大阪高等裁判所 平成3年(く)66号 決定 1991年4月10日
少年 M・H(昭49.5.4生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、少年作成の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用するが、論旨は要するに、少年を中等少年院に送致する旨の保護処分をした原決定は、短期処遇の勧告をしなかった点において著しく不当であるので、その取消を求める、というのである。
そこで、所論にかんがみ少年保護事件記録及び少年調査記録を調査して検討するのに、少年は、小学校5年生のころから家出を繰り返し、中学1年の時、家出中にフェリー客室内で窃盗(置引き)を犯して教護院に収容されたが、同院を逃走して同様の非行を繰り返したほか、同院退院後も同様の非行を重ね、平成2年1月22日(中学3年時)保護観察に付せられたにもかかわらず再び家出して同年7月4日から9月6日にかけての本件各窃盗(深夜の侵入盗)を犯し、同年10月22日原判示第1、第2、第4及び第5の事実(第3の事実は未発覚であった。)につき調査官の試験観察に付されるとともに原判示のとおり補導委託された。ところが、平成3年1月13日上司に対する不満から委託先を飛び出し、担当調査官や両親に連絡せず、家出状態で同月15日から2月2日にかけての本件各窃盗(他に判示遺脱の非行があることは後示のとおり)を反復累行したもので、その窃盗の手口は悪質化し非行性の程度に深化がみられるほか、自己統制力が乏しいのと、家族との情緒的な結びつきが弱いため、家出をしては盗みを繰り返すという性癖の矯正は容易でないことが認められる。これに本件の罪質、態様、被害の状況のほか前記各記録に現れた少年の資質、保護者の保護能力等の諸般の事情に徴すると、社会内処遇によっては少年の再非行を防止し少年を教化改善することは困難であるうえ、少年の内面にある問題性は短期問の施設収容では対応しえないと認められ、相当期間の施設収容による矯正を必要とすると考えられる。してみると、原決定が少年を中等少年院に送致し、それにつき短期処遇の勧告をしなかったことが著しく不当であるとはいえず、論旨は理由がない。
なお職権をもって調査するに、記録によると、検察官から送致された非行事実には、原判示の各非行事実のほか、「少年は、平成3年2月4日午前零時47分ころ、京都市右京区○○町××番地○○株式会社○○センターにおいて、同社取締役会長○○保管管理にかかる同センター出入口の鍵、同社所有の軽四輪自動車のエンジンキー等鍵8点(時価合計5600円相当)を窃取したものである。」旨の事実(司法警察員作成の平成3年2月5日付少年事件送致書)があり、原裁判所は右事実についても、これを審判の対象としていたことが明らかであるところ、右事実を認めるに足る証拠があるのに、原決定が右事実を「非行事実」として示さなかったのは、少年審判規則36条に違反しているものといわざるを得ないけれども、前記のとおり、右事実を除く原判示の非行事実だけでも、少年の要保護性が高いことと相まって少年は中等少年院送致決定を免れない(なお、長期処遇が相当である。)ものであるから、本件において右法令違反を理由に原決定を取り消し事件を原裁判所に差し戻した場合に、少年の保護育成について生じる種々の不都合を合わせ考えると、右法令の違反は決定に影響を及ぼさないと解するのが相当である。
よって、少年法33条1項、少年審判規則50条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 池田良兼 裁判官 浦上文男 飯田喜信)
抗告申立書
少年氏名 M・H
上記の者に対する窃盗保護事件について、平成3年3月12日中等少年院送致の旨決定の言渡を受けましたが下記の理由に依って不服につき抗告を申し立てます。
平成3年3月14日
抗告申立人 M・H指印
大阪高等裁判所御中
抗告の趣旨
抗告する理由
1 試験観察中の仕事先の状況などを調査せずに私をその仕事先に捕導をまかせ、結果どうしてこうなったのかという事をあまり重視せず、ただ試験観察中に事件をおこしたからといって、あまり試験観察中のことについて調査をしてもらえなかったと思うからであります。
2 今まで教護院にも入院し、保護観察処分にもなり、試験観察処分にもなって、少年院送致になるのも仕方ありませんが、最初から長期とは重いと思いますので、短期処遇観告が適当だと思います。
以上が抗告する理由であります。