大阪高等裁判所 平成28年(ネ)2241号 判決 2017年1月26日
控訴人(原審第1事件原告)
全秦通商株式会社(以下「控訴人全秦通商」という。)
被控訴人(原審第2事件被告)
株式会社ワードシステム(以下「被控訴人ワードシステム」という。)
被控訴人(原審第2事件被告)
株式会社サンエステート(以下「被控訴人サンエステート」という。)
被控訴人(原審第2事件被告)
株式会社ゼンシン(以下「被控訴人ゼンシン」といい,被控訴人ワードシステムと被控訴人サンエステートを併せて「被控訴人ワードシステムら」といい,被控訴人ワードシステムらと被控訴人ゼンシンを併せて「被控訴人ら」という。)
上記4名訴訟代理人弁護士
今中利昭
同
田上洋平
同
加藤明俊
控訴人兼被控訴人(原審第1事件被告,同第2事件原告)
株式会社ソフィア(以下「控訴人ソフィア」という。)
控訴人兼被控訴人(原審第1事件被告,同第2事件原告)
全本金属興業株式会社(以下「控訴人全本金属興業」という。)
控訴人兼被控訴人(原審第1事件被告,同第2事件原告)
株式会社全本(以下「控訴人全本」という。)
控訴人兼被控訴人(原審第1事件被告,同第2事件原告)
日新開発株式会社(以下「控訴人日新開発」といい,控訴人ソフィア,控訴人全本金属興業,控訴人全本及び控訴人日新開発を併せて「控訴人ソフィアら」という。)
上記4名訴訟代理人弁護士
生沼寿彦
主文
1 控訴人全秦通商の控訴をいずれも棄却する。
2 控訴人ソフィアらの控訴に基づき,原判決主文第2項を取り消す。
3 被控訴人らは,その営業上の施設又は活動に,原判決別紙営業表示目録記載1,2,4及び5の各標章を使用してはならない。
4 訴訟費用は,控訴人ソフィアらと被控訴人らとの関係では,第1,2審を通じて被控訴人らの負担とし,控訴人全秦通商の控訴費用は,控訴人全秦通商の負担とする。
5 この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 控訴人全秦通商
⑴ 原判決中控訴人全秦通商敗訴部分を取り消す。
⑵ 控訴人ソフィアらは,その営業上の施設又は活動に,原判決別紙被告ら標章目録記載の標章を使用してはならない。
⑶ 控訴人ソフィアらは,前項記載の標章を付した看板,広告,インターネット上のウェブサイト,パンフレット,名刺,請求書,領収書,封筒,便箋その他の営業表示物件を廃棄せよ。
⑷ 控訴人ソフィアらは,「zenshin.gr.jp」のドメイン名を使用してはならない。
⑸ 控訴人ソフィアらは,インターネット上のアドレス「http://www.zenshin.gr.jp」において開設するウェブサイトから,原判決別紙被告ら標章目録記載1,3,4及び6の各標章を抹消せよ。
⑹ 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人ソフィアらの負担とする。
⑺ 仮執行宣言
2 控訴人ソフィアら
⑴ 主文2項及び3項と同旨
⑵ 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
⑶ 仮執行宣言
第2事案の概要
1 本件は,控訴人全秦通商が,控訴人全秦通商の商品等表示として需要者の間に広く認識されている原判決別紙営業表示目録記載の各標章(以下,同目録記載の各標章を同目録記載の番号に従って「本件表示1」などといい,同目録記載の各標章を総称して「本件各表示」という。)と同一又は類似する標章及びドメイン名を使用する控訴人ソフィアらに対し,不正競争防止法2条1項1号(ドメイン名の使用については選択的に同項13号),3条に基づき,その使用の差止め及びその標章を付した営業表示物件の廃棄を求め(原審第1事件),控訴人ソフィアらが,被控訴人らに対し,本件各表示は控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの商品等表示として需要者の間に広く認識されているとして,不正競争防止法2条1項1号,3条に基づき,被控訴人らによる本件表示1,2,4及び5の各標章の使用の差止めを求める(原審第2事件)事案である。
原審は,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの請求をいずれも棄却したことから,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらが控訴した。
略称は,特に断らない限り,原判決の例による。
2 前提事実,争点及び争点についての当事者の主張は,以下のとおり補正し,後記3のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」中の第2の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁19行目の「摘示しない限り」を「断らない限り」に改める。
(2) 原判決5頁3行目の「原告及び被告らのマーク」を「控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらそれぞれを表示するマーク」に改める。
(3) 原判決7頁10行目の「原告の」の次に「周知」を加える。
(4) 原判決9頁19行目の末尾の次に「本件各表示の周知性獲得のための宣伝広告費は,控訴人全秦通商が全て負担した。」を加える。
(5) 原判決12頁4行目の「被告らと代表取締役を同一にする全功」を「控訴人ソフィアらと代表取締役を同一にしていた全功(同社の代表取締役は,平成28年10月にP1からその長男に交代した。)」に改める。
3 当審における当事者の補充主張
⑴ 控訴人全秦通商
ア 控訴人ソフィアらの代表取締役と全功の前代表取締役はいずれもP1であり,控訴人ソフィアらは,全功の本店所在地を控訴人ソフィアらの本店所在地から移転することにより,全功による本件各表示の使用を控訴人ソフィアらの使用であると主張しているにすぎない。前提事実⑶アの別件訴訟で敗訴した全功が同判決の執行を逃れようとしているのが本件の実態であり,原判決は,全功による不当な執行逃れを肯認する結果となるもので,容認できない。
イ 争点1(本件各表示の主体)について
(ア) 原審は,最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決(民集第38巻7号920頁)を引用して不正競争防止法2条1項1号の「他人」にはグループも含まれるとする。しかし,上記最判は,「特定の表示に関する商品化契約によって結束した同表示の使用許諾者,使用権者及び再使用権者のグループのように,同表示の持つ出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価することのできるようなグループ」について他人性を認めたものであり,本件とは事案を異にするし,仮に本件がこれに当てはまるとしても,控訴人全秦通商による控訴人ソフィアらに対する本件各表示の使用許諾は消滅したから,控訴人ソフィアらの行為は,不正競争行為に当たる。
(イ) 原審は,岡山県,鳥取県及び島根県の一般消費者間においては,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらが「全秦グループ」を構成する会社として広く認識されていたとする。しかし,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの中で一般消費者に関連する事業を営んでいるのは控訴人全秦通商のみであり,控訴人ソフィアらは,単独で本件表示1ないし5を使用したことはないから,上記各県の一般消費者間において「全秦グループ」から認識されるのは控訴人全秦通商のみである。
(ウ) 原審は,本件各表示を使用して「全秦グループ」として一体的な宣伝広告活動が行われてきたのは,P家の支配する会社全体のイメージを上げようとしたからであるとするが,「全秦グループ」の宣伝広告は,控訴人全秦通商のイメージアップを図ってされたものである。
⑵ 控訴人ソフィアら
ア 争点4(被控訴人らによる本件各表示の使用の有無)について
(ア) 原審は,控訴人全秦通商本社ビルに掲げられた本件表示1の看板(以下「本件看板」という。)について,被控訴人らが同ビルの所有者でないというだけでその主体であるとはいえないとした。しかし,同ビルの入口には,「ZENSHIN GROUP」と表示された枠内に,被控訴人ゼンシン,控訴人全秦通商,株式会社エアテック,被控訴人ワードシステム,被控訴人サンエステート及び山陽ゴルフ倶楽部の企業名が列挙されているところ,このうち控訴人全秦通商,株式会社エアテック及び山陽ゴルフ倶楽部(控訴人全秦通商の一部門である。)は,分裂前からゼンシングループの一員として宣伝されており,被控訴人ゼンシンは,分裂後に新たにゼンシングループに属することを明確に表明していることからすると,需要者は,被控訴人ワードシステムらも全秦グループに属すると理解,認識し,本件看板は,控訴人全秦通商のみならずゼンシングループに属する被控訴人らも主体としていると理解するのが通常である。
(イ) 原審は,1審第2事件の甲第7号証の1ないし3の新聞広告の主体は控訴人全秦通商及び被控訴人ゼンシンであるとする。しかし,同号証の1には,被控訴人ワードシステムらがゼンシングループに加わった旨の説明があり,同号証の2及び3は,被控訴人ワードシステムがゼンシングループの一員であることを表示しており,別の広告(丁5の1~3)においても,被控訴人ワードシステムらがゼンシングループの一員として表示されている。原審は,本件看板と新聞広告とを別々に評価,分析して表示主体性を判断しているが,グループに帰属する表示は,グループ全体として使用していると理解するのが需要者の認識であるから,これらを一体として評価すべきであり,被控訴人ワードシステムらも上記各新聞広告の主体であるというべきである。
イ 争点6(控訴人ソフィアらの差止請求の成否)について
被控訴人ゼンシンは,相続税対策の目的で控訴人全秦通商の株式を保有するために設立された会社であり,対外的な事業活動をしておらず,不正競争防止法2条1項1号で保護している出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力等を享受する素地がない。被控訴人ゼンシンを新聞広告等においてゼンシングループの一員として表示するのは,控訴人全秦通商のみでは企業グループを構成できないからであり,同法による保護という文脈において,被控訴人ゼンシンを控訴人全秦通商と同一視するのは妥当でない。
⑶ 被控訴人ら
ア 争点4(被控訴人らによる本件各表示の使用の有無)について
(ア) 被控訴人らのうち控訴人全秦通商本社ビル入口の表示において本件表示1を使用しているのは被控訴人ゼンシンのみであり,本件看板による本件表示1も被控訴人ゼンシンが使用しているものである。
(イ) 1審第2事件の甲第7号証の1ないし3の新聞広告については,本件表示1,2,4及び5の使用態様及びフォントの大きさに加え,「ゼンシン」の称呼を商号に含むのは控訴人全秦通商及び被控訴人ゼンシンのみであることから,同広告における上記各表示の使用(表示)主体は,控訴人全秦通商及び被控訴人ゼンシンであるといえる。被控訴人ワードシステムらが全秦グループに属することになったとしても,そのことと上記新聞広告における本件表示1,2,4及び5の使用主体が誰であるかは別の問題である。丁第5号証の1ないし3における「ZENSHINグループ」,「ゼンシングループ」の記載は,当該グループに属することの説明であり,不正競争防止法2条1項1号における「商品等表示」としての使用でないことは明らかである。
イ 争点6(控訴人ソフィアらの差止請求の成否)について
純粋持ち株会社が設立された場合に,事業会社が従来使用していた商品等表示を純粋持ち株会社が併せて使用することは一般的に行われているから,純粋持ち株会社に表示主体又は周知性の承継を認める必要があり,法的には,純粋持ち株会社による使用は,事業会社の使用と同視できるというべきである。被控訴人ゼンシンは,控訴人全秦通商の純粋持ち株会社であるから,本件表示1,2,4及び5を周知表示として使用することができる。
控訴人全秦通商は,多額の費用をかけて獲得した本件各表示の周知性を維持するため,被控訴人ゼンシンとともに本件各表示を使用することにしたのであり,被控訴人ゼンシンによる使用は,控訴人全秦通商における本件各表示の周知性の維持という正当な法的利益を保護するためのものであり,不正競争行為には当たらない。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人全秦通商の請求はいずれも理由がないが,控訴人ソフィアらの請求はいずれも理由があると判断する。その理由は,後記2のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」中の第3の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 原判決の補正
⑴ 原判決20頁9行目の「挨拶文」の次に「(…全秦グループは,昭和40年創業,以来「企業活動を通じて社会に貢献し,利益を地域社会に還元すること」を経営理念とし,環境と情報とレジャースタイル,余暇文化をクリエイトする多角的な事業を展開してまいりました。そして今日,多角化する時代のニーズに,よりよいカタチでお応えできるように,新しいシンボルマークを採用いたしました。現在,総勢500名,総売上高500億円。全国をネットワークしながら,さらに大きなフィールドで,新しい企業づくりをめざしてまいります。…)」を加える。
⑵ 原判決21頁末行の「同年」を「平成24年」に改める。
⑶ 原判決22頁24行目の「原告は,」から23頁1行目末尾までを「控訴人全秦通商は,後記オ及びクのように,本件表示1ないし3,4及び5を使用して,控訴人全秦通商,被控訴人ゼンシン,被控訴人ワードシステムら及び山陽ゴルフ倶楽部を構成員とする「全秦グループ」の宣伝広告活動をし,被控訴人らも,後記キのように,被控訴人らを構成員とする「ゼンシングループ」の宣伝広告活動をし,被告標章1ないし7を営業上の活動や施設に使用している。」に改める。
⑷ 原判決23頁9行目の「・・・これまで皆様にお届けしてきた全秦グループ。・・・」を「「人・夢・ネットワーク」のスローガンのもと,時代のニーズにふさわしいスタイルをクリエイトし,これまで皆様にお届けしてきた全秦グループ。今,新たに九州エリアにグループ企業が加わり,アメニティー関連,IT・ビジネス情報,環境プロデュース,ゴルフ事業とさらに4つのビジネスフィールドが充実しました。1975年の創業から約40年。常に地域の皆様に支えられ育てられてきた全秦グループは,これまでの実績を力に,これからも未来へ向けてさらにZENSHINしていきます。」に改める。
⑸ 原判決23頁14行目から15行目にかけての「掲載された」を「掲載された。この広告に表示された4つの企業(控訴人全秦通商,被控訴人ワードシステム,被控訴人サンエステート及び山陽ゴルフ倶楽部(控訴人全秦通商の一部門))のうち,当時九州エリアに本社又は事業所があったのは,北九州市に本社を置いていた被控訴人ワードシステムのみである。」に改める。
⑹ 原判決23頁22行目の「ウェブサイトにおいて,」の次に「個人事業であった全本金属を原点とするゼンシングループは,平成24年にグループ企業を再編し,新たな体制のもとで再スタートを切ったが,創業以来変わらない経営理念を貫いている旨の代表者P1の挨拶文を掲載し,」を加える。
⑺ 原判決24頁2行目の「新年の挨拶文に」から3行目末尾までを「「創業40周年。ゼンシングループは関連企業とともに,さらなる飛躍を目指します。」,「「人・夢・ネットワーク」のスローガンのもと,時代のニーズにふさわしいスタイルをクリエイトし,これまで皆様にお届けしてきた全秦グループ。株式会社ゼンシンを中核企業とし,アミューズメント,IT・ビジネス情報,ゴルフ事業等,ビジネスフィールドが充実してまいりました。1975年の創業から40年。常に地域の皆様に支えられ育てられてきた全秦グループは,これまでの実績を力に,これからも未来へ向けてさらにZENSHINしていきます。」」に改める。
⑻ 原判決24頁12行目から15行目までを次のとおり改める。
「ア 本件各表示が平成3年に控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらを構成員とする「全秦グループ」のヴィジュアル・アイデンティティーとして発表されて以来平成24年1月頃まで「全秦グループ」の宣伝広告活動において使用され,その頃には,岡山県,鳥取県及び島根県において不正競争防止法2条1項1号の商品等表示(営業表示)として周知性を獲得し,その周知性が現在まで維持されていること,本件各表示が控訴人全秦通商の営業表示であることは,当事者間に争いがない。
このことを前提に,控訴人全秦通商は,本件各表示の主体は当初から控訴人全秦通商のみであり,そうでないとしても,控訴人ソフィアらが平成24年2月に「全秦グループ」から脱退したことにより,控訴人全秦通商の控訴人ソフィアらに対する本件各表示の使用許諾がなくなったから,控訴人ソフィアらは,周知性を獲得した本件各表示の主体ではなく,本件各表示は,控訴人ソフィアらにとって不正競争防止法2条1項1号の「他人の」営業表示であると主張する。
これに対し,控訴人ソフィアらは,控訴人ソフィアらも控訴人全秦通商と共に当初から本件各表示の主体であり,控訴人全秦通商から本件各表示の使用許諾を受けているのではないから,控訴人全秦通商と控訴人ソフィアらがグループ関係を解消した後も周知性を獲得した本件各表示の主体であり,控訴人ソフィアらにとって本件各表示は「他人の」営業表示ではないと主張する。」
⑼ 原判決25頁8行目から9行目にかけての「社会通念上,グループとして捉えられる一体的な関係があったといえる」を「いずれも経営理念を同じくするP家の家業を担う会社であるという共通の性格を有していたものと認められる」に改める。
⑽ 原判決25頁10行目の「P1が」から12行目の「本件各表示を」までを「そのような共通の性格を有する控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらを,企業活動を通じて社会に貢献し,利益を地域社会に還元するという経営理念の下,多角的な事業を展開する「全秦グループ」と称する企業グループであるとし,「全秦グループ」及びその構成員のイメージを効果的に表現し,対外的にアピールするためのヴィジュアル・アイデンティティーとして本件各表示を作成し,これを」に改める。
⑾ 原判決25頁14行目の「一般消費者間」を「一般消費者その他控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらが営む各事業の需要者の間」に,19行目の「原告及び被告らが」から20行目の「ないのに」までを「控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらは,概ね事業分野を異にしており,需要者を共通にしているわけではないのに」にそれぞれ改める。
⑿ 原判決26頁5行目から7行目までを次のとおり改める。
「したがって,平成24年1月頃までに周知性を獲得した「全秦グループ」の本件各表示の主体は,その当時においては,同グループの構成員であった控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらであったと認められる。」
⒀ 原判決26頁8行目の「本件各表示による」を「本件各表示の制作費及びこれを使用した」に,12行目から13行目にかけての「本件各表示の周知性が上記のような経緯で形成された以上」を「本件各表示は,同一の経営理念の下でP家の家業を担っている控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらが,その経営理念に基づき多角的な事業を展開する企業集団であることを対外的に宣伝し,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの企業イメージを高めるために制作され,「全秦グループ」の宣伝広告活動に用いられてきた(これに対応して,同宣伝広告活動に接した取引者需要者も,本件各表示は,控訴人全秦通商の主たる目的であるパチンコ店,書店の経営等に限らず,控訴人ソフィアらの行っている事業を含めた多角的な事業に用いられている営業表示であると認識したものと認められる。)ことにより周知性を獲得したものであるから」にそれぞれ改める。
⒁ 原判決26頁18行目の「あったことを問題にする」から25行目末尾までを次のとおり改める。
「あったとも主張する。しかし,上記契約書(甲2)においては,本件表示1及び2等は控訴人全秦通商及び控訴人全秦通商が所属するゼンシングループの所有するものであるとされ(1条),控訴人全秦通商のみを所有主体としているのではないこと,上記契約書は,その作成の前後の経緯からして,控訴人全秦通商の経営から排除されることを察知したP1が,本件各表示を控訴人ソフィアら及び全功を構成員とする「ゼンシングループ」の表示として独占的に使用できるようにするために作成したものであると認められるところ,譲渡の主体を控訴人全秦通商のみとすれば同目的は達成できること(控訴人ソフィアらは引き続き本件各表示を使用する予定であったのだから,これを譲渡する必要はない。)からすると,上記契約書をもって,P1が本件各表示が控訴人全秦通商のみに帰属すると認識していたと認めることはできない。」
⒂ 原判決26頁末行から29頁6行目までを次のとおり改める。
「オ 平成24年2月,控訴人全秦通商と控訴人ソフィアらは,「全秦グループ」として結束して企業イメージを向上させるために宣伝広告活動を行う関係を解消したものの,その頃までに獲得された本件各表示の周知性が現在まで維持されていることは,当事者間に争いがない。そして,平成24年2月以降,控訴人全秦通商は,被控訴人ワードシステムが新たに「全秦グループ」に加わったなどとして,控訴人全秦通商及び被控訴人ワードシステムらほかを構成員とする「全秦グループ」を従前の「全秦グループ」と同一性,連続性のあるものとして本件表示1ないし5を使用して宣伝広告しており,他方,控訴人ソフィアらも,従前の「全秦グループ」を再編成した「ゼンシングループ」を構成しているとして被告標章1,3,4及び6を使用して宣伝広告している。このように,本件各営業表示は,平成24年2月以降も控訴人全秦通商も控訴人ソフィアらも使用を続けており,これらの宣伝広告に接している取引者需要者が,本件各表示を控訴人全秦通商のみの営業表示として認識するに至ったとは認められない。
カ 控訴人全秦通商及び被控訴人らは,控訴人ソフィアらが本件各表示を使用していたのは,控訴人全秦通商の使用許諾に基づくものであり,同使用許諾には控訴人全秦通商とのグループ関係解消の解除条件が黙示的に付されていたとして,平成24年2月の同グループ関係解消によって使用許諾がなくなったから,控訴人ソフィアらが営業表示として本件各表示を使用することはできず,本件各表示の主体として不正競争防止法上の権利を行使することも許されないと主張する。
確かに,控訴人全秦通商は,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらを構成員とする「全秦グループ」内で売上げ,従業員数及び店舗数が最も多く,P家の家業の中心であり,本件各表示の制作費やこれを用いた宣伝広告費を負担し,グループ名の一部である「全秦」並びに本件表示2,4及び5の称呼「ゼンシン」と同じ称呼を含む商号を冠し,一般大衆向けの事業を展開している関係上,本件各表示を使用した「全秦グループ」の宣伝広告活動の効果を最も強く受けるという意味において,「全秦グループ」における中心的存在であるといえるものの,例えば,発注者とその下請・孫請といった特定の事業者を中心とする事業上の一定の繋がりのある企業から成るグループにおける発注者のように,グループの存立に不可欠の存在というわけではない。そして,本件各表示は,同一の経営理念の下でP家の家業を担っている控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらが,その経営理念に基づき多角的な事業を展開する企業集団であることを対外的に宣伝し,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの企業イメージを高める目的で控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの5社の合意(その代表者であるP1の意思)に基づき制作され(甲3),そのとおりに宣伝広告活動において使用されていたものであることからすると,本件各表示は,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアら5社の相互の合意に基づき使用が開始されたものであって,控訴人全秦通商が控訴人ソフィアらに対して使用を許諾したものとは認められないし,控訴人全秦通商と控訴人ソフィアらのグループ関係が解消されたときには控訴人ソフィアらが本件各表示を使用することができないとの合意があったと認めることもできない(なお,本件各表示が上記の趣旨で制作され,使用を開始されたことからすると,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらを構成員とする「全秦グループ」と別個独立のグループ及びその構成員の営業表示として本件各表示を使用することは許されないとするのが上記5社の合意の趣旨であると解されるが,控訴人ソフィアらが現在本件表示1等をその営業表示として使用している「ゼンシングループ」は,上記「全秦グループ」5社のうち4社が所属し,同4社の代表者は,上記グループ関係解消までその5社の代表者であったP1が務めており,その経営理念も上記「全秦グループ」が掲げていたものと同一であることからすると,上記「ゼンシングループ」は,上記「全秦グループ」の一部であり,本件各表示が象徴する上記「全秦グループ」とは別個独立のグループないしその構成員であるとは認められないから,上記合意に基づいても,控訴人ソフィアらによる本件各表示の使用が禁じられるものではない。)。
キ したがって,本件各表示は,現在においても,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの周知営業表示であると認めることができ,控訴人ソフィアらにとって,これが不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の」営業表示に当たるということはできない。
ク 控訴人全秦通商は,控訴人ソフィアらが本件各表示を使用するのは全功による別件判決の執行逃れであると主張する。しかし,控訴人ソフィアらは,全功設立前から本件各表示を使用し,その周知性を獲得した主体であるから,全功が別件訴訟において敗訴したといった控訴人全秦通商が指摘する事情を踏まえても,控訴人ソフィアらによる本件各表示の使用が実質的には全功による使用であると認めることはできず,控訴人全秦通商の上記主張は,採用することができない。」
⒃ 原判決29頁12行目の「全功と」から15行目末尾までを「控訴人ソフィアらの代表取締役であるP1が代表取締役を務めていた全功が,営業上の施設又は活動に被告標章1ないし7を使用するほか,被告標章8を使用していることから,控訴人ソフィアらも被告標章8を使用するおそれがあると主張する。」に改める。
⒄ 原判決30頁6行目から12行目までを次のとおり改める。
「しかし,前記⑴において説示したとおり,本件各表示は,現在においても控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの周知営業表示であると認められるから,本件表示2と類似する本件ドメイン名をその事業活動において使用することは,不正競争防止法2条1項1号又は13号に規定する「他人の」周知営業表示と類似の営業表示又はドメイン名を使用することには当たらないし,その使用につき同条同項13号の「不正の利益を得る目的」又は「他人に損害を加える目的」があるとも認められない。」
⒅ 原判決30頁16行目の「被告らの」から17行目の「あるから」までを「既に説示したとおり」に改める。
⒆ 原判決31頁2行目の「被告らによる」から4行目の「いえないから,」までを削る。
⒇ 原判決31頁7行目から33頁3行目までを次のとおり改める。
「⑸ 争点4(被控訴人らによる本件各表示の使用の有無)
ア 全秦通商本社ビルに掲げられた本件看板について
本件看板が設置されている全秦通商本社ビルは,本件看板が設置された頃は控訴人全秦通商が所有し,現在は,控訴人全秦通商の代表取締役であるP2が所有し,控訴人全秦通商に一棟貸しされていると認められるから(丙2,丁4の2),本件看板は控訴人全秦通商が設置し,管理しているものと推認されるところ,被控訴人らがその設置,管理に関与していると認めるに足りる証拠はなく,控訴人ソフィアらが指摘する全秦通商本社ビルの入口の表示(丁1の1ないし3)から,被控訴人らが控訴人全秦通商とともに本件看板を掲げているとか,本件看板による宣伝広告の主体としてこれに関与しているものと推認することはできず,他にこの事実を認めるに足りる事情はない。
したがって,被控訴人らが本件看板によって本件表示1を使用していると認めることはできない。
イ 新聞広告について
控訴人ソフィアらは,被控訴人らが,前記1⑷オ及びクの新聞広告によって本件表示1,2,4及び5を使用していると主張する。
(ア) まず,前記1⑷オの新聞広告は,その内容及び体裁からして,控訴人全秦通商,被控訴人ワードシステムらが主体となり,控訴人全秦通商を主力企業とする,控訴人全秦通商,被控訴人ワードシステムら及び山陽ゴルフ倶楽部から成る「全秦グループ」及び各構成員を宣伝するものであることが明らかであるから,右肩に配された本件表示2及び本文に記載した本件表示5は,控訴人全秦通商及び被控訴人ワードシステムらが共同して使用しているものと認められる。
(イ) 次に前記1⑷クの新聞広告は,「ゼンシングループは関連企業とともに,さらなる飛躍を目指します。」と記載し,被控訴人ゼンシン及び控訴人全秦通商を大きなフォントで表示する一方,被控訴人ワードシステムら及び山陽ゴルフ倶楽部を小さなフォントで表示している部分に着目すると,被控訴人ワードシステムらは,「ゼンシングループ」の関連企業として掲載されているかのように受け取れなくもない。しかし,本文において,「全秦グループ」について「株式会社ゼンシンを中核企業とし,アミューズメント,IT・ビジネス情報,ゴルフ事業等,ビジネスフィールドが充実してまいりました」として,被控訴人ワードシステムのコンピュータ関連事業を「全秦グループ」の事業として紹介していること,この新聞広告に先立つ同オの新聞広告では被控訴人ワードシステムらも「全秦グループ」の構成員として紹介されていることからすると,同クの新聞広告も,被控訴人ゼンシン,控訴人全秦通商及び被控訴人ワードシステムらが主体となって,被控訴人ゼンシンを中核とし,その他3社及び控訴人全秦通商の一部門である山陽ゴルフ倶楽部を構成員とする「全秦グループ」及びその構成員を宣伝するものであると認められる。したがって,同クの新聞広告の右肩に配された本件表示1及び2並びに本文に記載された本件表示4及び5は,被控訴人ゼンシン,控訴人全秦通商及び被控訴人ワードシステムらが共同して使用しているものと認められる。
⑹ 争点6(控訴人ソフィアらの差止請求の成否)
ア 前記⑸のとおり,被控訴人らは,本件表示1,2,4及び5を使用していると認められるところ,本件各表示は,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの周知営業表示であり,被控訴人らが本件表示1,2,4及び5をその営業上使用することによって,需要者が,被控訴人らと控訴人ソフィアらが同一の経営理念に基づき連携,協力しながらP家の家業を営む同一の企業グループに属する関係があるものと誤信するおそれ(広義の混同のおそれ)があり,控訴人ソフィアらはこれによって営業上の利益を侵害されるおそれがあると認められるから,控訴人ソフィアらによる被控訴人らに対する不正競争防止法2条1項1号,3条に基づく本件表示1,2,4及び5の使用の差止請求は理由がある。
イ 被控訴人ゼンシンは,純粋持ち株会社である被控訴人ゼンシンによる本件各表示の使用は,事業会社である控訴人全秦通商による使用と同視できるから不正競争行為に当たらないと主張する。しかし,純粋持ち株会社であっても事業会社と別個独立の法人格であるから,不正競争防止法2条1項1号の適用上,当然に純粋持ち株会社による使用を事業会社による使用と同視することはできず,被控訴人ゼンシンの上記主張は失当である。」
3 以上によれば,控訴人全秦通商の請求は,いずれも理由がないから棄却すべきであり,控訴人ソフィアらの請求は,いずれも理由があるから認容すべきである。
よって,これと一部異なる原判決を上記のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山田知司 裁判官 髙橋文淸 裁判官 寺本佳子)