大阪高等裁判所 平成28年(ネ)3103号 判決 2017年12月07日
控訴人兼被控訴人
株式会社エコリカ
(以下「一審原告」という。)
上記訴訟代理人弁護士
溝上哲也
同
河原秀樹
上記原審本訴訴訟代理人弁理士
山本進
被控訴人兼控訴人
スカイホースジャパン株式会社
(以下「一審被告」という。)
上記訴訟代理人弁護士
服部謙太朗
上記原審本訴訴訟代理人弁理士
広川浩司
主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は各自の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 一審原告
(1) 原判決中,一審原告敗訴部分を取り消す。
(2) 一審被告は,その包装に原判決別紙被告表示目録記載1の表示を使用した原判決別紙被告商品目録記載1の商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供してはならない。
(3) 一審被告は,その製造又は販5 売に係るリサイクルインクカートリッジの包装に原判決別紙被告表示目録記載1の各表示を使用してはならない。
(4) 一審被告は,原判決別紙被告表示目録記載1の表示を使用したリサイクルインクカートリッジの包装を廃棄せよ。
(5) 一審被告は,原判決別紙被告ウェブサイト目録記載1ないし3のインターネット上のアドレスにおいて開設する各ウェブサイトから,原判決別紙被告広告目録記載1の被告商品の画像を抹消せよ。
(6) 一審被告は,その包装に原判決別紙被告表示目録記載2の表示を使用した原判決別紙被告商品目録記載2の商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供してはならない。
(7) 一審被告は,その製造又は販売に係るリサイクルインクカートリッジの包装に原判決別紙被告表示目録記載2の各表示を使用してはならない。
(8) 一審被告は,原判決別紙被告表示目録記載2の表示を使用したリサイクルインクカートリッジの包装を廃棄せよ。
(9) 一審被告は,原判決別紙被告ウェブサイト目録記載1ないし3のインターネット上のアドレスにおいて開設する各ウェブサイトから,原判決別紙被告広告目録記載2の被告商品の画像を抹消せよ。
(10) 一審被告は,一審原告に対し,1200万0560円及びこれに対する平成27年10月22日(訴え提起の日)から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(11) (1)の取消部分に係る一審被告の反訴請求をいずれも棄却する。
(12) 訴訟費用は,第1,2審とも一審被告の負担とする。
(13) (10)につき,仮執行宣言
2 一審被告
(1) 原判決中,一審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 一審原告は,本判決確定の日5 から7日以内に,原判決別紙謝罪文目録記載の謝罪文を,一審原告のホームページ(http://www.ecorica.jp/)上に掲載せよ。
(3) 一審原告は,一審被告に対し,470万円及びこれに対する平成27年10月23日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも一審原告の負担とする。
(5) 仮執行宣言
第2事案の概要
以下で使用する略称は,原判決の例による。
1 本訴請求
一審原告が,一審被告に対し,一審原告の販売するインクジェットプリンタ用のリサイクルインクカートリッジの包装のうち,原判決別紙原告表示目録記載の各表示(原告各表示)が一審原告の商品等表示として周知になっており,一審被告が原告各表示に類似する原判決別紙被告表示目録記載の各表示(被告各表示)を使用するリサイクルインクカートリッジを販売などする行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当するとして,下記請求をした事案である。
記
(1) 同法3条1項に基づく原判決別紙被告商品目録記載の各商品の譲渡等の差止請求(本訴請求(1))
(2) 同項に基づく一審被告製造販売に係るリサイクルインクカートリッジの包装への被告各表示の使用差止請求(本訴請求(2))
(3) 同条2項に基づく被告各表示を使用したリサイクルインクカートリッジの包装の廃棄等の請求(本訴請求(3))
(4) 同項に基づく一審被告のウェブサイトから被告各表示を使用した包装の商品広告の画像の抹消請求(本訴請求(4))
(5) 同法4条に基づく損害賠償として合計1200万0560円(同5条2項適用による損害990万9600円,信用毀損による損害100万円,弁護士費用相当額109万0960円の合計額)及びこれに対する不法行為の後の日である平成27年10月22日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の請求(本訴請求(5))
2 反訴請求
一審被告が,一審原告に対し,一審原告が原判決別紙不正競争行為目録記載の内容(本件掲載文)を一審原告のホームページに掲載する行為が不正競争防止法2条1項14号(平成27年法律第54号による改正前のもの。現行同項15号。以下では,現行法のものによる。)の不正競争に該当する旨主張して,下記請求をした事案である。
記
(1) 同法14条に基づく本件掲載文の電磁的記録の一審原告のホームページからの削除請求(反訴請求(1))
(2) 同法14条に基づく一審原告のホームページへの原判決別紙謝罪文目録記載の謝罪文の掲載請求(反訴請求(2))
(3) 同法4条に基づく信用毀損による損害賠償として500万円及びこれに対する不法行為の後の日の平成27年10月23日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の請求(反訴請求(3))
3 原審は,一審原告の請求をすべて棄却し,一審被告の反訴請求のうち損害賠償請求について,30万円及びこれに対する遅延損害金の限度で認め,その余の請求をいずれも棄却した。
これに対し,一審原告及び一審被告の双方が控訴した。なお,一審被告は,当審において,前記2(1)の請求に係る訴えを取り下げた。
4 前提事実
(1) 当事者等
ア 一審原告は,事務用機器及び付属品のリサイクル商品の企画,製造及び販売などを目的として設立された会社であり,インクジェットプリンタに搭載されるリサイクルインクカートリッジの開発,製造等を主要な事業内容としている。
イ 一審被告は,平成21年11月20日,コンピュータ関連機器の消耗品の輸出入,及び,販売などを目的として設立された会社であり,中国のスカイホース社製造に係るインクカートリッジを輸入し,日本国内において販売している。
(2) インクジェットプリンタ及びインクカートリッジ市場
ア インクジェットプリンタは,プリンタにインク色が異なる複数のインクカートリッジを装着し,インクカートリッジ内のインクを印刷用紙に吐出して印刷を行うものであるが,印刷に伴い消費されるインクはインクカートリッジを交換することで補充されるため,インクジェットプリンタを購入したユーザーは,当該機種に適合するインクカートリッジを繰り返し購入することが見込まれている。
イ インクカートリッジの市場は,① プリンタメーカー自身が製造販売している純正品,② プリンタメーカーではないサードパーティが使用済みのインクカートリッジにインクを充填しリサイクルして販売しているリサイクルインクカートリッジ,③ サードパーティが特定のプリンタに対応するよう製造した互換品が存在するところ,一審原告及び一審被告が販売しているインクカートリッジは,②のリサイクルインクカートリッジである。
(3) 一審原告の販売行為
ア 一審原告は,平成15年からインクジェットプリンタ用のリサイクルインクカートリッジの販売を始め,平成21年11月1日頃,エプソンのインクジェットプリンタに適合するリサイクルインクカートリッジである原告商品1の販売を始め,その後,リサイクル方法の開発が完了したものから順次,原告商品2,さらに原告商品3ないし7の販売を始め,現在に至るまでこれらの商品の販売を継続している。
イ 本件原告商品は,全国の家電量販店,総合スーパー,ホームセンター,オフィス事務用品店などの実店舗で販売されているほか,インターネット,カタログなどの通販によっても販売されている。一審原告は,原告各表示以外の表示を包装に用いた商品も販売している。
(4) 一審被告の販売行為等
一審被告は,被告商品1,2(被告各商品)を商社を介して家電量販店に納入し,当該家電量販店が一般消費者に販売している。また,一審被告は,原判決別紙被告ウェブサイト目録1ないし3に記載の各URLアドレスにおいてウェブサイトを開設し,被告商品1,2の画像を掲載している。(甲4の1,甲4の3及び4)
(5) 一審原告のホームページにおける告知
一審原告は,平成27年10月22日,大阪地方裁判所において本訴を提起し,同日,一審原告のホームページに,原判決別紙不正競争行為目録記載のとおりの「スカイホースジャパン株式会社に対する提訴(に)ついて」と題する本件掲載文を掲載した。(乙20の1及び2)
5 争点
(1) 本訴請求
ア 原告各表示は一審原告の商品表示として周知か(争点1)
イ 被告各表示は原告各表示に類似するか(争点2)
ウ 混同を生じるおそれの有無(争点3)
エ 一審原告の損害額(争点4)
オ 先使用の抗弁の成否(争点5)
(2) 反訴請求
ア 本件掲載文は一審被告の営業上の信用を害する虚偽の事実か(争点6)
イ 本件掲載文の抹消請求及び謝罪広告掲載請求(争点7)
ウ 一審被告の損害額(争点8)
第3争点に関する当事者の主張
1 争点に関する当事者の主張は,当審における当事者の主張を後記2及び3に加えるほか,原判決「事実及び理由」中の第2の2,第2の3及び第3(原判決4頁12行目から27頁5行目)までに記載のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における一審原告の主張
(1) 原告各表示の商品表示性(同種商品と異なる顕著な特徴)について商品の包装が,商品表示性を有すると判断するためには「他の同種商品と異なる顕著な特徴」(判断基準(a))が必要であるところ,原告各表示は,以下のとおり,外観上明らかに他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有している。
原判決の判断は,これらの特徴点を無視したもので,上記判断基準への当てはめには誤りがある。
ア 一審原告が主張する特徴点A(特徴点A。以下も同様に略記する。)は,単なる配色ではない。角が丸みを帯びた四角形状の配置と2色の塗り分けに特徴がある。
イ 特徴点Bは,単なる白抜きではなく,純正品型番の2桁の数字を大きなポイントで表示するなどの特徴がある。
ウ 特徴点Cは,単に色数を示すものではなく,インクカートリッジを斜視方向から撮影した写真を,色に従い,一定の順で配置したものである。
エ 特徴点Dは,グリーン色の領域に「リサイクルインクカートリッジ」の文字を白抜きで表示したところに特徴があり,競合他社のいずれのパッケージにも,そのような表示のものはない。
オ 特徴点Eは,周縁部5 が鋸歯状の円形のバッジの下方に先端がV字状にカットされたリボンが付いていることを要素とするものである。
(2) 原告各表示の周知性について
原告各表示は,「ecorica」「エコリカ」の商標や文字がなくても,需要者に広く認識されていた。
原告各表示について周知性を認めなかった原判決の判断は,次に述べるとおり,誤っている。
ア 一審原告が原告商品1の発売を開始した時期は,原審が認定した平成21年11月頃ではなく,同年6月25日である。
イ 原告商品のパッケージからエコリカマークや特徴点Dの「リサイクルインクカートリッジ」の文字の前にある「エコリカ」の文字を削除した商品パッケージの画像を一般需要者に提示したときのメーカー名(ブランド名)の想起状況をアンケート調査した。
エプソン製インクジェットプリンタを使用したことがあり,現在リサイクル品又は互換品を使用している条件を満たす1051名を対象として調査を実施したところ,エコリカ(一審原告)を想起した回答割合は11.9%と高率であった(なお,上記1051名は,条件を満たす2926名からランダム抽出を行って得た対象者である。)。
なお,上記アンケートにおいて,前回と同じインクカートリッジを購入する際,パッケージデザイン(31.0%)又はパッケージの色(7.1%)を見て判断するとの回答があった。
上記アンケート調査結果からも,パッケージデザインは,インクカートリッジの商品識別において需要者の注意を引き,インクカートリッジのパッケージデザインは,売上げに大きな影響を与えているといえる。
ウ 一審原告は,全国紙による新聞広告や雑誌広告を行ってきた。その結果もあって,一審原告のリサイクルインクカートリッジは,サードパーティ製のインクカートリッジとしては,抜群のシェアを有している。
なお,平成28年11月21日付の朝日新聞朝刊に全面広告を出した際,近畿圏で72.5%,首都圏で78.8%という非常に高い接触率を示した。また,効果は絶大である。
(3) 原告各表示と被告各表示が類似し,混同のおそれを有するか否かについて
アンケート調査結果によれば,回答者の73.5%が似ていると感じており(非常に似ている:10.3%,似ている:27.5%,やや似ている:35.7%),また一審被告の被告商品1から製造者名を削除した画像を見たアンケート回答者の7.9%がエコリカを想起した。これらのことからすると,被告各表示の類似性,混同性は肯定される。
(4) 本件掲載文が一審被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を記載したものであるか否かについて
以下のとおり,本件掲載文は一審被告の営業上の信用を害する虚偽の事実とはいえず,これを認めた原判決の判断は誤りである。
ア 原告各表示によるパッケージを周知と述べたことは,自己の営業上の信用を高める事実にすぎない。また,アンケート調査結果からすれば,原告各表示によるパッケージが周知であると説明したことは何ら虚偽ではない。
イ 原判決は,本訴請求の判断に際し,パッケージの類似性,混同性について判断を示していないにもかかわらず,反訴請求における営業誹謗の局面において突然「酷似」「混同のおそれ」等の文言を取り上げているが,不当である。
また,前記(3)のとおり,アンケート調査結果では,原告商品1のパッケージと被告商品1のパッケージについて,非常に似ている,似ている,やや似ていると回答した者の合計は約74%であった。このことからすると,原告表示1と被告表示1とが類似しており,混同の可能性があることは明らかである。
ウ 原判決は,本件掲載文中の画像について,類似性を判断しやすい一部写真だけを取り出したものであると認定しているが,一審原告が,商品のパッケージの面について,恣意的によく似た面を組み合わせた事実はない。原判決は,一方では,パッケージに類似性がないという前提で判断しながら,ここでは類似性があることを前提とした判断をしており,理由が齟齬している。
エ 知財訴訟では,むしろ権利者の勝訴率は低いのが実情であり,裁判所の審理を経なければ結論がわからないことは一般人もよく理解しており,本件掲載文の内容は虚偽の事実には当たらない。
(5) 本件掲載文による不正競争についての一審原告の過失について
本件掲載文は,一審原告のユーザーに向けて,訴えを提起するに至った経緯や事実上及び法律上の主張内容を説明したものであり,被告各商品が不正競争防止法違反の商品であるなどの断定をせず,被告各商品の購入や取引を躊躇させるような記載にならないよう注意して作成されたものであって,裁判所の公的判断が示される前に一審被告が不正競争行為をしているかのように読み手を誤信させるような記述ではない。
このように,一審原告は,ホームページに掲載する文書の作成に求められる注意義務は十分尽くしたのであって,一審原告に過失はない。
(6) 本件掲載文による不正競争による一審被告の損害について
一審被告は,一審被告の商品であるリサイクルインクカートリッジ全体の売上げ及び互換インクカートリッジの売上げに影響したと主張するが,平成26年10月から平成27年9月までの1年と同年10月から平成28年9月までの1年とを比較すると,一審原告が平成27年10月に本件掲載文をホームページに掲載したにもかかわらず,一審被告の売上げは増加しており,損害は生じていない。
3 当審における一審被告の主張
(1) 本件掲載文による不正競争による一審被告の損害について
平成25年10月から平成28年9月までの一審被告の総売上高は約●(省略)●円ないし約●(省略)●円であり,この点のみを見ても,原判決が認めた30万円は,損害賠償としては少額にすぎる。
一審被告代表者は,非純正インクカートリッジ業界において有名な存在であり,中国の同業者の間では,高い信用を得て,互換インクカートリッジ及びリサイクルインクカートリッジ事業を日本や中国で継続している。本件掲載文のホームページへの掲載により,その当時進んでいた商談が実現しなくなったほか,その影響は日本にとどまらず,中国の協力会社の従業員も本件訴訟のことを知っていたことなどから,一審被告が損害を被ったことは明らかであり,虚偽の事実を流布する不正競争行為をしても30万円の賠償金で済むことになるのは不当であり,このような不正競争行為がされないようにするために,相当な損害賠償を認めるべきである。
(2) アンケート調査結果に基づく一審原告の主張に対する反論
ア 一審原告が提出したアンケート調査結果は,約1000人を対象としたインターネット調査が実施されたにすぎないものであり,その母集団の範囲が適切ではないなど,客観的信頼性に欠ける。
イ インクカートリッジの需要者は,商品識別においては,主としてパッケージ上の文字情報によって対応メーカーや互換製品であることを確認するのであり,パッケージデザインには注意を払わない。
ウ インクカートリッジの売上げは,販売店に対する営業活動によって陳列場所等が変わることの結果として変動するのであり,パッケージデザインは影響を与えない。
第4当裁判所の判断
1 当裁判所も,一審原告の請求には理由がなく,一審被告の請求のうち,不法行為に基づく損害賠償として30万円及びこれに対する平成27年10月23日(不法行為の後の日)から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記2及び3のとおり当審における当事者の主張に対する判断を加えるほか,原判決「事実及び理由」中の第4の1から第4の5まで(原判決27頁7行目から37頁10行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決27頁12行目の「商品の包装は」から13行目の「ものではないから」までを「商品の包装自体は本来商品の出所を表示する目的を有するものではないから(包装用紙に商標や標章が付されている場合は,当該商標や標章自体が商品等表示となる。)」に改める。
(2) 原判決28頁3行目の「インクカートリッジ」を「純正品インクカートリッジ」に改める。
(3) 原判決29頁16行目の「遅くとも平成21年11月頃」を「平成21年6月25日」に改める。
(4) 原判決31頁5行目の「わずか」を「映像時間はわずか」に改める。
(5) 原判決34頁16行目から25行目までを次のとおり改める。
「また,上記(1)のとおり,本件掲載文中には「エコリカ製品の画像」と「スカイホース製品の画像」とが対比して観察できる状態で掲載されており,かつ,その画像は,いずれも本件訴訟で特定したパッケージデザインのうち正面部分の写真である。
このような文書における表現及び写真の掲載は,その事柄の性質上,一審原告の主張が正当なものであること,すなわち,被告各商品のパッケージデザインが,周知性を獲得した商品表示である原告各商品のパッケージデザインと類似し,購入者が取り違えるおそれがあることが明確に認識されるようにして,読み手がそのことを理解し感得できるものでなければならない。本件掲載文における断定的な表現や正面部分の写真の使用はその表れであるといえる。
その結果,本件掲載文の読み手は,その第1文及び第2文で,訴訟が提起されたばかりであるから,記載内容の事実が公的判断として確定された事実ではなく,一審原告がそのように主張している報告であることを理解するであろうが,周知性,類似性及び損害発生に関する第3文ないし第5文が,一審原告の主張であることについて,文言上何ら留保もなく,前記のとおり読み手に明確に認識されるような記載となっていることにより,周知性,類似性及び損害発生が確実であるか又は裁判において容易に認められ得る事柄であるとの印象を受け,一審被告の商品の販売行為が不正競争防止法違反の行為であるとの認識,理解に誘導される可能性が高いと認められる。」
(6) 原判決35頁12行目の「訴訟提起の報告に仮託して,」を削る。
(7) 原判決35頁20行目の「その周知商品」から22行目の「であり」までを「その周知商品等表示が訴訟において認められることが多くないことはよく知られたことであり」に改める。
(8) 原判決36頁2行目の「被告」を「一審原告」に改める。
(9) 原判決36頁12行目の「求めるが,」の次に「一審被告が取引先との関係において実際に具体的に大きな影響が生じたことを認めるに足りる確実な証拠はないから,」を加える。
(10) 原判決36頁15行目から20行目までを削る。
2 当審における本訴請求に関する当事者の主張について
(1) 原告各表示の商品表示性について
一審原告は,原告各表示が,外観上明らかに他の同種商品とは異なる顕著な5つの特徴を有すると主張する。
ア 特徴点A
一審原告は,特徴点Aについて,単なる配色ではなく,パッケージの中央よりもやや左寄りにずらして角が丸みを帯びた四角形状の背景部を下75%程度は青色に,上25%程度は緑色に塗り分けて配色しており,四角形の配置,形状及び塗り分けの割合に他のパッケージとの違いがあると主張する。なるほど,これらの配置や形状,色の割合は,被告各表示を除き,これと類似するパッケージは見あたらない。
しかし,いくつかの情報を,四角形のなかに記載して,強調することはありふれた手法であり,また,角に丸みを帯びさせるのも,ありふれた表示方法である。そして,情報をふたつの種類に分けられる場合に,その背景色を2色にし,その割合を調整することによって,バランスをとることもまた,ありふれた表示方法といえる。
そうすると,特徴点Aは,他のインクカートリッジのパッケージと同じものがなかったからといって,これを顕著な特徴ということはできない。
イ 特徴点B
一審原告の主張する特徴点Bは,純正品型番の2桁の数字を大きく白抜きするということであるが,大きな文字や白抜きは,見る人の注意を集める必要のある最も重要な情報を表示する際に用いられる一般的な工夫であり,これらの工夫を用いた表示は,商品パッケージ以外にも広く用いられているものであり,ありふれた手法というべきである 。仮に,被告各表示を除き,他のインクカートリッジのパッケージに,2桁の数字を大きく白抜きしたものがないとしても,顕著な特徴ということはできない。
ウ 特徴点C
一審原告が主張する特徴点Cは,内容物の色とその数を視覚的にパッケージに表したものに過ぎず,このような表示は,複数の色の同種の物が内容物となっている商品のパッケージに広く用いられているありふれたものであって,顕著な特徴になっているということはできない。
エ 特徴点D
一審原告が主張する特徴点Dは,特徴点Aを構成する塗り分けられた2色のうち,上側にあるグリーンの領域に「リサイクルインクカートリッジ」の文字を白抜きで表示したものであるが,商品の内容を示すだけのものであり,特徴点Bと同様,ありふれた表示方法であり,顕著な特徴ということはできない。
オ 特徴点E
一審原告が主張する特徴点Eは,周縁部が鋸歯状の円形バッジの下方に先端がV字状にカットされたリボンが付いていることであるが,リボン付のバッジが各種の賞を得た商品のパッケージ等に使用される例があることに照らせば,特に優れた商品であることを示すありふれた表示方法というべきであり,仮に,被告各表示を除き,他のインクカートリッジのパッケージに使用されていないとしても,顕著な特徴ということはできない。
カ 特徴点の組合せについて
なお,これらの特徴点を組み合わせることにより,他のインクカートリッジのパッケージと異なる特徴を取得することが可能と考えるが,この組合せも,結局,伝えたい情報を,ありふれた表示方法で記載したものに過ぎない。
したがって,一審原告の主張する特徴点が組み合わされても,顕著な特徴となるわけではない。
(2) 原告各表示の周知性について
一審原告は,原告各表示について,「ecorica」や「エコリカ」の商標や文字がなくても,需要者に広く認識され,周知性があったとし,甲89号証のアンケート調査結果(商標等を隠してパッケージを示して実施したもの)を指摘する。
確かに,上記調査結果によると,エプソン製インクジェットプリンタを使用したことがあり,現在リサイクル品又は互換品を使用している条件を満たす1051名を対象として調査を実施したところ,エコリカ(一審原告)を想起した回答割合は11.9%であったことが認められる。
しかし,前記引用に係る原判決「事実及び理由」第4の1(2)エ,オで認定した事実によれば,原告各表示は多数ある原告商品のパッケージの一つであり,一審原告がその商品の大多数を同じデザインのパッケージで売っているわけではないと認められる。また,平成21年6月25日以降,原告各表示を用いた原告各商品の販売を行い,これに伴い,広告を行ってきたが,必ずしも,原告各表示を印象づけるような広告とはなっていない。
一方で,一審原告は,リサイクルインクカートリッジのサードパーティとして実績のある製造業者であり,平成25年6月から平成26年5月の間の純正品を含むインクカートリッジ全体の市場における原告取扱商品の市場占有率は9.4%で第3位,非純正品のみの商品群における市場占有率は76.3%であると認められる(弁論の全趣旨)。
これらのことに加え,前記アンケート調査が,リサイクル品又は互換品を使用している者を対象として実施されたことを前提とすると,前記アンケート調査結果は,一審原告自体がリサイクルインクカートリッジの製造者として高い市場占有率を有していたから生じたものであることを否定することができない。また,上記11.9%という数字が,必ずしも,高率というわけではない。
したがって,前記アンケート調査結果により,原告各表示の周知性を認めることはできない。
他に,原告各表示が一審原告の商品表示として周知性を獲得していたと認めるに足りる証拠はない。
(3) 以上のとおりであるから,原告各表示と被告各表示が類似し,混同のおそれがあるか否かについて判断する必要までもなく,一審原告の請求はいずれも理由がない。
3 当審における反訴請求に関する当事者の主張について
(1) 本件掲載文が一審被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を記載したものであるか否か
ア 一審原告は,本件掲載文において,原告各表示によるパッケージを周知と述べたことが,自己の営業上の信用を高める事実にすぎないと主張する。
確かに,自己の営業上の信用を高めることにはなるが,周知の事実が虚偽であれば,周知と述べることにより,本来であれば一審被告による不正競争は成立しないにもかかわらず,一審被告が不正競争をした事実を公表することになり,一審被告の信用を害することになる。一審原告の主張は採用できない。
また,アンケート調査結果をもってしても,周知と認定できないことは先に述べたとおりである。
イ 一審原告は,原判決が,本訴請求において,パッケージの類似性等について判断していないにもかかわらず,反訴請求において,本件掲載文中の「酷似」「混同のおそれ」という表現を取り上げることが不当であると主張する。
しかし,原判決では,原告各表示が商品表示性を有していないため,類似性などの判断をすることなく,一審原告の本訴請求が棄却されたものである。確かに,原告各表示と被告各表示を比較した場合,類似していることは否定できないが,一見して,酷似とまでいうことはできない。そうすると,類似より強い「酷似」という表現を使用したことをもって,断定的な表現を用いたと認定されることはやむを得ないというべきである。
ウ 一審原告は,原判決がパッケージに類似性がないという前提で判断したと主張するが,原判決は,類似性を判断することなく,本訴請求を棄却したものである。前記イで指摘したとおり,原告各表示と被告各表示が類似するという判断があり得ることは否定できない。
エ 一審原告は,本件掲載文を読む一般人の理解からすると,本件掲載文は虚偽の事実には当たらない(裁判所の審理を経なければ結論がわからないことを理解している。)と主張する。
しかし,本件掲載文を読む全ての人が,上記のような理解をするとは限らず,本件掲載文に接し,一審被告による不正競争の事実があったと認識する人の存在を否定することはできないと考える。
(2) 一審原告の過失について
一審原告は,被告各商品の購入や取引を躊躇させるような記載にならないよう注意して作成されたものであるから,過失はないと主張する。
しかし,前記(1)エでも述べたとおり,本件掲載文を読んで,一審被告による不正競争の事実があったと認識する人の存在を否定することはできない以上,過失の存在を否定することもできないというべきである。
(3) 一審被告の損害について
ア 一審被告は,一審被告代表者が中国の協力会社等に対する関係で有力な地位にあり,その営業上の活動に影響があったと主張し,乙25~45号証を提出する。
しかし,本件掲載文が一審原告のホームページに掲載されたことによって,現に進行中の商談が成約に至らなかったこと,中国等において取引先との関係において,一審被告の営業上の活動に実際に具体的な影響があったことを認めるに足りる証拠はないというほかはない。
イ 一審原告は,一審被告の売上げが増加していることを理由に,一審被告に損害が生じていないと主張する。
しかし,一審被告の売上げが増加しているからといって,一審被告に損害がなかったということにならないことは言うまでもない。
ウ 結局,一審原告の不正競争により生じた一審被告の信用毀損についての損害の額は,原判決が認定したとおり,30万円と認めるのが相当である。
一審被告及び一審原告のこの点に関する主張は理由がない。
4 よって,原判決は相当であって,本件各控訴は,いずれも理由がないから,これをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8民事部
(裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 髙橋文淸 裁判官 中尾彰)