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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)2974号 判決 1998年7月31日

控訴人

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

藪下豊久

被控訴人

乙川次郎

右訴訟代理人弁護士

阪上健

被控訴人補助参加人

東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

高階信弘

右訴訟代理人弁護士

森下国彦

志知俊秀

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、五〇〇万円及びこれに対する平成九年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人及び被控訴人補助参加人

主文と同旨

第二  当事者の主張

当事者の主張は、以下のとおり付加、訂正するほかは原判決の事実摘示記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目裏八行目の次に行を改めて、以下のとおり付加する。

「仮に、右売買予約が認められないとしても、控訴人は、本件実用新案権の商品化を企てる目的で、その旨下川昭洋に依頼し、平成七年一〇月一六日から平成八年一月二〇日までの間、合計八〇万円を同人に支払った。控訴人は、右に述べた理由で本件実用新案権が消滅したため商品化できなくなり、右八〇万円の回収ができなくなったものであるから同額の損害を被った。」

2  同三枚目表一行目の「被告の認否」を「被控訴人及び被控訴人補助参加人の認否並びに主張」と改める。

3  同三枚目表四行目から同五行目までの「本件実用新案権の期限管理について委任を受けた事実はない。」を、以下のとおり改める。

「被控訴人は、控訴人から本件実用新案権の期限管理について委任を受けたことはない。被控訴人は、本件実用新案権の登録料納付期限を平成七年一二月と誤解していたが、その直前に、好意から控訴人に右登録料納付の意思を確認し、その依頼を受けて第四ないし第六年分の登録料を納付したにすぎない。」

4  同三枚目表七行目の末尾に続いて、以下のとおり付加する。

「本件実用新案権は、平成三年二月一三日の出願公開以来、実施されたこともなく、試作品の作製、市販商品の大量生産も困難であるから、本件実用新案権については権利消滅による実質的な損害が生じることはない。仮に本件実用新案権の消滅による損害が生じていたとしても、控訴人が永田光治に対し二五〇〇万円で売買予約していたものとはいえないので、これによる損害は発生していない。また、控訴人が本件実用新案権の消滅を知った後にも二〇万円を支払っていること(乙第二一号証)、月額二〇万円とした根拠が不明であること、領収書(乙第一七ないし第二〇号証)にも支払原因を明示していないことからすると、控訴人が下川昭洋に本件実用新案権の商品化を企てる目的で八〇万円を支払ったとはいえない。」

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないので棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおり付加、訂正するほかは原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目裏二行目を以下のとおり改める。

「一 請求原因1、2及び4の各事実は当事者間に争いがない。」

2  同三枚目裏九行目の「新用新案原簿」を「実用新案原簿」と改める。

3  同四枚目表五行目の「その時期に第四年分の納付を依頼されたわけではなかったのだが、」を「その直前に、控訴人に対し、本件実用新案権の第四ないし第六年分の登録料の納付の意思を確認し、その了解を得て、」と改める。

4  同四枚目表六行目の「(乙第六号証)」を「(乙第六号証、第二八号証)」と改める。

5  同四枚目表末行の末尾に続いて、以下のとおり付加する。

「被控訴人は、本件実用新案権が消滅したとの通知を受けて驚き、被控訴人補助参加人との間で弁理士職業賠償責任保険を締結していたことから、平成八年一月二五日、被控訴人補助参加人の担当者にその旨報告した(乙第二八号証、被控訴人本人)。被控訴人は右報告後、その日のうちに控訴人に対しても、その旨連絡したところ、控訴人から本件実用新案権を回復してくれるように言われた(乙第二八号証、控訴人本人、被控訴人本人)。」

6  同四枚目裏六行目の「しかしながら、」から同5枚目表二行目の「推認でき、」までを以下のとおり改める。

「しかしながら、控訴人は、本件以外にも平成元年から実用新案の登録を被控訴人に依頼するようになり、登録料の納付も同様に依頼し被控訴人から立替払いした旨の連絡があってから被控訴人に支払っていたもので、本件実用新案権の登録もそのうちの一件であった(控訴人本人)。前記のとおり、被控訴人は、平成七年一一月一〇日の直前に、控訴人に本件実用新案権の登録料納付の意思を確認しているが、被控訴人の右取扱いは、被控訴人が本件実用新案権の登録料納付期限をあらかじめ確認してその旨控訴人に連絡していること、控訴人の了解を得て三年分の登録料の立替払いまで行っていることからすると、単なるサービスといえるものではなく、被控訴人のいう『期限管理』そのものの事務処理を行っていたといえる。しかも、控訴人が、被控訴人から本件実用新案権の消滅通知を受けた際、本件実用新案権の回復を希望していたことは前記認定のとおりであり、このことは、控訴人が被控訴人に対し単に登録出願手続のみを依頼したのではなく、本件実用新案権の消滅防止をも依頼していたことを推測させる。これらの点に加え、控訴人のような個人が、仕事を持ちながら、実用新案の登録料納付期限についてまで常に管理することはわずらわしいだけでなく、管理を怠った場合重大な損害につながることもあるなどからみて登録出願手続をした担当弁理士に、被控訴人のいう『期限管理』を依頼することによる利益は大であるといえることをも併せ考えると、控訴人は、被控訴人から本件実用新案権の第四年分以降も継続して登録料の納付の事務処理を委任していたものと推認でき、」

7  同六枚目表四行目の次に行を改めて、以下のとおり付加する。

「控訴人は、本件実用新案権の商品化を企てる目的で、下川昭洋に対し、合計八〇万円を支払った旨主張し、乙第一三号証は、控訴人が下川昭洋に本件実用新案権を含む三件の実用新案権の販売を依頼し、年間二四〇万円の支払を約束した旨記載した契約書であり、乙第一七ないし第二〇号証は下川昭洋の控訴人に対する各二〇万円を受け取った趣旨の領収証であり、証人下川昭洋の証言及び控訴人本人の供述も右主張に沿うものである。しかし、下川昭洋は、主に婦人服製造卸の経験を有するに過ぎず、実用新案権の譲渡や実施に経験がない上、試作品もなく口頭の説明だけで営業活動を行うというのであり(証人下川昭洋、弁論の全趣旨)、しかも前記契約書(乙第一三号証)には営業活動期間の記載もなく、下川昭洋に右のような営業活動のみで年間報酬二四〇万円(月額二〇万円の割合)を支払うことに合理的な根拠があるとは認め難い。下川昭洋は、控訴人に対し、乙第一七号証と類似の領収証(乙第二一号証)を平成八年二月一七日付けで作成しているが、前記認定のとおり、控訴人は、右時点では、既に本件実用新案権の消滅を知っていたのであるから、ほか二件の報酬とするのであれば、右領収証には月額二〇万円の右報酬が減額された金額の記載となるはずなのにそのようなことはなされていない。下川昭洋は、婦人服製造卸業をしながら、本件実用新案権の販売活動をするというものであり、右販売活動を具体的にどの程度行っていたかは、同人の証言によって必ずしも定かではない。これらのことからすると、控訴人が下川昭洋に合計で八〇万円を交付していたかどうかについては、甚だ疑問のあるところであり、すぐには認め難い。

したがって、控訴人主張の八〇万円の損害は、これを認めることができない。」

二  よって、控訴人の本訴請求を理由がないとして棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武田多喜子 裁判官 正木きよみ 裁判官 横山光雄)

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