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大阪高等裁判所 平成28年(行コ)28号 判決 2016年9月08日

主文

本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。

当審における訴訟費用は各自の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(1)  控訴人A(第1事件)

ア 原判決中,控訴人A敗訴部分を取り消す。

イ 豊中市固定資産評価審査委員会が平成25年8月5日付けで控訴人Aに対してした原判決別紙1物件目録記載2ないし5の各土地の固定資産課税台帳に登録された平成20年度ないし平成24年度の価格についての審査の申出を棄却する旨の各決定をいずれも取り消す。

(2)  控訴人B(第2事件)

ア 原判決を取り消す。

イ 豊中市固定資産評価審査委員会が平成25年8月5日付けで控訴人Bに対してした原判決別紙1物件目録記載6の土地の固定資産課税台帳に登録された平成20年度ないし平成24年度の価格についての審査の申出を棄却する旨の各決定をいずれも取り消す。

2  附帯控訴の趣旨(第1事件)

(1)  原判決中,被控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)  上記取消部分に係る控訴人Aの請求を棄却する。

第2事案の概要

1  事案の要旨

(1)  控訴人Aは,所有する原判決別紙1物件目録記載1ないし5の各土地(以下,「本件土地1」ないし「本件土地5」という。)について,豊中市長が地方税法417条1項の規定により修正して固定資産課税台帳に登録した平成20年度ないし平成24年度の各登録価格(以下,「本件土地1修正価格」ないし「本件土地5修正価格」という。)を不服として,豊中市固定資産評価審査委員会(以下「審査委員会」という。)に対して審査の申出をしたところ,審査委員会がいずれについても棄却する旨の決定(以下,併せて「第1事件各決定」という。)をしたので,被控訴人に対し,第1事件各決定の取消しを求めた。

控訴人Bは,所有する原判決別紙1物件目録記載6の土地(以下「本件土地6」という。)について,豊中市長が地方税法417条1項の規定により修正して固定資産課税台帳に登録した平成20年度ないし平成24年度の各登録価格(以下「本件土地6修正価格」という。)を不服として,審査委員会に対して審査の申出をしたところ,審査委員会がいずれについても棄却する旨の決定(以下,併せて「第2事件各決定」という。)をしたので,被控訴人に対し,第2事件各決定の取消しを求めた。

(2)  原審は,控訴人Aの請求について,本件土地1修正価格についての第1事件決定の取消しを求める限度で認容し,その余を棄却し,控訴人Bの請求は全部棄却した。

(3)  これに対し,控訴人Aは前記第1の1(1)の裁判を求めて,控訴人Bは同(2)の裁判を求めて,それぞれ控訴を提起し,被控訴人は,前記第1の2の裁判を求めて附帯控訴を提起した。

2  関係法令等の定め,前提となる事実

原判決「事実及び理由」第2の1及び2を引用する。

3  争点及び争点に対する当事者の主張

後記4のとおり補充するほか,原判決「事実及び理由」第3を引用する。

4  当審における補充主張

(1)  本件土地1,2,4ないし6への無道路地補正率の適用(控訴人らの補充主張)

ア 本件土地1,2,4ないし6は,本件市道との間に本件他人地が介在していることにより,2項道路である本件市道の建築基準法上の(みなし)境界線を基準としてこれに2m以上接しなければならないという接道義務を満たしておらず,建築確認が下りないから,いずれの土地についても無道路地補正率を適用すべきである。

このことは,相続税財産評価に関する基本通達において「無道路地とは,路線に接しない宅地(接道義務を満たしていない宅地を含む。)をいう。」と定められていることからも裏付けられる。

イ 上記アにおいて,接道義務を満たさない場合に,無道路地補正率を適用せず,建築不可等補正率を適用することは,評価基準に反していることになり違法である。すなわち,建築不可等補正率は,評価基準ではなく本件各評価要領に基づくものであるが,建築不能,建替不能であることは同じであるのに,0.70,0.80,0.90と補正率に差を設ける合理的な理由はないし,他人地通行の承諾を得るだけで建築可能となる場合は実際にはあり得ないからである。

(2)  本件土地1への不整形地補正率の適用(被控訴人の補充主張)

ア 本件土地1のうち本件旗竿地は,その利用形態からすれば,自宅ないし駐車場から公道(本件市道)へ出るための通路とされているから,建物本体の敷地として利用することは予定されていない。

イ ×番○の宅地は,原判決別紙2図面記載のとおり,本件土地1,本件土地2の一部及び本件土地3の一部のほか,逆L字形地である本件土地1の北東を埋める形状の整形地(以下「訴外整形地」という。)から構成されており,このような一筆の土地の画地割りは,控訴人Aの自由意志による利用形態に基づくものであるところ,訴外整形地だけでも建物建築に十分な接道部分があることからすれば,この点からも,本件旗竿地は建物本体の敷地として利用することは予定されていない。

ウ 上記ア及びイによれば,本件土地1について不整形地補正率を適用することは,その趣旨に反した不当な減額になりかねないから,適用すべきでない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人Aの請求は,本件土地1修正価格についての第1事件決定の取消しを求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,控訴人Bの請求は,理由がないから全部棄却すべきであると判断する。

その理由は,後記2のとおり補正し,後記3のとおり補充するほか,原判決「事実及び理由」第4を引用する。

2  原判決の補正

(1)  29頁23行目から30頁8行目までを削る。

(2)  35頁12行目の「本件土地1」を「本件土地2」と改める。

3  当審における補充主張について

(1)  本件土地1,2,4ないし6への無道路地補正率の適用

ア 控訴人らは,本件土地1,2,4ないし6につき,本件市道との間に本件他人地が介在していることにより,2項道路である本件市道の建築基準法上の(みなし)境界線を基準としてこれに2m以上接しなければならないという接道義務を満たしておらず,建築確認が下りないから,いずれの土地についても無道路地補正率を適用すべきであると主張し,その根拠として,相続税財産評価に関する基本通達において「無道路地とは,路線に接しない宅地(接道義務を満たしていない宅地を含む。)をいう。」と定められていることを主張する。

イ しかし,無道路地補正率は,評価基準に基づくものであるところ,固定資産評価基準解説(土地篇)(乙1)によれば,出入口が判然としない場合又は全くない場合のみが,評価基準でいう無道路地の取扱いを受けるものとされている。これは,画地計算法が原則として画地が路線に接しているという前提にたっており,公簿上の無道路地といえども実際の利用状況からはどこかに出入口があるのが通常であって,無道路地を算定するためにのみ使用する路線価をそれらの通路に仮設し,できるだけ無道路地を少なくすることが望ましいとされていることに基づくものである。以上の評価基準の趣旨によれば,本件市道の道路敷の一部となっている本件他人地に接している本件土地1,2,4ないし6は,評価基準における無道路地には当たらず,無道路地補正率により評点数を補正する必要はないというべきである。

また,相続税が,人の死亡を契機とする資産の再配分において資産の処分価値を重視して,不動産であれば筆ごとに評価して課税するものであるのに対し,固定資産税が,資産の保有の継続を前提とし現実の利用状況をより重視して,不動産であれば形状,利用状況等から一体をなしていると認められる「画地」ごとに評価して課税するものである(乙4)ことからすれば,相続税財産評価に関する基本通達中の上記記載を,そのまま評価基準における解釈として採用することはできない。

ウ 以上によれば,本件土地1,2,4ないし6について,無道路地補正率により評点数を補正する必要はないというべきである。

この点につき,控訴人らは,接道義務を満たさない場合に,無道路地補正率を適用せず,建築不可等補正率を適用することは,評価基準に反していることになり違法であると主張し,その根拠として,建築不可等補正率は,評価基準ではなく本件各評価要領に基づくものであるが,建築不能,建替不能であることは同じであるのに,0.70,0.80,0.90と補正率に差を設ける合理的な理由はないし,他人地通行の承諾を得るだけで建築可能となる場合は実際にはあり得ないと主張する。

しかし,建物の建築について法律上,事実上の制約がある土地について,その制約の理由や程度に応じて建築不可等補正率を定め,評価の補正を行うことには合理性が認められ,評価基準に反するものとはいえない。本件市道の道路敷の一部となっている本件他人地に接している本件土地1,2,4ないし6については,前記引用の原判決の認定説示のとおり,建築基準法上の接道義務を満たしていない場合であっても,所有者Cの承諾を得る等して建物を建築できる可能性が認められ,ただ,承諾を得られるか等の不確実性が伴うことから,建築不可等補正率0.90を適用することが相当と認められる。

エ よって,控訴人らの上記主張はいずれも採用できない。

(2)  本件土地1への不整形地補正率の適用

ア 被控訴人は,①本件土地1のうち本件旗竿地は,その利用形態からすれば,自宅ないし駐車場から公道(本件市道)へ出るための通路とされているから,建物本体の敷地として利用することは予定されていない,②×番○の宅地は,原判決別紙2図面記載のとおり,本件土地1,本件土地2の一部及び本件土地3の一部のほか,訴外整形地から構成されており,このような一筆の土地の画地割りは,控訴人Aの自由意志による利用形態に基づくものであるところ,訴外整形地だけでも建物建築に十分な接道部分があることからすれば,この点からも,本件旗竿地は建物本体の敷地として利用することは予定されていないと主張し,これらによれば,本件土地1について不整形地補正率を適用することは,その趣旨に反した不当な減額になりかねないから,適用すべきでないと主張する。

イ しかし,宅地の主要な利用目的が建物の敷地としての利用であるにもかかわらず,本件土地1のうち本件旗竿地が宅地として有効な利用ができていないことは,前記引用の原判決の認定説示のとおりである。

本件旗竿地が事実上の通路としても使用されているという利用形態を根拠として,宅地であるにもかかわらずおよそ建物敷地としての利用が予定されていない土地であるということはできないから,被控訴人の上記①の主張は採用できない。

また,本件土地1についての不整形地補正率の適用の当否を判断するにあたり,本件土地1とは別の画地である訴外整形地の接道状況を考慮して判断しなければならない根拠はないし,評点数計算の対象となる宅地の画地割りは被控訴人によりなされるものであるから,被控訴人の上記主張②も採用できない。

4  結論

以上によれば,控訴人Aの請求は前記1記載の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却し,控訴人Bの請求は理由がないから全部棄却すべきであるところ,これと同旨の原判決は相当であって,控訴人らの控訴及び被控訴人の附帯控訴はいずれも理由がないから棄却することとする。

よって,主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第11民事部

(裁判長裁判官 山下郁夫 裁判官 杉江佳治 裁判官 久末裕子)

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