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大阪高等裁判所 平成4年(ラ)195号 決定 1992年9月07日

主文

一  福岡地方裁判所が平成四年(モ)第二五五三号訴訟受継申立事件について同年二月四日なした決定中、控訴人に対し訴訟手続を受継すべきことを命じた部分を取り消す。

二  右事件について被控訴人からなされた訴訟手続受継の申立のうち、控訴人に対し訴訟手続を受継させることを求める部分の申立を却下する。

三  控訴費用は被控訴人の負担とする。

理由

1  本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載にとおりである。

2  記録によれば、原裁判所は、本件競売手続につき、平成4年2月26日、開札期日を同年4月8日午前10時、売却決定期日を同月15日午前10時と定めて、売却実施命令を発したこと、上記開札期日において、抗告人が最高価買受申出人とされたが、抗告人は法人であるのに、代表者の資格を証する書面の提出がなかったことが認められる。そうすると、抗告人の買受申出は民事執行規則49条、38条3項に違反するのであり、しかも、この違反は、買受申出人の資格に関する重大なものであるから、民事執行法188条、71条7号の売却不許可事由に該当するものと解される。

3  ところで、記録によれば、入札者たる抗告人は本件競売の申立債権者であり、競売申立時に代表者の資格証明書を提出済みであることが認められるところ、抗告人は、このよな場合は、競売記録上代表者資格の存在が明らかであり、入札時に資格証明書の添付がなくても、売却手続に重大な誤りがあるとまではいえない旨を主張する。

しかしながら、上記規則38条3項が法人である入札人に代表者の資格証明書の提出を求めているのは、入札をした法人の存在とその代表権限をこれによって明確にさせるとともに、入札時にをおける入札人の意思を確認し、もって売却手続に瑕疵がなことを期し将来に紛争を防止するためである。そして、同項にはその提出義務を負わない例外の定めがないから、文理上からは文件のように競売手続上既に資格証明書を提出している場合においても再度提出義務があると解されるうえ、抗告人主張に取り扱いを是認すれば、開札期日を実施する執行官は、その都度記録を精査して資格証明書提出の有無を確認しなければならず、その結果、売却手続が繁雑となってその簡易迅速な進行妨げ、手続に安定を阻害するおそれがある。したがって、競売手続上既に資格証明書を提出済みの場合であっても、入札するについて再度提出する義務があるものと解すべきであり、また、入札人が競売人申立人であることによって異別に取り扱い理由はなく、その提出をしないでした抗告人の入札は不適法であって無効というべきである。

4  また、抗告人は、開札期日において一旦最高価買受申出人と決めて以上、売却決定期日の終了までに資格証明書の追完が許される解すべきである旨主張する。

しかしながら、前記にとおり資格証明書を提出しない入札を無効とするものである以上、資格証明書の追完はこれを許されないものと解すべきである。仮に、追完が許されるものとすれば、資格証明書の提出なく入札が不適法な場合にも、執行官がこれを知りながら、入札人が追完することを予定してその者を最高価買受人と定める余地が生じ手続に安定が阻害されるおそれがあるから、手続の安定を期するためには追完は許さない画一的取扱いが望ましく、簡易迅速な不動産競売手続の目的に沿うものというべきである。

5  したがって、抗告人の主張は採用し難く、原裁判所の抗告人に対する売却不許可決定は正当というべきである。

よって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用を抗告人に負担させることとして、主文にとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮地英雄 裁判官 山崎末記 裁判官 富田守勝)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取り消し、抗告人に対する売却を許可する旨の裁判を求める。

抗告の理由

1 本競売申立事件については、平成4年4月8日の開札期日において、一旦抗告人(本競売申立事件の申立債権者でもある)を最高価買受申出人とする旨定められた。しかるに、同月10日に至り、抗告人は、入札の際に提出されるべきであった資格証明書が提出されていない旨大阪地方裁判所より知らされ、そのため、抗告人は、同日資格証明書を追完する旨同庁に申し出たにも拘らず、入札はそもそも無効であるとの理由でこれを拒否された。そして、同月17日、「民事執行規則第38条3項、同第49条所定の代表者の資格を証する文書の添付がない」との理由で、抗告人に対する売却を不許可とする旨の同月15日付売却不許可決定(以下、原決定という)正本の送達を受けたものである。

2 すなわち、原決定の立場は、入札の際に提出されるべき資格証明書が提出されなかった場合には、すべて「売却の手続に重大な誤りがあること」(民事執行法第188条、第71条7号)に該当し、かつ、その追完を一切認めないというものである。

3 ところで、民事執行法第71条7号にいう「売却の手続に重大な誤りがあること」とは、同法や民事執行規則において定められた売却の手続に著しく違反し、適正な手続が保障されたとは到底評価できない場合をいうと一般に解されている。

「売却の手続に重大な誤りがあること」の意義を上記のとおり解釈するならば、本件のように入札をした者(抗告人)が本競売申立事件の申立債権者自身であって、本競売申立事件の記録上「代表者の資格」の有無が明らかである場合には、たとえ、入札の際に資格証明書が提出されなかったとしても、売却の手続に「重大な誤り」があるとまではいえないものである。

また、開札期日において一旦抗告人を最高価買受申出人と定めた以上、実体上「代表者の資格」に全く問題の存しない限り、執行裁判所としては、売却決定期日が終了するまでの間、抗告人からの資格証明書の追完を認めるべきであり、追完を認めたからといって、手続上何らの支障も生じない(手続の安定性や迅速・円滑な進行も全く妨げられない)ことは明白であって、売却手続に「重大な誤り」があるとは到底いえない(仙台高裁平成元年8月15日決定・判例時報1334号208頁も、売却決定期日の終了までの資格証明書の追完を認めている)。このことは、買受人の代理人として入札した者が代理権限を有しなかった場合においても、売却決定期日の終了までに買受人本人がこれを追認すれば、代理権の欠缺が治癒されて売却不許可事由とならないと解されていることとの比較からも明らかである(香川保一監修・注釈民事執行法4巻35頁)。

4 以上、本件においては、入札をした抗告人は、本件競売申立事件の申立債権者自身であって、本件競売申立事件の記録上「代表者の資格」の有することが明白であることおよび売却決定期日までに抗告人は、資格証明書の追完を申し出ていることからすれば、「売却の手続に重大な誤りがある」場合に該当せず、原決定は、直ちに取り消されるべきである。

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