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大阪高等裁判所 平成4年(う)476号 判決 1992年9月11日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中一〇〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人及び弁護人江頭幸人作成の各控訴趣意書記載のとおりであるから、これらを引用する。

各控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の主張について

各論旨は要するに、原判決が原判示第一及び第三の各覚せい剤自己使用の罪の証拠として挙示している尿の鑑定書等の証拠能力は、いずれも採尿に至る捜査手続に重大な違法があり、これらを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないので、これを否定すべきであるから、これらの証拠を採用して罪証に供した原判決の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反がある、というのである。

そこで、所論にかんがみ記録を調査して検討するのに、関係証拠によれば、本件各採尿に至る捜査手続に違法な点が認められるものの、この違法の程度は重大とは考えられないから、所論各証拠の証拠能力に欠けるところはなく、当審事実取調べの結果によっても、右の認定・判断は左右されない。

すなわち、原判示第一の覚せい剤自己使用に関する採尿に至る捜査手続は、おおむね原判決が認定するとおりであり、これによれば、原判決が説示するように、警察官が被告人をパトカーまで連行してこれに乗車させ警察署まで同行した行為につき任意同行の許容範囲を逸脱した違法があり、また、パトカー内における所持品検査の方法においても違法の点が認められるけれども、採尿手続そのものには強制その他違法の点がないこと、右の任意同行は、直接にはその直前に被告人が犯した交通違反を端緒とするものであって、被告人から採尿する目的で身柄を拘束したものではないこと(警察官らは当初から被告人に対し覚せい剤事犯の嫌疑を抱き、採尿を目的として被告人を強制的に警察署まで連行したものである、とする所論は、採用しえない。)、更には、その際被告人を道路交通法違反の現行犯として逮捕することも可能であったことなど原判決が指摘する諸事情を勘案すれば、右の違法は必ずしも重大とは考えられない。

所論は、警察官が尿を出せば被告人の交通違反は見逃すとか覚せい剤事犯の逮捕は五月の連休後まで待つという利益約束をする一方で「尿を出さんと交通で放りこんで強制採尿する。」などと脅迫したため、被告人はやむをえず採尿に応じたものであって、採尿手続そのものについても被告人の意思を制圧する違法があったと主張する。

しかしながら、所論がいう利益約束の点は、たしかに被告人が供述するところではあるが、逮捕を遅らせてほしいと被告人が言い出したのは採尿後であるとする関係警察官の一致した原審証言や被告人自身も一度はこれは虚偽の供述であったと自認した経緯等に徴すると、たやすく肯認しがたいといわなければならず(原判決のこの点の認定の誤りは判決に影響を及ぼさない。)、また、脅迫されて尿を提出したという点については被告人自身原審でなんら供述せず当審ではじめて持ち出された弁明であることなどに照らし、これまた容易に肯認できないから、この所論は採用しえない。

次に、原判示第三の覚せい剤自己使用に関する採尿に至る捜査手続は、原判決が認定するとおりであり、これによれば、原判決が説示するように、警察官が被告人を道路上で事実上拘束しパトカーまで連行してこれに乗車させ警察署まで同行した行為につき任意同行の許容範囲を逸脱した違法が認められるけれども、採尿手続そのものは裁判官の発した適式の令状に基づくものであって、もとよりこれに違法の点がないこと、右の任意同行は、直接にはその直前に発生した住居侵入事件を端緒とするものであって、被告人から採尿する目的のみで身柄を拘束したものではないことのほか、被告人は警察署に到着後ほどなくしてすでに発布されていた別件(原判示第一の罪)の逮捕状の緊急執行を受けて適法に拘束され、採尿に関する手続はいずれもその逮捕後になされたものであることなど原判決が指摘する諸事情を勘案すると、これまた右の違法は必ずしも重大とは考えられない。

なお、所論は、免許証等の提出は警察署に着いてからなされたものであって、この手続にも違法があったと主張するが、この所論が採用しえないゆえんは原判決が説示するとおりである。

以上のとおり、所論各証拠の証拠能力に欠けるところはないと考えられるから、これらを採用して罪証に供した原判決には所論がいう訴訟手続の法令違反は認められず、各論旨は理由がない。

各控訴趣意中、量刑不当の主張について

各論旨は、原判決の量刑が不当に重いと主張するので、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討するのに、本件は、覚せい剤の自己使用二件及び窃盗一件の事案であるが、被告人には覚せい剤事犯による前科だけでも原判示累犯前科を含め六犯あることや本件窃盗の被害が甚大であること(現金約二六〇〇万円などの被害)など諸般の事情に徴すると、その刑責・犯情は相当に重いといわなければならず、してみると、被告人が前刑終了後それなりに更生への努力をしてきたことや窃盗の共犯者との刑の均衡など各所論指摘の事情を勘案しても、被告人を懲役四年六月に処した原判決の量刑が不当に重いとは考えられない(なお、原審における未決勾留日数の算入も不当に少ないとは認められない。)。各論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条、刑法二一条、刑訴法一八一条一項但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田良兼 裁判官 石井一正 裁判官 飯田喜信)

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