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大阪高等裁判所 平成29年(ネ)3号 判決 2017年5月12日

東京都中央区<以下省略>

控訴人(被告)

岡藤商事株式会社(以下「控訴人岡藤」という。)

同代表者代表取締役

東京都中央区<以下省略>

控訴人(被告)

日本フィナンシャルセキュリティーズ株式会社(以下「控訴人フ社」という。)

同代表者代表取締役

上記両名訴訟代理人弁護士

小畑英一

本多一成

上野尚文

土淵和貴

大阪府<以下省略>

被控訴人(原告)

同訴訟代理人弁護士

山﨑敏彦

主文

1  控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は,控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決中,控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  上記取消しに係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。

第2事案の概要等

1  事案の概要

本件は,被控訴人が,商品先物取引仲介業者である控訴人フ社の仲介によりその所属商品先物取引業者である控訴人岡藤に商品先物取引を委託して白金及び金の商品先物取引を行ったところ,同商品先物取引において控訴人フ社の担当者が被控訴人に対して違法な取引,虚偽説明,説明義務違反,適合性原則違反,不招請勧誘等をしたために損害を被ったとして,控訴人らに対し,控訴人フ社については民法715条1項に基づき,控訴人岡藤については商品先物取引法240条の26に基づき,損害金3533万6131円及びこれに対する平成25年6月17日(上記取引終了日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

2  原審判断と控訴人らの控訴

原審は,被控訴人の本件請求について,控訴人らに対して連帯して2473万8291円及びこれに対する平成25年6月17日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却したところ,同認容部分を不服とする控訴人らが控訴した。

3  原判決の引用

前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記4のとおり,当審における当事者の補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の第2の1ないし3(原判決2頁10行目から12頁26行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決2頁10行目の「当事者間に」から11行目末尾までを「前提事実」と改め,19行目及び21行目の各「別紙」をいずれも「原判決添付の別紙」と改める。

(2)  原判決6頁17行目の「理解していており」を「理解しており」と改める。

(3)  原判決7頁26行目の「ルール」の次に「,」を加える。

(4)  原判決9頁23行目の「状況」を「状況であること」と改める。

(5)  原判決10頁17行目及び11頁6行目の「被告」を「控訴人ら」と,10頁20行目及び11頁11行目から12行目にかけての「被告」を「控訴人フ社」とそれぞれ改める。

(6)  原判決12頁2行目の「相当因果関係にある」を「相当因果関係がある」と改める。

4  当審における当事者の補充主張(本件取引の違法性)

【被控訴人の主張】

本件取引は,原判決の判示(原判決第3の3)に加え,以下の事情からして違法である。

(1) 本件取引の目的

控訴人は,以下のとおり,本件取引において,手数料稼ぎの目的で被控訴人に対して頻繁売買を提案した。

ア 頻繁売買は,短期に大損するリスクは小さくなるが,他方,大きな利益を得る可能性も小さくなり,かつ手数料が大量,確実に蓄積されるので,長期的には非常に高い確率で損失が拡大する。控訴人フ社担当者は,このような構造を認識しながら,被控訴人に対して頻繁売買を提案した。

イ 被控訴人は,白金の産出コストから当時の白金の値段が低すぎるとの動機で本件取引を行っていたこと及び被控訴人が直しや両建を駆使して巧妙に儲ける知識や技術を有していなかったことからして,頻繁売買を希望したはずがない。

ウ 被控訴人には,本件取引の途中で値洗い益が生じたことがあるが,これは,白金が値上がりを続けていたからにすぎず,頻繁売買をしなければ,より大きな利益を取得することができた。

(2) 被控訴人の取引経験等

被控訴人は,控訴人フ社のE(以下「E」という。)から,将来白金が確実に値上がりするとの説明を受けて白金を買ったものの,白金の価格変動要因や商品先物取引の特性,例えば,円高やニューヨーク市場の白金の値段等が上記見通しを打ち消すものか否か,その期間はどの程度か等については理解しておらず,見当がつかない中で本件取引をしていた。

(3) Eの取引提案

被控訴人は,以下の事情からして,Eの提案を受け,ほぼそのままの内容で本件取引をしていた。

ア 被控訴人は,Eから,金や白金が上がるとの情報を提供されるとこれらの買いを建て,下がるとの情報を提供されると売りを建てていた。被控訴人は,本件取引を開始してから平成25年2月に豊商事株式会社(以下「豊商事」という。)で商品先物取引を開始するまで,E以外から情報を得ておらず,Eからの情報を否定する情報や根拠を有していなかった。また,被控訴人は,本件取引で両建をしているが,両建にするか否か,いつ両建にするか,両建にした場合売建玉と買建玉のどちらをいつどれだけ減らすか,両建に戻すか等について,判断材料を有していなかった。

イ 被控訴人は,豊商事における商品先物取引では,本件取引と異なり,両建を一度もしておらず,白金については売取引も一度もしていなかった。なお,控訴人らは,被控訴人が豊商事において確固たる相場観が必要とされる難平をしていたと主張するが,被控訴人は,下がった値段で買い,その後,少し上がったら決済して利益を出すという取引をしていただけであり,値段が下がったところで買増しを続けるというようなリスクのある難平をしていなかった。

(4) 買建玉の決済と買取引が繰返し行われたこと

以下の事情からして,本件取引において,買建玉の決済と買取引が繰り返し行われたことは不合理である。

ア 被控訴人は,本件取引において,買建玉を決済したその日あるいは数日内に買直し(直し)をしたことがあるが,仮に,買建玉を持ち続けるのが危険と判断して決済したのであれば,直しをしたり,その後も持ち続けたりしたことの説明がつかない。本件取引においては,上記のような直しが,白金については23回,金については7回と多数存在する。なお,本件取引において,日計りは,白金については3回,金については9回しかなく,被控訴人が価格変動によるリスクを抑えるためにデイトレードをしていたということはない。

イ 本件取引においては,買いを多数決済したにもかかわらず,数日以内に再び買いを建てる,また,両建中に買いを全部決済したのに,数日以内に新たに買いを建てて両建に戻すという取引が多数存在する。なお,被控訴人は,平成25年3月7日から同月25日までの豊商事における白金の商品先物取引においても,買いを建てて決済するという取引を繰り返したが,同取引では,毎回利益を出し,その後,白金の値段が下がってからは,両建はしないで,買いを1回建てた以外は新たな買いを建てることなく損切りして終わった。したがって,豊商事における取引は,本件取引と全く異なるものである。

(5) 短い間隔で両建の解消と新たな両建が繰り返し行われたこと

以下の事情からして,本件取引において,短い間隔で両建の解消と新たな両建が繰り返し行われたことは不合理である。

ア 両建は,控訴人岡藤の説明書(乙14)においては,相場の動向が不透明なので様子を見てみたいときに行うものとされているが,本件取引においては,両建後,日々の相場状況に応じて,上がると予想したので売りを少し減らし,翌日は相場動向がよく分からないから両建に戻したというような取引が繰り返された。

イ 被控訴人は,両建後,白金については,平成25年2月26日,同年3月6日,同月7日,同月15日,同年4月4日と大きな損失を出しており,金については,同年3月12日,同年4月3日,同月25日に損失を出しているから,損切りを嫌って両建と両建の解消を繰り返したということはない。

【控訴人らの主張】

被控訴人の上記主張は,否認ないし争う。

本件取引は,以下の事情からして,違法なものとはいえない。

(1) 本件取引の目的

被控訴人は,白金について,平成25年1月末日時点で649万9000円,同年2月15日時点で1368万9695円の値洗益を計上していた。被控訴人は,控訴人フ社の取引担当者が価格変動に影響を与える材料等を適切に情報提供していたからこそ,このような莫大な値洗益を計上できたのであり,同担当者が取引当初から手数料の取得を主たる目的としていたということはない。なお,控訴人らが,収益を上げることを目的とするのであれば,顧客に取引を長期間継続してもらうことが最善かつ合理的であり,当初から短期的な手数料目的で取引を勧誘することは,取引が瞬時に終了するリスクがあるからメリットがない。

(2) 被控訴人の取引経験等

被控訴人は,本件取引開始前に,レバレッジ性があるハイリスク・ハイリターンの取引であり,売りと買いの双方の取引が可能である等の点で商品先物取引と共通点が多い外国為替証拠金取引をした経験を有していた。また,被控訴人は,商品先物取引の価格変動要因や特性を理解していたから,本件取引と並行して豊商事において,本件取引終了後もローズ・コモディティ株式会社において,それぞれ商品先物取引をしていた。

(3) Eの取引提案

被控訴人が前記(2)のとおり複数の業者と同時並行で商品先物取引を行っていたこと,同取引においては,確たる相場観が必要とされる難平を用いた取引をしていたことからすると,被控訴人がEから提案されるまま取引を行っていたということはあり得ない。なお,被控訴人は,4度にわたる投資可能資金額の増額手続において,実際の資産状況よりも多額の資産を有する旨の証明書に署名・押印しており,同事情から,取引内容の理解度についても不実の言動を繰り返していたことが推認される。

(4) 買建玉の決済と買取引が繰返し行われたこと

一般に,相場取引において長期間建玉等を保有することは価格変動リスクが高くなるところ,被控訴人のように電子取引を利用しない顧客にとって,デイトレードは,同リスクを抑えることが可能な極めて合理的な取引である。したがって,被控訴人が買建玉の決済と買取引を繰り返したことが,不合理とはいえない。また,被控訴人は,豊商事において,建玉と決済を繰り返しており,このような取引手法が同リスク軽減の効果的な取引手法であることを知っていた。

(5) 短い間隔で両建の解消と新たな両建が繰り返し行われたこと

以下のとおり,本件取引における両建の解消と新たな両建は,被控訴人の意思と判断で行われた。

ア 本件取引中,平成25年2月21日以降,白金相場が下がり続け,被控訴人は値洗損を抱える状況になった。Eは,被控訴人に対し,「建玉が損勘定になった時の対処について」の書面に基づき,損切り,証拠金の入金,両建の各方法を提案したところ,被控訴人は,損切りを嫌がり両建にした。その後,本件取引においては,両建の解消と新たな両建がなされているが,これは,被控訴人が損切り及び証拠金の追加を嫌がり,値洗損を挽回すべく行われたものである。

イ 被控訴人は,豊商事で商品先物取引を行っており,両建のメリット及びデメリット,取引ごとに発生する手数料の金額を理解しないまま取引を進めていたということはあり得ない。

第3当裁判所の判断

1  原判決の引用

当裁判所も,被控訴人の本件請求は,控訴人らに対して連帯して2473万8291円及びこれに対する平成25年6月17日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,この限度で認容すべきものと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記2において,当審における控訴人らの補充主張に対する判断を加えるほかは,原判決の第3の1ないし6(原判決13頁2行目から34頁11行目まで)で認定説示するとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決13頁4行目の「原告本人」の次に「(人証はいずれも原審におけるものである。)」を加える。

(2)  原判決15頁25行目の「E(以下「E」という。)」を「E」と改める。

(3)  原判決19頁4行目末尾に改行の上次のとおり加える。

「なお,平成25年2月14日には,被控訴人の値洗損益金通算額は1491万2000円,仮差引損益金通算額は1368万9695円になっていた(乙37の37の2)。」

(4)  原判決20頁24行目の「3月6日」を「3月5日」と改める。

(5)  原判決26頁3行目の「Eの提案に従い」から5行目末尾までを「Eから提案を受けた上,取引していた。」と改める。

(6)  原判決26頁11行目の「豊商事株式会社」及び17行目の「豊商事株式会社(以下「豊商事」という。)」を「豊商事」とそれぞれ改める。

(7)  原判決27頁2行目及び4行目の各「別紙」をいずれも「原判決添付の別紙」と改め,13行目末尾に改行の上次のとおり加える。

「なお,被控訴人は,豊商事における金及び白金の取引では,両建をしていない。」

(8)  原判決28頁3行目及び5行目の「先物取引について」を「先物取引及び同取引の対象となる金や白金の先物市場における値動きやこれに影響を与える要因等について」と改める。

(9)  原判決28頁7行目冒頭から11行目末尾までを削除し,12行目の「(4)」を「(3)」と,同行目の「別紙」を「原判決添付の別紙」とそれぞれ改める。

(10)  原判決30頁2行目冒頭から7行目末尾までを次の文章に改める。

「(4) 被控訴人は,本件取引の最後の時期を除き,Eからの海外金融市場の動きや相場の材料について情報提供と取引の提案を受けた上,取引していた。そして,被控訴人が,①先物取引及び同取引の対象となる金や白金の先物市場における値動きやこれに影響を与える要因等についての格別の情報,知識等を有していなかったこと,②上記①にもかかわらず,白金について買いを建てた後短期間で買建玉の決済を繰り返す取引をしたり,白金及び金について両建をした上,売建玉又は買建玉を決済し,その後短期間で両建をしたりする取引を頻繁に繰り返していたこと,③本件取引と並行して行っていた豊商事における商品先物取引においては,両建をせず,また,白金については売りをしないなど,本件取引とは取引の内容及び態様が異なっていること,以上の諸事情を総合すると,被控訴人は,本件取引において,単に日々の市場の動きを理由とするEの提案に従ってそのまま取引し,Eも,このことを認識しながら上記提案をしていたものと推認することができる。」

(11)  原判決30頁11行目冒頭から31頁2行目末尾までを次の文章に改める。

「 ところで,被控訴人は,本件取引の開始当初,白金について,買いを建てることと買建玉を短期間に決済する取引を繰り返していたところ,控訴人フ社の担当者は,これに先立ち,白金が産出コストとの関係で値段が安いと説明していた(原判決第3の1(8))というのであるが,そのような理由から,上記のような頻繁な取引を提案する合理的な理由は見出せないし,被控訴人においても,当時,利益を確定しなければならない事情があったとは認め難く,取引ごとに相当の手数料がかかるにもかかわらず,買いを建てることと買建玉の決済を同じ日又は数日のうちに行うことに合理性があるとは認められない。また,被控訴人は,本件取引のうち金の取引と平成25年2月以降の白金の取引において,両建の解消と新たな両建を短い間隔で繰り返す取引をしていたところ,控訴人フ社が被控訴人に交付した書面では,両建は,建玉が損勘定になった場合において,相場の動向が不透明で様子を見てみたいと思ったときの対処方法として説明されているにもかかわらず(原判決第3の1(6)),Eは,単に日々の市場の動きを理由として被控訴人に対して取引の提案をし(前記(10)による補正後の原判決第3の3(4)),被控訴人も,これに応じて両建の解消と新たな両建を繰り返し行っていたもので,その取引に合理性があるとは認められない。そして,被控訴人が,以上のような事情があるにもかかわらず,Eの提案に従ってそのままの内容で取引していたことからすると,その取引の合理性の有無を理解した上で本件取引をしていたと認めることもできない。」

(12)  原判決31頁4行目の「当初の段階から,」の次に「被控訴人の利益を考慮することなく」を加える。

2  当審における控訴人らの補充主張について

控訴人らは,前記第2の4【控訴人らの主張】のとおり主張する。

(1)  本件取引の目的

同(1)の主張については,本件取引に合理性がなく,Eが取引当初から被控訴人の利益を考慮することなく,手数料を得ることを主な目的として提案等してきたことは,原判決を補正の上引用して認定説示したとおりである(前記(11)及び(12)による補正後の原判決第3の3(5))。この点,被控訴人の白金の先物取引の値洗益は,平成25年1月31日に646万9000円となり,同年2月14日には仮差引損益金通算額が1368万9695円となっていたことが認められるが(前記1(3)による補正後の原判決第3の1(12)),これは,主として,平成25年1月中旬以降,白金の値段が大きく上がり,同年2月初めまで上昇する日が多かったことによるものであるから(前記1(3)による補正後の原判決第3の1(12)),このことから直ちに,本件取引が手数料取得を目的としたものではなかったとはいえない。以上からすると,控訴人らの上記主張は採用することができない。

なお,控訴人らは,当初から手数料を取得する目的で取引を勧誘することにはメリットがない旨主張するが,上記説示に照らし同主張は採用できない。

(2)  被控訴人の取引経験等について

同(2)の主張については,確かに,原判決を補正の上引用して認定したとおり(前記1(6)及び(7)による補正後の原判決第3の2),被控訴人には,外国為替証拠金取引の経験があるほか,控訴人らにおける取引と並行して豊商事において白金及び金の商品先物取引を行っていたこと,また,本件取引の終了後,ローズ・コモディティ株式会社において白金の商品先物取引を行ったことが認められる。しかし,被控訴人は,先物取引を行うのは本件取引が初めてであった上(前記1(8)による補正後の原判決第3の3(2)),豊商事における取引は本件取引を開始してから相当期間経過後であること,ローズ・コモディティ株式会社における取引は本件取引終了後に行ったものであること(前記1(7)による補正後の原判決第3の2(2)及び(3)),他に被控訴人が本件取引を行う際に商品先物取引についての知識等を有していたことをうかがわせる証拠がないことからすると,被控訴人が豊商事及びローズ・コモディティ株式会社において取引したことから,商品先物取引についての知識等を有していた,あるいは,上記取引を通じて知識を取得したと認めることはできない。

以上からすると,控訴人らの上記主張は採用することができない。

(3)  Eの取引提案について

同(3)の主張については,被控訴人がEの提案に従いそのままの内容で本件取引を行っていたと認められることは,原判決を補正の上引用して認定説示したとおりである(前記1(10)による補正後の原判決第3の3(4))。この点に関し,控訴人らは,被控訴人が豊商事における商品先物取引で難平をしていた点を指摘するが,被控訴人が同取引において,控訴人らが主張するような確固たる相場観により難平をしていたと認めるに足りる証拠はなく,他方,本件取引に合理性があるといえないこと(前記1(11)及び(12)による補正後の原判決第3の3(5))からすると,被控訴人が豊商事における取引で難平をしていたことを理由として,確固たる相場観に基づき本件取引をしたと認めることはできない。なお,控訴人らは,被控訴人が4度にわたる投資可能資金額の増額手続において,実際の資産状況よりも多額の資産を有する旨の証明書に署名・押印していた点を指摘するが,同事実から直ちに,取引内容の理解度についても不実の言動を繰り返していたと推認することはできない。

以上からすると,控訴人らの上記主張は採用することができない。

(4)  買建玉の決済と買いの繰返しについて

同(4)の主張については,確かに,一般的には,デイトレードは取引時間外の価格変動リスクを抑えることができる場合があることがうかがわれる。しかし,被控訴人の取引の経過(原判決第3の1(8)ない(13),(18),(19))からすると,被控訴人は,一日のうちで売買を終了する場合はあるものの,本件取引において,そのような取引の比率が高いとはいえないことが認められる。そうすると,被控訴人が上記価格変動リスクを抑えるために買建玉の決済と買いを繰り返したとは認められない。

なお,被控訴人は,豊商事において,平成25年2月中旬以降に買建玉の決済と買取引を繰り返し行っていたが(前記1(7)による補正後の原判決第3の2(2)),上記(3)で説示したとおり,被控訴人がどのような根拠に基づき上記取引をしていたかは明らかとはいえない上,被控訴人が豊商事において商品先物取引をしていた時期と被控訴人が本件取引において買建玉の決済と買いの繰返しをしていた時期が異なり,白金市場の相場状況も異なっていたことからすると,被控訴人の豊商事における商品先物取引を根拠として,本件取引における買建玉の決済と買いの繰返しが合理的な根拠をもってされた等と直ちにいうことはできない。

以上からすると,控訴人らの上記主張は採用することができない。

(5)  短い間隔で両建の解消と新たな両建が繰り返し行われたことについて

同(5)アの主張については,原判決を補正の上引用して説示したとおりである(前記1(11)及び(12)による補正後の原判決第3の3(5)及び(6))。同イの主張については,原判決を補正の上引用して認定したとおり(前記1(7)による補正後の原判決第3の2(2)),被控訴人は,豊商事における商品先物取引では両建をしておらず,豊商事で商品先物取引を行っていたことを根拠として,被控訴人が両建のメリット,デメリット等を理解していたとはいえない。

以上からすると,控訴人らの上記主張は採用できない。

(6)  小括

以上のとおりであり,控訴人らの主張は,いずれも採用することができない。

3  結論

以上の次第で,被控訴人の本件請求は,控訴人らに対して連帯して2473万8291円及びこれに対する平成25年6月17日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,この限度で認容すべきである。

よって,原判決は,相当であり,控訴人らの本件各控訴は理由がないからこれをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤下健 裁判官 石原稚也 裁判官 山田健男)

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