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大阪高等裁判所 平成3年(ネ)1003号 判決 1992年9月30日

控訴人(被告) 日清シスコ株式会社(旧商号シスコ株式会社)

被控訴人(原告) ケロッグカンパニー 外一名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二事案の概要

一  本件は、被控訴人ケロッグカンパニーは商標法及び不正競争防止法に基づき(選択的請求)、被控訴人日本ケロッグ株式会社は不正競争防止法に基づき、控訴人に対し、シリアル食品の容器包装に原判決別紙標章目録記載の標章を附すこと、右食品の容器包装に右各標章を附したものを販売すること、又はシリアル食品に関する広告に右各標章を附して展示、頒布することの各禁止、その所有するシリアル食品の容器包装及びシリアル食品に関する広告からの右各標章の抹消及び原判決別紙広告目録記載の内容の謝罪広告を求めた事案である。

二  当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実

原判決二枚目裏一〇行目から同七枚目表七行目まで〔知裁集二三巻一号二六七頁一行目から二七〇頁一〇行目まで〕に記載のとおりであるから、これを引用する。

三  主な争点

次に付加するほかは、原判決七枚目表九行目から同一四枚目裏末行まで〔同上、二七〇頁一二行目から二七六頁一五行目まで〕に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原審争点に関する控訴人の補充主張

本件商標の権利範囲は、商標法二六条一項二号により、控訴人標章には及ばないことにつき、以下のとおりさらに敷衍する。

(一) 本件商標「KRISPIES」は、「パリパリする」「カリカリする」との意味をもつ英語「CRISPY」(同様の意味をもつ形容詞「CRISP」の派生語である。)をもじって、頭文字の「C」をその発音は変更することなく「K」に置き換え、末尾の「Y」をその複数形を表す「IES」に置き換えた造語商標である。

被控訴人ケロッグカンパニーが、そのもととなった「CRISPY」について商標権を取得せず、わざわざこれをもじった「KRISPIES」で商標権を取得したのは、後記のとおり「CRISPY」及び「クリスピー」が、食品業界において品質表示語として普通に用いられている用語であって、商標法三条一項三号により、商標としての登録要件を欠くからに他ならず、同被控訴人はこれを十分認識して造語による登録出願をしたのであって、本件商標の権利範囲が、そのもととなった「CRISPY」及び「クリスピー」に及ぶことはあり得ない。

なぜなら、このような、本来の正常な普通の品質表示語や普通名詞から、発音はほぼそのままにして部分的に外形上の形態を替えたような造語によって登録性を得たものは、その外形上の特殊化に価値があるものであり、その特殊化に登録性が認められたものである。従って、そういう造語の特殊性に登録が与えられたものは商標法三条一項三号、二六条一項二号の趣旨に照らし、その原形となった品質表示語や普通名詞に権利範囲が及ぶようなことはあり得ないのである。これを本件についていえば、本件商標「KRISPIES」の権利範囲は、そのもとになった品質表示語である「CRISPY」及び「クリスピー」に及ぶことはないのである。

(二) 指定商品との関連でその品質性状を普通に用いられる方法で表示される用語・標章が商標法三条では不登録要件に該当し、同法二六条では商標権の効力の及ばない範囲に属するものとされるのは、それが現在あるいは将来必ず一般的に使用されるものであるから、公共の利益のため、一私人に独占を認めるのは妥当でないとされるからである。従って、当該用語・標章が日本語であれ、あるいは日本語化される可能性の高い外国語であれ前記各条は適用されるものであるし、その適用にあたって当該用語・標章が商品の品質を示すものであることの認識は、当該商品の我が国における取引業者にあれば足り、一般消費者が認識することは要しないというべきである。

(三) 本件商標のもととなった「CRISPY」とその字音「クリスピー」は、前述のとおり「パリパリする」「カリカリする」との意味をもつ一般的形容詞であるが、その訳語である日本語「パリパリする」「カリカリする」は擬音的、幼児語的であり、他に適切かつ歯切れよく表現できる日本語が見当たらないこともあって、我が国においてもこれが外来の日本語として使用され、ことにそれは主として食品の品質表示語であることから、食品業界における品質表示語としてなくてはならない日本語になっている。

現に、食品関係の公開特許公報や公告公報に「パリパリする」というような食感を表示する品質表示語として多用され、また、食品業界において「クリスピー」もしくは「クリスプ」という言葉を用いている商品例及び商品における表示例は数えあげればきりがなく、取引業者あるいは需要者にとっても「クリスピー」が品質表示の言葉として認識されていることは明らかである。また、日本における各種の外来語辞典、情報語辞典等においても「クリスピー」もしくはそれに関連する言葉が掲載されており、この点からも、「クリスピー」が既に常用の日本語として、需要者も含む一般大衆に現に知られているか、知られ得る言葉になっていることが示されている。さらに、特許庁の審査においても、商品区分第三二類加工食料品等の指定商品に係る一一例について「CRISPY」も「クリスピー」も品質表示を示す用語であるからとして登録を拒絶している。

右のとおり「クリスピー」は、既に、食品の品質を表示するためになくてはならない常用の日本語となっていると認められ、その使用態様として「チョコクリスピー」といったように品質表示語を二つ並列的に並べることも、英語の文法の議論はさておき、外来語も含む日本語の用い方としては普通の用法であって、何ら異例ではなく、控訴人各標章は、商標法二六条一項二号所定の品質を普通に用いられる方法で表示する商標である。

3  当審における新たな争点

商標法七四条一号違反の虚偽表示をした者らが、商標法及び不正競争防止法上の保護を受けられるか。

(一) 控訴人の主張

被控訴人らは、被控訴人ケロッグカンパニーが「クリスピー」に関してはいまだ商標権を取得していないのに、「チョコクリスピー」「ライスクリスピー」の包装箱等の「クリスピー」の表示部分の直後に<R>という表示を附し、<R>は米国ケロッグ社の登録商標であると説明し、消費者を欺罔する虚偽の表示をしているもので、これは商標法七四条一号に違反する犯罪行為である。

このような行為をした被控訴人らの、その対象となった表示については、そもそも商標法上に基づく法的保護を与えられるべきでなく、被控訴人ケロッグカンパニーの商標権に基づく請求は許されない。

また、事実に反して<R>を附し登録商標であると偽って公言することは、不正な方法によって「チョコクリスピー」「ライスクリスピー」という標章を独占しようとするものであって許しがたい行為というべきであり、仮に「チョコクリスピー」等に周知性が獲得されたとしても、それは不正な方法により獲得されたものであるから、不正競争防止法による保護も与えられるべきではない。

(二) 被控訴人らの主張

(1)  被控訴人ケロッグカンパニーは、昭和五九年八月に至るまで、邦字商標「クリスピー」の登録商標権者であった(更新手続に関する事務上の手違いから、右商標権はたまたま失効したが、直ちに出願手続を行い、現在に至るもなお審査手続が継続している状況である。)ところ、控訴人指摘の「クリスピー」についての包装箱中の表示は、被控訴人ケロッグカンパニーが商標権者であった時代から引き続き行われていた慣行であったが、平成元年にかかる表示の記載された包装箱の製造を中止させており、同年九月以降は、かかる表示の附された包装箱は一切販売されていない。

右の経緯から明白なとおり、被控訴人らに消費者を欺罔するなどという意図は一切なかったのは勿論のこと、現時点では、被控訴人ら自身によって、かかる表示と実態との齟齬は解消されている。

(2)  被控訴人ケロッグカンパニーの商標権に基づく請求は、欧文字による本件商標「KRISPIES」に基づくものであり、邦字「クリスピー」の登録の有無とは無関係である。従って、過去において一定時期「KRISPIES」とは別に邦字「クリスピー」に関して附した表示が事実と齟齬していたとしても、被控訴人ケロッグカンパニーの本件商標権に基づく請求とは全く無関係である。

(3)  被控訴人らの不正競争防止法に基づく請求も、控訴人指摘の「クリスピー」についての包装箱中の表示によって何らの影響を受けるものではなく、無関係である。

けだし、控訴人は「チョコクリスピー」等の標章の周知性が、控訴人指摘の表示によって獲得されたかのように主張するが、右周知性は、長年にわたる、かつ膨大な資金を投下した宣伝広告活動と広範な販売活動の成果であって、右表示によって得られたものでは何らないのである。

第三当裁判所の判断

以下においては、原判決が請求を棄却したホ号標章の使用の差止等に関する請求及び謝罪広告請求部分について、被控訴人らは不服申立していないから、当裁判所は、右に関する部分についての判断はしない。

一  被控訴人ケロッグカンパニーの請求について

1  原審争点1(控訴人がニ号標章を使用しているか否か)について

当裁判所も控訴人がニ号標章を商標としてこれを使用していると認めるが、その理由は原判決一五枚目表五行目から同裏二行目まで〔知裁集二三巻一号二七七頁一行目から同頁五行目まで〕に記載のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決一五枚目表八行目〔同上、同頁二行目〕の「栄養は』」の次に「あるいは『ライスクリスピー一食分(フローストクリスピー三〇g+牛乳一五〇cc)の栄養は』」を加え、同一〇行目〔同上、同頁三行目〕の「栄養分」を「栄養成分」に改める。)。

2  原審争点2(本件商標とイ号ないしニ号各標章との類否)について

当裁判所もイ号ないしニ号各標章は全体として本件商標に類似し、イ号ないしニ号各標章を控訴人各商品の包装箱及び広告に附している控訴人の行為は、本件商標に類似する商標を本件商標の指定商品について使用する行為にあたると認めるが、その理由は、次に付加訂正するほか、原判決一六枚目裏二行目から同二二枚目裏二行目まで〔同上、同頁末行から二八二頁二行目まで〕に記載のとおりであるから、これを引用する。

(一) 原判決一六枚目裏二行目から一二行目まで〔同上、二七七頁末行から二七八頁五行目まで〕を次のとおり改める。

「(一) 本件商標『KRISPIES』は、アルファベット文字を横書きしてなる造語商標であって(争いがない。)、取引者層及び需要者層に属する者がそれを読む場合、その文字に従って、『クリスピース』あるいは『クリスピーズ』と発音すると考えられ、それと同一の称呼を生じるものと認められる。

これに対し、被控訴人ケロッグカンパニーは、本件商標は『クリスピー』の称呼を得るに至っている旨主張するところ、なるほど本件商標は、『パリパリする』『カリカリする』との意味の英語の形容詞である『CRISPY』からの造語(頭文字を『K』に置き換えるとともに語尾の『Y』を『IES』に置き換えて造語としたもの。)と認められるが(甲七五、弁論の全趣旨)、そのもととなった『CRISPY』の語は、後記認定のとおり我が国における取引者層及び需要者層に属する者のうちの多くの者にとって学習する機会のない英単語であること等から、取引者層及び需要者層に属する者がこれを読む場合に、『CRISPY』及びその字音である『クリスピー』を想起して、本件商標についても『クリスピー』と発音するとは考えられず、その他本件全証拠によっても、本件商標が『クリスピー』の称呼を得るに至っている旨の被控訴人ケロッグカンパニーの主張はこれを認めることができない。」

(二) 原判決一八枚目裏末行〔同上、二七九頁一二行目〕の「in」を「′n」に、同一九枚目表末行〔同上、同頁末行〕の「事例」を「事例等」に、同二〇枚目表七行目〔同上、二八〇頁一〇行目〕の「事例が」から同一二行目〔同上、同頁一二行目〕の「存し(乙二三)、」までを「事例、ピザ製品に関し、包装箱に『クリスピースナックピザ』との表示を使用した事例、ピザのメニュー中の生地の種類の表示に関し、『クリスピー Light Crispy』を使用した上、『クリスピー・薄くてパリッとした生地』と注記した事例、『シリアルチョコレート』という商品名の菓子製品の包装箱中に『クリスピーなスナック』と記載した事例、ビスケットの商品パッケージ中に『こんがりクリスピー』と記載した事例、『玄米プラス』という商品名のシリアル食品の包装箱の商品説明中に『クリスピーな食感』と記載した事例、『ライスクリスプ・シュガー』『ライスクリスプ・チョコ』という商品名のシリアル食品の包装箱の商品説明中に『サクッとクリスピーに仕上げました。』と記載した事例、コーンフレーク製品の包装箱中に『パリッとCRISPY』と記載した事例、同じくコーンフレーク製品の商品パッケージの商品説明中に『香ばしくてサクサク!とうもろこしの風味を生かし、クリスピーに仕上げました。』『香ばしくてサクサク!とうもろこしの風味を生かし、クリスピーでさっぱり味に仕上げました。』と記載した事例、ポテトチップの包装箱に『A crispy and light snack』と記載した事例、クランチチョコレートの包装箱の原材料表示中に『ライスクリスピー』と記載し、あるいはその包装箱中の商品説明に『クリスピーライスいっぱいのミルクチョコレート』と記載した事例、『ポケメシ』という商品名の穀類調製食品(シリアルバー)の商品パッケージの原材料表示中に『米加工品(ライスクリスピー)』と記載した事例等が存し(乙一の一ないし一八、乙二〇、乙二一、乙三四、乙三五、乙三九の一、二、乙四一ないし四四、乙四五の一、二、乙四六、乙四七の一、二、乙四八、乙四九ないし五三の各一、二、乙六七の一ないし八、乙六八ないし七八、乙七九の一ないし三、乙九八、乙一〇五、乙一〇七、乙一一七ないし一二一)、食品関係の雑誌中においても『焦げ目やクリスピー(ぱりぱりの感じ)を与えることができない』(食品工業一九八九年三月三〇日号 三七頁)、『……クリスピーな食感を有する場合が多く……』『……フライすることによりクリスピーで変色しないチップを製造することにある。』(フードケミカル一九八七年五月号 七二頁、七七頁)等の『クリスピー』を品質表示用語として使用している例があり(乙三六の二、乙一一一の一ないし四)、食品関係の公開特許公報、特許公告公報においても『クリスピーな食感』『パリパリした性質(以下、クリスピー性という)を失わない』『クリスピー性に基づく食感』『パリパリとしたクリスピー性』『クリスピー(カリカリとした食感)で歯切れの良い食感』等『クリスピー』を品質表示用語として使用している例が見受けられる(乙二三、乙三六の一、乙五四ないし五九、乙一一〇の一ないし一五)。また、永岡書店『最新情報語辞典』、同書店『現代外来語辞典』、朝日新聞社『朝日現代用語知恵蔵一九九二』には『クリスピー(Crispy)』の項が存し、それぞれ『歯ざわりのよい』、『歯ざわりのよい・かりかり〔さくさく〕した』、『<1>パリパリ、サクサク<2>さわやかな、きびきびした』との意味であると記されている(乙二二の一ないし四、乙六一、乙六二、乙六六)。」に、それぞれ改める。

(三) 原判決二〇枚目裏六行目〔同上、同頁一五行目〕の「英単語は、」の次に、「『Crisp』の派生語であるところ、『Crisp』については我が国で発行されている英和辞典において高校で学習すべき単語として登載されているものの、『Crispy』については、」を、同一〇行目〔同上、同頁一七行目〕の「甲五九ないし六五」の次に「、乙六〇の一ないし二六」を、それぞれ加え、同二一枚目表九行目〔同上、二八一頁五行目〕の「注記して」から同裏五行目〔同上、同頁九行目〕末尾までを「注記し、また、ピザのメニュー中の生地の種類の表示に関し、『クリスピー Light Crispy』を使用した事例でも、『クリスピー・薄くてパリッとした生地』としてその意味を注記していることやその他の商品における使用事例においても、『サクッとクリスピーに仕上げました。』『パリッとCRISPY』『香ばしくてサクサク!とうもろこしの風味を生かし、クリスピーに仕上げました。』等、わざわざ同義の言葉を重複して使用していること、食品関係の雑誌や公開特許公報、特許公告公報中において品質表示語として使用されている事例においても『焦げ目やクリスピー(ぱりぱりの感じ)を与えることができない』『パリパリした性質(以下、クリスピー性という)を失わない』『パリパリとしたクリスピー性』『クリスピー(カリカリとした食感)で歯切れの良い食感』等と、かっこ書き等により『クリスピー』の意味を明らかにする記載をしている例があること、最新情報語辞典、現代外来語辞典、現代用語辞典等は、その性格上、より最新の情報を提供すべく、耳慣れない新造語や外来語等をも登載しているものであって(乙二二の一ないし四、弁論の全趣旨)、それらに登載されていることから、直ちにこれが常用語として定着したものとは認められないことに照らすと、前記のような使用事例があるとはいっても、『クリスピー』が日本語として定着し、かつ、これが食品業界においては品質表示語としてなくてはならない日本語となっているとまでは認めがたく、むしろ、いまだ我が国における取引者及び需要者層に属する者のうち多くの者にとっては、『クリスピー』なる片仮名文字又は音から英語の『Crispy』を想起し、引き続いて『パリパリ、カリカリする』といった商品の品質、性状を認識することは不可能というべきであり、イ号ないしニ号標章の『クリスピー』の部分は、前記認定のとおり、自他商品の識別標識として機能する要部と認めるのが相当である。右控訴人主張は採用できない。」に改める。

(四) 原判決二一枚目裏一〇行目〔同上、同頁一一行目から一二行目にかけて〕の「あるが」の次に「(甲六の一、二、甲七、甲五七、検甲三ないし五の各一)」を加える。

3  原新争点3(イ号ないしニ号各標章が、商標法二六条一項二号所定の品質を普通に用いられる方法で表示する標章に当たるか否か)について

当裁判所も、イ号ないしニ号各標章中の「クリスピー」の部分は、単に自他商品の識別標識としてのみ機能し、商品の品質を表示する機能は奏しておらず、商標法二六条一項二号にいう「商品の……品質を……普通に用いられる方法で表示する商標」には該当しないと判断するが、その理由は、以下に付加訂正するほか、原判決二二枚目裏六行目から同二四枚目裏三行目まで〔同上、二八二頁五行目から二八三頁一一行目まで〕に記載のとおりであるから、これを引用する。

(一) 原判決二三枚目表末行の〔同上、二八二頁一五行目〕の「乙二一」の次に「乙三九の一、二、乙四二、乙四三、乙四八、乙四九の一、二、乙五二の一、二、乙七二ないし七六、乙一〇七、乙一一七、乙一一八」を、同二三枚目裏二行目〔同上、同頁一六行目〕の「乙二一」の次に「乙四四」を、それぞれ加え、同四行目〔同上、同頁一七行目〕の「light」を「light」に改め、同二四枚目裏二行目〔同上、二八三頁一〇行目〕の「こと」の次に「(甲六の一、二、甲七、甲五七、検甲三ないし五の各一)」を加える。

(二) 原判決二四枚目裏三行目〔同上、同頁一一行目〕の次に行を変えて次のとおり加える。

「なお、控訴人は、本件商標は『CRISPY』をもじった造語商標であり、被控訴人ケロッグカンパニーが、わざわざ造語商標をもって商標権を取得したのは、『CRISPY』および『クリスピー』が品質表示語として商標法三条一項三号により登録要件を欠くからであり、同被控訴人もこれを十分認識して登録出願したものであるとして、そのような場合には商標法三条一項三号、二六条一項二号の趣旨に照らし、本件商標の権利範囲は、そのもととなった『CRISPY』及び『クリスピー』には及ばないとも主張する(当審における補充主張)。

しかし、なるほど本件商標が『パリパリする』『カリカリする』との意味の英語の形容詞である『CRISPY』からの造語であると認められることは前示のとおりであるが、被控訴人ケロッグカンパニーは昭和四九年八月一日から昭和五九年八月一日まで、邦字商標『クリスピー』を本件商標の連合商標として登録を受けていたこと(甲一の一、二、乙三の一、二)からも明らかなとおり、同被控訴人が本件商標を出願した昭和三二年当時、我が国において『CRISPY』及び『クリスピー』が品質表示語として商標法三条一項三号により登録要件を欠くとされていたとは到底認められず、控訴人の右主張はその前提を欠くものであって、これを認めることはできない。」

4  当審における新たな争点(商標法七四条一号違反の虚偽表示をした者が商標法上の保護を受けられるか)について

被控訴人ケロッグカンパニーが昭和四九年八月一日から昭和五九年八月一日まで、邦字商標「クリスピー」につき、本件商標の連合商標として登録を受けていたことは前示のとおりであるが、被控訴人日本ケロッグは、その存続期間が満了した昭和五九年八月一日以降も、その商品である「チョコクリスピー」「ライスクリスピー」の包装箱等の「クリスピー」の表示部分の直後に<R>の表示を附し、<R>は米国ケロッグ社の登録商標であるとの説明を記載していたものである(甲四、五の各一、検甲一、二の各一、乙一〇四の一ないし三、乙一一六、なお、被控訴人日本ケロッグが、昭和五九年八月一日以降平成元年九月以前まで右表示及び説明をしていたことに関しては争いがない。)。

右は商標法七四条一号に違反する行為であり、右違反に関し、商標法は八〇条において罰則をも規定しているところ、控訴人は、そのような違反の対象となった表示に関しては、商標法上の保護を与えるべきではない旨主張する。

しかし、その違反行為に対する制裁として刑事罰が科せられるからといって、そのことから直ちに、その者の有する権利が民事上の保護を拒絶されることにはならないし、そもそも、被控訴人ケロッグカンパニーの請求は、欧文字からなる本件商標「KRISPIES」に基づくものであって、前記違反表示のあった邦字商標「クリスピー」に基づく請求ではないのであるから、控訴人の右主張は採用できない。

5  結論

従って、被控訴人ケロッグカンパニーの、本件商標権に基づくイ号ないしニ号各標章に対する差止め等に関する請求は理由がある。

二  被控訴人日本ケロッグの請求について

1  原審争点4(被控訴人日本ケロッグ商標「ライスクリスピー」「チョコクリスピー」及び「クリスピー」の周知性取得の有無)について

当裁判所も、被控訴人日本ケロッグの「チョコクリスピー」の商標は、遅くとも、控訴人各商品販売直前の昭和六三年六月ころには、同被控訴人の商品であることを示す表示として周知性を取得し、これが現在にまで至っているものと認めるが、その理由は、原判決二五枚目表二行目から同二八枚目裏七行目まで〔同上、二八四頁一行目から二八六頁一三行目まで〕に記載のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決二五枚目裏九行目〔同上、二八四頁、一一行目〕の「甲四四」の次に「、甲六九、証人田中肇」を、同二七枚目表三行目〔同上、二八五頁九行目〕の「甲五〇」の次に「、証人田中肇」を、同二八枚目裏五行目〔同上、二八六頁一二行目〕の「存しても」の次に「『ケロッグ』社(被控訴人日本ケロッグ)が発売している『チョコクリスピー』なる商品と観念され、かつ、『チョコクリスピー』なる語が『クリスピー』を含むことによって、当然には商品の一般的品質・形状表示語として機能するに至っていないこと前記認定のとおりであるから」を、同六行目〔同上、同頁一二行目から一三行目にかけて〕の「部分も」の次に「独立して」を、それぞれ加える。)。

2  原審争点5(被控訴人日本ケロッグの周知商標とイ号ないしニ号各標章との類似性及び出所混同のおそれの有無)について

当裁判所も、被控訴人日本ケロッグの周知商標「チョコクリスピー」とイ号ないしニ号各標章は類似し、出所の誤認混同のおそれがあり、これによって同被控訴人の営業上の利益が害されるおそれがあると認めるが、その理由は、次に付加訂正するほか、原判決二八枚目裏一〇行目から同三一枚目裏一二行目まで〔同上、同頁一五行目から二八九頁一行目まで〕(但し、同二九枚目表四行目〔同上、二八六頁末行〕の「他方、」から同六行目〔同上、二八七頁一行目〕末尾までの部分は除く。)に記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決二九枚目裏一行目〔同上、同頁五行目〕の「二号」を「ニ号」に、同三一枚目表四、五行目〔同上、二八八頁九行目〕の「によってそれが被告の商品であることを認識しても」を「が附されていても」に、同裏一行目〔同上、同頁一四行目〕の「被告各商品等のシリアル食品」を「控訴人の商品である『チョコクリスピー』及び『米フロストクリスピー』」に、それぞれ改め、同五行目〔同上、同頁一六行目〕の「甲七〇の一ないし三九、」の次に「検甲三、四の各一、乙三八、乙一一五の二、」を、同六行目〔同上、同頁同行〕の「生じている」の次に「(もっとも、被控訴人日本ケロッグは詳らかにしないが、その推定される応募総数〔ちなみに控訴人提出の乙三八によれば、応募総数は一〇万と推定されるとする。〕からみるとその数はごく僅かであり、統計的にみれば果たして有意的な数字であるといえるかどうか疑問がないわけではないが、現実に誤認混同が生じてる事実は否定できない。)」を、それぞれ加える。

3  当審における新たな争点(商標法七四条一号違反の虚偽表示をした者が不正競争防止法上の保護を受けられるか)について

被控訴人日本ケロッグが邦字商標「クリスピー」につき、商標法七四条一号に違反して、連合商標としての存続期間が満了した昭和五九年八月一日以降も登録商標であるとの説明をその商品の包装箱中にしていたことは前示のとおりであるところ、控訴人は、被控訴人日本ケロッグが使用する「チョコクリスピー」等の商標に周知性が認められるとしても、それは不正な方法によって獲得されたものであるから、不正競争防止法による保護を与えるべきではない旨主張する。

しかしながら、その違反行為に対する制裁として刑事罰が科せられるからといって、そのことから直ちに、その者の有する権利が民事上の保護を拒絶されることにはならないことは前示のとおりであるうえ、「チョコクリスピー」が被控訴人日本ケロッグの商標として周知性を獲得するに至ったのは、前示認定のとおりの同被控訴人の宣伝広告活動及び販売活動によるものであって、前記虚偽表示によって得られたものではないから、控訴人の右主張は採用できない。

4  結論

従って、被控訴人日本ケロッグの不正競争防止法に基づくイ号ないしニ号各標章の差止め等に関する請求は理由がある。

三  まとめ

よって、被控訴人らの控訴人に対するイ号ないしニ号各標章の差止めに関する請求を認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 潮久郎 山崎杲 上田昭典)

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