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大阪高等裁判所 平成3年(う)749号 判決 1992年3月27日

本店所在地

大阪市北区堂島一丁目一番二五号

株式会社西武ゴルフサービス

(右代表者代表取締役 石原壽雄)

本店所在地

大阪市北区堂島一丁目一番二五号

株式会社日比谷ゴルフ

(右代表者代表取締役 石原壽雄)

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成三年五月三一日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人らから控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 和田博 出席

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人関口澄男作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、被告人両会社を各罰金五〇〇〇万円に処した原判決の量刑は、罰金額が高額に過ぎて不当である、というのである。そこで、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて検討したが、本件は、原判示のとおりの法人税逋脱事犯であり、各逋脱税額、逋脱率等に徴すると、被告人両会社に対しては、相当高額の罰金刑はやむを得ないとしなければならず、原判決の右量刑が重過ぎるとは考えられない。被告人両会社の経営状態等所論指摘の諸事情を考慮に入れても右判断は何ら左右されない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 重富純和 裁判官 川上美明 裁判官 安廣文夫)

○ 控訴趣意書

被告人 株式会社西武ゴルフサービス

同 株式会社日比谷ゴルフ

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき次の通り控訴趣意書を提出する。

平成三年一一月二一日

右被告人ら

弁護人 関口澄男

大阪高等裁判所第二刑事部 御中

一、本件公訴事実については、争いません。

二、控訴に至った事情

本件法人税法違反事件のほ脱税額が多額にのぼり、かつほ脱税率も高く、被告人らの刑責が重大であることは十分承知しています。

また第一審判決が被告人らに対する求刑である罰金六、〇〇〇万円を窮状等を特に考慮し五、〇〇〇万円とされた点も有難く感謝致しております。

しかし右金額の納付することは現在の被告人らとしては不可能に近く、かつ被告人株式会社日比谷ゴルフも全社一丸となっての営業努力に拘わらず日常の運転資金の捻出に苦慮する状況です。これは、第一審係属中からの原因に拠るものですが最近特に急激に悪化してきました。そこでは社員および家族の生活等もご配慮いただきかつ被告人らの資力等に再度のご検討をいただきたく本件控訴に至ったものです。

三、被告人会社等(以下西武ゴルフ、日比谷ゴルフと略記)の沿革等

1.西武ゴルフは従前石原壽雄の個人事業でしたが昭和五七年八月六日法人化し、北区南森町二丁目二番二号所在の南森町千代田ビルを本店とし営業してきました。当初、資本金五〇〇万円従業員七~八名でしたが、昭和五九年一一月資本金を一、〇〇〇万円に増資し、従業員も約一〇名となりました。

営業も順調に推移し関西の大手企業の一社に成長しています。

2.石原は、かねて東京進出を計画し、昭和五九年六月一三日東京都中央区銀座三丁目一〇番一四号東銀ビルに本店を設立し(昭和六一年一月一三日には銀座ブラジルビルに移転)諸田浩一を責任者とし竹鼻哲治、山田國夫を東京に派遣し、石原は一ケ月に一度の割合で上京しました。昭和六一年七月には大阪市北区の新山本ビルに日比谷ゴルフの大阪支店を設置し、業績は順調に拡大発展するかにみえました。

3.しかるところ、前記諸田らを中心とし昭和六一年秋頃より営業が拡大発展しているにもかかわらず給料が少額であると主張し、営業方針等あらゆることに苦情を述べ他の従業員も煽動するに至りました。昭和六二年三月には日比谷ゴルフ東京本店の会社帳簿、預金通帳、在庫ゴルフ会員権証書等すべて搬出されるまでに至りました。

そこで同年三月末日をもって諸田ら東京の社員を解雇し、この影響は大阪にも直ちに波及し西武ゴルフ責任者細江らが「石原がやめないなら我々が辞める」と通告されやむなく退職届を受理することとなりました。これがため西武ゴルフ、日比谷ゴルフの従業員全員(喜多、吉原を除き)が退職するに至りました。

4.右のような経過で西武ゴルフは昭和六二年六月以降営業不能となり、本店も昭和六三年五月まで留守番の女性事務員一人で頑張ってきましたが現在では本店も閉鎖せざるを得なくなりました。

現在、西武ゴルフは事務所も事務員も電話すらない状態で、存在しない会社となっています。

(登記簿上の本店は平成二年一一月五日日比谷ゴルフと同じ北区堂島一丁目一番二五号に移転しています。)

右のような状況になった原因を反省するにその責任が石原の経営管理のマズさにあることは勿論です。また、本件脱税が諸田らに口実を与えたことも事実です。

しかし諸田が石原の親戚関係(実姉諸田花子の長男)にあること、西武ゴルフの代表取締役や日比谷ゴルフの東京責任者として大部分の仕事を任されてきたため他の従業員を自由に動かし、あたかも自己の使用人の如く錯覚し、これがため慢心のあまり、経営権を奪取せんと画策したことに最大の原因があると言わざるをえません。

石原も他の従業員はどうあれ諸田だけはと全面的に信頼してきたことが最大の誤りでした。

5.また本件脱税につき昭和六二年一〇月二六日国税庁の査察を受けブームとなっている「ゴルフ会員権業者」の脱税というニュース価値から各新聞社、テレビにより大々的に報道されました。

ゴルフ会員権業者の営業はスポーツ新聞や普通紙、テレビ等の広告により「売」「買」客を掴むことがまず第一歩ですが、これだけ世間を騒がすと広告も当然自粛せざるを得ず、結局商売そのものも開店休業状態となってしまいました。

また、従業員も揃ってやめたため日比谷を旧に復するだけでも精一杯でした。

以上、西武ゴルフが事実上消滅し、営業体としての実質を喪失したについては被告人ら側の事情だけではなく、諸般の理由もあり、その中には社会的制裁も受けた結果でもあることをご理解いただきたいと思います。

四、西武ゴルフの実態

1.同社の経営状態は弁第二〇号(第八期決算報告書)弁第二一号(同期確定申告書)の通りです。

第八期は一、五〇〇万円の所得を申告し約五〇〇万円の法人税を納付していますがその実態は次の通りです。

損益計算書によれば粗利は八、四六二万円、これに販売費等管理費を控除した営業利益は二、七九〇万円で、支払利息、有価証券評価損等営業外損益を計算すれば経常利益は一、三五四万円となっています。第八期決算報告書では本件脱税に関する前記損益修正益を出し、書面上当期利益処分として別途積立金二億三、〇〇〇万円、次期繰越利益金二一七万円を計上していますがこれが実質の伴わないものであることは裁判官もご理解いただけると思います。次に貸借対照表の資産項目を検討しても実質的資産はほとんどない状態です。

○ 現・預金四、九〇〇万円

富士銀行大阪支店より一億の固定負債があり、同支店の普通預金三、四三八万円があります。なお、平成二年七月三一日決算時法人税府事業税の加算税三、〇五四万円が未払状態で(現在は勿論完済しています)この意味から当時既に余裕はありませんでした。

○ 有価証券四、四五五万円

右の日本精化・NTT等株式であり、決算報告書では必ずしも明らかではありませんが全て富士銀行大阪支店の担保に入れられています。

これがため資産価値はありません。

○ 商品二億五、八〇〇万円

ゴルフ会員権七本ですが内五本は日比谷ゴルフの借入のため大信販・オリックスに担保提供され二本は富士銀行に担保提供されています。

○ 関係会社への貸付金三、六三四万円

右は日比谷ゴルフへの在庫資金貸付金です。

2.第九期の決算書(控訴審で提出予定)による営業状態は次の通り更に悪化しています。

○ 現・預金一三八万円

手元流動性預金はないも同然です。

○ 有価証券四、四二四万円

前記と同じです。

○ 商品一億五、八〇〇万円

前期よりの在庫会員権の未処分会員権です。棚卸資産の評価方法を従前の個別法(仕入れ価額)から低価法(仕入れ値または時価のいずれか低い価額による評価)に変更しました。なお、決算時(平成三年七月三一日)以降更に会員権は値下がりしています。

○ 関係会社貸付金七、九五七万円

前記と同じく日比谷ゴルフへの貸付金ですが同社の運転資金援助のため貸付金が増大しています。

3.まとめ

以上の次第で西武ゴルフは単なる残存資産の管理会社で、罰金支払資金の調達能力もなく、結局日比谷ゴルフに頼らざるをえない状況です。そこで引き続き日比谷ゴルフの経営状態につき申し上げます。

五、日比谷ゴルフの最近の経営状態。

1.諸田らの集団退職およびこれに伴う西武ゴルフの開店休業状態はゴルフ会員権が急激に値上りした昭和六二年三月末以降現出したもので、日比谷ゴルフもこれがため営業上大損失を蒙っています。

また、国税庁の査察に伴う打撃も(自ら招いたものであることはいうまでもありませんが)受けています。

2.同業者の急激な増加

ゴルフ会員権はその後株式、不動産、絵画等の急激な値上りと軌を一にして、おりからの財テクブームに煽られ異常な値上りを示しました。日経産業新聞の主要五〇〇コースゴルフ会員権相場表(この相場表には市場の実勢より約一ケ月のタイムラグがあるとされています)によれば平成二年三月まで異常とも思われる価額の高騰を示しその後一挙につるべ落としに値下がりました(添付グラフご参照)。

このブームに便乗するかの如くゴルフ会員権業者も昭和六一年当時は七〇ないし八〇社(専門業界誌であるゴルフサービスニュースに掲載された近畿地区ゴルフ会員権業者一覧による……なお、正式に登録されていないアウトロー的業者はその二ないし三倍に登るといわれる)でしたがその後急激に増加しバブル経済がはじけた平成二年二月頃は一五〇社に増えています。会員権相場がその後値下がりしているにもかかわらず業者数は増え続け、平成三年六月付現在約二二〇社となっています(同グラフご参照)。

業者として営業するになんらの免許、届出を要せず電話一本で開業できるためであると思います。

他方、取引の対象たるゴルフ会員権は(茨城G・Cの如き特異なケースは別とし)このような急激な増加は望むべくもなく、また名変率は概ね四ないし五%でほぼ一定しています。これがため売買物件を業者間で奪い合っているのが実情です。売客、買客は、複数の業者に声をかけるのが普通とされています。

結局、過当競争により利益率は低下しています。

3.業者間取引と利益率の低下

買い客が多くなると価格が上昇します。業者の仲介の場合売・買の双方から各三%の手数料が入ります。ところが、買い客が減少すると下落し、価格が下落すると更に買い客は静観するため更に下落します。実需が減少しても、業者としては営業を中止することもできないため必然的に業者間取引が増大しますがこの場合手数料は三%のみとするのが慣行で、結局利益率の低下とならざるを得ません。(同グラフご参照)。

4.本社用地の購入

日比谷ゴルフは平成二年三月二九日(会員権相場がピークを示した直後です)三井不動産株式会社より南扇町の土地七二、六坪を金四二億八、六六〇万円にて購入しています。土地購入の目的は本社用地として利用する一方、将来銀行担保として利用することにより運転資金を得ようとしたものです。日本抵当証券株式会社より三一億円、大阪府民信用組合より一二億円すなわち全額を銀行借入により調達しています。

ところが購入直後より不動産価額も大幅に下落し銀行金利は急激に上昇しました。これがため本社ビルの建築も設計段階で中断しあわせて後記営業状態の悪化によりこれを処分せざるを得ない状況に追い込まれています。

しかし、これの処分は買い手そのものが見つけにくい現状では大幅な損失を覚悟せざるを得ず、結局処分価額は三〇億円程度と判断しています。

5.売上高

平成三年一〇月八日、日経流通新聞の各社ゴルフ会員権売買の統計によっても日比谷ゴルフは前年度比二三、四%の売上増となっています。売上高で大阪の大手業者三社に入っています。これも社員一同の営業努力の賜物ですが、売上増に拘わらず、利益率の減少に苦慮しているのが実情で以下具体的にその内容を説明します。

六、第七期決算報告書(提出予定)

第七期は当期損失二億三千万円を計上していますが他方、低価法適用に基づく評価損失として二億七五〇〇万円が計上されています。即ち、その利益自体も少ないのですが、会員権価格の低下による在庫資産の目減りが大きいと言わざるをえない状況です。

ところで、現実には表面的な決算書の数字以上の赤字です。それは以下の通りです。

1.日本抵当証券株式会社に対する平成三年九月二〇日支払金一億七、三四〇万円の支払をストップし、富士銀行に対する同年一一月以降の支払金月額一、〇〇〇万円も同様となっています。

2.平成三年五月三一日現在の在庫商品約六億七〇〇万円は、一一月一五日現在の日経産業新聞相場表により評価すれば約三億九、九〇〇万円に下落しています。

3.土地四三億円は前記の通り見切り処分せざるをえない状況に追い込まれていますがこれが処分したとしても土地購入借入金が長期借入として残存することとなります。

4.建設仮勘定二、九九七万八、〇〇〇円は本社ビル設計費用等であり資産の部に計上されていますが実質は損失です。本社用地を売却処分すれば決算上も損失に計上せざるを得ないこととなります。

5.貸借対照表上の現・預金二億五、〇〇〇万円は銀行支払もストップしている状況では、ほとんどなくなっており運転資金にも窮する実情です。

以上の次第で、大変苦しい現状で政府は一一月一四日臨時政策委員会で第二次公定歩合引き下げ(〇.五%)を実行しましたがこれが末端の日比谷ゴルフごとき会社まで効果が及ぶには長期間を要すことは明らかです。また、かっての如き財テクブームは今後有りえないことです。

七、日比谷ゴルフの存続の必要性

同社は、業界においては大手と評価されているものの典型的中小企業であり、歴史も浅くその社会的必要性につき一般的な評価を得ているとは言えないかもしれません。

しかし、同社としては、本件事件後は経理処理も厳格にして全てをオープンにし脱税額も当然のことながら全額支払い、従業員も新規に雇用し、事業を拡大発展させてきました。また業界の発展のため微力を尽し経営改善に努力しています。

1.従業員は現在四〇名(内役員五名)で、若い従業員が多く、それでも扶養家族は三三名です。全員会社の発展のため頑張ってくれています。

2.会員権業者は零細企業が多く、かねてその組織化・共同化の必要がありました。そこで日比谷ゴルフは率先して次の会を提唱し結成してきました。

○ 西日本会員権取引業協会(平成三年一月一四日設立 会員数二八社)

右協会は、会員の自主的経済活動を促進し、その経済的地位の向上を図ることを目的とするもので、共同の販売・仕入・宣伝・市場調査・情報収集等・知識の普及のための教育・福利厚生事業等を具体的活動としています。事務所は、当分の間、日比谷ゴルフ内で行ない実質的には日比谷が立案、実施している事業が多い実情です。

○ ヒットの会

日比谷ゴルフが中心となり情報(ゴルフ会員権売買に必要な各ゴルフ場の名義変更に必要な諸条件や相場の推移等)を会員にFAX送信することで平成元年七月より開始しました。平成二年五月より日比谷ゴルフにホストコンピューターを設置し各社の端末と交信しリアルタイムの情報を提供しています。

以上、日比谷ゴルフとしては誠心誠意会社の発展に業界の地位向上に頑張ってきています。しかし、時我に利有らず、このような努力にも拘わらず、本件罰金もその納付に苦慮している次第で、まことにお恥ずかしい次第ながら再度のご配慮をお願い致したく本件控訴に至ったものです。

以上

<省略>

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