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大阪高等裁判所 平成3年(ネ)911号 判決 1992年9月16日

控訴人(原告) オカモト株式会社

被控訴人(被告) オーツタイヤ株式会社

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2(一)  被控訴人は、別紙イ号方法目録記載の方法を使用して自動車用タイヤの滑止具を製造、販売してはならない。

(二)  被控訴人は、別紙イ号方法目録記載の方法を使用して製造された自動車用タイヤの滑止具を廃棄せよ。

(三)  被控訴人は、控訴人に対し、金三六〇〇万円とこれに対する昭和六三年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二事案の概要

一  本件は、別紙イ号方法目録記載の製造方法が、控訴人の特許権を侵害するとして、右イ号方法を用いて自動車用タイヤの滑止具を製造、販売している被控訴人に対し、その製造、販売の禁止及び製造された滑止具の廃棄並びに損害賠償として昭和六二年八月一日から昭和六三年二月末日までの間の実施料相当額金三六〇〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  争いのない事実及び争点

左記に付加訂正する以外は、原判決の事実及び理由「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決別紙イ号方法目録を当判決別紙イ号方法目録に改める。

2  原判決三枚目表四行目〔知裁集二三巻一号二〇八頁五行目〕の「である。)」を「であるが、うち特許請求の範囲中の『鋼目形成用凹溝』(公報1欄15行)の記載は、明細書のその余の箇所の記載及び後記訂正審判申立の事実に照らし、前記『網目形成用凹溝』の誤記と解する。)」に改める。

3  原判決六枚目裏六行目〔同上、二一一頁五行目〕の「作用効果に」から同七枚目表二行目〔同上、同頁九行目〕末尾までを「作用効果は、後記(三)のとおり、可塑性被覆材を被覆した紐状芯材で網目を形成するという本件発明の新規な構成によってもたらされるものであるが、これらの作用効果のどれもが、特に一本の紐状の被覆芯材をその一本の状態のまま直接プレス型の凹溝内に張って行く方法を用いることによる作用効果というわけではなく、被覆芯材をプレス型外で一旦略網目状に形成する方法、即ち、イ号方法のような半製品製造工程を経る方法によっても何ら変わりなく得られる作用効果であることに照らして考えると、特許請求の範囲にいう「張り廻らして」とは、張り廻らした状態にするという意味であって、張り廻らす方法まで具体的に特定して限定しているものではないというべきである。

特許請求の範囲の文言が、「張り廻らして」とあり「張り廻して」とされていないのは、右趣旨を明らかにした記載というべきである。

従って、半製品製造工程を経るイ号方法にあっても、プレス型内の凹溝内に被覆紐状芯材を「張り廻らして」いることには何ら変わりがない。」

4  原判決七枚目表二行目〔同上、同頁同行目〕の次に行を変えて次のとおり加える。

「(三) 本件発明の構成のうち、従来技術との対比において新規な構成は、可塑性被覆材を被覆せしめた紐状芯材をもって、交差した網目状に形成することにある。そして本件発明は右構成をとることにより、可塑性被覆材を被覆する前段階で芯材を網目状に編むことから出発する従来技術(本件公報1欄24行から33行に記載の従来技術である。)の欠点を克服したもので、本件発明の前記作用効果は、右欠点を克服したことにより得られたものにほかならず、すべて右新規な構成よりもたらされるものである。従って、前記(一)の効果中の「従来方法のように芯材を網目状に編む必要がない」とは、可塑性被覆材を被覆する前段階で芯材を網目状に編む必要がないことを意味するのであって、可塑性被覆材で被覆された紐状芯材を使用し、本件発明の構成を全部備えるイ号方法が、(一)のみならず右全部の作用効果を奏することは明らかであり、イ号方法が半製品製造工程を経るからといって、この点につき何らの異同をきたすものではない。」

5  同七枚目表三行目〔同上、同頁一〇行目〕冒頭の「(三)」を「(四)」に、同裏一〇行目〔同上、二一二頁二行目〕冒頭の「(四)」を「(五)」に、同八枚目表二行目〔同上、同頁五行目〕の「(五)」を「(六)」に、それぞれ改める。

第三争点等に対する判断

一  当裁判所も、本件発明は、当初は網目を有しない被覆紐状芯材をプレス型(このプレス型とは、構成要件(三)のプレス成形用のプレス型である。)の凹溝内に張り廻らすことにより、該プレス型内で初めて網目を形成する方法であり、プレス型凹溝に相当する目孔をあらかじめプレス型外で形成する半製品製造工程を経てプレス成形する製造方法であるイ号方法は、本件発明の技術的範囲に属さず、本件特許権を侵害するものではないと判断するが、その理由は、次のとおり付加訂正するほかは原判決の事実及び理由「第三 争点に対する判断」において説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一一枚目裏一二行目〔同上、二一五頁三行目〕の「プレス型A」の次に「の」を、同一二枚目表五行目〔同上、同頁六行目〕の「プレス型」の次に「A」を、それぞれ加える。

2  同一二枚目裏三行目から同一三枚目裏三行目まで〔同上、同頁一二行目から二一六頁六行目まで〕を次のとおり改める。

「ところで、控訴人は、本件発明の新規な構成は、可塑性被覆材を被覆せしめた紐状芯材をもって交差した網目状に形成することにあり、右<1><2>を含む本件発明の作用効果は、全部本件発明の右新規な構成よりもたらされるもので、半製品製造工程を経るイ号方法にあっても右作用効果を奏する旨主張する。

しかし、被覆紐状芯材を使用して網目を形成する点では共通であるとしても、イ号方法では、半製品製造工程として、あらかじめプレス型外で被覆紐状芯材を網目状に編み、その後右により得られた半製品をプレス型にはめ込む必要があることに照らすと、<1>の効果はこれを奏しないというべきである。また、成形に関しても、イ号方法にあっては、半製品の成形とプレス型にはめ込んでの成形との二段階における成形を行うこととなるから、右<2>の効果を奏しないものである。控訴人主張のように、<1>の効果中の「従来の如くあらかじめ芯材を網目状に編む必要がない」とは、可塑性被覆材を被覆する前段階で芯材を網目状に編む必要がないことを意味するとしても、これに続く、「網目が正確にできないため型にはめ込み難い欠陥を除去する」効果は、本件構成要件(二)の「プレス型内で網目を形成する」手段を用いることによって初めて達せられるのであるから、網目の形成をあらかじめプレス型の外で行う(半製品工程を置く)イ号方法が、右<1>の効果全部を達しえないことは明らかである。

控訴人は、「仮に被控訴人主張のようにプレス型外で一旦略網状にするとしても、これはプレス型の凹溝形状どおりの網目にはなっていない。何故なら、被控訴人のいう半製品は、ゴムが未加硫であり可塑性があるため、変形自在である。いわば、ぐにゃぐにゃなのである。しかも、被覆紐状芯材を曲げた部分はゴムの性質により元に戻ろうとするから、半製品は決してプレス型の凹溝にはめ込みやすいものではなく、半製品製造工程において、略網目状の半製品が得られたとしても、結局プレス型内で特許請求の範囲にいう『網目』を形成するほかなく、イ号方法においても『プレス型内で網目を形成し』ていることは明らかである。」旨主張するが、右主張は、後記2(一)(二)の認定に照らし到底採用しがたく、イ号方法においても半製品をプレス型に容易にはめ込むためには、如何にしてプレス型の凹溝に合致する半製品を製造するかの工夫がなされ、それによって前記<1>後段の効果を挙げていると考えられるから、仮にイ号方法が前記<1>の効果を達するものであっても、それは本件特許方法とは別個の手段によるものとみなければならない。

そうすると、本件発明の作用効果<1><2>は、控訴人が新規な構成と主張する可塑性被覆材を被覆せしめた紐状芯材をもって交差した網目状に形成するとの構成からのみ生じるものではなく、これに加え、右被覆紐状芯材をプレス型の凹溝内において初めて網目状に張り廻らすという構成をとることによって初めて合理的に説明し得る作用効果であるというべきである。」

二  なお、本件特許権について、被控訴人は、進歩性を欠く等主張して特許無効の審判を請求し(特許庁昭和六三年審判第一〇一二八号)、これに対し、平成元年一〇月一二日その請求が成り立たない旨の審決がなされたが、右審決取消訴訟(東京高等裁判所平成元年行ケ第二七二号)の判決においてこれが取り消され、上告を経て(最高裁判所平成三年行ツ第一三四号 平成三年九月二六日上告棄却判決言渡)確定したことが認められるところ(乙一四ないし乙一七)、控訴人は、未だ本件特許権の無効が確定した訳ではなく、かつ、控訴人は平成三年一一月一九日付で特許法一二六条に基づく訂正審判請求を行っており(特許庁平成三年審判第二二六三五号)、いずれこの訂正審決により本件特許権の無効審判請求が再び成立しないものとされること、しかもこの訂正を経ても、被控訴人の実施するイ号方法が本件特許権の技術的範囲に属することには消長がないから、右訂正審決の結果を待たず、本件審理を終結して終局判決にまで至るのは訴訟経済にも反し妥当性を欠く旨主張する(平成四年四月一五日付控訴人の上申書)。

しかし、右訂正審判の結果の確定までにはなお相当の日時を要すると思料されるうえ、被控訴人の実施するイ号方法が本件特許権を侵害するかどうかについての本件における争点とこれに対する前記当裁判所の判断は、右訂正審判の帰趨如何によって何ら左右されるものではない(即ち、右訂正箇所は、特許請求の範囲中、「鋼目形成用凹溝」を「網目形成用凹溝」と誤記訂正し、右「凹溝」についてその「幅方向及び底部に凹凸状を形成」する要件を付加し、「可塑性被覆材を被覆した紐状芯材」の張り巡らし方について更に限定を加えたものであって、その通り訂正されても、イ号方法が「プレス型内で網目を形成する」要件を充足するかどうかの本件判断には何らの影響もない。)から、その結果を待つ必要はないものである。

第四結論

以上によれば、控訴人の請求は、その余について判断するまでもなくいずれも失当であるから、これを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 潮久郎 山崎杲 上田昭典)

イ号方法目録

(1)  プレス型(別紙図面(一)及び(二)の各第2図に示す。)

プレス型Aの表面に、製品15に合致する形状・模様・寸法の凹溝aを形成する。

(2)  半製品(別紙図面(一)及び(二)の各第1図に示す。)

<1> プレス型Aの外において、未加硫ゴム2を被覆せしめたナイロン系の紐状芯材1をもって、凹溝aに相当する目孔を形成した紐状部10を形成し、

<2> さらに、右の紐状部10に加えて未加硫ゴム片12、13、14(図面(二)においては12及び13のみで構成される。)を添付し、半製品11を得る。

(3)  プレス成形工程

<1> 右半製品11を前記プレス型Aの凹溝a内にはめ込んでから、

<2> ホットプレス装置に搬入し、該プレス型Aを上昇して上型に押圧しつつ加熱し、半製品11を型内で加硫しつつ一体成形する。

(4)  製品(別紙図面(一)及び(二)の各第3図に示す。)

プレス型Aから加硫成形品を取り出した後、バリを除去することにより製品15を得る自動車用タイヤの滑止具製造方法。

以上

図面(一)

図面(二)

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