大阪高等裁判所 平成8年(ラ)907号 決定 1997年3月11日
抗告人(原告)
岡田利喜
外二九名
右抗告人ら訴訟代理人弁護士
石井春水
同
小谷野三郎
同
鳥越溥
同
中川清孝
同
中村巖
同
片岡利雄
同
小亀哲治
右抗告人藤田勝久訴訟代理人右中川清孝復代理人弁護士
伊藤寛
相手方(被告)
大石寺
右代表者代表役員
阿部日顕
右訴訟代理人弁護士
小長井良浩
同
有賀信勇
同
大室俊三
同
小川原優之
同
西村文茂
同
浦功
同
菅充行
主文
一 本件抗告をいずれも棄却する。
二 原決定別紙当事者目録一枚目裏一行目の「横田優子」を「横田裕子」と、同二枚目裏七行目の「宮崎周三」を「宮脇周三」にそれぞれ更正する。
理由
一 本件抗告の趣旨及び理由
別紙に記載のとおり
二 当裁判所の判断
当裁判所も、抗告人らの本件文書提出命令の申立てはいずれも却下すべきものと判断する。その過程は、次のとおり抗告理由に対する判断を付加するほかは、原決定の理由欄一ないし四に示されているとおりである。
1 民訴法三一二条一号該当性(引用文書)について
(一) 抗告人らは、「山崎証人は、平成二年四月以降、相手方の理事として土地の売買、契約等、その他土地に関する一切のことを行なっているというのであり、本件訴訟においても、抗告人らと相手方の間の墓地永代使用契約の締結に関し、相手方の立場を代表して証人尋問が実施されているのである。その内容は、相手方の代表者について尋問が行なわれた場合であっても同様であるはずであり、実務担当者である証人がその尋問中に引用した文書が民訴法三一二条一号に該当しないというのは著しく不公平であり不公正である。したがって、実質的に相手方と同視できる山崎証人がその証言中で引用した本件1ないし3、5ないし7、9、10の各文書は、相手方が引用したのと同視すべきである」旨主張する。
しかしながら、前示のとおり、民訴法三一二条一号の趣旨が、当事者が訴訟において、その所持する文書を自己の主張の裏付けとして積極的に引用した以上、当該文書を提出させて相手方の批判にさらすことによって、当事者間の公平・公正をはかる点にあることや、山崎証人は相手方(被告)の理事ではあるが、代表者ではなく、抗告人ら・相手方間の各墓地永代使用契約締結時の実務担当者でもないことに照らすと、同証人が尋問当時相手方の実務担当者であることから直ちに、同証人を同条にいう「当事者」と同視すべきであるとまではいい難い。しかも、一件記録によれば、山崎証人は、抗告人(原告)ら側の反対尋問の中で右各文書の有無について(ただし、右各文書すべてについてではない。)問われたため、その有無について(前同)言及したにすぎないことを併せ考慮すると、抗告人らの右主張はたやすく採用できない。
(二) 抗告人らは、「乙二四号証(工事請負契約書)に添付されている設計図六〇枚及び仕様書(本件1の文書)は、相手方が墓埋法による許可を取得していない地番の土地を含めて設計図を作成したうえで、正本堂建設委員会の名義で工事を発注したことが明らかになる文書である。また、相手方が乙二四号証を提出しているのは、墓埋法による許可を得ていない墓地区画が存在するに至ったことが相手方の故意又は過失によるものではないことの立証も意図していると考えられるが、そうであれば、右故意又は過失の有無は、相手方がどの土地に墓地造成をすることを設計し発注したかが明らかにならなければ判断できないはずである。そのような判断をするには、本件1の文書が提出されなければ困難であり、本件1の文書が提出されない場合にはことさら裁判所の判断を誤らせるおそれがあるから、相手方は、民訴法三一二条一号の引用文書として提出義務を負うと解すべきである。」旨主張する。
しかしながら、原決定が指摘する乙二四号証自体の完結性及び立証趣旨(相手方の正本堂建設委員会が本件墓地の造成工事を発注した事実を立証すること)に照らすと、相手方において、同号証に添付図面及び書類として記載されている本件1の文書の存在及び内容を根拠として、抗告人らがいうところの事実関係(本件墓地内に墓埋法による許可を得ていない墓地区画が存在するに至ったことが相手方の故意又は過失に基づくものではないこと)を裏付けるために乙二四号証を提出し、本件1の文書を引用したものとは認め難いから、抗告人らの右主張も採用できない。
2 民訴法三一二条三号後段該当性(法律関係文書)について
(一) 抗告人らは、「原決定は、本件2(ただし、乙二、三号証に関するもの。)、6ないし9の各文書について、本件無許可地番ないし本件墓地区画に関するものであることは認めたが、ある文書が民訴法三一二条三号後段所定の法律関係文書に該当するか否かについては当該文書自体を対象として審査すべきであるとして、右各文書を通覧することにより相手方の認識の有無が明らかになるとの抗告人らの主張を排斥した。しかしながら、ある文書に、ある法律関係について完結的な記載があるとは限らず、複数の文書が存在することによってある法律関係の立証に資する場合があるのであり、むしろそのような場合の方が多いともいえる。したがって、原決定が、文書提出義務の有無の審査に際して、他の文書の存在を一切考慮してはならないとの趣旨であるならば、それは文書提出義務を著しく限定するものであり、失当である」旨主張する。
なるほど、民事訴訟における証拠方法としての文書は、その記載内容よりして係争事件の法律要件を構成する事実の存否を直接又は間接に証明するに足ると思料される資料であり、したがって、その記載内容からして間接的に係争事実の存否を推認させる事実の存在を証明できる文書も証拠方法になるから、ある文書が民訴法三一二条三号後段所定の法律関係文書に該当するか否かの判断にあたって、立証しようとする事実との関連性の有無、その程度といった観点から当該文書の証拠調べの必要性を考慮しなければならない場合もあり得る。しかしながら、そのような場合であっても、挙証者の訴訟上の資料獲得の必要性と文書所持者の文書に対する処分の自由との調和をはかるという前示の同号の趣旨に照らすと、当然その一方で文書ないしその記載内容に対する文書所持者の処分の自由や秘密保持の利益を考慮しなければならない。そうすると、同号所定の法律関係文書該当性の判断にあたっては、まず、当該文書自体の客観的な記載内容や作成目的に即して、前示の挙証者・文書所持者間の特定の法律関係(契約関係に限定されない。)自体、あるいは当該法律関係の構成要件事実の存否に直接影響を及ぼす具体的事実等、あるいは当該法律関係と密接な関連性を有する事実、に触れたものであるか否かを判断するのが相当というべきである。そして、本件の場合、右各文書の前示記載内容や作成目的からすると、仮に、右各文書を通覧することにより抗告人らが指摘する点の立証が容易になる可能性があるとしても、そのことから直ちに右各文書を法律関係文書に該当するというのは相当ではない。
これと同旨に帰する原決定の判断を誤りということはできず、抗告人らの右主張は採用できない。
(二) 抗告人らは、本件1、2(ただし、乙一、四号証に関するもの。)、4、5(ただし、責任役員会議事録を除く。)の各文書及び本件3、5(ただし、責任役員会議事録。)、10の各文書について、「原決定は、これらの文書を本件墓地区画以外の土地に関するものであるとか、相手方の内部文書であるとして、抗告人らの申立てを認めなかった。しかし、これらの関係各文書を比較対照することにより、D区及びE区、K区及びH区(本件墓地区画)に関して相手方が墓埋法の許可がないことを知悉していながら、墓地用地の取得、墓地の造成工事ないし墓地区画の販売を行なったことが明らかになる。したがって、右各文書はいずれも本件墓地使用契約関係あるいは不法行為と密接な関係を有するといえるから、民訴法三一二条三号後段の文書に該当する」旨主張する。
しかしながら、その主張にかんがみ検討するも、前記(一)の観点からすると、右各文書の民訴法三一二条三号後段該当性を否定した原審の判断に誤りはなく、抗告人らの主張は採用できない。
3 その他、所論にかんがみ一件記録を精査するも、原決定にはこれを取り消すべき違法、不当の点はない。
三 結論
以上の次第で、原決定は相当であって、本件抗告はいずれも理由がないが、原決定別紙当事者目録一枚目裏一行目に「横田優子」とあるのは「横田裕子」の、同二枚目裏七行目に「宮崎周三」とあるのは「宮脇周三」の誤謬であることは、一件記録に照らし明白であるから、主文のとおりこれらを更正することとする。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官上野茂 裁判官高山浩平 裁判官長井浩一)
別紙
原決定の主文の表示
本件申立をいずれも却下する
抗告の趣旨
一 原決定を取り消す
二 相手方は、本決定の送達の日から一四日以内に、別紙文書の表示記載の各文書を提出せよ
との裁判を求める。
抗告の理由
一 民訴法三一二条一号該当性(引用文書)について
1 原決定は、本件1乃至3、5乃至7、9、10の各文書につき、民訴法三一二条一号の文書(引用文書)の主体は当事者に限られ、山崎証人は、本件記録からは、同号にいう「当事者」と同視すべき事情は見当たらないとして、右各文書は同号に該当しないと判断した。
しかし、民訴法三一二条一号が引用文書につき文書提出義務を認めた趣旨は、一方当事者が自己の主張を裏付けるためにその所持する文書を訴訟の中で引用した場合には、一方当事者に偏った裁判所の心証形成の危険を回避するため、その文書を提出させた上、他方当事者にも、その内容を検討・批判する機会を手続的に保障するのが公正であるからである。
その趣旨からすれば、証人が証言中で文書を引用した場合であっても、その証人が当事者と同視できる場合には、当事者による「引用」として、民訴法三一二条一号の適用を認めるべきである。なお、原決定も、「本件記録からは、同証人をもって同号にいう『当事者』と同視すべき事情は認められない」として、『当事者』と同視すべき事情があれば当事者による引用と解することを前提とする判断を示している。
山崎証人は、平成二年四月以降、相手方の理事として「土地の売買、契約等、その他土地に関する一切のことを行って」いるというのであり(第一〇回口頭弁論における山崎慈昭の証人調書)、本件訴訟においても、抗告人らと相手方との間の墓地永代使用契約の締結に関し、相手方の立場を代表して証人尋問が実施されているのである。その内容は、相手方の代表者について証人尋問が行われた場合であっても同様であるはずであり、実務担当者である証人の尋問中において引用した場合には民訴法三一二条一号に該当しないというのは著しく不公平であり不公正である。
したがって、実質的に相手方と同視できる山崎証人がその証言中で引用した本件各文書は、相手方が「引用」したのと同視すべきであり、これを拒否した原決定は取消を免れない。
2 また、原決定は、本件1の文書につき、乙第二四号証は、請負契約書本体とその添付書類という関係にあり、同号証のみを特定して分割することが可能であり、また、同号証はそれ自体で意味内容も完結的で理解できるものであり、文書全体との関連性も明瞭であるなどから、同号証の提出によって、本件1の文書の引用があったということはできないとして、右文書は同号に該当しないと判断した。
しかし、乙第二四号証に添付されている設計図六〇枚及び仕様書は、相手方が、墓埋法による許可を取得していない地番の土地を含めて設計図を作成した上で、正本堂建設委員会の名義で工事を発注したことが明らかになる文書である。
また、相手方が乙第二四号証を提出しているのは、墓埋法による許可を得ていない墓地区画が存在するに至ったことが相手方の故意又は過失によるものではないことの立証をも意図していると考えられるが、そうであれば、相手方が、どの土地に墓地造成することを設計し発注したかが明らかにならなければ判断できないはずである。そのような判断をするには、乙第二四号証に添付されている設計図六〇枚及び仕様書が提出されなければ困難であり、それらが提出されない場合にはことさら裁判所の判断を誤らせるおそれがあるから、民訴法三一二条一号の引用文書として、文書提出義務を負うと解すべきであり、この点の判断を誤った原決定は取消を免れない。
二 民訴法三一二条三号該当性(法律関係文書)について
1 原決定は、本件各文書が民訴法三一二条三号後段の法律関係文書の該当するかどうかにつき、いずれの文書も同号には該当しないと判断した。
2 本件2、6乃至9の各文書について
原決定は、本件2、6乃至9の各文書は、本件無許可地番ないし本件墓地区画に関するものであることは認めたが、本件各文書を通覧することにより相手方の認識の有無が明らかになるとの抗告人らの主張を排斥し、各文書は抗告人らと相手方との間の本件墓地使用契約関係あるいは不法行為それ自体が記載された文書でないことは明らかであるし、抗告人らが右文書により立証しようとする本件無許可墓地は無許可であることについての相手方の認識の有無の判断に直接資する具体的事実が記載されたものともいえないので、右法律関係と密接な関連性を有する文書ということもできないと判断している。
まず、原決定は、ある文書が民訴法三一二条三号後段に該当するか否かについては当該文書自体を対象として審査すべきであるとするが、ある文書に、ある法律関係について完結的な記載があるとは限らず、複数の文書が存在することによってある法律関係の立証に資する場合があるのであり、むしろそのような場合の方が多いとも言えるのである。従って、原決定が、文書提出義務の有無の審査に際して、他の文書の存在を一切考慮してはいけないとの趣旨であるならば、それは文書提出義務を著しく限定するものであり、失当である。
そして、本件2の文書は、墓埋法一〇条の許可申請書等であるが、右申請書には、土地利用計画図が添付されており、この図面には墓埋法の許可申請の対象とされた土地の現地での位置・範囲・形状及び土地の利用方法が記載されており、
①この土地利用計画図と、本件1、3乃至5の文書とを比較対照することにより、D区及びE区に関して、相手方が分筆登記まで行ったうえで農地転用許可申請や墓埋法許可申請の際には敢えて除外した土地(地番一九八九番三等)について、その後に造成工事を行わせた事実が判明するものであり、
②この土地利用計画図と本件3、6の文書とを比較対照することにより、K区に関して、相手方が地番七三一番の土地について墓埋法の許可がないことを知悉しながら造成工事を行った事実が判明するものであり、
③この土地利用計画図面と本件3、7乃至10の文書とを比較対照することにより、H2区及びH3区に関して、分筆登記まで行ったうえで墓埋法許可申請の際には敢えて除外した土地(地番七四八番一)について、右分筆登記の結果により、また、右土地に隣接する地番七四七番地二及び三の土地に対する道路査定申請、用途廃止申請、払下申請等の結果により、右七四八番一土地の位置や形状が明らかとなり、相手方は右土地について墓埋法の許可がないことを知悉しながら造成工事を行った事実が判明するものである。
したがって、いずれも本件墓地使用契約関係あるいは不法行為と密接な関係を有するものであり、民訴法三一二条三号後段の法律関係文書として文書提出義務が認められるべきものであり、原決定は取消を免れない。
また、本件6、7の各文書は、K区、H区についての造成工事請負契約書等であるが、本件6の文書には設計図が添付されていて、造成工事の対象とされた土地の範囲や形状等が右図面等により明らかになる文書であって、本件2及び3の各文書と比較対照することにより、K区に関して、相手方が地番七三一番の土地について墓埋法の許可がないことを知悉しながら造成工事を行った事実が判明するものである。
本件7の文書は、設計図が添付されていて造成工事の対象とされた土地の範囲や形状等が右図面等により明らかになる文書であり、本件8の文書は、本件無許可地番のうち、地番七四八番一の土地の分筆登記申請書等であるが、地積測量図が添付されていて分筆前後の土地の面積や形状等が右図面等により明らかになる文書であり、本件9の文書は、本件無許可地番のうち右同所七四七番二及び三の各土地についての道路査定申請書であるが、関係者が立ち会った上で作成された官民境界確認済みの地積測量図が添付されていて、道路査定申請、用途廃止申請、払下申請の各対象とされた土地の位置や形状等が右図面等により明らかになるものである。
そして、本件7乃至9の各文書を本件2、3の文書と比較対照することにより、H2区及びH3区に関して、相手方が地番七四八番一の土地について墓埋法の許可がないことを知悉しながら造成工事を行った事実が判明する文書であり、いずれも本件墓地使用契約関係あるいは不法行為と密接な関係を有するものである。
したがって、民訴法三一二条三号後段の法律関係文書として文書提出義務が認められるべきであり、原決定は取消を免れない。
3 本件1、2、4、5の各文書について
原決定は、本件1、2、4、5の各文書(但し、4及び5のうち責任役員会議事録を除く)は、いずれも本件墓地区画以外の土地に関するものであるから、抗告人らと相手方との法律関係に密接な関連性を有する事項が記載されているとは到底認められないと判断する。
しかし、本件2の文書のうち、乙第一号証の許可申請書に添付された土地利用計画図は本件3、6の文書と比較対照することにより、K区に関して、地番七三一番の土地につき墓埋法の許可がないことを相手方が知悉していながら造成工事を行ったことが明らかになる文書である。これは本件墓地区画の土地に関するものあり、本件墓地使用契約関係あるいは不法行為と密接な関係を有するものであるから、民訴法三一二条三号後段の法律関係文書として文書提出義務が認められるべきである。
したがって、本件2の文書が本件墓地区画以外の土地に関するものであるとの原決定は誤りである。
また、本件5の文書には、K区内の土地についての農地転用許可申請書及びその添付書類が含まれており、その添付書類である土地利用計画図と本件6の文書と比較対照することにより、K区のうち、地番七三一番の土地につき、農地転用許可申請や墓埋法許可申請をしていないのに、その後に造成工事を行った事実が判明する。それは、墓地使用契約関係文書として文書提出義務が認められるべきである。
したがって、本件5の文書が本件墓地区画以外の土地に関するものであるとの原決定は誤りである。
さらに、それ以外の文書については、D区及びE区に関して、相手方が分筆登記まで行ったうえで、農地転用許可申請や墓埋法許可申請の際には敢えて除外した土地(地番一九八九番三等)について、その後に造成工事を行わせた事実が明らかになる文書であるが、D区及びE区における墓地造成は、K区及びH区の無許可地番の土地における墓地造成の前提をなし、それと密接に関連するものであるから、相手方がK区及びH区に無許可地番の土地があることを知悉しながら墓地を造成したことを明らかにする文書である。
したがって、いずれの文書も本件墓地使用契約関係あるいは不法行為と密接な関係を有すると言えるものであり、民訴法三一二条三号後段の法律関係文書として文書提出義務が認められるべきであり、原決定は取消を免れない。
4 本件3、5、10の各文書について
原決定は、本件3、5、10の各文書につき、民訴法三一二条三号後段の法律関係文書につき、文書所持者又は作成者の内部的事情から専らその者の自己使用の目的で作成されたにすぎないものは含まれないとした上で、右各文書はいずれも相手方が専ら自己において使用することを目的として作成した内部文書であるから、法律関係文書に該当しないと判断した。
しかし、「自己使用のための内部的文書」との概念は何ら実定法上の概念でないだけでなく、かなり曖昧な概念であることから、拡大解釈が容易であるために文書提出義務を否定する理由として濫用されていることが指摘されている(小林秀之「文書提出命令をめぐる最近の判例の動向〔二〕」判例評論二六六号一三頁〔判例時報九九二号一五一頁〕)。
したがって、「自己使用のための内部的文書」であれば、それだけで民訴法三一二条三号後段の法律関係文書に該当しないとの原決定の判断は誤りであり、そのような文書であるとしても、実質的に、当事者間の特定の法律関係と密接な関連性を有するかどうかが判断されるべきである。
その観点からすれば、本件3の文書は、本件1、2、4乃至10の文書と比較対照することにより、D区及びE区、K区、H2区及びH3区に関して、被告が墓埋法の許可がないことを知悉しながら、墓地用地の取得、墓地の造成ないし墓地区画の販売を行った事実が判明する文書である。
本件5の文書は、D区及びE区に関して、相手方が分筆登記まで行ったうえで農地転用許可申請や墓埋法許可申請の際には敢えて除外して土地(地番一九八九番三等)についてその後に造成工事を行わせた事実が判明する文書である。
本件10の文書は、地番七四七番二及び三の各土地に関する道路査定申請、用途廃止申請及び払下申請の各対象とされた土地の範囲について、相手方自身がいかなる認識を有していたかが地番等により明らかになる文書であり、本件2、3の各文書等と比較対照することにより、H2区及びH3区に関して、相手方が地番七四八番一の土地について墓埋法の許可がないことを知悉しながら造成工事を行った事実が判明する文書である。
したがって、本件3、5、10の各文書を実質的に判断すると、いずれも本件墓地使用契約関係あるいは不法行為と密接な関係を有すると言えるものであり、民訴法三一二条三号後段の法律関係文書として文書提出義務が認められるべきものであって、原決定は取消を免れない。
三 結語
以上により、原決定が本件各文書につき文書提出義務が認められないとして文書提出命令申立を却下した判断はいずれも誤りであり、原決定は速やかに取り消されるべきである。
別紙文書の表示<省略>