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大阪高等裁判所 平成7年(行コ)10号 判決 1995年12月20日

平成六年(行コ)第九九号事件控訴人

・平成七年(行コ)第一〇号事件被控訴人

(一審被告、以下「一審被告、という。)

赤穂市長

北爪照夫

右訴訟代理人弁護士

滝澤功治

友廣隆宣

小越芳保

平成六年(行コ)第九九号事件被控訴人

・平成七年(行コ)第一〇号事件控訴人

(一審原告、以下「一審原告」という。

江見義彦

越智正

垣内一幸

坂本力

八木進

一審原告ら訴訟代理人弁護士

吉田竜一

高橋敬

小沢秀造

主文

一  一審原告ら及び一審被告の各控訴をいずれも棄却する。

二  一審被告の控訴費用は一審被告の負担とし、一審原告らの控訴費用は一審原告らの負担とする。

事実及び争点

第一 控訴の趣旨

一 一審被告

1 原判決中一審被告の敗訴部分を取り消す。

2 右取消部分にかかる一審原告らの請求を棄却する。

二 一審原告ら

1 原判決を次のとおり変更する。

2 一審被告が、アース製薬株式会社(以下「アース製薬」という。)に対して行っている水道供給につき、平成三年九月二日にした特定事業者開発負担金の賦課、徴収に際し、一〇五〇万二〇〇〇円の賦課、徴収を怠っている事実、川崎炉材株式会社(以下「川崎炉材」という。)に対して行っている水道供給につき、平成三年九月二日にした特定事業者開発負担金の賦課、徴収に際し、七二〇万九〇〇〇円の賦課、徴収を怠っている事実、正同化学工業株式会社(以下「正同化学」という。)に対して行っている水道供給につき、平成三年九月二日にした特定事業者開発負担金の賦課、徴収に際し、四七五二万六〇〇〇円の賦課、徴収を怠っている事実、太陽鉱工株式会社(以下「太陽鉱工」という。)に対して行っている水道供給につき、平成三年九月二日にした特定事業者開発負担金の賦課、徴収に際し、二七五万九〇〇〇円の賦課、徴収を怠っている事実、タテホ化学工業株式会社(以下「タテホ化学」という。)に対して行っている水道供給につき、平成三年九月二日にした特定事業者開発負担金の賦課、徴収に際し、六一四万一〇〇〇円の賦課、徴収を怠っている事実、住友セメント株式会社(以下「住友セメント」という。)に対して行っている水道供給につき、平成三年九月二日にした特定事業者開発負担金の賦課、徴収に際し、三六四九万円の賦課、徴収を怠っている事実が、それぞれ違法であることを確認する。

第二 事案の概要

一 本件事案の概要は、以下に訂正付加し、二、三に付加するほか、原判決事実及び理由第二事案の概要(原判決三枚目裏四行目から同二二枚目表末行目まで)のとおりであるから、ここに引用する。

1 原判決四枚目裏一〇行目「正同化学株式会社」を「正同化学工業株式会社」と改める。

2 同五枚目裏六行目「現行の」の次に「条例及び規程に基づいて」を加える。

3 同六枚目裏末行目「第五次拡張事業の費用」を「第五次拡張事業(昭和四六年度から開始)における施設拡張費の負担」と改める。

4 同七枚目表四行目「増量されたときに」の次に「増量にかかる基準水量に応じて」を加える。

5 同七枚目裏五行目「短期間」の次に「で社会的経済環境的に不安定な時期」を加え、同裏七行目「最終確定」の次に「についての理解が得られず、右確定」を加える。

6 同八枚目表四行目「五社については、」の次に「一審被告に与えられた裁量権の範囲内において使用実績期間の是正をするなどの」を加える。

7 同八枚目裏一行目「(2) 」の次に「右の常時使用した最大水量については、」を加える。

8 同九枚目表一〇行目「利用水量」を「使用水量」と改める。

9 同一一枚目裏六行目「一時的」の次に「偶発的」を加える。

10 同一四枚目表九行目「考慮する」の次に「と赤穂市が持っている水量をはるかに越えるというのであるから、右考慮する」を加える。

11 同一八枚目表一〇行目及び同表二行目各「桃井製鋼」を「桃井製網」と改め、同裏四行目「基準変更申請書」を「基準水量変更申請書」と改める。

12 同一九枚目表九行目「漏水しているものを」を「漏水があったものとして、この期間を」と改める。

13 同二〇枚目表末行目「に従って」の次に「原判決添付別紙10のとおりの計算式により」を加える。

二 一審被告の当審における主張

1 昭和五〇年八月二〇日付基準水量の変更決定の性質

(一) 基準水量は、事業者に対する給水量が増大し、全給水量に占める割合が高くなり、右事業者の使用水量の増減が全体の配水計画の策定や給水に影響を及ぼすようになったことから、これら事業者を特定事業者としたうえで、その使用水量を常に把握し、全体の給水量と特定事業者の使用水量を管理しながら、どのような状況になれば安定給水に支障が生じるかを予測するために、各特定事業者の一月あたりの使用水量の目安として定められた。右制度が定められた趣旨からすれば、基準水量は、偶発的に生ずる使用水量の急激な増加及び減少を捨象し、各特定事業者の通常の使用実態を反映するものでなければならない。

(二) 一審被告が旧規程五条三項に基づき有する基準水量の変更権は、特定事業者の使用水量の増減が全体の配水計画や給水に将来的に影響を及ぼす可能性がある場合に、必要に応じて特定事業者の基準水量を変更する方法で、その使用水量を管理する手段として付与された。

このように、一審被告は、必要性さえあれば、特に理由を付することなく、基準水量を変更できるし、変更の際の細目的基準を自ら付記するという、裁量権を予め自己抑制的に行使した形で変更することもできる。

一審被告が昭和五〇年八月二〇日付でした基準水量の変更通知は、但書基準水量を付する形で、昭和五二年三月三一日までに使用水量に増減があった場合はその使用実績に基づいて更に変更したうえで、最終的に基準水量を確定することとし、この変更の上限を画した水量を但書基準水量として、判断基準とされるべき期間及び変更基準水量の上限を自ら明記し、裁量権を予め自己抑制的に行使した形で基準水量を変更したものである。これは、条例一五条四項及び旧規程五条三項の趣旨に照らし適法有効である。

(三) 昭和五〇年八月二〇日付通知では、但書基準水量を付して通知した結果、基準水量の変更自体が暫定的なものになり、右通知によっては、基準水量が確定されていなかった。

基準水量が、右通知によって直ちに確定するものではなく、但書基準水量を考慮したうえで最終確定することを特定事業者に説明し、特定事業者側においても当然そのように理解していた。

2 平成三年九月二日における基準水量変更の適法性

(一) 1(一)に述べたところによれば、一審被告の基準水量決定の方法は、偶発的に生ずる使用水量の急激な増加を捨象し、長期を見通した際には、最も発現する可能性が高く、かつ頻度が高い使用水量を「常時使用する最大水量」と捉える方法であって、このような方法こそが基準水量制度の趣旨である安定給水の確保という精神に合致する。

(二) 水道法により水道事業者が給水量を増加させるために、厚生大臣の認可を申請するに際し、工事設計書に一日最大給水量を記載するべきこと、赤穂市水道事業の設置等に関する条例に、水道事業にかかる施設ごとの一日最大給水量を定めている点、これら水量は、水道事業者の事業計画において達成されるべき将来目標とでもいうべき数値であって、各特定事業者の一定期間内に増減変動する使用水量の実績を基礎に変更される基準水量とは性質が異なる。

(三) 被控訴人が過去に最大水量を基礎に、基準水量を確定した事実は存しない。

家島分水における負担金の賦課徴収について

右分水は、赤穂市の給水区域外への給水であって、当然には給水を受ける権利も給水する義務も生じない。右分水契約における契約水量は、給水される水量の上限を約したものである。これに対し、基準水量は、各特定事業者の適正かつ合理的な使用の指標であって、各特定事業者の水量の使用自体を直接制限するものではない。

したがって、家島分水の事例は、基準水量変更のケースではない。

基準水量の決定には、次の三とおりの場合がある。

(1) 特定事業者から、新規に給水の申込があった場合。

(2) 特定事業者から、基準水量の変更申請があった場合。

(3) 管理者が、特定事業者の使用水量の実績等によって変更する必要があると認めて変更する場合。

関西電力の場合は、(1)の場合であり、桃井製網及び塩野義製薬の場合は(2)の場合であるが、本件で問題になっているのは(3)の場合である。

関西電力の場合は、新規申込で、使用実績がないから、使用実績を前提に使用水量の偶発的な増減を捨象する余地はない。

桃井製網及び塩野義製薬の場合は、減量申請にかかる水量は、当該特定事業者において、過去一年間の使用実績及び将来の一年間の使用見込水量を勘案した結果、適切と考えた水量であって、そこでは一時的偶発的に生じた使用水量は除外されており、減量申請にかかる水量の方が使用実態に合致しているはずである。右は、減量申請にかかる水量を基準に新たに基準水量を認めたということであって、最大水量であるから、それを基準水量とした訳ではない。

したがって、これら事例はいずれも一審原告ら主張の裏付けとはならない。

三 一審原告らの当審における主張

1 昭和五〇年八月二〇日付基準水量変更の通知の確定

(一) 右通知には、但書基準水量が併せて通知してあった。但書基準水量を仮に考慮するとしても、同日付基準水量変更の効力は遅くとも昭和五二年三月三一日の経過をもって確定していたと解せざるを得ない。

太陽鉱工のように、基準水量と但書水量が同一の場合、或いは川崎炉材のように昭和五〇年九月に新たに基準水量が通知された場合には、一審被告の通知を受けた後にも最終確定できないという余地はない。

(二) 基準水量の決定、変更に特定事業者の同意は要しないし、昭和五〇年八月二〇日当時、右決定変更が事実上できないような抵抗等なかった。

(三) 但書基準水量を考慮することは許されない。

基準水量と但書基準水量とが同一であった企業は但書基準水量を付されていなかったに等しい。特定事業者開発負担金の賦課、徴収は平等でなければならないから、一部の特定事業者のみに実質的な但書基準水量を付して便宜を図ることなど許されない。

(四) 但書基準水量は考慮されていなかった。

赤穂市長作成の書面をみても、基準水量の記載はあるが、但書基準水量の記載はない。平成三年六月一九日の民生生活常任委員会における松原水道部長の報告によると、赤穂市は、住友セメント等の基準水量につき、昭和五〇年八月二〇日付通知のうち、但書基準水量ではなく、変更基準水量によって計算している。

(五) 一審被告は、基準水量が確定していたと考えていた。

昭和五〇年八月二〇日付通知書に、基準水量の変更が暫定的である旨の記載はない。

監査委員の勧告に対して、一審被告自身が、現行の基準水量は昭和五〇年八月二〇日をもって決定している旨を通知するなど、赤穂市職員は、基準水量が確定したことを前提にした発言をしている。

一審被告は、本件準備書面で、昭和五〇年八月二〇日付で通知された基準水量が決定された経緯を記した文書が保存されていないと答弁しているが、右通知された基準水量が暫定的なもので最終的に確定されていなかったならば、右文書が保存されていない事態が生じる筈がない。

一審被告は、昭和五〇年から平成三年九月まで基準水量の変更をしなかった。昭和五〇年の変更が暫定的なものであれば、一五年以上も確定的な変更をせずに放置することは考えられない。

(六) 平成三年九月二日になされた従前の基準水量の最終確定通知は、法的に無意味である。

2 平成三年九月二日にした基準水量変更の適法性について

(一) 条例、規程には、基準水量変更の場合の基準が明示されていないものの、水道の安定給水に支障が生じていないか否かを予測、判断するためには、基準水量の算定基準は、新設の場合も変更の場合も同一でなければならず、したがって、変更の場合も当然に規程三条が準用されるべきである。

もっとも、一審被告は、平成三年一〇月一八日規程の一部を改正し、管理者が一方的に基準水量を変更する場合の基準水量の算定方法については、「平均以上の平均」で変更する旨を明らかにしているが、特定事業者からの変更申請については、特に改正を加えていない。

(二) 水道施設の整備にあたっては、平常時の安定供給の確保はもとより、渇水や地震等異常時においても必要な水の供給が確保できるよう安定性、安全性の高い施設を目標にしてバランスの取れたゆとりを確保する必要がある。このためには、最も多い月の使用水量の給水に耐えられる施設投資が必要とされ、その費用を、新規又は増量する特定事業者に対し負担させるため、特定事業者開発負担金制度が導入されたのである。一審被告の「平均以上の平均」という解釈は、右制度導入の趣旨に反する。

(三) 特定事業者開発負担金制度は、第五次拡張事業の水道施設拡張費について、特定事業者に相当額の負担を求め、財源確保を図ろうとして導入された。右拡張事業は、一日最大給水量の変更にかかる工事に該当し、一日最大給水量として把握された数値が安定的に給水できるように計画された事業である。

水道法七条によれば、右工事につき厚生大臣の認可を申請するに際して、一日最大給水量を明確にしなければならない。これは、水道事業の施設能力が、一日最大給水量を基準に計画されるべきことを水道法が要求しているからである。

地方公営企業法を受けて制定された赤穂市水道事業の施設に関する条例では、一日最大給水量が明記されるようになっているものの、平均以上の平均などという数値は明らかにされることが要求されていない。

自治省通達でも一日最大給水量が地方公営企業の経営の基本を構成する要件とされている。

右第五次拡張事業の目的、及び本件条例、規程が、右水道法や地方公営企業法に基づいて制定されていることを考えても、基準水量を最大水量によって算出するべきである。

(四) 最大水量を基準に基準水量を確定しても、給水の適正保持という条例の目的と矛盾しない。

右最大水量は、一箇月単位で把握され、一日当たりの最大水量は、最大使用量を示した月の数字を三〇で除した数字となるから、「瞬間最大水量」になるわけではない。

赤穂市の給水施設は、十分に余裕があり、最大を基礎に基準水量を決めても支障はない。

最大水量を基準水量と決めても、特定事業者にはメリットはない。

使用水量の偶発的な増減があるのは、漏水を除けば、操業短縮、機械の故障といった減少の場合であり、偶発的に増加する場合は有り得ない。よって、基準水量を最大水量としても、給水の実態が把握しにくくなったり、新たな水源開発の必要が生じることはない。

(五) 一審被告は、従前(平成二年四月以前、昭和五〇年八月二〇日通知によるものを含む。)は、最大水量を基礎に基準水量を確定していた。

ところが、今般、特定事業者に賦課、徴収する開発負担金を抑制する動機で、規程の解釈を「平均以上の平均」に変更して基準水量の変更を行った。右のように解釈を変更すると、従前の基準水量がより高く、今般の基準水量がより低くなるので、負担金額が従前の基準水量と今般の基準水量の差を基礎に算定される関係上、負担金額が低く抑制される。かかる不当な動機を持ってなされた解釈の変更自体、違法である。

なお、正同化学、太陽鉱工、住友セメントの昭和五〇年八月二〇日通知における基準水量は、昭和四九年一〇月から昭和五〇年三月までの最大使用月の使用量と合致しないが、これは昭和五〇年八月二〇日付で基準水量の変更がなされず、従前の基準水量がそのまま維持されているからである。

(六) 給水の適正保持という条例の目的は、最大水量を基に基準水量を把握することによってなされるから、漏水を除外することが条例、規程上明らかにされていない以上、漏水した分も実際に使用したものとして、基準水量を把握するのがむしろ条例、規程、水道法の趣旨にも合致する。

理由

一  争いのない事実に加え、甲第一ないし第七号証、第一一、第一六、第一八、第一九、第二六、第二九、第三〇、第三二ないし第三四号証、第三八、第四一号証、第四五ないし第四七号証、乙第一ないし第四号証、第一二、第一三号証、証人松原貞の証言及び控訴人八木進本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  特定事業者制度の沿革

(一)  赤穂市の上水道の歴史は古く江戸時代にさかのぼる。水道事業は、昭和一五年に国の事業認可を受け、昭和一九年一二月から給水を開始した。その規模は、水源を赤穂用水に求め、給水人口二万五〇〇〇人、一日最大給水量三七五〇立方メートル、一人一日最大給水量一五〇リットルであった。

その後簡易水道事業の布設認可、他地区との合併、簡易水道の継承等が行われたが、急激な経済成長と生活水準の向上に伴い、逐次水需要は増加し、加えて、西浜塩田跡地への工場誘致計画が進んだため、水道事業の拡張が必要となった。

そして、昭和三一年の第一次拡張事業、昭和三三年の第二次拡張事業を経て、昭和三六年度から昭和三九年度までの第三次拡張事業で木津水源地の完成、昭和四〇年度から昭和四四年度までの第四次拡張事業で中央配水池、御崎配水池等が整備され、安定給水への水道基盤が築かれていった。

(二)  赤穂市の水道事業においては、創設以来、需要者について、一般市民、事業者を問わず一律の取扱をしてきており、昭和三四年一〇月八日に制定された水道事業給水条例(昭和三四年条例第二一二号)(以下単に「条例」という。乙第二号証)においても、水道料金の算定方法について家事用、営業用、浴場営業用、特定事業用、娯楽用等の区分が設けられ、多量に水を使用する事業場等に関する料金を他から区別されていたものの、右料金のほかには、格別取扱を異にする規定は設けられていなかった。

しかし、産業の発展に伴って、大口使用の事業者に対する給水量が次第に増大し、全体の給水量の中に占める割合も高くなると、これら事業者の水道使用量の増減が、全体の配水計画の策定や給水に影響が大きくなった。そこで、これらの事業者については、一般市民とは別異の取扱をすることが適当であると考えられるに至り、昭和四一年一二月一日、特定事業場の取扱に関する規程(昭和四一年水道事業管理規程第二号、乙第三号証)が制定された。

同規程は、工場、旅館、社会保険保養施設及び病院のうち、使用水量が常時一か月五〇〇立方メートルを超えることが過去一年間の実績又はその事業場等の事業の種類、規模及び給水装置等によって明確なものを特定事業場として指定し、これらの事業場に対する給水量を適切に調整する目的であったが、右目的のための具体的な調整方法については規定されなかった。

(三)  その後、経済の発展に伴い、右特定事業場への給水量がますます増大し、全給水量に占める割合が高まったうえ、その水使用状況による影響が大きくなったことと、赤穂市水道事業の給水能力が不足していた関係上、需要者全体への水の安定供給を図る観点から、これら特定事業場に対する給水量を適切に調整する必要性が大きくなったため、これら特定事業場については、条例上特別の取扱をすることとなった。

そこで、昭和四六年三月三一日、条例を改正し(昭和四六年条例第一八号、甲第五号証)、特定事業者に関する制度が新設された。

また、右改正に伴い、昭和四七年四月一四日、新たに特定事業者の給水に関する規程(昭和四七年水道事業管理規程第一号)(以下「旧規程」という。乙第四号証)が制定され、前記の特定事業場の取扱に関する規程が廃止された。右改正にかかる条例及び旧規程において、赤穂市長は、製造業等一定の範囲の事業を営む事業場であって、使用水量が常時一定以上の大口需要者を特定事業者として指定し、このような特定事業者が給水の申込をするときは、右申込と併せて、その使用計画及び使用水量等を申し出るべきこと、市長は、これら特定事業者の給水申込を承認するときは、使用量の予測等により一月当たりの使用水量(基準水量)を決定して通知する(旧規程四条)べく、また右基準水量は、使用水量の実績等によって必要があるときは、変更できる(旧規程五条)が、変更通知は、様式第四号に定める基準水量変更通知書により、翌事業年度開始の三〇日前までに当該特定事業者に通知する(同条二項)ものと規定された。基準水量を決定する基準としては、後記昭和五三年三月三一日条例改正時に制定された新規程三条と全く同じ規定が置かれた(旧規程四条)。右条例付則において、右基準水量は、昭和四六年五月三一日までに特定事業者に通知すると規定された。

また、条例上、基準水量に伴う効果として、水道使用料につき、当初から昭和四九年一二月末日までは、基準水量まで一月につき一立方メートルあたり二五円、基準水量超過分につき同じく三五円とされており、その後の条例改正により、昭和五〇年一月一日から同年五月末日までは、五〇〇〇立方メートルまで一月につき一立方メートルあたり三五円、基準水量まで同じく四〇円、基準水量超過分につき同じく四五円とされていたが、昭和五〇年六月一日以降は、昭和五〇年条例第二三号により基準水量と使用料とは切り離され、使用料は、二万立方メートルまで一月につき一立方メートルあたり七五円、二万立方メートル超過分につき同じく八〇円とされた。

2  当初の基準水量の通知と昭和五〇年の変更通知

(一)  赤穂市長(以下「市長」という。)は、昭和四七年六月一日、アース製薬、正同化学、太陽鉱工、タテホ化学、住友セメント(以下「本件五社」という。)を含めた事業者について、特定事業者の指定をするとともに、そのころ、当時の使用実績と将来の予測に基づいて、各社ごとに基準水量を決定して通知した。

(二)  しかし、昭和五〇年ころには、各事業者の当初決定された基準水量と実際の使用水量との間に相当開きが生じていた。

本件五社の当時の使用水量の実績は、原判決添付別紙2ないし6のとおりであった。

そこで、基準水量を右使用の実情に合わせ、また基準水量未決定の事業者につき改めて適当な基準水量を決定し、併せて当時給水能力が十分でなかった関係上、生活用水の安定供給確保のため、大口需要者の水量抑制を図る狙いから、市長は、昭和五〇年四月二六日旧規程を改正し(昭和五〇年水道事業管理規程第五号、乙第四号証)、特定事業者指定の基準の一つである使用水量を、常時一月五〇〇〇立方メートルから同三〇〇〇立方メートルに減額して大口需要者を幅広く特定事業者の範囲に入れるとともに、各特定事業者の基準水量を見直すこととした。

(三)  そこで、赤穂市長は、昭和四九年一〇月から昭和五〇年三月までの使用実績等に基づいて、基準水量を変更することとし、本件五社等の特定事業者について、昭和五〇年八月二〇日、同日付書面で、従前の基準水量を変更する旨通知した。但し、事業者によっては、右通知にかかる基準水量は、通知前の基準水量と同一であった。本件五社の右通知にかかる基準水量は次のとおりである。

アース製薬 二万三〇〇〇立方メートル

正同化学 三万二〇〇〇立方メートル

太陽鉱工 一万立方メートル

タテホ化学 一万九〇〇〇立方メートル

住友セメント 八〇〇〇立方メートル

もっとも、右変更は、給水量を抑制する狙いがあったところ、特定事業者側には、これに反対する意見が強かったことから、市長は、右通知後の相当期間を設け、その期間の使用実績に基づいて基準水量を更に変更することを考慮することとし、これを考慮した水量を但書基準水量と名付けて、右通知書に記載した。右但書基準水量についても、前記太陽鉱工等への通知にかかる基準水量と同額の者もあった。

右通知書の記載内容は、次のとおりである。

右通知書は旧規程四条二項、様式第四号に定める形式の書面でなされその表題は、「基準水量決定通知書」又は「基準水量変更通知書」とされており、本文には、先ず「特定事業者の給水に関する規程第四条ならびに同規程第五条三項の規程により基準水量について、次のとおり決定(又は変更)しましたので、通知いたします。」と記載され、次いで、「記」として、所在地名称欄に通知の相手方である事業者の住所名称を、承認年月日承認番号欄に当該承認年月日承認番号を記載の後、変更内容欄に「基準水量一月につき……立方メートルを一月につき……立方メートルに変更する。」と記載され、更に、その他欄に「但書基準水量(五二年三月三一日までに使用水量に増減があった場合の変更上限水量)は一月につき……立方メートルとする。」と記載されていた。右変更内容欄等の水量の数値は特定事業者ごとに前述した一定の数字で記載されていた。この書面には記載の水量は決定されるかもしれぬ見込量であってこの水量に決定する訳ではないなどの記載はされていない。

(四)  市長は、川崎炉材に対し、昭和五〇年九月ころ、特定事業者の指定をするとともに、基準水量を三〇〇〇立方メートルと決定して通知した。

3  特定事業者開発負担金制度創設の経緯

(一)  赤穂市は、給水量の増大に対処するため、昭和四六年度から平成四年度を目標に、水需要の予測を給水人口六万五〇〇〇人、一日最大給水量を六万一〇〇〇立方メートル、一人一日最大給水量を九三八リットルとして第五次拡張事業を進め、北部上水道の給水人口五八〇〇人、一日最大給水量二八四〇立方メートルと併せ、事業規模を給水人口七万〇八〇〇人、一日最大給水量六万三八四〇立方メートルとする給水体制の整備を図った。右拡張事業は、平成四年度に完成した。

(二)  右拡張事業の事業費は、当初一七億円程度を見込まれていたが、昭和五〇年当時には、三〇億円を越えることが明らかとなってきた(右事業費は、最終的には、約四九億円、利息等を含め一〇〇億円を越えた。)。そこで、このような多額の費用について、財源の確保を図り、市の財政基盤の安定を図るため、特定事業者にその内相当額を負担させることとした。もっとも、前述のとおり、右負担金賦課の前提となる特定事業者の基準水量の額は、当時、実際の使用水量と相当開きがあったことや、水需要の抑制を図る観点から、見直しを必要としていた。そこで、赤穂市は、とりあえず昭和五〇年に前記のとおり、基準水量の変更の措置を取り、更に新規又は使用水量を増量する特定事業者に対し、特定事業者開発負担金を賦課することとし、昭和五三年三月三一日、条例を改正し(昭和五三年条例第一八号、甲第五号証)、特定事業者の給水及び特定事業者開発負担金に関する規程(昭和五三年水道事業管理規程第九号)(以下「新規程」という。甲第六号証)の制定により、基準水量の決定、変更の基準を改めて規定するとともに、新たに特定事業者開発負担金及びその算定基準を規定した。

4  特定事業者開発負担金制度の概要

(一)  条例(昭和五三年条例第一八号による改正後)(甲第五号証)

赤穂市の水道を使用しようとする者は、管理者(赤穂市では、地方公営企業法七条但書及び同法施行令八条の二の規定に基づき、水道事業に管理者を置かず、赤穂市長が水道事業者管理者の権限を有しているから、以下の管理者とは市長である。)の定めるところにより、あらかじめ市長に申し込んでその承認を受けなければならない(一五条一項)。その場合、使用予定水量が常時一月につき三〇〇〇立方メートル以上使用する製造業(物品の加工、修理業を含む。)及びサービス業(公用及び病院を除く。)を営む事業場(ただし、施設の規模、給水装置等によって常時一月につき三〇〇〇立方メートル以上の使用水量になることが明らかに推定されるものを含む。)等の用に使用する者(特定事業者)は、給水の申込と併せて、その使用計画及び使用水量等を申し出なければならない(同条二項)。

管理者は、特定事業者からの給水の申込を承認しようとするときは、給水能力及び配水計画等を考慮して、その申込をした者の一か月当たりの使用水量(基準水量)を定めて、承認の通知をする(同条三項)。管理者は、特定事業者に対し、給水の承認をする場合は、基準水量に相当する水道施設拡張費(特定事業者開発負担金)を負担させることができる(三〇条の三第一項)。

管理者は、特定事業者のうち使用水量の実績等によって基準水量を変更する必要があると認める者があるときは、水道事業の毎事業年度開始の日三〇日前までに右変更の旨を当該特定事業者に通知する(一五条四項)。条例三〇条の三第一項の規定は、基準水量増量の場合に準用される(同条二項)。同条一、二項の特定事業者開発負担金の算定方法等については、管理者が別に定める(同条三項)。条例の施行に関し必要な事項は、管理者が定める(四一条)。

(二)  新規程(甲第六号証)

新規程は、右条例一五条及び三〇条の三を受けて、特定事業者の給水の取扱及び特定事業者開発負担金の算定、徴収に必要な事項を次のように定めている。

管理者が、特定事業者からの給水の申込を承認するときは、次の基準によって、基準水量を決定して通知する(三条)。

① 水道事業の供給能力及び配水計画において供給可能な水量であること。

② 排水管等の施設能力が供給可能な水量であること。

③ 特定事業者の施設規模、給水装置等によって算出した常時使用する最大水量であること。

特定事業者が基準水量の変更を申請しようとするときは、基準水量変更申請書を翌事業年度開始の六〇日前までに管理者に提出しなければならない(四条一項)。管理者は、右申請書に基づき使用水量の実績等によって基準水量を変更する必要があると認めるときは、基準水量変更通知書(様式第四号)により翌事業年度開始の三〇日前までに当該特定事業者に通知する(同条二項)。管理者は、特定事業者から右申請書の提出がない場合においても、使用水量の実績が基準水量を上回っているときは、基準水量を変更することができる(同条三項)。

特定事業者開発負担金の負担基準は、次に掲げるとおりである(七条)。

① 新たに特定事業者となった使用者に決定した基準水量(ただし、昭和五三年三月三一日以前より給水を受けている使用者にあっては、三〇〇〇立方メートルを控除した量)に相当する水道施設拡張費。

② 基準水量を増量する特定事業者の場合は、当該増加基準水量に相当する水道施設拡張費。

右負担金の額は、算定基礎額に、当該基準水量を三〇(日)で除した数字を乗じた額である(九条)。

右算定基礎額は、水道事業の供給能力を増加させるために必要な施設費等の費用から成る水道施設拡張費の総額に対し、次の基準により算定した一立方メートルに相当する費用である(八条一、二項)。

① 水道事業の施設能力(拡張計画能力を含む。)に対する特定事業者の新規加入又は増量に配分する水量。

② 前号の水量に相当する他の収入を控除した額。

特定事業者開発負担金は、管理者の指定するところにより当該特定事業者より徴収する。

旧規程は廃止されたが、新規程付則により、従前特定事業者の指定を受けている者は、新規程によって管理者から指定されたものとみなされた(付則二、三項)。

(三)  昭和五三年当時から、右水道施設拡張費とは、具体的には、第五次拡張事業費を意味しており、これに基づく算定基準額は、昭和五六年四月一日以降五万八〇〇〇円、昭和五九年四月一日以降八万六〇〇〇円、平成三年八月一日以降八万九〇〇〇円である。

5  一審被告の平成三年における基準水量にかかる通知

(一)  一審被告は、平成三年九月二日、同日付書面で、本件五社について、前記昭和五〇年八月二〇日付通知書に記載の但書基準水量に基づいて、基準水量を確定した旨及び右数値を通知した。右通知書の様式は、旧規程五条二項、様式第四号、または新規程四条二項、様式第四号のいずれの様式によるものではなく、その内容は、表題を「基準水量の確定について」とし、本文を「現行基準水量は昭和五〇年八月二〇日付で決定していますが、その中で但書基準水量を付しているので、これにもとづき下記のとおり基準水量を確定したので通知します。」とし、記として、「1昭和五〇年八月二〇日決定(1)基準水量一月につき……立方メートル (2)但書基準水量一月につき……立方メートル 2確定 基準水量一月につき……立方メートル」と記載されていた。右1の数値は前記2(三)の昭和五〇年八月二〇日の通知に記載された数値のままであり、2の数値は、次のとおりである。

アース製薬 二万四〇〇〇立方メートル

正同化学 三万九〇〇〇立方メートル

太陽鉱工 一万立方メートル

タテホ化学 二万立方メートル

住友セメント 一万三九〇〇立方メートル

(二)  一審被告は、平成三年七月八日付の赤穂市監査委員からの勧告を受けて、平成三年九月二日、同日付書面で、本件六社につき、基準水量変更及び特定事業者開発負担金賦課の通知をした。

右基準水量変更について、一審被告の採用した算定方法は次のとおりである。

① 赤穂市水道事業において、第五次拡張事業の進展に伴ない、昭和六〇年末には、配水能力が一日六万三八四〇立方メートルに増加し、安定給水できる能力を有するようになっている。そこで、特定事業者ごとの基準水量は、昭和六一年度(各年度は当年四月から翌年三月まで)から平成二年度までの五年間の使用実績に基づき算定する。

② 右五年間の各年度ごとに、毎月の使用水量を年間で平均した水量以上の水量を使用した月の使用水量を更に平均し、各年度ごとの常時使用する最大水量を算出する。

③ その際、漏水の認められる月は除外する。

④ ②で求めた水量のうち、最大となる年度の水量(ただし、一〇〇立方メートル未満は四捨五入する。)をもって、変更後の基準水量とする。

(三)  本件六社の右期間中の水道使用実績は、原判決添付別紙8、9のとおりであり、うち赤穂市により、漏水を認定された月は右各別紙のとおりである。

右使用実績を前記算定基準に当てはめると、本件六社の変更基準水量は、次のとおりとなり、一審被告は、この各水量を前記通知書により通知した。

アース製薬 二万八三〇〇立方メートル

川崎炉材第二工場 三八〇〇立方メートル

正同化学 五万四八〇〇立方メートル

太陽鉱工 一万二一〇〇立方メートル

タテホ化学 二万九六〇〇立方メートル

住友セメント 二万二六〇〇立方メートル

また、一審被告の通知した特定事業者開発負担金額は、算定基礎額八万九〇〇〇円に前記変更基準水量から従前の基準水量(本件五社については、平成三年九月二日通知の確定基準水量)を差し引いた数額を掛けた金額である。

6  条例及び新規程の改正

赤穂市では、その後平成三年一〇月一日、条例を改正し(平成三年条例第四七号)、条例一五条三項の「使用水量」を「最大使用水量」と改め、元の四項を改めて五項に、特定事業者の使用水量が基準水量を超えた場合は、特定事業者からの申請がなくとも、基準水量を変更することができる旨の規定を設けるなどした。また、一審被告は、右条例改正に伴い、同月一八日、新規程の一部を、要旨次のとおり改正した(平成三年水道事業管理規程第四号、甲第一一号証)。

新規程三条三号中「常時使用する最大水量」を「最大使用水量」に改める。

新規程四条を次のとおり改める。

(1)  特定事業者は、基準水量の変更を申請しようとするときは、一月三一日までに基準水量変更申請書を管理者に提出しなければならない。

(2)  管理者は、前項の申請に基づき基準水量を変更する必要があると認めるときは、申請を受け付けた日から三〇日以内に基準水量変更通知書により当該特定事業者に通知する。

(3)  前項の規定により基準水量を変更するときは、前条の規定を準用する。

(4)  管理者は、改正条例一五条五項の規定により基準水量を変更するときは、次の各号により、基準水量を決定し、基準水量変更通知書により速やかに当該特定事業者に通知する。

① 使用水量の実績は、二月末以前の一年間とする。

② 改正条例一五条五項に規定する「特定事業者の使用水量の実績が基準水量を超えたとき」とは、前号の期間において基準水量を超えて使用した月の数が四以上であるときとする。

③ 変更後の基準水量は、基準水量を超えて使用した月の水量を合計して得た水量を、超えて使用した月の数で除して得た水量とする。

ただし、一〇〇立方メートル未満端数を生じたときは、これを切り捨てる。

④ 変更後の基準水量は、四月一日以後の給水から適用する。

(5)  管理者が正当な理由があると認めたときは、前4項の規定にかかわらず、別に定めることができる。

付則

(1)  この規定は、平成四年一月一日から施行する。

(2)  施行日前の基準水量変更に係る特定事業者開発負担金の算定方法等については、なお従前の例による。

二  昭和五〇年八月二〇日付け通知による基準水量の決定

1  昭和五〇年八月二〇日付け通知の内容は、一2(三)認定のとおりである。これによると、この通知書は基準水量を変更する場合に用いられるべきものとされている旧規程様式第四号の書式(申請によらず職権で基準水量を変更する場合にもこの様式の使用が求められていると解されるし、現に赤穂市でそのように運用されていることは、乙第一三号証により認められる。)を用いて作成され、その表題は「基準水量決定(変更)通知書」とし、その主文では「基準水量について、次のとおり決定(変更)しましたので通知します。」とし、変更内容欄には変更後の基準水量を一定の数値で記載しており、この通知が基準水量を決定(変更)させる通知ではないとの記載はどこにもない。

これによれば、右通知は条例一五条四項に定める基準水量変更の通知であり、これにより次の事業年度より基準水量が変更される効力が生じたものである。

2  もっともは、右通知書には、「その他」の欄に「但書基準水量(五二年三月三一日までに使用水量に増減量があった場合の変更上限水量)は……立方メートルとする。」との記載がある。

しかし、この「その他」欄の記載は、内容自体からみて、昭和五二年三月三一日までの使用水量を基準として基準水量を変更する場合は、その増加の上限を……立方メートルとする予定であることを記載したものにすぎないと解され、この記載は非中心的、付随的な事項を記載するのに通常用いられる「その他」欄に記載されているのであって、この通知書の他の記載をも併せ考えると、「その他」欄の記載があるためにこの通知書による基準水量変更の効力が生じないとか、基準水量の変更は昭和五二年四月以降は効力が失われるとかと解することはできない。

通知書の「その他」欄の記載は、将来基準水量が変更されることがあることを前提としているが、一度定めた基準水量が変更されることがあり得ることは条例一五条四項で定めているところであるから、そのような記載があることにより、前記の通知が次の基準水量決定通知があるまで効力を生じないことになるものではない。

さらに、甲第三号証、第一二ないし第一六号証、第一九、第三〇、第三二、第三四号証によれば、赤穂市の市長、助役、総務部長は、赤穂市議会や監査委員に対し、現行の基準水量は、昭和五〇年八月二〇日をもって決定している旨を述べていることが認められるし、赤穂市長は平成三年九月二日付け通知で、本件五社に対し、「現行基準水量は昭和五〇年八月二〇日付けで決定しています……」としている。(もっとも、これらの事実は前記通知書の解釈にそれほど大きい意味を持つものではない。)

当審における一審被告の主張に鑑み証拠を検討しても、他に右判断を動かすことはできない。

一審被告の右通知書の効力に関する主張は到底採用できるものではない。

3  川崎炉材に対する昭和五〇年九月ころの基準水量決定通知については、右のような但書基準水量に関する通知がなされたことを認めるべき証拠もなく、前記認定の内容からしても、右通知により基準水量は決定していたと言うべきことは一層明瞭である。

三  平成三年九月二日付け通知による基準水量の決定

1  一審被告は、前記一5(一)のとおり、平成三年九月二日付けで、本件五社に対し、現行基準水量を昭和五〇年八月二〇日付で決定していますが、その中で但書基準水量を付しているので、これに基づき下記のとおり基準水量を確定します。」と通知している。

しかし、右通知書は、規程により基準水量を変更する通知に用いられるべき様式第四号の書式ではないこと、条例一五条四項によれば基準水量を遡って決定することは許されていないこと、右通知と同日付けで次の基準水量変更通知がされていることからすると、この通知は条例一五条四項により基準水量を変更する通知ではなく、その効力を有するものではないと解される。この通知は、せいぜい、昭和五〇年八月二〇日付け決定書「その他」欄記載に従い基準水量を算定すればこのとおりになるであろうとの通知との意味しか認められない。

2  一審被告は、前記一5(二)(三)のとおり、同じく平成三年九月二日付けで、本件五社に対し、基準水量変更通知及び特定事業者開発負担金賦課の通知をしている。この通知は条例一五条四項の基準水量変更通知と解され、その効力が生じている。

四  更に高い水量による基準水量変更と負担金の賦課

1  一審原告らは、右基準水量変更通知よりも更に高い水量を基準水量として決定し、それに基づく特定事業者開発負担金を徴収すべきであったと主張し、この賦課徴収を怠っていることが違法であることの確認を求めている。この訴訟は、地方自治法二四二条の二第一項三号の不作為違法確認訴訟である。

2 地方自治法二四二条の二第一項三号の不作為違法確認訴訟にいう、違法とは、現在つまり弁論終結時点において、被告がその行為をすることができるのに、これをしないことが違法であることの確認の訴訟である。したがって、過去にすることができても、現在では消滅時効の完成、法規の改正などでその行為を行うことができなくなっているときは、その不作為は現在では違法でないものとする他はない。この場合は住民としては別の形態の住民訴訟によるほかはない。

3  これを本件に見ると、一審原告らは平成三年九月二日通知による基準水量が低すぎると主張するが、条例(平成三年条例第四七号による改正後)及び新規程四条四項五号(平成三年水道事業管理規程第四号による改正後)によると、基準水量は次の四月一日以後に適用され、過去に遡って改正することはできないと解されるから、一審原告ら主張のように平成三年九月二日時点で更に大きい基準水量を認定すべきであったとしても、現在では遡って同時点でその基準水量を決定することはできない。

4  条例(平成三年条例第四七号による改正後)及び新規程四条四項一号五号(平成三年水道事業管理規程第四号による改正後)によると、右改正後の基準水量変更の基準は前記一6に認定のとおりであって、平成三年以前の使用水量は新規程四条四項一号により現在では基準とすることはできない。

そして、現行の条例・規程の下で更に高い基準水量を現在決定すべき事情は当事者から主張されていないから、結局一審原告らのこの部分の主張は理由がないことになる。

五  一審被告が賦課徴収するべき特定事業者開発負担金の額

1  以上からすれば、一審被告は、本件五社について、昭和五〇年八月二〇日に変更した基準水量を平成三年九月二日に再び増量変更し、川崎炉材について、昭和五〇年九月ころ決定した基準水量を平成三年九月二日に増量変更したのであり、右増量前後の基準水量を差引計算すると増量分の数値は、次のとおりとなる。

アース製薬 五三〇〇立方メートル

川崎炉材第二工場 八〇〇立方メートル

正同化学 二万二八〇〇立方メートル

太陽鉱工 二一〇〇立方メートル

タテホ化学 一万〇六〇〇立方メートル

住友セメント 一万四六〇〇立方メートル

2  そして、一4(二)(三)に認定したとおり、特定事業者開発負担金額は、算定基礎額×基準水量÷三〇(日)の算式で算出され、平成三年八月一日以降の算定基礎額が八万九〇〇〇円であるから、一審被告が右基準水量の増量変更に伴って、特定事業者開発負担金を賦課徴収する場合の増量分に相当する特定事業者開発負担金の額(ただし、一〇〇〇円未満は切捨て)は、次のとおりである。

アース製薬 一五七二万三〇〇〇円

川崎炉材第二工場

二三七万三〇〇〇円

正同化学 六七六四万円

太陽鉱工 六二三万円

タテホ化学 三一四四万六〇〇〇円

住友セメント四三三一万三〇〇〇円

3  したがって、一審被告は、平成三年九月二日にした本件六社の基準水量の増量変更及び特定事業者開発負担金の賦課、徴収に際し、争いのない一審被告が同日に賦課した金額との差である次の各金額の特定事業者開発負担金の賦課、徴収を怠っていることとなる。

アース製薬 二九九万六〇〇〇円

川崎炉材第二工場 五万九〇〇〇円

正同化学 二〇八二万六〇〇〇円

タテホ化学 二九六万六〇〇〇円

住友セメント一七五〇万三〇〇〇円

六  結論

よって、一審原告らの本件請求は、一審被告が、アース製薬株式会社に対して行っている水道供給につき、平成三年九月二日にした特定事業者開発負担金の賦課、徴収に際し、二九九万六〇〇〇円の賦課、徴収を怠っている事実、川崎炉材株式会社に対して行っている水道供給につき、平成三年九月二日にした特定事業者開発負担金の賦課、徴収に際し、五万九〇〇〇円の賦課、徴収を怠っている事実、正同化学工業株式会社に対して行っている水道供給につき、平成三年九月二日にした特定事業者開発負担金の賦課、徴収に際し、二〇八二万六〇〇〇円の賦課、徴収を怠っている事実、タテホ化学工業株式会社に対して行っている水道供給につき、平成三年九月二日にした特定事業者開発負担金の賦課、徴収に際し、二九六万六〇〇〇円の賦課、徴収を怠っている事実、住友セメント株式会社に対して行っている水道供給につき、平成三年九月二日にした特定事業者開発負担金の賦課、徴収に際し、一七五〇万三〇〇〇円の賦課、徴収を怠っている事実がそれぞれ違法であることの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却するべきである。

よって、右と同旨の原判決は相当であって、一審原告ら及び一審被告の各控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官井関正裕 裁判官河田貢 裁判官高田泰治)

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