大阪高等裁判所 平成28年(行コ)130号 判決 2016年10月14日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,Aに対し,85億9693万3000円を支払うよう請求せよ。
第2事案の概要
本件は,堺市の住民である控訴人らが,堺市が清掃工場の新設等の事業につき,平成24年度の循環型社会形成推進交付金及び震災復興特別交付税として合計85億9693万3000円の交付を受け,これを上記事業に支出したこと(以下「本件支出」という。)が違法であると主張して,堺市の執行機関である被控訴人に対し,本件支出当時の堺市の市長であったAに対し不法行為による損害賠償請求権に基づき,本件支出相当額である85億9693万3000円の支払を請求するよう求める住民訴訟である。
原審が控訴人らの請求を全部棄却したので,控訴人らが本件控訴を提起した。
1 関係法令の定め,前提となる事実等並びに争点及び当事者の主張は,原判決2頁24行目の「容易に」を削り,後記2のとおり当審における控訴人らの主張を加えるほかは,原判決2頁15行目から7頁6行目までのとおりであるから,これを引用する。
2 当審における控訴人らの主張
(1) 本件交付方針は,災害廃棄物の広域処理に利用されることのない施設に復旧・復興枠の交付金を交付するという,交付金の目的外流用を容認するものであり,補助金が公正かつ効率的に使用されることを求める補助金適正化法3条1項に反する。
会計検査院作成の「平成24年度決算検査報告」(甲26)は,「広域処理に係る災害廃棄物の受入可能施設等に対する復旧・復興予算からの循環型社会形成推進交付金の交付は,事業主体において広域処理に係る検討が十分に行われていなかったり,同交付金の交付対象施設において災害廃棄物を受け入れていなかったり,復旧・復興予算からの交付を自ら要望していない事業主体が含まれていたりなどしていて,広域処理の推進のために十分な効果を発揮したのかについては,客観的に確認できない状況となっていた。」として,正当性に疑問を示している(甲26,1088頁)。
(2) 原判決は,一方で,本件交付方針の文理解釈に従い,災害廃棄物の受入れの可否の検討を行ったことで,本件交付方針の「受入条件の検討」は実施したことにはならない旨を認定し,また,その内容に沿う内閣の答弁を認定している。他方で,内閣の答弁と矛盾する,環境省近畿地方環境事務所の廃棄物・リサイクル対策課課長B(以下「B課長」という。)の堺市に対する回答(乙18)が環境省の公式な見解であると認定し,交付方針の「趣旨」により,受入条件の検討を行っていない堺市が交付要件に合致していなかったことを否定している。
仮に,原判決の認定に矛盾がないとすれば,本件交付方針について政府内で何らかの方針変更があったことになるが,その証拠はない。そうすると,原判決は本件交付方針について独自の解釈を行い,文理には合わないが趣旨には反しないというような認定をして,堺市が本件交付方針の条件に合致していなかったことを否定するものである。
堺市は本件交付方針の条件に合致していなかったと認定すべきである。
(3) 原判決は,堺市が,平成23年8月4日に,平成23年度第3次補正予算に係る平成23年度追加交付金調査において,災害廃棄物の受入れが可能となる施設として臨海工場の新設事業を挙げた上で所要額を回答している旨を認定している。しかし,この回答については,その後,平成23年10月31日付で堺市が出した所要額調査(平成23年度第2回)で撤回されている(甲27)。
平成24年1月20日付けの第3次補正予算に係る回答(甲28の1)は,堺市が第3次補正予算を受け入れられないとする理由について記載したものであり,災害廃棄物の広域処理に係る課題について言及しているが,堺市は,その文面では災害廃棄物の受入れについて不可能ではないと判断されることをおそれ,これを大阪府から引き戻した上で,改めて,災害廃棄物の受入れ等について触れない要望書として,平成24年2月6日付けの第3次補正予算に係る回答(甲28の2)を作成した。
以上のように,堺市は,平成24年度のみならず,平成23年度についても,災害廃棄物の受入れとの関係から,復旧・復興枠による交付金を拒んでいた。
(4) 原判決は,B課長が堺市に対して行った回答(乙18)が,環境省の見解に基づくものであると認定している。しかし,この認定は,説明の内容が交付金の運用に関する重要事項であるから,という理由のみに基づくものであり,推測のみに依拠している。控訴人らは,原審においてB課長の証人調べを請求したが,原裁判所は必要ないとして控訴人らの請求を却下した。しかし,B課長の認識について原判決のように認定するのであれば,控訴人らの人証申請を認めて尋問すべきであった。したがって,原審には,審理不尽の違法がある。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所の判断は,後記2のとおり改め,後記3のとおり当審における控訴人らの主張に対する判断を加えるほかは,原判決7頁8行目から15頁14行目までのとおりであるから,これを引用する。
2(1) 原判決7頁15行目から16行目にかけて,同頁24行目,13頁6行目の各「見合わせる」をいずれも「保留する」と改める。
(2) 原判決7頁16行目の末尾に改行の上,次のとおり加える。
「 しかし,堺市は,平成23年10月24日から平成24年6月10日までの間,合計7回,大阪府の災害廃棄物処理指針の策定委員会に関係市として参加し,大阪府による災害廃棄物の受入れや処理の指針の策定について情報収集を行っていた。」
(3) 原判決8頁7行目から8行目までを次のとおり改める。
「回答した。その後,堺市は,災害廃棄物の受入れを前提とした平成23年度第3次補正予算及び平成24年度復旧・復興枠での申請,受入れはできないという理由により,平成23年10月31日付けで提出した所要額調査(平成23年度第2回)の回答において,上記平成23年度の10億9532万8000円を,平成23年度第3次補正予算ではなく,同当初予算における追加要望額に改めた。
(甲27,甲28の1・2,乙1の1~3,乙2,3)」
(4) 原判決9頁25行目の末尾に改行の上,次のとおり加える。
「 堺市では,同月21日,市長及び3副市長が災害廃棄物の広域処理に係る会議を開催し,災害廃棄物を受け入れる場合の課題等について検討した。」
(5) 原判決10頁12行目から13行目にかけての「環境省近畿地方環境事務所の廃棄物・リサイクル対策課課長B(以下「B課長」という。)」及び14頁2行目の「環境省近畿地方環境事務所のB課長」をいずれも「B課長」と改める。
(6) 原判決14頁7行目の「循環型社会形成推進交付金」を「交付金」と改める。
(7) 原判決15頁6行目の「そうすると,」から8行目の「解されず」までを「本件交付方針の文言に照らしても,受入条件の検討を行わなかった場合には常に交付金の返還義務が生ずると解することもできないから」と改める。
3 当審における控訴人らの主張に対する判断
(1) 控訴人らは,本件交付方針が,災害廃棄物の広域処理に利用されることのない施設であっても復旧・復興枠の交付金が交付されることを容認するものであり,補助金適正化法3条1項に反すると主張するが,本件交付方針が補助金適正化法3条1項に反するということができないことは,原判決を引用して判示したとおり(原判決11頁26行目~12頁20行目)である。
なお,会計検査院の「平成24年度決算検査報告」(甲26)には,広域処理に係る災害廃棄物の受入可能施設等に対する復旧・復興予算からの交付金の交付について,広域処理の推進のために十分な効果を発揮したのかについては,客観的に確認できない状況となっていたという記載があるが,会計検査院がそのような指摘をしているからといって本件交付方針が補助金適正化法3条1項に反して違法であるということはできないから,上記の判断を左右するものではない。
したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
(2) 控訴人らは,内閣の答弁(甲14の2)とB課長の堺市に対する回答(乙18)とが矛盾しており,もし矛盾がないとすれば,本件交付方針について政府内で方針変更があったことになるが,そのような証拠はなく,堺市は本件交付方針の条件に合致していなかったと認定すべきであると主張する。
しかし,B課長の堺市に対する回答が内閣の答弁と矛盾するものでないことは,改めた上で原判決を引用して判示したとおり(原判決14頁22行目~15頁9行目)である。内閣の答弁によると,堺市が本件交付金を返還しなければならないということであれば,B課長の堺市に対する回答いかんにかかわらず,政府は堺市に対し本件交付金等の返還を求めるものと考えられるが,堺市が政府から本件交付金等の返還を求められた事実は認められない。かえって,証拠(乙15の1・2)によると,参議院議員Cが,国会法74条に基づき,堺市が災害廃棄物の受入条件の検討を行い,「否」と判断する可能性を示唆していたにもかかわらず,環境省が「交付金の返還が生じるものではない」旨の返答をしたことの妥当性及び本件交付金の交付は違法な復興資金の流用であるから,堺市に対し,本件交付金の返還を求めるべきではないかということを質問したところ,内閣は,堺市への復旧・復興枠の交付金の交付は適正なものであり,返還等は考えていないと答弁したことが認められる。
したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
(3) 控訴人らは,堺市が,平成24年度のみならず,平成23年度についても,災害廃棄物の受入れとの関係から,復旧・復興枠の交付金の交付を拒んでいたと主張する。
しかし,改めた上で原判決を引用して判示した「認定事実」(原判決7頁8行目~11頁17行目)によると,堺市は,平成23年度~平成24年度において,復旧・復興枠の交付金を受けることに消極的であったと見られる事実が存するものの,平成23年10月24日から平成24年6月10日まで大阪府の災害廃棄物処理指針の策定委員会に関係市として参加しており,内閣総理大臣及び環境大臣から災害廃棄物の受入れを要請されて,本件交付金等の交付を受けているのであるから,本件交付金等の交付が本件交付方針の趣旨に反して違法であるということはできない。
(4) 控訴人らは,原審がB課長を証人として取り調べなかったことが審理不尽の違法に当たると主張する。しかし,B課長の堺市に対する回答については,改めた上で原判決を引用して判示したとおり(原判決14頁2行目~15行目)であって,この回答が環境省の見解に基づくものであると認定するためにB課長を証人として取り調べる必要はない。
したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
第4結論
以上のとおりであるから,控訴人らの請求は理由がない。したがって,控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第14民事部
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 井上一成 裁判官 住山真一郎)