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大阪高等裁判所 平成6年(ラ)30号 決定 1994年2月28日

抗告人(申立人) 株式会社フクトクリース

右代表者代表取締役 矢内三朗

右代理人弁護士 濱岡峰也

同 岡村泰郎

相手方 鈴木守

相手方 池田鶴子

相手方 池田安男

主文

一、原決定中相手方池田鶴子、同池田安男に対する部分を取り消し、右部分を京都地方裁判所に差し戻す。

二、本件抗告中、相手方杉本守に対する部分を棄却する。

理由

一、執行抗告の趣旨及び理由

別紙執行抗告状、執行抗告理由書(各写し)記載のとおり

二、当裁判所の判断

1. 前提事実

一件記録によれば、原決定二頁一行目の冒頭から同二八行目の末尾までの記載の事実か認められるから、これを引用する(但し、同四行目の「締結」の次に「(昭和六一年五月二八日)」を、同七行目の「設定登記」の次に「(同日)」を各加え、同二一行目の「を行った。」を「をし、同月二八日その旨の差押登記が経由された。」に改める。)。

そして、原決定は、本件土地及び本件1建物と本件2各建物(いずれも原決定の「本件1建物」及び「本件2各建物」をいう。以下同じ。)を一括して競売することはできないから、その余の点を判断するまでもなく、本件申立ては理由がないとして、これを却下した。

2. 当裁判所の判断

しかし、原決定の上記理由及び結論は、一部、これを採用することができない。その理由は次のとおりである。

(一)  本件1建物及び本件2各建物との関係

一件記録によれば、本件1建物と本件2各建物は、いずれも本件根抵当権の設定及びその登記経由前の昭和四三年頃までに、同一の敷地(本件土地)上に本決定末尾添付の土地建物図面に記載されたように配置、建築され、同一の所有者に属していたこと、本件2各建物は、いずれも本件1建物の居住者のための、離れ、倉庫あるいは車庫として利用され続けてきたものであって、人が独立して居住するのに必要な台所、便所等はなく、これを本件1建物と別個に利用するのは、まずもって不可能ともいうべき状況にあったものであることが認められる。したがって、本件2各建物は本件1建物の従物であって、そのために常用されている附属建物であるというべきである。

そうすると、本件2各建物は、主物たる本件1建物の処分に従うのであるから、本件1建物上の本件根抵当権は、その効力を本件2各建物に及ぼし、本件根抵当権に基づく本件競売手続においても、競売の対象となりうるものというべきである。この理は、本件根抵当権の実体法上の効力に基づくものであるから、事後、本件2各建物につき、平成三年四月二六日原決定のいう「本件の表示登記」がなされたことにより何らの影響を受けることはない(もっとも、民事執行手続上、買受人のため、右表示登記のなされた登記簿への所有権移転の嘱託登記ができるかどうかは別問題である。また、従物であっても所有者はこれを主物と別個に処分することはもとより可能であるが、右表示登記の申請書に添付の譲渡証明書には、本件2各建物を相手方池田安男が相手方池田鶴子に対し平成三年四月二四日に譲渡した旨の記載があるが、後記(二)に述べること等に照らせば、右譲渡は、本件執行手続の進行を妨害するためになされた、虚偽、無効のものということができる。しかも右譲渡の日は、本件差押登記(平成三年三月二八日)の後であり、右譲渡をもって本件差押えに基づく本件執行に対抗することができない。)。

(二)  また、前認定のとおり、本件二各建物の表示登記については、現況調査(平成三年四月六日)の直後に所轄登記所に対してその申請がされているが一件記録によれば表示登記上所有者とされている前記池田鶴子は、所有者前記池田安男の妻であること、その申請書に添付されている建物引渡証明書には、昭和四二年一〇月三〇日に建物引渡しがなされた旨の記載があるが、その内容どおり同日にその引渡しがあったとは到底認められないこと、その他、本件一件記録上認められる以上までに認定の諸事情にかんがみれば、右表示登記は、本件執行手続を妨害するため、池田安男と池田鶴子が共謀してなしたものといわざるを得ない。

(三)  ところで、前記(一)のとおり、本件2各建物も本件競売手続の対象になっている場合、右表示登記の存在することにより、一般の潜在的な買受け希望者が、本件2各建物の所有権取得につき危惧を抱き、あるいは本件のような悪質な執行妨害者との事後の交渉等に嫌気がさして、本件土地、本件1建物、本件2各建物全体の買受けの申出を控えるようになり、その結果全体の買受価格の著しい低下を招来することとなるのは、社会の通念上みやすい道理であるというべきである。

したがって、右表示登記の申請行為は、売却のための保全処分の要件としての「不動産の価格を著しく減少する行為」に該当するというべきである。

(四)  なお、民事執行法五五条によれば、同条による保全処分命令を発することのできる相手方は債務者に限られているが、本件のように同法一八八条により同法五五条を準用する場合は「債務者」は「債務者又は所有者」と読みかえるべきである。また、本件の相手方池田鶴子は「債務者又は所有者」そのものではないものの、前認定のとおり所有者の相手方池田安男との間に、価格減少行為につき共謀が認められるから、「債務者又は所有者」と同視できるものとして保全処分命令を発することができるというべきものである。

相手方杉本守に関しては、一件記録を精査しても、右価格減少行為(表示登記)に関与していることを窺わせる資料はなく、結局、同相手方については、売却のための保全処分命令を発すべき要件が存在するものとみるに足りる資料がないこととなる。

三、結論

以上のとおり、相手方池田鶴子、同池田安男らに対する売却のための保全処分申立てについては、同保全処分の要件が認められるから、これを却下した原決定はその限度で取り消しを免れない。そして、その発することのできる保全処分命令の具体的内容等のほか、担保の要否、これを要する場合の担保の額等につき更に検討することが必要であるから、原裁判所をしてこれをさせるため、本件のうち右部分を原裁判所に差し戻すこととし、相手方杉本守に関しては、原裁判所が、売却のための保全処分の申立てを却下したのは結論において正当であり、本件執行抗告は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判所裁判官 仙田富士夫 裁判官 竹原俊一 東畑良雄)

<以下省略>

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