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大阪高等裁判所 平成8年(ネ)3772号 判決 1998年10月14日

兵庫県西宮市下大市東町一六-一三

控訴人(一審原告)

橋本健二

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

今中利昭

浦田和栄

松本司

辻川正人

岩坪哲

南聡

冨田浩也

酒井紀子

深堀知子

大阪市北区同心一丁目四番三一号

被控訴人(一審被告)

株式会社千趣会

右代表者代表取締役

宮地孝

右訴訟代理人弁護士

中嶋邦明

平尾宏紀

井上楸子

右補佐人弁理士

鎌田文二

東尾正博

鳥居和久

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、原判決別紙ロ号製品目録(一)、ハ号製品目録(一)、へ号製品目録(一)、チ号製品目録(一)、ル号製品目録(一)、ヲ号製品目録(一)、カ号製品目録(一)、ソ号製品目録(一)、ツ号製品目録(一)、ネ号製品目録(一)、ム号製品目録(一)、ウ号製品目録(一)及びオ号製品目録(一)記載の各パンティを製造し、販売し、販売のために展示してはならない(ただし、右各製品目録添付の図面のうち、ハ号、ヘ号、チ号、ヲ号、ソ号、ネ号、ム号、ウ号の各製品に関する図面を本判決別紙図面のとおり改める。)。

3  被控訴人は、前項記載の各パンティを廃棄せよ。

4  被控訴人は、控訴人に対し、一億六六八〇万円及び内金一億二〇〇〇万円に対する平成六年一二月一〇日から、内金四六八〇万円に対する平成七年八月二二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  2ないし4項につき、仮執行宣言

なお、控訴人は、平成一〇年二月三日付けでロ号製品に関する訴えを取り下げる旨の書面を提出したが、被控訴人は、これに同意しない(被控訴人の同年三月二四日付け準備書面三)。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  事案の概要

一  本件事案の概要、控訴人の有する特許権、本件特許発明の構成要件・作用効果、被告製品の特定に関する当事者の主張は、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」に記載のとおりであり、本件の争点は、同「第三 争点」に記載のとおりであるから、これらを引用する(以下、略語は原判決のそれによる。)。

二  控訴人の当審における主張の要旨

1  原判決は、被告製品が本件構成要件を充足するか否かを検討するに当たって、被告製品の実物を展開したものである検甲第五五号証等の証拠価値を否定し、被告製品を製造するための臀部片等を製作するために使用する型紙である検乙第一三号証等をもってすればよいと判断しているが、右検乙号証は、被控訴人の所有する物であり、控訴人がこれによってあらかじめその要件を具備するかどうかを検討することができるものではない。他方、原判決が前記検甲号証の証拠価値を否定する理由である、被告製品を展開するために縫い目を切り離す際の誤差があること、展開・張付けの際の伸び等があること、縫い合わせの工程で布地片の一部に伸び等の生じていることも考えられることといった点は、科学的根拠がなく、殊更に右検甲号証を排除する論理である。被告製品が構成要件CないしGを充足するか否かを認定するには、右検甲号証及び検乙号証を総合して認定資料とすべきである。

2  構成要件AないしGは、腹部片3と臀部片2をこのような構成にすることによってH、Iの構成要件を充足するように構成されているものである。したがって、構成要件H、Iは、着用時の状態を一々観察しなくても、腹部片3、臀部片2がAないしGの構成を有している以上、人体の腰部のくびれから当然そうなるものである。

また、原判決は、構成要件H、Iを具備するというためには、いずれのマネキン、いずれの着用状態においても、常に、端縁12、9の縫い目が側面から見て腹部寄りの位置で所定傾斜をし、その腹部寄りの縫い目が両脚孔19の最上部に位置していることを要するとしているが、右のような判断は、全くマネキンによって裁判所がその事実認定を拘束されているものであり、自由心証主義を放棄するものである。

3  原判決が、ロ号製品ないしオ号製品について構成要件Hの充足の有無を右のような見解を前提に判断しているのは誤りであり、そのほか、ロ号製品、ハ号製品、チ号製品、ム号製品、ウ号製品については、原判決の否定したE、Fの各要件を満たしているし、カ号製品及びツ号製品はGの要件を、ソ号製品はEの要件をそれぞれ満たしている。

第三  当裁判所の判断

一  当裁判所も、被告製品はいずれも少なくとも本件特許発明の構成要件Hを具備しないから、その余の点について判断するまでもなく、本件特許発明の技術的範囲に属さないものと認定判断する。当審における控訴人の主張・立証によっても、右の認定判断は左右されない。

その理由は、以下に付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第四 争点一(被告製品は、本件特許発明の技術的範囲に属するか)に対する判断」 (構成要件Hに関する判断部分)に説示するとおりであるから、これを引用する。

二  原判決への付加・訂正

1  原判決一七頁末行の冒頭に「て両端縁が縫い合わされ」を加える。

2  同三三頁末行の「検乙」の前に「検甲第一〇四号証の3・4及び」を、同三四頁一行目の「右」の次に「各」を、同頁三行目の「あるが、」の次に「検乙第三四号証の3・4によれば、」をそれぞれ加え、同頁四行目の「る。」を「、検第甲一〇四号証の3・4によれば、下半分においては、ほぼ所定傾斜に近い傾きをしているものの、上半分においては、逆に上方に向かって臀部側に傾いており、全体として「くの字形」となっていることが認められる。」に改める。

3  同三四頁末行の「及び」の前に「、第一〇五号証の3・4」を、同三五頁四行目の「検乙」の前に「検甲第一〇五号証の3・4及び」を、同頁六行目の「3」の次に「及び検甲第一〇五号証の3・4」を、同頁八行目の「検乙」の前に「検甲第一〇五号証の3、」を、同行の「検乙」の前に「検甲第一〇五号証の4、」を、同頁一〇行目の「認められる」の次に「(検甲第一〇五号証の3・4からは構成要件Hが充足されることを認められないことについては、控訴人も事実上争わないものと認められる(控訴人の平成一〇年六月二四日付け証拠方法説明書)。)」を、同三六夏行目の「の4、」の次に「第一〇五号証の3・4及び」をそれぞれ加える。

4  同三八頁二行目の「及び」の前に「、第一〇六号証の3・4」を、同頁七行目の「の4」の次に「。検甲第一〇六号証の3・4でも、上方に向かってごくわずかに前方に傾斜しているが、所定傾斜をしているとまではいえない。」をそれぞれ加える。

5  同三九頁六行目の「及び」の前に「、第一〇七号証の3・4」を、同頁八行目の「4」の次に「及び検甲第一〇七号証の3・4」を、同頁九行目の「位置」の次に「(検甲第一〇七号証の3・4では、わずかに腹部寄りの位置)」をそれぞれ加える。

6  同四一頁九行目の「及び乙」を「、第一〇八号証の3・4及び検乙」に改め、同四二頁一行目の「検乙」の前に「検甲第一〇八号証の3・4及び」を、同頁四行目の「3・4」の次に「及び検甲第一〇八号証の3」を、同頁五行目の「検乙」の前に「検甲第一〇八号証の4及び」をそれぞれ加える。

7  同四三頁九行目の「及び」の前に「、第一〇九号証の3・4」を、同頁末行の「3・4」の次に「及び検甲第一〇九号証の3」を、同四四頁二行目の「検乙」の前に「検甲第一〇九号証の4及び」をそれぞれ加える。

8  同四五頁四行目の「及び」の前に「、第一一〇号証の3・4」を、同頁六行目の「が、」の次に「検甲第一一〇号証の3においては所定傾斜をしているといい得るものの、その他の証拠によれば、」を、同頁九行目の「検乙」の前に「第一一〇号証の4及び」をそれぞれ加える。

9  同四八頁二行目の「び」を「、第一一一号証の3・4及び」に改め、同頁四行目の「4」の次に「及び検甲第一一一号証の3・4」を加える。

10  同五〇頁三行目の「及び」の前に「、第一一二号証の3・4」を、同頁五行目の「が、」の次に「検甲第一一二号証の3・4においては所定傾斜をしていると見られなくもないものの、その他の証拠によれば、」をそれぞれ加える。

11  同五二頁四行目の「及び」の前に「、第一一三号証の3・4」を、同五三頁一行目の「められる」の次に「(検甲第一一三号証の3・4の写真からは右縫い目の形状が必ずしも明らかではないが、右各証拠から構成要件Hを充足することが認められないことについて、控訴人は事実上争っていない(控訴人の平成一〇年六月二四日付け証拠方法説明書)。)」をそれぞれ加える。

12  同五三頁六行目の「及び」の前に「、第一一四号証の3・4」を、同頁九行目の「が、」の次に「検甲第一一四号証の3においては所定傾斜をしていると見られなくもないものの、その他の証拠によれば、」を、同頁一〇行目の「3」の次に「、第一一四号証の4」をそれぞれ加える。

三  控訴人は、構成要件Hの判断方法等に関し、前記第二の二の2のとおり主張する。

しかし、構成要件Hは、「さらに腹部片3及び臀部片2のそれぞれの突出部11、6の端縁12、9間の長さと、両端部12、9の傾斜角度とが、着用時これらの端縁12、9の縫い目が側面から見て腹部寄りの位置で臀部の後上半の傾斜とほぼ合致するように上方に向かって前方に傾斜するように定められて両端縁12、9が縫い合わされ」るというものであり、布地片の縫い合わせ前の寸法及び形状の一部(腹部片と臀部片の各突出部の端縁間の長さ及び各端縁の傾斜角度)を、縫い合わせ後の下着を着用したときの形態によって規定するものである。そして、縫い合わせ前の布地片の具体的な寸法及び形状については構成要件BないしGに規定する以上に具体的限定がないのであるから、縫い合わせ前の各布地片の寸法及び形状をもって構成要件Hを充足するか否かを判断することは困難であり(本件特許発明の特許請求の範囲の記載自体からしても、BないしGの抽象的な構成要件を充足しさえすれば、当然に構成要件Hを充足するとは到底認めることができない。)、完成品である被告製品の着用時の形態をもってその充足性を判断するほかはない。ところが、着用時の形態は、着用する人の体格、体型、着用の仕方等によって異なることが当然想定される。本件特許発明は「下着」という物に関する発明であり、本件明細書の記載上も着用者の体格・体型に特段の限定がなく、その「下着」には既製品である下着を含むことが明らかであるから、「着用」の範囲を無限定なものとすると構成要件Hを充足することを不可能なものとしてしまう一方、構成要件Hは本件特許発明の必須の構成要件である(しかも、本件特許発明の主たる効果を生み出す重要な要素である。)から、本件特許発明の構成要件Hは、通常の体格・体型の人(女性)が、通常の方法で着用した場合に、常に端縁12、9の縫い目が所定傾斜を示すものであることを意味するものと解さざるを得ず、そうである以上、被告製品が構成要件Hを充足するというためには、通常のマネキンに通常の方法で着用させた場合には常に構成要件Hを充足するような形態を示すことが認められる必要があるというべきである。そして、通常の体格・体型、通常の着用方法といっても、ある程度の幅があるものであるから、使用したマネキンが特異な体格又は体型のものであるとか、通常と異なる特異な着用状態であると認めるに足りる事情がない以上、各当事者の提出する各証拠における各マネキンに被告製品を着用した形態が常に構成要件Hを充足していない限り、被告製品が本件特許発明の構成要件Hを充足していると認めることはできないものというべきである。

以上は構成要件の合理的解釈と合理的な証拠判断の結果であって、これと同旨の原判決の説示は正当であり、控訴人の前記主張を採用することはできない。

四  被告製品の着用時の形態が、マネキンによって、あるいは着用方法等によって異なり、常に所定傾斜を示すものとは認められないことは前記認定のとおりであり、右に説示したところからして、被告製品が本件特許発明の構成要件Hを充足するものと認めるには足りない。

控訴人は、被告製品をマネキン(検甲第一〇三号証)に着用させた際の形態を撮影した検甲第一〇四ないし一一四号証(枝番省略)をもって構成要件Hを充足することが認められる旨主張するが、右マネキンは、インナー用のヌードボディではなく、一定のゆるみ量を加えたアウター用のものであって、素材、摩擦係数等も異なることが認められ(乙第一ないし三号証、弁論の全趣旨)、通常の人体裸体と同様の性質を有するものかどうかに疑問の余地がある上、この点をおくとしても、前記認定のとおり、右検甲号証によってもなお所定傾斜を示すものとは認められないものもあり、所定傾斜を示すものについても、前記の各証拠上、他のマネキンへの着用形態からして常に構成要件Hを充足するとは認められない(前記認定に用いた検甲、検乙各号証につき、使用したマネキンが特異な体格又は体型のものであるとか、通常と異なる特異な着用状態で撮影したものであると認めるに足りる証拠はない。)以上、被告製品が構成要件Hを充足するものと認めることはできない。

また、控訴人は、被控訴人の提出した乙第一二、一三、一五ないし一八、二〇、二四ないし二六、二九、三〇、三二号証(枝番省略)の型紙に基づいて訴外株式会社バルジュにおいて製品化した検甲第七六ないし八七及び八九号証の各1のパンティをマネキン(検甲第八八号証の1ないし4)に着用させた際の形態(検甲第七六ないし八七及び八九号証の各2。その下の枝番省略)をもって構成要件Hを充足することを立証しようともするが、右各検甲号証のパンティと被告製品との同一性の問題をおくとしても、右証拠自体からも所定傾斜を示すことが認められないものがある上、前記各証拠上常に構成要件Hを充足するものとは認められないのであるから、前記判断を左右するに足りない。

第四  結論

以上の次第で、控訴人の本訴請求は、いずれも理由がなく、棄却を免れない。これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は棄却すべきものである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 川神裕)

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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第1図

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第2図

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第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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第5図

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第1図

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第2図

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ソ号

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ネ号

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ム号

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第1図

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第2図

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