大阪高等裁判所 平成9年(ネ)508号 判決 1998年4月10日
控訴人(原告)
和田照子
右訴訟代理人弁護士
松重君子
同
亀井尚也
同
大搗幸男
同
中山知行
同
井関勇司
同
雨宮成兆
同
小林廣夫
同
後藤玲子
同
高島健
同
西村文茂
同
藤掛伸之
同
正木靖子
同
松本隆行
同
山崎省吾
同
吉田竜一
同
山田直樹
同
内橋一郎
同
高谷武良
同
平田元秀
被控訴人(被告)
太平洋証券株式会社
右代表者代表取締役
小松正男
右訴訟代理人弁護士
吉田清悟
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人の主位的請求を棄却する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、一三八万七三七二円及びこれに対する平成五年三月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の予備的請求を棄却する。
二 訴訟費用は第一・二審を通じてこれを一〇分し、その七を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
三 この判決の第一項2は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人に対し、一九六万七六七五円及びこれに対する平成五年三月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え(当審における請求の拡張)。
三 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。
四 仮執行宣言
第二 事案の概要
〔以下、控訴人を原告、被控訴人を被告といい、その他の略称は原判決の例による。〕
本件は、原告が、被告の証券外務員の勧誘に応じて行った外貨建ワラント取引により損害を被ったとして、主位的に民法七〇九条(会社ぐるみの組織的詐欺行為)に基づき、予備的に民法七一五条(従業員の違法勧誘に基づく使用者責任)に基づき、ワラント購入代金相当額と弁護士費用の損害賠償を求めた事案である。
一 前提事実
1 当事者
(一) 被告は、有価証券の売買等の媒介、取次ぎ及び代理等を目的とする株式会社である(争いがない)。
(二) 原告は、大正一〇年九月一二日生まれで、旧制高等女学校を卒業後二三才までタイピストの仕事をし、結婚後は夫が経営するシャーリング関係の会社の事務を手伝っていた。原告は、昭和五一年に夫が死亡し、残された株式を昭和五二年頃売却したのを契機に証券取引を始めたが、その取引は、株式の現物取引と投資信託、転換社債に限られており、信用取引や先物取引の経験はなかった。被告との取引は昭和五八年ころから始まったが、他にも昭和六一年からは新日本証券と、平成四年からは日興証券と、平成五年からは和光証券とそれぞれ取引をしていた(甲五六ないし五八、六〇、原告本人の原審及び、当審供述)。
(三) 被告の証券外務員関根正典は、大学卒業後昭和六二年四月に被告に入社し、三週間の研修を受けて外務員資格を取得した後神戸支店に配属され、平成元年三月から原告の担当となった。関根は、月に数回原告の自宅を訪問する傍ら、電話で証券取引の勧誘を行っていた(乙B一一、証人関根正典の原審証言)。
(四) 原告は、関根の勧誘により、被告との間で、平成元年一二月一八日、三菱重工ワラントの外貨(ユーロドル)建ワラント五〇〇〇ドル券一〇枚(発行日平成元年六月二二日、行使価格一二〇〇円、固定為替レート143.95円、行使期間平成元年七月一三日ないし平成五年六月一五日、買付価格一七六万七六七円、以下「本件ワラント」という。)を購入した(争いがない)。
2 新株引受権付社債(ワラント債)
(甲一五の一・二、二〇ないし二二、二六ないし二九、三三、四一ないし四四、四六、四八、五四、五五、乙二ないし七、一九・二〇の各一ないし三、弁論の全趣旨)
(一) 新株引受権付社債とは、所定の期間(権利行使期間)内に所定の価格(権利行使価格)で所定数量の新株を引き受けることができる権利(新株引受権)が付与された社債(ワラント債)をいう。
(二) 社債権者が新株引受権を行使するとその時点で新株が発行されるが、新株払込価格は社債発行時に固定されているので、株価が権利行使価格を上回っているときは時価より安価に新株を取得できることとなり、取得した株式を直ちに売却すれば権利行使価格との差額が利得(キャピタルゲイン)となる。
同様の機能は転換社債も有しているが、転換社債の場合は新株取得のために追加払込をしないのに対し、ワラント債の場合は追加払込を要する点が異なる。
(三) ワラント債は、社債権と新株引受権とを別々に譲渡することができるか否かによって、分離型と非分離型とに分かれ、社債権と区分された新株引受権をワラントという。
また、ワラント債には、国内で発行される円建てのものと、外国で発行される外貨建てのものがある。外貨建ワラント債の発行は為替レートの変動によるリスクを回避すること等を目的とするもので、我が国の企業が発行するワラント債の大半は外貨建てといわれている。
我が国では、当初、証券業界の自主規制により、分離型ワラント債の国内取引を禁止していたが、昭和六〇年一一月よりその取扱いが解禁され、昭和六一年一月一日からは、我が国の企業が発行した外貨建ワラント債の国内取引(環流)も解禁された。
(四) ワラントの商品特性
(1) 権利行使期間の制約
ワラント債の発行時に、権利行使期間として社債満期日の一営業日前までの日が定められ、この権利行使期間を経過すると新株引受権は行使できずワラントは無価値となる。
(2) ワラントの理論価格(パリティ)
ワラント債の価格は、例えば、額面一〇〇万円であれば社債が八〇万円・ワラントが二〇万円・権利行使価格一〇〇〇円のように設定されるが、ワラントの価値は将来株価が権利行使価格を上回ることにより生じるから、理論価格は、次の算式で表される。
額面×付与率×(株価−行使価格)÷行使価格
(注:付与率は、社債の額面総額と発行予定新株の総価額との比率をいい、通常は1である。)
右の例では、権利行使により取得できる株式数は一〇〇〇株(100万円÷1000円)であり、これを二〇万円で購入しているので、新株一株当たりのコストは一二〇〇円となる。
したがって、株価が右コストを上回った時はじめてワラントの理論価値は現実化し、投資者は利益を得ることができる。
(3) ワラントの流通価格
ワラントの理論価格が零またはマイナスのときは、ワラントは流通価格を持たないこととなるはずであるが、現実には、将来の株価上昇への期待度、株価の変動率の大きさ、需要と供給、権利行使期間の長短(時間価値)などの要因によってプレミアム価格を形成し、これが流通価格となって取引されることになる。
右のうち、権利行使期間の持つ意味は大きく、とくに満期四年ものが多い我が国の企業発行のワラントにおいては、株価が権利行使価格を下回り、かつ、残存行使期間が二年を切るとワラントの取引率は著しく低下し、その売却の機会は著しく減少するといわれており、このような場合、当該ワラントは事実上無価値に等しくなる。
(4) ギアリング効果
ワラントの理論価格は、株価の変動に伴って上下するが、株価の変動率を大幅に超えて変動すること(ギアリング効果)に特徴があり、株価のわずかの下落でも理論価格はマイナスとなりうる。ワラント取引がハイリスクといわれる所以である。
ギアリング効果は、あくまで株価とワラントの理論価格との関係をいい、株価とワラントの流通価格との間では必ずしもギアリング効果が生じるものではない。
(五) 外貨建てワラント債
(1) 店頭相対取引
外貨建てワラントは、海外の取引所に上場されるものの、国内の取引所には上場されず、平成元年二月以降、証券会社間で自主的に創設された業者間取引市場において相対取引がなされていたのみであった。
(2) 店頭価格の開示
しかし、店頭相対取引ではワラント価格の形成が不透明で業者間に不統一があったため、平成元年五年以降、日本証券業協会の決議により、新聞・専門誌などにおいて特定銘柄のみ気配値がポイント数で表示されることとなった。
なお、右ポイントからワラント価格を算出するには専門的で複雑な計算を要する。
二 主要な争点
1 主位的請求
本件ワラントの取引は被告の組織ぐるみの違法行為といえるか。
2 予備的請求
本件ワラントの取引における関根の勧誘は違法であったか。
原告の損害額(過失相殺、寄与率を含む。)
三 原告の主張
1 争点1(主位的請求)について
被告は、危険なワラント取引について、その危険性を顧客に周知させるように自己の外務員を指導せず、むしろ外務員に厳しいノルマを課して、ワラントを有利なものとして積極的に一般投資家に売りさばくよう指導していたもので、これは原告に対する会社ぐるみの組織的詐欺であり、民法七〇九条に該当する。
(一) ワラント取引における違法性の根拠事実
(1) 証券会社の優越的地位
証券会社は、大蔵大臣の免許を受けて証券取引業を営むもので、証券取引についての知識、経験、情報の収集、利用、判断等全ての面において、一般投資家に比して、はるかに優越した地位にある。また、日常的な業務の遂行においても、証券取引に不可欠な知識、経験、情報、ノウハウ等を蓄積しており、一般投資家に対する地位の優越性は拡大する一方である。
証券会社は、このような優越した地位を利用して一般投資家に損失を被らせることによって、自己の利益を図ってきたのであり、本件のワラント取引における一般投資家の被害も、証券会社がその優越的地位を濫用したことによって生じたものである。
(2) 顧客の証券会社に対する信頼の悪用
アメリカ合衆国においては、証券取引委員会への登録が認められた証券会社は、一般投資家に対して公正に業務を遂行することを表明したものとみなされ、不公正な行為を行った場合には違法とされる判例法理(シングルセオリー)が確立している。この法理は、公的な許可を得たものは、それに対する信頼を裏切る行為をしてはならないという趣旨のものであり、これは免許制をとっている我が国にも妥当する。公正かつ誠実に業務を遂行する義務を規定した証券取引法四九条の二は、この法理と同趣旨と解すべきである。
本件のワラント取引は、証券会社に対する一般投資家の信頼を悪用してされたものであり、シングルセオリーに違反する違法なものである。
(3) ワラントの新規性・非周知性
ワラントは、株式や社債などの金融商品とは全く異なり(新規性)、しかも、市場そのものにとって未経験の商品(非周知性)であった。昭和六〇年のワラント解禁からワラントの危険性について新聞等に掲載されるようになった平成二年ころまでの間、一般投資家が目にし得る雑誌、新聞等にはワラントに関する記事はほとんどなく、一般投資家にとって、ワラントは未知の商品であり、ワラントの取引システムや権利内容、リスクについて、理解のための手段自体がほとんど存在せず、理解することが極めて困難であった。したがって、ワラントは、その新規性、周知性から一般投資家に対する勧誘対象としての適格性を欠く商品であった。
(4) ワラントの超ハイリスク性、難解性
ワラントの価格変動は、株価に比べはるかに大きく、ギヤリング効果による紙屑化の危険性も大きい。また、ワラントは、その構造も非常に難解で複雑であり、これを一般投資家に理解させるのは容易ではない。ワラントはこのように、極めて危険かつ難解な商品であり、一般投資家にとっては欠陥商品というべきものである。
(5) 証券会社にとっての構造的うまみ
① 発行手数料
証券会社は、ワラント債発行に際し、発行業務を主宰することにより、莫大な手数料を手にすることができる。
② 売買益
証券会社は、ワラント債の発行により引き受けた外貨建ワラントを一般投資家に売ることによって、莫大な売買益を手にする。
③ 企業の資金運用にともなう手数料収入
証券会社は、証券市場に環流してきた調達資金によって、営業特金(証券会社が投資家から資金を預かり、投資家に代わって株式等に運用する特定金銭信託)を始めとする証券投資での売買手数料を手にすることができた。
このように、ワラント債の発行・売買は、証券会社の収益拡大に直結していた。
(6) 公正な価格形成が制度的に保障されていない。
外貨建ワラントは、証券会社との相対売買であって、公正な価格が形成される制度的保障が全くない。日本証券業協会は、平成二年九月二五日から顧客との仕切り値幅を制限することとした。しかし、この値幅制限も極めて不十分なものであり、外貨建ワラントの価格形成は、透明かつ公正であるとは到底いえない。
(7) 価格の周知方法が講じられていない。
平成元年四月末までは、外貨建ワラントに関する価格情報は、新聞紙上に一切公表されていなかった。平成二年九月二四日までは、日本経済新聞等に公表される売り気配値及び買い気配値のそれぞれのポイントで表示される平均値は、顧客に入手可能であるものの、銘柄は限定されていた。同月二五日以降は、新聞情報としては、限定された銘柄のポイントで表示される平均値と出来高(業者間取引のもので、前日のもの)が入手できたにすぎない。業者間取引気配値は、投資判断のための価格情報としては全く不足している。また、ワラントの価格そのものではなく、ポイント数で公表される点は、ポイント数から価格を計算するためには、複雑な計算式によらなければならないことになり、価格情報の開示としては不十分である。
(8) 証券の内容が一般投資者には全く理解不可能である。
証券は、証券あるいはそれと一体となる約款の文章で表された権利がその内容となるものであるから、一般投資家が券面あるいは約款を読解できなければならない。ところが、外貨建ワラントの原券は、原券自体入手困難である上、全文が専門的英語で綴られており、我が国の一般投資家では、これを入手したとしても自ら読解することは不可能である。
(9) 実質的な国内募集・売出である。
本件の外貨建ワラントは、形式的にはヨーロッパ市場で発行されたものであるが、その全部またはほとんどが、直ちに我が国国内で消化されている。これは当初から計画されており、実質的には我が国において発行されたものと同視できる。それにもかかわらず、証券取引法四条(大蔵大臣宛届出)、同法一三条(目論見書の作成)という証券発行のための最も基本的な法律要件を満たしていない。すなわち、外貨建ワラントの発行は、証券取引法の脱法行為であり、その販売もまた同法違反を承継する行為である。
(二) ワラント取引の違法性一般
(1) 公序良俗違反
外貨建ワラントは、証券の内容が一般投資家に理解できず、また公正な価格形成の制度的保障もなく、形成された価格の周知方法も講じられていない、という点で、一般投資家に勧める証券としては致命的な欠陥を有するといわざるを得ない。
このように、欠陥証券と言っても過言ではないにもかかわらず、証券会社は、外貨建ワラントが株式のブローカー業務による収益の減少を埋めるための、自らに多大な利益をもたらすうまみのある証券であることに目を付け、我が国の証券取引法による規制を免れるためにヨーロッパで場を借りて発行手続だけを行って国内に環流させるという、法の潜脱行為まで取りつつ、証券会社と一般投資家との証券取引の知識・情報量の圧倒的差異を最大限利用して一般投資家の不利益を顧みずに外貨建ワラントを大量かつ強引に売りさばいたのであって、このような勧誘・販売行為は、商品の客体、行為の動機・態様のいずれの点から見ても、社会的に許容された相当性をはるかに逸脱し、公序良俗に反する違法な行為である。
(2) 適合性の原則違反
ワラントとりわけ外貨建ワラントについては、自らワラント取引の仕組みとリスク、適正価格等について積極的に研究するだけの能力と意向を有し、ハイリスクに耐え得るだけの資金余力を有するような投資家、すなわち機関投資家や大手会社の財務部門、特殊な個人投資家など投資のプロのみが取引適格者と言えるのであり、原告のような一般投資家は、証券取引についての能力・資力・意向のどの面からしても、取引不適格者といわざるを得ない。
したがって、証券会社が、原告のごとき一般投資家にワラント、特に外貨建ワラントの取引を勧めることは、投資家の意向、投資経験及び資力等に最も適合した投資が行われるよう配慮するという適合性の原則(証券取引法五四条一項一号)に反する。
(3) 説明義務違反
証券会社は、取引開始時に説明書を交付し、直接口頭でワラントの商品構造、取引形態や危険性等を本人にわかるように説明し、本人がそれを理解し「紙屑」になるリスクを納得したことを確認する作業として確認書を徴求するという全ての説明義務を果たしたうえで初めて、一般投資家にワラント取引を行わせる前提条件が満たされる。証券会社の担当者は、右説明義務の範囲に入る事実・情報を投資家に十分説明し、それらについて的確に認識できるようにすべきであるから、ポイントの意味や、価格計算方法も説明義務に含まれる。
仮に、説明義務の範囲を投資の適否の判断に必要な範囲に限るとしても、ワラントは、行使期間を過ぎなくても、残存期間やパリティの値によっては無価値になるのであり、そのため価格の計算方法の説明による投資者の理解は不可欠である。また、取引の態様が相対取引によること、すなわち購入価格の適正が市場原理によって決定されず、また市場での売却が自由にできないものであることの認識は投資判断にあたって重要である。したがって、これらの前提なき限り、ワラント取引を勧誘し、開始してはならないというべきである。
(4) 不当勧誘
証券取引においては、投資主体の個々の属性や特質がいかなる場合であるかを問わず、証券会社が行う勧誘行為そのものに着目して、当該勧誘行為が証券市場の公正かつ適正な運営を害し、また、取引行為自体の公正や適正を害したり、顧客に不測の損害を与える蓋然性が高い場合、当該勧誘行為そのものが禁止されたり制限される。以下に述べるような行為は、このような不当行為であり、このような禁止や制限に反する行為によって顧客を勧誘することは、証券取引における公序に反する違法な行為として不法行為責任を発生させる。
(5) 断定的判断の提供による勧誘の禁止
証券取引法五〇条一項一号は、証券会社又はその役員若しくは使用人に対して、有価証券の価格が騰貴し又は下落することの断定的判断を提供して勧誘する行為を禁止している。また、日本証券業協会の公正慣習規則第八号九条三項一号も、断定的判断の提供を禁止している。
前記のとおり、顧客に判断材料がなく、かつ著しく不透明でリスクの大きいワラント取引(特に外貨建ワラントの場合はなおさら)においては、断定的判断の提供は、高度の違法性を帯びた行為である。
原告を含むワラント取引による被害者のほとんどは、証券会社の従業員から、違法な断定的判断の提供を受けている。ワラント取引の仕組みを充分に理解できない一般投資家が高いリスクを持つワラントを現実に購入させられているという事実自体が、断定的判断の提供が現実に行われていたことを強く推認させるものである。
(6) 損失負担・利益保証による勧誘の禁止
証券取引法五〇条の三第一項一号ないし三号では、同条三項の場合を除いて、有価証券等の売買やその他の取引につき、顧客に対して取引の開始前や終了後に「顧客に損失が生じることとなり、又はあらかじめ定めた利益が生じないこととなった場合に」取引で生じた損失の「全部又は一部を補填し、又は補足する」ことの申込みや約束、実際の補填、補足を禁止している。
ワラント取引においても、多くの場合、「絶対に損はさせない。」等と、損失負担や、利益保証による勧誘が行われており、それが違法性を有することは明らかである。
(7) 虚偽表示又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき行為の禁止
証券取引法一五七条二号では、有価証券の売買について、虚偽表示又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき行為を禁止している。
原告は、ワラントの何たるかを把握しておらず、高いリスクを始めとするワラントの多大な問題点を認識していなかったものであり、原告のワラント購入は、前記の断定的判断の提供と同様に証券会社による虚偽又は誤解を生ぜしめる違法な勧誘が決定的要因となっている。証券会社は、前記説明義務を果たさなかったばかりか、積極的に虚偽の言辞を弄して、原告にワラントを購入させているのである。
2 争点2(予備的請求)について
仮に、被告に会社ぐるみの不法行為がないとしても、被告の外務員の原告に対する勧誘行為は、民法七〇九条の不法行為に該当し、被告は、民法七一五条により使用者として、原告に対し、原告の被った損害を賠償する責任がある。
(一) 関根の原告に対する勧誘の具体的違法性
(1) 本件取引に至る経過等
原告は、大正一〇年九月一二日生まれで、タイピスト、同族会杜の事務を経て、主婦をしている。原告は、昭和五三年ころから、他の証券会社と時々株式の現物取引をしていたが、被告会社神戸支店とは、昭和六三年ころ、外務員が何度も勧誘にくるので、気の毒になって取引するようになり、株式や転換社債を買った。
原告は、本件ワラントの購入に際しては、関根から三菱重工の転換社債を買わないかと勧められたので、原告は、「一〇年待てばいいのね。」と言ったところ、関根が「そうです。」と言ったので、原告は、転換社債を買ったものと思い込んでいた。
右勧誘に際し、関根からは、商品の内容、仕組みや危険性等について、具体的で理解可能な説明は全くなかった。
また、本件では、関根はワラント取引説明書を交付していないし、確認書の作成も求めていない。
本件ワラント取引日である平成元年一二月一八日の三菱重工の株価は、一一五〇円であり、本件ワラントは、取引当初からマイナスパリティであった。
原告は、ワラント取引の問題が騒がれるようになった平成三年一〇月ころ、当時の担当者であった富田に対し、「ワラント取引がなくてよかった。」と言ったところ、「ある。」と教えられ、初めて自分がワラントを買っていることを知った。
(2) 適合性原則違反
本件の原告は、夫が死亡した後、老後の生活の安定のため、夫が残した株式の売買を始めたが、銘柄を自ら指定して購入したことはほとんどなく、いつも被告の従業員の勧めるまま、株式・債券を購入してきた。原告の投資資金は余裕資金とはいえず、老後の資金として慎重に運用されるべきものであった。原告に対しワラントを勧誘することは、原告の年齢(本件取引当時六八歳)や社会的経験(ほとんど主婦としての経験しかない)等からしても危険性が存するのみで有用性をほとんど認め得ない行為である。このような場合は、勧誘行為の悪性を論ずるまでもなく、ワラントの販売勧誘自体が私法上違法と判断されるべきである。
(3) 説明義務違反
前記のとおり、証券会社の従業員は、ワラント取引に際し、商品の内容、仕組みや危険性等について、顧客に説明する義務を負っている。具体的には、ワラントの意義、権利行使価格、権利行使期間、(権利行使による取得株式数)、外貨建てワラントの価格形成メカニズム、ハイリスクな商品であり無価値となることもあること、外貨建てワラントは、上場株式とは異なり、証券会社との相対取引によることが説明義務の範囲である。そして、ワラントは、行使期間を過ぎなくとも残存期間やパリティの値によっては無価値になるのであるから、ポイントの意味や価格の計算方法も開示・説明義務の範囲に入るというべきである。本件の関根の説明では、このような点の説明を尽くす義務はまったく果たされていない。原告は、ワラント購入に際して、被告会社の担当者から説明を受けなかったばかりか、転換社債と誤認させられて買わされ、右担当者の違法な行為に基づき本件ワラントを購入したのであり、もしワラントの危険性、権利行使期間について説明を受けていたならば、購入することはなかった。
なお、本件ワラントは、前記のとおり取引日において、マイナスパリティであり、ワラントの価格は実体のないプレミアムだけから構成された価格であり、この点の充分な説明なくして原告のような適合性のない者にワラントを売却することは、ほとんど詐欺的としか言いようのない行為である。
また、本件では、前記のとおり、説明書の交付はなかったと思われ、仮に説明書の交付があったとしても、購入の意思決定(平成元年一二月一八日)前に交付されていないことは確実である。購入の意思決定後に説明書の交付があったとしても、それだけでは説明義務を尽くしたといえないことは多くの判例が認めるところである。
3 争点3(原告の損害)について
(一) 原告は、本件ワラント取引により、代金と同額の損害を被った。また、本訴の提起追行を弁護士に委任し、弁護士費用として二〇万円の支払いを約束した。よって、原告は、被告に対し、本件ワラントの代金相当額一七六万七六七五円と弁護士費用二〇万円の計一九六万七六七五円の損害賠償請求権を有する。
(二) 原告は、富田から聞かされるまで、自分がワラントを買ったこと自体を認識していなかった。ワラントを持っていることが分かった時点では、本件ワラントは紙屑同然の価格になってしまっていた。このような場合、損害の発生を予め防止することは期待できないのであって、ワラント購入時やそれ以後も原告の過失を問うべきではないし、その前提条件自体が欠けており、原告に対する過失相殺は認められるべきではない。
四 被告の主張
1 ワラント取引の違法性一般についての反論
本邦の証券取引法令上、ワラント取引について取引説明書の交付義務やワラントについての説明義務を課した条項は存在しない。ワラントに関する本邦の立法政策は、法律上の規制には極めて消極的であり、大部分が通達による行政指導と日本証券業協会の自主規制に委ねている。
私法上有効な取引について、それを不法行為と構成することは必要最小限度にとどめなければ、私法秩序の混乱は免れない。
2 関根の原告に対する勧誘の違法性についての反論
(一) 原告は、昭和一〇年ころ、旧制高女を卒業したハイカラなサラリーガール(当時)で、結婚を機に退職したものの、夫が経営するシャーリング工場の事務手伝いをしていたのであるから、本邦経済動向への関心と無縁な主婦ではなく、経済人の一人と同視すべきである。
また、原告は、昭和五二年ころから、株式等証券取引を始め、日興証券、和光証券、新日本証券、被告の四社と証券取引を反復継続していた。そして、株式や転換社債の取引により二ないし四割の取引損は何回も経験しており、証券取引にかかるリスクの存在を知悉していた。
(二) 関根は、原告に対し、平成元年一二月一八日及び同月一九日にわたり、電話と外国新株引受権証券取引説明書(乙B二)に沿って、本件ワラントは株式より値動きが数倍にもなること、四年の行使期限を過ぎると権利消滅となること、行使価格が一二〇〇円となることなど本件取引の危険性を告知していた。
(三) このように、原告の証券取引上の知識経験に見合った信義則上必要とされる危険性の告知はされているのであるから、本件勧誘をもって不法行為ということはできない。
被告及び関根(以下「被告側」という。)が、本件ワラントの購入の勧誘に際して、虚偽の表示または誤解を生ぜしめるべき表示をしたことは全くない。また、被告側は、原告に対し、断定的判断の提供をしたようなことはないし、原告は、本件ワラント購入前にすでに相当の証券取引の経験を有していたのであって、特にワラントの取引について不適切な顧客であったとはいえない。
3 損害についての反論
(一) 原告が本件取引で原告主張の金額の損失を被ったのが事実であるとしても、平成元年ころにおける投資は、バブル経済の崩壊により投資額の五割程度までに目減りしたことは公知の事実であり、右損害は勧誘者・投資者のいずれの責めにも帰し得ない。
(二) 仮に、右損失の発生につき、関根の説明不十分に起因するところがあるとしても、それは、せいぜい二五%程度の寄与率とみるべきである。原告としても、株価が上昇し続けるなどと盲信せず、関根の説明に耳を傾け、取引説明書を少し注意して読めば、わずかな損切りで売り逃げの決断はできたはずであり、応分の過失は免れない。
第三 争点に対する判断
一 本件ワラントの取引
1 争いのない事実、証拠(甲B一、五〇、乙B一ないし三、五の一ないし三、一一、一四ないし一六、証人関根の原審証言、原告本人の原審及び当審供述)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告は、平成元年三月に関根が原告の顧客担当となって以後、本件ワラントの取引に至るまでかなりの頻度で被告と証券取引を行っていたが、そのほとんどは関根の推奨銘柄を取引したものであった。
(二) 関根は、本社あるいは支店長から顧客に勧めるよう指示された銘柄を原告に推奨して取引を受注していたが、本件ワラントも本社から推奨銘柄として販売を指示された商品であり、当時神戸支店で約一〇〇枚の販売を受け持ち、支店長の指示で同支店の外務員が一斉に電話で顧客に取引を推奨したものであった。
(三) 関根は、ワラントの販売は初めてであったが、右指示を受けて、本件ワラントの取引当日(平成元年一二月一八日)、原告方に電話し、本件ワラントを購入するよう勧誘した。右電話で、関根は、本社から送られてきた資料をもとにして、外貨建てワラントとは、外国で発行された新株引受権証券で、所定の期間内に所定の価格で新株を引き受けることができる権利であること、株式よりも三倍位の幅で値段が上下すること、権利行使期限があり、本件ワラントにおいては三年半先の平成五年六月一日であること、外貨建てであるため為替レート変動の影響を受けることを説明したうえ、本件ワラントの発行元である三菱重工の業績や株価の動き、日経平均株価が強い上昇期にあるので株価の値上りが期待できることなどを告げて、約二〇分間、本件ワラントの購入を強く原告に勧めた。
(四) 原告は、それまでにワラント取引の経験はなく、関根の説明を聞いただけではワラントの仕組みや商品の特性などよく理解できなかったが、転換社債の変種のように受け取り、発行元の三菱重工が大企業であることの安心感もあって、本件ワラントを購入することを承諾した。購入代金については、当時利益の出ていたハリマセラミックの株式を売却して得た代金をもって充当することで了解した。
そこで、関根は、当日直ちに本件ワラント一〇枚の買付注文を出した。
三菱重工の株価は当日の終値が一一五〇円で、本件ワラントの権利行使価格一二〇〇円を下回っていたが、関根は、これについての説明はしなかった。
(五) 関根は、翌一九日、本件ワラントの取引につき取引説明書(乙B二と同種のもの)を交付するため、原告宅を訪れた。右取引説明書はワラント取引をする際、事前に顧客に交付すべきものであったが、翌日になったため、関根は、原告の面前で右取引説明書に基づき、ワラント取引の概要を再度説明した。
原告は、転換社債は一〇年間持っていれば元本が保証され利息も付くと知人から聞いていたので、そのつもりで、関根に対し、「大丈夫なの。」と質問したところ、関根は、当時一般に株価が上昇しており、更に値上りする局面にあると予想されていたことから、短期的に値上りして、利益が出ればすぐ売ればよいと答えた。関根としては本件ワラントを短期に売却して差益を取得することを目論んでいたので、権利行使時にさらに株式取得代金の払込みを要すること、取得できる株式数などの説明はしなかった。そして、他に質問もなかったことから、関根は、原告に対し、右取引説明書を交付し、その受領を証明する確認書(乙B一)に原告の署名・押印及び説明書との割り印を受けた。
なお、右確認書の日付は、当初原告が一二月一九日と記載したが、後日被告神戸支店の担当者が一存で一八日付けに訂正した。
(六) 本件ワラントの買付代金には、原告が当時所有していたハリマセラミックの株式二〇〇〇株を同年一二月二〇日に売却した代金が充てられた。
被告は、平成元年一二月二九日付けで原告に取引明細書及び預り証券等残高明細書を送付したが、右各明細書の「債券」欄には、本件ワラントにつき、「ミツビシジュウコウWRT1993」との記載がされていた。そのため、原告は、「WRT」の記載がワラントを指すとは判らなかったが、右各明細書の内容を確認した旨の回答書に署名押印して、被告に返送した。
(七) 翌平成二年一月頃から株価全般の値下がりが見られ、一時上昇する傾向を示したものの、下落傾向が続いた。関根は、同年八月ころ、転勤が決まったことから、原告に電話をし、株式相場が下降傾向にあることを説明し、本件ワラントの売却を勧めたが、原告からは、損してまでは売りたくないとの返事であったので、それ以上勧めることはせず、原告の担当を後任者富田に引き継いだ。
(八) その後も株式相場は低迷を続けたが、原告は、ワラント取引の問題が騒がれるようになった平成三年一〇月頃、富田に対し、「ワラント取引がなくてよかった。」と言ったところ、本件ワラントがあることを教えられ、初めて自分がワラントを買っていることを知った。しかし、原告は、結局、本件ワラントを売却しないまま権利行使期限である平成五年六月一五日を経過した。
2 右認定に対し、原告本人尋問の結果及び甲B一(原告作成の陳述書)には、本件ワラントの勧誘に際し、関根は、三菱重工の転換社債と称して勧めたのであって、ワラントに関する説明は全くなく、取引説明書も交付されなかったとの供述部分がある。
しかし、右取扱説明書の受領を証する確認書(乙B一)には原告の署名押印や取扱説明書との割り印があることからすると、原告が右取扱説明書の交付を受けなかったとは到底いうことができず、右供述部分を採用することはできない。
二 ワラント勧誘における証券会社の説明義務
1 証券取引の中には投資額のすべてを失う危険をも含んだ取引があることは周知の事柄であるから、投資者が自発の意志で証券取引を申し込む場合は格別として、証券会社が特定の銘柄を推奨して一般投資家を証券取引に勧誘する場合には、顧客がすでに当該投資商品の取引を熟知している場合を除き、原則として当該商品の取引に不可欠な商品の構造や、取引価格の形成・変動の仕組み、取引による利得や損失の危険などについて十分な説明を行い、それについて顧客の理解を得たうえで、顧客自らの責任と判断で取引ができるよう配慮すべき信義則上の義務があるものといわなければならない。
とりわけ、前記第二の一2のような構造や商品特性を有する外貨建ワラントの取引に一般投資家を勧誘する場合においては、投資家の年齢、職業、資産、証券取引に関する知識や経験、投資目的に照らし、ワラント債と転換社債との相違、分離型と非分離型の異同、権利行使価格と株価の関連、権利行使期間の存在とその効果、為替レートの影響、ワラントの理論価格(パリティ)と流通価格との関係、いわゆるギアリング効果と損失の危険性などの基本的な商品構造を説明してその理解を得るのはもとより、外貨建ワラントの取引は証券業者間の店頭相対取引に限定されていること、本件ワラントの取引当時公表されているのは気配値(しかもポイント数)であって、それから流通価格を算出するには専門的な知識を要すること、ワラントの流通価格は株価の変動のみでなく種々の要因によって複雑に変動するため、一般投資家には流通価格の把握が困難であること、しかも、ワラント取引の相手方は事実上当該取引を勧誘した証券会社に限られること、したがって、ワラント取引には流通価格や株価の変動をもたらす諸要因についての豊富で継続的な情報の収集と専門的な知識に基づく判断とが要求されることなどについて十分な理解と承諾を得ることが必要であるというべきである。
2 本件についてこれをみるに、原告は、本件ワラントの勧誘を受けた当時六八歳で、証券取引自体はある程度経験していたものの、あくまで堅実な利得を目的とした投資経験のみであって、ワラント取引は全く初めてであったから、こうした顧客にワラントの購入を勧誘するにあたっては、関根は、証券外務員として前記のようなワラントの商品構造と取引の仕組みをよく説明し、転換社債とは異なり権利行使期間が過ぎれば証券として無価値となること、権利行使期間内でも株価が権利行使価格を下回ればワラントの売却は困難となり、とくに権利行使期間が残り二年を切ると売却の機会は著しく減少し、事実上無価値に等しくなることが多いこと、しかも、ワラントの流通価格は被告を通じてでないと知ることができず、そえは諸要因の複雑な影響によって変動することなどを原告に十分理解させたうえで取引の注文を受けなければならなかったにもかかわらず、自らもワラントに関する知識・経験は十分なものではなかったにもかかわらず、支店長の指示を受けて本件ワラントの販売を優先する余り、電話で約二〇分間ワラントについて一応の概括的な説明をしたのみで原告から本件ワラント購入の注文をとったこと、その結果、原告は、本件ワラントを転換社債の一変種のように表面的に理解したにすぎず、ワラントを購入したとの自覚さえ乏しかったこと、そのため、商品の構造や取引の仕組みはほとんど理解し得ないまま、株価が下落し権利行使を下回った事態となっても、関根に状況を問い合わせることもせず、むしろ満期まで保持していれば償還されるかのように考えて放置し、結局、権利行使期間を徒過して本件ワラントを無に帰せしめ、投資額全額を失うに至ったことは前記のとおりである。
したがって、関根は、ワラント取引について知識も経験もない原告に対し、本件ワラントの購入を勧誘するにあたって、証券外務員として尽くすべき説明義務に著しく違反したことが明らかであって、右勧誘は違法として不法行為を構成するというべきである。
なるほど、関根が、本件ワラントの注文を受けた翌日、取扱説明書を原告宅に持参して原告の面前で右取扱説明書に基きワラントの説明を繰り返したことは認められるが、それによっても、原告のワラントに対する理解は右の程度に止まっていたのであるから、右説明をもってしても必要な説明義務を尽くしたということはできない。
3 なお、原告は、被告には適合性原則の違反などもあったと主張するが、右にみたように、関根が本件ワラントの勧誘において説明義務に違反して十分な説明を尽くさず、ワラント取引に関する原告の理解を得られていない以上、適合性原則の違反などにつき判断する要をみない。
4 以上によれば、被告は、原告に対し、関根の右不法行為につき民法七一五条に基づく損害賠償責任がある。
三 被告の組織ぐるみの違法行為
原告は、一般に外貨建ワラントは一般投資家に勧める証券としては致命的な欠陥を有し、被告が外貨建ワラントを大量、強引に売りさばいた行為は、社会的に許容された相当性をはるかに逸脱し、公序良俗に反する行為であると主張する。
しかしながら、商法が分離型新株引受権付き社債の発行を認め、証券取引法上もワラントの取引が予定されていること、ワラントは、少ない投資額で大きな利益を得る可能性があり、生じ得る損失も最大限で投資額にとどまるという点で金融商品としては一応の合理性を有すること、ワラント取引の特徴は一般投資家にとっても、知識・経験などに応じて理解が不可能なものではないことからすると、被告が一般投資家を対象として行うワラント取引及びその勧誘それ自体が公序良俗に反するものとまでは認められない。
そして、本件全証拠によっても、原告に対する本件ワラントの勧誘が公序良俗に反する違法行為であったと認めるに足りる証拠はなく、また、前記二で認定した説明義務違反を超えて、被告が組織ぐるみでワラント取引につき違法な勧誘を行っていたと認め得るだけの証拠もない。
したがって、原告の主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
四 原告の損害
原告は、本件ワラントに関する関根の違法な勧誘により、その購入代金相当額一七六万七六七五円の損害を被ったものと認められる。
五 過失相殺
ワラントの商品構造や取引の仕組みが複雑かつ専門的であって、原告のような一般投資家には容易に理解し難いものがあることは前記のとおりであるとしても、被告から交付されたワラントの取扱説明書を十分に読み、不明な点は関根に問い合わせるなど、投資家として証券取引に対する必要な関心を抱き理解する努力をしていれば、本件ワラントが転換社債とは異なる商品特性を有することに気付くことは可能であり、四年間の権利行使期間を無為に経過することなく、関根の売却の勧めに応じる等その間に異なった対応ができたと窺われるから、本件ワラント購入による前記損害の発生には原告の落ち度も寄与しているものというべきであり、前示のような本件ワラント取引の経過、その他一切の事情を勘案すれば、過失相殺として前記損害額から三割を控除するのが相当である。
したがって、原告の損害額は一二三万七三七二円と認められる。
六 弁護士費用
本件記録によれば、原告が本件訴訟の提起追行を弁護士に委任したことは明らかであり、本件事案の内容・訴訟の経過・認容額その他一切の事情を斟酌すると、前記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては一五万円が相当と認められる。
七 結論
以上の次第で、原告の本訴請求中、主位的請求は理由がないので棄却すべきであり、予備的請求は、被告に対し、一三八万七三七二円及びこれに対する平成五年三月二五日(訴状送達の日の翌日)から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるので右部分を認容し、その余は理由がないので棄却すべきである。
よって、これと異なる原判決を本判決主文第一項のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官小林茂雄 裁判官小原卓雄 裁判官髙山浩平は転補につき署名押印できない。裁判長裁判官小林茂雄)