大阪高等裁判所 平成28年(行コ)16号 判決 2016年10月06日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 左京税務署長が平成24年12月19日付けで控訴人に対してした平成22年分の所得税に係る平成24年3月6日付けの更正の請求について更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
3 左京税務署長が平成25年6月17日付けで控訴人に対してした平成24年分の所得税に係る平成25年3月21日付けの更正の請求について更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 事案の要旨
甲事件及び乙事件は,控訴人が,A株式会社(以下「A」という。)との間で締結した特許を受ける権利に係る控訴人の持分の譲渡に関する契約(以下「本件譲渡契約」という。)に基づいてAから支払を受けた金員(甲事件につき,平成23年2月に支払を受けた<閲覧制限決定により略>(以下「本件金員1」という。)。乙事件につき,平成24年11月に支払を受けた<閲覧制限決定により略>(以下「本件金員2」といい,本件金員1と併せて「本件各金員」という。)に関し,雑所得とする確定申告をした後,一時所得に該当するとして更正の請求をしたが,左京税務署長から更正をすべき理由がない旨の通知を受けたため,被控訴人に対し,同通知処分の取消しを求める事案である。
原審は,控訴人の請求をいずれも棄却する原判決をしたところ,控訴人は,これを不服として控訴をした。
2 関係法令の概要
関係法令の概要は,原判決の「事実及び理由」第2の1(3頁6行目~15行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
3 前提となる事実
前提となる事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)は,原判決の「事実及び理由」第2の2(3頁17行目~7頁24行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,7頁19行目の「3日」を「4日」に改める。
4 争点及びこれに関する当事者の主張
争点及びこれに関する当事者の主張は,後記5のとおり当審における控訴人の補充主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第2の3(7頁末行>~12頁10行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,11頁9行目の「明らかある」を「明らかである」に改める。
5 当審における控訴人の補充主張
⑴ 本件各金員の譲渡所得該当性
所得税法33条1項は,「譲渡所得とは,資産の譲渡による所得をいう。」旨を規定するのみであるから,資産の譲渡の対価であれば譲渡所得に該当すると解すべきである。そして,本件各金員は,本件譲渡契約において特許を受ける権利の譲渡の一条件として定められた条項に基づき支払を受けたものであり,資産の譲渡の対価であることは明らかである。
したがって,本件各金員は譲渡所得に該当する。
⑵ 本件各金員の一時所得該当性
ア 非対価性要件は,短期保有山林の伐採又は譲渡による所得を一時所得から除外することを目的として定められたものであるから,山林以外の資産の譲渡の対価については非対価性要件が適用されることはない。
そうすると,本件各金員について非対価性要件が適用されることはないから,本件各金員は一時所得に該当する。
イ 所得税法33条1項の「資産の譲渡による所得」と同法34条1項の「資産の譲渡の対価」とは統一的に解釈されるべきであり,これらを別異に解釈することは租税法律主義に反する。
そうすると,本件各金員が資産の譲渡による所得に当たらない場合には,資産の譲渡の対価としての性質を有しないというべきであるから,本件各金員は一時所得に該当する。
ウ 本件各金員は,本件譲渡契約の締結時において支払の有無が将来の不確実な事実に基因するものであり,偶発的に生じた所得であることは明白であるから,資産の譲渡の対価としての性質を有するものとはいえない。
そうすると,本件各金員については非対価性要件を満たすということができるから,本件各金員は一時所得に該当する。
第3当裁判所の判断
1 本件各金員の譲渡所得該当性
⑴ 当裁判所も,本件各金員は譲渡所得には当たらないと判断する。その理由は,後記⑵のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第3の1(12頁13行目~14頁24行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,12頁末行の「26日」の次に「第三小法廷判決」を加える。
⑵ 当番における控訴人の補充主張に対する判断
控訴人は,所得税法33条1項は「譲渡所得とは,資産の譲渡による所得をいう。」旨を規定するのみであるから,資産の譲渡の対価であれば譲渡所得に該当すると解すべきであるところ,本件各金員は,本件譲渡契約において特許を受ける権利の譲渡の一条件として定められた条項に基づき支払を受けたものであり,資産の譲渡の対価であることは明らかであるから,本件各金員は譲渡所得に該当する旨主張する。
しかし,前記⑴引用に係る原判決認定の資産の譲渡所得に対する課税の趣旨や所得税法上の資産の取得費等の控除の仕組みなどからすれば,ある所得が譲渡所得に該当するためには,その所得が譲渡に基因して譲渡の機会に生じたものであることを要するというべきであり,資産の譲渡の対価であれば譲渡所得に該当すると解すべきであるとはいえない。そして,本件各金員が本件持分の譲渡に基因して譲渡の機会に生じたものということができないことは,原判決が認定説示するとおりである。
したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
2 本件各金員の一時所得該当性
⑴ 当裁判所も,本件各金員は一時所得には当たらないと判断する。その理由は,後記⑵のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付するほかは,原判決の「事実及び理由」第3の2(14頁末行~18頁13行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,16頁13行目の「<証拠略>」の次に「<証拠略>」を加え,20行目の「偶然的な」を「偶発的な」に改める。
⑵ 当審における控訴人の補充主張に対する判断
ア 控訴人は,非対価性要件は,短期保有山林の伐採又は譲渡による所得を一時所得から除外することを目的として定められたものであることに照らすと,山林以外の資産の譲渡の対価については非対価性要件が適用されることはなく,本件各金員について非対価性要件が適用されることはないから,本件各金員は一時所得に該当する旨主張する。
そこで,検討するに,前記⑴引用に係る補正後の原判決認定のとおり,昭和39年の所得税法改正により一時所得の定義につき非対価性要件が付加されたのは,短期保有山林の伐採又は譲渡による所得を一時所得から除外するために法文の技術的な整備を行ったものにすぎず,非対価性要件の付加は一時所得の範囲に変更を生じさせるものではないことが認められる。そして,所得税法34条1項が,「資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」として,資産の範囲を限定することなく非対価性要件について規定していること,一時所得として課税対象となる所得の範囲を一般的に担税力が低いと考えられる臨時的又は偶発的な所得に限定するという非対価性要件の趣旨は,山林以外の資産の譲渡の対価にも妥当することを併せ考慮すると,上記の所得税法改正において,短期保有山林の伐採又は譲渡による所得を一時所得から除外するために,一時所得の定義に非対価性要件を付加するとの条文上の手当てがされたからといって,そのことから直ちに,非対価性要件が短期保有山林の伐採又は譲渡による所得のみを一時所得から除外することになるものではないというべきである。そうすると,山林以外の資産の譲渡の対価については非対価性要件が適用されないと解することはできない。
したがって,本件各金員について非対価性要件が適用されることはないとの控訴人の主張は採用できない。
イ 控訴人は,所得税法33条1項の「資産の譲渡による所得」と同法34条1項の「資産の譲渡の対価」とは統一的に解釈されるべきであり,これらを別異に解釈することは租税法律主義に反するところ,本件各金員が資産の譲渡による所得に当たらない以上,資産の譲渡の対価としての性質を有しないというべきであるから,本件各金員は一時所得に該当する旨主張する。
しかし,前記⑴引用に係る原判決認定の譲渡所得と一時所得の課税根拠の相違に照らすと,譲渡所得該当性と一時所得における非対価性要件とを統一的に解釈すべきであるということはできないし,これらを別異に解釈することが租税法律主義に反するということもできない。そして,本件各金員は,本件持分の譲渡に基因して譲渡の機会に生じたものということができないことから,譲渡所得に当たらないとされるとともに,本件持分の譲渡と密接に関連するものであってそれがされた事情に照らし偶発的に生じた利益とはいえず,非対価性要件を満たすものではないことから,一時所得にも当たらないとされたものである。そうすると,本件各金員が資産の譲渡による所得に当たらないからといって資産の譲渡の対価としての性質を有しないということはできない。
したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
ウ 控訴人は,本件各金員は,本件譲渡契約の締結時において支払の有無が将来の不確実な事実に基因するものであり,偶発的に生じた所得であることは明白であるところ,資産の譲渡の対価としての性質を有するものとはいえず,本件各金員については非対価性要件を満たすということができるから,本件各金員は一時所得に該当する旨主張する。
しかし,本件各金員が,非対価性要件を満たすものではなく,一時所得に当たらないことは,これまでに認定説示したとおりである。ある所得が一時所得に当たるかどうかは,所得税法34条1項の規定に基づき,除外要件,非継続性要件及び非対価性要件の三つの要件により判断されるべきであり,将来の不確実な事実に基因するものであるか否かによって判断されるべきものではない。
したがって,控訴人の上記主張も採用できない。
3 本件通知処分1及び本件通知処分2の適法性
以上のとおり,本件各金員は,譲渡所得に該当せず,一時所得にも該当しない。そして,本件各金員が利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得及び山林所得のいずれにも該当するとは認められないから,本件各金員は,雑所得(所得税法35条1項)に該当すると認められる。したがって,本件各金員が雑所得に該当するとしてされた本件通知処分1及び本件通知処分2は適法である。
第4結論
以上によれば,控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当である。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 髙橋譲 中川博文 菊地浩明)