大阪高等裁判所 平成28年(ネ)93号 判決 2016年7月29日
控訴人兼被控訴人(第1審原告)
X(以下「第1審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士
河村学
井上耕史
辰巳創史
西澤真介
被控訴人兼控訴人(第1審被告)
日本放送協会(以下「第1審被告」という。)
同代表者会長
籾井勝人
同訴訟代理人弁護士
永野剛志
清水豊
鈴木伸治
髙木志伸
主文
1 第1審被告の控訴に基づき,原判決のうち第1審被告敗訴部分を取り消す。
2 上記部分につき第1審原告の請求を棄却する。
3 第1審原告の本件控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じて,第1審原告の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 第1審原告
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)第1審原告が,第1審被告に対し,地域スタッフとしての契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(3)第1審被告は,第1審原告に対し,116万2548円及びこれに対する平成25年2月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(4)第1審被告は,第1審原告に対し,平成25年3月20日から毎月20日限り,21万7917円及び同各金員に対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(5)第1審被告は,第1審原告に対し,平成25年6月20日から毎年6月20日限り,37万7830円,毎年12月20日限り,49万9863円及び同各金員に対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(6)第1審被告は,第1審原告に対し,330万円及びこれに対する平成24年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第1審被告
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,第1審原告が,第1審被告との間で放送受信契約の取次等を業務内容とする有期の委託契約(以下「本件契約」という。)を締結し,15年余にわたり業務に従事していたところ,業績不良を理由として中途解約(以下「本件中途解約」という。)をされたことについて,第1審被告に対し,第1審原告は労働契約法上及び労働組合法上の労働者に当たり,本件中途解約は,労働契約法17条1項違反,民法90条違反(不当労働行為),本件契約の解約制限条項違反又は信義則違反により無効であると主張して,本件契約に基づき,①労働契約上の地位確認(前記第1の1の第1審原告の控訴の趣旨(2)),②平成24年8月25日から平成25年1月24日(第1審原告の主張する休業期間の最終日)までの休業見舞金・同(報奨金)・特別給付金及び同月25日から同月31日までの事務費並びに上記各金員に対する平成25年2月21日(上記各金員の支払期日の後の日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払(同(3)),③平成25年2月1日以降の事務費及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払(同(4)),④平成25年6月20日支払分以降の報奨金・特別給付金及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払(同(5))を求めるとともに,⑤不法行為に基づく損害賠償及びこれに対する不法行為より後の日である平成24年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(同(6))を求める事案である。
原審は,(1)上記①~④の請求については,本件中途解約は,労働契約法17条1項の類推適用により無効であるが,本件契約は,平成26年3月31日,期間満了により終了したとして,(ア)
平成25年2月20日までに支払われるべき事務費・給付の合計額111万9054円及びこれに対する同月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,(イ)平成25年2月1日から平成26年3月31日までの間の事務費(ただし,報奨金を除く。)の合計額262万4756円及び原判決別紙1「事務費認容額一覧表」の各認容額欄記載の各金員に対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,(ウ)平成25年6月20日及び同年12月20日に支払われるべき報奨金及び特別給付金の合計額80万8894円及びうち34万5065円に対する平成25年6月1日から,うち46万3829円に対する同年12月21日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の限度で認容し,その余の請求を棄却し,(2)上記⑤の請求については,第1審原告の損害賠償請求は理由がないとして棄却したところ,これを不服とする第1審原告及び第1審被告がそれぞれ本件各控訴を提起した。
2 前提事実
(1)前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実。なお,人証はいずれも原審において取り調べたものである。)は,後記(2)のとおり改めるほか,原判決3頁13行目から17頁19行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)ア 原判決3頁23行目の「に6回目の」を「にも」と改める。
イ 原判決4頁9行目から10行目にかけての「支部委員長」及び10行目の「支部委員長」をいずれも「本件支部の委員長」と改める。
ウ 原判決4頁13行目から14行目にかけての「契約開発スタッフ」の後に「(県庁所在地又はこれと同様の地域性を有すると認められる地域で,第1審被告が指定する地域(分業型地域)に配置され,①総数取次業務(分業型地域において,第1審被告から交付された地域(業務従事地域)の住居等を訪問し,未契約世帯から地上放送の受信契約(新規契約・住所変更)の取次をする業務), ②衛星取次業務(上記①と同様に業務従事地域の住居等を訪問し,未契約世帯から衛星放送の受信契約の取次をする業務及び地上放送の受信契約者から衛星放送への契約変更の取次をする業務),③契約同時口座取次業務(上記各契約の取次をすると同時に,受信料の口座振替・クレジット継続支払契約の取次をする業務)を行う地域スタッフ)」を加える。
エ 原判決4頁24行目の「という。」の後に「【注】第1審被告は,4月1日を起点に1年を2か月毎に6期に分けている。」を加える。
オ 原判決6頁16行目の「格別に」を「各別に」と改める。
カ 原判決6頁17行目の「処理する」を「算出する」と改める。
キ 原判決6頁26行目の末尾に改行の上,次の記載を加える。
「ク 第14条(契約期間)
「この契約の有効期間は,平成23年4月1日から平成26年3月31日までとする。」」
ク 原判決7頁1行目の「ク」を「ケ」と改める。
ケ 原判決7頁16行目から17行目にかけての「6ないし8ブロック」を「6~8ブロック程度」と改める。
コ 原判決7頁23行目の末尾に改行の上,次の記載を加える。
「平成21年度第5期(同年12月・平成22年1月)から平成24年度第2期(同年6月・7月)までの間(第1審原告が休業した平成23年度第1期及び第2期を除く)の各期に第1審被告が第1審原告に付与した各業務従事地域の目標数(総数取次業務(平成22年度第4期以降は総数取次業務と契約同時口座取次業務)に係る評価目標Ⅰの目標数と,衛星取次業務に係る評価目標Ⅱの目標数に分かれる。)は,原判決別紙4「原告の業績推移表」の評価目標Ⅰ,Ⅱの各「目標」欄に記載のとおりであり,上記各期の業務従事地域の世帯数,契約者数は,以下のとおりである。(乙64の1~4,乙71)
世帯数
契約者数
平成21
年度第5期
1万5394世帯
6791名
同
年度第6期
1万5628世帯
5812名
平成22年
度第1期
1万8116世帯
8833名
同
年度第2期
1万9300世帯
9459名
同
年度第3期
1万9433世帯
1万0137名
同
年度第4期
8998世帯
4980名
同
年度第5期
6026世帯
3268名
同
年度第6期
8808世帯
4274名
平成23
年度第3期
6039世帯
3677名
同
年度第4期
5833世帯
2944名
同
年度第5期
5973世帯
3292名
同
年度第6期
8620世帯
4814名
平成24
年度第1期
1万0243世帯
4636名
同
年度第2期
6837世帯
3134名
」
サ 原判決8頁1行目の「を「調整後達成率」」から2行目の末尾までを次のとおり改める。
「(調整後達成率)を,最低業績水準,中間業績水準として使用することがある。上記各期の業務従事地域の最低業績水準(調整後達成率によるもの),中間業績水準(調整後達成率によるもの)は,原判決別紙4「原告の業績推移表」の評価目標Ⅰ,Ⅱの各「最低業績水準(調整後)」欄,「中間業績水準(調整後)」欄に記載のとおりである。」
シ 原判決8頁7行目の「週」の後に「(【注】週とは,各局・センターが決める委託業務上の活動サイクルをいい,1か月を3週に分けている。)」を加える。
ス 原判決8頁20行目の「業務水準」を「業績水準」と改める。
セ 原判決8頁24行目から25行目にかけての「(【注】被告は,4月1日を起点に1年を2か月毎に6期に分けている。)」を削る。
ソ 原判決9頁下から3行目から2行目にかけての「(【注】週とは,各局・センターが決める委託業務上の活動サイクルをいい,1か月を3週に分けている。)」を削る。
タ 原判決10頁25行目の「その後」を「また,個別対応では」と改める。
チ 原判決12頁5行目から9行目までを次のとおり改める。
「(a)運営基本額は,当月に外務業務従事があった場合,15万円が支払われる。ただし,当月業務従事実績(取次実績)が20件未満の場合又は当月訪問件数が1500件未満の場合においては,①当月業務従事実績が10件以上又は当月訪問件数が750件以上のときは10万円が支払われ,②当月業務実績が1件以上10件未満かつ当月訪問件数が1件以上750件未満のときは7万5000円が支払われる。なお,運営基本額が支払われない場合は,大都市圏加算額,業績加算額及び業績基本額の支払対象にならない。」
ツ 原判決12頁20行目の「いずれも」を「その多くは」と改める。
テ 原判決12頁22行目及び24行目の「当期事務費」をいずれも「冬期事務費」と改める。
ト 原判決13頁1行目及び12行目の「業務奨励加算」を「業務精励加算」と改める。
ナ 原判決13頁5行目の「業績に」を削る。
ニ 原判決13頁6行目の「業績に応じ,」を削る。
ヌ 原判決13頁6行目から7行目にかけての「AないしE」を「aからeまで」と改める。
ネ 原判決13頁9行目の「基本的に目標達成率によって決まるが,例外的に」を削る。
ノ 原判決13頁12行目の「算定対象期間」を「平均事務費支払額の算定対象期間」と改める。
ハ 原判決13頁14行目から15行目までを次のとおり改める。
「(エ)乗車賃は,①来局・回収や講習を受けた場合で,自宅と局・センター,回収場所又は講習地との直線距離が1.5㎞以上の場合,乗車区間1.5㎞以上の公共交通機関利用に要する額が支払われ,②業務に従事し,自宅と対象地域最寄り地点との距離が30㎞以上の場合,一般道路を利用した場合の合理的な走行距離に,1㎞当たり30円を乗じた額が支払われる。」
ヒ 原判決14頁3行目の「60パーセント」の後に「(100円未満切り上げ)」を加える。
フ 原判決14頁10行目の末尾に改行の上,次の記載を加える。
「(エ)休業見舞金は,休業期間が1か月に達するごとに支払われ,休業期間が1か月未満の場合は支給対象とされていない。」
ヘ 原判決17頁13行目の「3月30日」を「4月1日」と改める。
ホ 原判決17頁14行目の「甲31の1,2」を「甲31の1~3」と改める。
3 争点
本件の争点は,原判決17頁21行目から18頁8行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
4 争点に対する当事者の主張
(1)争点に対する当事者の主張は,後記(2)のとおり第1審原告の当審における主張を加え,後記(3)のとおり第1審被告の当審における主張を加えるほかは,原判決18頁10行目から33頁26行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)第1審原告の当審における主張
ア 以下の諸事実に照らすと,第1審原告には,労働契約法上の労働者性が認められるから,本件契約には,労働契約法が類推適用されるのではなく,直接適用されると解すべきである。
(ア)諾否の自由について
地域スタッフは,第1審被告が各期に指示する業務従事地域において,目標数の達成のため,第1審被告の指定する業務内容を履行しなければならないのであって,当該地域において契約期間中継続して業務を行うものではなく,当該地域において排他的に上記業務を行っているものでもない。したがって,地域スタッフには,自らの独立した経営判断に基づいてその業務内容を差配して収益管理を行う機会が実態として確保されているとはいえない。このような諾否の自由のない労働関係は,労働契約上の指揮命令関係に該当する。
(イ)業務遂行上の指揮監督の有無について
a 第1審被告は,地域スタッフの稼働日・稼働時間を業務計画表の提出やナビタンの記録によって把握し,稼働日数を増やしたり,夜間や土曜日・日曜日に稼働するよう指示しており,そのため,業務量は,1か月22日前後,1日8時間前後の就労を確保する必要が生じる上,地域スタッフの訪問地域は第1審被告の指定する業務従事地域に厳格に限定されているから,地域スタッフに対する業務遂行上の指揮監督の程度は,裁量労働制の労働者や,外回り営業やタクシー運転手などの労働者に比べて厳しいというべきである。なお,第1審被告に地域スタッフに対する人事権や懲戒権がないとしても,そのことは,地域スタッフの労働者性を否定する要素とはならない。
b 地域スタッフが第1審被告の指導等に従わないことにより警告書を交付されたりてん末書を提出した場合には,報奨金のランクが下げられ,経済的な不利益を受けるし,特別な経済的不利益があるか否かは労働者性の判断とは関係がない。また,地域スタッフが第1審被告の目標数達成という指示に付随した指導等に従わなかった場合には,不利な業務従事地域が割り当てられ,特別指導やそれに伴う受持数削減措置の対象となり,自己の受持地域に他の地域スタッフが投入され,契約を解約される可能性がある。さらに,第1審被告の行う研修等への参加は任意とされるが,研修等に参加しなければ地域スタッフ業務を行うことはできず,参加を断る者はいない。
c 第1審被告は,地域スタッフが受領した受信料を翌日までに第1審被告に入金しないことを理由に警告書を交付したり,てん末書を提出させたりしている上,報奨金の減額事由としているところ,これは一種の懲戒権の行使にほかならない。
(ウ)勤務場所・勤務時間に関する拘束性の有無について
地域スタッフの勤務場所は,第1審被告が各期に指定する業務従事地域に限定され,外回りの営業社員と比較しても厳しく限定されている。また,勤務時間についても,業務の性質上,顧客の在宅時間帯に従事することが要請されている上,第1審被告が決定する目標を達成しようとすると,通常の労働者の月間稼働日数と同じ程度の時間の就業が必要であり,第1審被告が指定する活動の日に出席しなかった場合や,訪問時間や訪問日等の指導や帯同指導を拒否する場合には地域スタッフに不利益が生じるから,地域スタッフの場所的時間的拘束性は相当に強い。
(エ)代替性の有無について
本件契約書には,地域スタッフは再委託ができるとの規定はあるが,第1審被告が提出する書証(乙84)によっても,再委託者の割合は1%をはるかに下回り,実際の再委託先の多くは家族であって,地域スタッフが病気等の際に家族が緊急避難的に対応しているものに過ぎないし,第1審原告が所属した乙営業センターにおいて再委託を行っている地域スタッフはおらず,自由に再委託できるという実態は存在しない。地域スタッフが再委託をしても別の業務従事地域は交付されず,当該地域スタッフは無収入となるから,実際には再委託はあり得ない。上記規定が存在するからといって,代替性があるとはいえない。
(オ)報酬の労務対償性について
地域スタッフは,第1審被告から出来高給に反映しない業務も指示されており,報奨金のように,出来高に比例せず,警告書を交付されたりてん末書を提出した場合に減額されるものもある。
出来高給は,労働基準法においても賃金の支払方法の一つとして規定されており(27条),それ自体が報酬の労務対償性を否定するものではない。賃金の後払と評価されるべきせん別金や,労働災害における休業補償金に対応する傷病給付金が存在する。これらに照らすと,報酬の労務対償性が認められる。
(カ)専属性の程度について
地域スタッフは,業務計画表において,1か月に22~23日の業務を行うことが予定されており,実際に,専業で行っている者が大半であったから,専属性も認められる。
イ 第1審原告の本件更新申込みに対する第1審被告の拒絶は,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であるとはいえない。その理由は,以下のとおりである。
(ア)第1審被告は,本件更新申込みに対する拒絶の理由として,第1審原告の成績不良を挙げる。
しかし,①100%の達成率を目指して合理的に算出しているとされる年間地域目標の実際の達成率が低調であることからすると,上記目標の設定自体に合理性がないというべきであること,②平成21年度第2期から平成24年度第2期までの間に,第1審被告が乙営業センターの同一種別の地域スタッフにおける目標達成率の順位が最下位であったことは6期に過ぎず,上記6期のうち4期は4~6人中最下位という少数の中での順位であるし,残りの11期では,第1審原告よりも達成率の低い者も多数存在しているから,第1審原告の業績が他の地域スタッフと比べて特に低調というわけではないこと,③平成21年度第5期から平成22年度第3期までの間に第1審原告に交付された業務従事地域は,第1審原告以外の地域スタッフの目標達成率も80%を下回っており,業績を上げることが困難な地域であるところ,このような地域を5期連続で割り当てるという業務従事地域の不公平な交付がされていること,④第1審原告は,平成24年4月からうつ病の自覚症状があり,同年度第2期の目標達成率が47.8%にとどまるのはうつ症状が原因であることからすると,第1審原告が他の地域スタッフに比べて著しく成績不良であったとはいえない。
(イ)原判決は,第1審原告が,平成24年5月から7月にかけて第1審被告の職員が行った指導・助言に素直に従う姿勢を見せなかったと判断したが,第1審原告は上記の時期にはうつ症状を発症していたところ,上記職員は,第1審原告に精神疾患の病歴があることを知りながら,マニュアル通りの指導を行うだけであったものである。第1審原告において帯同指導を拒否した事実もなく,原判決の上記判断は誤っている。
(ウ)第1審原告が復職を申し出た平成25年1月4日以降は,業績が回復する可能性が十分あった。
ウ 第1審被告は,平成22年10月の体制変更に先立つ平成21年6月からブロック表の開示を拒否している。ブロック表の開示は,地域スタッフの勤務時間や営業成績を左右する労働条件である業務従事地域の割当てに係る義務的団体交渉事項であり,第1審被告にはその割当ての公平性について本件支部と誠実に交渉する義務があるが,第1審被告は,同月以降,さしたる理由もなく誠実な団体交渉を行っていないから,本件支部を嫌悪するという不当労働行為意思が存在したというべきである。しかるところ,上記不誠実団交の状態は,本件中途解約まで継続していたから,本件中途解約も上記不当労働行為意思の下でされたものである。第1審被告は,同月以降,上記不当労働行為意思の下,第1審原告を一方的に契約開発スタッフに種別変更し,第1審原告に不利な業務従事地域を割り当て,その結果,第1審原告は十分に稼働することができず,取次件数を上げることができなくなると,これを理由にキュービットも貸与しなくなり,さらには業績悪化を理由として特別指導や本件中途解約をするに至ったものであるから,第1審被告の上記の一連の行為は,不当労働行為である。したがって,慰謝料請求が認められるべきである。
(3)第1審被告の当審における主張
本件契約に労働契約法17条1項を類推することはできず,本件中途解約は有効である。その理由は,以下のとおりである。
ア 本件契約に労働契約法17条1項を類推適用することは,委託契約の沿革,趣旨や従前の裁判例及びそれらに基づく運用に反しており,法的安定性の観点から認められるべきでない。
イ 原判決は,地域スタッフは第1審被告の業務従事地域の指示(具体的な仕事)に対して諾否の自由を有しないことを労働契約法の類推適用の基礎となる事情として挙げる。しかし,業務従事地域は,1万1000~1万3000世帯からなる広範な地域であり,具体的な仕事の依頼ではないから使用従属関係を認める根拠にはならず,労働契約法を類推適用する基礎にはならない。
ウ 原判決は,典型的な請負や委任では見られないほどの手厚い報告・指導体制があるから「広い意味での指揮監督関係」があるとして,これを労働契約法の類推適用の基礎となる事情として挙げる。しかし,原判決が上記指揮監督関係の存在を認定する根拠とする第1審被告の研修やロールプレイング形式の練習,目標数の設定と業務計画表の作成・修正の指導・助言,ナビタンによるデータ送受信と来局による報告・指導・助言等,特別指導の存在は,いずれも指揮監督関係の存在を認める根拠となるものではない。
エ 原判決は,地域スタッフの報酬に一定時間労務を提供したことに対する対価と評価される側面があることを,労働契約法の類推適用の基礎となる事情として挙げる。しかし,地域スタッフの報酬は,運営基本額,大都市圏加算額,講習事務費を含めて業務の実績・成果に応じて支払われる出来高払いであり,一定時間労務を提供したことに対する対価ではない。
オ 原判決は,地域スタッフは再委託をすることは容認されているものの,地域スタッフ全体に占める再委託者の割合は2%前後と少なく,第1審原告は再委託を行っていないことを労働契約法の類推適用の基礎となる事情として挙げる。しかし,再委託が容認されていることを指揮監督関係を否定する要素の一つとして認める一方で,再委託者の割合を労働契約法の類推適用の基礎事情とするのは不当であるし,第1審原告が再委託をしていない事実は,労働契約法を類推適用する基礎となる事情にはならない。
カ 原判決は,地域スタッフの事業者性が弱いことを労働契約法の類推適用の基礎となる事情として挙げる。しかし,ナビタン等の地域スタッフに貸与している物品は,業務遂行上統一されていることが望ましいもの,一般に入手しがたいもの,受託者の便宜を図る廉価なものに過ぎないこと,地域スタッフの業務を担当する第1審被告の職員はおらず,地域スタッフの中には,年間1000万円以上の高額の報酬を得ている者も少なからず存在すること,地域スタッフは移動に必要な自動車等は自己所有の物を使用し,ガソリン代等も自己負担していること,地域スタッフは兼業や再委託が可能であることなどからすると,地域スタッフの事業者性が弱いとはいえない。
キ 第1審原告が本件契約を解約されたのは,業績がきわめて低調で,第1審被告の適切な助言も聞き入れず,業績の回復に向けた努力も怠ったためであり,かつ,その手続も,長い期間を経て,他の地域スタッフ全員に適用される丁寧かつ合理的な方法で行われたのであるから,第1審原告にだけ例外的に労働契約法を類推適用してまで保護する必要性や,他の地域スタッフと異なる有利な取扱いをすべき合理性はない。
ク 労働契約法の類推解釈を安易に認めると,使用者の指示等に従う必要がなく,自らの判断で自由に業務を行えるにもかかわらず,契約期間中の解約はほとんどされることがないということになり,通常の労働者との均衡を失する結果となる。労働契約法の類推適用には慎重な検討が必要である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件中途解約の有効性)について
当裁判所は,第1審原告は労働契約法上の労働者に該当せず,本件中途解約について労働契約法17条1項は適用も類推適用もされないところ,本件中途解約について,第1審原告の主張する①公序違反(不当労働行為),②本件契約の解約制限条項違反,③信義則違反はいずれも認められず,本件中途解約は有効であると判断する。その理由は,以下のとおりである。
(1)労働契約法上の労働者性の判断基準
労働契約法上の労働者性の判断基準については,原判決34頁7行目から35頁7行目までに記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決35頁4行目の「,損害に対する責任,商号使用の有無等」を削る。)。
(2)第1審原告は労働契約法上の労働者に該当するか上記(1)において改めた上で引用した原判決第3の1(1)イの判断基準により,第1審原告が労働契約法上の労働者に該当するか否かについて検討する。
ア 仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
前記第2の2において改めた上で引用した原判決第2の1の前提事実(以下「前提事実」という。)(3)アによると,第1審被告は,地域スタッフに対し,業務従事地域として,期ごとに本件契約書2条に定められた受持区域内の6~8ブロック程度を組み合わせた地域を指定しており,各ブロックを構成する地域Aごとに契約取次等の目標数が予め設定されていて,業務従事地域の指定は,目標数の設定を伴うこととなるものと認められる。そして,証拠(証人W1(原審),同W2(原審))によると,第1審被告は,業務従事地域を指定するに際し,地域スタッフと個別に協議することはないことが認められる。
しかし,前提事実(3)アによると,第1審被告が第1審原告に交付した業務従事地域は,約6000世帯以上の世帯が存する規模のものであり,当該世帯のうち第1審被告と契約をしている世帯は概ね6割に満たないところ,目標数は,当該業務従事地域に存する世帯数の2%に満たない契約取次件数を2か月で確保するというものであることが認められる。そして,地域スタッフは,本件契約書6条に基づき第1審被告が設定した目標数を達成するように業績確保に努める義務を負っているものの,本件契約上,地域スタッフに業務従事地域の特定の世帯を訪問する義務が課されているわけではなく,訪問する先や日時を自らの裁量で決定することができるものと認められる。これらの事実に照らすと,第1審被告が各期に業務従事地域を指定し,目標数を設定することは,第1審被告が第1審原告ら地域スタッフに対して,包括的に業務を委託していると評価することができ,具体的な仕事の依頼や業務従事の指示等ということはできない。したがって,第1審被告が上記の地域指定や目標数の設定をすることをもって,第1審原告に具体的な仕事の依頼や業務従事の指示等に対する諾否の自由がないと認めることはできない。
その他,本件契約について,第1審原告に具体的な仕事の依頼や業務従事指示等について諾否の自由がないと認めるに足りる証拠はない。
なお,地域スタッフがある業務従事地域において契約期間中継続して業務を行うことはなく,排他的に業務を行うものではないとしても,上記の判断が左右されることはない。
イ 業務遂行上の指揮監督の有無
(ア)前提事実(3),(4),証拠(甲7,10,11,甲16の1~10,甲17の1・2,甲22,25,52,乙24,25,証人W3(原審),同W1(原審),原告本人(原審))及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
a 第1審被告は,新規委託契約を締結した地域スタッフに対し,約半年間の新規委託期間において基礎講習や実務指導を行い,新規委託期間を経過して委託契約を締結した後も,月初めには,局・センターにおいて,ビデオ上映による研修やロール・プレイング形式の練習を実施するなどしている。
b 第1審被告は,地域スタッフに対し,期ごとの目標数を達成させるための業務計画表を毎月作成させ,その内容が目標数の達成に不十分と認めた場合には,これを修正するように指導・助言を行うことがある。
c 業務計画表には,目標数や一斉デー(第1審被告が特定の日時に特定の営業活動を推奨する日であり,「9時からデー」,「BS契変デー」などがある。)等の特定の活動日が予め印刷されているが,地域スタッフは,自己の裁量で稼働日と週ごとの目標数を割り付けて記入することができ,また,一斉デー等に参加しないことによって,第1審被告から不利益を課せられることはない。
d 地域スタッフは,自ら訪問する区域を決定し,訪問ルートを決定する裁量を有している。
e 地域スタッフは,第1審被告に対し,稼働した日ごとにナビタンにより1日の業務報告を送信するほか,週の初日には局・センターに出向いて業務報告を行い,同日から6~7日後の中間連絡日には,電話又はファクシミリで業務報告を行うものとされている。第1審被告は,これらによって,地域スタッフの稼働状況を把握し,地域スタッフに対し,目標達成のための指導・助言を行っている。そして,第1審被告は,業績不振者に対しては,稼働日数を増やしたり,夜間や土曜日・日曜日に稼働したりするように指導・助言を行うこともある。
f 第1審被告は,地域スタッフが,特別の事情がないにもかかわらず,当期の目標数の80%に達しない期が連続して3期以上続くとき,又は当期の目標数の60%に達しないときは,当該地域スタッフに対し,特別指導を実施している。特別指導においては,来局回数を増やして指導の機会を増やすほか,第1審被告の職員等が地域スタッフに対し実地で手本を示して指導を行う「帯同指導」が行われ,また,ステップ3に進むと,受持数の削減が行われることもある。
g 第1審被告は,地域スタッフが上記の指導・助言や特別指導に応じなかったとしても,これをもって,当該地域スタッフに対し,債務不履行責任を問うたり,経済的不利益を課したりするようなことは行っていない。
h 地域スタッフに支給される事務費及び給付は,訪問件数,契約取次数,目標達成率等に応じて金額が客観的に決まっており,月額事務費のうちの業績加算額及び報奨金のうちの上・下半期業績加算を除き,第1審被告の裁量により左右される部分はない。業績加算額及び上・下半期業績加算についても,視聴者からの苦情等により警告書が交付されたりてん末書の提出がされることになった場合に目標達成率の区分が下げられることがあるにとどまり,単に第1審被告の指導・助言に従わないことを理由として減額されることはない。
(イ)上記(ア)で認定したとおり,第1審被告は,地域スタッフに対し,継続的に指導・助言を行う体制を敷いているが,地域スタッフが第1審被告の指導・助言や特別指導に応じなかったとしても,そのために債務不履行責任を問われたり,経済的不利益を課されたりすることはなく,稼働日,稼働時間,訪問区域,経路等は,地域スタッフの裁量に基づき決定されている。したがって,地域スタッフが,業務の内容及び遂行方法について第1審被告の具体的な指揮命令すなわち業務遂行上の指揮監督を受けているということはできない。
(ウ)これに対し,第1審原告は,地域スタッフの業務量やその訪問地域が限定されていることに照らすと,地域スタッフに対する業務遂行上の指揮監督の程度は,裁量労働制の労働者や,外回り営業やタクシー運転手の業務に従事する労働者に比べて厳しいと主張する。しかし,地域スタッフが業務上の指揮監督を受けているということができないことは,上記(イ)で認定したとおりであって,一定の業務量を確保する必要が生じたり,訪問地域が限定されているとしても,この判断が左右されることはない。
(エ)第1審原告は,第1審被告の指導等に従わないことにより警告書を交付されたりてん末書を提出した場合には,報奨金のランクが下げられ,経済的な不利益を受けると主張するが,前記(ア)hのとおり,警告書の交付やてん末書の提出は,視聴者からの苦情等により行われるものであって,第1審被告の指導等に従わないことにより行われるとは認められない。
(オ)第1審原告は,地域スタッフは,第1審被告の業務従事地域における目標数達成という指示に付随した指導等に従わなければ,不利な受持区域を割り当てられたり,自己の受持区域に他の地域スタッフが投入される可能性があると主張する。
しかし,地域スタッフに対し,第1審被告の指導・助言に従わないことにより不利な業務従事地域の割当てがなされる事実を認めるに足りる証拠はないし,地域スタッフが第1審被告の指導・助言に従わないため,当該地域スタッフの業績が悪くないにもかかわらず,当該地域スタッフが担当する業務従事地域に,他の地域スタッフが投入されることがあるとの事実を認めるに足りる証拠もない。
(カ)第1審原告は,地域スタッフは,第1審被告の業務従事地域における目標数達成という指示に付随した指導等に従わなければ,特別指導やそれに伴う受持数削減措置,委託契約の解約という不利益を受ける可能性があると主張する。
しかし,第1審被告の指導・助言に従わないことから直ちに委託契約が解除されることがあることを認めるに足りる証拠はない。また,特別指導は,第1審被告の指導・助言に従わなかったことを理由に実施されるのではなく,所定の目標数に達しなかったことを理由として実施されるものであるし,特別指導のステップ3において行われる受持数削減の措置は,地域スタッフにとって,目標数が低くなることによる目標達成率改善の可能性が高まる措置であり,必ずしも不利益な取扱いとしての実質を有するとはいえない。
(キ)第1審原告は,第1審被告の行う研修等への参加は任意とされるが,参加しなければ地域スタッフ業務を行うことはできないと主張する。上記研修等が地域スタッフ業務にとって有益なものであり,地域スタッフ業務を行うためには研修等に参加することが必要であったとしても,それに参加するかどうかはあくまでも任意であったのであるから,業務遂行上の指揮監督があると認めることはできない。
(ク)第1審原告は,第1審被告が,地域スタッフの受領した受信料を翌日までに第1審被告に入金しないことを理由に警告書を交付したり,てん末書を提出させ,報奨金の減額事由としていると主張する。しかし,前提事実(4)イ及び弁論の全趣旨によると,地域スタッフが,顧客から受け取った現金を翌日中(土日を除く。)に第1審被告に振り込むことは,本件契約上の義務とされているところ,上記の義務は,受任者による受取物の引渡しに関する義務であると解することができるから,上記の取扱いから業務遂行上の指揮監督があると認めることはできない。
(ケ)したがって,上記(ウ)~(ク)の第1審原告の主張は,地域スタッフが業務遂行上の指揮監督を受けているということができないとの上記(イ)の判断を左右するものではない。
ウ 勤務場所・勤務時間に関する拘束性の有無
(ア)前提事実(2),(4),証拠(甲52,乙19~21,34,証人W3(原審))及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
a 地域スタッフの業務の開始・終了時刻及び休憩時間は,本件契約に定められておらず,地域スタッフの裁量に委ねられている。なお,本件契約は,裁量労働制のみなし労働時間のような定めも置いていない。
b 第1審被告は,地域スタッフに対し,「9時からデー」,「BS契変デー」等の一斉デーを定め,特定の活動の日を定めてこれに従った業務を行うように推奨しているが,これに参加しない地域スタッフも一定数存在し,これに参加しなかったとしても,不利益を課すことはしていない。
c 地域スタッフが局・センターへ出向くのは,特別指導を除けば,基本的に週の初日(月3回)のみである。
d 各地域スタッフの1日の稼働時間及び1か月の稼働日数は,各人によって区々である。
e 地域スタッフは,第1審被告が指定した業務従事地域の範囲内において,自ら訪問する区域を決定し,訪問ルートを決定する裁量を有している。
f ナビタンは,実際の操作時間が記録されるにとどまり,業務スタッフの業務従事の時間や訪問経路を記録するものではない。
g 第1審被告は,業績不振の地域スタッフに対して,稼働日数を増やしたり,夜間や土曜日・日曜日に稼働したりするように指導・助言を行うことがあり,また,特別指導の対象者に対しては,帯同指導を行っているが,これらの指導に従わない者に対して,そのことを理由に不利益を課すようなことはしていない。
(イ)以上の認定事実によると,地域スタッフの勤務場所・勤務時間に関する拘束性は極めて緩やかであるということができる。
(ウ)第1審原告は,地域スタッフは第1審被告が指示する稼働時間数及び稼働日数を確保しなければならず,これを確保していなければ,第1審被告から業務計画表作成時や報告時に修正を求められるから,相当程度の時間的拘束性があると主張する。しかし,第1審被告が,地域スタッフに対し,目標数の達成に必要な稼働日数・時間数を確保するように業務計画表を作成することなどを求めたとしても,地域スタッフは,業務計画表等のとおりに稼働する義務はないから,第1審被告の指導・助言自体に時間的拘束性があるとはいうことはできない。
また,第1審原告は,勤務場所が第1審被告の指定する業務従事地域に限定されているとか,業務の性質上,顧客の在宅時間帯に業務に従事する必要があり,目標を達成しようとすると,通常の労働者の月間稼働日数と同じ程度の時間の就業が必要であると主張するが,これらの事情は,上記(イ)の判断を左右するものではない。
エ 代替性の有無
(ア)前提事実(2),証拠(乙32,35~61,乙84の1~165)及び弁論の全趣旨によると,本件契約書4条は,地域スタッフが自己の責任と計算において委託業務の全部又は一部を第三者に再委託することができることを定めており,乙営業センターや廃止前の甲営業センターを含む局・センターにおいても,上記規定に基づく再委託の実績があることが認められる。したがって,本件契約上,委託業務の再委託は容認され,委託業務の代替性が認められているというべきであり,このことは,本件契約における指揮監督関係を否定する要素の一つになる。
(イ)第1審原告は,乙営業センターにおいて,本件契約書4条の定めにもかかわらず,地域スタッフが自由に再委託できるという実態は存在しないと主張するが,第1審原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。また,第1審原告は,再委託者の割合は1%をはるかに下回り,地域スタッフの家族が緊急避難的に対応しているものに過ぎないとも主張するが,再委託者の割合が多くはなく,家族に再委託する例があるとしても,本件契約において委託業務の代替性が認められているとの上記判断を左右するものではない。
オ 報酬の労務対償性
(ア)前提事実(5)及び証拠(甲5)によると,地域スタッフに対する報酬について,次のようにいうことができる。
a 月例事務費中の月額事務費のうち運営基本額は,取次実績と訪問件数によって金額が変わり,取次実績又は訪問件数が0件であると支払われないのであるから,出来高払いであるということができる。
b 月例事務費のうち大都市圏加算額,業績加算額及び業績基本額は,運営基本額が支払われない場合は,支払われない上,業績加算額及び業績基本額は,業績に応じて支払われ,業績加算額は,業績以外のものが加味されることがあるが,それは例外的なものであるから,これらも基本的には出来高払いであるということができる。
c 月例事務費のうち単価事務費は,業績に応じて支払われるから,出来高払いである。
d 平均事務費は,月例事務費の額に基づいて支払われるものであるし,上・下半期業績加算は,業績に応じて支払われ,業績以外のものが加味されることがあるが,それは例外的なものであるということができ,さらに,業務精励加算は,運営基本額が一定金額以上等の条件を満たした場合に支払われるから,これらは基本的に出来高払いであるということができる。
e 対策関係事務費,乗車賃,宿泊料は,業績と関係なく一定額が支払われるが,その性質上,一定額の支給になじむものであるということができる。
(イ)上記(ア)で判示したところによると,地域スタッフの報酬は,その性質上,一定額の支給になじむものを除いて,基本的に出来高払いであるということができる。そして,前提事実(5),証拠(甲52)及び弁論の全趣旨によると,地域スタッフの報酬について,業務に従事した時間を基礎として支払額が決定される仕組みは採用されておらず,欠勤した場合の報酬の控除や,残業をした場合に手当を支給する仕組みもないことが認められる。したがって,報酬の労務対償性は乏しいということができる。
(ウ)第1審原告は,事務費の基本部分である運営基本額は,通常に稼働すれば15万円を確保することは容易である,地域スタッフには出来高給に反映しない業務の指示もされている,出来高に比例しない事務費が存在すると主張するが,報酬については,上記(イ)で判示したとおりであり,第1審原告の主張を考慮しても,労務対償性は乏しいということができる。
また,第1審原告は,賃金の後払と評価されるべきせん別金,労働災害における休業補償金に対応する傷病給付金が存在すると主張するが,せん別金や傷病給付金などの給付は,直ちに労働又はその結果に対する対価とはいい難い上,証拠(甲5)によると,月例事務費の額が反映されるもの(特別せん別金,傷病給付金など)もあることが認められる。
カ 事業者性の程度
前提事実(2),(4)アのとおり,第1審被告は,地域スタッフに対し,本件契約書10条に基づき,ナビタン等の携帯端末や業務に必要な書式用紙その他特に必要と認める物品を貸与しているが,他方,証拠(甲52,乙32,証人W1(原審),証人W2(原審),第1審原告本人(原審))及び弁論の全趣旨によると,地域スタッフは,顧客を訪問する際の交通費は自ら負担していることが認められる。
キ 専属性の程度
証拠(甲1,乙32~34,70)及び弁論の全趣旨によると,本件契約書には,地域スタッフの兼業・兼職を禁止又は制限する条項はなく,実際にも兼業している者がいることが認められる。
ク その他の要素
証拠(乙32)及び弁論の全趣旨によると,①第1審被告は,地域スタッフに報酬を支払う際,所得税法204条1項4号に基づき集金人の報酬として源泉徴収を行っており,給与所得としての源泉徴収を行っていないこと,②地域スタッフは労働保険の適用対象とされていないこと,③第1審被告の就業規則は,地域スタッフには適用されないことが認められる。
ケ 小括
以上検討したところによると,地域スタッフについて,上記ア~クのいずれの要素についても,使用従属性の存在を認める方向の事実は認められず,地域スタッフの第1審被告に対する使用従属性を認めることはできない。したがって,第1審原告が,労働基準法及び労働契約法上の労働者であるということはできないし,本件契約に労働契約法が類推適用されるということもできない。
(3)公序違反(不当労働行為)の有無
ア 第1審原告は,地域スタッフが労働組合法上の労働者に該当することを前提に,本件中途解約は,前記第2の4において改めた上で引用した原判決第2の3(1)イ(イ)の第1審原告の主張に記載の不当労働行為に該当するから,民法90条により無効であると主張する。
イ しかし,当裁判所は,仮に第1審原告が労働組合法上の労働者に該当するとしても,上記不当労働行為の成立は認められないと判断する。その理由は,後記ウのとおり当審における第1審原告の主張に対する判断を加えるほかは,原判決58頁24行目から61頁18行目までに記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決59頁5行目から6行目にかけての「業務成績の平均は,目標数を上回っているか,又は目標数を下回っていても少なくとも調整後の中間業績水準を上回っていた」を「総数取次業務の目標達成率の平均は,平成22年度第4期以降はいずれも目標数の80%を上回っており,同年度第3期以前は,いずれも68%を上回り,調整後の中間業績水準を上回っていた上,第1審原告の目標達成率よりも23%以上高い数値であった」と改める。)。
ウ 第1審原告は,当審において,第1審被告は,平成21年6月からブロック表の開示を拒否し,誠実な団体交渉を行っていないから,本件支部を嫌悪する不当労働行為意思が存在したと主張し,これを前提に,同月以降,第1審被告が行った各種の行為が不当労働行為になると主張する。本件支部は,平成23年に,大阪府労働委員会に対し,本件支部が同年11月2日付けで行った団体交渉申入れに対し,第1審被告が外部の者であるとする者の出席を理由として団体交渉を拒否したこと等が不当労働行為に該当するとして救済を求める申立てをし,平成25年7月20日に大阪府労働委員会において上記団体交渉の拒否は不当労働行為に当たると認められ,平成27年11月4日,中央労働委員会において第1審被告の再審査申立ては棄却されたが(甲27,58),これは,第1審原告が本件において主張する不当労働行為とは異なる行為についての判断であって,第1審被告が平成21年6月から誠実な団体交渉を行っていないと認めることはできず,本件において第1審原告が主張する各種の行為が不当労働行為に当たらないことは,上記イにおいて原判決を改めた上で引用して判示したとおりである。したがって,第1審原告の上記主張を採用することはできない。
(4)本件契約の解約制限条項違反の有無
第1審原告は,事業費・給付のあらましは,休業見舞金に関し,地域スタッフは,業務外の傷病による休業が同一傷病につき6か月以内である限り,解約されないと定めているところ,本件中途解約は,上記定めに違反し無効であると主張する。
しかし,前提事実(5)イ,(6)及び証拠(甲5)によると,休業見舞金に係る解約猶予期間の定めは,業務外の傷病を理由として業績を上げられない場合に解約を猶予することを内容とするもので,他の理由による解約を制限するものではないと解される。しかるところ,前提事実(6)のとおり,第1審原告は,平成23年4月4日に抑うつ状態の診断を受け,同日から同年8月3日まで休業しているが,同月4日から業務に復帰し,同月9日を最後に約1年間通院していないこと,前提事実(6)のとおり,第1審原告は,平成24年7月25日にうつ病の診断を受けているが,本件契約を解約する旨の予告がされた7日前のことであり,同年9月1日に本件中途解約がされていること,第1審原告は,同年7月24日にPクリニックにおいて4日前から不眠と述べていること(乙66,80)に照らすと,同月24日よりかなり前からうつ病の症状が存したとは認められないこと,その他,第1審原告について業績を低下させる傷病が存したことを認めるに足りる証拠はないことからすると,本件中途解約の理由とされる業績不良が傷病を原因とするものであると認めることはできない。したがって,本件中途解約が,休業見舞金に係る解約猶予期間の定めに抵触するということはできないから,第1審原告の上記主張を採用することはできない。
(5)信義則違反の有無
ア 前提事実(6),証拠(乙8,9,24,71,72,乙73の1~4,乙74の1~4,証人W3(原審),同W4(原審))及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(ア)第1審原告は,平成21年度第3期から平成22年度第1期まで連続5期(10か月)にわたり特別指導のステップ1の,同年度第2期から同年度第3期まで連続2期(4か月)にわたりステップ2の,同年度第4期から平成24年度第2期まで連続11期(22か月)にわたりステップ3の対象者とされた。
(イ)第1審原告の上記(ア)の期間の業績の推移は,原判決別紙4「原告の業績推移表」記載のとおりである。
(ウ)第1審原告は,平成23年4月1日の本件契約の更新に際し,第1審被告に対し,①目標達成に向けて誠実に委託業務を遂行する,②同年度第1期は,少なくとも最低業績水準以上の業績を確保する,③その後も,毎期業績最低水準以上の業績を確保し,2期連続して中間業績水準を下回らないよう毎期業績の向上に努める,④上記①~③の改善を果たすため,業務計画表に基づいて誠実に委託業務を遂行することを誓うとともに,これに反したときは,本件契約書15条2項により本件契約が解約されても異議を述べない旨を約束する本件誓約書(乙9)を提出した。
(エ)平成24年度第2期における第1審原告の最低業績水準(調整後のもの。以下同じ。)は,総数取次業務及び契約同時口座取次業務30件,衛星取次業務15件であったところ,第1審原告の業績は,総数取次業務及び契約同時口座取次業務9件,衛星取次業務5件であり,最低業績水準を大幅に下回った。
第1審被告の担当者は,同年5月から同年7月にかけて,第1審原告に対し,稼働時間が少ないこと,稼働開始が遅いため時間を有効に使えていないことなど指摘するとともに,午前中等の好適時間の活用,全戸点検(全ての未契約の家や事業所を先入観なく訪問する活動),稼働量の確保等を求める指導・助言を行った。これに対し,第1審原告は,自己の稼働量が少ないことを認めるものの,「組合がらみで(稼働量を)確保できていない」,「忙しかった」,「家が遠く,M字対策(一日のうち午前中と夕方以降の在宅率の高い時間帯を訪問する営業活動)はするつもりはありません」,「(契約取次を)とれる気がしない,取次計画が描きづらい」などと述べて,午前中に訪問をすることについては消極的であり,また,同年6月19日と同年7月2日(いずれも業務計画表では休みの予定とはされていなかった)の帯同指導を拒否した。第1審原告が上記期間において契約取次等の訪問活動に従事した時間(ただし,これは,ナビタンに入力した情報から推測される活動時間であり,全稼働時間ではない。)は,平均すると1日4,5時間程度であった。
イ 上記認定事実のとおり,第1審原告は,①平成21年度第3期から平成24年度第2期までの3年間にわたり,業績不良のため特別指導の対象者とされていたこと,②平成23年4月の契約更新に際し,本件誓約書を提出したが,その後も総じて業績が低迷していたこと,③第1審被告の職員の指導・助言に対して素直に従う姿勢を見せなかったことを総合考慮すると,第1審原告が平成9年1月から15年以上にわたり地域スタッフとして稼働し,平成11年4月以降3年ごとに契約更新を重ねてきたという経緯があることを踏まえても,第1審被告において,本件契約書15条2項に基づき本件中途解約をすることが信義則に反するということはできず,本件中途解約は有効である。
ウ(ア)これに対し,第1審原告は,第1審原告が他の地域スタッフに比して業績不良であったわけではないと主張する。しかし,証拠(乙71)及び弁論の全趣旨によると,第1審原告が特別指導の対象とされていた期間(平成21年度第3期から平成24年度第2期まで)の乙営業センターの同一種別の地域スタッフにおける第1審原告の目標達成率の順位は,原判決別紙5「目標達成率順位表」記載のとおりであると認められ,これによると,第1審原告の業績は,平成21年度第4期以降,乙営業センターの同一種別の地域スタッフの中で常に低位にあったといえるから,第1審原告の上記主張を採用することはできない。
(イ)第1審原告は,上記(ア)の主張に関連して,第1審被告の目標設定自体に合理性がないとか,業績を上げることが困難な地域を連続して割り当てられたとも主張するが,第1審原告が担当した期の前後の期に第1審原告と同じ業務従事地域を担当した地域スタッフの総数取次業務の目標達成率の平均は,平成22年度第4期以降はいずれも目標数の80%を上回っており,同年度第3期以前は,いずれも68%を上回り,調整後の中間業績水準を上回っていた上,第1審原告の目標達成率よりも23%以上高い数値であったこと(乙64の1~4)に照らすと,第1審原告の上記主張は,上記イの判断を左右するものということはできない。
(ウ)第1審原告は,平成24年4月以降の業績の低さは,うつ症状の影響によるものであると主張するが,この主張が認められないことは,前記(4)で判示したとおりである。また,第1審原告は,本件誓約書は第1審被告の職員に脅されて提出したと主張し,甲49(第1審原告の陳述書)には,その旨の記載があるが,これのみで上記主張を認めることはできず,他に上記主張を認めるに足りる証拠はない。
(6)小括
以上によると,第1審原告は労働契約法上の労働者に該当せず,本件中途解約について労働契約法17条1項は適用も類推適用もされないところ,本件中途解約について,第1審原告の主張する①公序違反(不当労働行為),②本件契約の解約制限条項違反,③信義則違反はいずれも認められず,本件中途解約は有効である。
2 争点(4)(不法行為による損害賠償請求の当否)について
第1審原告は,前記第2の4において改めた上で引用した原判決第2の3(1)イ(イ)の第1審原告の主張に記載の不当労働行為や本件中途解約は不法行為を構成すると主張するが,上記1で認定したとおり,第1審原告が主張する不当労働行為の成立は認められないし,本件中途解約も有効であるから,第1審原告の上記主張は採用することができない。
3 結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,第1審原告の本件請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり,これと異なる原判決は,第1審被告の控訴に基づきその敗訴部分を取り消して,その部分についての請求を棄却し,第1審原告の控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 大西忠重 裁判官 大畑道広)