大阪高等裁判所 平成8年(行コ)57号 判決 1998年4月14日
神戸市中央区二宮町一丁目四番七号
控訴人
有限会社 ラジ トレイディングコーポレイション
右代表者代表取締役
ハンスラジ カルヤンジ カンジ
右訴訟代理人弁護士
辰野久夫
同
藤井司
同
尾崎雅俊
同
木下慎也
神戸市中央区中山手通二丁目二番二〇号
被控訴人
神戸税務署長 西佐古国雄
右指定代理人
関述之
同
西浦康文
同
奥光明
同
寺嶋芳朗
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人が控訴人に対して昭和六〇年三月三〇日付けでした昭和五七年八月三日から同年九月三〇日まで、昭和五七年一〇月一日から昭和五八年九月三〇日まで、昭和五八年一〇月一日から昭和五九年九月三〇日までの各事業年度の法人税にかかる更正及び重加算税賦課決定のうち、国税不服審判所長が昭和六二年二月五日付けでした裁決により取り消された残余の部分を取り消す。
3 灘税務署長が有限会社太平洋商会に対して昭和六〇年三月三〇日付けでした昭和五五年一〇月一日から昭和五六年九月三〇日まで、昭和五六年一〇月一日から昭和五七年九月三〇日まで、昭和五七年一〇月一日から昭和五八年九月三〇日まで、昭和五八年一〇月一日から昭和五九年九月三〇日までの各事業年度の法人税にかかる更正及び重加算税賦課決定(昭和五六年一〇月一日から昭和五七年九月三〇日までの事業年度については、昭和六〇年六月二九日付けでした右処分を減額する更正及び重加算税賦課決定後のもの)のうち、国税不服審判所長が昭和六二年二月五日付けでした裁決により取り消された残余の部分を取り消す。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二事案の概要
本件事案の概要は、次に訂正するほか、原判決事実及び理由第二 事案の概要(原判決三枚目表末行から同九枚目裏八行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決六枚目表末行の「香港は」を「本件取引当時、香港は、」と、同裏一〇行目の「IMKとの取引」から同七枚目表三行目末尾までを「PTが現地代理店等に手数料を支払ったり、売買代金を立替払しており、本件で問題となっている差額は、その手数料として相当なものであるから、損金に算入されるべきで課税対象にならないと主張する。しかし、PTが本件取引において、このような役割を果たした事実はないから本件差額が損金であるとはいえないし、仮に、PTが、現実に現地代理店等に手数料を支払っているのであれば、控訴人自らが個々の取引ごとに、それぞれの手数料の正当性について、算出根拠や支払の事実等を具体的に主張立証すべきであるのに、これをしないから、控訴人の主張は失当である。」とそれぞれ改める。
2 原判決九枚目裏四行目の「IMKとの取引」から同七行目の「算入されるものであり、」までを「PTは、アフガニスタンにおける現地代理店であるアマナット及びアフガニスタン商工会議所に対し、手数料を支払うほか、自らの危険において売買代金を立替払しており、現地買主の不払、あるいは支払遅延のリスクを負っていて、単に伝票上商品を通すだけの商社に対しても、コミッションが通常支払われ、是認されていることに鑑みると、本件取引におけるPTの役割は極めて重要なものであり、本件で問題となっている差額はその手数料として相当なものであるから、損金に算入すべき経費として認められるべきで、」と改める。
3 原判決別表一の二2の<1>確定申告法人税額欄の「3,476,100」を「34,761,100」と改める。
第三当裁判所の判断
一 控訴人の被控訴人に対する本件取消請求についての、当裁判所の認定判断は、次に訂正、付加及び削除するほか、原判決事実及び理由第三 争点等についての判断(原判決九枚目裏一〇行目から同二八枚目表一行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一〇枚目表八行目の「昭和昭和」を「昭和」と改める。
2 原判決一一枚目裏一〇行目から末行にかけての「留まるまる」を「止まる」と改め、同一二枚目表三行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「 また、控訴人は、IMKはアフガニスタンにおける買主の中では数少ない、英語ができ、来日する機会も多い大口顧客であって、控訴人らとの直接取引が多くあったものであり、交渉段階では、まず、PTの介入しない直接取引を想定していたことからして、IMKとの直接のやりとりがあったことをもって、PTの中間買主性を否定し去ることはできないと主張する。しかしながら、証拠(乙四ないし六・一六・一七の各1、2、二二、二五の1、2)によると、控訴人らがIMKに対し商品売買代金の支払を督促したり、代金受領の確認を内容とする、現地買主との間のテレックス、レター等の直接交渉を示す書類が存在すること、売買当事者間の債権債務を確認するための書面である勘定表が控訴人らとIMKとの間に作成されていることが認められ、これらの事実は、PTが中間買主であることと矛盾することが明らかであり、右主張は採用できない。」
3 原判決一二枚目裏二行目末尾の次に、次のとおり加える。
「 この点に関して、控訴人は、TA-六四九の取引については、PTがアフガニスタンにおける代理店のアマナットに問い合わせをした際、あわせて控訴人(太平洋商会)にも情報があるかと尋ねたにすぎないし、TD-八二九の取引については、その内容の一部に買主のオプションがあり、その行使の結果を知らせたにすぎず、かつ控訴人(太平洋商会)が代わって受領した売買の代金はPTに送金しているから、いずれにせよ、控訴人(太平洋商会)がPTと現地買主間の契約内容を定めたとか、その内容に介入したとかいうものではなく、PTの中間買主性と矛盾するものではないと主張する。しかしながら、TA-六四九の取引について、控訴人(太平洋商会)が求められて回答した情報の内容は、控訴人(太平洋商会)が現地買主と直接に取引していない限り知り得ない性質の事柄であり、右の事実は、この取引がPTを中間買主とするものではないことを示すものである。そうして、TD-八二九の取引について、PTが中間買主として介入し、PTJ現地買主との間に売買契約が締結されているのであれば、PTが控訴人(太平洋商会)に買主名義を問い合わせるなどするはずはないことからして、右主張は採用できない。」
4 原判決一四枚目表三行目の「一〇四の1ないし4」を「一〇四の1、2」と、同四行目から五行目にかけての「一六六・一六七の各1ないし4、一六八の1ないし3、一六九の1ないし4」を「一六六の1ないし4、一六七の1ないし3、一六八・一六九の各1ないし4」と、同裏二行目の「一六五の一」を「一六五の1」と、同四行目から五行目にかけての「乙一六三の2、3、乙一六五の2、3」を「一六三・一六五の各1、2」とそれぞれ改める。
5 原判決一六枚目表一〇行目の「右主張を採用できない。」を「右主張は採用できない。」と、同裏一行目から二行目にかけての「三三の1ないし4」を「三一、三二の1ないし4」と、同四行目の「各2」を「各1、2」とそれぞれ改める。
6 原判決二〇枚目表四行目の「甥」を「叔父」と、同六行目の「甲A八四」から同七行目の「二二二」までを「甲A八四の1、2、八五の1ないし5、八六の1、2、八七の1ないし6、甲B二二〇・二二一の各1ないし3、二二二」とそれぞれ改める。
7 原判決二一枚目表八行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「 控訴人は、PTは控訴人らとのみ取引をしているものではなく、韓国、台湾、シンガポールとも取引を行い、中間買主として介入しており、現にL/Cの解説を受けて取引を行い、あるいは控訴人ら以外の売主のためにL/Cを解説していることからして、PTが独立した営業実体を有することの証左であると主張し、これに沿う書証(甲A八九、九〇の1ないし6)を提出するが、これらの書証のみから、PTが独立した営業実体を有するとの控訴人主張事実を肯認することは困難であり、右主張は採用できない。」
8 原判決二二枚目表九行目の「二六」を「二六の1、2」と改め、同裏九行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「 なお、控訴人は、PTが代金の前払をしている例として、取引番号TA-二三六、TA-二六四及びA-一三三の各取引を挙げ、TA-二三六及びTA-二六四の取引においては、いずれもPTから控訴人への売買代金の前払はなされているのに、現地買主からの支払は、前者については一部が未払のままであり、後者については全く受領していないとし、また、A-一三三の取引において、現地買主から売買代金を受領する前に、PTは、原告に対し売買代金を支払っていること及びPTが現地買主に対して売掛残(貸倒れ)を有していることが明らかで、PTからの前受金による決済の事実が裏付けられるとし、かつ、PTの顧客別売掛帳が客観的事実に合致し、信頼できるものであると主張し、これに沿う書証(甲A八三の2、3、八四の2、九四ないし一一〇、甲B一八九・一九〇・二一〇の各2、3、二二二)を提出する。
しかしながら、控訴人が右取引番号TA-二三六及びTA-二六四の前受金に関する主張の、主たる根拠とする甲A一〇二、一〇三号証の帳簿は、他の証拠(甲B一八四ないし一八七・一八九ないし一九一・一九三の各3、二〇六・二一一の各2)に対比して、本来記載されるべき取引が欠落している上、甲A九四、九五号証の帳簿を含め、各帳簿に記載されているPTからの入金額が、すべてラウンドナンバーであって、入金額と個々の取引との対応関係が認められないなど、その記載の信用性に乏しいといわざるをえない。加えて、証拠(甲A七一・七二の各1ないし3、九四)によると、取引番号A-一一五及び同一一六の取引のように、控訴人において、PTからの前受金入金の有無を確認することなく船積み又は船積みのための手続を行っている取引があることが認められ、これらの事実からして、控訴人が主張するような、PTを中間買主とする必要性及び効用があったのかどうか疑問といわざるを得ない。また、証拠(甲A八三の2、3、八四の2、九四及び九五(その信用性を措く。)、九六ないし一〇一)によると、取引番号A-一三三の取引について、控訴人主張の事情が認められる(ただし、売掛金は代金一万〇七〇〇ドルのうち三五〇ドルにすぎない。)けれども、このような例があるからといって、前記の認定判断が左右されるものではないし、右の例があるゆえにPTの顧客別売掛帳が客観的事実に合致し、信頼できるものとまでいうことはできない。したがって、控訴人の主張は採用できない。」
9 原判決二四枚目表八行目の「マヌ・カルヤンジ・カンジ」を「マヌ・カルヤンジ・ラジ」と改める。
10 原判決二四枚目裏六行目の「香港が」を「本件取引当時、香港が」と、同行の「国である」を「国であった」とそれぞれ改める。
11 原判決二五枚目裏二行目の「「見積送り状」などという。」を「「見積送り状等」という。」と改める。
12 原判決二六枚目表末行から同裏一行目にかけての「<1>売買代金額欄」の次に「(ただし、別表二の一枚目は売買契約額欄)」を加える。
13 原判決二六枚目裏八行目から九行目にかけての「太平洋商会の昭和五七年九月期分を除いて、」及び同末行から同二七枚目表八行目までをいずれも削除する。
14 原判決二七枚目表九行目の「IMKとの取引」から同裏五行目末尾までを次のとおり改める。
「 PTが現地代理店等に手数料を支払ったり、売買代金を立替払いしており、本件で問題となっている差額は、その手数料として相当なものであるから、損金に算入されるべきで課税対象にならないと主張する。
しかしながら、PTが売買代金を立て替えたり、現地の代理店等に対する手数料を支払ったりしたものということができないことは前示のとおりであり、控訴人の主張はその前提を欠き、この点において失当であるばかりでなく、この点を措くとしても、控訴人は、PTが現地の代理店等に手数料を支払い、また売買代金を立替払いしていると主張するだけで、どの取引に対して、幾らの手数料を支払い、それが正当なものであることについて、具体的に主張立証しないから、控訴人の主張は失当であり、採用できない。」
15 原判決二七枚目裏八行目から同二八枚目表一行目までを「本件処分は適法である。」と改める。
二 以上の次第で、控訴人の請求のうち、控訴人の昭和五七年九月期の更正について控訴人の申告した所得金額三一〇万七六七五円を超えない部分及び太平洋商会の昭和五七年九月期の更正について太平洋商会が申告した所得金額八四六八万〇〇二一円を超えない部分の取消しを求める部分は、不適法であるから、いずれも却下すべきであり、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。なお、太平洋商会の昭和五七年九月期については、灘税務署長により、所得金額を二億二一六五万七七七九円とする更正及び重加算税賦課決定処分がなされ(その後、減額更正決定がなされたが、所得金額は同額である。)、これに対する審査請求においては、国税不服審判所長により、所得金額が二億二七五九万六一五九円と認定され、灘税務署長の処分はその範囲内でなされたものであるとして、審査請求を棄却する裁決がなされた(重加算税賦課決定は一部取り消された。)ことが認められる(乙一)から、灘税務署長のした所得金額を二億二一六五万七七七九円とする更正決定処分が維持されたことが明らかである。そうすると、灘税務署長が本件処分で認定した右金額は、太平洋商会の昭和五七年九月期の所得金額と認定し得る二億二七五六万三〇一一円を超えるものではないから、灘税務署長の本件処分には違法はないというべきであり、原判決中、灘税務署長の本件処分を一部取り消した部分は相当でないが、請求認容部分については、控訴人の不服の対象ではないから、この部分の取り消しをしないこととする。
よって、原判決中、控訴人の請求のうち一部の訴えを却下し、一部の請求を棄却した部分は相当であって、本件控訴は理由がないから、棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 奥田孝 裁判官 宮城雅之)