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大阪高等裁判所 平成3年(ネ)1944号 判決 1992年10月16日

控訴人

久保田幸一

右訴訟代理人弁護士

菅充行

浦功

下村忠利

髙瀬久美子

信岡登紫子

被控訴人

エッソ石油株式会社

右代表者代表取締役

エル・ケイ・ストロール

右訴訟代理人弁護士

小長谷國男

今井徹

中嶋秀二

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が被控訴人の従業員たる地位を有することを確認する。

3  被控訴人は、控訴人に対し、六一二三万八〇七三円及び内金三五六八万二一七三円に対する昭和六三年一月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員並びに平成三年四月一日から毎月二五日限り一か月四五万六五五〇円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  第三項につき、仮執行の宣言

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目表四行目と五行目の間に次のとおり加える。

「本件は、被告の機構改革に伴う業務命令を拒否して懲戒解雇された原告が、懲戒解雇事由の不存在、解雇権の濫用等を理由にその無効を主張し、被告の従業員たる地位の確認等を求めたところ、原審がこれを棄却したため、原告が控訴した事案である。」

2  同三枚目表七行目の「四回」の次に「(ただし、原告は、四回目は争議確認のみと主張)」を、八行目の「争議確認」の次に「(労使双方が労働委員会に争議調整の申請を行なわないことの確認。協約では、この確認後でないと争議行為をすることはできないと定められている)」をそれぞれ加え、九行目「各」を「複数の」と改め、裏四行目の「労使間の合意が成立していない」を「労使間の団体交渉を行なわないでこれを強行するのは不当である」と、五行目の「不参加の態度を堅持し」を「には参加しようとせず」と改める。

3  同五枚目表一行目の「所属職場の変更」を「転勤(労使間の確認書(甲第一〇号証)によれば、支部三役の「所属職場の変更」も含まれる)」と改め、二行目の「(甲第一〇号証)」を削り、裏二行目の「労働加重」の次に「になる」を、五行目の「事項ではない。」の次に「また、大阪支店が同支部との間で、支部三役の所属職場の変更を団交の交渉事項とする旨約したことはなく、右確認書(甲第一〇号証)も真正に成立したものではない。」をそれぞれ加える。

4  同七枚目表二行目の「行ったこと」を「行ない、業務拒否指令を発した大阪支部の委員長らを処分の対象としなかったこと、関東分会連合会の組合員の中にも原告と同様に機構改革に全面的に反対し、新業務に就くことを拒否していた者がいたのに、これに対しては業務命令書も交付せず、出勤停止一日の処分で済ませていること」と改め、同行目の「懲戒解雇は」の次に「著しく不合理かつ均衡を失する処分であって」を加える。

5  同七枚目裏一行目の「被告は」から四行目の「無効である。」までを次のとおり改める。

「被告は、昭和四六年以降ス労を弱体化させるため様々な策を繰り返し講じてきたものであり、原告の所属する大阪支部に対しても同様であった。殊に、昭和五七年九月一六日にはホテル阪神において、支部の組織を壊滅させるため、被告大阪サービス・ステーション支店の労務担当者が組合の活動家の解雇を含む対策を協議するまでに至った。原告は昭和四九年八月に大阪支店に転勤してから後に組合活動に従事するようになった者であり、本件懲戒解雇処分当時大阪支部執行副委員長であった者であるが、右のような組合対策を進めてきた被告は、原告が組合活動をするようになった当初からその活動に干渉するようになり、賃金、一時金においても差別的取扱いをするようになったところ、本件機構改革に際して、大阪支部の組合員中唯一のセールスマン職にあった原告を第一の標的とした上、懲戒解雇に至る形を周到に整えて本件懲戒解雇処分を強行するに至ったものであって、これが労組法七条一号の不当労働行為に該当することは明らかである。」

6  同七枚目裏六行目の「本件機構改革」の前に次のとおり加える。

「被告がかつてス労の組合員に対し不当労働行為をしたような事実は一切ない。これは、被告と組合間の労使紛争に起因し組合が労働委員会に申し立てた不当労働行為救済申立事件や、各地の裁判所に係属した様々な民事・刑事の事件が、最終的にはほぼ被告の全面勝利に終っていることからも明らかである。原告主張の「九・一六ホテル阪神会議」なるものは何の根拠もないことであるばかりか、そもそも本件懲戒解雇以降の出来事であるから、そのことから本件懲戒解雇の不当労働行為性を推測することができないことは明らかである。原告の被告社内の経歴、原告が本件懲戒解雇当時大阪支部の執行副委員長の地位にあったことはいずれも認めるが、原告の組合活動歴は知らない。原告の組合活動に対し被告が干渉したり、それを理由に差別的取扱いをしたことは否認する。」

第三争点に対する判断

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断するが、その理由は次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決八枚目表六行目の「原告」の次に「(原審及び当審)」を加え、裏五行目の「営業本部」を削り、一一行目の「支店」の次に「(東京、大阪、名古屋の三支店)」を、九枚目表七行目の「甲」の次に「第一七、」を、九、一〇行目の「原告」の次に「(原審)」をそれぞれ加える。

2  同一〇枚目表一行目の「原告」から二行目の「いえなかった」までを「全体としての原告の業務負担量が増えることが予想されたわけではなかった」と改め、末行の「第六八、」の次に「第七三、第七四、」を、裏三行目の「原告」の次に「(原審及び当審)」を、末行の「唯一」の次に「人」をそれぞれ加え、一一枚目表一行目の「他の」から二行目の「以降」までを「他支店の従業員も、遅くとも同五七年五月ころまでには」と改める。

3  同一一枚目表六行目の「原告は」の次に「大阪支部の業務命令拒否指令に従い」を、九行目の「五日付で」の次に「従来命じられている業務に至急従事するよう命じる旨の」を、一〇行目の「原告は」の次に「前同様の大阪支部の指令に従い」をそれぞれ加える。

4  同一一枚目裏末行及び一二枚目表一行目の各「旧担当者」を「前任者」と改め、一二枚目表一行目の「旧担当者」の次に「新業務のほか旧業務の」を加え、裏一行目の「あったことから」を「あるとの理由で」と改め、四行目の「原告」の次に「(原審)」を加える。

5  同一二枚目裏六行目の「前記同様、」の次に「機構改革である以上、当然に組合員の労働条件に重大な影響を及ぼすものであるから、」を、九行目の「本件機構改革」から一〇行目の「説明した。」までを「本件機構改革の結果転勤になる同支部組合員はおらず、また、労働条件等について重大な影響を受ける組合員もいないこと等を説明した。」をそれぞれ加える。

6  同一三枚目表一行目の「原告」の次に「(原審)」を、二行目の「覚書」の前に「事前通告義務を怠ったとして」を、一〇、一一行目の「原告」の次に「(原審)」を、裏一行目の「覚書」の前に「重ねて」をそれぞれ加え、五、六行目の「労働条件に関する具体的指摘をせず、」を「合理化・人件費削減のための機構改革である以上、組合員の労働条件の悪化を招き重大な影響を及ぼすことは明らかである、原告久保田にも影響がある等と主張し、」と、六、七行目の「表明した。」を「表明したので、大阪支店側は、原告久保田のテリトリー及び仕事の変更は過去に行なわれてきたものと同程度で、今回の機構改革に伴うものとは考えていない等と答えた。」とそれぞれ改め、一〇行目の「原告」の次に「(原審)」を加える。

7  同一四枚目表三行目と四行目の間に行を改めて次のとおり加える。

「なお、協約三三条には、「会社または組合は争議行為を行なおうとするときは、少なくとも争議開始四八時間前までにその旨を相手方に文書をもって通告するものとする。・・・」と規定されているが、大阪支部が本件機構改革の件に関連してこの争議行為の通告を行なったことはない。」

8  同一四枚目表五行目の「原告」の次に「(原審)」を加え、裏二行目の「の一ないし四」を削り、四行目の「原告」の次に「(原審)」を、八行目の「不当性、」の次に「同処分が原告に確実に通告されていないこと、」を、九行目の「主張し」の次に「処分の撤回を求め」をそれぞれ加え、一一行目の「拒否であること」を「拒否であり、原告個人の問題であって会社としてはこれを撤回する意思はないこと」と改め、一五枚目表七、八行目の「第一七号証、」を削り、一〇行目の「原告」の次に「(原審及び当審)」を加える。

9  同一五枚目裏九行目の「原告」の前に「大阪支部の執行副委員長である」を加え、一〇行目の「二四」を「二四日」と、末行の「求めたが、本部は拒否した。」を「求めたところ、本部は、本件機構改革には反対の立場を採り続けていたものの、この要請には応じなかった」と、一六枚目表一行目の「自らの判断で」を「支部固有の争議権に基づくものと判断して」と、三行目の「本部は、」から四行目の「右闘争は」までを「本部は、原告が出勤停止処分を受けるや、同五七年六月二六日大阪支部に対し、業務命令拒否の戦術の転換を指示し、原告に対してもこれ以上の業務命令拒否闘争は」とそれぞれ改める。

10  同一六枚目表六行目の「本部の」から七行目の「出し」までを「、会社が同月五日付で原告に対し再度の業務命令書を交付したところ」と、八行目の「通告したことから」を「通告し」とそれぞれ改め、一〇行目の「指令」の前に「重ねて」を加え、一六枚目裏三行目の「機構改革」から四行目の「黙認した」までを「機構改革には一貫して強く反対しつつ、被処分者を出すことを恐れ、本件機構改革に基づく業務命令はやむを得ないものとして受け入れる方針をとった」と改める。

11  同一六枚目裏八行目の「肯認」の前に「一応これを」を、九行目の「不利」の前に「原告に」を、一七枚目表三行目の「覚書は」の次に「組合に対する通告義務を定めているだけで」をそれぞれ加え、八行目の「(2)ス労」から裏九行目の「できない)。」までを削る。

12  同一八枚目表二行目の「協約三六条」から一〇、一一行目の「困難である。」までを次のとおり改める。

「しかしながら、

(1) 協約三六条五項には、組合役員(中央執行委員及び会計監査委員)の転勤を行なおうとする場合は、組合と協議する、支部・分会連合会三役(委員長、副委員長、書記長)の場合もこれに準ずる旨の規定とともに、覚書として、五項については会社は組合と充分誠意を尽くして協議する旨の定めが記載されているところ(<証拠略>)、本件機構改革に基づく原告の所属職場の変更が転勤に当たらないことは前記認定の事実関係から明らかであるから、被告会社としては、本件機構改革につき右協約の規定に基づいて組合と協議すべき義務を負うものではないというべきである。したがって、その義務の懈怠を理由に本件業務命令の違法をいう原告の主張は採用することができない。

(2) さらに、(証拠略)(確認書)によれば、本文として「大阪支店支部の組合三役の転勤及び所属職場の変更については労働協約三六条に基づき団交で協議する」旨を記載し、大阪支店長西井正臣、ス労エッソ大阪市(ママ)店支部執行委員長中本靖博の記名押印のある昭和四八年六月五日付の『確認書』と題する書面が作成されて存在することが認められ、右記載内容によれば、支部執行副委員長である原告の所属職場の変更を伴う本件機構改革については、団体交渉により組合と協議しなければならない義務が会社側にあるもののごとくみえないわけではない。しかし、(証拠略)については被告はその成立を否認しているところ、右西井正臣及び中本靖博の記名部分が同人らの意思に基づいて記載されたものであることを認めるに足りる証拠はなんら存在しないばかりでなく、作成名義人である西井正臣及び中本靖博はいずれも、右記名部分は同人らの筆跡ではなく書面そのものにも記憶がない旨述べている(<証拠略>)のであって、これらの点からすれば、右書面が真正に成立したものであると認めるのは困難というよりほかはない。そうすると、右確認書による合意に基づいて本件機構改革につき組合と協議すべき義務が会社側にあったものということはできず、その義務の懈怠を理由とする本件業務命令違法の主張も採りえないというべきである。」

13  同一八枚目裏六行目の「原告ら」を「原告」と、八行目の「被告は」から同行目の「相当である。」までを「右団交における被告会社側の対応が本件機構改革、ひいては本件業務命令を違法ならしめるものということはできない。」とそれぞれ改める。

14  同一九枚目表一、二行目の「拒否し」から四行目の「ならない。」までを「拒否して旧担当業務を継続するとともに、業務命令拒否を理由に本件出勤停止処分を受けた後も、さらに業務命令を拒否し続けたものであって、原告の右行為は、懲戒事由を定めた被告の就業規則六二条五号、一〇号(「会社は、従業員が職場の秩序を乱したとき、六一条のうち特に情状が重いときは、情状により懲戒解雇に処する。」)、六一条三号(「会社は、従業員が職務上の指示命令に従わず、職場の秩序を乱したときは、譴責または減給に処する。」。いずれも<証拠略>)に該当するところ、業務命令の拒否は、使用者の指揮命令権に服して労務を提供することを内容とする労働契約上の労働者の基本的義務の履行を故意に拒絶する行為であり、組織的統一体としての企業の秩序を著しく乱すものであるから、原告の右の行為は、その態様からみて、これを解雇事由としてもなんら不合理ではないというべきである。」と改める。

15  同一九枚目裏二行目の「同支部」から七行目の「できない。」までを次のとおり改める。

「同支部の右指令及びこれに基づく原告の本件業務命令拒否は、ス労本部の意向に反し、業務命令拒否闘争の撤回指令を無視して強行されたものであって、組合の統制を乱す行為であるばかりでなく、それ自体は争議行為ではなくて原告の個人的行為であり、ただその動機のなかに支部の指令が存在していたというにすぎないから、右の事情によって原告の行為が正当化され、懲戒解雇事由に該当しなくなるものということはできない。右の指令を発した支部の幹部がそのことを理由に懲戒処分を受けた事実がないからといって、原告の右の行為の懲戒解雇事由該当性が否定されることになると解すべき根拠はなんら存在しない。」

16  同二〇枚目表五行目の「本件」の前に「つまるところ」を、同行目の「組合員」の前に「大阪支部の」を、裏三行目と四行目の間に次のとおりそれぞれ加える。

「なお、原告は、昭和五七年九月一六日ホテル阪神において被告大阪支店の労務担当者が会合し、大阪支部の組織を壊滅させるため、組合活動家の解雇を含む対策を協議した事実からみても、被告の不当労働行為意思は明らかであると主張するところ、(証拠略)(いずれも昭和五七年一〇月に結成されたスタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合発行のビラ)によれば、被告大阪支店傘下の各支店長らが昭和五七年九月一六日ホテル阪神において会合を持ち、ス労大阪支部組合員への対策を協議し、特に組合活動家である上村、西塚、入江については個人名を挙げて、同人らに対する弾圧の手筈につき周到な打合わせがなされた旨同組合のビラに報じられていることが認められる。

しかしながら、一方、同会議に出席したとされる支店長らの証言(<証拠・人証略>)によると、右同日ホテル阪神で会合が持たれたことは事実であるが、その会合は、各支店持回りによる定例の支店長会議であったこと、当時、大阪支店の職場秩序が非常に乱れ、職場の空気もすさんでいたことから、どうすれば職場秩序を回復し職場のすさんだ空気を解消することができるかが当日の話題の中心となり、その観点からス労大阪支部組合員の勤務振りやこれに対する対応の仕方等についても話題が及んだことはあったものの、当初から大阪支部の組織を壊滅させる目的でス労大阪支部の活動家の弾圧を画策するといったものではなかったことがそれぞれ認められるとともに、右会合自体、本件懲戒解雇の二か月も後の出来事であったことは日時の前後関係から明らかなところであるから、右ホテル阪神における会合とそこでの話し合いの内容から本件懲戒解雇が不当労働行為に当たるものと推認することはできず、原告の右主張を採用することはできないといわなければならない。」

二  結論

以上の次第で、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がないので棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤原弘道 裁判官 白井博文 裁判官 岡原剛)

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