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大阪高等裁判所 平成3年(行コ)35号 判決 1992年9月02日

京都市西京区大枝沓掛町五-六

洛西沓掛団地三棟四〇三号

控訴人

乾均

右訴訟代理人弁護士

南部孝男

京都市右京区西院上花田町一〇番地

被控訴人

右京税務署長 団武夫

右指定代理人

山口芳子

青山龍二

近藤宏一

角佳樹

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(一)  原判決を取消す。

(二)  主位的請求

(1) 被控訴人が昭和六三年二月一〇日付けでした控訴人の昭和六〇年分所得税につき総所得金額を八、〇一五万〇、五〇九円とする更正処分が無効であることを確認する。

(2) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(三)  予備的請求

(1) 被控訴人が昭和六三年二月一〇日付けでした控訴人の右昭和六〇年分所得税の更正処分を取消す。

(2) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の訂正

原判決七頁四行目の「本件更正決定」を「本件更正処分」と、同八頁三行目の「陶芸製造」を「陶器製造」とそれぞれ改め、同九頁一〇行目の「財産分与」の次に「並びに慰謝料」を加え、一〇頁二行目の「による」を「並びに慰謝料としての」と、同三行目及び同五行目の各「本件更正決定」をいずれも「本件更正処分」と、同一一頁九行目の「一、四七一万六、七四八円」を「一、四七一万六、七八四円」と、同一三頁八行目の「譲渡所得金額」を「譲渡収入金額」と、別表3の番号<1>及び<2>の各項目中の各「別表1」をいずれも「別表2」と、それぞれ改める。

2  当審における控訴人の新たな主張

仮に、本件土地につき遺産分割協議がなされたとしても、昭和五八年一〇月九日付け遺産分割協議書(乙第六号証)によれば、控訴人は本件土地(八三平方メートル)のうち宅地四九五・八六平方メートルしか取得しておらず、また同年一二月一一日付け遺産分割協議書(乙第七号証)によれば、控訴人は本件土地のうち山林三四〇平方メートルしか取得しておらず、いずれにしても控訴人は本件土地の一部しか取得していないから、その取得していない部分についてはこれを民子に財産分与ないし慰謝料として譲渡することはあり得ず、この部分の譲渡に対応する本件賦課決定処分の一部は取り消されるべきである。

3  当審における控訴人の新たな主張に対する認否

右主張事実は争う。

三  証拠

証拠関係は、原審記録及び当審記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所の判断は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の訂正

(一)  原判決一九頁九行目の「成立に争いのない乙第四、第一二、第一四号証」を「成立に争いのない甲第四号証、乙第一四号証、控訴人名下の印影を除いて原本の存在及びその成立に争いのない乙第四号証、原本の存在及びその成立に争いのない乙第一二号証、控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七号証」と改める。

(二)  同二三頁四行目の「分割協議が成立していた」を「分割協議が成立し、控訴人が本件土地を相続した」と、同八行目の「遽に」を「直ちに」と、それぞれ改める。

(三)  同二四頁五行目の「成立に争いのない」を「いずれも控訴人名下の印影を除き原本の存在及びその成立に争いのない」と改め、同九行目の「ひろ子」の次に「や民子」を加え、同二六頁初行の「成立に争いのない」を「前掲」と、同三行目の「認められ、」を「認められる。控訴人は、この点に関し、民子への本件土地の譲渡は同女との離婚に伴う財産分与ないし慰謝料の支払としては過大であり、これは同女に対する贈与である旨主張するが、離婚に伴い夫婦の一方から他方に対してなされる財産分与ないし慰謝料の額を当事者が協議によって決する場合にも、一般的には、離婚するに至った原因とか分与ないし支払をする者の支払能力、分与等の対象となる財産の種類・性質・利用状況、分与等を受けるべき者の今後の生活状況等諸般の事情が総合考慮されて、決せられるものであるところ、本件の場合、民子との離婚の原因は前記のようにもっぱら控訴人の不貞行為にあり、しかもその有責性の程度も大きく、そのため離婚することのやむなきに至ったが、これに伴い民子が控訴人に対して財産分与請求権及び慰謝料請求権を取得したことから、本件土地が檜垣家の家業である陶芸業のため「桂窯」の所在する土地であり、今後は民子がその家業を継ぐべき立場にあったため、同女の将来の生活のための財産分与ないし慰謝料として同土地を同女に譲渡することによって右離婚に伴う紛争を解決したものであることが弁論の全趣旨により明らかであり、これら諸般の事情を考慮すると、控訴人が離婚における財産分与ないし慰謝料として本件土地を民子に譲渡したことは、必ずしもその額が過大、過当であるとまではいえず、」と、それぞれ改める。

(四)  同二八頁二行目から三行目にかけての「成立に争いのない乙第一二、第一三号証」を「前掲乙第一二号証、原本の存在と成立に争いのない乙第一三号証」と改める。

(五)  同二九頁四行目の次に改行のうえ、次のとおりと加える。

「4 離婚に伴い、夫婦の一方が他方に対し、慰謝料として不動産等を譲渡した場合には、譲渡者は、相手方に対して負担していた慰謝料債務を、その財産の価額の範囲内で弁済したものであり、当該財産の時価相当額の対価による資産の譲渡があったものと解されるから、その譲渡に対して譲渡所得税が課されるが、同じく財産分与として不動産等を譲渡した場合にも、次の理由により、分与者に譲渡所得税を課するのが相当というべきである。

すなわち、譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるから、その課税所得たる譲渡所得の発生には、必ずしも当該資産の譲渡が有償であることを要しないのであって、所得税法三三条一項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させるいっさいの行為をいうものと解すべきである。そして、夫婦が離婚したときは、その一方は、他方に対し、財産分与を請求することができるが、この財産分与の権利義務の内容が当事者の協議等によって具体的に確定され、これに従い不動産の譲渡等が完了すれば、右財産分与の義務は消滅し、この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができ、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによって、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきであるから、財産分与としてなされた不動産等の譲渡は、譲渡所得税の課税対象となるというべきである(最高裁昭和五〇年五月二七日判決・民集二九巻五号六四一頁参照)。従って、本件の場合、控訴人の民子への財産分与ないし慰謝料としてなされた本件土地の譲渡につき、控訴人に譲渡所得税を課するのはやむを得ないというべきである。」

(六)  同二九頁五行目の「(四)」を「5」と改める。

2  当審における新たな主張についての判断

前掲乙第八、第一八、第二六号証、成立に争いのない甲第三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六、第七、第九、第二四号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、昭和五八年一〇月九日付け遺産分割協議書(乙第六号証)では控訴人が取得する本件土地の面積は宅地四九五・八六平方メートルと記載され、また同年一二月一一日付け遺産分割協議書(乙第七号証)では控訴人の取得する本件土地の面積は山林三四〇平方メートルと記載され、いずれも本件土地全体の面積とは異っているが、右宅地部分と山林部分の各面積を合計すると八三五・八六平方メートルとなり、本件土地の公簿面積とほぼ一致すること、右各遺産分割協議書記載の各面積は、本件土地の固定資産評価証明書(乙第一八号証)記載の現況宅地部分及び現況山林部分の各面積に一致すること、本件土地全体について昭和五八年一二月七日受付で同年四月一〇日相続を原因とする控訴人への所有権移転登記がなされていること、檜垣勝彦が死亡したことによる相続税の申告書は同年一〇月一一日に提出されたが、その後申告漏れの遺産が発見されたとして、同年一二月二六日に相続税の更正の請求書が提出されたことが認められる。

右事実によれば、前記の一〇月九日付け遺産分割協議書は、同月一一日に提出された相続税の申告書に添付するために作成されたもので、そこに記載された本件土地の面積は固定資産評価証明書の記載に影響されてその一部のみが記載されたものと推認されるが、控訴人を含む相続人らは、右遺産分割協議書記載の面積にかかわらず、現況宅地部分と山林部分とを一体として把握し、前記認定のように、控訴人は本件土地を相続する意思を有し、控訴人が本件土地を含む仕事場を相続することは全相続人間で合意され、控訴人が本件土地全体を相続する旨の口頭の合意による遺産分割協議が成立し、それに基づいて控訴人への所有権移転登記もなされたが、その後、先の遺産分割協議書に記載漏れがあることが判明したことから、相続税の更正の請求をすることとなり、その更正請求書に添付するために一二月一一日付け遺産分割協議書が作成されたものであることが明らかである。

従って、相続税の申告に際して作成された前記各遺産分割協議書の記載面積にかかわらず、口頭の合意による遺産分割協議により控訴人は本件土地全部を取得したものであるから、控訴人の前記主張は採用することができない。

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれ棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山中紀行 裁判官 寺崎次郎 裁判官 横山敏夫)

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