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大阪高等裁判所 平成4年(ラ)35号 決定 1992年3月19日

抗告人 金井正樹 外1名

被相続人 吉田伸一郎

主文

原審判を次のとおり変更する。

被相続人の相続財産のうち預金及び現金の合計金から、金4000万円を抗告人中井道子に、金2000万円を抗告人金井正樹に、金250万円宛を原審申立人らに分与する。

理由

1  本件各抗告の趣旨はいずれも「原審判を取り消す。本件を神戸家庭裁判所に差し戻す。」との裁判を求める、というのであり、その各理由は別紙各即時抗告申立書記載のとおりである。

2  当裁判所の判断

当裁判所は、抗告人ら及び原審申立人らに対する特別縁故者の財産分与としては主文掲記の金額をもつて相当と判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原審判の理由説示と同一であるから、これを引用する。

(一)  原審判3枚目裏10行目の末尾に続いて次のとおり付加する。

「被相続人は妻の死後なんにつけ『道ちやん、道ちやん』と抗告人道子を頼りにし、『道ちやんがいるから安心や』といい、抗告人道子もこれに応えて上記及び後記のとおりよく被相続人の面倒をみた。きよみの従妹で親族中で比較的親しかつた安岡春美は、抗告人道子がいなかつたら被相続人はあの歳まで生きられなかつたと思う旨述べている。被相続人は○○町の民生委員に対しても親戚の名前や住所を明らかにせず、代わりの連絡先として抗告人道子の名を挙げていた。民生委員から要望を聞かれたときも『道ちやんがいるから何もない。何でも道ちやんに任せている。』と答え、昭和62年9月頃『何事もすべてを中井道子に委せます。右に相違ありません。』という文書を作成して抗告人道子に交付した。」

(二)  同5枚目裏2行目の「廃業した」と「昭和」との間に「前年」を挿入する。

(三)  同7枚目表8行目のあとに続いて「同人はきよみの養子であつたが、きよみ名義の財産は何もなかつたため、その生前はもとより死後もめぼしい財産はなにも貰わなかつた。」を付加する。

(四)  同10枚目表12行目のあとに改行して次のとおり付加する。

「7ところで、平成3年10月15日当時における被相続人の遺産は別紙添付財産目録記載のとおりであつて、神戸市○○区×丁目の共同住宅中の店舗居宅(平成元年11月15日現在の評価額は7418万余円。1部を他に賃料月額20万円で賃貸中、残部分は空室)のほか、預金8081万余円、現金97万余円あり、負債は相続財産管理人の立替分3万円足らずである。本件相続財産管理人の弁護士○○○○の意見は、抗告人道子には特別縁故があるので分与相当とあり、その余の抗告人金井正樹及び原審申立人らについては意見がない。」

(五)  同10枚目裏3行目から同13行目までを次のとおり改める。

「抗告人道子は被相続人及びきよみのいずれとも血縁関係はないが、中学卒業後『○○○○○』の住込店員として被相続人に雇用されて以来、好き嫌いが強く偏屈な被相続人とその妻きよみに親しく仕え、被相続人から受ける給料が通常より低額であるにもかかわらず、きよみの病気入院後は店員の仕事のほか被相続人の家事、雑用に従事し、きよみの死亡後独り暮らしとなつた高齢の被相続人に対し8年以上にわたり住居の世話はもとより炊事、洗濯、食事等の身辺の世話、病気の看護に当たり、被相続人の信頼を受けてその精神的な支えになつたほか、被相続人の死後は喪主になつて葬儀及び法要を執り行い、原審申立人らから遺骨を要求されて渡した後も自分なりに供養していく態度を示していることに照らすと、抗告人道子の被相続人に対する貢献度は非常に高いというべきであつて、民法958条の3第1項のいわゆる特別縁故者に該当する。そして、同抗告人に分与すべき財産は、上記遺産の額が預金・現金だけでも8178万円以上あること、特別縁故の程度が高いこと、店員勤務中は月給が比較的安く、廃業の際に退職金を貰つていないこと、しかし低額ながらも被相続人から家政婦代を得ていたこと、その他本件に表れた一切の事情を考慮すると、預金等のうちから金4000万円を分与するのが相当である。」

(六)  同11枚目表2行目から同10行目までを次のとおり改める。

「抗告人正樹は、従妹きよみが長い間被相続人と内縁関係にあり正式な婚姻届けを出すことができなかつたため、頼まれて形式的にもせよ同女の養子となつて金井家の家督を相続し、きよみの入籍を助けたこと、戦中戦後の最も生活困難な時代に被相続人夫婦の生活を援助し、貴重な商品を自分の実家に疎開させて戦災から守り、戦後被相続人が営業再開する基盤造りに貢献したこと、特に戦後の1年間同夫婦を引き取つて生活したこと、同夫婦の墓建立のために自分の墓地を提供したこと等に照らすと、抗告人道子程ではないにせよ同抗告人もまた被相続人の特別縁故者ということができる。そして、同抗告人に分与すべき財産は、上記の点を除いては、被相続人との関係は親族として通常の交際程度にとどまり、むしろきよみの死後は被相続人と意見を異にしたこともあつて疎遠な関係にあり、被相続人が財産を形成するについては妻きよみの尽力があつたと認められる。なお、同抗告人はきよみの養子であるから、同女と被相続人の死亡の先後が逆になつていたとしたら同抗告人だけが相続人となつていたのであり(被相続人は明治28年生まれで93歳まで生きたのに対し、きよみは明治31年生まれで昭和54年1月80歳近くで病死した。)、その可能性も高かつたといえる。以上の遺産の額その他本件に表れた一切の事情を考慮すると、同人の特別縁故の程度は抗告人道子に及ばないとしても、きよみの姪らである原審申立人らよりは高いというべく、本件特別縁故者の財産分与を受ける者らとの均衡も考え、預金等のうちから、金2000万円を分与するのが相当である。」

3  よつて、上記と異なる原審判を主文の額に変更することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 吉田秀文 裁判官 鏑木重明 坂本倫城)

即時抗告申立書<省略>

財産目録<省略>

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