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大阪高等裁判所 平成29年(う)219号 判決 2017年5月24日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

第1本件控訴の趣意

弁護人の控訴趣意は,第1に,原判決には,刑法60条を適用できる理由を何ら述べていない点で,理由不備の違法がある,第2に,被告人には詐欺罪の実行行為と評価できる所為がなく,氏名不詳者との共同正犯も成立しないのに,原判決がこれらをいずれも肯定した点で,判決に影響を及ぼすことが明らかな同法43条,60条の解釈適用の誤りがある,というものである。

第2控訴の趣意に対する判断

原審記録を調査して検討する。

1  理由不備の主張について

原判決は,「補足説明」の項で,①平成28年10月3日午後零時頃,氏名不詳者らが警察官等を装い,被害者に対し内容虚偽の電話をかけたこと,②その後,被害者は,警察に教示され,いわゆるだまされたふり作戦に協力することを了承したこと,③同月4日午前9時29分頃から午前10時30分頃までの間,被害者は,更に氏名不詳者から内容虚偽の電話を受けたこと,④被告人は,氏名不詳者からの依頼を承諾し,同日午前9時46分頃に被害者方に赴き,被害者の監視を始めたが,被害者が金融機関に行くのを見て,依頼された仕事が詐欺の受け子であると気付いたこと,⑤その後,被告人は,氏名不詳者に電話で,これを確認した上,捜査二課の者を名乗って被害者から現金を預かるように指示されたこと(以下「本件謀議」という。),⑥その後,氏名不詳者は,県警捜査二課の者が現金を受け取りに行くなどと被害者に内容虚偽の電話をかけ,被告人は,同日午前10時56分頃,被害者方において捜査二課の警察官2を装い,被害者から現金300万円と言われて渡された封筒を受け取ろうとしたこと,⑦その際,被告人は警察官に逮捕されたこと,を認定した。

そして,以上の事実から,本件謀議により,氏名不詳者らと被告人との間で本件詐欺についての共謀が成立したものと認めた。

また,被害者がだまされたふり作戦に協力していたことは,当時被告人及び氏名不詳者らは知らず,一般人もそのことを認識し得なかったとして,前記⑥の氏名不詳者が電話した行為や,被告人が警察官を装って封筒を受け取ろうとした行為は,いずれも詐欺の結果発生の具体的危険性が認められる欺罔行為といえ,被告人が詐欺未遂の共同正犯の責任を負うと説示した。

以上によれば,原判決が,刑法60条を適用した理由を示していることは明らかである。後記のとおり実行行為性や共同正犯に関する弁護人の主張が認められない本件において,理由不備の違法がないことは明白である。弁護人の主張は理由がない。

2  実行行為性及び共同正犯に関する法令適用の誤りの主張について

弁護人は,被害者は,同月3日午後3時までにはだまされたふり作戦に協力する決意をしたのであるから,それ以降に行われた各行為は,詐欺の実行行為と評価することができない,すなわち,詐欺罪における欺罔行為は,被害者に錯誤に基づく交付行為をさせるに足りる危険性を有していることが必要であるところ,前記⑥の行為時点では,被害者は,既に欺罔から脱しているため,錯誤に陥る危険性がなくなっており,被告人は詐欺未遂の罪責を負わないし,共同正犯の成立も認められない,と主張する。

確かに,前記②の時点で,被害者はだまされたふり作戦に協力する決意をしている。しかし,実際に結果発生が不可能であっても,行為時の結果発生の可能性の判断に当たっては,一般人からみた行為の危険性を考慮に入れるのが相当であり,一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎とすべきである。そうすると,被告人及び氏名不詳者らは,被害者がだまされ3たふり作戦への協力を了承した事実を認識していないし,一般人も認識し得たものではないから,この事実を,結果発生の具体的危険の有無の判断に当たっての基礎事情とすることはできない。前記⑥の氏名不詳者が電話した行為や,被告人が警察官を装って封筒を受け取ろうとした行為は,いずれも詐欺の結果発生の具体的危険がある実行行為と認められる。

また,前記⑥の各行為は,本件謀議に従って氏名不詳者と被告人各自にそれぞれの欺罔行為が役割分担されており,氏名不詳者らと被告人とが相互に利用補充しあって詐欺を共同実行しようとする内容であって,被告人に詐欺未遂罪の共同正犯が成立することは明らかである。弁護人の主張は採用できない。

第3適用した法令

控訴棄却について刑訴法396条

大阪高等裁判所第2刑事部

(裁判長裁判官 後藤眞理子 裁判官 酒井康夫 裁判官 樋上慎二)

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