大阪高等裁判所 平成9年(ネ)1596号 判決 1997年10月22日
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二 事案の概要
一 被控訴人は訴外三幸株式会社(以下、訴外会社という)に対する原判決添付租税債権額表<1><2>記載の租税を徴収するため、訴外会社の控訴会社に対する原判決添付ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権(以下、本件会員権という)を差押え、同目録記載の入会保証金九五〇万円(以下、本件預託金という)を取立てるため本件請求をした(国税徴収法七三条、六七条)。
二 争いのない事実等
1(一) 訴外会社は、昭和五九年七月二日、控訴会社が経営する大宝塚ゴルフクラブの本件会員権を購入し、控訴会社に対し本件預託金を支払った。
(二) 本件預託金の預り証(以下、本件預り証という)には、本件預託金は本証と引換に返却する旨の記載がある(丙二)。
2(一) 被控訴人は訴外会社に対し原判決添付租税債権額表<1>記載の租税債権を有するところ、平成三年一〇月九日、国税徴収法七三条により、本件会員権を差押え、同日、控訴会社に対し差押通知書を交付した(甲二)。
(二) 被控訴人は訴外会社に対し同表<2>記載の租税債権を有するところ、平成五年四月二八日、同条により、本件会員権を差押え、同日、控訴会社に対し差押通知書を送達した(甲三。以下、(一)、(二)の差押を本件差押という)。
3(一) 訴外会社は、昭和五九年七月二日、控訴会社補助参加人(旧商号・株式会社幸福相互銀行。以下、補助参加人という)と、相互銀行取引に基づく債務担保のため、補助参加人を権利者とする本件会員権の譲渡予約を締結した(以下、本件予約という)。
(二) 控訴会社は、同月一二日、確定日付のある証書により本件予約を承諾した(以下、本件承諾という)。
(三) 補助参加人は、訴外会社に対し、平成三年一〇月五日到達の内容証明郵便により、本件予約を完結する旨の意思表示をした(以下、本件譲渡という)。
第三 争点
一 同時履行の抗弁
1 控訴会社、同補助参加人
訴外会社と控訴会社は、本件預り証により、本件預託金の返還は本件預り証と引換にする旨の合意をした。
2 被控訴人
否認する。本件預り証の記載は本件預託金返還の事務手続を定めたに過ぎない。
二 本件譲渡は本件差押に優先するか(預託金会員制ゴルフクラブ会員権の譲渡を債務者以外の第三者に対抗するためには、指名債権譲渡に準じ、確定日付ある通知、承諾が必要であることは争いがない)。
1 控訴会社、同補助参加人
(一) 本件承諾は本件譲渡と同時になされる承諾と同視されるべきであり、譲渡の事前の承諾ではない。蓋し、本件予約は補助参加人の一方的意思表示により完結するものであり、訴外会社、補助参加人及び控訴会社間で、予約完結の際、改めて控訴会社への通知、控訴会社の承諾を要する関係にはなかったからである。
したがって、本件譲渡は本件承諾により、被控訴人に対抗できる。
(二) 本件承諾が本件譲渡の事前の承諾に当たるとしても、本件譲渡は予約完結により譲渡の効力を生じたのであるから、本件承諾は本件譲渡の承諾の効力を有し、本件譲渡は被控訴人に対抗できる。
2 被控訴人
本件承諾は本件譲渡の事前の承諾に過ぎないから、第三者である被控訴人に対し、本件譲渡の承諾としての効力をもたない。
そして、予約完結により本件譲渡の効力が生じた時点で、確定日付のある証書によ
る通知、承諾はなされていない。
したがって、本件譲渡は被控訴人に対抗できない。
第四 判断
一 争点一
本件預り証は債権証書であり、債権証書と弁済は同時履行の関係にはないこと(民法四八七条)、大宝塚ゴルフクラブの会則は預託金返還の準則を定めるが、預託金の返還と預り証の返還が同時履行の関係にあることを規定していないこと(甲八)等によると、本件預り証の前記記載は本件預託金返還の事務手続を定めたに過ぎないと解するのが相当である。
よって、控訴会社らの主張は理由がない。
二 争点二
1 控訴会社、同補助参加人の主張(一)について
本件承諾は、訴外会社、補助参加人及び控訴会社らの内部関係ではともかく(控訴会社らの主張する事実は正に内部事情に過ぎない)、第三者たる被控訴人に対する関係では、飽くまで本件予約の承諾を表示するに過ぎず、本件譲渡の承諾ということはできない。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、右主張は採用できない。
2 同(二)について
(一) 本件承諾は実質上本件譲渡の事前の承諾と変わるところはない。
(二) 債務者による債権譲渡の事前の承諾は、債務者に対する対抗要件となるが(争いがない)、債務者以外の第三者に対しては対抗要件とはならないと解される。
何故なら、右第三者に対する対抗要件は、第三者保護のため、債務者の認識を通じ権利変動(債権譲渡)を公示(債権譲渡の確定日付ある証書による通知、承諾)することであるが、債権譲渡の事前の承諾は、確定日付ある証書によってなされても、権利変動が不確定な状態における承諾であり、それ故、権利変動の時期を正確に表示せず、権利変動の公示として不完全であり、第三者の保護に欠けるからである。
そうすると、第三者に対する関係においては、現実に債権譲渡の効力が生じた時点においても、債務者が了知していない以上、債権譲渡の事前の承諾をもって債権譲渡の承諾があったとする理由もない。
(三) 右説示によると、本件譲渡は補助参加人の予約完結により譲渡の効力を生じたが、控訴会社は右事実を了知していないから、本件承諾によって、当初から、または右効力発生の時から、被控訴人に対し対抗力を具備したと認めることはできない。
したがって、右主張は採用できない。
三 結論
よって、原判決は正当であり、本件控訴は理由がない。