか)について
(1) 被控訴人に対する本件整理解雇は、控訴人の就業規則52条1項4号の「企業整備等のため、やむを得ず人員を整理するとき」に該当する事実があることを理由とする整理解雇である。したがって、被控訴人に対する本件整理解雇の効力を判断するに当たっては、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人選の合理性(人選基準の合理性)、④解雇手続の相当性をそれぞれ検討し、これらを総合的に考慮して判断するのが相当である。
(2) 人員削減の必要性について
ア 前記前提事実及び証拠(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 本件更生手続開始決定に至る経緯等
JALグループは、国際線を中核とする国策会社として昭和26年に誕生し、一大航空グループを形成したが、経年とともに組織が硬直化し、しかも構造的な高コスト企業群へと推移した。JALグループにとって、適正な人事施策、自己資本の増強、合理的な路便路線計画及び効率的な機材配置による経営戦略を実行することは、早急に取り組むべき課題であったが、これらの課題に対する抜本的な改善がなされないなか、平成13年以降、米国同時多発テロ、イラク戦争及びSARS(重症急性呼吸器症候群)や新型インフルエンザ流行等のイベントが発生し、国際線を中心とする航空ネットワーク事業を展開するJALグループの経営を直撃した。
平成20年以降には、燃油価格の高騰及び燃油サーチャージの高額化による需要の低迷に加え、いわゆるリーマンショックに端を発した金融危機の影響による全世界的な景気後退に直面し、特に利益の源泉であったビジネスの国際旅客及び国際貨物の需要が急減し、これらにより、JALグループの平成20年度決算は、約500億円の営業損失を計上し、最終損失は約630億円に達した。
JALグループは、このような業績の急激な悪化を受け、平成21年6月、主要行の協調融資で1000億円を借り入れるなどし、当面の資金繰りを確保した。
国土交通省は、平成21年4月、控訴人に対し、抜本的な経営改善計画の策定を指示し、同年8月20日、「日本航空の経営改善のための有識者会議」を開催した。控訴人は、同年9月24日、国土交通大臣に対し、検討中の経営改善計画を説明し、「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」による出融資の活用を含む支援を求めた。
その後、新たに就任した国土交通大臣は、有識者会議を解散し、私的な諮問機関として、事業再生の専門家からなるJAL再生タスクフォース(以下「タスクフォース」という。)を立ち上げ、控訴人は、その指導・助言のもとで、同年10月末までに新たな事業再生計画を策定することとなった。
しかし、運航継続に多額の新規資金調達が必要となることもあり、タスクフォースの指導・助言のもとでの事業再生計画策定は終了し、タスクフォースは、同年10月29日、国土交通大臣に対し、JALグループにつき公的資金の枠組みをもった機構による支援を受けて再建することを妥当とする旨の調査結果を報告した。これを受け、控訴人は、機構に対し、JALグループの再生支援について事前相談を開始した。
機構は、事前相談を受け、支援の可否を判断するため、ビジネス・会計・法務等の多数の専門家による協力のもと、JALグループに対するデューデリジェンスを開始した。
控訴人は、平成21年11月、控訴人単独では資金繰り破綻を来たし運航を停止せざるを得ない状況になったが、公共交通機関としての立場が考慮され、同月以降、日本政策投資銀行等の主要行による緊急融資を受けていた。
機構によるデューデリジェンスの結果、控訴人ら三社は、もはや私的整理手続である事業再生ADR手続により控訴人の再建を進めることは困難であり、迅速かつ確実な再建のためには、機構による支援と会社更生手続により再建を図るべきであると判断し、平成22年1月19日、東京地方裁判所に対し、会社更生手続開始を申し立て、即日開始決定を受けた。そして、同日、機構に対し、正式な再生支援申込みをし、その支援決定を受けた。また、同日、前記前提事実(3)のとおり、政府声明が発表された。
本件更生手続開始当時、控訴人の財務状況は逼迫しており、厳しい信用毀損状況にあった。控訴人は、当時、実質的に債務超過に陥っていただけでなく(なお、JALグループ全体では約9600億円の債務超過となっていた。)、営業キャッシュフローも巨額のマイナスとなっていた。
機構及び日本政策投資銀行は、平成22年1月、大きな信用不安と資金不足の状態にあった控訴人に対し、協調して総額6000億円の融資枠を設定し、日本政策投資銀行は、合計3050億円(同月15日に1450億円、同月20日に1600億円)の事業資金を融資した。(書証略)
(イ) 本件更生手続開始当初の事業再生計画
控訴人は、平成22年1月19日までに、後の会社更生手続における更生計画によって修正・変更されることが予定されている暫定的なものとして、当初の事業再生計画(本件旧事業再生計画)を策定し、機構は、同日、「日本航空に対する支援について」と題する文書により上記計画を公表した。
上記計画においては、控訴人の窮境原因として、過去の大量輸送時代の構造を引きずり、事業構造及び組織体制の硬直化により需要低迷に適時適応した事業規模及び組織体制の縮小ができなかったことが挙げられ、再生シナリオとして、①機材の小型化、効率性向上、②不採算路線からの大胆な撤退とアライアンス(提携)効果追求、③人員・組織体制の効率化、柔軟性の抜本的向上、④現場基点の意思決定の早い組織体制の確立が掲げられた。また、再生の方向性として、事業について大幅なダウンサイジングをするとし、人員規模の適正化として、JALグループ社員5万1862人を今後3年間で3万6201人に削減し(1万5661人の人員削減)、各種手当の見直し、年功序列型賃金体系の抜本的改革による人件費の削減を行うとされた。
上記内容の計画が策定されたのは、硬直的で過剰な固定費を抱え込んでしまった控訴人が確実な再建を推し進めるためには、その事業規模を適正規模に縮小し、それに見合った人員体制を築くことが必要不可欠であったためである。(書証略)
(ウ) 特別早期退職措置の募集
控訴人は、平成22年3月から4月にかけて、特別早期退職措置の募集を行い、その結果、客室乗務員については、1367名が、上記特別早期退職措置に応募し、控訴人を退職した。
(エ) 新たな事業計画の策定
機構は、本件更生手続開始決定の際、法人管財人に選任され、以後、JALグループの実態を把握した上で更生計画案を提出すべく、その基礎となる事業計画の策定を開始した。機構からは、ビジネス・ファイナンス・会計・法務等の専門家約20名の役職員が控訴人に派遣され、計画の策定に携わった。
前に策定された本件旧事業再生計画は、倒産手続に入る前に、機構が社外から検討したことに基づくものであり、当初から、後の会社更生手続における更生計画によって変更されることが予定されていた。また、控訴人においては過去に策定した事業計画につきいずれも未達成であったため、債権者から、本件旧事業再生計画について、より抜本的な内容にすべきであるとの意見があった。これらを踏まえ、管財人は、航空事業の売上の変動可能性が大きいことから、二度と破綻しない事業体とするため、より早期に営業黒字化を図り、リスクに対する耐性を高め、早期再生を図る必要があると判断し、更生期間内のリストラクチャリングの早期実施など、従前検討されていた諸施策を前倒しで実行することを検討していた。(書証略)
JALグループは、国内・国際線の赤字路線の大幅削減を内容とする平成22年度下期の路線便数計画を策定し、平成22年4月28日、これを公表した。その計画は、平成20年度対比で、国際線の事業規模を約4割、国内線の事業規模を約3割縮小することを内容とするものであった。(書証略)
控訴人は、平成22年度下期の路線便数計画に基づき、平成22年6月4日、新たな事業計画(以下「本件新事業計画」という。)を正式に決定した。
本件新事業計画は、国内・国際線の赤字路線を大幅に削減するほか、燃費効率の高い航空機への更新、拠点数の削減、関連会社の整理・売却など、事業リストラを推進するとともに、再建のスピードを加速させ、計画初年度から大幅な事業縮小と黒字化を目指す内容であった。そして、早期かつ確実な再生を実現するため、本件旧事業再生計画において3年かけて実施する予定であった抜本的改革を大幅に前倒しして、初年度(平成23年3月末まで)に完遂することを内容としていた。このように、平成22年6月4日策定の本件新事業計画において、人員削減について前倒しで実施することとされた。
当時、控訴人に対しては、「日本航空不要論」「国際線航空会社一社化論」をはじめとする国民の強い批判があった。また、JALグループの債務超過額が約9600億円という巨額に上り、債権者や株主に多大な経済的損失を与えることが避けられない状況であった。控訴人は、このような情勢のなかで、利害関係人の理解を得て更生手続を進めるためには、上記の事業リストラの一段の深掘りと初年度内での完遂は避けることができないと判断した。
(オ) 本件更生計画案策定段階での削減目標人数の策定
a 控訴人における人員計画の考え方
(a) 控訴人においては、従来から、運航乗務員や客室乗務員等の職種別人員配置計画を策定するに当たって、①事業運営に必要な労働力として、通常勤務をすることができる1人の社員の労働力(1稼働)を単位とする「必要稼働数」を算定し、②在籍社員全体の実労働力についても、一定の換算基準に従い1稼働を単位とする労働力に換算して「有効配置稼働数」を算定し、③それらを比較しながら人員計画を立てるという考え方(稼働ベースの考え方)を採用していた。
そして、控訴人は、客室乗務員の必要稼働数を、ライン維持必要数(事業計画で決定された全ての路線の客室乗務に直接必要な人員数)、ライン外必要数(運航維持及び客室組織を運営するため乗務以外で必要な業務にかかる人員数)、訓練必要数(客室乗務員の訓練に必要な人員数)、スタンバイ引当数(イレギュラー対応に備え、1日を3つの時間帯に分けてスタンバイする人員数)の合計で算定していた。
(b) 控訴人は、非稼働要素のある客室乗務員について、次のとおり、通常勤務できる1人の社員の労働力に換算していた。
休職者 0稼働
長期病欠者(1か月以上病気欠勤) 0稼働
部分就労制度適用者(1か月の勤務日数10日) 0.5稼働
制限乗務者0.5稼働
深夜業免除者場合により、1稼働又は0稼働
b 本件更生計画案策定段階での客室乗務員の削減目標人数の策定
(a) 控訴人は、客室乗務員について、縮小した事業規模に見合った人員体制とするため余剰人員の削減を行うに当たって、稼働ベースの考え方に基づき、有効配置稼働数から必要稼働数(待機要員として必要となる一定の余裕分を含む。)を差し引いた数に相当する人員を削減する方針とした。
上記の必要稼働数を算定するについては、控訴人における路線便数計画を前提として、その運航に必要となる客室乗務員数を求めることになるところ、本件更生計画案は、後記(b)のとおり、控訴人が平成22年4月28日に公表した平成22年度下期の路線便数計画に基づくものであり、赤字路線からの撤退(事業規模の縮小)に加え、機材の小型化を推し進める内容となっており、これらに伴って、運航に必要となる客室乗務員数は、大きく減少した。
(b) 控訴人は、本件新事業計画を策定した平成22年6月において、客室乗務員について、①本件新事業計画に基づき、平成23年3月末時点での客室乗務員の必要稼働数を算定すると、必要稼働数は4195名分(ライン維持必要数3632名分、ライン外必要数180名分、訓練必要数259名分及びスタンバイ引当数124名分の合計)であること、②平成23年3月末時点に想定される客室乗務員の総在籍社員数は5943名であるところ、これから、休職者数894名、非稼働乗務員要素(長期病欠者、制限乗務者、深夜業免除者)327名分、契約社員地上業務10名分を控除し、稼働ベースでの有効配置稼働数を算定すると、4712名分となること、③上記有効配置稼働数4712名分から上記必要稼働数4195名分を差し引くと517名分と算定されることから、稼働ベースで517名分を削減目標人数として策定した(なお、平成23年3月末における非稼働要素のある客室乗務員数は、前年度の実績に特別早期退職措置の退職による影響を加味し算定したものである。)。
本件更生計画案策定段階で策定された上記の客室乗務員の削減目標人数517名分(稼働ベース)は、控訴人が平成22年4月28日に公表した平成22年度下期の路線便数計画(書証略)に基づくものであった。
(カ) 控訴人は、平成22年8月19日、平成22年度下期の路線便数計画について、その一部を変更し同計画を確定した(確定下期計画)。確定下期計画は、前年度から大幅に規模を縮小した路線便数計画であり、国内線については同年10月から、国際線については同年11月からそれぞれ実施するものであった。(書証略)
(キ) 本件更生計画案の策定及び提出
a 控訴人は、人員削減の前倒しでの実施を内容とする本件新事業計画に基づき本件更生計画案を策定し、平成22年8月31日、これを東京地方裁判所に提出した。
b 本件更生計画案は、一般更生債権の87.5%の債務免除(約5200億円の債務免除)及び株式につき100%減資を内容とし、債権者や株主に大きな負担を求める内容となっていた。また、機構が3500億円の出資を行うことを定めるものであった。(書証略)
本件更生計画案は、事業規模を大幅に縮小することを通じての事業再生を目指しており、縮小した事業規模に見合った人員体制とするため、JALグループの人員削減について、「平成21年度末の4万8714人から平成22年度末(平成23年3月末)には約3万2600人とする予定である。」などとするものであった(この人員数は、JALグループの休職者を除く在籍社員数である。)。
なお、控訴人は、当時、事業計画の基礎となる平成22年度下期の路線便数計画を平成22年8月31日までに見直しをした上で確定し、これを踏まえて人員計画の見直しもして、同年9月末までに最終的な削減目標人数を確定させることを予定していたものであり、本件更生計画案の人員削減に係る上記記載は、本件更生計画案提出時点での想定人数という意味で、平成22年度末(平成23年3月末)の人員規模を概数で表記したものである。
本件更生計画案別表5―1の事業損益計画表は、平成22年11月末までに特別早期退職措置等の人員施策により人員削減が実行されることを前提として策定されたものであり、本件更生計画案の基礎とされた事業計画においては、平成22年11月末までに更生計画において定める人員削減計画を完了することが予定されていた。
控訴人は、本件更生計画案及びその基礎である事業計画において、事業の大幅な縮小、及び縮小した事業規模に見合った人員体制とするため余剰人員の削減を行うことを基本方針としていた。控訴人は、余剰人員を抱えない体制にするという基本的なコンセプトのもと、上記人員削減計画を示したものである。
(ク) なお、控訴人は、平成22年9月初めの組合説明の場や社員説明会では、客室乗務員の削減目標人数につき約570名と説明した(書証略)。
この人数は、客室乗務員について、稼働ベースで算定した削減目標人数から、一定の前提をおいて休職者を除く在籍社員数(なお、前記(キ)のとおり、更生計画案には、休職者を除く在籍社員数が表記されていた。)を割り出した、いわば想定値であった。すなわち、希望退職措置募集を行った場合には高年齢の方から応募があるであろうと想定し、特別早期退職措置後の実在籍者について、上記応募があったと仮定し、実際の稼働状況に照らして稼働ベースでの応募数をカウントしていくと、稼働ベースでの削減目標人数517名分に達したときの「休職者を除く在籍社員数」は573名と想定された。この573名の概数として、上記のとおり約570名との説明が行われた。
そして、控訴人は、上記組合説明の場と社員説明会において、削減目標人数については、以後変更の可能性があり、平成22年9月末を目途に最終的に確定する旨説明した(書証略)。
(ケ) 平成22年9月末までにした削減目標人数の決定
a 控訴人は、平成22年8月19日に平成22年度下期の路線便数計画を一部変更して確定し(確定下期計画)、同月末の人員状況を反映させた上で、同年9月末までに、確定下期計画に基づき、後記bのとおり、客室乗務員の削減目標人数を稼働ベースで606名分とすると決定した(上記削減目標人数を、以下「本件削減目標人数」という。)。
b(a) 確定下期計画に基づき、改めて、平成23年3月末時点の客室乗務員の必要稼働数を算定すると、ライン維持必要数が3557名分となり、必要稼働数が75名分減少した。ライン外必要数、訓練必要数及びスタンバイ引当数には変更がなかったため、確定下期計画に基づく客室乗務員の平成23年3月末時点での必要稼働数は、4120名分(ライン維持必要数3557名分、ライン外必要数180名分、訓練必要数259名分及びスタンバイ引当数124名分の合計)と算定された。
(b) 客室乗務員の削減目標人数を最新の稼働状況等に基づき確定するという考えのもと、平成22年9月3日の第一次希望退職措置募集開始の直前である同年8月末時点での在籍者の稼働状況に基づき、平成23年3月末に想定される在籍者数を算定した結果、邦人では非稼働乗務員要素が59名分減少し、また、海外基地については想定よりも自然減少が進んだ結果、総在籍社員数5898名、休職者894名、非稼働乗務員要素(長期病欠者、制限乗務者及び深夜業免除者)268名分及び契約社員地上業務10名という状況にあった。そこで、総在籍社員数5898名から、1172名分(休職者894名、非稼働乗務員要素268名分及び契約社員地上業務10名の合計)を差し引いて、有効配置稼働数を4726名分と算定した。
(c) 控訴人は、上記有効配置稼働数4726名分から上記必要稼働数4120名分を差し引くと606名分となることから、平成22年9月末までに、稼働ベースで606名分を客室乗務員の最終的な削減目標人数として決定した(書証略)。
(コ) 控訴人は、平成22年9月3日から11月9日までの間に、第一次希望退職措置(募集期間:平成22年9月3日から24日まで)、第二次希望退職措置(募集期間:同年10月1日から22日まで)及び最終希望退職措置(募集期間:同年10月26日から同年11月9日まで)の募集を行った。
その結果、同年11月9日までに、第一次希望退職措置に193名の客室乗務員(稼働ベースで147名分)が、第二次希望退職措置に456名の客室乗務員(稼働ベースで319.5名分)が、最終希望退職措置に83名の客室乗務員(稼働ベースで51名分)がそれぞれ応募し、同月30日に控訴人を退職した。(書証略)
上記各希望退職措置に応募した客室乗務員は合計732名(稼働ベースで517.5名分)であり、同月9日時点で、本件削減目標人数に対する不足数は、稼働ベースで88.5名分(606名分―517.5名分)であった。
(サ) 本件更生計画案の可決に至る経緯
本件更生計画案が可決されるためには、投票期限とされた平成22年11月19日までに更生債権者等から法定の賛成票を得る必要があったところ、そのためには、本件更生計画によって多額の一般更生債権の免除を余儀なくされる主要行に対してその内容を説明し、理解を得ることが不可欠であった。
当時、大口債権者である主要行は、控訴人が本件更生計画案における事業計画を真に完遂できるかを、控訴人に対して様々な角度から質問するなどして調査し、慎重に見極めていた。主要行は、本件更生計画案における事業計画の中でも、特に控訴人が人員削減計画を達成できるかについて非常に強い関心を示し、その進捗状況を注視していた。そのため、控訴人は、主要行に対し、月次で行われていたバンクミーティングにおいて、人員削減計画の進捗状況を含めた計画の実施についての説明を行い、理解を求めていた。
管財人は、平成22年11月12日当時、本件更生計画案の実現・完遂のためには、人員規模の適正化が必須であり、同計画案が主要行からの同意を得て可決されるためには、控訴人が同計画案における人員削減計画を必ず遂行するであろうことについて主要行の理解を得る必要があると考えていた。
ところが、控訴人において、前記(コ)のとおり、同年9月3日以降、客室乗務員について、第一次・第二次希望退職措置及び最終希望退職措置の募集を行った結果は、同年11月9日までに、合計732名の客室乗務員(稼働ベースで517.5名分)が上記希望退職措置に応募したというものであり、本件削減目標人数に対する不足数は稼働ベースで88.5名分に上るものであった。このため、希望退職措置により本件削減目標人数の人員削減を達成することができないおそれがある状況にあった。
このような状況下で、管財人は、同年11月12日、管財人会議において、希望退職措置の応募者が上記目標に満たない場合には余剰人員につき整理解雇を実施するとの方針を決定し、控訴人は、同月15日、整理解雇方針を正式に発表した。
本件更生計画案に対する更生債権者の賛成票は、上記正式発表を経て、上記投票期限の前日である同月18日になってようやく法定多数に達した。本件更生計画案は、同月19日、更生債権者ら議決権者の大多数の同意を得て、可決された。その後、本件更生計画案は同月30日に認可された。
(シ) 控訴人は、平成22年11月19日、最終希望退職措置の募集期限を同月30日まで延長して、同措置の募集を行ったところ、24名の客室乗務員(稼働ベースで12.5名分)が応募し、さらに、同年12月1日、上記募集期限を同月9日まで再延長して、同措置の募集を行ったところ、7名の客室乗務員(稼働ベースで4名分)が応募した(書証略)。
第一次希望退職措置から最終希望退職措置(再延長の募集期限は同年12月9日)までの募集の結果、客室乗務員の応募者は合計763名(稼働ベースで534名分)となり、同年12月9日時点において、本件削減目標人数606名分に対する不足数は、稼働ベースで72名分(606名分―534名分)となった。
(ス) 前年度から大幅に規模を縮小した平成22年度下期の路線便数計画(確定下期計画。書証略)が、国内線については平成22年10月から、国際線については同年11月からそれぞれ実施され、これにより、控訴人の収入及び業務量が減少した。そのため、同年12月9日当時、控訴人において、客室乗務員について人員の余剰が顕在化していた。
(セ) 控訴人は、平成22年12月9日、被控訴人を含む客室乗務員108名(稼働ベースで71名分)に対し、同月31日付けで整理解雇する旨の本件解雇予告通知をした。
上記通知の対象者については、控訴人が、本件人選基準に従って稼働ベースで72名分(前記(シ)の本件削減目標人数に対する不足数)に満つるまで人選を行った結果、客室乗務員109名となったが、控訴人は、整理解雇対象者の選定に当たり、扶養家族に障害者がおり、そのための金銭的負担が将来にわたり大きいと思われた客室乗務員1名(稼働ベースで1名分)について、被害度の観点・人道的な配慮から、本件人選基準には該当するものの、整理解雇の対象外とすることとした。上記客室乗務員1名を上記人選に係る整理解雇対象者から除いたことから、上記108名の客室乗務員(稼働ベースで71名分)に対して本件解雇予告通知をしたものである。
また、控訴人が本件解雇予告通知後も被解雇者を対象として希望退職措置の募集を行ったところ、23名の客室乗務員(稼働ベースで10.5名分)の応募があったほか、1名の客室乗務員(稼働ベースで0名分)が関連会社への転籍をした。
このため、控訴人は、被控訴人を含む84名の客室乗務員(稼働ベースで60.5名分(上記71名分―上記10.5名分))に対し、本件整理解雇を行った。なお、上記84名について、本件人選基準のうちどの基準に該当したかにより区分すると、病欠・休職等基準の該当者20名(被控訴人を含む。)、人事考課基準の該当者0名、年齢基準の該当者64名(53歳の者の一部と54歳以上の者)であった。
(ソ) リファイナンスに係る合意に至る経緯
a 控訴人は、前記のとおり、平成21年11月以降、控訴人単独では資金繰り破綻を来たし運航を停止せざるを得ない状況になり、大きな信用不安と資金不足の状態にあったため、日本政策投資銀行等から、多額のDIPファイナンス(資金繰りの悪化した企業への短期的融資)を受けていた。控訴人が、上記のDIPファイナンスに係る借入債務を弁済し資金繰り破綻を来すことなく事業再生をするためには、本件更生計画案の認可後速やかに、機構から3500億円の出資を受けることが必要不可欠であり、控訴人は、平成22年8月31日、機構が3500億円の出資を行うことを定めた本件更生計画案を東京地方裁判所に提出した。(書証略)
本件更生計画案は、平成22年11月30日に認可されたところ、控訴人は、同年12月1日、機構から3500億円の出資を受けた。
b ところで、控訴人は、平成22年11月30日、主要行との間で、リファイナンス(更生債権・更生担保権につき弁済を行うため、金融機関から新たに融資を受けることをいう。)に関し、法的拘束力のない形での基本合意(本件基本合意)をしたが、当時、同合意をするについては、次のとおりの必要性があった。
すなわち、機構の投融資による支援は、支援決定から3年以内に支援を完了する旨の規定があり(機構法33条3項)、支援対象事業者に対して出資した場合は上記3年以内に回収を完了しなければならないとされている。控訴人に対する機構の支援決定が平成22年1月に行われていることから、機構は前記aの出資金3500億円を平成25年1月までに回収する必要があった。
このような巨額の出資金を平成25年1月までに(平成22年12月の出資予定時から2年2か月の間に)回収する手段としては、株式市場への再上場が最も有力な手段であった。そして、平成25年1月までの控訴人の株式再上場を現実的なものとするためには、控訴人は、会社更生手続の終了した通常の株式会社として、少なくとも会計年度1期分の事業活動の実績を基に上場申請を行う必要があった。そのためには、控訴人は、平成23年3月末までに本件更生計画の更生債権及び更生担保権につき繰上一括弁済を行うことにより、更生手続を終了させる必要があり、上記繰上一括弁済の原資の調達をリファイナンスによって行う必要があった。
そして、機構としては、平成22年12月1日の段階でリファイナンスの目処がついていなければ、出資に係る3500億円という巨額の公的資金の回収見込みが立たないことから、同日の出資は難しい状況にあった。
控訴人は、元々、更生計画の認可決定と同時に更生手続を終結させることを可能とする主要行とのリファイナンス契約(法的拘束力のあるもの)の締結を目指していたのであるが、主要行は、本件更生手続による約5200億円という巨額の債権放棄に加えて新規融資を行うことになるリファイナンスについては、極めて慎重な姿勢を崩さず、控訴人と主要行との交渉は難航した。結果として、法的拘束力のある具体的なリファイナンス契約の締結は、認可決定後に持ち越される状況となった。そのため、控訴人は、平成22年11月30日、リファイナンスについて法的拘束力のない形での本件基本合意(書証略)をとりあえず締結し、主要行において、リファイナンスについての基本的な意向・方向性があることを確認し、これをもって、機構が同年12月1日に3500億円の出資を行うこととしたものである。
本件基本合意をするに当たっては、基本合意書の7条3号において、「リファイナンスに係る最終契約締結までの間に、更生計画に記載されている控訴人における諸施策(人員圧縮等、実施中のコスト削減策)・・・の実現に重大な支障が生じていないこと」などが、リファイナンス協議の前提として定められた(書証略)。このように、主要行は、リファイナンスの実施について控訴人に対して厳しい態度で交渉に当たり、中でも控訴人の人員削減計画の完遂を重視し、本件更生計画における人員削減計画に重大な支障が生じていないことがリファイナンス協議をするための前提であるとしていた。そして、リファイナンス協議として、利率や担保、返済期限やコベナンツなどの諸条件の協議を行うためには、協議に相当の時間を要することが見込まれたことや、協議結果についても銀行内の稟議決裁手続の期間が必要となることからすれば、平成23年3月末までにリファイナンスによる更生債権等の繰上一括弁済を行うためには、遅くとも平成22年12月末までに本件更生計画における人員削減計画を完遂している必要があった。
(タ) 控訴人は、本件整理解雇以降、平成24年9月に、同年7月新規採用の客室乗務員による人員補充を行うまでの約1年9か月の間、人員補充を行わなかったが、本件整理解雇後、現在に至るまで、人員削減の影響で運航に支障が生じることはなかった。
イ 前記アの事実及び証拠(書証略)並びに弁論の全趣旨によれば、次のとおり認定判断することができる。
(ア) 本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性について
a 本件削減目標人数を内容とする人員削減計画の合理性について
(a) 本件更生計画案等における基本方針の合理性について
ⅰ 航空事業の特性
航空事業の特性として、航空需要が外部環境の変化に強く影響されるため、売上げの変動可能性が非常に大きいことが挙げられる。過去10年間を見ても、テロ、戦争、疾病、経済危機等の度重なるイベントリスクの発生によって需要が大きく減退し、JALグループにおいては、これらにより数百億円から一千億円前後の大幅な営業利益の減少となった事業年度が繰り返されていた。
(書証略)
また、航空事業は、航空機の安全かつ安定的な運航維持のために、各種の厳しい規制を充足するよう、人的基盤及び物的基盤を維持しなければならず、固定費の割合が高い事業構造となり、費用構造が硬直的である。そのため、イベントリスクの発生などの外部の事業環境の変化に対して即応することは容易ではなく、売上の大幅な減少が、直ちに収益への深刻な打撃となってしまうという特性を有する。
これらのことから、航空会社の経営においては、常に物的・人的基盤を効率的かつ緊密に管理し続け、過剰な物的・人的基盤を抱えないことが肝要である。
ⅱ 控訴人が窮境に陥った原因は、事業構造の硬直化(大型機の大量保有、不採算路線の維持)と組織体制の硬直化(人員余剰・硬直的組織体制、意思決定の遅滞)にあり、リーマンショックや新型インフルエンザといった事業環境の変動による需要低迷に適時適応して事業規模及び組織体制の縮小をすることができずに窮境状態に至ったものである。そして、控訴人の経営破綻の要因の一つは、不採算路線からの撤退や思い切った人件費の削減に踏み込めず、高コスト体質が温存されたことにあった。(書証略)
ⅲ 上記のような特性を有する航空事業を営む控訴人が、一旦経営破綻した後、会社更生手続により事業の再生を図るためには、経営を危機に陥らせた原因を除去するとともに、イベントリスクの発生にも耐え得る財務体質及び経営組織を確立する必要があった。
この見地から、控訴人は、本件更生計画案において、赤字を出している路線・地点からの撤退、さらには、燃費効率の悪い大型・中型機の退役や機材の小型化等を実施することにより、事業規模を大幅に縮小することとした。そして、路線便数を縮小するということは、直ちに収入が減少することを意味するから、事業の再生のためには、縮小した事業規模に見合った人員体制とすることが必須となる。そのため、控訴人は、事業の縮小、及び縮小した事業規模に見合った人員体制とするため余剰人員の削減を行うことを基本方針とし、本件更生計画案及びその基礎となる事業計画を策定した。(書証略)
上記の航空事業の特性及び控訴人の窮境原因等に照らせば、控訴人が、会社更生手続により事業再生を図るに当たっては、事業リスクに対する耐性を高め、二度と破綻しないようにするため、上記の基本方針に基づき本件更生計画案及びその基礎となる事業計画を策定する必要があったというべきである。
(b) 本件削減目標人数の合理性について
ⅰ 控訴人は、平成22年8月19日に平成22年度下期の路線便数計画を一部変更して確定し(確定下期計画)、同月末の人員状況を反映させた上で、同年9月末までに、稼働ベースの考え方に基づき、客室乗務員の本件削減目標人数について稼働ベースで606名分とすると決定した。
ⅱ 稼働ベースの考え方に基づき削減目標人数を算定したことについて
客室乗務員については、通常勤務(1稼働換算)をしていない者が多いことから(出産、育児の関係もあって休職者(0稼働換算)は非常に多い。その他、長期欠勤者、特殊な勤務形態として、部分就労制度適用者、制限乗務者、深夜業免除者がいる。)、控訴人は、従前から、客室乗務員の人員計画を稼働ベースに基づいて策定していた。また、被控訴人が所属していたJAL労働組合に対しても、従前から稼働ベースに基づいて人員計画を説明しており、同労働組合も、人員計画が稼働ベースの考え方に基づいて策定されていることを承知していた。
そして、前記(a)の基本方針からすれば、客室乗務員の削減は、縮小した事業規模に見合った人員体制とするため余剰人員を削減することを目的として実施されるところ、客室乗務員の上記勤務実態に照らせば、控訴人における人員体制は稼働ベースで算定するのが合理的であるから、稼働ベースで算定した有効配置稼働数のうち必要稼働数を超える人数をもって余剰人員の人数と評価するのが合理的というべきである。
そうすると、上記基本方針に基づき客室乗務員の削減目標人数を算定するに当たって、単純に頭数ではなく稼働ベースの考え方に基づくことは、合理的であるといえる。
ⅲ 確定下期計画及び平成22年8月末の人員状況に基づき削減目標人数を算定したことについて平成22年8月19日に確定された確定下期計画は、前年度から大幅に規模を縮小した路線便数計画であり、国内線については同年10月から、国際線については同年11月からそれぞれ実施するものとされていたから、控訴人が、確定下期計画に基づき本件削減目標人数を算定したことは、縮小した事業規模に見合った人員体制とするため余剰人員を削減するとの基本方針に照らして合理的である。
前記アのとおり、控訴人は、本件更生計画案策定段階である平成22年6月においては、同年4月に公表した平成22年度下期の路線便数計画に基づき、当該計画に見合った人員体制に照らしての余剰人員として算定された517名分(稼働ベース)を削減目標人数としていたものである。しかし、上記削減目標人数は、平成22年8月19日に一部変更される前の平成22年度下期の路線便数計画に基づくものであったから、縮小した事業規模に見合った人員体制に照らして余剰人員を削減するという見地からは、上記のとおり一部変更して確定され、同年10月及び11月から実施されることが決まっている確定下期計画に基づき削減目標人数を算定するのが合理的である。また、控訴人が平成22年6月に削減目標人数を稼働ベースで517名分と算定した後、同年8月末までに稼働状況が変化していたこと、稼働状況が年を通じて変化している客室乗務員について、削減目標人数を算定するに当たっては、直前の最新の稼働状況とその変化傾向に基づき算定するのが合理的であることからすれば、控訴人が同年9月末までに削減目標人数を算定し人員削減計画を策定するに当たり、同年8月末の人員状況に基づき削減目標人数を算定したことは合理的である。
そうすると、控訴人が、確定下期計画及び平成22年8月末の人員状況に基づき本件削減目標人数を算定したことは、合理的であるといえる。
ⅳ そして、控訴人の客室乗務員につき、確定下期計画及び平成22年8月末の人員状況に基づき、平成23年3月末時点での必要稼働数及び有効配置稼働数を算定した結果は、前記ア(ケ)のとおりであるから、控訴人が平成22年9月末までに決定した本件削減目標人数(稼働ベースで606名分)は合理的である。
(c) 前記(a)及び(b)によれば、控訴人が平成22年9月末までに決定した本件削減目標人数(稼働ベースで606名分)を内容とする人員削減計画は合理的であるといえる。
b 人員削減計画を遂行する必要性について
(a) 本件更生計画案及びその基礎である事業計画の基本方針が、事業の縮小、及び縮小した事業規模に見合った人員体制とするため余剰人員の削減を行うというものであることからすれば、本件更生計画案が可決・認可された場合、上記事業計画における人員削減計画は、これを確実に遂行すべき必要性が高いといえる。
(b) 本件更生計画案等に関する主要行に対する説明について
ⅰ 本件更生計画案は、一般更生債権の87.5%の債務免除(約5200億円の債務免除)を内容とし、債権者に大きな負担を求めるものとなっていた。
会社更生手続開始決定を受けた控訴人が、更生手続の廃止決定(会社更生法236条3号)、破産手続への移行(同法252条1項、234条4号)といった破滅的な事態を回避し、事業再生が可能となるためには、控訴人が策定・提出する更生計画案について、投票期限までに更生債権者等から法定の賛成票を得て(同法196条5項)、その更生計画案が可決・認可されなければならないところ、上記可決のためには、大口債権者である主要行の賛成票を得る必要があり、そのためには、本件更生計画案の可決・認可によって上記のとおり多額の一般更生債権の免除を余儀なくされる主要行に対して、本件更生計画案及びその基礎である事業計画の内容を説明し、主要行の理解を得るとともに、上記事業計画を達成することについて主要行の信頼を得ることが不可欠であった。
ⅱ 主要行は、平成22年11月19日の投票期限の前、本件更生計画案の基礎である事業計画の実現可能性、特に控訴人が人員削減計画を達成できるかについて非常に強い関心を示していた。そのため、控訴人は、主要行に対し、人員削減目標を必ず達成し確実に人員削減計画を遂行する旨の説明をし、本件更生計画案に対する賛成を求めていた。
そうしたところ、控訴人は、平成22年11月12日までに第一次・第二次希望退職措置及び最終希望退職措置の募集を行ったのであるが、同日時点で、本件削減目標人数606名分に対する不足数が稼働ベースで88.5名分もあり、希望退職措置により本件削減目標人数の人員削減を達成することができないおそれがある状況であった。
このような状況下では、控訴人は、同月15日、整理解雇を実施することの正式発表をした。これにより、控訴人が人員削減目標を必ず達成し確実に人員削減計画を遂行することを対外的に表明する結果となった。
ⅲ 本件更生計画案に対する更生債権者の賛成票は、上記正式発表を経て、上記投票期限の前日である同月18日になってようやく法定多数に達し、本件更生計画案は、同月19日、主要行を含む更生債権者らの大多数の同意を得て可決されたところ、上記ⅰ及びⅱからすれば、大口債権者である主要行が本件更生計画案に対して同意したことについては、人員削減目標を必ず達成し確実に人員削減計画を遂行する旨の主要行に対する控訴人の説明が判断材料とされたものと推認される。
c 以上のとおり、①本件更生計画案及びその基礎である事業計画は、控訴人が、事業リスクに対する耐性を高め、二度と破綻しないようにするため、事業の縮小、及び縮小した事業規模に見合った人員体制とするため余剰人員の削減を行うことを基本方針とするものであり、控訴人が平成22年9月末までに決定した本件削減目標人数(稼働ベースで606名分)は合理的であるといえること、②上記基本方針に照らせば、本件更生計画案の基礎である事業計画における人員削減計画は、会社更生手続開始決定を受けた更生会社である控訴人において、これを確実に遂行すべき必要性が高いといえること、③更生会社である控訴人は、本件更生計画案が大口債権者である主要行の賛成票を得て可決されなければ、更生手続廃止・破産に至るという状況にあったため、主要行に対し、人員削減目標を必ず達成し確実に人員削減計画を遂行する旨の説明をし、本件更生計画案に対する賛成を求めていたこと、④本件更生計画案は、主要行を含む更生債権者らの大多数の同意を得て可決されたところ、主要行が本件更生計画案に対して同意したことについては、控訴人の主要行に対する上記③の説明が判断材料とされたものと推認されることからすれば、控訴人は、可決・認可された本件更生計画案に基づく更生計画を遂行するため、その基礎である事業計画における人員削減計画を確実に実施する必要があり、平成22年9月末までに決定した本件削減目標人数(稼働ベースで606名分)を内容とする人員削減計画を遂行すべき高度の必要性があったというべきである。
したがって、特段の事情がない限り、控訴人が本件更生計画案の可決・認可後に上記人員削減計画を見直してこれを変更する余地はなく、控訴人としては、速やかに、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったというべきである。
(イ) 前記アのとおり、本件更生計画案の基礎とされた事業計画では、人員削減を平成22年11月までに完了する予定としていた。また、前年度から大幅に規模を縮小した平成22年度下期の路線便数計画(確定下期計画)が、国内線については同年10月から、国際線については同年11月から既に実施されていたため、同年11月末当時、控訴人において、客室乗務員について人員の余剰が顕在化していた。したがって、本件更生計画の遂行という見地からは、速やかに、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったといえる。
(ウ) 前記アのとおり、控訴人が資金繰り破綻を来たすことなく事業再生をするためには、機構から巨額の出資を受ける必要があった。そのため、控訴人は、平成23年3月末までに、主要行との間で、リファイナンス契約を締結し、本件更生計画の更生債権及び更生担保権につき繰上一括弁済を行う必要があり、そのためには、遅くとも平成22年12月末までに本件更生計画の基礎である事業計画における人員削減計画を完遂している必要性があったといえる。
(エ) 以上によれば、控訴人は、平成22年12月31日時点において、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったものであり、上記時点における本件削減目標人数に対する不足数である稼働ベースで60.5名分の客室乗務員について、人員削減を行う必要性があったというべきである。
ウ(ア) 前記イに対し、被控訴人は、「人員削減で稼働ベースの考え方を用いると、稼働ベースゼロとされる労働者が何人退職しても人員削減の数値に反映されず、稼働ベースゼロである労働者の退職によっても人件費削減効果があることを全く無視することになる。」などとして、稼働ベースの考え方による削減目標人数の算定は不合理である旨主張する。
しかしながら、客室乗務員の削減目標人数を算定するに当たっては稼働ベースの考え方に基づくことが合理的であることは、前記イ(ア)a(b)ⅱ(稼働ベースの考え方に基づき削減目標人数を算定したことについて)で説示したところに照らし明らかであり、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 被控訴人は、「路線便数計画の運航に必要となる客室乗務員数を超える余剰人員を削減の対象とするというのであるが、そうであるなら、稼働ベースゼロとしかカウントされず有効配置稼働数に含まれない者については、解雇する必要はない。」旨主張する。
しかしながら、客室乗務員の削減目標人数を算定するに当たって、稼働ベースの考え方に基づいてこれを算定する場合、有効配置稼働数から必要稼働数を差し引いた人数は、稼働ベースでの余剰人員の人数と評価すべきことになるから、これを稼働ベースでの削減目標人数とするものである。そして、「稼働ベースでの削減目標人数に達するために削減が必要な人数」に相当する客室乗務員について整理解雇を実施するに当たっては、客室乗務員から、一定の人選基準により整理解雇の対象者を選定し、その選定した客室乗務員について稼働ベースでの人数をカウントしていき、その人数が稼働ベースでの削減目標人数に達したときまでに選定された客室乗務員が解雇対象となるのであるから、そのようにして選定された解雇対象者は、その全員が上記「稼働ベースでの削減目標人数に達するために削減が必要な人数」に相当する客室乗務員に当たるというべきである。
前記のとおり、客室乗務員については、通常勤務(1稼働換算)をしていない者が多いところ、本件人選基準は、前記前提事実(12)イ及び(15)のとおりの内容であり、稼働ベースゼロとカウントされる者を解雇対象者から除外するなどの基準を設けていないのであるから、本件人選基準に従って上記方法で解雇対象者を選定すると、その中に一定数の稼働ベースゼロとカウントされる者が含まれることになる。しかし、そのような者も上記「稼働ベースでの削減目標人数に達するために削減が必要な人数」に相当する客室乗務員に当たることに何ら変わりはないのであるから、稼働ベースでの本件削減目標人数の人員削減を行う必要性がある以上、本件人選基準により選定された客室乗務員が稼働ベースゼロとカウントされることは、その者につき人員削減の必要性を否定する根拠となるものではない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
エ(ア) 前記イに対し、被控訴人は、「①控訴人の平成23年1月1日時点における総在籍者数は5557名である。②平成22年12月31日付けで解雇された客室乗務員84名のうち休職者9名を除く75名を上記5557名に加えた人数(5632名)から、休職者数755名を控除すると総配置数は4877名となる。③総配置数4877名から、控訴人が想定する平成23年3月末の契約社員地上乗務10名、非稼働乗務員要素268名分、子会社である株式会社己統合による増員したタイ人乗務員557名を控除すると、4042名分となる。④したがって、平成22年12月31日時点の有効配置稼働数は、4042名分であり、控訴人の人員削減計画における必要稼働数4120名分を既に下回っていた。」として、控訴人は、平成22年12月31日時点の有効配置稼働数に基づき削減目標人数の見直しをすべきであり、そうしていれば削減目標人数は既に達成していた旨主張する。
(イ) a しかしながら、証拠(書証略)及び弁論の全趣旨によれば、上記①の総在籍者数5557名(甲123(書証略)に記載されている人数)には、100名余りに上る客室乗務管理職の人数が含まれていないことが認められるから、上記総在籍者数はその分過少に算入されているというべきである。
また、前記アの事実及び証拠(書証略)並びに弁論の全趣旨によれば、甲143(「2011年3月期必要数の構造」。平成22年9月28日控訴人作成(書証略))に記載されている非稼働乗務員要素268名分は、甲143(書証略)作成後、平成22年12月31日までに、これに該当する長期病欠者、制限乗務者なども希望退職措置に応募したことで、上記268名分から大きく減少したことが認められるにもかかわらず、上記③では総配置数から非稼働乗務員要素の人数を控除するに当たり、上記減少分を考慮に入れず、上記268名分を控除している。
これらによれば、平成22年12月31日時点の有効配置稼働数につき4042名分であるとする前記(ア)の計算は、その前提とする客室乗務員の総在籍者数や非稼働乗務員要素の控除人数が著しく不正確というべきであり、同日時点の有効配置稼働数が4042名分であるとは認められない。
したがって、被控訴人の前記(ア)の主張は、その前提を欠くというべきである。
b もっとも、本件訴訟において、控訴人が平成22年12月31日時点の有効配置稼働数が何名分であったかを明らかにしなかったことからすれば、同日時点の有効配置稼働数が、4726名分(控訴人が本件削減目標人数を決定するに当たって想定していた有効配置稼働数)を下回るに至り、同日時点の有効配置稼働数から必要稼働数を差し引いた人数(稼働ベース)が、本件削減目標人数606名分(稼働ベース)より少ないものとなっていた可能性も否定できない。
しかしながら、前判示のとおり、控訴人は、本件更生計画案が可決・認可された段階で、同計画の前提となった本件削減目標人数(稼働ベースで606名分)を内容とする人員削減計画を実施する必要があり、特段の事情がない限り、控訴人が上記人員削減計画を見直してこれを変更する余地はなく、控訴人としては、速やかに、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったというべきである。
そして、本件整理解雇を行った平成22年12月31日当時、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行うことにより、それが過剰な人員削減となり控訴人の航空事業における航空機の円滑な運航に支障が生じるおそれがあるなどの状況があったとは認められない(前記アの事実及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、本件整理解雇以降、平成24年9月に、同年7月新規採用の客室乗務員による人員補充を行うまでの約1年9か月の間、人員補充を行うことなく、航空事業を正常に維持・運営したことが認められるのであるから、このことからすれば、上記のような状況はなかったと考えるのが合理的である。)。そうすると、平成22年12月31日時点において、有効配置稼働数が、同年9月末までに本件削減目標人数を決定するに当たって想定していた有効配置稼働数4726名分より減少していたとの事実があったとしても、上記特段の事情には当たらないというべきであり、そうである以上、控訴人が、同日時点の有効配置稼働数に基づき本件削減目標人数を内容とする人員削減計画を見直して人員削減を取りやめたりすることは許されず、控訴人は、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったというべきである。
c したがって、被控訴人の上記(ア)の主張は採用することができない。
オ 前記イに対し、被控訴人は、「平成22年12月31日時点の有効配置稼働数が立証されていない。」として、同日時点において人員削減の必要性はなかった旨主張する。
しかしながら、前記エのとおり、控訴人は、仮に、同日時点の有効配置稼働数が、4726名分(控訴人が本件削減目標人数を決定するに当たって想定していた有効配置稼働数)を下回っていたとしても、上記時点の有効配置稼働数に基づき本件削減目標人数を内容とする人員削減計画を見直してこれを変更する余地はなく、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったというべきであり、そうである以上、上記時点の有効配置稼働数が明らかでないとしても、そのことは、人員削減の必要性に関する前記イの判断を左右するものではない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
カ 前記イに対し、被控訴人は、「JALグループは、本件整理解雇当時、本件更生計画における事業計画上の営業利益目標(641億円)を大きく上回る連結営業利益(1586億円)を計上していた。」として、平成22年12月31日時点において、人員削減の必要性はなかった旨主張する。
しかしながら、控訴人は、平成22年12月31日時点において、特段の事情がない限り、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったことは、前記イのとおりである。そして、同日時点において、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行うことにより、それが過剰な人員削減となり控訴人の航空事業における航空機の円滑な運航に支障が生じるおそれがあるなどの状況があったとは認められないことは、前記エのとおりであるから、本件において、上記特段の事情があったとは認められない。そうすると、同日時点において上記のとおりの営業収益を計上していたことは、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったとの前記イの判断を左右するものではないというべきである。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
キ 前記イに対し、被控訴人は、「平成23年度における稼働時間実績値に係る事実及び平成24年度以降の新規採用に係る事実からすれば、本件整理解雇は過剰な人員削減であり、本件整理解雇により人員不足が生じていたといえる。」として、平成22年12月31日時点において、人員削減の必要性はなかった旨主張する。
しかしながら、被控訴人主張に係る「平成23年度における稼働時間実績値に係る事実」及び「平成24年度以降の新規採用に係る事実」は、いずれも本件整理解雇の後に生じた事実であり、これらの事実が、平成22年12月31日時点において、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったとの前記イの判断を左右するものでないことは、前記イで説示したところに照らし明らかである。
加えて、①控訴人は、本件整理解雇以降、平成24年9月に、同年7月新規採用の客室乗務員による人員補充を行うまでの約1年9か月の間、人員補充を行うことなく、航空事業を正常に維持・運営したこと(前記エ)、②客室乗務員の1人当たり月間稼働時間についても、平成19年度や平成20年度の1人当たり月間稼働時間と比較して、平成23年度のみ特に稼働時間が増加したことは、これを認めるに足りる証拠がないことからすれば、「本件整理解雇は過剰な人員削減であり、本件整理解雇により人員不足が生じていた。」との事実は認められないというべきである。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
ク 被控訴人は、D会長の発言を根拠として、本件整理解雇による人員削減の必要性はなかった旨主張する。
しかしながら、D会長の発言は、人員削減の必要性がなかったといえる具体的な根拠を述べるものではないから、平成22年12月31日時点において本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったとの前記イの判断を左右するものではない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(3) 解雇回避措置の相当性について
ア 前記前提事実、前記(2)アの事実及び証拠(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 控訴人は、次のとおり、解雇回避措置を実施した。
a 特別早期退職措置の募集
控訴人は、平成22年3月から4月にかけて、次のとおりの客室乗務員を対象者として、特別早期退職措置の募集を行った。
対象者① 部長級の客室乗務管理職
② 室長・マネジャー級の客室乗務管理職及び35歳以上の客室乗務一般職(ただし、一般職のうち、大阪基地及び福岡基地の在籍者については年齢制限を設けない。)
その結果、1367名(在籍社員数)の客室乗務員が応募し、同年5月31日までに控訴人を退職した。
b 希望退職措置の募集
(a) 控訴人は、平成22年9月3日から11月9日までの間に、次のとおりの客室乗務員を対象者として、第一次希望退職措置(募集期間:平成22年9月3日から24日まで)、第二次希望退職措置(募集期間:同年10月1日から22日まで)及び最終希望退職措置(募集期間:同年10月26日から同年11月9日まで)の募集を行った。
第一次・第二次希望退職措置の対象者
① 55歳以上の客室乗務管理職
② 45歳以上の客室乗務一般職(ただし、キャビンスーパーバイザー及び国際線先任業務資格保有者は52歳以上)
③平成20年度以降、傷病により欠勤・休職・休業をしたことのある者
最終希望退職措置の対象者
① 上記第一次・第二次の①と同じ。
② 42歳以上の客室乗務一般職(ただし、キャビンスーパーバイザー及び国際線先任業務資格保有者は52歳以上)
③ 上記第一次・第二次の③と同じ。
これらの募集の結果、同年11月9日までに、第一次希望退職措置に193名の客室乗務員(稼働ベースで147名分)が、第二次希望退職措置に456名の客室乗務員(稼働ベースで319.5名分)が、最終希望退職措置に83名の客室乗務員(稼働ベースで51名分)がそれぞれ応募し、同月30日に控訴人を退職した。
(b) 控訴人は、同年11月19日、最終希望退職措置の募集期限を同月30日までと延長して、同措置の募集を行ったところ、24名の客室乗務員(稼働ベースで12.5名分)が応募し、さらに、同年12月1日、最終希望退職措置の募集期限を同月9日までと再延長して、同措置の募集を行ったところ、7名の客室乗務員(稼働ベースで4名分)が応募した。
(c) 第一次希望退職措置から最終希望退職措置(再延長の募集期限:平成22年12月9日)までの募集の結果、客室乗務員の応募者は合計763名(稼働ベースで534名分)となった。
(d) 控訴人は、同年12月9日付けの本件解雇予告通知後も被解雇者を対象として希望退職措置の募集を行ったところ、23名の客室乗務員(稼働ベースで10.5名分)の応募があったほか、1名の客室乗務員(稼働ベースで0名分)が関連会社への転籍をした(上記(c)の希望退職措置の応募者数との合計は787名(稼働ベースで544.5名分)となる。)。
c 控訴人は、特別早期退職措置及び希望退職措置(第一次・第二次・最終)の募集を行うに当たっては、退職条件として、規程上の退職金に加え、一時金を追加で支払うこと、改定前の制度による企業年金の存、年休の買取り、外部機関による再就職支援サービスの提供などを設けた。
イ 前記(2) 及び前記アの事実によれば、①控訴人が、その事業再生をするためには、事業の大幅な縮小、及び縮小した事業規模に見合った人員体制とするため多数に上る余剰人員の削減を行うことが必要不可欠であったこと、②控訴人は、平成22年9月末までに本件削減目標人数606名分(稼働ベース)を内容とする人員削減計画を策定するのに先立ち、同年3月ないし4月にかけて特別早期退職措置の募集を行ったこと、③上記人員削減計画策定の直前である同年9月3日から、繰り返し希望退職措置(第一次・第二次希望退職措置、最終希望退職措置(延長・再延長を含む。)及び本件解雇予告通知後の希望退職措置)の募集を行ったこと、④特別早期退職措置及び希望退職措置を実施するに当たっては、再就職支援サービスの提供等の退職条件を設けることにより、希望退職措置等による退職を促す措置をとったこと、⑤上記②の特別早期退職措置の募集の結果、1367名(在籍社員数)の客室乗務員が応募して控訴人を退職し、上記③の希望退職措置の募集の結果、合計787名の客室乗務員(稼働ベースで544.5名分)が希望退職措置に応募して退職したこと(転籍者1名(稼働ベースで0名分)を含む。)、⑥特別早期退職措置及び希望退職措置により退職等した客室乗務員の人数(頭数)は2154名(1367名+787名)であるから、それは、上記人数と本件整理解雇の対象人数(頭数で84名)を合計した人数(人員削減総数)である2238名(1367名+787名+84名)に対する関係でみると、上記人員削減総数の約96%(2154名÷2238名)に当たることが認められ、これらによれば、控訴人は、必要とされた上記①の余剰人員の削減の大部分を、特別早期退職措置及び希望退職措置の募集によって実現したものといえる。
これらに照らせば、控訴人が本件整理解雇に先立って実施した上記各措置は、解雇回避措置として合理的であり、控訴人は、本件整理解雇に当たり、十分な解雇回避努力をしたものというべきである。
したがって、被控訴人に対する本件整理解雇については、解雇回避措置の相当性が認められる。
ウ 前記イに対し、被控訴人は、「平成22年12月末までに本件更生計画における人員削減計画を完遂する必要はなかったのであり、同月31日時点において人員削減の必要性はなかった。」として、控訴人は整理解雇回避のため平成23年3末時点まで希望退職措置募集を継続すべきであったのであり、控訴人が解雇回避措置を尽くしたとはいえない旨主張する。
しかしながら、前記(2)イで判示したとおり、控訴人は、平成22年12月31日時点において、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったというべきであるから、被控訴人の上記主張は、前提を欠くものであり、採用することができない。
エ(ア) 前記イに対し、控訴人が希望退職措置募集を行うに当たって、45歳以上(第一次・第二次希望退職措置)、42歳以上(最終希望退職措置・延長・再延長)という年齢制限を設けて募集したことについて、被控訴人は、「控訴人は、希望退職措置の募集を行うに当たって、対象者について設けた年齢制限の撤廃又は引下げを行うべきであった。」として、年齢制限の撤廃又は引下げを行わなかった点で解雇回避措置を尽くしたとはいえない旨主張する。
(イ) しかしながら、前記(2)アの事実及び証拠(書証略)並びに弁論の全趣旨によれば、①控訴人は、経営破綻し更生手続開始決定を受けた更生会社であり、事業再生のためには競争力を高める必要があること、②控訴人においては、同業他社(丁社)に比べ、20歳代30歳代の客室乗務員の割合が低く、平均年齢が相当高いという状況にあったところ、上記年齢構成を引き下げることにより競争力を付けることができること、③控訴人の客室乗務員のうち20歳代、30歳代の若年層は、40歳代以上の層に比べ自己都合による退職率が高く、希望退職措置募集に当たって年齢制限を設けなければ、将来的に管理職を含む指導者を輩出する層としての若年層の十分な確保が危ぶまれると考えられる状況にあったこと、④控訴人においては、全体的には年功序列的な賃金体系であったことから、高年齢層ほど賃金水準が高くなる傾向にあったことが認められる。
そうすると、控訴人が、希望退職措置の募集を行うに当たって、上記年齢制限の撤廃又は引下げを行わなかったことについては、競争力を付ける見地(上記②)、将来的に管理職を含む指導者を輩出する層としての若年層を確保する見地(上記③)及び人件費削減効果を高める見地(上記④)から合理性を有するというべきである。
したがって、希望退職措置募集を行うに当たって、年齢制限の撤廃又は引下げを行わなかったことは、前記イの判断を左右するものではなく、被控訴人の前記(ア)の主張は採用することができない。
オ 前記イに対し、被控訴人は、「控訴人は、整理解雇回避のため、ワークシェアリング、部分就労、リフレッシュ休職、一時帰休等の人件費削減措置を実施すべきであった。」として、これらを実施しなかった点で解雇回避措置を尽くしたとはいえない旨主張する。
しかしながら、前記(2)イで判示したとおり、控訴人は、平成22年12月31日時点において、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったものであり、ワークシェアリング、部分就労、リフレッシュ休職、一時帰休等の人件費削減措置を実施したからといって、上記人員削減の必要性がなくなるものではなく、これらの措置は解雇回避措置としての実効性を有しないことは、前記(2)イで説示したところに照らし明らかである。
したがって、ワークシェアリング等の人件費削減措置を実施しなかったことは、前記イの判断を左右するものではなく、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(4) 人選基準の合理性について
ア 前記前提事実、前記(2)アの事実及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 控訴人は、本件整理解雇を実施するに当たり、本件人選基準により解雇対象者を選定した。
(イ) 本件人選基準の内容は、次のとおりである。
a 病欠・休職等基準及び本件復帰日基準並びに人事考課基準
(a) 休職者基準
平成22年8月31日時点の休職者(休職については、産前・育児・介護・組合専従によるものを除く(以下、後記(b)及び(c)において同じ。)。)
(b) 平成22年度(平成22年4月1日から8月31日まで(以下、後記(c)において同じ。)。)において
ⅰ 病気欠勤日数が合計41日(CSAにおいては21日)以上である者
ⅱ 休職期間が2か月以上である者
ⅲ 病気欠勤日数及び休職期間の合計が61日以上である者
(c) 平成20年度ないし同22年度の過去2年5か月間において
ⅰ 病気欠勤日数が合計81日(CSAにおいては41日)以上である者
ⅱ 休職期間が4か月以上である者
ⅲ 病気欠勤日数及び休職期間の合計が121日以上である者
ⅳ 病気欠勤日数が、平成20年度13日以上、かつ平成21年度13日以上、かつ平成22年度6日以上である者
ただし、上記ⅰないしⅲにおいては、平成22年度において病気欠勤日数・休職期間がいずれも0日であった者は除く。
(なお、上記(b)と(c)を併せたものが「病欠・休職日数基準」であり、病欠・休職日数基準と休職者基準を併せたものが「病欠・休職等基準」である。)
(d) 本件復帰日基準
病欠・休職等基準に該当する者であっても、9月27日現在で乗務復帰している者で、平成18年10月1日から平成20年3月31日までに連続して1か月を超える病気欠勤期間及び休職期間(各期間の合算を含む。)がなかった者は、対象外とする。
(e) 人事考課基準
人事考課の結果が、平成19年度ないし同21年度の過去3年間において毎年2以下であった者(なお、人事考課の結果は3を標準とするものである。)
b 年齢基準
前記aの基準(病欠・休職等基準及び本件復帰日基準並びに人事考課基準)によってもなお、目標人数に達しない場合は、各職種・職位・保有資格ごとに、年齢の高い者から順に、目標人数に達するまでを対象とする(育児・介護・組合専従による休職者を含む。)。
(ウ) 本件人選基準は、①病欠・休職等基準及び本件復帰日基準、②人事考課基準、並びに③年齢基準で構成され、主位的に、①病欠・休職等基準及び本件復帰日基準、並びに②人事考課基準により選定し、それによってもなお、人員削減の目標人数に達しない場合に、補充的に、③年齢基準により選定するとするものである。
本件整理解雇は、客室乗務員84名(稼働ベースで60.5名分)に対して行ったものであるが、病欠・休職等基準の該当者が20名、人事考課基準の該当者が0名、年齢基準の該当者が64名であった。
イ 病欠・休職等基準及び人事考課基準の合理性について
前記アの事実及び証拠(略)並びに弁論の全趣旨によれば、次のとおり認定判断することができる。
(ア) 病欠・休職等基準の趣旨
a 病欠・休職等基準に該当する者は、過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があった者である。
b 控訴人は、将来の貢献度に着目し、特に、控訴人が再生していく過程にある至近の2ないし3年間に、どれだけの貢献が期待できるかという点を重視し、病欠・休職等基準を設けた。
そして、将来の貢献度は、過去の貢献度によってこれを判断することとし、過去の貢献度は、病気欠勤日数及び休職期間という客観的なデータを具体的指標としてこれを評価することとした。
控訴人は、上記観点・評価方法に基づき、病欠・休職等基準に該当する者は、過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができなかった者であり、そのような欠務期間があったことから、病気欠勤や休職をしないで通常の勤務を行ってきた者との対比において、控訴人に対する過去の貢献度が低いないし劣後すると評価し、これによって将来の貢献度も低いないし劣後すると想定したものである。
(イ)a 整理解雇とは、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇であり、使用者の経営上の理由による解雇である。したがって、更生手続開始決定を受け、将来に向けて事業再生をする必要のある控訴人が、整理解雇の人選基準を設けるに当たって、将来の貢献度に着目し、特に、控訴人が再生していく過程にある至近の2ないし3年間に、どれだけの貢献が期待できるかという点を重視し、人選基準を設けたことは、合理的である。
b 休職者基準に該当する者は、平成22年8月31日時点で一定期間の病気欠勤を経て休職を継続していた者であり(就業規則45条。書証略)、病欠・休職日数基準に該当する者は、過去の一定期間において病気欠勤や休職により一定日数労務の提供ができなかった者であり、これらの者(病欠・休職等基準に該当する者)は、いずれも、過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があったものである。
そして、使用者と労働者間の労働契約において、労働契約の本旨に従った労務の提供をすることが労働者の基本的な義務であること、そのような労務の提供をすることが、貢献があったと評価するための前提として必要であると考えられることからすれば、過去の貢献度を評価するに当たって、「過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があった」との事実の有無を重視することは、合理性を有するというべきである。
そうすると、過去の一定期間に病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があった者は、そのような病気欠勤や休職をしないで勤務を行ってきた者との対比において、控訴人に対する過去の貢献度が低いないし劣後すると評価することは、合理的である。
そして、将来の貢献度を過去の貢献度によって推測・判断することは合理性を有するところ、病欠・休職等基準が、対象期間につき平成20年度ないし同22年度の直近の2年5か月間とする点は、上記判断をするに当たって、対象期間につき直近の二、三年程度の期間とすることが、将来貢献度の推測の精度を高めることになるから、上記のとおり直近の2年5か月間としたことは合理的である。
そうすると、病欠・休職等基準に該当する者について、「過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があった」との事実があることから、上記のとおり過去の貢献度が低いないし劣後すると評価し、これによって、将来の想定貢献度もいないし劣後すると評価したことは、合理性を有するというべきである。
c 病欠・休職等基準は、病気欠勤日数や休職期間を基準とするものであり、基準該当性の判断において恣意性の入る余地のない客観的な基準であるといえる。
d 人事考課基準は、人事考課の結果(3を標準とするもの)が、直近の3年間において毎年2以下であった者を解雇対象者とするものであるところ、そうした者について、過去の貢献度及び将来の想定貢献度が低いないし劣後すると評価することが合理的であることは明らかである。
e これらに照らせば、病欠・休職等基準及び人事考課基準は合理性を有するというべきである。
(ウ) 前記(イ)に対し、被控訴人は、「①長期雇用システムの下で、控訴人が、休業・休職の制度を設け、休むことを制度として保障しているにもかかわらず、傷病によってやむなく欠勤・休職したことを根拠として「企業に対する将来の貢献度が一般に低い」と評価することは不合理である。②控訴人においては、病気欠勤等をした場合における賃金・手当付加金の支給に関し、法定の制度に加重した手厚い労働者保護がなされていた。それにもかかわらず、整理解雇の局面において、病欠・休職等基準が病気欠勤や休職をしたことを問題視するのは、自家撞着というほかなく、病欠・休職等基準は不合理である。」旨主張する。
しかしながら、整理解雇における人選基準の設定は、一定の人員削減が必要な前提において、解雇対象者を選定するため、企業貢献度等について比較し相対評価をするものであって、解雇対象者の非を問うものではない。そして、病欠・休職等基準に該当する者については、過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があった者であるから、そのような病気欠勤や休職をしないで勤務を行ってきた者との対比において、控訴人に対する過去の貢献度及び将来の想定貢献度が低いないし劣後すると評価することが合理的であることは、前記(イ)で説示したとおりであり、控訴人が、休業・休職の制度を設け、休むことを制度として保障していること(上記①)や、控訴人においては、病気欠勤等をした場合における賃金・手当付加金の支給に関し、法定の制度に加重した手厚い労働者保護がなされていたこと(上記②)は、上記の貢献度の評価とは別個の事柄であるから、上記評価の合理性を否定する根拠となるものではない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(エ) 前記(イ)に対し、被控訴人は、「傷病を理由として人選基準に該当するとして解雇することは、当該労働者の人格権ないし人格的利益を損ない、名誉を毀損するものである。」旨主張する。
しかしながら、過去の一定期間に傷病による相当日数の欠務期間があることを理由として人選基準に該当するとすることは、控訴人に対する貢献度という労働者の人格的利益や社会的評価とは別個の客観的事実について、労働者を比較し相対的に評価するに当たって、上記欠務期間があることを理由として貢献度が相対的に低いないし劣後すると評価することに基づくのであるから、そのような人選基準に該当するとして労働者を解雇することが、当該労働者の人格権ないし人格的利益を損なったり、名誉を毀損したりすることになると解すべき理由はない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ) 前記(イ)に対し、被控訴人は、「客室乗務員について、病欠・休職等基準を整理解雇の人選基準とすると、客室乗務員において、健康状態に不安がある場合に本来なすべき自己申告をしなくなる可能性がある。」として、病欠・休職等基準は、これを整理解雇の人選基準とすることは航空機の運航の安全を害するおそれを生じさせる点で、不合理である旨主張する。
しかしながら、「病欠・休職等基準を人選基準とすると、客室乗務員が健康状態に不安がある場合に本来なすべき自己申告をしなくなる可能性がある。」との事実は、これを認めるに足りる証拠がない。また、上記のような可能性があることは、客室乗務員の職責、職業意識に照らし、考えにくいというべきである。
したがって、被控訴人の上記主張は、前提を欠くものであり、採用することができない。
(カ) a 前記(イ)に対し、被控訴人は、「控訴人は、人選基準を設けるに当たり、人事考課の結果等を十分考慮するため、人事考課やHTグレードにおいて高評価を受けていた者を解雇対象者から除外する基準を設けるべきであった。」として、病欠・休職等基準及び人事考課基準は、上記のような人事考課等において高評価を受けていた者を解雇対象者から除外する基準を設けていない点で、不合理である旨主張する。
b そこで検討すると、前記アの事実並びに前記(ア)及び(イ)によれば、次のとおり認定判断することができる。
病欠・休職等基準及び人事考課基準は、過去の貢献度を評価するに当たって、「過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があった」との事実の有無を重視する基準であるといえる。一方、人事考課の結果等については、人事考課基準が、「人事考課の結果(3を基準とするもの)が、平成19年度ないし同21年度の過去3年間において毎年2以下であった者」を解雇対象とし、解雇対象者を相当限定していることから、結果として、本件整理解雇において、人事考課基準に該当するとして解雇された者はなかったことが認められる。そして、人事考課等において高評価を受けていた者を解雇対象者から除外するような基準は設けられていなかったことからすると、病欠・休職等基準及び人事考課基準を通じて、過去の貢献度を評価するに当たっての人事考課の結果等を考慮する程度・比重は比較的小さなものにとどまるものであったというべきである。
しかしながら、前記(イ)で判示したとおり、使用者と労働者間の労働契約において、労働契約の本旨に従った労務の提供をすることが労働者の基本的な義務であること、そのような労務の提供をすることが、貢献があったと評価するための前提として必要であると考えられること、将来の貢献度を過去の貢献度によって推測・判断することには合理性が認められることからすれば、過去の貢献度及び将来の想定貢献度を評価するに当たって、「過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があった」との事実の有無をより重視することには、合理性が認められるというべきである。そうすると、病欠・休職等基準に該当する者は、上記事実がある以上、上記事実がない者との対比において、過去の貢献度及び将来の想定貢献度が低いないし劣後すると評価することは合理性を有するというべきであって、このことは、病欠・休職等基準に該当する者が、人事考課等において高評価を受けていたからといって、異なるものではないというべきである。
したがって、病欠・休職等基準及び人事考課基準が、人事考課等において高評価を受けていた者を解雇対象者から除外する基準を設けていないことは、不合理であるとはいえず、被控訴人の前記aの主張は採用することができない。
(キ) 前記(イ)に対し、被控訴人は、「従業員の貢献度を評価するのであれば、入社後の全期間について評価すべきであり、病欠・休職等基準が、休職期間や病気欠勤日数を問題とする対象期間を設定するに当たり、直近の一定の期間に限定する期間設定をしたことは、不合理である。」旨主張する。
しかしながら、前記(イ)で判示したとおり、病欠・休職等基準が、「過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があった」との事実の有無を問題とするのは、上記事実により評価される過去の貢献度によって、将来の貢献度を推測・判断するためである。そうすると、年月の経過により労働者の心身の状態等が変化することからすれば、直近の一定期間より前の入社以降の期間における事実は評価の基礎から除くことが、将来貢献度の推測の精度を高めることになるから、病欠・休職等基準が対象期間につき直近の2年5か月間に限定したことには、合理性が認められる。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(ク) 前記(イ)に対し、被控訴人は、「控訴人においては、傷病による休業・休職の後、乗務復帰するための手続が厳格であるため、復帰に相当な期間を要するものとなっていた。」として、傷病による休業・休職の期間をもって、貢献度が低いとして整理解雇の対象とすることは不合理である旨主張する。
そこで検討すると、証拠(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人においては、病気欠勤(整形外科関連の傷病は3週間以上、それ以外の傷病は1か月以上)等をしていた労働者が乗務復帰を希望する場合には、主治医から乗務復帰可能の診断書を得て、マネージャーに主治医から乗務復帰可能の診断が出たことを伝え、産業医の乗務復帰チェックの予約をし、産業医の乗務復帰許可が出れば、マネージャーと面接を行った上で(休業期間によっては諮問委員会が開催される。)、乗務復帰が決定されるという手続を踏んだ上で乗務復帰するとされていたことが認められ、かかる厳格な手続を経ることで、乗務復帰までに相当な期間を要するものとなっていたといえる。
しかしながら、客室乗務員の業務が乗客の安全に直結する保安業務を含むものであることからすると、心身共に健康上の問題のない者が担当すべきであり、傷病による休職・欠勤者の健康状態を点検し、就労の可否を判断するに当たっては、産業医を含む専門家の医学的知見を踏まえつつ、一定の時間を掛けて厳格な手続を履践すべきものであるから、控訴人における客室乗務員の乗務復帰手続については、上記のような厳格な手続が必要である。そうすると、控訴人における復帰手続が厳格なことにより乗務復帰のために相当な期間を要するとしても、そのことをもって、病欠・休職等基準を不合理ということはできない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(ケ) 前記(イ)に対し、被控訴人は、「病欠・休職等基準は、病気欠勤・休職日数を基準とし、その日数から年休の残日数を差し引くことをしていない。このような基準を設けることは、病気欠勤ではなく年休を先に取得させることを強いることになり、年休の自由利用に反し、病気欠勤によって保障される労働者の権利を害する。」として、病欠・休職等基準は不合理である旨主張する。
しかしながら、病欠・休職等基準に該当する者は、「過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があった」との事実があるために、上記事実がない者との対比において、貢献度が相対的に低いないし劣後すると評価されるものであるところ、上記事実は、上記事実がある者が年休の残日数を有していることにより、その全部又は一部がなくなるというものではないから、上記事実の有無により貢献度を比較・相対評価するための基準を設けるに当たって、病気欠勤・休職日数から年休の残日数を差し引くことは合理的とはいえない。
また、年休の残日数を差し引くことをしない基準を設けることによって、病気欠勤ではなく年休を先に取得させることを強いることになると解すべき理由はないから、これが年休の自由利用に反するとすべき理由はない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(コ)前記(イ)に対し、被控訴人は、「被控訴人の本件疾病(顔面酒さ、接触皮膚炎)は、客室乗務員の業務に起因して発症したものであり、業務上の疾病に当たる。」として、被控訴人が業務上の疾病による欠勤を理由として解雇されるのは不合理であり、そのような業務上の疾病により欠勤した被控訴人を、整理解雇の対象として選定した病欠・休職等基準は、不合理である旨主張する。
しかしながら、被控訴人の本件疾病(顔面酒さ、接触皮膚炎)が控訴人における業務に起因して発症したことは、これを認めるに足りる証拠がないから、被控訴人の本件疾病が業務上の疾病に当たるとは、認められない。
したがって、被控訴人の上記主張は、前提を欠くものであり、採用することができない。
(サ) 前記(イ)に対し、被控訴人は、「仮に、被控訴人の控訴人における業務と本件疾病との間に因果関係があること(被控訴人の本件疾病は業務上の疾病に当たること)が認められないとしても、本件疾病は、職業病的側面のある疾病等に当たるところ、病欠・休職等基準を人選基準として設け病気欠勤・休職をした者を整理解雇の対象とするのであれば、職業病的側面のある疾病等により病気欠勤・休職した者については整理解雇対象者から除外すべきであるから、人選基準を定めるに当たって、上記の者を整理解雇対象者から除外する旨の基準を設けるべきである。」旨主張する。
しかしながら、人選基準は、その形式的な合理性の見地から、基準該当性の判断において恣意性の入る余地のない客観的な基準であることが求められるところ、「職業病的側面のある疾病等」という概念は、明確な定義がなく、上記のような客観的な基準でないことが明らかである。また、上記の「職業病的側面のある疾病等」は、控訴人における業務との間に因果関係があることが認められず、業務上の疾病に当たるとはいえない疾病であるというのであるから、病欠・休職等基準に該当する者のうち、上記の「職業病的側面のある疾病等」により病気欠勤・休職した者について整理解雇対象者から除外すべきであるとする理由があるとはいえない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(シ) 前記(イ)ないし(サ)によれば、病欠・休職等基準及び人事考課基準は合理性を有するというべきである。
ウ 本件復帰日基準の合理性について
(ア) 本件復帰日基準が設けられた経緯及び同基準の趣旨について
a 被控訴人は、「本件復帰日基準の趣旨は、「病欠・休職等基準に該当する者であっても、現在乗務復帰している者については、控訴人に対する将来の貢献が期待でき、将来の貢献度が相対的に低いないし劣後すると評価することはできない。」と考えられることに基づくものである。」として、このことからすれば、復帰日基準における基準日については、本件解雇予告通知時に近い、できるだけ遅い時点を基準日とするのが合理的であるから、基準日を11月15日とすべきであり、これを9月27日とする本件復帰日基準は不合理である旨主張する。
b そこで検討すると、前記前提事実、前記(2)ア及び(3)アの事実、証拠(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、次のとおり認定判断することができる。
(a) JAL労働組合との協議経過
ⅰ 控訴人は、平成22年8月31日に希望退職措置の募集を発表した後、被控訴人が所属するJAL労働組合との間で、同年9月27日から12月21日にかけて合計11回にわたり、事務折衝を挟んでの団体交渉を実施した。
ⅱ 控訴人は、同年9月末までに、稼働ベースで606名分を客室乗務員の最終的な削減目標人数として決定し(本件削減目標人数)、これを内容とする人員削減計画を策定した。
控訴人は、同年9月3日から24日まで第一次希望退職措置の募集を行ったが、応募した客室乗務員は稼働ベースで147名分にすぎず、削減目標人数である稼働ベースで606名分に対し大幅な未達であった。
ⅲ 控訴人は、同年9月27日、JAL労働組合及びCCUに対し、当初の人選基準案を提示した。
控訴人は、同月30日、JAL労働組合との団体交渉において、同労働組合に対し、第一次希望退職措置募集の結果を説明するとともに、人員調整に関する施策、当初の人選基準案等について説明し、協議した。
上記団体交渉の際、控訴人は、JAL労働組合に対し、同年10月1日以降、第二次希望退職措置の募集を行うことを表明し、その際に、管理職による退職勧奨のための面談を実施する方針であること、そして、当初の人選基準案に基づき、病欠・休職等基準に該当し、又は、整理解雇の対象となる蓋然性が高いと考えられる46歳以上の客室乗務員に対して面談の実施について個別に依頼していることを説明した。さらに、複数回の面談を確保するために面談対象者に対しては同月の乗務スケジュールをスタンバイ(S10)に変更することを説明した。
また、控訴人は、JAL労働組合に対し、「人選基準は、将来の貢献度に着目して設定した。「将来」については、会社を再建していく過程にある至近の二、三年間にどれだけ貢献が期待できるかという点を重視した。過去の貢献度を見ることが妥当と一般的に言われており、過去の貢献度を客観的に見ることとした。過去の貢献度について、その貢献度合いの判断に当たっては、具体的な指標として、当初の人選基準案に示した内容を見ている。」旨の説明をした。(書証略)
ⅳ 控訴人は、同年10月7日、JAL労働組合との団体交渉において、同労働組合に対し、同月1日から実施している第二次希望退職措置の応募状況、人員調整に関する施策、当初の人選基準案等について説明し、協議した。
JAL労働組合は、上記団体交渉の際、現在45歳以上としている希望退職措置の対象者の年齢を引き下げるなどして整理解雇を極力回避するよう強く主張し、控訴人は、対象者の年齢は現行通りとしながら、希望退職措置により削減目標人数を達成するよう全力を挙げて対応していく旨回答した。
また、JAL労働組合は、上記団体交渉の際、病欠・休職等基準について、現在健康に問題がないにもかかわらず過去の傷病歴で線引きするのは納得できないなどと主張した。
これに対し、控訴人は、当初の人選基準案の中に長期病欠者や休職者が入っている理由、現在職場復帰して通常の乗務を行っている者を整理解雇の対象としている理由について、「休職中や長期病欠中であったり過去に休職や長期病欠期間がある社員については、将来における貢献の可能性は相対的に低いと考えざるを得ず、解雇基準の対象とした。もし年齢順という基準を適用することとなれば、病欠も休職もせずに貢献している社員も対象となる可能性がある。その比較においては、たとえ現在復帰して通常に乗務しているとしても、過去の貢献度から推測される将来の貢献度は相対的には低いと判断せざるを得ない。」旨述べた。(書証略)
ⅴ 控訴人は、同年10月18日、JAL労働組合との団体交渉において、同労働組合に対し、第二次希望退職措置の応募状況、人員調整に関する施策、当初の人選基準案等について説明し、協議した。
JAL労働組合は、上記団体交渉の際、整理解雇回避のため、希望退職措置の募集期間を延長し、その対象者の年齢を引き下げて募集を拡大すべきである、また、病欠・休職等基準について、現在健康に問題がないにもかかわらず過去の傷病歴で線引きするのは納得できないなどと主張した。
控訴人は、上記団体交渉の際、JAL労働組合に対し、稼働ベースゼロということで削減目標人数に反映されない長期病欠者や休職者を整理解雇の人選基準の対象としている理由、現在職場復帰して通常の乗務を行っている者を整理解雇の対象としている理由等について、「現在休職中の者、また過去に一定の休職期間や長期病欠期間のある者については、将来における貢献の可能性は相対的に低いと考えざるを得ない。同じような休職歴や長期病欠歴のある者が、片や復帰して乗務し、片や長期病欠中といった揚合に、稼働・非稼働というだけで対象から外す(外さない)という判断に会社として立ち得ない。」、「人選基準は、貢献度に着目して設定することとしたが、その貢献度として、将来の貢献度、分けても至近の二、三年間にどれだけ貢献していただけるかという観点が重要と考えている。過去の貢献度を見ることで、将来の貢献度が高いと期待できるか否かを判断できることから、過去の貢献度を見る具体的な指標の一つとして「病気欠勤日数」や「休職期間」を考慮することとした。」旨述べた。(書証略)
ⅵ 控訴人は、同年10月26日、JAL労働組合との団体交渉において、同労働組合に対し、第二次希望退職措置募集の結果等について説明し、協議した。
控訴人は、上記団体交渉の際、JAL労働組合に対し、最終希望退職措置(募集期間:同日から同年11月9日まで)の募集を行うこと、また、募集対象者の年齢を「45歳以上」から「42歳以上」へ拡大することなどを説明した。JAL労働組合は、控訴人が希望退職措置の募集期間を延長して最終募集を設定したことを評価し、整理解雇を回避するために控訴人が最大限の努力を尽くすよう要求した。(書証略)
ⅶ JAL労働組合は、同年11月4日に行われた控訴人との団体交渉の際も、控訴人に対し、整理解雇回避に向けてなし得る限りの努力を尽くすよう強く要求した(書証略)。
ⅷ 控訴人は、同年11月15日、JAL労働組合との団体交渉において、同労働組合に対し、最終希望退職措置の募集の結果、客室乗務員について削減目標人数に達しなかったことから、整理解雇によって人員体制の適正化を図らざるを得ないとの決断に至ったことを説明するとともに、当初の人選基準案に本件復帰日基準を付加した本件人選基準案を提示し、JAL労働組合の要求を受け入れて一部修正し、本件復帰日基準を付加することを表明した。
JAL労働組合は、従前から、病欠・休職等基準について、「現在は通常乗務できている客室乗務員が、過去の欠勤日数や休職期間だけで将来の貢献度が低いとされていることは理解できない。これが組合員の声である。」旨主張していたところ、控訴人は、上記団体交渉の際、当初の人選基準案に本件復帰日基準を付加し人選基準案を変更した理由について、JAL労働組合に対し、「JAL労働組合から組合員の声として伝えられたこと、他職種からも同様の声があったことから、病欠・休職等基準による整理解雇対象者であっても、現在は乗務復帰して通常勤務状態にある者は、将来の貢献度は一概に低いとはいえず、過去の一時期の傷病歴だけで解雇対象とすることは不適当ではないかと考え、検討を行い、新たな基準案として示した。病欠・休職等基準には該当したが、9月27日現在は乗務復帰し、かつ平成19年度以前についても長期間の病気欠勤のない者について、将来の貢献ができると判断し、人選基準案から外れるものとした。」旨説明した。
これに対し、JAL労働組合は、本件復帰日基準について、「一部、対象者の想いを踏まえて基準を修正したものと受け止めている。」旨述べ、組合の要求の一部を人選基準に反映させるものであり組合の要求に対して一定の配慮が行われたとして、控訴人の対応につき一定の評価をした。その上で、控訴人に対し、「上記の組合員の声、想いにさらに応えるべきである。」旨述べた。
(書証略)
ⅸ JAL労働組合は、同年11月22日、控訴人との団体交渉において、控訴人に対し、本件復帰日基準について、「同年10月1日付けで乗務復帰を予定していた者は、3日というわずかな差で整理解雇の対象となってしまうのであり、そうした者にも配慮してほしいと主張し、9月27日で線引きする理由を説明するよう求めた。これに対し、控訴人は、「本件復帰日基準において基準日とした9月27日は具体的な人選基準案を提示した日であり、この日で線を引くことが適当であると考えている。どこで線引きしても同様の問題が起こり得る。」旨説明し、本件復帰日基準についての理解を求めた。また、控訴人は、上記団体交渉の際、本件復帰日基準について、「平成20年から同22年の病欠・休職等基準には該当したが、控訴人が最初に人選基準案を提示した9月27日現在は乗務復帰し、かつ平成19年度以前についても長期間の病気欠勤等のない者について、将来の貢献ができると判断し、人選基準案から外れるものとした。」旨説明した。(書証略)
(ⅱ) JAL労働組合は、同年11月29日、控訴人との団体交渉において、控訴人に対し、本件復帰日基準について、再修正を求めた。
これに対し、控訴人は、年齢基準を適用すれば、病気欠勤・病気休職がない人も整理解雇の対象となることもあり、これ以上の修正を行うことは困難である旨回答した。(書証略)
(ⅲ) 控訴人は、同年12月9日、被控訴人を含む客室乗務員108名に対し、同月31日付けで整理解雇する旨の本件解雇予告通知をした。
控訴人は、同月21日、JAL労働組合との団体交渉の際、同労働組合に対し、本件復帰日基準を付加したことについて、「これまでの団体交渉を通じて、「現在何の問題もなく乗務復帰している者は、将来の貢献度が低いとはいえない。」とするJAL労働組合や他職種の声を踏まえて会社として検討を行った結果、同年11月15日に改めて人選基準案を提示したものである。」旨述べた(書証略)。
(b) 基準日を9月27日としたことの合理性について
ⅰ 病欠・休職等基準は、過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があった者を解雇対象者とするものであり、その対象者には、現在乗務復帰している者も含まれている。これに対し、復帰日基準は、病欠・休職等基準に該当する者のうち基準日時点で乗務復帰している者を一定の条件を付して解雇対象者から除外するという基準であり、病欠・休職等基準の例外を定めるものである。そして、復帰日基準における基準日を遅くすればするほど、復帰日基準の適用範囲が広くなり、病欠・休職等基準の例外を認める範囲が広くなるという関係にある。
ⅱ 前記前提事実及び前記(a)の事実によれば、①被控訴人が所属するJAL労働組合は、控訴人との上記団体交渉の過程で、控訴人に対し、病欠・休職等基準に該当する者でも、現在乗務復帰している者については将来の貢献度が低いとは評価できない旨主張し、整理解雇の対象外とすることを要求したこと、②これに対し、控訴人は、病欠・休職等基準の前記イ(ア)の趣旨に照らして検討し、当初は、「たとえ現在乗務復帰して通常に乗務しているとしても、過去の貢献度から推測される将来の貢献度は相対的には低いと判断せざるを得ない。」などと説明し、JAL労働組合の上記要求に対して応じなかったこと、③しかし、JAL労働組合は、当時、客室乗務員の8割強の約4400名を組織する多数組合であり、平成22年11月15日当時、控訴人において、必要な人員削減や今後の会社施策を円滑に進めていくためには、同労働組合の要求に一定程度応じることが望ましい状況があったこと、④控訴人は、同日、JAL労働組合との団体交渉において、同労働組合に対し、当初の人選基準案に本件復帰日基準を付加した本件人選基準案を提示し、本件復帰日基準を付加する理由について説明したこと、⑤上記提示に係る本件復帰日基準は、基準日を9月27日とする復帰日基準であり、控訴人は、JAL労働組合の上記①の主張及び要求について、復帰日基準の基準日を9月27日とする限度で、上記主張の一部を認めるとともに、上記要求の一部を受け入れたものであること、⑥JAL労働組合は、その後の団体交渉においても、控訴人に対し、上記①の主張及び要求をしたが、控訴人は、復帰日基準における基準日を9月27日より後の日とすることは困難である旨回答し、上記主張及び要求のうち上記⑤の限度を超える部分については、これを認めたり受け入れたりすることはなかったことが認められる。
そうすると、控訴人は、同年11月15日の前までは、JAL労働組合がしていた上記①の主張及び要求について、病欠・休職等基準の趣旨に照らして認められないと判断し、これを受け入れることはできないなどとしていたものであるが、同日に至り、団体交渉における譲歩として、復帰日基準の基準日を9月27日とする限度で、同労働組合の上記主張の一部を認めるとともに、上記要求を一部受け入れ、病欠・休職等基準の例外を定める基準である本件復帰日基準を設けたものというべきである。
ⅲ 上記ⅱのとおり、控訴人が本件復帰日基準を設けたのは、団体交渉における譲歩として、JAL労働組合の主張の一部を認め、その要求の一部を受け入れたものである。
そして、前判示のとおり、病欠・休職等基準の趣旨は、病欠・休職等基準に該当する者について、過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があったことから、病気欠勤や休職をしないで通常の勤務を行ってきた者との対比において、控訴人に対する過去の貢献度が低いないし劣後すると評価し、これによって将来の想定貢献度も低いないし劣後すると評価するというものであり、そのことは合理性を有するところ、現在乗務復帰している者であっても、過去の一定期間に相当日数の病気欠勤や休職による欠務期間があることには何ら変わりがないから、現在乗務復帰しているとしても、そうした欠務期間があった者につきそうでない者に比して将来の貢献度が相対的に低いないし劣後すると評価することを必ずしも妨げるものではないというべきである。そうすると、「病欠・休職等基準に該当する者であっても、現在乗務復帰している者については、控訴人に対する将来の貢献が期待でき、将来の貢献度が相対的に低いないし劣後すると評価することはできない。」と考えることにも相応の合理性が存するにしても、病欠・休職等基準の上記趣旨と整合しない一面を有することは否定できないというべきである。
したがって、控訴人が、団体交渉における譲歩として、JAL労働組合の上記要求を受け入れて復帰日基準を設けるに当たっては、病欠・休職等基準と、その例外としての復帰日基準の設定は、異なる価値基準をどの範囲で採用するかの問題であるから、復帰日基準の適用範囲をどの限度で設定するかにつき、裁量の余地が認められるというべきである。そして、この見地に照らせば、本件復帰日基準が基準日を9月27日として復帰日基準の適用範囲を相当程度限定したことについても、上記裁量を逸脱・濫用するものでない限り、合理的裁量の範囲内のものと解すべきである。
ⅳ そこで更に検討すると、前記前提事実及び前記アによれば、当初の人選基準案は、①病欠・休職等基準及び②人事考課基準並びに③年齢基準で構成され、主位的に、①病欠・休職等基準及び②人事考課基準により選定し、それによってもなお、人員削減の目標人数に達しない場合に、補充的に、③年齢基準により選定するとするものであるところ、上記ⅰのとおり、本件復帰日基準は、病欠・休職等基準の例外を定めるものである。そして、本件削減目標人数の達成人数をカウントするに当たっては、病欠・休職等基準に該当する者でも平成22年8月31日時点で復帰していれば稼働数が1ないし0.5とカウントされることになるから、基準日時点で乗務復帰している者について解雇対象者から除外する旨の復帰日基準を設けると、補充的基準である年齢基準による解雇対象者が増えるという一般的関係がある。年齢基準は、「過去の一定期間において病気欠勤や休職により相当日数労務の提供ができない欠務期間があった」との事実がない者について適用されるものであり、上記事実がある者について適用される病欠・休職等基準が主位的基準とされているのに対し、補充的基準とされているものである。これらのことからすれば、本件復帰日基準を設けたことは、病欠・休職等基準に該当するとされた被控訴人との関係とは別に、年齢基準に該当する可能性のある者との関係で合理性を欠くことにならないかが問題となるが、①控訴人は、団体交渉における譲歩として、JAL労働組合の要求を一部受け入れるため本件復帰日基準を設けたものであること、②控訴人は、復帰日基準を設けるに当たり、基準日を9月27日として復帰日基準の適用範囲を相当程度限定したものといえることからすれば、本件復帰日基準は、年齢基準に該当する可能性のある者との関係でも合理性を欠くものではないというべきである。
c(a) これに対し、被控訴人は、本件復帰日基準の趣旨につき「病欠・休職等基準に該当する者であっても、現在乗務復帰している者については、控訴人に対する将来の貢献が期待でき、将来の貢献度が相対的に低いないし劣後すると評価することはできない。」と考えられることに基づくものである旨主張し、その根拠として、「①控訴人は、JAL労働組合との団体交渉において、平成22年11月15日、当初の人選基準案に本件復帰日基準を付加し人選基準を変更した理由について、「病欠・休職等基準による整理解雇対象者であっても、現在は乗務復帰して通常勤務状態にある者は、将来の貢献度は一概に低いとはいえず、過去の一時期の傷病歴だけで解雇対象とすることは不適当ではないかと考えた。」旨説明し、同月22日にも、「平成20年から同22年の病欠・休職等基準には該当したが、控訴人が最初に人選基準案を提示した平成22年9月27日現在は乗務復帰し、かつ平成19年度以前についても長期間の病気欠勤等のない者について、将来の貢献ができると判断し、人選基準案から外れるものとした。」旨説明していた。②控訴人は、原審においては、本件復帰日基準を設けたことについて、「それまでの人選基準で対象としていた平成20年度から平成22年8月31日までの期間における病欠・休職等基準には該当しているが、それ以降乗務復帰しており、かつ平成19年度以前についても長期間の病気欠勤や休職期間のなかった者については、将来において高い貢献が期待できると判断し、人選基準から除外することとした。」旨主張していた。」との各点を挙げる。
(b) しかしながら、前記bで判示したところに照らせば、本件復帰日基準は、団体交渉における譲歩をした結果であり、前記(a)の控訴人による説明等は、JAL労働組合の主張・要求を一部認めて受け入れるという形で病欠・休職等基準の例外として本件復帰日基準を設けることとなった趣旨を述べたものにすぎず、病欠・休職等基準の前記趣旨と整合しない一面までをも説明しようとしたものではないと解され、本件人選基準全体を通じての趣旨を正確に述べたとはいえないものである。
したがって、被控訴人の前記(a)の主張は採用することができない。
d 控訴人は、当審において、本件復帰日基準に該当する者につき「病欠・休職等基準に該当しており、したがって、過去の貢献度及び将来の想定貢献度において、病欠・休職等基準に該当しない者と比較して相対的に劣ることに変わりはないものの、9月27日時点で乗務復帰している者について、例外的に解雇対象者から除外することとしたものである。」旨主張するところ、この点について、被控訴人は、「上記主張は、控訴人が、本件復帰日基準提示以後の団体交渉や原審においてしていた前記c(a)①及び②の説明・主張と矛盾する。」として、控訴人が当審において上記主張をすることは、信義に反するものであって許されない旨主張する。
そこで検討すると、前記c(b)で説示したとおり、上記①及び②の説明・主張は、JAL労働組合の主張・要求を一部認めて受け入れるという形で病欠・休職等基準の例外として本件復帰日基準を設けることとなった趣旨を述べたものと解され、本件人選基準全体を通じての趣旨を正確に述べるものとは解されないから、これに敷衍して本件人選基準全体を通じての趣旨をより正確に述べることが許されないと解すべき理由はない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ) 第二次希望退職措置以降に希望退職に応募した者との関係について
a 前記前提事実、前記(2)ア及び(3)アの事実、前記(ア)bの事実、証拠(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、①控訴人は、平成22年9月末までに、稼働ベースで606名分を客室乗務員の最終的な削減目標人数として決定し(本件削減目標人数)、これを内容とする人員削減計画を策定したこと、②控訴人は、同年9月3日から24日まで第一次希望退職措置の募集を行ったが、応募した客室乗務員は193名(稼働ベースで147名分)にすぎず、削減目標人数である稼働ベースで606名分に対し大幅な未達であったこと、③控訴人は、同年9月27日、JAL労働組合及びCCUに対し、整理解雇の人選基準案(当初の人選基準案)を提示し、同年10月1日、第二次希望退職措置の募集を開始したこと、④控訴人は、第二次希望退職措置(募集期間:同年10月1日から22日まで)の募集を行うに当たり、客室乗務員が属する客室本部の組織管理職によって、面談等の方法により積極的な退職勧奨を実施したこと、⑤上記退職勧奨の対象者は、本件人選基準の病欠・休職等基準に該当する者、及び年齢基準に該当する可能性が高いと判断された46歳以上の者としていたこと、⑥控訴人は、上記対象となる客室乗務員を、平成22年10月以降の乗務から外し、控訴人との連絡ができる待機(スタンバイ)とした上で、管理職により複数回の面談を実施したこと、⑦管理職による上記面談に際しては、希望退職に応募した場合の退職の退職条件(企業年金、希望退職一時金等)を説明したほか、同年9月27日に発表した整理解雇の人選基準案(当初の人選基準案)の病欠・休職等基準や該当する可能性のある年齢基準の内容を説明した上で、本件削減目標人数が未達の場合には、解雇の対象となる可能性があることを説明し、退職を強く勧奨したこと、⑧当初の人選基準案を指標とした組織的かつ積極的な退職勧奨を繰り返し実施したことにより、同年10月22日まで行った第二次希望退職措置募集への応募者は、456名(稼働ベースで319.5名分)と大幅に増え、さらに、最終希望退職措置(募集期間:同年10月26日から同年11月9日まで)においても同様の退職勧奨を実施したことにより、第二次希望退職措置募集から上記最終希望退職措置募集までに、合計539名(稼働ベースで370.5名分)の応募があったこと(上記応募者数は、稼働ベースで、第一次希望退職措置募集から上記最終希望退職措置募集までの応募者総数(稼働ベースで517.5名分)の約72%であること)が認められる。
上記によれば、控訴人は、第二次希望退職措置募集開始時から同年11月15日(本件復帰日基準を付加した人選基準案を提示した日)までの間に、当初の人選基準案を指標として、上記退職勧奨の対象者を説得し、積極的に退職勧奨を実施したものというべきである。このような退職勧奨を受けて希望退職措置に応募した者は、上記退職勧奨を受けたことにより、人選基準案の基準に該当する以上このまま残留しても、今後実施されることが予想される整理解雇の対象となる可能性が高いと受け止めて退職勧奨に応じ、希望退職措置に応募し退職したものと認められるのであり、当初の人選基準案は、そうした応募者が希望退職を決断する上で重要な動機となっていたものと考えられる。
当初の人選基準案を前提としてこのような状況が既に形成されていた同年11月15日時点において、控訴人が、当初の人選基準案における病欠・休職等基準に該当する者のうち乗務に復帰していた者につき解雇の対象外とする旨事後的に変更することは、既に乗務に復帰していたものの病欠・休職等基準に該当するとして控訴人の退職勧奨に応じて希望退職措置に応募した者から見れば、退職勧奨に応じなくても解雇の対象とならなかったということになるのであり、そうした応募者に対し、信義に反するとして強い不信感を抱かせるおそれがあると考えることには相応の理由があるというべきである。
そうすると、控訴人が、同年11月15日時点において、JAL労働組合の要求を一部受け入れて復帰日基準を設けるに当たっては、復帰日基準の適用範囲を比較的狭い範囲に限定することには合理性が認められる。
したがって、控訴人が、被控訴人主張に係る11月15日のように遅い日を基準日とするのではなく、9月27日を基準日とする本件復帰日基準を設けたことは、合理性を有するというべきである。
b これに対し、被控訴人は、「平成22年9月27日に提示された当初の人選基準案は、あくまでも「案」にすぎず、確定したものではなかった。人選基準が確定する前に希望退職措置に応募した者は、その後の労働組合との交渉により人選基準が変更される可能性があることを認識しつつ、自らのリスク判断に基づいて、自らの意思によって希望退職措置に応募し、労働契約を終了させることを決定したものである。」などとして、「復帰日基準における基準日を11月15日とすることによって第二次希望退職措置以降に希望退職に応募した者との関係で生じる事態は、回避すべき不都合であるとはいえない。」旨主張する。
しかしながら、前判示のとおり、同年11月15日時点において、復帰日基準を設けることは、既に乗務に復帰していたものの病欠・休職等基準に該当するとして控訴人の退職勧奨に応じて希望退職措置に応募した者に対し、信義に反するとして強い不信感を抱かせるおそれがあると考えることには相応の理由があるというべきであり、労使間において尊重されるべき信義則の見地からすれば、復帰日基準を設けるに当たって、そうした事態が生じる範囲をできる限り限定しようとすることには合理性が認められるというべきである。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
c 被控訴人は、「控訴人がそうした希望退職措置の応募者に対する配慮を考えるのであれば、復帰日基準の基準日を変更するに際して、そうした応募者に対して、応募の撤回を認めればよく、応募の撤回を認めることに特段の支障はなかったものである。」旨主張する。
しかしながら、前判示のとおり、経営破綻に陥った控訴人の再生のためには余剰人員の削減は必須であり、控訴人は、平成22年12月31日までに本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要があったところ、前記(3)及び前記(ア)b(a)で判示したとおり、控訴人は、一連の労使協議を踏まえて整理解雇を極力回避するため一人でも多く希望退職措置で余剰人員を削減することに努めていたものであり、それは労働組合が強く要求するところでもあった。そのため、控訴人は、整理解雇の回避を目指し、希望退職を繰り返し募っていたものである。それにもかかわらず、控訴人が、一旦希望退職に応じた者に対して応募撤回の機会を与えることは合理的な方策として考慮することはできず、著しく不合理な措置であるといわざるを得ない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(ウ) なお、被控訴人は、「控訴人が、同年11月15日に復帰日基準を設けるに当たって、仮に、復帰日基準の基準日を9月27日から11月15日に遅らせた場合でも、年齢基準による解雇対象者が増加することはなかった。」との点を指摘する。
そこで検討すると、証拠(書証略)及び弁論の全趣旨によれば、①病欠・休職等基準に該当した客室乗務員のうち、平成22年9月28日から11月15日までの間に乗務復帰した者は12名であったところ、そのうち8名が最終希望退職措置の募集まで(同年11月9日まで)に希望退職措置に応募して退職し、その稼働数は2名分であったこと、②上記12名のうち、上記期限の最終希望退職措置に応募しなかった客室乗務員は、被控訴人を含め4名であったこと、③被控訴人を含む上記4名は、稼働ベースでは0人分(平成22年8月31日時点では稼働していない状態)と評価されることが認められる。そうすると、控訴人が、同年11月15日に復帰日基準を設けるに当たって、仮に、復帰日基準の基準日を9月27日から11月15日に遅らせ上記4名を解雇しなかった場合でも、年齢基準による解雇対象者が増加することはなかったことが認められ、被控訴人が指摘するとおり、基準日を9月27日とする復帰日基準(本件復帰日基準)を設けるか、基準日を11月15日とする復帰日基準を設けるかにより、年齢基準による解雇対象者の人数に違いはなかったといえる。しかしながら、そのことは、本件事案における結果にすぎず、基準日を9月27日とする本件復帰日基準の合理性を否定する根拠となるものでないことは明らかである。
(エ) 被控訴人は、「控訴人が復帰日基準の基準日を9月27日としたのは、CCUの執行委員で、上記労働組合の次世代のリーダーと目されるCの乗務復帰日が平成22年10月1日であったため、同人を整理解雇の対象とするためであった。」旨主張し、その根拠として、「機構のディレクターらは、同年11月16日、本件不当労働行為をした。」との事実を挙げる。
しかしながら、上記の本件不当労働行為に係る事実によって、被控訴人主張の上記事実を推認することはできず、他に被控訴人主張の上記事実を認めるに足りる証拠はない。また、証人Fは、復帰日基準における基準日の設定に当たって、個別のデータを基に線引きを検討した事実はない旨供述するところ(人証略)、
上記供述に不自然不合理な点は存しない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ) 前記(ア)ないし(エ)に検討したところによれば、本件復帰日基準は、その適用範囲決定についての裁量を逸脱・濫用するものとは解されず、他にこれを認めるべき事由も見いだし難いから、本件復帰日基準は合理性を有するというべきである。
エ 年齢基準の合理性について
前記(3) エ(イ)の事実及び証拠(書証略)並びに弁論の全趣旨によれば、年齢基準を設けた趣旨は、希望退職措置募集における対象者の年齢制限と同様であり、①控訴人は、経営破綻し更生手続開始決定を受けた更生会社であり、事業再生のためには競争力を高める必要があること、②控訴人においては、同業他社(丁社)に比べ、20歳代30歳代の客室乗務員の割合が低く、平均年齢が相当高いという状況にあったところ、上記年齢構成を引き下げることにより競争力を付けることができること、③将来的に管理職を含む指導者を輩出する層としての若年層を確保する必要があること、④控訴人においては、全体的には年功序列的な賃金体系であったことから、高年齢層ほど賃金水準が高くなる傾向にあったことに基づくものと認められ、これらは、競争力を付ける見地及び人件費削減効果を高める見地等から、合理的である。
したがって、年齢基準は合理性を有するというべきである。
オ 前記アないしエによれば、本件人選基準は合理性を有するというべきであり、本件人選基準により解雇対象者を選定した本件整理解雇は、人選の合理性が認められる。
(5) 解雇手続の相当性について
ア 前記前提事実、前記(2)ア、(3)ア及び(4)ウ(ア)b(a)の事実、証拠(書証略)並びに弁論の全趣旨によれば、次のとおり認定判断することができる。
(ア)控訴人は、平成22年9月27日にJAL労働組合及びCCUに対して当初の人選基準案を提示した後、控訴人からは労務、客室本部の担当者(回によっては、管財人代理及び機構担当者)が出席し、また途中からは社長、管財人も出席し、各労働組合との交渉・協議を行った。
控訴人は、被控訴人が所属するJAL労働組合との間では、同月27日から同年12月21日にかけて合計11回にわたり、事務折衝を挟んでの団体交渉を実施した。上記団体交渉・事務折衝の実施時期及び主な内容は、原判決別紙2記載のとおりである。
(イ) 人員削減・整理解雇の必要性に関する協議
a 控訴人は、平成22年9月27日に当初の人選基準案を提示して以降、前記(ア)の団体交渉において、JAL労働組合に対し、本件更生計画案に基づき、事業規模に見合った人員数にすることが必要であること、及び、余剰人員を抱えることで、その分の人件費コストが発生することなどの説明を行い、協議した。
控訴人は、JAL労働組合との間では、同年9月30日に行われた団体交渉において、同様に人員調整の必要性について説明し、その後も、原判決別紙2記載のとおり人員調整の必要性に関する説明を継続して行った。なお、控訴人は、同年10月7日に行われたJAL労働組合との団体交渉の際、客室乗務員の削減目標人数につき稼働ベースで606名分としていることについて、有効配置稼働数が4726名分となることなどを示して、その算定方法を具体的に説明した。上記のとおり、控訴人は、JAL労働組合に対し、人員削減の必要性についての説明を行い、その後の団体交渉においても、継続して人員削減ないし整理解雇の必要性について説明を行ったが、同労働組合は、同年12月9日の団体交渉において、解雇回避を要請するなど、整理解雇の実施を認めない旨を表明した。
b このように、人員削減・整理解雇の必要性に関する控訴人とJAL労働組合との交渉は、平行線となったが、その過程において、控訴人は、JAL労働組合に対し、人員削減・整理解雇の必要性について、十分な説明を行い、協議したということができる。
(ウ) 解雇回避措置に関する協議
a 控訴人は、前記(ア)の団体交渉において、JAL労働組合に対し、本件整理解雇に先立ち行った解雇回避措置について、組合員の労働条件に関連しない事項を除いては、その都度説明を行い、協議した。
上記交渉過程において、JAL労働組合が控訴人に対して解雇回避措置として具体的に提案・要求したものとしては、希望退職措置の対象年齢の拡大、一時帰休・ワークシェアリング等の実施などがあった。
控訴人は、このうち、希望退職措置募集の対象者の年齢制限については、従来の人員構成を踏まえ将来において競争力をもった組織運営を行うための人材確保の観点、更生手続下にある会社として人件費や退職金についても費用の圧縮や抑制が求められる点、対象者の多くが年金制度上の優遇措置を受けられることなどから、年齢制限が合理的理由に基づくものであることを説明した。そして、希望退職に関しては、労働組合からの要求があったことを踏まえ、最終募集において対象者の年齢を42歳以上に拡大し、かつ、募集期間を順次延長した。また、一時帰休・ワークシェアリング等の実施については、いずれも抜本的かつ恒久的な施策としてとることはできない旨を、JAL労働組合に対して回答した。
b 上記のとおり、控訴人は、JAL労働組合に対し、控訴人の行った解雇回避措置に関する説明を行うとともに、同労働組合からなされた解雇回避措置に関する提案・要求についても、検討の上、実施できないと判断したものは理由の説明とともにその回答をし、実施できると判断したものについては、その可能な範囲で実施したということができる。
(エ) 人選基準案に関する協議
a 控訴人は、前記(ア)のJAL労働組合との団体交渉において、同労働組合に対し、人選基準案の内容、趣旨等を具体的に説明し、協議した。
上記協議においては、本件人選基準案のうち病欠・休職等基準及び本件復帰日基準に関し、前記(4)ウ(ア)b(a)(JAL労働組合との協議経過)のとおりの協議経過があった。
上記協議において、控訴人が平成22年9月27日に提示した当初の人選基準案のうち病欠・休職等基準について、JAL労働組合は、「病欠・休職等基準に該当する者でも、現在乗務復帰している者については将来の貢献度が低いとは評価できない。」旨主張し、上記の者を整理解雇の対象外とすることを要求していた。これに対し、控訴人は、当初は、病欠・休職等基準の趣旨に照らして検討し、上記要求に応じることはできないとして、その理由を説明していたが、同年11月15日の団体交渉において、JAL労働組合に対し、当初の人選基準案に本件復帰日基準を付加した本件人選基準案を提示した。これは、団体交渉における譲歩として、控訴人が、JAL労働組合の上記要求の一部を受け入れたものである。
b 上記のとおり、控訴人は、JAL労働組合に対し、控訴人が設けた人選基準案に関する説明を行うとともに、同労働組合からなされた人選基準に関する提案・要求についても、検討の上、実施できないと判断したものは理由の説明とともにその回答をし、実施できると判断したものについては、その可能な範囲で実施したということができる。
(オ) 前記(ア)ないし(エ)によれば、控訴人は、被控訴人が所属するJAL労働組合との間で、十分な協議・交渉を経て、本件整理解雇を行ったものであることが認められ、本件整理解雇の解雇手続は相当性を有するというべきである。
イ (ア)前記アの事実及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、平成22年10月7日に行われたJAL労働組合との団体交渉の際、客室乗務員の削減目標人数につき稼働ベースで606名分としていることについて、有効配置稼働数が4726名分となることなどを示して、その算定方法を具体的に説明したこと、しかし、控訴人が、前記ア(ア)のJAL労働組合との団体交渉において、同年12月31日時点の有効配置稼働数や実際の一般退職者数について説明することはなかったことが認められる。被控訴人は、「同年12月31日時点において、一般退職者数が同年9月時点で想定した人数より増加していた場合、同年12月31日時点の有効配置稼働数は、同年9月末までに本件削減目標人数を決定するに当たって想定していた有効配置稼働数4726名分より減少することになり、上記の減少が生じていれば、本件削減目標人数の人員削減を行う必要性はなかったものである。」として、控訴人は、人員削減の必要性を説明するために、JAL労働組合に対し、平成22年12月31日時点の有効配置稼働数や実際の一般退職者数を説明する必要があったというべきであり、上記説明をしなかった点で、解雇手続は相当性を有しない旨主張する。
(イ) しかしながら、前記(2)オで判示したとおり、控訴人は、仮に、同年12月31日時点の有効配置稼働数が、4726名分(控訴人が本件削減目標人数を決定するに当たって想定していた有効配置稼働数)を下回るに至っていたとしても、上記時点の有効配置稼働数に基づき本件削減目標人数を内容とする人員削減計画を見直してこれを変更する余地はなく、本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったというべきである。
したがって、被控訴人の前記(ア)の主張は、前提を欠くものであり、採用することができない。
ウ(ア) 被控訴人は、「控訴人は、平成22年12月7日のJAL労働組合との団体交渉の際、「人選基準案について引き続き貴労組と協議させていただくことに変わりはない。」旨述べた。にもかかわらず、控訴人は、その後何らの協議も持たないまま、2日後の同月9日には、本件人選基準案を一方的に確定させ、本件解雇予告通知をした。」として、本件整理解雇の解雇手続は相当性を有しない旨主張する。
(イ) そこで検討すると、前記前提事実、前記(2)、前記ア及び証拠(書証略)並びに弁論の全趣旨によれば、①控訴人は、平成22年9月27日にJAL労働組合及びCCUに対して当初の人選基準案を提示し、同日から12月7日にかけて合計9回にわたり、JAL労働組合との間で、事務折衝を挟んでの団体交渉を実施し、その際、人選基準案について十分な協議・交渉を行ったこと、②控訴人は、同年12月7日当時、同月31日時点までに本件削減目標人数を達成するための人員削減を行う必要性があったことから、速やかに解雇予告通知をするため、限られた時間内に整理解雇の人選基準を確定する必要があったこと、③そのため、控訴人は、同年12月7日の団体交渉の際、JAL労働組合に対し、「人選基準案については、控訴人の案(本件人選基準案)をもって今後必要な対応を検討していく。人選基準案について引き続き貴労組と協議させていただくことに変わりはないが、整理解雇を実施する場合の退職日を12月末と想定している以上、限られた時間の中で基準を確定していかざるを得ない。」旨述べたこと、④控訴人は、同年12月9日の団体交渉の際、JAL労働組合に対し、「本日午後1時に希望退職措置募集を締め切った結果、削減目標人数には届かなかった。この結果を受け、提示している本件人選基準案をもって、対象者に対し、解雇予告通知を本日から速やかに行うこととする。」旨述べ、同日、本件人選基準案を人選基準として確定し、被控訴人を含む客室乗務員108名に対し、本件解雇予告通知をしたことが認められる。これらに照らせば、控訴人は、同年12月9日頃には、解雇予告通知をするため、人選基準案を確定する必要があったというべきであり、同月7日の団体交渉の後、人選基準案を確定するまでに、JAL労働組合との間で、引き続き人選基準案について協議することは困難な状況にあったといえる。また、控訴人は、JAL労働組合に対し、「整理解雇実施を12月末と想定している以上、限られた時間の中で基準を確定していかざるを得ない。」などと述べ、速やかに人選基準案を確定する必要があることの説明をしたものである。これらのことと、控訴人が、同年9月27日から12月7日までの間に、JAL労働組合との間で、人選基準案に関し、十分な協議・交渉を行ったことからすれば、「控訴人が、同日の団体交渉の際、「人選基準案について、引き続き協議させていただくことに変わりはない。」旨述べながら、その協議をすることなく本件人選基準案を確定した。」との事実があるからといって、本件整理解雇の解雇手続につき相当性を欠くということはできず、上記事実は前記アの判断を左右するものではない。
したがって、被控訴人の前記(ア)の主張は採用することができない。
エ 被控訴人は、「機構のディレクターらは、平成22年11月16日、本件不当労働行為をした。」として、本件整理解雇の解雇手続は相当性を有しない旨主張する。
しかしながら、控訴人が、被控訴人が所属するJAL労働組合との間で、十分な協議・交渉を経て、本件整理解雇を行ったものであり、その解雇手続が相当性を有することは、前記アで判示したとおりである。機構のディレクターらが本件不当労働行為をしたからといって、本件整理解雇の解雇手続の相当性が失われるなどと解すべき理由はない。
したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。
(6) 以上のとおり、被控訴人に対する本件整理解雇は、解雇時点において人員削減を行う必要性があったことが認められ、解雇回避措置の相当性、人選の合理性(人選基準の合理性)及び解雇手続の相当性がいずれも認められるから、控訴人の就業規則52条1項4号の「企業整備等のため、やむを得ず人員を整理するとき」に該当し、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる。したがって、被控訴人に対する本件整理解雇は有効である。
2 以上によれば、被控訴人の労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める請求及び控訴人に対して賃金及びその遅延損害金の支払を求める請求は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきである。
したがって、これと異なる原判決中の控訴人敗訴部分を取り消し、上記取消しに係る被控訴人の請求をいずれも棄却することとする。
よって、主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第1民事部
(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 大野正男 裁判官 井田宏)