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大阪高等裁判所 平成9年(う)536号 判決 1997年10月28日

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金一〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

一  本件控訴の趣意は、弁護人竹川秀夫作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、要するに、被告人は散弾銃を発射していないし、仮に発射したとしても現場は「人家稠密の場所」といえないから、いずれにしても被告人は無罪であるのに、これを有罪とした原判決には、右の二点において判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある、というのである。

二  そこで、記録を調査して検討するに、原判決がその挙示する証拠により被告人が散弾銃を発射したと認定したのは正当である。

所論は、原判決が右事実認定の主な根拠とした原審証人浅野寿一は、<1>発砲直後に煙が上がったのが見え、<2>被告人が見えたなどと証言するが、<1>の点は、本件当時一般に使用されていたのが無煙火薬であることとの関係で、<2>の点は、同証人が目撃した位置からは見通しが悪いこととの関係で、いずれも見えるはずがないから、同人の証言は虚偽であって信用性がないと主張する。しかし、右<1>の点については、同証人は、「被告人の自動車から薄い煙が上がっていた。本件のような散弾銃を発砲すると、一般に青白い煙がかすかに出る」と証言するところ、被告人の原審公判供述によると「無煙火薬」が使用されるようになったのは三〇年位前からであり、右証人は、昭和三八年から平成四年まで永年狩猟をしてきた経験がある上、本件当時も富山県鳥獣保護員として狩猟に対するパトロールに従事していたから、散弾銃や「無煙火薬」について良く知っていることが認められ、右証言は、そのような知識を当然の前提として本件に関して目撃したことを述べたものであることに照らすと、右証言の信用性に疑問は生じない(同証言の弾劾証拠として提出された弁二号証の写真は、不鮮明であるし、薄い煙を観察するには背景が不適切な色調であるから、同証拠によって右証言の信用性は左右されない)。また、<2>の点については、同証人は、「駐車場にいた私から被告人の自動車が見えた」と証言しているに止まるところ、被告人車は車高が高いから、検証調書中の見通し状況に照らし、同証人が駐車場の植え込み越しに被告人車を見通すことは客観的に可能と考えられる。そして、同証人の証言内容全体は、被告人の自白調書等関係証拠と符合し具体的で不自然な点がないから十分信用できる。

更に所論は、被告人の捜査段階における自白調書について、連れの間定宏によって散弾銃が発射されたと思い込んだ被告人が、自分のいた場所は私道であったため、被告人が発砲したと供述しても犯罪にならないと考え、間定をかばうために虚偽の自白をしたものであると主張し、被告人も原審公判廷においてこれに沿う供述をしている。しかし、原審証人間定宏の証言によると、同人は、原審公判段階の途中に検察官からの連絡によって本件の発砲事実を初めて知ったのであって、同人が本件現場で発砲していないことは明らかであるうえ、間定は本件以後右連絡までの間に被告人と一緒に狩猟をしたことが複数回あるのに、被告人から本件について全く知らされていなかったことに徴しても、被告人の右公判供述は信用できず、所論は採用しえない。

三  次に、本件現場は「人家稠密の場所」とは言えないと主張する論旨について検討するに、検証調書等関係証拠によると、被告人が散弾銃を発射した地点から半径約二〇〇メートル以内には、人家が約一〇軒あるなどの状況が認められ、これら現場の諸状況に照らすと、同所は、銃猟を禁止された「人家稠密の場所」と認められる。

四  その他所論が指摘する点を検討しても、原判決に事実誤認はなく、論旨は理由がない。

五  なお、職権によって調査するに、本件銃猟の用に供した散弾銃は、被告人の所有するものであるから、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律二一条二項によって被告人から没収する必要がある。そうすると、原判決には散弾銃の必要的没収を遺脱した点において法令適用の誤りがあり、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

六  よって、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書に従い更に判決するが、原判決の認定した犯罪事実に原判決挙示の各法条(刑法は、平成七年法律第九一号による改正前のもの)を適用し、ただし、本件は被告人のみからの控訴に係るものであるから、刑訴法四〇二条の制限により当審において没収の言渡しをしないこととして、主文のとおり判決する。

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