大阪高等裁判所 平成27年(ラ)908号 決定 2015年10月06日
抗告人
A
原審申立人
B
原審相手方
C
主文
1 原審判を次のとおり変更する。
2 相手方Bの寄与分を574万円と定める。
3 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
(1)原審判別紙遺産目録記載A1の土地を相手方Cの持分10分の9,相手方Bの持分10分の1の共有取得とする。
(2)原審判別紙遺産目録記載A2ないし7の各土地をいずれも相手方Bの取得とする。
(3)原審判別紙遺産目録記載A8及び10の土地及び建物の共有持分2分の1並びに同B記載の預貯金その他をいずれも抗告人の取得とする。
(4)原審判別紙遺産目録記載A9,11の各建物をいずれも相手方Cの取得とする。
4 相手方Bは,前項の遺産取得の代償として,抗告人に対し440万0782円を,相手方Cに対し63万9749円を,それぞれ本決定確定の日から6か月以内に支払え
5 本件手続費用中,鑑定人Eに支払った費用はこれを14分し,その3を抗告人の,その5を相手方Bの,その6を相手方Cの各負担とし,その余の手続費用は原審及び当審を通じ各自の負担とする。
6 原審判別紙遺産目録記載A9の「評価額」欄及び「持分×評価額(円)」欄の各「513,836」をいずれも「93,294」に,同A11の「評価額」欄及び「持分×評価額(円)」欄の各「93,294」をいずれも「513,836」に更正する。
理由
第1 抗告の趣旨及び理由
別紙抗告状(写し)及び別紙抗告理由書(写し)のとおり
第2 当裁判所の判断
1 相続の開始,相続人及び法定相続分原審判の「理由」欄の1(原審判2頁18行目から23行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。
2 遺産の範囲及び現況
原審判の「理由」欄の2(1)及び(2)(原審判2頁25行目から3頁25行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。ただし,同3頁25行目末尾に改行して次のとおり加える。
「(3)原審判別紙遺産目録(以下「目録」という。)記載A1の土地上には同A9の建物(被相続人と相手方Cの居宅)及び11の建物が建っている。なお,同A1の土地上には昭和55年に建築された建物があり相手方Bとその家族が居住していたが,上記建物は平成24年に取り壊され,同年,相手方B名義の建物が同A1の土地上に建築されて相手方Bの居宅として利用されている。
同A2の土地は一部自家用の畑として耕作されているほか,みかん畑として利用されている。同A3の土地の南側は造園用樹木が植栽され,北側はみかん畑として利用されている。同A4ないし7の各土地はみかん畑として利用されている。
同A8及び10の土地及び建物は,抗告人と被相続人の共有持分を各2分の1として取得され,抗告人が自宅として居住していたが,抗告人が転勤で転居してしばらくしてから賃貸されている。
賃料は抗告人が全額受領している。」
3 特別受益
当事者双方の主張及びこれに対する判断は,原審判の「理由」欄の3(1)ないし(3)(原審判4頁1行目から7頁3行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。
4 寄与分
(1)当事者双方の主張は,原審判の「理由」欄の4(1)及び(2)(原審判7頁5行目から末行まで)
に記載のとおりであるからこれを引用する。
(2)判断
ア 認定事実
(ア)被相続人は,みかん農家であり,収穫期の収穫作業のほかに,灌水,消毒,剪定,樹木の移植などの作業が必要であった。被相続人が農業を営んでいた土地の総面積は約65アールであった。
(イ)相手方Bは,昭和49年に会社に就職し,昭和55年に結婚した。相手方Bは,就職後も実家(目録記載A9の建物)で生活し,結婚後は実家と渡り廊下で繋がった建物で妻と生活するようになった。
(ウ)相手方Bの勤務形態は,基本的には,日勤(午前8時から午後8時まで),休み(午後8時から翌日の午後8時まで),夜勤(午後8時から翌日の午前8時まで),休み(午前8時から翌日の午前8時まで)のサイクルを繰り返すものであり,相手方Bは,昭和55年ころ以降,休日の昼間には可能なかぎり農作業を手伝い,繁忙期には休暇を取って農作業を手伝っていた。
抗告人は,昭和56年に会社に就職し,昭和63年に結婚して妻の実家で生活するようになった。
平成2年から平成14年までは○○市の自宅(目録記載A10の建物)で生活していたが,同年転勤のため○○県に転居し,現在家族と共に○○県内の肩書住所地で生活している。抗告人は,就職後,被相続人の農作業を手伝ったことはない。
(エ)被相続人は,平成16年ころ(当時被相続人は76歳前後)から,農地の内約35アールのみかん畑の世話を相手方Cの実家に委ねていたが,平成21年に返還を受けた。
相手方Bは平成21年に勤務先を退職して警備会社に就職し,余裕が出来たことから,より積極的に農作業に従事するようになり,平成22年には○○の山畑(目録記載A4ないし7の各土地)
のみかんの木を改植したり,新たに農機具を取得するなどした。
(オ)被相続人の農業による収入は,遅くとも平成19年分以降は相手方Bの所得として申告されていたが,平成19年分から平成23年分までの確定申告書上の農業による所得は赤字であった。
(カ)鑑定結果によれば,主としてみかん畑として利用されている目録記載A2及び3の各土地について当分は畑としての利用が考えられ,市場参加者は○○市内の農業従事者が中心であるとされていること,また,同A4ないし7の各土地は山畑であることからすれば,いずれもみかん畑以外の利用は考えにくい。したがって,上記各土地を売却する場合にはみかん畑としてみかん農家が購入することが予想される(なお,同A2及び3の各土地の評価額を宅地見込地として評価するのが相当であることは後記のとおりである。)。
イ 判断
(ア)前記アによれば,被相続人が目録記載A2ないし7の各土地をみかん畑として維持することができたのは,相手方Bが昭和55年ころから農業に従事していたことによるものであると推認される。そして,同A2及び3の各土地は宅地見込地として評価されるが,当面はみかん畑としての利用が考えられ,これを売却するとしても市場参加者としては○○市内の農業従事者が中心となると見込まれること,A4ないし7の各土地は山畑でありみかん畑以外の利用は考えにくいことからすれば,耕作放棄によりみかん畑が荒れた場合には取引価格も事実上低下するおそれがあるといえる。したがって,相手方Bには,みかん畑を維持することにより遺産の価値の減少を防いだ寄与があるといえ,農業の収支が赤字であったことは上記判断を左右するものではない(なお,相手方Bは,平成25年以降,目録記載A2,3の各みかん畑に改植等を行ったことも寄与と評価すべきである旨主張するが,上記改植等は被相続人死亡後に行われたものであるから,寄与には当たらない。)。
そして,上記認定の相手方Bの農作業従事の程度に照らせば,上記寄与は特別の寄与であると認めることができる。
この点,抗告人は,相手方Bの農作業の従事に関する主張は信用できない旨主張する。しかし,相手方Bの平成21年までの勤務における基本的な勤務サイクル(12時間の勤務→24時間の休日→12時間の勤務→24時間の休日の繰り返し)及び抗告人は繁忙期に休暇を取って上記の休日及び休暇に農作業を行っていたとの上記事実は不自然,不合理とはいえない。したがって,抗告人の上記主張は採用することができない。
また,抗告人は,相手方Bの長男が目録記載A2の土地上の倉庫を車庫として無償で利用していること,相手方Bは被相続人が土地使用料の支払を求めていたにも関わらず,同A3の土地の一部を無償で利用して造園用の植樹や自家用作物の栽培をしていたことなどから,相手方Bは農業従事の対価を得ていたといえ,寄与の要件の無償性を欠く旨主張する。しかし,本件記録によれば,上記倉庫は主として農作業に必要な農具の倉庫として用いられていること,自家用作物の栽培は先祖供養や仏事に使う作物の栽培という面があることが認められる。また,造園用の植樹は農地としての有効活用の一形態とみられる。一方,被相続人が相手方B又は長男の土地使用について対価を求めたと認めるに足りる的確な資料はない。以上からすると,抗告人の上記主張を考慮しても,なお,相手方Bは農業従事の対価を得ているとまではいえない。したがって,抗告人の上記主張は採用することができない。
(イ)相手方Bは,被相続人と相手方Cの生活費の大半を負担しており,この点でも寄与がある旨主張する。しかし,相手方Bが,親族間の扶養義務の範囲を超えて被相続人及び相手方Cの生活費を負担したと認めるに足りる資料はない。したがって,相手方Bの上記主張は採用することができない。
(ウ)以上をふまえ,相手方Bの寄与分については,目録記載A2ないし7の各土地の相続開始時の評価額の30パーセントとみるのが相当である。
5 具体的相続分及び現実的取得分の確定
(1)遺産の評価
ア 目録記載A2,3の各土地については,相続開始時(平成24年×月×日)と分割時(平成27年×月×日)の両時点の評価について鑑定が行われ,目録記載A2の土地の相続開始時の評価額は575万円,同記載A3の土地の相続開始時の評価額は1180万円とされ,分割時の評価額はいずれも相続開始時の評価額に時点修正率0.88を乗じて算出された。分割時の評価額は目録の上記各土地の評価額欄に記載の金額である。
なお,上記各評価額は,宅地見込地としての評価によるものであるが,当分は畑としての利用が考えられ○○市内の農業従事者が主な市場参加者となることを踏まえて評価されたものであるところ,当裁判所もこの評価方法が合理的で相当なものと認めるので,上記評価額をもって上記各土地の評価額とすることとする。
イ 当事者らは,平成26年×月×日の原審第1回期日において,① 目録記載A1,4ないし11の各土地・建物の評価について,路線価が存在する土地については路線価に,路線価が存在しない土地については倍率表を加味した固定資産税評価額に,建物については固定資産税評価額にそれぞれよること,② ①の路線価,倍率表及び固定資産税評価額は直近のものを使用することに合意した。この合意に基づく評価額は,目録の上記各土地・建物の評価額欄に記載のとおりである。
ウ イの合意が分割時の遺産の評価を定めたものであることは明らかであるが,相続開始時の評価についても同額とすることまでを合意したものであるかについては当事者間に争いがあり,記録上も明らかではない。そこで,目録記載A1,4ないし11の各土地・建物の相続開始時の評価については,以下のとおりとする。
(ア)上記各土地・建物のうち○○県所在の各土地(目録記載A1,4ないし7)については,上記各土地の平成24年度の固定資産税の評価額に同年度の該当倍率を乗じた金額を相続開始時の評価額とする。その金額は次のようになる(1円未満切捨て)。
目録記載A1の土地
1777万2480円×1.1=1954万9728円
同A4の土地
5万2255円×9.6=50万1648円
同A5の土地
1万7046円×9.6=16万3641円
同A6の土地
6万7009円×9.6=64万3286円
同A7の土地
2万8743円×9.6=27万5932円
(イ)上記各土地・建物のうち○○市所在の土地(同A8)については,同土地の平成24年度の路線価(平成26年度に用いたのと同じ路線の路線価)に面積を乗じた金額の2分の1とする。その金額は次のようになる。
6万9000円×49.65×1/2=171万2925円
(ウ)上記各建物(目録記載A9ないし11)については,平成24年の固定資産評価額とするが,いずれも平成26年評価額と同額であるため,目録の評価額欄記載の金額(更正決定後のもの)が相続開始時の評価額となる。
(2)遺産総額
ア 相続開始時の遺産総額
前記(1)の相続開始時の遺産不動産(目録記載A)の小計は4142万4047円になり,預貯金その他(同B)の小計201万2320円と合算した遺産総額は4343万6367円になる。
イ 分割時の遺産総額
目録記載Aの小計3714万7016円と同Bの小計201万2320円とを合算した遺産総額は3915万9336円になる。
(3)寄与分額
目録記載A2ないし7の各土地の相続開始時の評価額の合計は1913万4507円であり,その30パーセントとみて574万円とするのが相当である(1000円未満切捨て)。
(4)具体的相続分
ア 抗告人
(4343万6367円-574万円)×1/4=942万4092円
(調整のため1円未満切上げ)
イ 相手方B
(4343万6367円-574万円)×1/4+574万円=1516万4092円(調整のため1円未満切上げ)
ウ 相手方C
(4343万6367円-574万円)×1/2=1884万8183円(1円未満切捨て)
(5)現実的取得分
ア 抗告人
3915万9336円×942万4092円/4343万6367円=849万6134円(調整のため1円未満切上げ)
イ 相手方B
3915万9336円×1516万4092円/4343万6367円=1367万0936円(調整のため1円未満切上げ)
ウ 相手方C
3915万9336円×1884万8183円/4343万6367円=1699万2266円(1円未満切捨て)
6 当裁判所の定める分割方法
(1)分割についての当事者らの意見
原審判の「理由」欄の6(1)ないし(3)(原審判11頁19行目から12頁2行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。
(2)分割方法
目録記載Aの各不動産の利用状況,みかん畑として利用されている土地を細分化することは適当ではないこと,抗告人は同A2の土地の取得を希望しているが○○県に居住しており耕作は困難であること,本件に至る交渉の経過からすると抗告人が相手方らと不動産を共有取得した場合に当該不動産を共有者全員で円滑に利用することは難しいと予想されることに照らし,同A1の土地を相手方らの共有(相手方Cの共有持分を10分の9(取得分の評価額1574万5387円(1円未満四捨五入)),相手方Bの持分を10分の1(取得分の評価額174万9487円(1円未満四捨五入))とし,同A2ないし7の各土地をいずれも相手方Bの取得とし,同A8及び10の土地・建物の共有持分2分の1をいずれも抗告人の取得とし,同A9及び11の各建物をいずれも相手方Cの取得とする。そして,目録記載Bの預貯金その他は,不動産の取得分のみでは具体的取得分に不足する額の大きい抗告人の取得とする。そうすると,当事者らの取得額及び具体的取得分に対する過不足額は次のとおりになる。
抗告人取得額 409万5352円
不足額 440万0782円
相手方B取得額 1871万1467円
超過額 504万0531円
相手方C取得額 1635万2517円
不足額 63万9749円
相手方Bは,裁判所の認定する寄与分の額によっては相手方Cに代償金を支払う方法での分割に応じる意向であり,自身が代償金を負担する方法による分割自体に反対してはいない。また,抗告人は,相手方Bから代償金の支払を受ける方法での分割自体には異議はない。そして,相手方Bの平成19年,平成20年の年収はいずれも1000万円を超えており,生命保険会社からの一時金が平成21年に313万4368円,平成25年に195万5170円がそれぞれ支払われたこと,退職後は年金と再就職先からの給与で平成24年には約330万円,平成25年には約360万円の年収があったことなどからすると,相手方Bには合計504万0531円の代償金を支払う資力があるものと推認される。そこで,相手方Bは,上記遺産取得の代償として抗告人に440万0782円を,相手方Cに63万9749円をそれぞれ支払うものとする。
第3 抗告理由について
1 抗告人は,① 相手方Bの農業への関与の程度及び退職理由からすると,同相手方が農業に専従していたと認めることはできない,② 相手方Bのみかんの木の改植及び平成21年以降の約200万円の費用の支出は全て自分自身のためであり,被相続人に対する寄与には当たらない。③ 相手方Bの長男は,○○の宅地にある車庫兼倉庫を無償で使用し,○○南側の農地の利用については被相続人から年間10万円の地代の支払を要求されたが支払っていなかったのであり労務提供の対価を得ている,④ 相手方Bの労務等の提供により被相続人の遺産の維持・増加という具体的な財産上の効果は認められない旨主張し,専従性・継続性・無償性・因果関係等の寄与分の要件をいずれも欠くとして,相手方Bの寄与分を遺産総額の30パーセントとするのは過大であり,裁判所の裁量を逸脱するものである旨主張する。
しかし,相手方Bが農業に従事した結果,みかん畑として利用されている各土地がみかん畑として維持され,遺産の価値の減少を免れたことから,みかん畑として利用されている各土地の評価額(相続開始時)の30パーセントを寄与分とするのが相当であることは前記認定説示のとおりである。
したがって,抗告人の上記主張はこれを超える限度で理由がなく,採用することができない。
2 抗告人は,相続開始時の遺産の評価を目録の評価額欄の金額とすることについては当事者間で合意はされておらず,寄与分を認定してみなし相続財産の価額を算出するのであれば,全ての不動産について相続開始時の価額に引き直す必要がある旨主張する。
この点,全ての不動産について相続開始時の価額を算出して具体的相続分及び具体的取得分を算出すると前記5(1)ないし(5)のとおりとなり,抗告人の上記主張はこの限度で理由がある。
3 抗告人は,相手方Cの資力について判断をすることなく代償金の支払を命じることは相当ではない旨主張する。
しかし,当裁判所の遺産分割方法が相手方Cに代償金の支払を命じるものではないことは前記認定説示のとおりである。したがって,抗告人の上記主張は前提を欠き採用することはできない。
4 抗告人は,抗告人が取得を希望する目録記載A2の土地を抗告人に取得させるのが相当である旨主張する。
しかし,同土地の利用状況(相手方Bがみかん畑として耕作している。)及び抗告人は○○県に居住しておりみかん畑を耕作することは困難であることからすると,同土地を相手方Bの取得とするのが相当であることは,前記認定説示したとおりである。したがって,抗告人の上記主張は採用することができない。
第4 よって,上記判断に抵触する限度で原審判を変更することとし,目録記載A9及び11の各「評価額」欄と各「持分×評価額(円)」欄の各記載にいずれも明白な誤記があることからこれらを更正することとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 金子順一 裁判官 田中義則 裁判官 渡辺真理)
別紙抗告状(写し)<省略>
抗告理由書(写し)<省略>