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大阪高等裁判所 平成4年(ネ)1942号 判決 1993年3月24日

控訴人

岸本翠

都藤克美

岸本厚子

右三名訴訟代理人弁護士

水田博敏

森川正章

岡野良治

被控訴人

鹽津育志

鹽津勝

右二名訴訟代理人弁護士

荒木信之

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

被控訴人鹽津勝は、控訴人岸本翠に対し九四二万〇一三六円、控訴人都藤克美及び控訴人岸本厚子に対しそれぞれ四七一万〇〇六七円並びに右各金員に対する平成元年四月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人らの被控訴人鹽津勝に対するその余の請求及び被控訴人鹽津育志に対する請求をいずれも棄却する。

被控訴人鹽津勝の控訴人らに対する反訴請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審とも、控訴人らと被控訴人鹽津育志との間においては控訴人らの負担とし、控訴人らと被控訴人鹽津勝との間においては本訴、反訴を通じこれを三分し、その一を控訴人らの負担とし、その二を被控訴人鹽津勝の負担とする。

三  この判決は第一項中、金員支払を命ずる部分に限り、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(一)  原判決を次のとおり変更する。

被控訴人らは、各自、控訴人岸本翠に対し一八九四万五六六二円、控訴人都藤克美及び控訴人岸本厚子に対しそれぞれ九四七万二八三〇円並びに右各金員に対する平成元年四月二八日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人鹽津勝の控訴人らに対する請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(三)  第一項中金員支払部分につき仮執行の宣言

2  被控訴人ら

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人らの負担とする。

二  当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目裏四行目の「被害車両」から同八行目の「停止した。」までを次のとおり改める。

「東西に走る県道三木・山崎線と南北に走る国道三一二号線とが交わる交差点(以下、「本件交差点」という。)において、県道三木・山崎線を西方から進入した加害車両と国道三一二号線を南方から進入した被害車両とが出合頭に衝突した。」

2  原判決四枚目表五行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「被控訴人鹽津育志(以下、「被控訴人育志」という。)は、岸本澄鷹(以下、「澄鷹」という。)が本件事故直後に死亡し、本件事故当時の本件交差点の信号灯の表示を目撃していた者が存在しないことを知っていたものであるから、本件事故当時、自己の進行方向の信号灯の表示が青色であったとの主張ないし供述は、これを補充する証拠の存在しない限り、整合性を欠いたり矛盾が認められるときは、それだけで信用性が否定されるべきである。」

3  原判決五枚目表四行目から五行目にかけての「一八九四万五六六一円」を「一八九四万五六六二円」、同五行目から六行目にかけての「九四七万二八三一円」を「九四七万二八三〇円」、同一一行目の「4」を「5」、「認め、」を「認める。」とそれぞれ改め、「同5については否認する。」とあるのを削除する。

4  原判決五枚目裏八行目の次に行を改め、次のとおり付加する。

「三 本訴抗弁

本件事故は、澄鷹の一方的過失により発生したものであって、被控訴人鹽津勝(以下、「被控訴人勝」という。)及び加害車両の運転者である被控訴人育志には何らの過失もなく、かつ、加害車両には構造上の欠陥又は機能の障害がなかったものであるから、被控訴人勝には自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償責任がない。

四  本訴抗弁に対する認否

否認する。

被控訴人育志には、前記のとおり信号無視、制限速度違反の過失がある。被控訴人勝は、同被控訴人が請負ったアルミ雨戸を岡山県下から大阪府下まで運送する仕事について、被控訴人育志に対し、通行料金を節約するために一般道路を通行するように指示し、かつ、制限速度を遵守することが到底困難な運行計画のもとに無謀運転を繰り返させていたものである。」

5 原判決五枚目裏九行目の冒頭の「三」を「五」、同六枚目裏末行の冒頭の「四」を「六」とそれぞれ改める。

三  証拠<省略>

理由

一控訴人らの本訴について

1  当事者

原判決七枚目裏四行目から同六行目までのとおりであるから、これを引用する。

2  事故の発生

本訴請求の原因(二)の事実(原判決三枚目表九行目から同裏八行目まで)は、当事者間において争いがない。

3  事故の状況

(一)  事故現場に至るまでの状況

証拠(<書証番号略>、原審証人岸本曻、原審における被控訴人育志本人、当審における控訴人岸本翠本人)によると、次の事実を認めることができる。

(1) 澄鷹は、昭和一三年二月七日生れで、本件事故当時、株式会社新進岸本という商号で、店舗を構え従業員三名を雇用して、書籍の販売業を営む会社を経営していた。澄鷹は、店舗で書籍の小売の仕事をするだけでなく、書店や雑貨店に雑誌類を配達する仕事を担当することもあった。

澄鷹は、本件事故当日の午前三時過ぎころ、周辺の書店や雑貨店に雑誌類を配達するために、被害車両に雑誌類を積み込み、自宅を出発し、途中一〇数箇所で雑誌類を降ろし、更に配達の仕事を続けるために南北に走る国道三一二号線を南方から北方に向けて進行し、本件交差点に差しかかった。

(2) 被控訴人勝は、本件事故当時、岡山県において鹽津商店という名称で運送業を営んでおり、一年位前よりアルミ雨戸を岡山県下から大阪府高槻市等に運送する仕事を請け負っていた。

被控訴人育志は、昭和四一年六月一一日生れで、被控訴人勝の実子で、本件事故当時、被控訴人勝の営む運送業の営業用普通貨物自動車の運転者として、加害車両を運転して、前記アルミ雨戸を運送する仕事に従事していた。被控訴人育志は、加害車両を運転して、岡山県下から大阪府高槻市等までアルミ雨戸を運送するに当たって、被控訴人勝からの指示もあって、通行料金を節約するため、中国自動車道を利用しないで一般道路を走行していたため、走行距離、所要時間が増加し、かなり無理な運転を続ける結果となっていた。

被控訴人育志は、本件事故当日の午前二時ころ、重さ約二トンのアルミ雨戸を積載した加害車両(四トン車)を運転して、岡山県内の自宅から大阪府高槻市に向けて出発し、東進して東西に走る県道三木・山崎線を走行して本件交差点に差しかかった。

(二)  事故現場の状況

証拠(<書証番号略>、原審における被控訴人育志本人、当審における控訴人岸本翠本人)によると、別紙図面表示のとおり、次の事実を認めることができる。

(1) 本件事故現場は、東西に走る県道三木・山崎線と南北に走る国道三一二号線とが南方から直角よりもやや小さい角度で交わる交差点である。双方の道路とも、幅員5.6メートルで、両側に歩道が設置され、センターラインのある片側一車線のアスファルトで舗装された平坦な直線道路である。

本件交差点には、四基の信号灯が設置されており、終日、青色、赤色、黄色によって交通整理が行われている。信号灯の表示は、時差式で、一方の表示が赤色に変わった後も、四秒を経過しないと交差道路の表示が青色に変わらないようになっている。

本件交差点は、夜間でも四基の信号灯により一様に明るく、加害車両の進入した西方、被害車両の進入した南方のいずれからみてもほぼ同様の明るさとなっている。交差道路から交差点に接近して来る車両のライトの灯りを判別することは困難である。

本件交差点は、四隅とも隅切りの状態となっているが、見通しを妨げる建築物等が存在し、東西南北のいずれの方向からみても、見通しは良好とはいえない。加害車両の進入した県道三木・山崎線から右方向にあたる被害車両の進入した国道三一二号線への見通しは、加害車両が交差点の手前約一三メートルに達して初めて交差点の手前数メートルに達した被害車両の存在を見通すことができる状況である。

(2) 加害車両の走行してきた県道三木・山崎線には、本件交差点の西方約五〇〇メートル、同約三五〇メートル、同約三〇〇メートルの地点にいずれも交差道路があり、信号灯が設置されており、黄色の点滅信号を表示している。

(3) 本件交差点の北側及び西側の道路は時速三〇キロメートル、南側及び東側の道路は時速四〇キロメートルに制限されている。

(三)  事故発生時の状況

(1) 証拠(<書証番号略>、原審証人岸本曻、同大慈彌雅弘、原審鑑定人大慈彌雅弘の鑑定結果)によると、別紙図面表示のとおり、次の事実を認めることができる。

本件事故の衝突地点は、県道三木・山崎線を西方から進入した被控訴人育志運転の加害車両にとっては、本件交差点に進入した直後の地点であり、国道三一二号線を南方から進入した澄鷹運転の被害車両にとっては、交差点にかなり深く進入した地点である。

車両の衝突部位は、加害車両の右前部と被害車両の左側面前部である。

被害車両は、軽量ということもあって衝突によって加えられた外力により向きを北から東に変えさせられて、加害車両の右側面と接したままの状態で衝突地点から東方に約三〇メートル移動して停止した。加害車両は、衝突後、交差点北東側の信号柱、コンクリートブロックに衝突し、店舗の軒先を壊し、左側車輪を道路側溝にとられながら衝突地点から東方に約33.6メートル移動して停止した。

加害車両、被害車両ともに衝突地点から停止位置までスリップ痕を残している。

澄鷹は、本件事故により頭部外傷、肺損傷の傷害を受け、本件事故の状況に関する供述を残すことなく、事故当日の昭和六三年三月二八日午前九時五分ころ姫路市内の病院で死亡した。

(2) 被控訴人育志は、加害車両を運転して、東西に走る県道三木・山崎線を東方に向けて時速約六〇キロメートルの速度で本件交差点に接近していたところ、交差点の南東側の信号灯から約105.5メートル付近に達した際、右信号灯の表示が赤色であったためアクセルから足を離し、ややスピードを落として走行し、右地点から約40.8メートル走行した地点(右信号灯から約64.7メートルの地点)において、右信号灯の表示が赤色から青色に変わったためアクセルに足を置いて時速約六〇キロメートルに加速して走行し、更に二一メートル走行した地点(右信号灯から約43.7メートルの地点)において、二、三回パッシングして、右信号灯から約23.3メートルの地点に接近したところ、南北に走る国道三一二号線を時速三〇キロメートルないし四〇キロメートルの速度で北方に向けて走行して来る被害車両を右前方約8.5メートルの地点で発見し、急制動の処置をとったものの、制動装置が作動する前に加害車両の右前部が被害車両の左側面前部に衝突した、と主張ないし供述をする。被控訴人育志は、本件事故当時、本件交差点における加害車両の進行方向の信号灯の表示が青色であった、というのである。

ところで、交通事故は、予測できない状況のもとに瞬間的に発生するものであるから、事故の状況についての関係者の供述にはある程度の曖昧さや矛盾の残ることはやむを得ないものということができる。しかし、証拠(原審における被控訴人育志本人)によると、本件事故においては、被控訴人育志は、澄鷹が本件事故直後、言葉を発する能力さえすでに失っていたことを知っていただけでなく、午前三時五〇分という時刻に発生したこともあって、本件事故の目撃者も存在しないであろうと思っていたことが窺われるのであるから、本件事故時の状況に関する被控訴人育志の供述は慎重に吟味されるべきである。

被控訴人育志は、前記のとおり本件交差点の手前でパッシングをしたと供述し、その理由として、本件交差点の進行方向の信号灯の表示が青色に変わった直後であったから、交差道路から赤色の信号灯の表示を無視して交差点に進入して来るかもしれない車両に合図をするためにパッシングをした、と主張ないし供述をする。しかし、車両の運転者としては、交差点において進行方向の信号灯が青色を表示していれば、危険を予測するに足りるだけの特段の事情のない限り、格別の処置をとる必要がないものということができる。しかも、先に認定したとおり、本件交差点の信号灯の表示は時差式で、一方の表示が赤色に変わった後も、四秒を経過しないと交差道路の表示が青色に変わらないようになっているから、被控訴人育志の進行方向の信号灯の表示が青色であったというのであれば、澄鷹の進行方向の信号灯の表示は四秒前にすでに赤色であった筈であり、被控訴人育志の進行方向の信号灯の表示が青色に変わった直後であったことはあまり意味がないこと、又、先に認定したとおり、被控訴人育志運転の加害車両が走行してきた県道三木・山崎線には、本件交差点の西方約五〇〇メートル、同約三五〇メートル、同約三〇〇メートルの地点にはいずれも交差道路があって、信号灯が設置されており、黄色の点滅信号を表示しているところ、被控訴人育志は、黄色の点滅信号に差しかかったときには注意しながらそのままの速度で走行すると供述しており、減速もパッシングもしないまま走行することを常としていたと窺われるにも拘わらず、赤、青、黄色の信号灯の表示により交通整理の行われている本件交差点においてパッシングをするという矛盾した行動を執っていること、更に、先に認定したとおり、被控訴人育志は、本件事故当時、育志車両を運転して、岡山県下から大阪府高槻市等までアルミ雨戸を運送するに当たって、一般道路を走行していたこともあって、走行距離、所要時間が増加し、かなり無理な運転を続けていたと窺われること、被控訴人育志の運転していた加害車両は普通貨物自動車であり、本件事故の発生時刻は午前三時五〇分であり、本件事故発生現場は事故発生当時、車両も歩行者も極めて少ない状態にあったことが窺われるのである。このような事情を考慮すると、被控訴人育志が本件交差点の手前でパッシングをした理由として説明する主張ないし供述は、到底納得させるだけの合理的なものということはできないのであって、むしろ、被控訴人育志が主張ないし供述する理由以外に、進行方向の信号灯の表示が赤色であったなど特段の危険な状況の下に交差点に進入したことを疑いうる余地が残されているものとみることができるのである。

4  被控訴人らの責任原因

(一)  被控訴人育志の不法行為責任

以上みたとおり、被控訴人育志運転の加害車両が本件交差点に進入した際の進行方向の信号灯の表示が青色であったという同被控訴人の供述には疑問が残り、同被控訴人の供述のみをもって、加害車両の進行方向の信号灯の表示が青色であったものと断定することは困難というほかはない。そうだとすれば、被控訴人育志運転の加害車両が本件交差点に進入した際の進行方向の信号灯の表示が赤色であった可能性があるが、だからといってこれを断定するに足りるだけの証拠もない。従って、被控訴人育志には本件事故の発生について信号無視の過失があるかどうかは必ずしも明らかではないというほかはない。

又、先に認定したとおり、被控訴人育志運転の加害車両が走行してきた県道三木・山崎線の制限速度が時速三〇キロメートルであること、被控訴人育志が加害車両を運転して、県道三木・山崎線を時速約六〇キロメートルの速度で本件交差点に進入したことを認めることができる。しかし、同様に先に認定したとおり、被控訴人育志運転の加害車両の進入した県道三木・山崎線から右方向にあたる澄鷹運転の被害車両の進入した国道三一二号線への見通しは加害車両が交差点の手前約一三メートルに達して初めて交差点の手前数メートルに達した被害車両の存在を見通すことができる状況であることが認められる。そうだとすれば、被控訴人育志が時速三〇キロメートルの制限速度を遵守していれば、被害車両を発見したのちに衝突を回避するための適切な処置をとることができる状況にあったものと認めることは困難である。従って、被控訴人育志は、制限速度違反の過失により本件事故を発生させたものと認めることはできない。

以上の理由により、被控訴人育志は、本件事故の発生について不法行為者として、控訴人らに対し、澄鷹の死亡による損害を賠償する責任を負わないものというほかはない。

(二)  被控訴人勝の運行供用者責任

証拠(<書証番号略>、原審における被控訴人育志本人)によると、被控訴人勝は、本件事故当時、加害車両を所有し、これを自己の経営する運送業のために使用していたことが認められるところ、先にみたとおり、加害車両が本件交差点に進入した際に進行方向の信号灯の表示が赤色であった可能性がある以上、加害車両の運転者である被控訴人育志に信号無視の過失がなかったことを認めることができないのであるから、他の免責事由を判断するまでもなく、加害車両の運行供用者として、控訴人らに対し、澄鷹の死亡による損害を賠償する責任があるというべきである。

5  過失相殺

先にみたとおり、被控訴人育志運転の加害車両が本件交差点に進入した際の進行方向の信号灯の表示が赤色であった可能性がある以上、澄鷹運転の被害車両が交差道路から本件交差点に進入した際の進行方向の信号灯の表示が青色であった可能性があり、澄鷹に信号無視の過失があったといえるかどうかは必ずしも明らかではないものというほかはない。従って、澄鷹には、本件事故の発生について、過失相殺の対象となる被害者の過失を認めることはできないから、澄鷹の死亡による損害を算定するに当たって澄鷹の過失を斟酌する余地はないというべきである。

6  損害

(一)  逸失利益

証拠(<書証番号略>、原審証人岸本曻、当審における控訴人岸本翠本人)によると、澄鷹は、本件事故当時、五〇才の健康な男子で、前記のとおり、書籍の販売業を営む会社を経営し、給与として年間二七六万円の収入を得ていたことが認められる。従って、澄鷹は、本件事故により死亡しなければ、六七才まで一七年間にわたり少なくとも右収入を得ることができたものと推認されるので、右収入金額から生活費三〇パーセントを控除し、年別ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して、逸失利益を算出すると、二三三三万二五七〇円となる。

(二)  慰謝料

澄鷹の死亡による慰謝料は、本件事故の態様、澄鷹が一家の支柱であったことなどの事情を総合考慮すれば、一八〇〇万円が相当である。

(三)  葬儀費

葬儀費としては、八〇万円が相当である。

(四)  損害の填補

控訴人らが、本件事故により、自動車損害賠償責任保険から二五〇〇万二三〇〇円の支払いを受けたことは、控訴人らの自認するところであるから、右金額を前記損害額から控除すると、一七一三万〇二七〇円となる。

(五)  弁護士費用

弁護士費用としては、本件事案の内容、認容額等から、一七一万円が相当である。

(六)  まとめ

以上合計すると、一八八四万〇二七〇円となるところ、控訴人岸本翠は澄鷹の妻として相続分に応じた九四二万〇一三六円、控訴人都藤克美及び控訴人岸本厚子はいずれも澄鷹の子として相続分に応じた各四七一万〇〇六七円の損害賠償請求権を取得したものと認めることができる。

二被控訴人勝の反訴について

先にみたとおり、被控訴人育志運転の加害車両が本件交差点に進入した際の進行方向の信号灯の表示が赤色であった可能性がある以上、澄鷹運転の被害車両が交差道路から本件交差点に進入した際の進行方向の信号灯の表示が青色であった可能性があり、澄鷹に信号無視の過失があったものと断定することができないものというほかはない。

従って、澄鷹は、本件事故の発生について不法行為者として、被控訴人勝の損害を賠償する責任を負わないというべきである。

三結論

以上の理由により、被控訴人勝は、控訴人岸本翠に対し九四二万〇一三六円、控訴人都藤克美及び同岸本厚子に対し各四七一万〇〇六七円並びに右各金員に対する本訴状送達の日の翌日である平成元年四月二八日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきである。

控訴人らの本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、被控訴人勝の反訴請求は理由がないからこれを棄却すべきであり、右と結論の一部を異にする原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山本矩夫 裁判官福永政彦 裁判官山下郁夫)

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