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大阪高等裁判所 平成8年(行コ)42号 判決 1999年4月08日

大阪市生野区新今里五丁目一六番一四号

控訴人

池田拓治

大阪市生野区勝山北五丁目二二番一四号

被控訴人

生野税務署長 上村和似

右指定代理人

下村眞美

長田義博

忽那種治

大串仁司

主文

一  原判決主文第二項を次のとおりに変更する。

1  被控訴人が控訴人に対して昭和六三年一一月二二日付けでした、昭和六〇年分の所得税に関する更正のうち、総所得金額二一〇万二四七二円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも平成二年六月二一日付けの裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

2  控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。

二  控訴人の当審において追加した請求にかかる訴えを却下する。

三  訴訟費用は第一、第二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  控訴人

1  原判決の主文第二項を取り消す。

2  原判決の事実及び理由欄第一の二に記載のとおり。

3  被控訴人がした株式取引における株数の減少は重要な要素の変更に当たるとの主張及び乙第六三号証の提出は偽証罪に当たる。(控訴人は当審において右請求を追加した。)

4  訴訟費用は第一、第二審を通じて被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要及び争点

原判決の事実及び理由欄第二を引用する(ただし、原判決の主文第一項に関する部分を除く。)。

第三当裁判所の判断

一  控訴人名義で行われた株式取引における株式売買の回数について

1  株式売買の回数の算定基準について

以下のとおり付加訂正するほかは、原判決の事実及び理由欄第三の二の1(原判決一二丁表一〇行目から同一四丁裏末行まで)を引用する。

原判決一四丁裏一行目「株数の増加」の次に「、取引種別(信用取引か現金取引か)の変更、」を、同末行末尾に以下のとおりを、それぞれ加える。

「なお、被控訴人は、株数減少の場合も、株数増加と同様に、売買益の獲得という営利目的の下に行われる新たな取引意思の実現行為であると主張しているが、そのような見方がありうることは否定できないけれども、株数減少の場合において、残存株式については注文当初の利益獲得意思は残存しているとも見ることができるのであって、被控訴人の主張する見方が普遍的なものではない。そうであれば、前記のとおり株数減少は法的には注文の一部の取消であり、残存株式については当初の委任契約がそのまま存続しているという側面を否定しえない以上、これを全体的に見て新たな委託が行われたとすることはできない。

他方、控訴人は、取引種別の変更は重要な要素の変更とはいいがたいと主張するが、信用取引と現金取引とでは、その仕組みが基本的に異なるものであって、右取引種別は委託契約において必ず確認されるべきものであるから、その変更がなされたのであれば、顧客の取引意思は全く別個のものとなり、したがって新たな委託が行われたものとみるべきである。」

2  株式売買の回数算定の基礎となるべき資料について

(一) 右1(一)、(二)に説示したとおり、株式売買の回数は、顧客と証券会社との委託契約の回数によるべきであるから、その判断のための資料としては、右委任の事実を直截に示すものであり、証券会社が顧客から注文を受けた際に必ず作成することとされている注文伝票(乙三八、五〇、五〇)が第一次的なものというべきである。

(二) ところで、昭和四五年七月一日付直審(所)三〇「所得税基本通達」九―一五、昭和四六年一月一四日付直審(所)二個別通達によると、証券会社は、株式等の売買が一の委託契約に係るものであることを立証する手段として、顧客から一括して二以上の銘柄の注文があった場合等には、受注後、遅滞なく、請求のある顧客につき注文伝票総括表を作成し、これを顧客に交付するものとされている。これについて控訴人は、これら通達や注文伝票総括表には注文時刻の記載欄がないことなどから、同一日付の注文伝票総括表に記載された銘柄の注文は、その時刻が異なっているとしても、一の委託契約として算定すべきであると主張する。

(三) しかしながら、注文伝票総括表は、本来、委託契約の数は注文伝票等の証券会社の内部資料により明らかにされるべきところ、これによる立証が困難な場合が多いことから、その売買が一の委託契約に基づくものであることの立証手段として、実務上の要請から考案されたものであり(甲六八参照)、原資料である注文伝票が存在し、これによれば、二以上の銘柄の注文が、同一日であっても時刻を大きく異にしてなされているのに、およそ一通の注文伝票総括表に記載されている限り、これらを一つの委託契約と見るべきであるという趣旨のものとは考えがたい。また、右通達において、注文伝票総括表は同一日に一通しか作成しないとの趣旨を読みとることはできないし(現に、本件においても同一日に二通の注文伝票総括表が作成されている事例がある。)、売買が一の委託契約に基づいて行われたかどうか明らかでない場合には、売買報告書に記載されている取引ごとにそれぞれ一回とする旨の記載もあり、注文伝票総括表が作成されていてもなお委託契約の数が不明の場合がありうることを予定しているとも考えられる。したがって、右(二)の控訴人の主張は採用できない。

(四) もっとも、本件に係る注文伝票については、注文伝票総括表(乙七、一二等)及び控訴人作成のノート(甲四八の一ないし五、これには日々の株価、注文内容、取引成立状況等が克明に記載されている。)の記載内容と対比すると、各取引に係る最初の注文の際に作成されるべき注文伝票の一部が提出されるに至っていない可能性がある(その存否も不明。具体例は後述する。)。また、控訴人と証券会社とは、注文の有効期間を一か月と合意していたが、証券会社内部では注文伝票の有効期限は注文のあった当該週の週末までとし、翌週以降に継続される注文については、月曜日毎に新たに注文伝票を作成するとの取扱いがなされているのに、実際の注文伝票の作成状況は必ずしもこれに従ったものではなかったことも認められる(その具体例も後述する。)。以上の事情があるため、注文伝票のみでは、当該銘柄の注文から取引成立までの経緯が不明確な場合が少なくない。したがって、これをできるだけ明らかにして、委託契約の数を判定するためには、注文伝票総括表はもとより、控訴人作成のノート(甲四八の一ないし五)その他の資料をも総合して判断するほかはない。

(五) また、注文の時刻が異なるならば、本来、各注文は別個の委託契約であるというべきであるが、注文伝票の具体的作成手順は必ずしも明らかでなく、注文伝票に打刻された時刻が注文の時刻であるとは限らないうえ、一回の通話で継続的に順次注文が行われ、これらを一回の注文とみるべき場合がありうることも否定できないところ、その判定は本来事案毎に行うほかはないが、課税庁である被控訴人の方が、注文時刻の差が五分程度の範囲内であればこれらを一の委託契約に基づくものとして算定するとしているので、これを一つの基準として採用することとし、なお、右範囲を超える注文についても、控訴人が一回の注文であると主張するものについては、個別に判断することとする。

(六) 原判決一八丁表四行目以下の「(二)」の部分(同行から同裏六行目まで)を引用する。ただし、原判決十八丁表六行目「前記一で」から同七行目「のみならず、」までを削除し、同八行目「伝票」の次に「や前記控訴人作成のノートその他の資料」を加える。

(七) 原判決一九丁表三行目以下の「(三)」の部分(同行から同裏五行目まで)を引用する。

3  控訴人名義で行われた株式取引における株式売買の回数について

控訴人名義で行われた株式取引における株式売買回数は、昭和六〇年分が四二回、昭和六一年分が四九回、昭和六二年分が四五回となる。その理由は、以下に付加等するほかは、原判決一九丁裏六行目から同三二丁裏三行目までを引用する。なお、原判決添付別表一、別表二、別表三のうち各「売買回数」欄を本判決添付別表一、別表二、別表三のそれに、原判決添付別紙二を本判決添付別紙二にそれぞれ改める。(なお、厳密には、控訴人の主張が一部変更されているので、右原判決添付別表一、別表二、別表三の「原告の主張する売買回数」欄も訂正すべきであるが、錯綜するので右訂正は省略する。)

(一) 原判決二〇丁表一行目「注文」を「注文伝票の記載内容」と、同二行目「行われ、」を「であり、」と、同六行目「四四回」を「四二回」とそれぞれ改める。

(二) 原判決二〇丁裏五行目から同二一丁表一行目までを次のとおりに改める。

「<2> 取引回数番号一七及び一八の取引について

控訴人は、両取引は一の委託契約に基づくものであると主張する。

右両取引の注文伝票(乙三五の一七)には、注文日時四月四日九時三五分、指値二二八円・数量五〇〇〇株、約定単価二三〇円・約定数量三〇〇〇株、約定単価二二九円・約定数量二〇〇〇株との記載のほか、「九時五五分、@二二九円に訂正OK」「一〇時二五分、二三〇円に訂正OK」との記載がある。

右記載については、まず、九時五五分に二〇〇〇株分について指値を二二九円に変更後、右指値で二〇〇〇株の取引が成立し、次いで一〇時二五分に残三〇〇〇株について指値を二三〇円に変更後、右指値で三〇〇〇株の取引が成立したと読むことが一応可能ではあるが、岡三証券の注文伝票(乙三五、三六(枝番を含む)、三七の一の一から三七の七まで)の記載方法をみると、株数の減少等の注文の一部変更については比較的正確な記載がなされており(乙乙三五の二三の二・四、三五の二四の二、三五の四七・四八、三五の五〇、三六の一〇、三六の一二の五、三六の一六、三六の四〇の二参照)、前記のように一部の指値変更があったとすればその旨の記載がなされたはずであって、これがない本件については、右一部の指値変更がなされたとみることには疑問がある。

また、前記注文伝票の記載を、九時五五分に五〇〇〇株全株について指値を二二九円に変更後、右指値でうち二〇〇〇株の取引が成立し、次いで一〇時二五分に残三〇〇〇株(右時点で全株)について指値を二三〇円に変更後、右指値で三〇〇〇株の取引が成立したと読むことも可能である。しかし、他方、九時五五分に五〇〇〇株全株について指値を二二九円に変更し、取引が成立しないまま一〇時二五分に五〇〇〇株全株について指値を二三〇円に変更し、その後、右二三〇円で三〇〇〇株、二二九円で二〇〇〇株の取引が成立したと読むことも可能である(本件は買い注文であるから、右のような取引が指値に反するものではない)。そして、前記岡三証券の注文伝票の一般的記載傾向からすれば、指値変更について株数の記載がないことや、注文伝票上、約定成立については単価二三〇円のものが先に(伝票の上側に)記載してあることからして、後者の可能性の方が高い。そして、後者であるならば、成立した両取引はいずれも一〇時二五分の指値変更による委託契約によるものであり、かつ、当初の注文による取引は成立していないから、結局、委託契約は一個であるということとなる。以上によれば、両取引は、別個の委託契約に基づくものであるとの立証はなく、そうでないとすれば一の委託契約に基づくものというほかはない。

右の意味において、控訴人の主張は理由がある。」

(三) 原判決二一丁表七行目から同裏三行目までを次のとおりに改める。

「<4> 取引回数番号三二の取引について

控訴人は、当審において、従前の主張を改め、右取引は、いずれも、取引回数番号三七、三八、四〇の取引と同一の委託契約に基づくものであると主張する(当審第一準備書面一八丁表一行目以下)。

まず、取引回数番号三二のうち三菱重工株の取引及び取引回数番号三七、三八、四〇の各取引についての注文伝票の記載をみておくと、これらはいずれも七月一八日(木)八時三〇分に一括して売り注文がなされ、取引回数番号三七(川崎汽船株)は当日に、その余は一か月以内に注文どおりの取引が成立しており(取引回数番号の順に乙三五の三七の一・二、三五の三六の一・二、三五の三八の一・二、四九、三五の四〇)、これらは一の委託契約に基づくものと認められる(なお、被控訴人は取引回数番号四〇は別個の委託契約に基づくものであると主張しているが、後記<6>のとおり理由がない。)。

次に、取引回数番号三二のうち神戸製鋼株についてみると、注文伝票上は、七月四日(木)一四時四六分に現金取引・指値一八〇円・数量五〇〇〇株の売り注文がなされ(乙三五の三二の一)、七月一五日(月)九時二〇分に同内容の注文伝票(乙四〇)が作成されたが、これに「七月一八日八時一九分、取消OK」と記載され、その後の七月二二日(月)九時五五分に更に現金取引・指値一八〇円・数量二〇〇〇株の注文伝票(乙三五の三二の二)が作成され、七月二五日(木)に取引が成立している。このことから、神戸製鋼株の注文が七月一八日(木)八時一九分に全部取り消されたことは明らかである。しかし、他面、同日付の注文伝票総括表(乙七、甲二の一九の一)及び控訴人作成のノート(甲四八の二、なお控訴人第一準備書面二〇丁裏、二一丁表参照)によれば、右同日、他の銘柄とともに神戸製鋼株について現金取引・指値一八〇円・数量二〇〇〇株の売り注文がなされたことが認められ、右取消時刻との対比からすれば、右注文は、前記取引回数番号三二のうち三菱重工株の取引及び取引回数番号三七、三八、四〇の各取引の注文と一括して八時三〇分になされた可能性が強い。そうすると、前記七月二二日受付の注文伝票(乙三五の三二の二)の存在理由が問題となるが、岡三証券における注文伝票の作成状況をみると、同社内では、注文伝票の有効期限は注文のあった当該週末までとし、翌週以降に注文が継続される場合には、新たに注文伝票を作成する旨の内規が存在していたが、実際には、継続分の注文伝票の作成が忘却されるなどして、必ずしも厳格に作成されていなかったことが認められ(乙五〇)、現に、岡三証券への委託に係る控訴人の取引中には、ほかにも注文伝票の継続性が切断されている例がある(取引回数番号三〇、三八、四〇等多数)ことからすれば、前記七月二二日受付の注文伝票(乙三五の三二の二)は、本来七月一八日に作成されるべきであったのが失念され、翌週の月曜日である七月二二日に遅れて作成されたものと考えても不自然ではない。(あるいは、七月一八日付注文伝票は作成されたが、何らかの理由によりこれが提出されるに至っていないだけであるという可能性も否定できない。)

さらに、取引回数番号三二のうち川崎製鉄株についてみると、注文伝票上は、七月四日(木)一四時四六分に信用取引・指値一六二円・数量二〇〇〇株の売り注文がなされ(乙三五の三二の三、前記神戸製鋼株と同時刻である。)、その後七月二二日(月)九時五六分に現金取引・指値一六二円・数量二〇〇〇株の注文伝票(乙三五の三二の四)が作成されており、七月二七日(土)に右現金取引が成立している。そして、七月四日になされた信用取引での売り注文に係る取引が成立したことを認めるべき証拠はない。しかし、他面、右川崎製鉄株についても、前記七月一八日付注文伝票総括表(乙七、甲二の一九の一)及び控訴人作成のノート(甲四八の二)によれば、同日、現金取引・指値一六二円・数量二〇〇〇株の注文がなされたことが認められる。そして、当初一括して注文された前記神戸製鋼株の注文が七月一八日八時一八分に取り消されていること、前記控訴人作成のノート(甲四八の二)には、川崎製鉄株の前記信用取引による注文の記載が抹消されていること、仮に右注文が取り消された場合には、当初の注文伝票ではなく継続分の注文伝票(神戸製鋼株についての乙四〇に対応するもの)にそれが記載されるはずであるが、右継続分の注文伝票は提出されていないことなどからすれば、川崎製鉄株についても、神戸製鋼株と同様、当初の信用取引による売り注文は七月一八日八時一八分頃に取り消され、その後の八時三〇分頃、前記取引回数番号三二のうち神戸製鋼株、三菱重工株の取引及び取引回数番号三七、三八、四〇の各取引の注文と一括して、新たに現金取引による売り注文がなされた可能性が強い。そして、前記七月二二日付の注文伝票(乙三五の三二の四)の存在理由については、前記神戸製鋼株の場合と同様である。(神戸製鋼株と川崎製鉄株の七月二二日付注文伝票がそれぞれ存在し、それが初めての注文であるならば注文伝票総括表が作成されるはずであるが、そのような注文伝票総括表は存在しないことも、右注文伝票に係る注文が当初のものでないことの証左であると考えられる。)。

なお、岡三証券の注文伝票総括表には、その書式からして注文時刻の記載はないが、後記の山一証券のそれに比べ、取引が不成立に終わった銘柄も記載されていることからして、注文のあった後、遅滞なく作成されているものと考えられる。また、控訴人作成のノートは、その内容からして、株価、注文内容、取引成立の有無等を日々克明に記載したものであると認められ、その信用性を一概に否定し去ることはできない。

以上によれば、控訴人主張のとおり、取引回数番号三二の取引は、いずれも、取引回数番号三七、三八、四〇の取引と同一の委託契約に基づくものであると認めるのが相当である。

(四) 原判決二一丁裏七行目末尾に次のとおりを加える。なお、同二二丁表二行目「(三)」を「(七)」と改め、同六行目最初の「株数の減少を」を削除し、同裏三行目「(三)」を「(七)」と改める。

「控訴人は、七月六日(土)に取引回数番号三一と三三の大和紡績株の注文をしたが、不成立となったため、七月八日(月)八時一四分までにこれを取り消し、再度右大和紡績株と、取引回数番号三四のユニチカ株とを一括して注文したと主張するものであるが、右大和紡績株の七月六日付注文伝票(乙三五の三〇の一、三五の三一の一)には、七月八日にその注文を取り消した旨の記載はないし、取引回数番号三一の大和紡績株の七月八日付注文伝票(乙三五の三〇の二・三)の注文時刻は八時五〇分であるのに対し、取引回数番号三四のユニチカ株の同日付注文伝票(乙三五の三三)の注文時刻は八時一四分であり、また、右七月八日付の注文伝票総括表は存在しない(乙七)ことからすれば、控訴人作成のノート(甲四八の二)及び岡三証券作成の証明書(甲一四)の記載によっても、右控訴人の主張は採用しがたい。」

(五) 原判決二二丁裏五行目冒頭の「二」を「(二)」と、同二三丁表四行目「五〇回」を「四九回」と、同八行目から同末行までを次のとおりに、それぞれ改める。

「<1> 取引回数番号一〇の取引について

控訴人は、取引回数番号九の取引と併せて一の委託契約に基づくものとみるべきであると主張するところ、両取引の注文伝票(乙三六の九・一〇)によれば、取引回数番号九の注文は三月二六日一〇時三五分、取引回数番号一〇の注文は同日一〇時三七分であり、その差は被控訴人の主張する五分程度の範囲内にあるから、これを一の委託契約に基づくものと認めるのが相当である。なお、被控訴人は、取引回数番号一〇の注文については同日一〇時四九分に株数の減少が行われているから、別個の委託契約に基づくものと見るべきであると主張しているが、これが採用できないことは前記1(三)(原判決一四丁表末行以下)で説示したとおりである。」

(六) 原判決二五丁表二行目「三六の二六の一」の次に「、二」を、同七行目末尾に次のとおりを、それぞれ加える。

「控訴人は、七月一日付注文伝票総括表(乙七)及び控訴人作成のノート(甲四八の三)によれば、同日には、他の銘柄とともに、指値三九六円、四一〇円、四二〇円、四三〇円として大和紡績株を注文し、当日成立しなかった指値四二〇円、四三〇円のもののうち、四二〇円のもののみを取り消したのに、岡三証券担当者のミスで四三〇円の分も取消とされ、翌日、同人が気付いて、新たに乙三六の二六の二の注文伝票を作成して、それが取引回数番号二六のものとして成立したと主張している。確かに、前掲証拠によれば、控訴人は七月一日にその主張する四種類の指値で大和紡績株を注文し、控訴人作成ノートによれば指値四二〇円の分は抹消されているが、指値四三〇円の分は抹消されないまま成立した旨の印が記載されている。しかしながら、前に述べたとおり、岡三証券の注文伝票の記載は比較的正確で、信用できるものであるから、その指値四三〇円とする注文伝票(乙三六の二六の一)に取消の記載がなされている以上、右甲四八の三の記載のみにより、右注文伝票の記載の信用性を否定するに足りないものというべきである。したがって、右控訴人の主張は採用できない。」

(七) 原判決二五丁裏二行目末尾に次のとおりを加える。なお、同一〇行目から二六丁表四行目までを削除し、同一〇行目「同番号四一の」の次に「うち、ソニー、日立造船、東洋工業(マツダ)株を除くその余の」を加える。

「控訴人は、六月三日に取引回数番号二七ないし二九の銘柄等の一括注文をしたが、一か月の有効期限が経過して右注文が失効し、山下汽船株は継続しなかったのに、岡三証券担当者が誤って、七月三日(木)に、他の取引回数番号二七ないし二九の各銘柄等とともに継続注文とし、七月七日(月)にその継続の注文伝票(乙三六の三〇)を作成したと主張する。まず、仮に、山下汽船株の注文及び取引が、岡三証券が誤って注文扱いにしたために行われたものであるとしても、控訴人はこれにより成立した取引が控訴人に帰属することを否定してはいない(甲四の二の四参照)から、控訴人は右注文を追認したこととなる。しかし、控訴人が提出した甲一四には、右七月三日の注文銘柄中に山下汽船株は含まれておらず、他に、岡三証券が同日付で注文扱いとしたことを認めるべき証拠はないから、結局、控訴人が追認した注文は、前記注文伝票(乙三六の三〇)により七月七日に行われたこととなる。したがって、右注文は、七月三日に行われた取引回数番号二七ないし二九の他の銘柄の注文とは別個のものというほかはない。」

(八) 原判決二八丁裏一行目「(三)」を「(七)」と、同三行目から七行目までを次のとおりに、それぞれ改める。

「<2> 取引回数番号一四及び一五の取引について

控訴人は、右取引は、取引回数番号一二の取引と併せて一の委託契約に基づくものであると主張している。

三月一九日付注文伝票総括表(乙一二、甲六の八)及び控訴人作成のノート(甲四八の四)によると、同日、取引回数番号一二の銘柄、園池製作所株(現金取引・指値六〇〇円・数量五〇〇〇株)及び日産ディーゼル株の売り注文がなされ、そのうち取引回数番号一二の銘柄は当日又は翌日中に取引が成立し(乙三七の一二の一ないし三)、その後、右園池製作所株も取引が成立したことが認められる(乙五二によれば、山一証券担当者は、有効期限(一か月)終了後又は注文の取消があったときに、取引が成立したものだけを注文伝票総括表に記載するようにしていたことが認められる。)。そして、別表三記載のとおり、右時期前後に取引が成立した園池製作所株は取引回数番号一四、一五しかなく、その注文内容も同じであるから、右取引回数番号一四、一五の園池製作所株は、取引回数番号一二と同じく三月一九日に注文されたものと認められる(なお、注文伝票総括表の有効期間は三月二〇日までと記載されているが、前記注文伝票総括表の作成方法からして、右有効期間の記載は信用できない。)。

もっとも、取引回数番号一四、一五に係る注文伝票(乙三七の一四・一五)には、注文日時として三月二七日八時〇二分と記載されており、三月一九日付の注文伝票は提出されていない点が問題となる。しかし、山一証券内では注文伝票の有効期限を一週間とし、翌週に注文が継続されるものについては新たに注文伝票を作成する旨の内規が存在していたにもかかわらず、同社担当者は、当初の注文時に作成した注文伝票を、翌週以降の取引成立時点までそのまま使用していることが多く(取引回数番号一九、二〇、二九、四三ないし四六等)、また、注文伝票総括表の作成方法も前記のとおりで、記載すべき通し番号もなく、注文日と注文の有効期限とが前後逆に記載されているなど、同担当者の注文伝票及び注文伝票総括表の作成状況は相当杜撰なところがある(甲五二等)ことからすれば、三月一九日付の注文伝票が提出されないのは、右担当者が注文伝票の作成を失念したためである可能性を否定できない。(このようなことは、山一証券よりも比較的正確に注文伝票を記載していたというべき岡三証券に係る前記別表一の取引回数番号三二についてさえも見られたことである。)

そうすると、注文伝票に基づいて、取引回数番号一四、一五の注文時刻を確定することはできないから、注文伝票総括表及び控訴人作成のノートの記載にしたがうほかはなく、その結果、取引回数番号一二、一四、一五の取引は一の委託契約に基づくものと認めるのが相当である。」

(九) 原判決二九丁表五行目末尾に次のとおりを加える。

「控訴人は、右取引は、取引回数番号二一の取引と併せて四月一五日に注文したものであるから、両取引は一の委託契約に基づくものとみるべきであると主張する。

四月一五日付注文伝票総括表(乙一二)には、取引回数番号二一の各銘柄のほか、いすず自動車株につき現金取引一〇〇〇〇株、信用取引一〇〇〇〇株の売り注文が記載されている。他方、控訴人作成のノート(甲四八の四)には、四月一五日欄に「T14」(控訴人一四回目の注文の意)として、取引回数番号二一の各銘柄のほか、いすず自動車株について信用取引・指値三四五円・一〇〇〇〇株の売り注文をした旨の記載が抹消されている頁があり、その次の頁の四月一五日欄にも「T14より」として、いすず自動車株についての信用取引・指値三四五円・一〇〇〇〇株の取引が成立した旨の記載がある。ところが、いすず自動車株についての四月一五日付注文伝票は提出されておらず、他面、取引回数番号二二のいすず自動車株の取引に関する注文伝票(乙三七の二二)には、注文日時四月二五日(土)七時五八分、現金取引・指値三四五円・数量一〇〇〇〇株と記載され、その取引は四月三〇日に成立している。そして、他にいすず自動車株について指値、数量を同じくする信用取引による取引が成立したことを認めるべき証拠はない。また、控訴人の株式取引整理帖(甲六の二の四)には、四月三〇日欄にいすず自動車株一〇〇〇〇株を現金取引・単価三四五円で売却した旨の記載がある。

控訴人は、右四月一五日付のいすず自動車株の注文が継続され、四月三〇日に取引が成立したと主張するのであるが、前記認定のとおり、控訴人作成のノートには四月一五日付の注文は信用取引である旨の記載があり、更にそれが抹消されている(右抹消の意味は取消である。)。そして、成立した取引は現金取引である。したがって、控訴人主張の四月一五日付の注文は、取引回数番号二二の現金取引の注文とは別の、信用取引によるものであり、それが取り消されたものとみるのが自然である。注文伝票総括表に、いすず自動車株について現金取引、信用取引の二種類の記載があるのは、そのことを裏付けるし、控訴人作成のノートにいすゞ自動車株の信用取引による取引が成立した旨の記載は誤記であるとみるのが相当である。よって、控訴人の主張は採用できない。」

(一〇) 原判決二九丁裏七行目末尾に次のとおりを加える。

「控訴人は、控訴人作成のノート(甲四八の四)によれば、取引回数番号二六のアマダ株の取引については、五月一二日の注文当初から信用取引として注文していたことが認められるから、右のような現金取引から信用取引への変更はなかったと主張している。確かに右ノートの五月一二日T17欄中にはアマダ株の注文として信用取引を意味する「M」の文字が右肩に付してあるが、それが当初から付されたものか後に付されたものかは不明というほかはなく、右記載のみでは、注文伝票に現金取引から信用取引に変更されたことを示す訂正がなされ、かつ、注文伝票総括表に現金取引と記載してあることにより推認される前記事実を左右するに足りない。」

(一一) 原判決三〇丁表九行目から同裏三行目までを次のとおりに改める。

「控訴人は、五月二九日には、控訴人分の注文として電話で三八件の注文を行っており(ちなみに、控訴人は、別の証券会社に対し妻キトエ分として三一件の注文も行っている。)、その注文伝票を作成するのに一時間二〇分程度はかかるから、注文伝票の打刻時刻が異なっているとしても、そのことから別個の注文であるとみることはできない旨主張しているところ、確かに、控訴人作成のノート(甲四八の四)によれば、五月二九日には、控訴人が主張する程度の注文が行われたことが認められる。しかしながら、右注文のすべてが午前八時四五分あるいは午前九時までに一回の電話でなされたこと又は午前九時以降引き続き午前九時五〇分頃まで控訴人が一回の電話で順次注文を続けていたことを認めるべき確たる証拠はない。控訴人は、その状況をるる主張しているが、右のとおり、その主張事実を認めるべき確たる証拠がないから、原則に立ち戻って注文伝票の記載により注文の回数を算定するほかはない。」

(一二) 原判決三〇丁裏一〇行目「なお、」を「しかし、」と、同三一丁表一行目「主張するけれども、」を「主張するところ、」と、同四行目から同六行目末尾までを次のとおりに、それぞれ改める。

「ではないが、六月二三日付の注文伝票総括表(乙一二、日付は右のとおりであるが、その記載内容からして六月二四日の注文内容が記載されているものと認められる。)や控訴人作成のノート(甲四八の五)の六月二四日欄には、三菱重工株について信用取引による買い注文をした旨の記載が存在するから、これをも併せ考えるならば、取引回数番号四〇の三菱重工株については、当初は信用取引として注文され、その後、現金取引に変更されたと認めるのが相当である。したがって、右取引は、取引回数番号三八、三九、四一とは別の委託契約に基づくものというべきであり、被控訴人の主張は理由がある。」

(一三) 原判決三一丁裏四行目「四三ないし四五」を「四四、四五」と、同五行目「(三)」を「(七)」と、同三二丁表四行目「四三ないし四五」を「四四、四五」とそれぞれ改め、同五行目末尾に次のとおりを加える。「控訴人は、右各注文の継続は山一証券が控訴人の意思に反して行ったものであると主張しているが、控訴人は取引回数番号四六の取引について、当初の注文から二か月を経過した後の九月一八日に株数の減少を行っており、また、控訴人作成の前掲ノートをみるならば、控訴人が注文した株式の消息を克明に点検していたことは明白であって、山一証券が控訴人の意思に反して取引を継続したとは認めがたい。」

(一四) 原判決三二丁表九行目「三七の四六、」の次に「三七の四八」を、同一〇行目末尾に次のとおりを加える。

「控訴人は、控訴人作成のノート(甲四八の五)には、七月六日欄に取引回数番号四二ないし四六とともに取引回数番号四八の注文が記載されているからこれらは一の委託契約に基づくものであると主張している。確かに、右ノートには取引回数番号四二ないし四六の取引と同内容の銘柄を注文し、同四二ないし四五についてはそれが成立した旨の記載(丸印で囲んである)があり、かつ、川崎汽船株についても取引回数番号四八と同内容(現金取引・指値二五六円・数量一〇〇〇〇株)の注文の記載があるし、同日付注文伝票総括表(乙一二)にも川崎汽船株について現金取引・数量一〇〇〇〇万株の注文があった旨の記載がある。しかし、仮に、右川崎汽船株の注文が、取引回数番号四二ないし四六の銘柄と同一日である七月六日になされたとしても、前記<9>と同様、注文日から二か月以上を経過しているから、取引回数番号四二ないし四五とは別個の注文によるものというべきである。また、取引回数番号四六も注文日から二か月以上経過した後に取引が成立しているけれども、川崎汽船株も右と同様の経過をたどって取引回数番号四八のものとして取引成立に至ったとするならば、その注文伝票は取引回数番号四六のそれと同じ七月六日付のものが使用されているはずである。しかるに、取引回数番号四八に係る注文伝票(乙三七の四八)は九月二六日付であるから、七月六日になされた川崎汽船株の注文は、その後取り消された可能性が十分にある。したがって、取引回数番号四八の取引は、取引回数番号四六の取引と一の委託契約に基づくとみることもできない。」

(一五) 原判決三二丁裏三行目末尾に次のとおりを加える。

「控訴人は、一〇月二一日に取引回数番号五三、五五を他の銘柄と一括して注文し、取引回数番号五三の取引が同日中に成立した後、取引回数番号五五の注文を継続したと主張しているが、控訴人作成のノート(甲四八の五)の一〇月二一日T26欄には川崎重工株について現金取引・指値二五五円・数量一〇〇〇〇株の買い注文がなされ、それが取り消されている旨の記載があるほか、その注文伝票(乙三七の五五)の取引種類欄も現金取引から信用取引への変更がなされたことが記載され、かつ、成立した取引は信用取引によるものであることからすれば、一〇月二一日の川崎重工株の現金取引による買い注文は取り消され、新たに信用取引による買い注文がなされたと認められるから、控訴人の主張は採用しがたい。」

二  ハルミ、慶子及び早智子の各名義で行われた株式取引による収益の帰属主体について

1  原判決三二丁裏六行目から同三三丁表五行目に記載の証拠、以下の認定事実中に適宜()内に付記する証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) ハルミ(明治三四年三月一〇日生)名義で行われた株式取引の原資等について

(1) 本年各係争年中にハルミ名義で行われた株式取引に係る証券会社の取引口座の入出金は、原判決別紙四1(以下特に注記しない限り「別紙」、「別表」は原判決添付のものである。)に記載のとおりであり、そのほとんどが住友銀行今里駅前出張所及び近畿相互銀行生野支店のハルミ名義の普通預金口座を通じて行われており、ハルミ名義での株式取引に係る売却益もこれに入金されている。

(2) ハルミ名義の預金口座としては、別紙四1、同五1及び同六に記載のもの等が存在していたが、その原資は、<1>ハルミが控訴人の事業を資金的に援助するために昭和五〇年よりも前に控訴人に交付した預金、<2>控訴人がハルミのために岩崎貴金属から損害賠償金として受け取り、ハルミが右<1>と同趣旨で委ねた三〇〇万円弱の金員、<3>その後のハルミ名義の株式取引による収益等の累積したものである。

(3) ハルミ名義預金口座は控訴人が開設し、通帳も控訴人が保管し、その運用、入出金はすべて控訴人がその判断のもとに行っていた。右入出金については伝票が作成され、その使途等は控訴人が関係する通帳に記入することにより、明らかにしている。昭和五九年から昭和六二年までの入出金の状況は別紙六のとおりであるが、その内容は、大別して、<1>ハルミ名義の株式取引決済に係るもの、<2>別紙五1記載の他の預金口座との間のもの、<3>ハルミの日常的生活に伴うものなどである。

(4) 別紙五1の入出金のうち、控訴人名義預金口座との間の入出金は、右別紙五1自体から対応関係が伺われるもの(取引番号1と25、2と3・4、6と8、7と23、10と11、12と13、17と18、19と20、21と22)及び取引番号は5、9は、いずれもハルミ名義預金口座から資金を移動し、これを控訴人が自己の不動産賃貸業や自己名義の株式取引の資金等として使用したのち、同額を返却したことを示すものである(取引番号5、9につき乙五六の二の四)。

取引番号14の控訴人名義預金口座からの入金は、ハルミ名義で購入されたソニー株五〇〇株を売却(うち二〇〇株は誤って早智子名義で売却)した際の売却代金の一部である(甲一八の一ないし五、四二の二、乙一三、三一ないし三三、五六の二の四、五六の四の四三、なお、別表五取引回数番号2、同六取引回数番号1、同七取引回数番号1・3、同九取引回数番号7ないし9、控訴人当審第三準備書面一一丁から一四丁参照。)。

取引番号15の慶子名義預金口座へ出金は、慶子名義で購入されたニチアス株二〇〇〇株をハルミ名義とした際の精算金である。(乙五三の二九・三〇、控訴人当審第四準備書面二八丁から二九丁参照)。

なお、取引番号欄「参考」の六〇万円の小切手による入金は、ハルミの死亡に伴う、全国酒販生活協同組合大阪支部からの給付金である(甲二四の一ないし三)。

(5) ハルミは昭和六二年四月八日に死亡したが、ハルミ名義の預金は、すべてハルミの子であり控訴人の妻であるキトエが相続した。

(二) 慶子(昭和三六年一〇月一五日生、甲四六)名義で行われた株式取引の原資等について

(1) 本件各係争年中に慶子名義で行われた株式取引に係る証券会社の取引口座の入出金は、原判決別紙四2に記載のとおりであり、「資金の入出金の状況」欄に「不明」とある出金を除き、東洋信託銀行東大阪支店及び住友銀行今里駅前出張所の慶子名義の普通預金口座を通じて行われており、慶子名義での株式取引に係る売却益もこれに入金されている。右不明分の合計五六万五四一六円の出金については、控訴人は現金で交付したと主張し、これに沿う慶子の陳述書(甲四六)を提出しているが、裏付けがなく、やはり不明というほかはない。

(2) 慶子名義の預金口座としては、別紙四2、同五2及び同六に記載のもの等が存在していたが、その原資は、<1>控訴人が管理して預金していた慶子へのお年玉、祝い金、<2>遅くとも昭和五五年から二年間事業専従者給与として積み立てた合計一〇〇万円、<3>昭和五七年四月から昭和六二年四月までに振り込まれた勤務先からの給与全額(ただし、その内、控訴人と慶子との約束に基づき、小遣いとして引き出された四〇ないし六〇パーセント相当分を除く)、<4>控訴人が購入、管理手続の一切をしている慶子名義不動産の賃料、<5>慶子名義の株式取引による収益等の累積したものである(甲五三、六三ないし六五)。

(3) 慶子名義預金口座は、すべて控訴人が開設し、通帳、印鑑は控訴人が保管し、その預金の運用、入出金もすべて控訴人がその判断のもとに行っていた。右入出金については伝票が作成され、その使途等は控訴人が関係する通帳に記入することにより、明らかにしている。昭和五九年から昭和六二年までの入出金状況は別紙六のとおりであるが、その内容は、大別して、<1>慶子名義の株式取引決済に係るもの、<2>別紙五2記載の他の預金口座との間のもの、<3>前記給与の四〇ないし六〇パーセント相当分と慶子の日常的生活に伴うもの(甲五三)などがある。

(4) 別紙五2の入出金のうち、控訴人名義預金口座との間の入出金は、右別紙五2自体から対応関係が伺われるもの(取引番号1と2、4と5、6と7、8と9、10と11)は、いずれも慶子名義預金口座から資金を移動し、これを控訴人が自己の不動産賃貸業や自己名義の株式取引の資金等として使用したのち、同額を返却したことを示すものである。ただし、取引番号12の控訴人名義預金口座への出金分は返却されていない。

取引番号3の早智子名義預金口座からの入金は、寸借であり、平成元年一月一〇日、同月二〇日に返却されている(甲五六の一二、六〇の一・二)

取引番号13のハルミ名義預金口座からの入金は、前記(一)(4)の別紙五1取引番号15に対応するものであり、慶子からハルミへのニチアス株の移動に伴う清算金である。

取引番号14の早智子名義預金口座からの入金の理由は不明である(控訴人は、自らはこれには関与しておらず、キトエが行ったものと主張している。)。

(三) 早智子(昭和三九年七月二二日生、甲四七)名義で行われた株式取引の原資等について

(1) 本件各係争年中に早智子名義で行われた株式取引に係る証券会社の取引口座の入出金は、原判決別紙四3に記載のとおりであり、「資金の入出金の状況」欄に「不明」とある出金を除き、住友銀行今里駅前出張所、同今津支店、近畿銀行生野支店の早智子名義の普通預金口座を通じて行われており、早智子名義での株式取引に係る売却益もこれに入金されている。右不明分のうち、昭和六二年七月一〇日付八一万八九九〇円の出金は、前記(一)(4)のハルミ名義で購入したソニー株五〇〇株のうち早智子名義で売却した二〇〇株分の精算金として出金されたものである。その余の不明分の合計二七万六一三〇円の出金については、控訴人は現金で交付したと主張し、これに沿う早智子の陳述書(甲四七)を提出しているが、裏付けがなく、やはり不明というほかはない。昭和六二年六月九日付六万四二五二円の入金元も不明である。

なお、昭和六二年一〇月二四日付八五万〇〇八〇円の慶子名義口座からの入金は、慶子名義で購入する予定の株式を早智子名義で購入したため、その購入資金を慶子名義預金口座から入金したものであり、後日、右株式は売却され、その代金は慶子名義預金口座に入金されている(甲五三の一一)。

(2) 早智子名義の預金口座としては、別紙四3、同五3及び同六に記載のもの等が存在していたが、その原資は、<1>控訴人が管理して預金していた早智子へのお年玉、祝い金、<2>昭和五八年から昭和六一年まで事業専従者給与名目で積み立てた合計一九二万円、<3>昭和六二年以降に振り込まれた勤務先からの給与全額(ただし、その内、控訴人と早智子との約束に基づき、小遣いとして引き出された四〇ないし六〇パーセント相当分を除く)、<4>早智子名義の株式取引による収益等の累積したものである(甲五六の四ないし六、六六の一ないし三、六七の一・二・一一ないし一六)。

(3) 早智子名義預金口座は、すべて控訴人が開設し、通帳、印鑑は控訴人が保管し、その預金の運用、入出金もほとんどを控訴人がその判断のもとに行っていた。右入出金については伝票が作成され、その使途等は控訴人が関係する通帳に記入することにより、明らかにしている。昭和五九年から昭和六二年までの入出金状況は別紙六のとおりであるが、その内容は、大別して、<1>早智子名義の株式取引決済に係るもの、<2>別紙五3記載の他の預金口座との間のもの、<3>前記給与の四〇ないし六〇パーセント相当分と早智子の日常的生活に伴うもの(甲五六、六七)などがある。

(4) 別紙五3の入出金のうち、控訴人名義預金口座との間の入出金は、右別紙五3自体から対応関係が伺われるもの(取引番号5と6、7と8、9と10、15と16、18と19・20、21と22)及び取引番号1・14・17、2・3、4は、いずれも早智子名義預金口座から資金を移動し、これを控訴人が自己の不動産賃貸業や自己名義の株式取引の資金等として使用したのち、同額を返却したことを示すものである(取引番号1・14・17、2・3につき、甲二二の一・二、五六の七・八、二三の一・二、五七の一・二)。

取引番号11の小切手の入金は、専従者給与の一部として入金されたものである(甲五六の一・四)。取引番号12の慶子名義預金口座への出金は、(二)(4)の取引番号3に対応するものであり、取引番号13の慶子名義預金口座への出金については、(二)(4)の取引番号14に対応するものである。

(四) 家族名義で行われた株式取引の具体的状況等

本件係争年中に行われた家族名義による株式取引においては、証券会社の選択、取引口座の開設手続、銘柄・指値・数量・売買の時期の決定、精算手続等は、すべて控訴人が自己の判断において行っており、控訴人の家族が実質的、個別具体的にこれに関与したことはない。控訴人と各家族との間においては、控訴人が家族名義の預金を運用管理し、資金運用方法として家族名義の株式取引をすることについての一般的な承諾ないし委託はあったが、それ以上に細かな取決めはなされていない。

なお、控訴人は、控訴人名義の株式取引及び家族名義の株式取引の相互間を截然として区別して行っていたが、一部、家族名義により購入した株式を控訴人名義又は他の家族名義の取引口座において売却したこともあった(その例は原判決三八丁裏一行目以下「(2)」の部分)。しかし、その数は取引全体からすれば極めてわずかであり、また、その売却に伴う精算も行われている(甲五三の三四、五七の八、(一)(4)参照)。

2  収益の帰属の判断と売買回数算入の可否

(一) 所得税法一二条は「資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者意外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律を適用する。」と規定している。これは、課税物件の法律上(私法上)の帰属につき、その形式と実質とが相違している場合には、実質に即して帰属を判定すべきであるという趣旨である。そして、これに関する所得税基本通達一二―一には「法第一二条の適用上、資産から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判定すべきであるが、それが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定する。」と、同通達一二―二には「事業から生ずる収益を享受する者がだれであるかは、その事業を経営していると認められる者(事業主)がだれであるかにより判定するものとする。」と定められている。

(二) これに関し、控訴人は、株式取引による収益は、資産から生ずる収益であるとし、右通達一二―一により、家族名義の株式取引による収益は、各家族に帰属するから、控訴人の株式取引としてその回数算定において合算することは許されないと主張している。

(三) しかしながら、一回的な株式の売却による収益とは異なり、本件のような継続的な株式取引による収益の性質は利子・配当・不動産・山林・譲渡所得のような資産性所得ではなく、事業所得と同様の資産勤労結合所得であるというべきであり、このことは改正前の所得税基本通達九―一三に「法第九条第一項一一号イからニまでに掲げる有価証券の譲渡による所得が各種所得のうちいずれの所得に該当するかは、次による。(1)同号イ又はロに掲げる所得は、有価証券の取引のための施設、その者の職業その他の諸般の事情に照らし、その者が常業として有価証券の取引又は買集めを行っていると認められる場合には事業所得とし、その他の場合には雑所得とする。(2)同号ハ又はニに掲げる所得は、譲渡所得とする。」と、同通達三五―二に「次に掲げるような所得は、事業から生じたと認められるものを除き、雑所得に該当する。(8)有価証券の継続的売買又は買集めによる所得」とそれぞれ定められていることからしても明らかである。したがって、本件の家族名義の取引について、前記通達一二―一を適用して、これによる収益を享受するのは各家族であるとする控訴人の主張は採用できない。

(四) もとより、右家族名義の継続的株式取引が事業性を有するとはいいがたいし、所得税法一二条、前記所得税基本通達一二―一・二は、資産又は事業から生ずる収益について概括的に規定しており、所得税法所定の各種所得について個別に規定してはいないが、前記継続的株式取引による収益の性質からするならば、その収益の帰属については、前記基本通達一二―二を参考にして判断するのが相当である。

そして、家族名義の預金口座の開設・出入金の手続、通帳・印鑑等の保管、家族名義の株式取引における証券会社の選択、取引口座の開設手続、銘柄・指値・数量・売買の時期の決定、精算手続等は、すべて控訴人が自己の判断において行っており、控訴人の家族が実質的、個別具体的にこれに関与したことはないこと、控訴人と各家族との間においては、控訴人が家族名義の預金を運用管理し、その運用方法として家族名義の株式取引をすることについての一般的な承諾ないし委託はあったが、それ以上に細かい取決めはなされていないこと、控訴人の預金口座と家族名義の預金口座との間においては、相当回数、後者から前者への資金の移動が行われ、控訴人は、これを自己の不動産賃貸事業、株式取引の資金として利用していたことなどの前記認定事実のほか、ハルミ名義の預金の原資の実質は、控訴人がハルミから贈与を受けていたものに近いとみることも可能であり、慶子、早智子名義の預金の原資の相当程度の部分は、控訴人が右両名の専従者給与名目で貯蓄していたものとみることも可能であることをも併せ考えると、控訴人は、明らかに、家族名義の株式取引の方針決定、実行手続全般にわたり支配的影響力を行使していたといえるから、これによる収益は、法的には控訴人が享受していたというべきである。家族が、控訴人に対し、その預金を資金として家族名義で株式取引を行うことを承認し、売却益が家族名義預金口座に入金されていたという点は、控訴人が家族の名義や資金を使用することの承諾と、これにより一旦控訴人に法的に帰属した収益の分配であることにほかならず、前記判断を左右するものではない。

(五) したがって、家族名義の株式取引も、控訴人にその収益が帰属するものとして、その回数を算入するのが相当である。

三  本件各係争年中に行われた株式取引に係る所得に非課税所得該当性について

以上によれば、非課税所得該当性の判断は次のとおりとなる。

1  昭和六〇年中の控訴人名義の株式売買の回数は合計四二回であり、これにハルミ名義の株式売買の回数六回を加算しても五〇回に満たないこととなり、右株式売買は、所得税法施行令二六条二項に該当せず、これによる所得は、同法九条一項一一号イに規定する所得に該当しないから、課税の対象とはならない。

2  昭和六一年中の控訴人名義の株式売買の回数は合計四九回であり、これにハルミ名義の株式売買の回数二回及び早智子名義の株式売買回数一回を加算すると、合計五二回となり、その取引株式数は合計四八万一〇〇〇株となるから、右株式売買は、所得税法施行令二六条二項に該当し、これによる所得は、同法九条一項一一号イに規定する所得として課税の対象となる。

3  昭和六二年中の控訴人名義の株式売買の回数は合計四五回であり、これにハルミ名義の株式売買の回数一二回、慶子名義の株式売買回数一八回及び早智子の株式売買回数一七回を加算すると合計九二回となり、その取引株式数は合計九四万八二〇〇株となるから、右株式売買は、所得税法施行令二六条二項に該当し、これによる所得は、同法九条一項一一号イに規定する所得として課税の対象となる。

四  結論

以上に基づいて、株式売買の回数及び総所得金額を計算すると、本判決別紙二(原判決添付別紙二のうち「<3>本人名義の回数」の一部、「<9>雑所得の金額」中の株式売買欄の一部を前記判断により訂正したもの)のとおりとなる。すなわち、

1  控訴人の昭和六〇年分の株式取引に係る雑所得金額はゼロとなるから、総所得金額は二一〇万二四七二円となり、これを超える更正及びこれに基づく過少申告加算税賦課決定は取消を免れない。

2  昭和六一年分の株式取引に係る雑所得は、右取引に係る利益金額七六三万〇七一三円から経費五二〇〇円を控除した七六二万五五一三円となり、昭和六二年分の株式取引に係る雑所得は、右取引に係る利益金額一三〇九万九八〇五円から経費九二〇〇円を控除した一三〇九万〇六〇五円となる。そうすると、昭和六一年分の総所得金額は九一七万九〇一六円、昭和六二年分の総所得金額は一四四六万二六三二円となり、本件各更正のうち昭和六一年分、昭和六二年分に係る総所得金額は、いずれも右総所得金額の範囲内にあるから、右各更正には違法な点はなく、これに基づく過少申告賦課決定にも違法な点はない。

3  なお、控訴人が当審において追加した請求にかかる訴えは、訴えの利益がなく不適法であるから、却下を免れない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井筒宏成 裁判官 古川正孝 裁判官 塩川茂)

別紙二

株式売買の回数及び総所得金額

<省略>

別表一

売買回数並びに売買株式数の明細表(60年分)

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別表二

売買回数並びに売買株式数の明細表(61年分)

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別表三

売買回数並びに売買株式数の明細表(62年分)

<省略>

<省略>

<省略>

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<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

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