大阪高等裁判所 平成9年(ネ)1542号 判決 1998年12月09日
控訴人(原告) 大阪教職員組合
右代表者中央執行委員長 中道保和
右訴訟代理人弁護士 石川元也
同 渡辺和恵
同 井上直行
同 杉本吉史
被控訴人(被告) 株式会社富士銀行
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 船越孜
主文
一 控訴人の本件控訴及び当審における予備的請求をいずれも棄却する。
二 控訴審での訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
被控訴人は、控訴人に対し、一億一四六二万二九六六円及びこれに対する平成六年三月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人は、控訴人に対し、一億一四六二万二九六六円及びこれに対する平成六年三月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(当審で追加した予備的請求)。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
4 仮執行の宣言
二 被控訴人
主文と同旨
第二当事者の主張
当事者の主張は、つぎのとおり付加、訂正するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決六頁三行目の括弧内の記載を「予備的請求(一)」と改める。
2 同六頁八行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。
「6(予備的請求(二))
被控訴人は、被控訴人に預金された定期預金に差押え又は仮差押えがなされた場合、預金者から書替依頼書が提出され、かつ差押債権者全員から同意書が提出されると、当該定期預金の書替継続に応じており、差押債務者である預金者に対し、右各書面の書式を示して右取扱いを説明していること、及び被控訴人の担当者は、控訴人の担当者Bに対し、かねがね本件各定期預金を最も有利な利率で運用する旨を明言していたことからすれば、被控訴人は、後記本件仮差押がなされた際、控訴人に対し、本件各定期預金契約上の債務として、右取扱いを説明すべき義務があったというべきであり、被控訴人が右義務を尽くしておれば、控訴人及び仮差押債権者である日本教職員組合は右取扱いにしたがったことは確実であり、そうであれば、本件各定期預金は本件仮差押後も継続され、控訴人は定期預金として前記利息金の支払を受けることができたはずである。したがって、控訴人は、被控訴人の右債務不履行により、前記差額一億一四六二万二九六六円の損害を被ったものである。」
3 同六頁九行目の「6」を「7」と改める。
4 同六頁一〇行目の「不当利得返還請求権に基づき、」の次に「以上が認められない場合、更に予備的に債務不履行による損害賠償請求権に基づき、」を、同七頁三行目の「遅延損害金」の次に「(主位的請求及び予備的請求(二))又は利息(予備的請求(一))」をそれぞれ付加する。
5 同八頁七行目の「同5」の次に「、6」を付加する。
6 同九頁七行目の括弧内の記載を「弁済期を従前と同一期間延長すること、以下『期限の延長』という。」と改める。
7 同一〇頁四行目の括弧内の記載を「予備的請求(一)について」と改める。
8 同一〇頁七行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。
「3(予備的請求(二)について)
被控訴人が、控訴人の主張するとおりの取扱いをしていることは認めるが、その余は争う。
被控訴人は、平成八年七月ころから、定期預金契約上の債務としてではなく、預金者に対する被控訴人独自のサービスとして、右取扱いを始めたに過ぎない。」
9 同一一頁五行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。
「仮差押えの効力は、仮定的、暫定的、相対的なもので、仮差押債権者の将来の執行保全という目的を達するに必要な限度で認められ、この範囲を超えて仮差押債務者の利益並びに一般取引の安全を仮差押えによる処分制限の効力のために犠牲にすることはできないものであるところ、被控訴人は、差押え及び仮差押えを受けた定期預金につき前記のとおりの取扱いをしていること、控訴人が本訴を提起する前に、控訴人の請求額から被控訴人に課せられる税金相当額を差し引いた七〇〇〇万円余りを支払う旨を提案し、控訴人が被控訴人と管轄合意をして大阪簡易裁判所に申し立てた調停においてもほぼ同額を支払う旨を提案し、もって本件各定期預金を継続させても被控訴人が実害ないし不測の損害を被らないことを自認していること、定期預金に仮差押えがなされた場合、コンピューターに支払停止と入力するのみで、満期到来後もそのまま定期預金の勘定科目に止め、仮差押えの取下げ等により支払停止が解除されて後、利息の計算を行っていること等からしても、仮差押えがなされて後、本差押えに移行するまでは定期預金の継続を認めても、被控訴人にとって実害も不測の損害も実務処理上の支障もないというべきであるから、本差押えに移行することなく本件仮差押が取り下げられた本件各定期預金には、控訴人が主張するとおりの継続が認められるべきである。」
10 同一一頁八行目の「同2」の次に「、3」を付加する。
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却すべきであると判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一三頁八行目の「右各定期預金」を「右(二)記載の各定期預金」と改める。
2 同一九頁一〇行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。
「控訴人は、本件仮差押がなされて後、本差押えに移行するまでは本件各定期預金の継続を認めても、被控訴人にとって実害も不測の損害も実務処理上の支障もないとして、本差押えに移行することなく本件仮差押が取り下げられた本件各定期預金には、控訴人の主張するとおりの継続が認められるべきであると主張する。しかしながら、右にみたとおり、本件仮差押後に本件各定期預金の継続が認められると、被控訴人は中途解約の権利が留保された定期預金契約を強制される不利益を受け、そのこと自体が、被控訴人の資金運用上の現実の支障の有無にかかわらず、被控訴人において右継続を拒絶しうる正当な理由となるというべきであって、本件仮差押が取り下げられる等により本差押えに移行しなかったことは、単なる結果に過ぎないというべきであるから、控訴人の右主張は採用の限りでない。」
3 同一九頁末行の「以上の次第であるから、」から同二〇頁一行目の「いずれにしても、」までを、次のとおり改める。
「以上によれば、本件各定期預金のうち番号1ないし8の各定期預金に前記自動継続特約があっても、また、仮にその余の本件各定期預金(番号9ないし20)について銀行業務の公共性から被控訴人において定期預金契約を継続すべき民事上の義務があるとしても、被控訴人には、右のとおりその継続を拒絶することのできる正当な理由があるから、」
4 同二〇頁三行目の「予備的請求について」を「予備的請求(一)について」と改める。
5 同二〇頁六行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。
「四 予備的請求(二)について
被控訴人が控訴人の主張する取扱いをしていることは当事者間に争いがないところ、控訴人は、右取扱いがなされていること、及び被控訴人の担当者が、控訴人の担当者Bに対し本件各定期預金を最も有利な利率で運用する旨を明言していたことから、被控訴人は、本件仮差押がなされた際、控訴人に対し、本件各定期預金契約上の債務として右取扱いを説明すべき義務があったと主張する。しかしながら、甲二六によれば、被控訴人は、平成八年六、七月ころから右取扱いを開始したものであることが認められ、そうであれば、仮に被控訴人に定期預金契約上の債務として右取扱いを説明する義務があるとしても、右説明義務は、右取扱いが開始されたことにより発生したというべきであるから、その前の平成六年三月二九日に払い戻された本件各定期預金契約においては発生していないというべきである。そうすると、被控訴人に右説明義務があることを前提とする控訴人の右請求は、その余を判断するまでもなく理由がない。」
6 同二〇頁七行目の「四」を「五」と改める。
二 以上の理由により、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。したがって、主位的請求及び予備的請求(一)を棄却した原判決は相当で、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却し、当審で追加された控訴人の予備的請求(二)はこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 武田多喜子 裁判官 正木きよみ 礒尾正)