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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)1609号 判決 1995年12月06日

控訴人 ルートロック・レンタリース株式会社

右代表者代表取締役 岩本ヒロコ

右訴訟代理人弁護士 奥村賢治

同 小川眞澄

同 山上東一郎

同 中村雅行

同 田仲美穗

被控訴人 株式会社アプラス

右代表者代表取締役 前田英吾

右訴訟代理人弁護士 西出紀彦

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  本件訴えのうち、被控訴人が抵当権の物上代位に基づき、大崎幸子が株式会社王将フードサービスに対して有する別紙物件目録記載の土地建物に係る平成六年一一月分から平成七年六月分までの賃料債権に対してした担保権の行使を許さないことを求める部分は、これを却下する。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が、大崎幸子に対する別紙担保権目録記載の抵当権の物上代位に基づいて、平成六年一〇月一七日別紙差押債権目録記載の賃料債権に対してした担保権の行使は、これを許さない。

第二事案の概要

一  本件は、抵当権者である被控訴人が物上代位により債務者(所有者)の第三債務者(賃借人)に対して有する将来発生する賃料債権を差し押さえたところ、控訴人が、右差押えより前に右賃料債権を譲り受け対抗要件を具備したとして、右担保権行使の排除を求めた事件である。

二  前提事実

1  控訴人は、平成五年一一月一〇日、株式会社朝日電気工業所に対し、六五〇〇万円を、次の約定で貸し渡した。

利息 年四〇・〇〇四パーセント

返済方法 元金は最終弁済日を平成六年八月一〇日として、約定の利息支払日に随意の金額を支払う(自由返済)ものとし、利息は翌月分を毎月三〇日ごとに払う。

損害金 年四〇・〇〇四パーセント

特約 約定の支払を一回でも怠ったとき等には当然に期限の利益を失う。

(甲第二ないし第四号証)

2  大崎幸子(以下「幸子」という。)及び大崎惠逸(以下「惠逸」という。)は、平成五年一一月一〇日、控訴人に対し、株式会社朝日電気工業所の右債務を連帯保証した。

(甲第二ないし第四号証)

3  幸子及び惠逸は、その共有(持分各二分の一)する別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。)を、平成元年一〇月三一日付け賃貸借契約により、株式会社王将フードサービス(以下「王将フードサービス」という。)に対し、賃料を平成六年五月末日までは月額一四八万円、同年六月一日から平成九年五月三一日までは月額一五七万円とし、毎月末日までに翌月分を支払う約定で賃貸している。

(甲第四、乙第四号証)

4  幸子及び惠逸は、平成五年一一月一〇日、控訴人に対し、王将フードサービスに対する平成五年一二月分以降の本件土地建物賃料債権を譲渡し、その旨を平成五年一一月一三日配達の内容証明郵便により王将フードサービスに通知した。

(甲第四号証、第五号証の1、2)

5  幸子は、昭和六二年五月三〇日、株式会社太陽神戸銀行(当時の商号)から一億一〇〇〇万円を次の約定で借り受けた。

利息 年五・五パーセント

返済方法 元利均等分割払とし、昭和六二年六月から毎月二七日限り三六〇回にわたり六二万四五六七円宛て支払う。

特約 分割金の支払を怠ったときは期限の利益を失う。

(乙第八号証の2)

6  幸子と被控訴人は、次のとおり昭和六二年五月二一日付け保証委託契約を締結した。

(1) 被控訴人は、幸子の前項の貸金債務を連帯保証する。

(2) 被控訴人は、幸子に対し債権保全のため必要と認めたときは、右保証債務を履行して弁済する前においても、幸子に対し求償権を事前行使することができる(以下この求償権を「本件事前求償権」という。)。

(乙第八号証の1)

7  被控訴人は、株式会社太陽神戸銀行に対し、右貸金債務を連帯保証した。

(乙第八号証の1ないし3)

8  被控訴人は、昭和六二年六月一日、幸子及び惠逸との間で、右保証委託契約に基づき幸子に対して有する本件事前求償権を担保するため、本件土地建物を目的として抵当権設定契約を締結し(以下「本件抵当権」という。)、同日、別紙担保権目録記載のとおり抵当権設定登記を了した。

(乙第一、第二号証、第八号証の3)

9  被控訴人は、幸子に対し本件事前求償権を行使することとし、本件抵当権に基づく物上代位として、大阪地方裁判所に、幸子が王将フードサービスに対する本件土地建物の賃料債権のうち債権差押命令送達時に支払期にある分以降一億一〇〇〇万円に満つるまでの差押えを申し立て(大阪地方裁判所平成六年(ナ)第三〇二四号債権差押命令事件)、同裁判所は、平成六年一〇月一七日、右申立てを認める決定(以下「本件債権差押命令」という。)をし、同決定正本は、同月一九日、第三債務者である王将フードサービスに送達された。これにより、被控訴人は、右賃料債権のうち平成六年一一月分以降の分を差し押さえた。

(本件債権差押命令が発せられた事実は争いがなく、その他の事実は乙第三号証及び弁論の全趣旨)

10  王将フードサービスは、本件土地建物の平成六年一一月分から平成七年六月分までの賃料を適時に供託し、被控訴人は、平成七年六月二六日、大阪地方裁判所から右供託金及び供託利息合計一二五八万一九八〇円を執行手続費用七七〇円及び本件事前求償権一億一〇〇〇万円の一部一二五八万一二一〇円に対する弁済金として交付を受けた。

(争いがない)

三  争点

将来発生する賃料債権につき債権譲渡がなされた後、これに抵当権の物上代位による担保権の行使がなされた場合、いずれが賃料債権を行使でき、あるいは取得するか。

1  控訴人の主張

幸子から控訴人に対する本件土地建物の賃料債権譲渡の確定日付(内容証明郵便)による通知は、平成五年一一月一三日、王将フードサービスに到達し対抗要件を具備したのに対し、被控訴人による抵当権の物上代位に基づく本件債権差押命令の決定正本が王将フードサービスに対して送達されたのは平成六年一〇月一九日であるから、控訴人は、本件賃料債権譲受を被控訴人に対し対抗することができるというべきである。

2  被控訴人の主張

被控訴人の物上代位による右差押えが控訴人の賃料債権譲受についての右通知より後であっても、王将フードサービスが弁済するまでは、抵当権者に賃料に対する物上代位を認めた趣旨に照らし、被控訴人の物上代位による差押えが優先すると解すべきである。

第三  当裁判所の判断

一  前認定事実によれば、王将フードサービスは、本件債権差押命令正本送達後、順次支払期の到来した本件土地建物の平成六年一一月分から平成七年六月分までの賃料を適時に供託し、被控訴人は、平成七年六月二六日、大阪地方裁判所から右供託金及び供託利息を執行手続費用及び本件事前求償権の一部に対する弁済金として交付を受けたのであるから、本件債権差押命令による執行のうち平成六年一一月分から平成七年六月分までの賃料に対する執行は既に終了しており、控訴人は、右終了した執行部分について第三者異議の訴えにより排除を求める訴えの利益を有しないことになる。

よって、本訴第三者異議の訴えのうち、本件債権差押命令のうち平成六年一一月分から平成七年六月分までの賃料部分に対する執行の排除を求める部分は、不適法として却下を免れない。

二  1 抵当権の目的たる土地建物が賃貸された場合は、抵当権者は民法三七二条、三〇四条により、目的土地建物の賃借人に対する現に発生した賃料債権のほか、既にその発生の基礎となる法律関係が存在し、将来においてその発生が確実又は相当程度に見込めるため、将来の期間に発生する継続的賃料債権についても抵当権の物上代位による差押えをすることができる。

もっとも、現に発生した賃料債権について、賃借人が弁済するなどして消滅した場合又は賃貸人が第三者へ譲渡するなどして賃貸人の責任財産から逸出した場合には、もはやこれに対し物上代位権を行使することはできない(なお、動産売買の先取特権の事例につき、債権が第三者に譲渡された場合には物上代位権を行使できないとした最高裁昭和五六年(オ)第九二七号同五九年二月二日第一小法廷判決・民集三五巻三号一頁参照)。

なお、将来の期間に発生する継続的賃料債権を差し押さえた場合において、現実にその債権を取り立てることができるのは、期間が経過して支分債権である賃料が現に債権として発生し(この時点において現に発生した債権に対する差押えの効力が具現することになる。)、かつ、その弁済期が到来した時点以降である(その際、改めて差押手続を経る必要のないことはいうまでもない。)。

また、賃貸人は、現に発生した賃料債権のみならず、賃借人が将来使用収益することにより発生する将来の期間の継続的賃料債権についてもその成立を条件として譲渡でき、右将来の期間の賃料債権譲渡について、右賃料債権発生に先だち賃借人に通知し又は賃借人の承諾を得ることにより包括的に対抗要件具備の手段をとることができる。もっとも、将来の期間の賃料債権を譲り受けた場合、譲渡契約時点では賃貸借当事者間においても未だ発生していないものであるから、支分債権である賃料債権が移転する時期は、期間経過により支分債権である賃料債権が賃貸人に対し現実に発生するのと同時に、債権発生後改めて譲渡手続を経ることを要せず、譲受人に移転すると解すべきである(対抗要件についても、期間経過により逐次支分債権が発生する都度、改めてその手続を経ることを必要としないと解される。)。

そうすると、将来の期間に発生すべき賃料債権が支分債権として発生した時点で、抵当権に基づく物上代位による差押えの効力の具現と第三者に対する対抗要件を具備した債権譲渡が競合する事態が起こり得る。

2 差押えによる関係的処分禁止の効力の具備と対抗要件を具備する債権譲渡が同時であるとすると、そのいずれが優先するかが問題となるが、その場合実体法上の権利に優劣があればその順序、実体法上の権利に優劣がなければ、先に包括的な差押えあるいは対抗要件を講じた方(保全的機能を認めるべきである)が優先すると解すべきである。

抵当権者は、担保不動産につき他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受ける権利を有するところ、その目的不動産の賃料に対し物上代位性を認める以上、その物上代位に基づく権利の行使は抵当権の内容である優先弁済権に由来するものというべきである。

そうすると、抵当権に基づく物上代位による差押えの効力の具現と対抗要件を具備した債権譲渡が同時である場合には、実体法上優先権が認められている抵当権に基づく物上代位による差押えが優先し、発生した支分債権である賃料債権を取り立てることができると解するのが相当である。

3 これを本件についてみるに、前認定事実によれば、被控訴人の物上代位権の行使による差押え以降に発生する平成六年一一月分以降一億一〇〇〇万円(本件抵当権の被担保債権)に満つるまでの賃料債権については右差押えが優先し、控訴人は、本件土地建物の賃料に対する債権譲受をもって、被控訴人に対抗することができないというべきである。

そうすると、本訴第三者異議の訴えのうち、本件債権差押命令のうち既に執行の終了した後である平成七年七月分以降の賃料に対する執行の排除を求める部分は、理由がないことになる。

三  結語

よって、本件訴えのうち、被控訴人が抵当権の物上代位に基づき平成六年一一月分から平成七年六月分までの賃料債権に対してした担保権の行使を許さないことを求める部分は、これを却下し、その余の平成七年七月分以降の賃料債権に対する執行の排除を求める部分は、これを棄却すべきところ、これと異なる原判決は一部不当であるから原判決を本判決主文一項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九六条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 志水義文 裁判官 高橋史朗 裁判官 納谷肇)

別紙 物件目録

1 所在 西宮市山口町名来×丁目

地番 〇〇番

地目 宅地

地積 一二四七・〇〇平方メートル

2 所在 西宮市山口町名来×丁目〇〇番地

家屋番号 〇〇番

種類 店舗

構造 鉄骨造セメント瓦葺平家建

床面積 三四五・一五平方メートル

(付属建物)

符号 1

種類 物置

構造 コンクリートブロック造亜鉛メッキ鋼板葺平家建

床面積 一二・八七平方メートル

別紙 担保権目録

1 担保権 別紙物件目録記載の土地建物を目的とする昭和六二年六月一日設定の抵当権

2 登記 神戸地方法務局西宮支局昭和六二年六月一日受付第一九三五六号順位番号一(う)

3 被担保債権 一億一〇〇〇万円

ただし、昭和六二年五月三〇日、株式会社太陽神戸銀行が大崎幸子に対して貸し付けた一億一〇〇〇万円につき、被控訴人と大崎幸子間の同月二一日付保証委託契約に基づき被控訴人が大崎幸子に対して有する同額の事前求償債権

別紙 差押債権目録

一億一〇〇〇万円

ただし、幸子(執行債務者)が株式会社王将フードサービス(執行第三債務者)に対して有する別紙物件目録記載の土地建物の賃料債権のうち、大阪地方裁判所平成六年(ナ)第三〇二四号債権差押命令正本送達時に支払期にある分以降、頭書金額に満つるまで。

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