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大阪高等裁判所 平成29年(ネ)1147号 判決 2017年11月16日

控訴人(一審被告)

株式会社エムジェイディーバ

同訴訟代理人弁護士

谷口哲一

松山和徳

山澤祐介

吉野誉文

島俊公

鋸屋好孝

天野伊織

山下広純

被控訴人(一審原告)

山野商事株式会社

同訴訟代理人弁護士

河島眞一

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。

2  上記部分にかかる被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

以下で使用する略称は,特に断らない限り,原判決の例による。

1  被控訴人は,原審において,控訴人に対し,以下のとおりの請求をした。

(1) 被控訴人は,控訴人が,フィットネスプログラム「Ritmix」に関するウェアを共同して製造販売すること等についての被控訴人との包括的な業務提携契約等の合意を一方的に破棄し,取引を終了させたことにより,損害を被ったとして,債務不履行に基づく損害賠償として,Ritmix のDVD撮影に要した費用に相当する87万1640円及びこれに対する平成27年7月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2)  被控訴人は,控訴人との間で,Ritmix のDVD撮影に採用されたウェアを販売し,その売上げを折半する旨の契約を締結したところ,控訴人が上記ウェアの類似品を販売したと主張し,同契約に基づき,販売額の半額である1万4400円及びこれに対する平成27年7月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(3)  被控訴人は,控訴人との間で,被控訴人がイベントの際に控訴人のウェアを販売し,控訴人が被控訴人に対して販売額の35%に相当する手数料を支払う旨の販売委託契約を締結し,その上で,被控訴人がウェアを販売したと主張し,同契約に基づき,販売額の35%に相当する5万5717円及びこれに対する平成27年7月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(4)  被控訴人は,Ritmix のマスタートレーナーのパブリシティ権について独占的な利用許諾を受けるなどしているところ,控訴人が被控訴人との取引終了後も上記トレーナーの画像をホームページ等に掲載し,上記パブリシティ権を侵害し,被控訴人に固有の損害を被らせた旨主張し,不法行為に基づく損害賠償として,平成27年3月25日から平成28年3月17日までに生じた損害額である1795万円及びこれに対する不法行為の最終日である平成28年3月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

原判決は,上記(1)から(3)までの各請求については理由がないとしていずれも棄却したが,(4)の請求については,Ritmix のマスタートレーナーのパブリシティ権の独占的利用許諾権が被控訴人に帰属するとして,パブリシティ権の侵害により,110万円の損害が発生したと認め,不法行為に基づく損害賠償として,110万円及び不法行為の最終日である平成28年3月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容し,その余の請求を棄却した。

これに対し,控訴人が,上記(4)の請求の敗訴部分を不服として控訴した。したがって,当審における審判の対象は,上記(4)の請求中の控訴人敗訴部分のみである。

2  前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)

(1) 被控訴人は,フィットネスプログラム「Ritmix」を中国,台湾地域で運営する株式会社であり,被控訴人代表者の配偶者であるP1は,同地域を担当する Ritmix のマスタートレーナーである。

控訴人は,フィットネス関係の衣料品を製造販売する株式会社である。

(2)  被控訴人代表者及び控訴人代表者は,平成26年12月以降,フィットネスウェアを共同して製造販売することなどについて協議した。

控訴人は,P1の写真撮影を行うなどし,控訴人のウェアを着用したP1の画像をホームページ等に掲載した。

また,平成27年2月,アルゼンチンにおいて,P1等が出演して RitmixのDVD撮影が行われ,その際,出演者が着用するウェアとして,控訴人が被控訴人と協議して新規に製作したTシャツ及び控訴人の既製品であるズボンが採用された。

その後,控訴人は,被控訴人に対し,同年3月25日付け「御通知」と題する書面(甲6。以下「本件通知」という。)を送付し,被控訴人との協議及び取引を終了し,全ての契約締結を見送る旨を伝えた。

(3)  控訴人は,その後も,控訴人のウェアを着用したP1の画像をホームページ等に掲載した。

3  争点(前記1(4)の請求に関する争点)

(1)  パブリシティ権侵害による不法行為の成否

控訴人は,被控訴人との取引終了後もP1の画像をホームページに掲載することにより,P1のパブリシティ権を侵害し,被控訴人に固有の損害を被らせたとして,不法行為責任を負うか

(2)  パブリシティ権侵害による損害額

4  争点(前記1(4)の請求に関する争点)に関する当事者の主張

後記5のとおり,当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の 第3の4(原判決15頁7行目から17頁20行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

5  当審における控訴人の主張

(1)  パブリシティ権侵害の成否

P1は,日本における著名性を獲得していない。

仮に,P1に,日本における著名性があり,パブリシティ権が認められるとしても,控訴人は,P1の画像を,P1の肖像が有する顧客吸引力に専ら利用する目的で使用したものではない。控訴人は,控訴人商品の形状等を顧客にわかりやすくすべく,P1の画像を利用したにすぎない。

したがって,控訴人に不法行為は成立しない。

(2)  損害額

仮に,控訴人がP1の画像を掲載したことにより,P1のパブリシティ権を侵害したとしても,次のとおり,損害額は低額に留まる。

P1の画像を使用して掲載した商品は平成27年3月11日までに販売を停止している。実際には販売されていない商品を紹介するために,P1の画像を使用したとしても,そのことにより損害が発生することはない。

控訴人は,P1とのライダー契約の内容として月額6万円の商品提供を考えていたものであるが,商品提供の条件として,P1に,レッスンやイベント等での同製品の着用を義務づけることを求める内容とする予定であった。そのこととの対比からして,上記金額以上の損害が発生したとは到底認められない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,前記第2の1(4)についての被控訴人の請求は,110万円及びこれに対する平成28年3月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないと判断する。

2  認定事実

認定事実は,原判決「事実及び理由」の第4の1(原判決17頁22行目から25頁17行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

ただし,原判決25頁17行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「(11) P1の被控訴人に対するP1のパブリシティ権の独占的利用許諾P1は,Ritmix のマスタートレーナーとして,日本,中国及び台湾で活躍しているところ,そのパブリシティ権について,P1の夫が代表取締役を務める被控訴人に,独占的利用許諾をしており,被控訴人がP1のパブリシティ権に関する契約の交渉,契約締結を行い,パブリシティ権から生じる対価を取得している(甲46,弁論の全趣旨)。」

3  P1の画像の掲載による不法行為の成否

(1) 肖像等が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合,そのような肖像等を無断で使用する行為は,① 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,② 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,③ 肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である(最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁参照)。

また,パブリシティ権は,人格権に由来する権利の一内容を構成するもので,一身に専属し,譲渡や相続の対象とならない。しかし,その内容自体に着目すれば,肖像等の商業的価値を抽出,純化させ,名誉権,肖像権,プライバシー等の人格権ないし人格的利益とは切り離されているのであって,パブリシティ権の利用許諾契約は不合理なものであるとはいえず,公序良俗違反となるものではない。

そして,パブリシティ権の独占的利用許諾を受けた者が現実に市場を独占しているような場合に,第三者が無断で肖像等を利用するときは,同許諾を受けた者は,その分損害を被ることになるから,少なくとも警告等をしてもなお,当該第三者が利用を継続するような場合には,債権侵害としての故意が認められ,同許諾を受けた者との関係でも不法行為が成立するというべきである。

(2) これを本件についてみるに,P1は,中国,台湾地域のマスタートレーナーとして認定され,台湾のテレビ番組にも出演し,平成28年9月25日に台湾で催された Ritmix のイベントでは,数百人と推測される参加者が集まっているところ,同イベントの写真入りパンフレットで2名のマスタートレーナーのうちの1名として紹介された(甲34,35)。

また,控訴人がP1の画像を掲載したのは,楽天市場等の日本人向けの販売サイトであるが,① フィットネスウェアを専門に取り扱う控訴人が契約する約50人のライダーのうち,Ritmix 関係のライダーは10人おり,Ritmix関係は控訴人の事業上一定の比重を占めていたとうかがわれ,このことから,日本でも相応の Ritmix 愛好家が存在するとうかがわれること,② 控訴人でインストラクターをしているP2は,Ritmix のマスタートレーナーとしてのP1のことを知っていたこと,③ 被控訴人が開催したNASのイベントでも,P1は,イベントに参加したファンから相応の商品購入希望を得ていること,④ 控訴人の商品が販売されているBecomeという通販サイトでも,広告として,「RITMIX・リトモスのMTP1先生と台湾イントラも2015年1月に大阪でイベントレッスンを行ってくれました。」と記載され,P1の存在が広告効果を有することが前提とされていること(甲37)からすると,マスタートレーナーとしてのP1の肖像等は,日本の Ritmix 愛好家の間でも一定の顧客吸引力を有していたと認められる。

以上によれば,P1は,自己の肖像等の顧客吸引力を排他的に利用するパブリシティ権を有していると認めるのが相当である。

(3)  控訴人は,P1には,日本における顧客吸引力があるとはいえない旨主張する。

しかしながら,前記引用の原判決「事実及び理由」の第4の1(3)のとおり,控訴人自身,一時は,P1とのライダー契約の締結に向けて契約書案を作成しており,正式な契約締結には至らなかったものの,P1が日本において顧客吸引力を有することを前提とした行動をとっていた。加えて,上記(2)のとおり,控訴人自身の契約するライダーの約2割が Ritmix 関係のライダーであること,控訴人のインストラクターがP1のことを知っていたこと,控訴人の商品が販売されている通販サイトでのP1の記事の扱い方によれば,P1は日本においても著名性があり,控訴人自身もそのことを十分認識していたと認められる。

控訴人の上記主張は採用できない。

(4)  控訴人は,当審において,P1に顧客吸引力が認められるとしても,控訴人は,P1の肖像が有する顧客吸引力を専ら利用する目的で使用したのではなく,控訴人商品の形状等を顧客にわかりやすくするためにP1の画像を利用したにすぎないと主張する。

確かに,P1の画像は,P1が控訴人商品(フィットネス関係の衣料品)を着用している態様のもので(甲10の1~甲10の5),控訴人商品(衣類)の形状が,着用することによりわかりやすくなっているということは認められる。しかしながら,控訴人商品の形状等を顧客にわかりやすくする目的であれば,P1が着用する必要はない。

前記(3)で検討した事情に加え,フィットネスウェアである控訴人商品を着用しているのが,上記(2)及び(3)のとおり,Ritmix のマスタートレーナーであり,日本でも顧客吸引力のあるP1であるということから,フィットネスウェア販売の対象となる顧客層に対して,P1の画像を使用することにより,P1の顧客吸引力を利用して控訴人商品をより多く販売することが期待されており,控訴人がP1の顧客吸引力を利用しようと考えていたことが画像から優に認められる。

控訴人の上記主張は採用できない。

(5)  そして,前記引用した原判決「事実及び理由」の第4の1(1),(3)及び(11)(当審における補正部分)によれば,被控訴人は,P1から独占的にパブリシティ権の利用許諾を受けているところ,被控訴人代表者が中国,台湾において「Ritmix」等の商標権を取得していること,被控訴人代表者がP1と控訴人との間のライダー契約のP1側の交渉を行っていたことに鑑みると,控訴人も上記独占的利用許諾を認識できたものと認められる。

(6)  本件において,控訴人と被控訴人との間の協議が継続している間は,控訴人がP1の画像をウェブサイト等に掲載することについて,被控訴人の承諾があったと認められる。しかし,控訴人が,平成27年3月25日付けの本件通知を送付して被控訴人との協議を終了させたことにより,被控訴人のP1の画像の掲載についての承諾も当然に撤回されたものと認めることができる。しかるに,控訴人は,自ら本件通知をしながら,その後もホームページ等からP1の画像を削除することなく掲載し続けており,それは,P1の肖像等を広告として使用したと評価できるのであるから,控訴人の行為は,P1のパブリシティ権に係る被控訴人の独占的利用権を侵害する不法行為を構成すると認められる(なお,被控訴人は,P1の肖像権の侵害も主張するが,パブリシティ権を離れた純然たる肖像権の侵害をいうものとは解されない。)。

(7)  控訴人は,P1の画像を顧客吸引のために使用していない旨主張する。しかしながら,上記(4)のとおり,控訴人は,P1の顧客吸引力を利用して商品を販売しようと考えていたと認められる。そして,当該画像を掲載した商品自体は品切れで販売されない状態となっていたとしても,控訴人の商品を着用したP1の画像の掲載が継続する限り,フィットネスウェアの販売については,P1の顧客吸引力・宣伝効果により,控訴人の商品全体に対する宣伝広告,ひいては控訴人自身の宣伝広告となるものであり,控訴人がP1の肖像等の顧客吸引力を利用していることに変わりはない。

控訴人の主張は採用できない。

4  損害額

(1)  控訴人による掲載の期間

ア 被控訴人は,楽天市場で掲載されたP1の画像が平成28年3月17日までに削除されたことを受けて,本件通知の日である平成27年3月25日から平成28年3月17日までに生じた損害の賠償を請求している。

そして,前記引用した原判決「事実及び理由」の第4の1(10)のとおり,平成27年6月25日の時点で控訴人のフェイスブック,ブログ,ホームページ,ヤフーショッピングのページ,楽天市場のページにP1の画像が掲載されていた。また,本件訴訟が提起され,控訴人が答弁書で控訴人が管理していた画像については削除したと主張した後の同年10月2日の時点においても,控訴人のホームページにP1の画像が掲載されており,その後についても,P1の画像が控訴人の管理するサイトから削除されたと明確に判明するのは上記の楽天市場に係るものしかないことからすると,控訴人は,平成28年3月17日までの間,上記の各ページにP1の画像を継続して掲載していたと推認するのが相当である。

イ 控訴人は,平成28年3月17日時点まで,P1の画像を掲載していたとは認められないと主張し,控訴人代表者は,平成27年3月の時点でP1の画像を非表示にしたが,同月以降に非表示にできなかった画像があり,同年8月,同年9月,同年10月の辺りに表示されていた残りの画像を非表示にしたが,時期を明確には覚えていない旨供述する(控訴人代表者〔原審〕10~12,31,32,36頁)。

しかし,上記の供述内容は,画像を非表示にした時期が不明確であり,これを裏付ける証拠がなく上記の推認を覆すに足りない。

ウ また,控訴人は,同月11日頃までには画像を掲載した全ての商品の販売を停止した旨主張するが,前記3(4)のとおり,控訴人がP1の肖像等の顧客吸引力を利用していることに変わりはないから,画像でP1が着用している商品の販売停止によって侵害行為が終了したと認めることはできない。

(2)  損害額の算定

ア 被控訴人が独占的に利用を許諾されたP1のパブリシティ権は,肖像等が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利であるから,被控訴人は,控訴人の行為により,画像の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭に相当する額の損害を受けたものと認められる。

そこで,被控訴人がP1の画像の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭の額について検討する。

前記引用した原判決「事実及び理由」の第4の1(3)のとおり,控訴人は,他の約50名のライダーに適用される契約書の様式に基づいて,P1に関するライダー契約書を作成し,1か月当たり,通常販売価格で6万円程度を上限とする商品の無償提供を提案しており,ライダーに控訴人の商品の販売促進を依頼する場合の対価として上記商品提供程度の経済的負担を見込んでいたとみることができる。一方,被控訴人は,自らの利益にはならないと考えて上記の提案には応じておらず,広告宣伝の際にP1の画像の掲載を許諾する場合に,上記の金額を超える対価を想定していたと認められる。このような事情に加え,P1の顧客吸引力の程度,内容,P1の画像の掲載場所の数,掲載期間等を総合して考慮すると,P1の画像の掲載により被控訴人に生じた損害額は,1か月当たり10万円と認めるのが相当である。

イ 被控訴人は,控訴人が,「Buyee」の英語版,台湾語版,中国語版の各ホームページや,楽天グローバルマーケット,becomeのホームページにP1の画像を掲載した旨指摘するが(甲27の1~甲27の3,甲36,37,甲44の1~甲44の5),控訴人代表者は,これらのページを知らず,自らが掲載したものではない旨供述しており(控訴人代表者〔原審〕1,15,16,34頁),控訴人が上記の画像を掲載したと認めるに足りる証拠はないから,これらの掲載状況を損害額算定の際に考慮するのは相当ではない。

ウ そして,控訴人が本件通知により被控訴人との取引を終了してからP1の全ての画像を削除するまでには一定期間を要するものと認められるため,被控訴人は,合計して,平成27年3月25日から平成28年3月17日までのうちの11か月分である110万円の損害を被ったと認めるのが相当である。

エ 控訴人は,当審において,控訴人がP1に対して提示した月額6万円のライダー契約案は,月額6万円の商品提供に対して,レッスンやイベント等での商品の着用が義務づけられるという条件があり,それを捨象して月額6万円のみを損害額の算定の根拠として取り上げるのは不当であると主張する。

確かに,ライダー契約案では,イベントやレッスンで商品の着用が求められてはいたが,前記引用した原判決「事実及び理由」の第4の1(3)によると,努力義務に過ぎないと認められる。また,上記アのとおり,ライダー契約の締結の際に考慮するのは,販売促進効果に見合う対価をいくらと評価するかということであって,商品を着用した画像を掲載することは,上記と同様の販売促進効果を期待できると考えるのが相当であるところ,被控訴人において,P1の画像の使用を許諾することを含め,月額6万円では,自らの利益にはならないと考えたという経過は,P1の画像の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭の額を認定するに当たり,重要な参考とせざるを得ない。既に検討した,日本国内におけるP1の顧客吸引力も併せ考慮し,損害額を月額10万円と評価するのが相当である。

控訴人の主張は理由がない。

5  結論

以上によれば,被控訴人の請求は,控訴人に対し,P1の画像を掲載した不法行為に基づく損害賠償として110万円及びこれに対する平成28年3月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求はいずれも理由がない。したがって,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部

(裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 髙橋文淸 裁判官 種村好子)

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