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大阪高等裁判所 平成5年(行コ)1号 判決 1993年8月20日

控訴人(原告) 岬エルピーガス協同組合

被控訴人(被告) 通商産業大臣

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成四年三月二六日付けでなした大阪府泉南郡岬町「深日」「孝子」区域に関する一般ガス供給区域拡張の許可処分(以下「本件許可処分」という。)及びこれに伴うガス供給規程の変更認可処分(以下、「本件認可処分」という。)を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり付加し補正するほかは、原判決事実及び理由第二 事案の概要(原判決二枚目表三行目から同一一行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

原判決二枚目表六行目の「本件処分」を「本件許可処分」と、同八行目の「違反する」を「違反し、これを前提とする本件認可処分も違法である」とそれぞれ改め、同行の「求めている」の次に「(したがって、控訴人は、本件認可処分固有の違法事由を主張するものではないから、本件許可処分についての原告適格の有無が問題となる。)」を加える。

第三証拠<省略>

第四当裁判所の判断

一  当裁判所も、控訴人が、本件各処分の取消しを求めるについて、行政事件訴訟法九条の「法律上の利益を有する」ものと認めることができないので、本件訴えにつき、原告適格を有しないものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事実及び理由第三 判断(原判決二枚目表一二行目から同八枚目裏七行目まで)と同一であるから、これを引用する。なお、以下で「法」というのはガス事業法(昭和二九年法律第五一号)を指す。

1  原判決二枚目表末行から同裏二行目までを削除する。

2  原判決二枚目裏末行から同五枚目裏一〇行目までを次のとおり改める。

「二1 法の事業規制について

ガス事業法は、ガス事業の運営を調整することによって、ガスの使用者の利益を保護し、及びガス事業の健全な発達を図るとともに、ガス工作物の工事、維持及び運用並びにガス用品の製造及び販売を規制することによって、公共の安全を確保し、あわせて公害の防止を図ることを目的とする(一条)ものであるが、同法上、「ガス事業」とは、一般ガス事業(二条一項)及び簡易ガス事業(二条三項)をいい(二条五項)、「ガス事業者」とは、一般ガス事業者及び簡易ガス事業者をいう(二条六項)と定められている。

そして、一般ガス事業と簡易ガス事業については、いずれも、事業の許可(三条、三七条の二)、供給区域等の変更の許可(八条一項本文、三七条の七第一項)、供給条件についての供給規程の認可(一七条一項、三七条の七第一項)、事業開始義務(七条一項、三七条の七第一項)、供給義務(一六条一項、三七条の六第一項)、使用前検査(二七条の四、三七条の七第二項)、技術基準適合維持義務(二八条一項、三七条の七第一項)、ガス主任技術者選任(三一条一項、三七条の七第一項)等種々の公益事業規制がなされている。これは、適正な価格で安定的に、かつ、安全にガスの供給を受けられるという消費者の利益の確保を主眼とし、あわせて、ガス事業者の経営基盤の安定と二重投資の排除という社会経済上の観点からなされているものと解される。

これに対し、政令で定める簡易なガス発生設備においてガスを発生させ、導管によりこれを供給する事業であって、一の団地内におけるガスの供給地点の数が七〇未満のガス供給事業(法二条三項参照)、並びに液化石油ガスの販売事業(以下、これらを「LP業等」、右事業を営む者を「LP業者等」という。)は、同法の規制の対象となるガス事業には該当せず、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(以下「液石法」という。)の適用を受け、同法の製造販売規制を受けるだけであって、ガス事業法上、ガス料金の定め等につき規制を受けることもないし、供給義務を課されることもない。これは、一般に、LP業等の事業規模がさほど大きくなく、その設備費も少額であるうえ、業者間の自由競争が行なわれたとしても、その弊害は、国民経済上、ほとんど問題とならず、また、消費者にとっても、エネルギー選択の自由が制約される事態が生じるおそれもないものと思われるので、LP業等を同法の規制対象から除外し、製造販売規制については、液石法で基準を定めて規制し、安全性を確保することにしたからであると解される。

2  法のガス事業運営の調整について

法は、ガス事業の運営を調整するための機関として、ガス事業者の事業活動の調整に関する重要事項を調査審議し、及びこれに関し必要と認める事項を通商産業局長に建議するところの、学識経験者で構成される地方ガス事業調整協議会を通商産業局に置くことにしている(四〇条の五、六)。

そして、法は、一般ガス事業者間における事業活動の調整を要する場合に、供給について通商産業大臣による許可を要件とし(二三条二項二号)、あるいは通商産業大臣に供給区域調整等の勧告権限を与える(二五条の四)などの定めをし、また、一般ガス事業者と簡易ガス事業者との間における事業活動の調整を要する場合の規定を設け(三七条の四第一項三、四号)、その場合に、通商産業局長は、地方ガス事業調整協議会の意見をきかなければならない(三七条の四第二項)と規定している。

これらの規定を通覧すると、法は、右のガス事業者間に、利害の対立が存在することを前提として、その利害を調整することが、一般ガス事業及び簡易ガス事業の保護育成と効率的で健全な発達に寄与し、ひいては、消費者の利益を擁護するという前記目的に資するものとみているというべきである。

他方、法の規定中に、LP業者等と一般ガス事業者間における事業活動の調整を明記しているものは見当たらないのであって、法は、LP業者等の権利、利益について、特段の配慮をしているものと解することができない。

このような法の趣旨に照らせば、法一条にいう「ガス事業」とは、法二条五項の文理解釈上はもとより、法全体の合理的解釈からしても、一般ガス事業及び簡易ガス事業を指すものと解するのが相当である。

3  法改正の経過と立法者の意思について

ガス事業法は、昭和四五年の第六三特別国会において、<1>一般ガス事業者に対する保安規制の強化、<2>ガス用品の取締り、<3>液化石油ガス等小規模導管供給事業に対する公益事業規制、<4>消費者サービスの向上、という主要な四点について改正されたが、右の<3>の改正点については、一定規模以上(ガスの供給地点の数が七〇以上)の液化石油ガス等小規模導管供給事業を簡易ガス事業として位置付け、公益事業規制によってガスが安定した状態で、しかも、適正な料金で供給されることを担保するとともに、前判示のとおり、一般ガス事業との調整を図ることにしたものである。

ところで、成立に争いのない乙第一号証の1、2によれば、右の法改正において、通商産業大臣及び政府委員は、供給区域内であるならば、消費者は一般ガスが普及することを好み(乙一の1の一六丁二段目)、一般ガスが普及していくことが本来の望ましい姿であって、それを推進することが消費者の利益になるという考え(同一段目、乙一の2の一二丁二段目)を答弁していることが認められる。そうだとすると、立法者は、一般ガスが普及することによってLP業者等にもたらされる不利益より、消費者にもたらされる利益を優先させていることが明らかであり、したがって、その意思は、一般ガス事業と簡易ガス事業については、これを規制する反面、運営の調整によって事業の保護育成と効率的で健全な発達を図ろうとしているが、LP業等については、法による厳格な事業規制を行なわないし、その代わり、運営の調整も行わないこととし、いわば放任したものと解されるのである。

4  法五条三号のガス工作物について

一般ガス事業者は、供給区域等の変更をしようとするときは、通商産業大臣の許可を受けなければならず(八条一項)、右許可の基準については一般ガス事業の許可基準を定めた法五条の規定が準用されている(八条三項)。そして、「ガス工作物が著しく過剰とならないこと」が許可条件の一つとされている(五条三号)。同旨の規定は、簡易ガス事業の許可基準にも存在する(三七条の四第一項四号)ところ、法は、右の各規定において、一般ガス事業と簡易ガス事業並びに簡易ガス事業と簡易ガス事業との調整を図っているものと解されるから、「著しく過剰」となるか否かが問題となる「ガス工作物」とは、一般ガス事業者又は簡易ガス事業者が既に敷設しているか又はそれと同視し得る導管等の、法で規制されているガス工作物(一条、二条七項、二八条、三七条の七第一項)を指し、LP業者等が設置しているところの、液石法で規制されているガスの設備類は、これに含まれないものと解するのが相当である。

5  法五条七号の公益について

一般ガス事業の許可基準の一つとして、その事業の開始が公益上必要であり、かつ、適切であること(法五条七号。なお、簡易ガス事業につき三七条の四第一項八号)が必要である。

ところで、公益は、私益の集合体の側面を有するものであるから、LP業者等の健全な営業ないしは経営の安定を確保し、これが阻害されないという利益は、右の公益に含まれないわけではないが、通常、このような公益に包含される不特定多数の個々人に帰属する具体的利益は、直接的には法律の保護する個別的利益としての地位を有せず、いわば、抽象的・一般的な公益を通じて附随的、反射的に保護される利益たる地位を有するにすぎないものと解さざるをえない。したがって、供給区域等が拡張されない(現状維持されている)ことによりLP業者等が受けている利益は、本来法がその目的としている一般的公益の中に吸収解消せしめられるべきものであって、その保護は、専ら公益の実現を通じて図ることにされているにすぎないものと解される。

6  分野調整法について

中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律(以下「分野調整法」という。)は、中小企業者の経営の安定に悪影響を及ぼすおそれのある大企業者の事業の開始又は拡大に関し、一般消費者等の利益の保護に配慮しつつ、その事業活動を調整することにより、中小企業の事業活動の機会を適正に確保し、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的としている(一条)ものであるが、中小企業者の経営の安定に著しい悪影響を及ぼす事態の発生が回避されることとなる措置が他の法令において講じられている業種で、政令で定めるものに属する事業につき、同法の適用を除外している(一四条)うえ、ガス事業法二条五項に規定するガス事業は、政令によって、分野調整法の適用を除外されている(同法施行令二条七号)。そして、法二条五号の規定するガス事業とは、一般ガス事業及び簡易ガス事業をいうと明記されており、LP業者等は含まれていない。したがって、LP業者等については、文理上、分野調整法の適用を除外される場合に該当しないのであって、経営の安定に著しい悪影響を及ぼす事態の発生が回避されることとなる措置が法において講じられている業種といえないといわざるをえない。

7  公聴会について

通商産業大臣は、ガスの料金その他の供給条件についての供給規程及びその変更の認可申請につき、法一七条二項各号に適合しているか否かを判断して処分しなければならず、その場合に、公聴会を開き、広く一般の意見をきかなければならない(四八条)。そして、通商産業大臣または通商産業局長は、意見の概要を記載した文書により届出をした者のうちから、公聴会に出席して意見を述べることができる者を指定しなければならない(同法施行規則九〇条)。

ところで、成立に争いのない甲第一一、第一二、第一六号証によれば、控訴人は、本件において、適法に開かれた公聴会に出席し、意見を述べたことが認められる。

しかして、右の公聴会は、本件認可処分に際して開かれたものであって、本件許可処分に際して開かれたものでないことは法文上から明らかであり、したがって、控訴人に対して公聴会で意見を述べる機会が与えられたのは、ガス料金その他の供給条件についての供給規程の変更に関してであって、元々、供給区域等の変更に関してではないのである。しかも、控訴人の意見陳述は、広く一般の意見を聞くために行なわれたものであり、控訴人が意見陳述者に指定されたのは、控訴人に事実上の利害関係があったためであると考えられる。してみると、控訴人の公聴会への出席・意見陳述をもって、本件許可処分の取消し、ひいては本件認可処分の取消しにつき、控訴人に法律上保護された利益が存することの根拠と解することはできない。」

3 原判決五枚目裏一一行目の「弁論の全趣旨」の前に「成立に争いのない甲第一五号証及び」を加える。

4 原判決七枚目表末行の「占有」を削除する。

5 原判決七枚目裏一二行目の「整合」を「整合性」と改める。

6  原判決八枚目裏二行目の「また」から同七行目までを削除する。

7  原判決八枚目裏二行目の次に改行して、次の説示を加える。

「以上検討したところからすると、法及び関連法規の合理的解釈によっても、控訴人は、本件許可処分、ひいては本件認可処分の各取消しを求めるにつき、法律上の利益を有せず、したがって、本件訴えにおける原告適格を有しないといわざるをえない。」

二  以上によれば、控訴人の本件訴えは不適法として却下を免れず、これと同旨の原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本矩夫 福永政彦 笹村將文)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一 本件訴えを却下する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成四年三月二六日付けでなした大阪府泉南郡岬町「深日」「孝子」区域に関する一般ガス供給区域拡張の許可及びこれに伴うガス供給規程の変更認可処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。

第二事案の概要

原告は、Lpガス販売業を営む業者によって構成される協同組合であるところ、大阪瓦斯株式会社(以下「大阪ガス」という。)に対してなされた本件処分は、ガス事業法八条三項で準用される同法五条五号、三号、七号に違反するとして、その取消しを求めている。被告は、原告には本件処分の取消しを求めるについての原告適格がないと主張するほか、右違法事由があることを争っている。

第三判断

原告が本件処分の取消しを求めるについての原告適格を有するかについて判断するに、原告は、次に述べるとおり、原告適格を有すると認めることはできない。

一 行政事件訴訟法九条は、処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができると定めているところ、同条にいう「当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」とは、当該処分によって自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、右法律上保護された利益かどうかは、当該処分を定めた行政法規が当該原告の個別的利益を保護すべきものとする趣旨を含むか否かによって決せられる。

二 ガス事業法は、「ガス事業の運営を調整することによって、ガスの使用者の利益を保護し、及びガス事業の健全な発達を図るとともに、ガス工作物の工事、維持及び運用並びにガス用品の製造及び販売を規制することによって、公共の安全を確保し、あわせて公害の防止を図ること」を目的とし(同法一条)、そのための規定を設けているが、同法が対象とする「ガス事業」は、一般ガス事業(同法二条一項)及び簡易ガス事業(同法二条三項)をいうとされており(同法二条五項)、同法において運営の調整の対象となるのは、これらのガス事業のみであると解される。同法五条三号は、一般ガス事業の開始によって、その供給区域の全部若しくは一部において又はその供給地点について、ガス工作物が著しく過剰となる場合には、一般ガス事業の許可をしてはならない旨定め、この規定は、供給区域等の変更(同法八条三項)及び事業の譲渡し等(同法一〇条三項)に準用されており、また、簡易ガス事業の許可等についても同様の定めがある(同法三七条の四第一項四号、三七条の七第一項)ところ、ここにいう「ガス工作物」が一般ガス事業及び簡易ガス事業の用に供するものを指すことは明らかであり(同法二条七項)、これらの事業以外の用に供する工作物は調整の対象とはされていないというべきである。また、同法五条七号は、一般ガス事業の開始が公益上必要であり、かつ、適切である場合でなければ、一般ガス事業の許可をしてはならないと定め、この規定は、供給区域等の変更(同法八条三項)及び事業の譲渡し等(同法一〇条三項)に準用されており、簡易ガス事業の許可等についても同様の定めが置かれているが(三七条の四第一項八号)、右のとおり、同法がもともと一般ガス事業及び簡易ガス事業以外の事業を調整の対象としていないことからすると、右規定の適用にあたって、これらの事業以外の事業との調整を考慮すべきであるとは解されない。

ところで、一般ガス事業及び簡易ガス事業以外のガス事業者が、一般ガス事業者の供給区域において導管でガスを供給しようとするときは、あらかじめ、通商産業大臣に供給の相手方及び料金その他の供給条件を届け出なければならない(同法二五条)こととされているが、右規定をもって、同法に基づくガス事業の許可、供給区域等の変更等にあたり、同法が一般ガス事業及び簡易ガス事業以外のガス事業者の利益を考慮すべきものとしていると解することはできない。また、同法は、通商産業局に、地方ガス事業調整協議会を置き(同法四〇条の五第一項)、同協議会は、通商産業局長の諮問に応じてガス事業の開始に係る紛争の処理その他のガス事業者の事業活動の調整に関する重要事項を調査審議し、及びこれに関し必要と認める事項を通商産業局長に建議すると規定している(同条二項)が、同法がもともと一般ガス事業と簡易ガス事業以外の事業を調整の対象としていないことからすると、右協議会の行う調整にこれらの事業以外との調整が含まれると解することもできない。

さらに、中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律(以下「分野調整法」という。)は、中小企業者の経営の安定に著しい悪影響を及ぼす事態の発生が回避されることとなる措置が他の法令において講じられている業種で、政令で定めるものに属する事業については、同法の適用を除外している(同法一四条)ところ、ガス事業法二条五項に規定するガス事業は、政令によって分野調整法の適用を除外されている(同法施行令二条七号)。これは、すでに述べたとおり、ガス事業法において、同法に規定する一般ガス事業及び簡易ガス事業の運営を調整し、ガス工作物が過剰にならないような処置が講じられているためであり、したがってガス事業法による調整の対象に一般ガス事業及び簡易ガス事業以外のガス事業者も含めなければ、右適用除外の理由を説明できないということはない。結局、一般ガス事業者及び簡易ガス事業者とそれ以外のガス事業者との事業活動の調整を含め、調整の対象をどの範囲までとするかは、専ら立法政策の問題であるというほかはない。

以上検討したところからすると、ガス事業法に基づくガス事業の許可、供給区域等の変更等にあたって、一般ガス事業及び簡易ガス事業以外のガス事業者の利益が考慮される余地はないというべきであり、一般ガス事業及び簡易ガス事業以外のガス事業者は、右の各処分によって不利益を受けることがあったとしても、法律上保護された利益を侵害されたということはできない。

三 弁論の全趣旨によれば、原告は、Lpガスの供給、販売を業とする組合員一九名によって構成されている、中小企業等協同組合法にいう事業協同組合であって、本件処分によって拡張された区域において自らLpガス供給事業を行っているほか、原告の組合員は、右区域において、Lpガス供給事業及び簡易ガス事業を行っていることが認められる。右事実によれば、原告は、右区域において、自らLpガス供給事業を行っているにすぎず(少なくとも本件処分により拡張された区域において自ら一般ガス事業及び簡易ガス事業を行っていることを認めるに足りる証拠はない。)、右二で述べたところからすると、本件処分によって原告の法律上保護された利益が侵害されたということはできないのであるから、原告に本件処分の取消しを求める法律上の利益を認めることはできない。ただ、原告の組合員の中には、右のとおり右区域において簡易ガス事業を行っている者がいるのであるから、原告がこの者に代わって本訴を提起追行することができるかについて検討しておくに、原告は、組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結及びこれに付帯する事業を行うことができる(中小企業等協同組合法九条の二第一項五号、六号)が、原告の個々の組合員の利益の侵害を理由とする行政訴訟の提起、追行は、右の事業に含まれないことは明らかであり、その他原告が右訴訟を提起、追行する権限を有すると認めるに足りる根拠を見い出すことはできないから、原告が簡易ガス事業を行っている組合員に代わって本訴を提起、追行することができるということもできない。さらに、原告は、将来右区域において簡易ガス事業を営むことを企画していたとも主張するが、単にそのような計画があるのみでは、処分の取消しを求める法律上の利益を認めることはできない。

四 原告は、(一)岬町長と大阪ガスとの間には、将来岬町内に都市ガスを供給する問題が生じた場合は、大阪ガスの事業の性格、原告への影響等を配慮し、誠意をもって協議する旨の昭和五五年三月二一日付けの覚書(甲第四号証)が交されていること、(二)「府下の液化石油ガス(Lpガス)販売事業者の育成と営業権の保護に関する件」と題する請願(甲第五号証)が、昭和五六年三月二一日、大阪府議会において採択されたが、その請願は、(1)Lpガス販売事業者と大阪ガスとの事業の競合について、国の関係機関と協議のうえ、調整を図っていただきたい、(2)府が管理占有する道路に大阪ガスから埋設工事のための道路占用許可の申請が提出されたときは、許可に先立ち、営業権を有する中小Lpガス販売事業者と事前協議を行うよう行政指導していただきたいとの内容のものであり、右請願採択ののちに大阪府から大阪ガスに対して、右(2)の主旨を理解して地元中小Lpガス販売業者と協議を行うようにとの通知がなされていること、(三)「液化石油ガス法とガス事業法との整合性を求める請願」(甲第七号証)が昭和五六年六月五日、衆議院及び参議院において採択されたが、その請願は、(1)液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律に基づく供給・消費設備とガス事業法による工作物とが同一であることにかんがみ、国は両法の整合を図り、都市ガス事業者の供給区域の拡張及び供給導管の延長の許可にあたっては、当該地域に所在するLpガス設備の実態を把握し事後に紛争の生じないよう措置されたい、(2)都市ガス事業者が供給区域の拡張及び供給導管の延長を行おうとする場合は、当該地域にLpガスを供給しているLpガス販売事業者に事前に通知するなどの万全の措置を講じられたい、(3)都市ガスへの転換によってLpガス販売事業者の経営に重大な支障を生じる場合には、都市ガス事業者とLpガス販売事業者間で十分な協議が行われるよう措置されたい、(4)家庭業務用ガスに関する通商産業省の行政の一元化について検討されたいとの内容のものであることに照らしても、原告適格を認められるべきである旨主張するが、これらの事実があるとしても、これらは、岬町と大阪ガスとの約定、議会における請願の採択であって、ガス事業法についての右二で述べた解釈には影響しないものというべきである。また、原告は、本件処分に先立つ公聴会で意見陳述の機会を与えられているとも主張するが、仮にそうであるとしても、公聴会は、広く一般の意見を聴く趣旨のものであるから、そのことが原告の原告適格を基礎づけるものとなるということはできない。

第四結論

よって、本件の訴えを却下することとする。

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