大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成4年(ネ)1135号 判決 1993年3月26日

控訴人

中田了仁

右訴訟代理人弁護士

杉野忠郷

被控訴人

中田欽也

中田匡美

当審参加人

中田美称子

右被控訴人ら及び参加人訴訟代理人弁護士

酒井信次

主文

原判決を取り消す。

原判決別紙物件目録記載一の土地及び同目録記載二の建物を控訴人の所有とする旨を定めた、昭和五三年一月二五日付亡中田博の遺産分割に関する協議が無効であることを確認する。

訴訟費用は、第一、二審(参加によるものを含む)とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一控訴人の控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二被控訴人らの答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

三参加人の参加請求の趣旨

原判決別紙物件目録記載一の土地及び同目録記載二の建物を控訴人の所有とする旨を定めた、昭和五三年一月二五日付亡中田博の遺産分割に関する協議が無効であることを確認する。

四参加請求に対する控訴人の答弁参加人の請求を棄却する。

第二事案の概要

本件は、被控訴人ら及び参加人が控訴人に対して遺産分割協議の無効確認を求める事案である。

一争いのない事実

1  中田博(以下「博」という。)は、昭和五二年一二月二日死亡し、その遺産として原判決別紙物件目録記載一の土地及び同目録記載二の建物(以下、合わせて「本件不動産」という。)が存在する。

博の相続人は、その妻の参加人、博と先妻中田ユキエ(昭和五〇年九月八日死亡)との間の二男の被控訴人中田欽也(以下「被控訴人欽也」という。)、同三男の被控訴人中田匡美(以下「被控訴人匡美」という。)及び同四男の控訴人である。(長男は死亡)。

2  本件不動産について、被控訴人ら、参加人および控訴人との間で、これらを控訴人の所有とする旨を合意したことが記載された昭和五三年一月二五日付「遺産分割協議書」と題する書面(以下「本件協議書」という。)が存在し、この書面には被控訴人ら、参加人及び控訴人の住所、氏名が記載され、その名下にそれぞれの印影が顕出されている。

二争点

昭和五三年一月二五日付遺産分割協議(以下「本件協議」という。)の成立及びその効力

三争点に関する当事者の主張

1  控訴人

被控訴人ら、控訴人及び参加人は、昭和五三年一月二五日、控訴人方に集まり、博の遺産の分割について協議し、その結果、本件不動産を控訴人の所有とする旨の本件協議が成立した。

2  被控訴人ら及び参加人

被控訴人らはいずれも同日控訴人方を訪ねたことはないし、相続人全員が集まって遺産分割協議がされたことはない。

第三証拠<省略>

第四当裁判所の判断

一前述のように、本件不動産について、昭和五三年一月二五日付で本件協議書が存在し、この書面には被控訴人ら、参加人及び控訴人の住所、氏名が記載され、その名下にそれぞれの印影が顕出されていることは当事者間に争いがないところ、当審における被控訴人ら及び参加人各本人尋問の結果によれば、右各印影は被控訴人ら及び参加人それぞれの印によって顕出されたことが認められ、原審及び当審における控訴人本人は、同日、相続人全員が控訴人方に集まり、本件協議書は、控訴人が書面を作成し、各相続人がそれぞれ押印して四通を作成し、各一通づつを持ち帰った旨供述するところである。

しかしながら、原審及び当審における被控訴人中田欽也並びに当審における被控訴人中田匡美及び参加人各本人尋問の結果によれば、同日は平日であって、勤務を有する被控訴人らが同日控訴人方を訪ねたことはないと認められ、これに反する右控訴人本人の供述は採用できず、同日、相続人全員が控訴人方に集まり、協議した結果、本件協議が成立したとの主張が採用できないのは明らかである。

なお、前述のように、本件協議書に押捺された各印影が相続人らの印によって顕出されたことが認められるので、本件協議書の作成によって遺産分割協議が成立したのではないかとの疑いが生じるので検討するに、本件協議書に顕出された被控訴人らの各印影については、これらが何時いかなる経緯によって顕出されたかは、これを明らかにする証拠はないところ、前記各本人尋問の結果によれば、控訴人は、同月ころ被控訴人らの印影が既に顕出された本件協議書を参加人の住居(本件不動産の一部)に持参して押印を求め、渋る参加人に被控訴人らは納得して押印したなどと述べて強く押印をせまり、参加人においては視力が十分でなくその内容を確認できないまま、やむなく、控訴人のいうままに押印に応じたこと、控訴人及び被控訴人らは、参加人が後妻であり、かつ博と婚姻して約一年程度であったこともあって、参加人が本件不動産に相続による権利を主張することを警戒し、その相続分の割合について弁護士に相談するなどしていたこと、本件協議書の作成には本件不動産を参加人に渡さないようにする目的があったこと、そして、控訴人は参加人から本件協議書に押印を得た後、いやがらせを続けるなどして、参加人が本件不動産から退去せざるを得ないように仕向け、その結果、参加人は同年四月には本件不動産を退去したこと、本件不動産のほか博の遺産としては、博、その先妻ユキエほかの名義の預金があったが、その帰属については何ら協議がされていないこと、本件協議書作成の後、控訴人が本件不動産について登記手続を試みたことはなく、また他の遺産の分割の話もされないまま推移したこと、被控訴人らから平成三年五月に至って遺産分割の申入れがされたが、控訴人はこれに対して当初本件協議の存在を主張せず、右分割協議に応じる姿勢を示していたことの各事実が認められ、これに反する控訴人本人の供述部分は採用できない。これらの事実によれば、本件協議書は、参加人に本件不動産を取得させないための仮装として、遺産分割以外の目的で作成された可能性が大きいといわなければならず、これによって、控訴人と参加人間においてはもとより控訴人と被控訴人らの間においても遺産分割協議の成立を認めることはできない。

以上によれば、本件協議は成立したとは認められず、その効力は有しないものというべきである。

二よって、被控訴人ら及び参加人の本件協議が無効であることの確認請求は理由があり、これを認容すべきであるところ、原判決の被控訴人らと控訴人との間の判決はこれと同旨である。

ところで、遺産分割協議が無効であることに確定した場合、改めて遺産分割の協議をすることが必要となり、右協議が調わないとき又は協議することができないときは家庭裁判所における調停、審判によることとなるが、遺産分割は相続人全員で合意することが必要であるから、遺産分割協議が一部相続人の間だけで無効ということになれば、改めて遺産分割の協議をすることは困難が予想されるし、家庭裁判所が審判をするについては分割を不可能とする場合も予想され、著しく不都合を招来する。したがって、遺産分割協議の無効確認を求める訴えは、相続人全員の間に合一に確定することを要する固有必要的共同訴訟というべきである。しかるところ、本訴は原審において被控訴人らが控訴人を相手として遺産分割協議の無効確認を求めたもので、相続人の一人である参加人を欠いており不適法というべきであったが、固有必要的共同訴訟において共同訴訟人となるべき者の一部を遺脱した場合、その者が共同訴訟参加をすれば、右訴訟の欠缺を補正することができ、第一審が右欠缺を看過して実体判決をしたときは、控訴審においても、遺脱者が共同訴訟参加することによって右欠缺を補正することができるというべきである。そこで、本訴は、参加人が当審において共同訴訟参加をしたことによって適法な訴えとなったものということができるが、右補正前にした原判決がその関与した当事者間では控訴審の判断と同一になるとしてもこれを維持することは困難といわなければならない。すなわち、固有必要的共同訴訟は共同訴訟人となるべき者全員について一個の判決がされるべきであり、原判決はその一部の者に対する判決にすぎないからである。

そこで、原判決を取り消し、被控訴人ら及び参加人の控訴人に対する請求を認容し、訴訟費用については民事訴訟法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官柳澤千昭 裁判官松本哲泓 裁判官西川賢二は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官柳澤千昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例