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大阪高等裁判所 平成3年(ネ)2557号 判決 1992年8月26日

控訴人(被告) 株式会社ミキハウス

被控訴人(原告) 三起商行株式会社

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

一  事案の概要は、以下に付加するほかは原判決の事実及び理由「第二 事案の概要」〔知裁集二三巻三号七七六頁一三行目以下〕に記載のとおりであるからこれを引用する。

二  原審争点に関する控訴人の補充主張

1  元来、被控訴人は、特殊なロゴを使用した「miKiHOUSE」ブランドを子供服等の商品のイメージとして植え付けてきたものであり、右ブランドはその視覚的表現にこそ主眼がある。従って、仮に被控訴人表示一「miKiHOUSE」に被控訴人の営業表示としての周知性が認められるとしても、それは、特殊なロゴを使用した視覚的表現である「miKiHOUSE」について認められるのであって、その聴覚的要素である称呼「ミキハウス」自体は何ら周知性を有せず、法的保護の対象ではない。

2  また、仮に被控訴人表示一「miKiHOUSE」が周知性を有しているとしても、それは、あくまで子供服を中心とする衣料部門での周知性に過ぎず、「miKiHOUSE」ブランドには不動産部門における企業イメージを訴えるものは何もない。まして被控訴人は不動産事業に進出する意図もなく、その定款にも不動産取引事業は記載されていないのであって、不動産部門においては全く周知性がなく、控訴人が、不動産業者として株式会社ミキハウスの商号を使用したとしても、被控訴人が不動産事業を行っているとの認識は誰ももっていないし、多角経営の時代といえども、事業化されていない不動産部門について、控訴人が偶然類似した商号を使用したとしても何ら被控訴人の利益を害するところはない。

三  当審における新たな争点

控訴人の控訴人営業表示の使用が不正競争防止法二条一項四号(周知表示の善意の先使用)に該当するか、否か。

四  当審における新たな争点に関する控訴人の主張

控訴人は、平成元年三月から控訴人商号を使用しているものであるが、右当時は、わずかに「miKiHOUSE」ブランドの子供服が散見された程度であって、いまだ被控訴人表示一「miKiHOUSE」は、被控訴人の営業表示としての周知性を有していなかった。そして控訴人は、当然のことながら、右被控訴人表示一を認識することなく、同系会社である「美喜商事」の「美喜」を片仮名化し、これに不動産=建物を意味する「ハウス」を接続して控訴人商号として、善意にその使用を開始し、以降今日に至るまで、被控訴人の事業部門である子供服を中心とする衣料分野には全く関心を示すことなく、自らの不動産事業にのみ専念して事業を展開し、もって、控訴人商号を始めとする控訴人営業表示の善意使用を継続してきた。従って、控訴人の控訴人営業表示の使用は、不正競争防止法二条一項四号により保護されるものである。

第三争点等に対する判断

一  原審争点に関する控訴人の補充主張に対する判断及び当審における新たな争点に対する判断はさておき、その余の争点等に対する当裁判所の判断は、原判決の事実及び理由「第三 争点等に対する判断」〔同上、七八〇頁一六行目以下〕の記載と同一であるからこれを引用する(但し、原判決一一頁七行目から八行目〔同上、同頁末行〕の「一四〇~五六八」を「一四〇~五五六、五五七~五六八の各1、2」に、同一六頁六行目〔同上、七八三頁四行目〕の「三〇」を「約三〇」にそれぞれ訂正し、同一六頁七行目〔同上、同頁五行目〕「又は」から同八行目〔同上、同頁六行目〕「横書」までを削除し、同一七頁三行目〔同上、同頁一〇行目〕「又は」から同四行目末尾〔同上、同頁一一行目末尾〕までを「する等して表示していた。」に訂正する。)。

二  原審争点に関する控訴人の補充主張について

1  補充主張1について

控訴人は、被控訴人表示一「miKiHOUSE」に被控訴人の営業表示としての周知性が認められるとしても、それは、特殊なロゴを使用した視覚的表現である「miKiHOUSE」について認められるのであって、その聴覚的要素である称呼「ミキハウス」自体は何ら周知性を有せず、法的保護の対象外である旨主張するところ、なるほど被控訴人表示一「miKiHOUSE」は、その字体に特徴があるものではあるが、それら視覚的要素のみならず聴覚的要素等をも含む全体が一体として被控訴人の営業であることを表示する標識となっているものであるから、その周知性の判断はその一体としての控訴人表示一についてこれが判断されるべきものであって、これをその要素毎に分断して判断すべきであるかのような控訴人主張は採用できないし、「ミキハウス」の称呼を生ずる被控訴人表示一「miKiHOUSE」が、遅くとも昭和六三年には、被控訴人の営業表示として、近畿地方を中心に日本全国に広く認識されるようになったものと認められることは前項で認定(原判決一一頁六行目〔同上、七八〇頁一七行目〕から同二〇頁八行目〔同上、七八五頁四行目〕まで)のとおりである。

2  補充主張2について

控訴人は、被控訴人表示一は不動産部門では周知性を有しない旨主張するが、当該営業表示が周知性を取得したというためにはその取引者又は需要者において周知であれば足りるというべきであるから、控訴人の補充主張2は、周知性に関する主張としては失当というほかない。

なお、控訴人の主張するところは、むしろ被控訴人表示一と控訴人営業表示とに混同のおそれがあるかどうかに関する主張とも思われる。しかし、この点に関しても、なるほど被控訴人と控訴人とは異業種ではあるが、広義の混同のおそれがあると認められることは前項で認定(原判決二一頁一〇行目〔同上、七八五頁一四行目〕から同二三頁末行〔同上、七八六頁一五行目〕まで)のとおりであって、いずれにしても控訴人の主張は採用の限りでない。

三  当審における新たな争点について

控訴人は、控訴人の控訴人営業表示の使用は、周知表示の善意の先使用(不正競争防止法二条一項四号)であると主張するが、右主張は、控訴人が控訴人商号の使用を開始した平成元年三月時点においては、被控訴人表示一が被控訴人の営業表示としての周知性を有していなかったことを前提とするものであるところ、被控訴人表示一が、遅くとも昭和六三年には、被控訴人の営業表示として、周知性を取得したものと認められることは既に認定(原判決一一頁六行目〔同上、七八〇頁一七行目〕から同二〇頁八行目〔同上、七八五頁四行目〕まで)のとおりであるから、右控訴人の主張は、その余について判断するまでもなく失当である。

第四結論

以上によれば、被控訴人表示一が被控訴人の営業表示として周知であるとして、不正競争防止法一条一項二号に基づき、控訴人に対し、控訴人商号の使用禁止及び抹消登記手続並びに控訴人表示一、二の抹消を求める被控訴人の請求はすべて理由があり、これを認容すべきであるから、これと同旨の原判決は相当である。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 潮久郎 山崎杲 上田昭典)

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